リバイスFORWARD 〜仮面ライダーリバイと叛逆のデモンズ〜 作:大島海峡
多方面で起こった事態を、今は知らずとも。
蜘蛛の子を散らした今の行為が、何かよからぬことへの兆しだということは、一輝が気づいていた。
「ああ――でも勘違いしないでください。我々としても、穏便に済ませたいんです」
「ふざけるな、俺たちを襲っておいて、何が穏便だ!」
雨の中にいてぬけぬけとそう言う畷に対して、目を尖らせて、一輝は声をあげた。
「そう怖い顔をしないでください。一輝さん、俺はね、憎悪を超えて貴方を尊敬しているんです。何せ貴方たちは、この世界をギフから救った英雄だ。世界の危機に間に合わなかった我々と違って、ね」
依然睨みつけたまま、だが怒りで我を忘れたり目を曇らせたりすることは決してないよう己を律し――
「英雄なんかじゃないよ」
一輝は、畷に言い放った。
「俺たちは、どこにでもいる普通の家族だ。だから放っておいてくれ」
その直後、ほんの一瞬。
彼らのいるその空間の温度が、格段に下がった気がした。
「――ふつうの、かぞく?」
畷が笑みを浮かべたまま返したのは、まるで初めて赤子が言葉を口にするかのような、たどたどしいオウム返しによって。
だが雨足が強まったことで、その空気は霧散した。
「では、そんな貴方にあえてお願いしたい」
と、さっきの様子などまるで無かったかのように、紳士的な物言いに戻った彼は、こう続けた。
「我々の目的は、端的に言えばすべての悪魔の消滅。ギフの痕跡は残らず拭い去らねばならないと考えています」
「……」
「――あぁ、お疑いは当然。ですが、先の
なるほど、そんな手段が真実あるのなら、理にかなっている。筋は通っている。
だがそれでも、一輝の答えは決まっていて、揺らぐことはない。
「断る」
と――
「……即答とは意外ですね。何故です、『普通の家族』なんでしょう?」
であればそんな
「だからだよ」
自らの服の上、心臓の上。そこに拳を置きながら、一輝は言った。
「家族で、俺の一部なんだ、今、俺の中に眠ってる『こいつ』も。カゲロウもラブコフも、幸四郎の悪魔も。家族守るのは、
雨粒がアスファルトや軒を激しく叩く中、何かが軋む音を、一輝は聴いた気がした。
だが目の前には、眉の一本も動かさない、綱本畷とその配下の姿の姿があるだけだった。
「残念です」
さして残念でもなさそうに、畷の口が動いた。
「では、こちらも不本意な手段をとるとしましょう……やれ」
畷の挙手と短い号令一下、新旧のデモンズトルーパーたちがリバイ&バイスの武器を量産して一輝を包囲した。
一輝は、水溜りを蹴って、包囲を突っ切るべく軒の外へと躍り出た。
だが、その手に在るのは買い物袋とビニール傘。
身体捌きそれ自体は、プロの兵隊たちにも引けをとってはいない。だが不意打ち気味に投げたベビー用品は言わずもがな、傘の一本を振り回して苦闘するも、有効打になるべくもない。
相手も本腰を入れては攻めては来ない。嬲るが如く囲みを狭め、一輝の消耗と疲労を待っている。
「この数と武装に物怖じしない貴方は、やはり勇者なのでしょう」
その中で自分は安全圏で、慇懃無礼な調子で畷は言った。
「でもね、リバイスドライバーもバイスタンプも、ブルーバードに返還済みでしょう? 仮面ライダーとしての力を失った今の貴方は、非力な一般人なんですよ」
だから諦めて投降しろ、畷は言外にそう宣告している。
それを流して、一輝は大振りに傘を振り上げて吶喊した。
しかしそれも無為な空振りに終わり、カウンター代わりにトルーパーに喰らった正拳によって吹き飛ばされる。駐まる車に激突し、その威圧でガラスが割れる。
異変を鳴らすクラクションは、オーインバスターより放たれた光弾によって物理的に黙らせられた。
「もう終わりだ」
冷ややかに畷は言った。
あぁ――と内心でそれに頷く。
敵の戦力は、その身で味わいだいたい分かった。周りの一般人はことごとく退避させられ、この区画が隔離されていることも分かった。
だから、もう終わりにする。この茶番を。
「そいつは、どうかな」
血の味とともに衝いて出たのは、真逆の言葉。いや、虚勢ではなく偽らざる本心、気炎。
握りしめた無機質な装置を、ゆっくりと持ち上げる。
「まだ俺には、
〈Desire Driver〉
シンプルな造形のベルトが、それに似つかわしい平坦な男の声と共に一輝の腰に巻かれた。
その中心に、彼の記憶と力を司るコアを嵌めて。
「なに――なんだ、そのドライバー……!?」
畷の顔に、初めて動揺が浮かぶ。
「俺の家族が……バイスが残してくれたものだ!」
〈Set!〉
その右部に付加したのは、レイズバックルと呼ばれる拡張デバイス。
湧き上がる戦意を手の形で示しながら、一輝は曲げていたその背を伸ばす。
「変身!」
DJの使う電子ピアノのようなそれの鍵盤を押し、スクラッチを回す。
〈Beat!〉
現れた横文字から光の音符が溢れ、互いに戯れながら一輝の横にアーマーとして展開され、そして彼の身にドッキングした。
恐竜めいたそのマスクは、彼の変身していたライダー、リバイのもの。
だが、そこから下は、サイバーチックな、まったく違う規格による胸部装甲だった。
〈Ready Fight!〉
ベルトが鳴らした合図とともに一輝は、その手に転送されてきた弦楽器型近接武器ビートアックスを一閃させた。