リバイスFORWARD 〜仮面ライダーリバイと叛逆のデモンズ〜 作:大島海峡
モールに打ち立てられた柱時計の針が大きく進もうとも、さくらと花対襲撃者たちの戦いは、未だ決着の目処がついてはいなかった。
〈クジャク! リスタイル!〉
ドライバーに押されたスタンプに応じて、ただの賑やかしに過ぎなかったラブコフが二つに分かれて変化する。
すなわち舞というよりは武、武闘に用いる、骨組みのしっかりした双扇。
ラブコフのクジャクゲノムである。ジャンヌ自身ではなく、その半身を武器化させるリベラドライバーの特色である。
雛守なる女の変身したトルーパーが展開した、傘のごとく細かな刃を全方位に広げるそれと撃ち合う。火花散らす激しい応酬の末に、再び羽同士で競り合う形で正面から拮抗。
だが突然、傘盾の裏に隠された雛守の片手が退いた。
そして次の瞬間、自転車のギアでも切り替えるような音が聴こえ、傘の中心が大きく伸びてジャンヌの鳩尾を衝いた。
呻くと共に退いた彼女の前で、デモンズトルーパーは傘から半身ほどある尺の轍棒を引き抜いた。
得意げに笑みを含ませた彼女は一突、二突きと繰り出して追い立てていく。
そしてトドメとばかりに大振りの刺突が来た時、
〈ハシビロコウ! ダダダダーン!〉
間一髪のところでゲノムチェンジが間に合った。
大鎌に合一変形したラブコフの柄でその突きを受け止め、翻した刃で棒を掬い上げる。
その得物が、二つに割れた。
――切断した、否、自発的に二つに分離したのだ。
浮き上がったそれを飛び上がってキャッチした雛守は、着地と同時に鎌刃をかいくぐり、太鼓の撥の要領でさくらの腹部を強打した。
「ヴァアアッ!」
鈍い打撃音が響き、およそ女子高生が出したとは思えない声を絞り出す。
「さくら!?」
「人の心配をしている場合か?」
対する花も、またその一瞬の気の逸れを指摘されると同時に、不意を突かれた。
〈ネオウルフ〉
先に押したバイスタンプと酷似した、紫のクリアボディに青狼のシンボルを宿したスタンプを押すと、それがさらなり銃器へ、まったく質量を無視した変形を遂げる。
内閣官房直属の対人工知能特務機関『
それが開発した装備、ショットライザーの複製へと。
「文字通りの、『ハチの巣』にしてやるよ」
そして二丁拳銃となったもう一体のデモンズトルーパーは、間断ない連射をアギレラへと浴びせにかかる。
「くっ!」
〈バッファロー! リスタイル! リバディアップ!〉
アギレラはその手に上下三色の巨大な戦輪を二枚、召喚する。
それをバリケードにして後退、さくら、玉置に合流すると、彼らを庇うように前後を庇う構えをとった。
だが完全に挟み込まれるかたちとなり、防戦一方。指摘される間もなく、所謂ジリ貧である。
――だが、そのまま行けば彼女を押し込めるはずだった弾の雨は、突如として止んだ。
「
雛守が彼の姓らしきものを呼ぶ、その突如の停戦に非難めいた響きを添えて。
「作戦時間終了だ――別動隊が、目的を果たしたと報告が入っているだろう」
「関係ないッ、このまま行けば奴らに、しかるべき報いを……!」
「奴らの防備を破るためには、その時間を大きく逸脱する。目先の感情ではなく、大義を優先させろ」
淡々とクールに、拝郷はそう諫め、断るを入れるでもなく踵を返す。
「……了解……! 撤収する!」
明らかに不満げな息巻き方で、雛守もまた転身して彼に追従していった。
それに追撃、追跡をかける余裕は、少女たちに残されていない。
膝を屈し、そのまま変身が解除された。
「なんだったの、あいつら……?」
ラブコフを我が身に収め、息を整えながらさくらが困惑をそのまま口にする。
「ていうか、割とヤバイかもよ……」
玉置に介助されながら起き上がった花が、掠れた声で、
「今の攻撃、受けたの私らだけだと思う?」
と言って、さくらを青ざめさせたのだった。
~~~
言うまでもなく、女探偵の読みは当たっていた。
「ふっ!」
異形の四肢とクレーン。それぞれがデストリームの両腕を吊り上げ、
「空けたよ、腹ッ」
と同胞に促されるまま、駆け出したニワトリのトルーパーが、強化されたその脚部を大きく勢いをつけて旋回。
「ぃやっーはぁ!」
甲高い吶喊の声と共に、足裏の鋭い鉤爪を叩き込んだ。
「ぐっおお!」
五十嵐元太となってから、ついぞ出したことのない苦悶の声があがる。だが、握り固めた拳を緩めることはない。
〈NEXT! Dominate up! クロコダイル!〉
ドライバーに捺印したその手に、赤と黒とが歪に渦を成すドリルが展開される。それをもって自らの拘束を薙ぎ払い、左右の敵を押し返す。
とはいえ、個々の戦闘力もさることながら、数の不利まで覆すには至らない。
その決死の反撃も、囲まれ、組み付かれてそのこじ開けられた防備の隙を他の一人二人に攻め立てられるなどして、じわじわと押し返されていく。
「パパさん、ファイト!」
幸実が暖簾から顔を出して、緊張感があるのかないのか分からないエールを送る。
それに反応してか、防衛本能か、あるいはひとえに父を慕うがゆえか。
彼女に抱かれた幸四郎が、ふいに手を伸ばす。
その指先から発せられた重い風圧が、三人組のみを確実に狙って吹き飛ばした。
断末魔とともに転がる彼らの内、真っ先に立て直したのがニワトリ男である。
「赤子で、コレか……ギフの血筋がそうさせるのかよ」
その双肩の震えは、屈辱か恐怖か。
いずれにしても、鳥避けの飾りのごときその目が、ぐるりと母子の方を向いた。
「この、化け物がァっ!」
喉張り裂けんばかりの罵声と共に、彼女らに迫る。
それを阻む者は、ない。デストリームは次いで起き上がった残りの二人に足下に組み付かれて身動きが取れない。
その毒牙がまさに親子に迫ろうとした、その時だった。
横合いからの飛び蹴りが、その側頭部に炸裂した。
思いも寄らぬ方向からの不意打ちに、兵隊の上体が揺らぐ。
「なんだお前……!? 誰だお前!?」
「その人たちに、手を出すな……! はぁっ!」
訝しむ彼に、着地の瞬間よりその彼は、しなやかに肉体を駆使し、打点の高い蹴りを次々にくり出していく。
その巧者ぶりは強化装甲相手にダメージを与えられずとも、翻弄するには十分な速さを持っていた。
そんな彼らの間に強引に、力づくで、刃風伴う影が割り込んだ。
「オレがいない間に、巣穴に入り込んでんじゃねぇ」
ゲノムチェンジによってジャッカルのシルエットを頭部と胸部に据えた、仮面ライダーエビルだった。
「……時間ダ」
元太に振り払われた異人のトルーパーが、冷めたような物言いで呟いた。
「はぁ!? まだやれんだろ!」
「カシラの、命令は絶対だ」
さっきとは一転、『ニワトリ男』は冷めたような口ぶりで同調する。
少し置かれた間が彼らの悔しさを暗示するようではあったものの、それからは無言で立ち去った。
追うよりも優先すべきことがある。
刃とドライバーを畳み、変身を解除した『大二』の姿は、黒いタートルネックにシルバーを巻いた、まず彼自身ではしないであろう、独特のファッションだった。
それこそが、五十嵐大二の悪魔『カゲロウ』だった。
だが彼にしても平素の余裕はなく、手の甲でぬぐう口端に伝う血が、ここに至るまでの連戦の烈しさを物語っていた。
そんな彼の背後で、這う這うの体で、ジョージ狩崎と門田ヒロミがやってきた。
「まぁ、大変! ほら、パパさん! 寝るとこ準備!」
「あ、あぁ」
同じく父親としての姿に戻った元太は、気丈な妻に促されて漫然と頷いた。
「あ、そっちは僕がやります。五十嵐さんは、ケガした人を担いでください」
事情は把握していないだろうに、乱入して来たその青年が協力を申し出てきた。
なるほど、彼ならたしかに心得もそれなりにあるだろうと、頷き、目尻を下げながら申し訳なさげに、
「ごめんねー、せっかく招待したのに、ヘンなことに巻き込んじゃって」
と、その彼に詫びた。
穏やかな笑みと共に、青年は首を振った。
「いいえ、むしろここに居合わせて、助けられてよかった……」
遠くを見るように目を細め、噛みしめるように。
~~~
一輝の顔のすぐ横に、デモンズの拳がめり込んでいる。
頭を少しでも動かせば、睫毛がそれに触れてしまいそうなほどに近しく、コンクリートには生々しい破壊の痕跡が刻まれていた。
無事だったのは、一輝がとっさに避けたからではない。もし、
「リーダー。時間です……例の代物を、派遣チームが確保しました」
という報告がデモンズからもたらされていなければ、間違いなくその一撃で彼の頭蓋は陥没していただろう。
――ぎりぎりと、音がする。
グローブが軋む音が、間近で聴こえる。
地面を砕き、一輝の命を奪うはずだったその手が、小刻みに震えている。
やがて瘧のごときそれは収束していき、畷自身は平静そのものの息遣いで、
「なるほど、仮面ライダーは悪運も実力のうちということですか。命拾いしましたね」
と、含むところがありげな物言いをし、そして身を引いた。
自らドライバーを外して変身を解いた彼の下に、部下が駆け寄り傘を差し出す。
黒く丈長の長官服を捧げられ、畷はそれを肩に打ちかける。
「待て……! 狙いは、俺じゃないのか!?」
「……たしかに、
紳士的な一礼と共に、畷とその部隊は起き上がりかけた一輝に背を向ける。
「楽しみにしていてください。悪魔のいない、本当の新世界を」
という台詞を残して。
その背を撃つことも追うこともできないままに。
一輝の脚は彼の意志とは関係なくもつれ、そのまま水溜りの上に伏したのだった。