リバイスFORWARD 〜仮面ライダーリバイと叛逆のデモンズ〜   作:大島海峡

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6.集合

 何かしらを、戦士として感じ取っていたのか。あるいは五十嵐家の人徳人脈がなせる技か。

 その夜のうちには、しあわせ湯には関係者が集まっていた。

 かつて悪魔の謀略で家族や友人を奪われ、復讐に奔った若者、大谷希望。

 さくらと共に窮地を脱した花と玉置。

 そして辛くもクーデターから逃れ得たヒロミと狩崎。

 かつては家族を装い五十嵐家に接近、監視していた秘密組織ウィークエンドの元構成員牛島(うしじま)(ひかる)

 なおも悪魔絡みの戦いに身を投じる者、ただの人として日常に戻った者。いずれの道を選ぼうとも、五十嵐家の、そして世界の窮地を前にして参集していた。

 

「……悪魔を除く手段を手に入れた、か。ずいぶん気前よくヒントをくれたものだ」

 一輝と並んで長椅子に寝かしつけられたジョージが、首だけ動かして呟いた。

 

「カリさん、あいつらの目的とかなんか心当たりあるの?」

「無いね」

 さくらの問いに、にべもなく彼は返した。

「だが知らないということそれ自体がヒントさ。悪魔を完全に消し去る技術などあると知っていたら、私やダディがとうにそれを流用している。ならば、それを伏していた誰かがいる。悪魔に精通し、かつ悪魔の側に立った者から生まれたテクノロジー……だろう?」

 

 そして、彼らの眼差しが険しさと寒々しさを以て、端末の画面に寄せられる。

 ……そこには拘束具によって自由を奪われた、魔性の美青年が映し出されていた。

 元デッドマンズ幹部、オルテカ。赤石と並び、ほぼ全ての元凶といって良い男。

 その秀麗な眉目の裏に、ドス黒い精神が秘められていることは、その場にいるほぼ全員にとって既知の事実だ。

 元同輩である花は露骨な嫌悪と蔑みを、玉置は憐れみを滲ませている。

 

「定期的に収監場所を移していたことが幸いしたな。君、連中に確保されてたら真っ先に殺されてるよ?」

 その場においては狩崎しか場所を知らない、秘密の牢獄。そこに、今の彼は捕えられているらしい。

 

『そのことを、恩義に感じろとでも? で、その見返りに知っていることを話せと?』

 不敵に口元を歪ませ、虜囚は返す。如何にも余裕の笑みのようでいて、屈辱に若干声色が揺らいでいる。

 

「まぁ、話さないならそれでも良いけど」

 余裕を見せたのは、むしろ狩崎の側である。

「ただもしそれが原因で我々が後手に回った場合、君はいずれ彼らの手にかかることになるだろう。今だって血眼になって行方を捜しているはずさ。そんな彼らに捕まって……まぁ楽に死ねることはない。君に心当たりが無くとも……いやあり過ぎるぐらいか。つまりはそれだけのことをした」

『……』

「我々と彼らを噛み合わせることが、君にとってBestだと思うがね。情報如何によっては、減刑を考えてやっても良い」

 

 硬軟入り混じる狩崎の説得に、口を曲げて目を逸らす。囚われの身で他に選択肢がないのだから、答えは出ているのに容易に口を開かないのは、その高すぎるプライドがためか。

 

 ややあってノロノロと、緩慢に口を開き、

『付箋』

 と、脈絡もないワードをおもむろに出した。

 

「……は?」

 声を低くして問い返したのは、花だった。

 

『あるでしょう、ボードやデスクに貼り付けるタイプの。今でこそポピュラーな文房具ですが、アレに使われている糊は、元々は強力な接着性を持たせるために開発されていた。ところが出来上がったのは、逆に接着性が弱く、だが持続性の高いもの。それを使ったメモがことのほか使い勝手が良く、今ではヒット商品となったわけです』

「あのねぇ、雑学聞きたいわけじゃないんだけど?」

 そう苦言を呈する彼女を狩崎は手で制した。

「つまり、『ネオフェニックス』が回収したのもそれと同じだと?」

 との彼の言葉で、その場にいたある程度の聡明さを持つ人間が、察した。

 悪魔のみを殺すための手段。翻せば、元々企図していたもの、それは……

 

『……かつて、赤石の計画であるものの開発を頼まれたことがあります』

 と、聡明ならざる者たちのため、オルテカは説明を始めた。

『それは、ギフの力に頼ることなく、広範囲に影響し、人間の細胞のみを破壊し悪魔を抽出する装置。俗っぽい言い方をすれば、ガス兵器』

 ですが、と可動する限り肩をすくめ、彼は続けた。

『出来上がったものはそれと逆。人体の悪魔細胞のみを分解する代物でした。当然、そんなものが人類側に回るようなことにでもなれば、悪魔と人類のパワーバランスは崩壊する。そしてそれは、赤石の望むところではなかった。だからプランごと破棄されることとなったんですよ』

 最初は渋々といった感じで話し始めたオルテカだったが、その口ぶりはいつしか熱っぽく浮ついている。

 失敗作とは言え、己の才知に酔い痴れ、溺れていた。

 

「……ま、君のことだ。いずれ赤石のことも切る腹積もりだったんだろう。その命令に表向きには従いつつ、いざという時の切り札として一部をサンプルとして持ち続けていた、といったところかな」

 その様を鼻で嗤いつつ、狩崎は推測する。粘性を帯びて歪められた唇が、それに対する答えだった。

 そしてその計画を風聞かなにがしかで知った時、狩崎と同じように見立てた男がいる。それが、綱本畷だった。

 

『まぁ私も半分ほど忘れていたんですがね。どこから漏れたものやら、まさか今になってそれを持ち出す輩がいるとは……まったく、余りある才能というのも困り物だ。失敗作でさえ、なお人々の心を奪い、支配してしまう――』

「ご苦労様。まぁ数か月分程度の刑期には相当するネタだったよ」

 自慢げなオルテカの話を、適当に狩崎は折った。

「その分を差し引きつつ、度重なる脱走騒ぎを勘定に入れると……Wow! おめでとう、君が七百歳ぐらいの時には晴れて自由の身だ。当初より増えているかもしれないが、まぁ細かいことは気にしないでくれ」

『……は?』

「ではこれからも引き続き獄中で更生に勤しみたまえ。Gracias(ありがとう) デッドマン」

 

 顔を引きつらせたまま、画面はブラックアウト。通信は切断された。

 

「――というわけだ。『ネオフェニックス』とやらの手段と目的には、だいたいの目星がついたな」

「……こうしちゃ、いられない……!」

 その隣で、一輝は起き上がりかけた。だが、滑り落ちそうになって、周囲に支えられる。

 たしかに悪魔は、災いの種なのかもしれない。だが、その中には人間に寄り添える、善良なものも存在する。

 それらを鑑みることもせず、一括して排除しようなど許しがたい行いだった。

 

「でも、残ってるのはサンプル程度なんですよね? それで、すべての悪魔を排除できるものなんですか?」

 そのうちの一人、大二が兄を支えながら狩崎を顧みた。

「たしかに、それ自体の量がおそらく一都市にも満たないだろう。だが、問題はその先さ」

「その先だと?」

 ヒロミが眉をひそめて口を挟む。

 

「一輝は綱本畷から聴いていたらしいな。彼には政府、警察に協力者がいると。それはおそらく、事実だ。彼はすでにその兵器――まぁ便宜的に『デモンズデストロイヤー』とでも呼んでおこうか。それをエサに、関係各所と密約を交わしているのだろう。実際、私の知らないバイスタンプを彼らは使っていた。あれらはおそらく、ブルーバード外部で開発されたものだ」

 確かに、リバイスドライバー由来のものではない、未知の武器の数々を、奴らは使っていた。他のライダーの所属組織が、手を貸していたとでもいうのだろうか。

 

「刹那的なテロだけでは、悪魔を駆逐することは出来ないだろう。だが、もしその有用性を一区画なりとも見せつけ、政府と彼らが取引し、その行いが正当化、ガスの量産化などされてしまえば、悪魔の完全消滅は現実のものとなっていく」

「まず奴らの狙いは、デモンストレーションということか――デモンズだけに」

 

 ヒロミは腕組しながら真顔で呟き、一同の間には微妙な空気が流れた。

 

「ヒロミ……たとえ思いついても口に出していいタイミングとそうでない時ぐらい、弁えて欲しいんだが」

「べっ、別にダジャレのつもりで言ったわけじゃない!」

 ムキになって狼狽えて、声を上ずらせるヒロミに嘆息を出しつつ、狩崎は話を戻した。

 

「恐らくはここに至るまでのネオフェニックスの行動……クーデターから五十嵐一家の襲撃は、そのデモンズデストロイヤーを確保するための目眩し。まったく、我が人事ながら大した男だよ」

「何者なんですか、そいつ……俺、結構ブルーバードに出入りしてますけど、知らなかったんですけど」

 玉置が直裁に問うと、その横で

「『報復部隊』」

 牛島光が、声を低めて呟いた。

「その成れの果てですか、狩崎さん」

「……さすが、君は知っていたか。長くウィークエンドで擬似家族を演じてきた君ならば」

「なんだよ、それ」

 口を閉じた光に玉置が問えば、

「我が父の形見の一つだよ」

 と、狩崎が彼に代わって答えた。

 

「あのトラップデモンズ部隊は、デッドマンズならびにその裏にいた赤石絡みの案件の被害者遺族で構成されている。復讐心から来る彼らの戦意を利用しようと、ダディが密かに養成していた。来るべきギフとの決戦のためにね」

「……ふーん、そうなんだ」

「他人事ではないよ、花くん。彼らが今まで秘匿されていた理由の一つに、君たち元デッドマンズ幹部が加入してしまったことがあるのだから」

「……まぁ、施設内で顔合わせたら気まずいなんてもんじゃ無いですよね」

 そのまま気まずげな面持ちで、重々しく玉置は首肯した。

 

「だが、諸君らの健闘によってギフは想定より早く倒れた。ダディの死と同時にウィークエンドも解体。所在の無くなった彼らを、ブルーバードで引き取って新設デモンズ部隊として再編した。まぁ、その後もその後で度重なる身内の裏切りで本格始動できなかったわけだが」

「現在進行形で本人たちに裏切られてますが……」

「『百回人を裏切った奴より、百回人裏切られてバカを見た人間の方が好ましい』。あるルポライターは著書の中でそう書いている」

 銭湯の売り物の瓶牛乳を一気に呷ってから、しみじみと狩崎は遠い目をした。

 

「隊長、綱本畷の経歴は、その中でも極めつきだ。母親が元デッドマンズ信者でその壊滅後に幼い妹を巻き込んで『殉教』。父親と共にトルーパー部隊に参加するも、その父親もギフとの戦いにおいて戦死。だが彼はその屈強な精神力でそれらを乗り越え、取り乱すことなくどれほどの厳しい訓練にも耐え抜いた。そこを見込んで、抜擢したわけだが……その感情を律した強固な精神力と信念を相手取るとなると、かなり手強い」

 やれやれと首を振り、空になった瓶を手頃なテーブルへ置く。

 一輝は彼と邂逅し、対峙した時の思い返す。

 雨を見上げるあの横顔を。

 絶やさぬ笑顔の中、時折(キズ)のように浮上する、不穏な気配を。

 

「一輝兄、どうした?」

 そんな彼らしからぬ沈黙と重苦しい横顔に、(さくら)が訝しげに目線をむける。

「いや……」

 彼は言葉を一度濁す。理解されるかどうか分からない所感だった。

 だからそれをそのまま、口端から出すことにした。

 

 

 

「なんかそれって、嘘臭くないか?」

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