リバイスFORWARD 〜仮面ライダーリバイと叛逆のデモンズ〜 作:大島海峡
そして、その晩は相互警護も兼ねて、しあわせ湯で過ごすことになった。
状況が状況だが、「まるでお泊り会みたい」などと呑気にはしゃぐ母を見て、苦笑を向け合いつつも比較的リラックスして過ごすことができた。
もはや目的の半ばを達成した敵にとっては、自分たちなどもはや歯牙にもかけない相手なのだろが、それでもいつ襲撃があるとも知れず、男衆が交代で番を務めていた。
「ほら、次俺たちだってさ」
玉置と光からバトンタッチされたらしい元太に、一輝はひそひそと起こされた。
「父ちゃん、体力的に大丈夫? やばい奴らに襲われたんだろ?」
「あー、だいじょうぶだいじょうぶ。父ちゃん、普段時間と体力が有り余ってるから!」
「まぁそれはそうなんだけどさ」
「……そこは、ちょっとだけでも否定して欲しかったかなぁ?」
乾いた笑いを立てる父を伴って、銭湯の入り口を固める。
まだ外ではしとしとと雨が降っているらしく、その軒にその水粒が落ちる音がしていた。
ふと、スーパーでの『彼』の横顔がふしぎと思い浮かんだ。
「なぁ、眠気ざましに、ちょっと話さない?」
「お? なんだなんだ? 恋愛相談でも将来の不安でもドーンと、来い!」
「……いや、割とマジな話ね」
「あ、おふざけ禁止?」
「うん」
はっきり頷くと、元太はわざとらしく咳払い。声のトーンと表情をいくらかまじめな調子にし、
「で、どうした?」
と直截に尋ねた。
「……父ちゃんはさ、俺たちが生まれる前は、ベイルと一緒に仮面ライダーやって、親の仇をとろうとしてたんだよな?」
あぁ、と重たげに父の横顔が上下する。
「本当の仇はずっと俺の中にいたのに。間の抜けた話だよな」
その自嘲に触れてはならない気がして聞き流して、一輝は問いを重ねた。
「仇を憎むとか恨むとか、どういう感じなのかな」
一輝には、
無論、家族を殺されたことなどないからというのもあるが、生来の気質で誰かを殺したいほど憎悪するという感覚を、どれほど説かれても理解できない。
大人気声優であり先輩の
「逆に、家族を殺されて、それを理性だとか正義で抑え込める奴なんて、本当にいるのかな」
そんな一輝の呟きを、いつにない真剣さで元太は耳を傾けていた。
「あ、ごめん。なんか、いきなりこんなハナシされても困るよな。ていうか父ちゃんは、もう白波純平じゃなくて、五十嵐元太なのに」
「……そうだな、良い機会だからぶっちゃけるとさ」
と、思いがけない返しを父はした。
「あの時は、お前たちの前だから合わせたけどさ……正直、俺は自信無いんだよな。時々、不安になるんだ」
「え?」
「この二十年間生きてきたお気楽な五十嵐元太は、嘘っぱちの人格なんじゃないか。それを思い出した今、俺はまだ、お前たちの知ってる『父ちゃん』でいられているのか、とかさ」
「……父ちゃん」
でも、と大きく伸びをして、純平であり元太は屈託なく笑った。
「そんなこと、もう関係ないんだ」
「え?」
「今の俺にとっては、どっちの『俺』も大事ってこと。白波純平だからこそ、ママさんやぶーさんに会えたし、その時の辛さが残っていたからこそ、かつての自分と同じ希望くんを救えた。その純平のなりたかったものが、五十嵐元太なんだ。だから俺は、これからもなりたい自分で居続けるよ」
今まで適当にはぐらかされていたことを改めて打ち明けられた。
一輝の中で心のつかえが一つ、除かれた心地がした。
「いや、答えになってないし、話自体ズレてるから」
それはそれとして、指摘はするが。
「えぇっ、そう? キマったと思ったのにな~」
「けど、『父ちゃんらしい』や」
そういう締まり切らない辺りも含めて、すべて。
「……ありがとう」
しみじみとした声音で礼を告げ、あらためて向き直る。
「つまり、何が言いたいかっていうと、お前が誰についての何に悩んでるかはしらないけど、本当は自分の中でもう答え、出てるんじゃないか?」
「それは……」
口ごもる一輝の肩に、父の掌が落ちて、音を鳴らした。
「だったら、一輝もやりたいようにやれば良い。誰を真似たり参考にするんじゃなく、お前自身のやり方で。一輝は俺じゃないし、その人も希望くんじゃないんだから。きっとその人にきちんと向き合えるのは一輝だけで、そこに確実な正解なんてないぞ」
二度、三度と力強く打ち鳴らされる父の手を、一輝ははにかみつつも黙って受け入れたのだった。
~~~
さすがは、父と言ったところか。
分からない、とは韜晦しつつ、実際はどうあれ、肝心要の部分を突いた、的確なアドバイスをくれた。
――そう、本当は分かっているんだろう。
ジョージ狩崎との問答を経て、形になっているのだろう。
そこに踏み込まないのは、
(俺に、そこまでの資格があるのか?)
という逡巡があるがため。
会ったばかりでろくに知りもしない相手なのに。
そも、ギフの系譜に連なる者であるのに。
――なぁーに、シケたツラしちゃってるワケ?
懊悩する一輝は、いつの間にか暗闇の、荒野の中央に立っていた。
その中で、軽薄な声が響く。その声の主は、背中合わせに一輝のすぐ近くに立っていた。
「パパさんの言った通りだろォ? 答え出てんのなら、迷う必要ないじゃんかよ」
それが誰なのかは、すぐに分かった。
そしてここは、自分の
「……ことはそう単純じゃないっての」
再会の喜びはない。姿は見えず、声は届かずとも、彼はいつだって、傍にいてくれる。当たり前のものとして、今この状況を受け入れていた。
「人間には、触れちゃいけない部分があるんだよ。そこに踏み込んだら、どうあっても相手を傷つけちゃうんだ。今までだって散々そうだったろ」
そう苦みを込めて言う一輝に、背中越しにその影は声を弾ませた。
「あぁー、そりゃもう? ホントしんどかったよなァ、色々と。で、絶対今回もそーなる。ヘタに踏み込みゃオコオコ、ゲキオコプター、みたいな?」
その姿は垣間見える程度でしかないものの、おそらく身振り手振り、うるさい動きをしているのだろうということは容易に想像がついた。
「でもソレ、オレらにとっては、
と、彼は何の衒いも無く言ってのけた。
そんな彼らの周りを、想いが映像となり、写真となって巡る。
楽しいばかりの追憶ではない。弟との対立、強敵との苦闘、そして
思わず目を背けたくなるようなものだって、混じっている。
だが――嗚呼。
それでもなお、その先にあるものもまた知っている。和解、痛快さ、楽しさ。そんな要素はどこにも無かったはずなのに、理屈も無しに、
(なんだかんだ、良いものだった)
そう、思えた。
「見ろよ、みんな良いカオ、してんじゃん」
そう促されて浮かび上がるのは、一皮剥けてより一層頼もしくなった大二や狩崎。救われたような顔つきで消えていくアズマ。
「オレだって、寂しかったけど……それと同じぐらい、楽しかったぜ。だからこのやり方が、ベストじゃんかよぉ」
そう言って、はにかむ音が聴こえた。
「好きに言ってくれるなぁ。色々とお前や周りに振り回されて、大変だったんだぜ?」
「好きに言っちゃうよーん。だってオレっち、一輝の悪魔だもーん。一輝の想いはオレの想い。オレっちのやりたいことは、一輝のやりたいことだもーん」
子供じみた調子で節をつけて謳う悪魔は、少しばかりの間を置いた後で、深い息遣いをした。
「だからよ……お前のしたいことは、自分自身で口にして、やらないとダメだぜ。もう誰も代わりにはやってくれないんだから」
そう言い残すと、彼は再び遠く、深い場所へと沈んでいく。それとは逆に、一輝の意識は抗いようもなく、表層へと浮かび上がっていく。
〜〜〜
気がつけば、ベッド代わりに並べた椅子の上。隣には、相棒ではなく寝袋にすっぽり身を包んで寝息を立てるヒロミが横たわっている。
ほろ苦い笑みと共に身を起こした一輝。その枕元には誰が置いたものか、オモチャのアヒルがその凶悪な面を突き出していた。
誰ぞに似せた、しあわせ湯の『守り神』だった。
「……分かったよ、バイス」
優しくその額を爪弾きながら、静かに覚悟を決めた。