スカタン転生記   作:コミュニ爺

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初めまして。コミュニ爺という者です。
まずはこんな作品を見ていただいたことに感謝を。本当にありがとうございます。
何分初めての投稿ですので、お見苦しいところも多々あるとは思いますが、暖かい目で見守っていただけると幸いです。


第一話 「ものいう剣」

 

「えーっと…

『飛行竜。内装は意外とキレイ。客室の中も快適。車窓…いや、竜窓?から見える景色も凄くキレイだ』

…うーん、しっかし運賃が高ぇよなぁ。じっちゃんとリリスにも見せてやりたかったけど…。

『運賃が高すぎる。おいそれと乗れたモンじゃないのが難点だ』…っと」

俺———スタン・エルロン(19)はメモ帳と、ペンを片手に呟いた。窓の外には、澄み渡るような青空と、目にも止まらない速度で通り過ぎていく白い雲だけがあった。

 

俺が飛行竜———飛行機モドキの、謎生物のことである———。に乗っているのには深い理由がある。それは俺の第二の故郷、リーネの村が娯楽もカネもなにもないド田舎だということと、そんな日常から抜け出すべく、世界指折りの大企業、オベロン社に入社するためだということだ。

 

かつて現代日本に生きた記憶を持つ俺が、リーネの村を退屈で辺鄙な村だと感じるのにそう時間はかからなかった。確かにいいところではある。住民のみんなは優しくて、親切ないい人ばかりだし、畜産や農業も自給自足が可能な水準に達している。ただただ日々を生きていくなら何ら不自由はしないだろう。それでも、溢れかえるような娯楽に包まれて育った記憶のある俺にとっては、やはり刺激に欠ける日々が続いた。

 

いつしか俺は、時々村に訪れる旅人や商人に都会のことを尋ねるようになった。傍から見れば、都会に憧れるだけのよくいる子供にしか見えなかっただろう。それでも、執念深く情報を集めていくうちに、爆発的な成長を続けているという企業、オベロン社のことを知った。聞いた話によると、セインガルド王国の首都、ダリルシェイドに本社を構え、『レンズ』と呼ばれる資源を利用した製品を開発、販売して莫大な利益を上げているという。

 

これだ!と直感した。飛行竜の運賃をはじめとした、上京するための資金を貯め始めたのが十歳の頃だ。といっても、小遣いを必要以上に使わないだとか、羊飼いの仕事を真面目に取り組むくらいしかできなかったが。それでも十年近く貯金してきた成果が実を結ぼうとしているのだから、昨晩は思わず小躍りしてしまった。妹のリリスには叱られてしまったけれど。

 

父さんと母さんが早くに亡くなってから、俺とリリスを育ててくれたじっちゃんや、いつも身の回りのことの世話を焼いてくれたリリスには本当に感謝しているし、村を出ること自体は申し訳なく思っている。しかし、現状のままでは収入が安定しないことや、いつじっちゃんが倒れてもおかしくないと説いて、なんとか上京に漕ぎつけることができた。

 

「ごめんな…じっちゃん、リリス。俺、絶対出世して高給取りになって、毎月30,000ガルド(日本円でおよそ30万円に相当する)は仕送りできるような男になるからな…!」

決意も新たに、いざ、新天地・ダリルシェイドへ!そう意気込んだそのとき、地面が大きく揺れた。

 

「おわあっ!なんだ、地震か!?」

思わずスっ転んでしまう。いてぇ。

 

「って、いま飛行竜に乗ってんだから、地震もクソもねーじゃん!どーなってんだ!?」

何とか体勢を立て直すと同時に、客室の扉から何かが飛び出してきた!身の危険を感じ、咄嗟に左腕で首と胴をかばう———。

 

———ガブリ!

 

鋭い痛みが走り、肉ごと骨を砕かれるような感触がした。噛みつかれたか…!?

 

「このっ…!なめんな、ゴラァ!」

そこからの判断は速かった。左の膝で相手を打ち上げ、怯んだ隙に右の手刀を叩き込む。即席の打撃だったがなかなか堪えたようで、噛みつくどころではなくなったらしい。左腕がフリーになったのを確認し、思い切り壁に向かって蹴り飛ばす———!

 

「オラオラ、くたばりやがれ!このくされ狼が!」

ようやっと攻撃してきた相手が狼型の魔物———レンズを取り込み、狂暴化した生物の総称である———。だと知った俺は、奴の喉元めがけて何度も蹴りを叩き込む。さながら壁打ちの如く、執拗に壁へ叩きつけた。

 

魔物が動かなくなったことを確認してから、腰のポシェットに用意していたアップルグミ———携帯用の固形薬品である。フレッシュなリンゴ味———。を口に放り込んだ。すぐさま左腕の痛みが引いていく。用意しておいて本当によかった…!忠告ありがとう、じっちゃん!俺は兵士になるつもりはさらさらないけど、グミとライフボトルだけは絶対切らさないようにしよう、と心に誓った…。

って、いやちょっと待てよ?

 

「飛行竜みてーなデカブツを、魔物が襲ってくるか…?フツー…。第一、この狼ヤローが空飛べるようには見えんしなぁ…」

…ってことはまさか、魔物の群れによる襲撃…!?

 

「やべぇ!」

 俺が客室を飛び出したと同時に、凄惨な光景が眼前に広がった。おぞましいほどの血の匂い、そこら中から上がる煙。そして、人間、魔物を問わず打ち捨てられた、おびただしい死体の山———。まさしくそれは、地獄だった。

 

「うううっ…、うあああぁぁぁっ———!」

 走る、ただただ恐怖に突き動かされるまま。上京して一旗揚げるだとか、都会で遊びまくるだとか、そういったことを考えているだけの余裕は、とうになかった。しかし、ひとつだけ、たったひとつだけ考えられたことがあった。それは生きること。生きてこの場を切り抜けることだけだ———。

 

魔物に出くわさないよう、周囲に気を巡らせる。先程魔物と戦って生き延びることができたのは、一対一だったこと、それも相手があまり強くない魔物であったことに加え、周囲の地形を武器とできたことが、大きな要因だった。そのことは、俺自身が一番よくわかっている。いうなればビギナーズラックだ。次はない。せめて自衛用に武器があれば…!そう思わざるを得ない。確か甲板に備えてあった脱出用ポッドを目指して逃げようにも、道中で魔物に襲われてお陀仏———。なんてことが簡単に起こり得るからだ。どうする、俺…!?どうする———!

 

———カラン。

 

「…! これは…」

魔物と戦い、力尽きただろう衛兵の剣が、足元に転がっていた。申し訳ないけど、今は…

 

「すみません、この剣…使わせてもらいます」

俺が、生きるために。胸中で小さく呟き、剣を携えた。後は脱出用ポッドを目指して、強行突破あるのみだ———!

 

 

☆☆

 

階段を駆け下りる。下方から狼型の魔物が、二体同時に飛びかかってきた。だが、遅いっ!

 

「そこを、どけぇぇぇっ!」

裂帛の気合とともに、右薙ぎから、返す刀での刺突。二体をすれ違いざまに屠る。元セインガルド兵のじっちゃんに仕込まれた剣術だ。武器さえあれば、こんな奴らに遅れを取るはずがない。現に、ここまでに遭遇した魔物は、すべて一太刀で葬っていたからだ。

 

つい、これならいける、と考えてしまった。しかしそのとき、冷や水をぶっかけられたかのように、じっちゃんの教えが脳裏に蘇ってくる。

 

「ふぅ、危ねぇ危ねえ…!『戦場では、油断した者、驕った者から死んでゆく』…だったよな、じっちゃん…」

逸る気持ちを押さえつけ、歩を進めていく。剣も損耗が目立ち始めた、このままでは長くは持つまい。消耗を抑え、早く脱出しなくては。しかし、右方への曲がり角に差し掛かるあたりで、背中に悪寒が走った。

 

———なんだ?この違和感は…。なにか重大なことを見落としているような———。

 

そのとき、弾丸が如き何かが突撃してきた———!

 

———キエェェェ!

 

「ぐうっ!」

まったく運がよかった、この一言に尽きる。大型の飛竜型魔物の体当たり———それも死角からの攻撃である———。をなんとか紙一重で受け止めることができたからだ。すぐさま力任せに剣を振り払い、魔物を弾き飛ばす。奴の体勢が崩れた今が好機だ———!このまま飛び込んで仕留めてやる!上段に剣を構え、強烈に踏み込む!

 

「もらったぁ!」

しかし、それは悪手であった。俺は完全に失念していたのだ。飛行竜の内部で上がっていた煙、そしてその火の元を———。

 

———ボウッ!

瞬間、魔物の口から猛るように炎が吐き出された!灼熱の吐息が俺の身体を襲う!まずいっ!

 

「うわあああっ!」

たまらず吹き飛ばされる。咄嗟に眼前に剣を振り下ろし、なおかつ派手に転がったことで、何とか炎の直撃を避けることはできた。だが、今の炎の攻撃で、決して少なくないダメージを負ってしまった…。それに———。

 

「くっ、剣が…」

もともとガタが来はじめていたとはいえ、完全に刀身が破壊されてしまったのだ。つまり、今の俺は完全に丸腰ということになる。…やはりこの場は…!

 

「ちくしょう、おぼえてろよ!この害鳥(?)がぁっ!」

逃げるしかねぇ!魔物に向かって剣の柄を思い切り投げつけ、奴が怯んでいる隙に全力で駆け抜ける。もう少しだ、もう少しで脱出用ポッドに辿り着ける。もう少しで———。

 

———ウガアァウッ!

 

「くっそおっ!ケダモノのクセに結託してんじゃねぇっ!」

わずかな希望をも打ち砕くように、正面から、狼型の魔物まで襲い掛かってきた。何とか身を捩って体当たりを躱す。だが、先程の飛竜型の魔物も控えているのだ。逃げ場のない現状では嬲られて殺されるだけ…!こうなれば、イチかバチかだ!俺は後方の倉庫の扉へ、一目散に飛び込んだ。

 

 

☆☆☆

後方の扉の鍵が開いているかどうかすらわからない状態での、命というチップを懸けた分の悪い、それどころか無謀とも言える賭け———。それに俺は勝ったのだ!何とか身を隠すことには成功した俺だったが、喜んでばかりもいられない。奴らがいつ俺の気配に気づくかは分からないからだ。早くこの中から武器になるものを見つけないと———。

 

———ガンガンガンガン!

扉を激しく叩く音が響いた!くそっ、奴らめ!もう俺に気づいたってのか!?すぐさま全力で扉を抑える。だが、はたしていつまで持つのか———!

 

「ぐうっ、じっちゃん、リリス…っ!」

情けない。思わず二人の名前が零れる。もっともらしい理由をつけてはいたが、結局のところは自分のためだけの上京だ。そんな身勝手なことをした報いなのだろうか。本当に、なんて情けないザマだ。でも、だけど…俺は…っ!

 

「俺は、こんな…こんなところで…死ぬわけに、いかない…っ!

そのとき、聞きなれない男の声が、俺の頭の中に響いた。

 

『おい、そこのお前』

「…!? 誰だ、誰かいるのか!?誰でもいい、助けてくれぇっ!」

藁にも縋るような気持ちで、ただただ全力で叫ぶ。この声の主と協力できれば、この状況を切り抜けられるかもしれないのだから。しかし、帰ってきた答えは意外なものだった。

 

『ほう、我の声が聞こえるか。どうやら素質はあるようだな…』

「素質!?そんなことはいいから!早く助けてくれよっ!」

『助かりたければ奥まで来い。話はそれからだ』

「奥!?奥だな、いよおおおっし!」

半ばヤケクソ気味に扉を蹴りつける。今ので魔物が怯んだのか、扉にかかる力が微かに緩んだ。今しかない!部屋の奥を目指して駆け抜ける。赤い光が見えた。あれが目印だろうか。

 

「って、あれ…?誰もいねぇ…」

思わず肩を落とす。自分で退路を断つような真似をしてしまった、ということか。涙が出そうだ、ちくしょう。現状に身を打ち震わせていると、再び声が響いた。

 

『我はここだ。もう少し周りを見たらどうだ?』

「やっぱり誰かいるのか!?いったいどこに…って、なんだこれ。変わった剣だなぁ」

人の声がしたと思ったら、変わった形の剣が鎖で固定されている箱を見つけた。変わった装飾の施された赤い鍔、そして長い両刃をもつ直剣だ。見たところ結構な年代物のようだが、手入れが行き届いているのか、刀身に錆や刃こぼれは見受けられなかった。しかし、なんでこんなところに剣なんかあるんだ?どう見ても骨董品だろうに。ま、それはそれとして!

 

「この際なんでもいいか。火事場泥棒みたいで気が引けるけど、使わせてもらおっと!」

力任せに剣を箱から取り出す。鎖の保護もさほど頑丈ではなかったのか、あっさりと取り出すことができた。しかしなぜだろう、この剣、妙に手に馴染む。今この場で初めて握ったはずなのに。これなら、あの技も使えそうだと確信するほど。疑問は尽きないが、今は一旦振り払う。目の前のことに集中だ。直後、轟音とともに扉が破られた。奴らが来る…!

 

「さっきは遅れを取ったけど、今度は負けねぇぞ…!ギッタギタにしてやるぜ」

剣を構え、戦意を奮わせる。まずは、比較的弱い狼の方から仕留める———!

 

「———魔神剣!!」

その昔、じっちゃんから教わった奥義だ。神速の一刀で、斬撃を飛ばす技。今の今まで上手くいった試しはない。ないのだが、今の俺なら絶対にできる。根拠はないが、謎の確信があった。まるで世界が変わったよう———。そう錯覚させるほどの万能感とともに、斬撃が駆け抜ける。たちまち狼の胴は深く切り裂かれ、そのまま二つに分かれた。それだけではない。勢いが全く落ちないまま、斬撃は飛竜にも及び———瞬間、鮮血が舞った。生命が絶える感覚とともに二匹の亡骸が崩れ落ちる。え…、一撃…?

 

「…今までと全然違う!どうしちまったんだ、俺ぇ!?」

自分の実力が信じられない。魔神剣は直接斬りつけるよりも殺傷力は低いはず。それなのに、魔物二匹を同時に屠るなんて…。明らかに今までの剣戟よりも威力が大きい。人間そんな急激に強くなるはずがないし、ほかに原因があるとすれば…まさか。

 

「まさか、この剣…めちゃくちゃスゴいのか…?」

この場を凌げればいいと思っていたが、思わぬ拾い物をしたものだ。無事に生き残った暁には売り払って路銀にしてしまおう。そんなことをのんきに考えているうちに、室内がまたも大きく揺れた。飛行竜も限界ということか!それならば…。

 

「早くここを脱出しないと…。墜落死なんて冗談じゃねぇや!」

慌てて倉庫を抜け出す。早く脱出用ポッドを目指さなくては!意気込んだ途端、殺気を感じた。剣を正眼に構え、様子を伺う。またも狼型の魔物に行く手を阻まれてしまった。だが、今の俺に敵うと思うなよっ!

 

「二人がかりなら敵うと思ったか、この狼ヤロウ共が!」

左右を挟まれている状態だが、構うものか。まずは右手側を魔神剣で仕留める———!剣を振りかぶったそのとき、急に寒気を感じた。悪寒だとかそういうものではなく、猛烈な冷気を感じたのだ。くっ、新手か!?もし近くに他の魔物がいるのなら、魔神剣2発で対処するのは危険だ。多数の敵との戦いにおいて、大振りの攻撃を繰り返すのは愚策だ———。じっちゃんの教えが頭をよぎる。だがそれは杞憂だったようだ。小柄な人影が駆け抜けるとともに、二匹の魔物が倒れ伏していく。どうやら味方のようだ。落ち着いてから見てみると、黒髪のべっぴんさんだった。見かけによらず結構なお手並みでいらっしゃる。おっと、お礼を言っておかないとな。

 

「おぉ、ありがとうございます!助かりました」

「べつに助けたつもりはないわよ。お目当ての物を探しに来ただけ———って、ああっ!」

「ん?この剣がなにか?」

「それ、なんであんたが持ってんのよ!こっちに渡しなさい!」

「えぇ…そりゃ困りますよ。ここから逃げおおせたら、売り払って路銀にするんですから」

助けてもらったことは感謝するが、ずいぶんと態度のでかい女だなぁ。なかなかのべっぴんさんなだけに、ちょっと残念。第一、誰が渡すもんかい。そんなことを考えていたら、またも男の声が頭の中に響く。

 

『我を売り払うだと…?お前、どういうつもりだ…!』

…あれ?おっかしいなあ…。今この場所には俺とこのゴーツク女しかいないはずだ。それに「我を売り払う」って、まるで自分を売るような発言じゃないか。………ま、まさか…。

 

「うわあああっ!しゃ、喋ったあっ!?」

思わず腰を抜かす。剣を手放さなかったことを自分で褒めてやりたいぐらいにはおったまげた。なんだこの剣!?

 

『ええい、いちいち取り乱すな!』

「剣が!剣が喋った!」

『生きているのだから当たり前だろう』

「いや普通剣は生きてないし!なに当然みたいに言ってんだよ!?」

『我は“ソーディアン”だ。お前にもわかるように言えば…そうだな、自らの意思を持つ剣、といったところだ』

「へぇ、そうなのか…って、納得できるかあっ!そんな非常識なことが———!」

言い終わらないうちに、またも大きく揺れた。時間がない、早く脱出しないと本当に死んじまう!慌てて立ち上がると、ゴーツク女が驚いたように俺を見ていた。

 

「あんた、ソーディアンの声が聞けるっていうの…!?」

「あぁ…俺の頭がおかしくなったんじゃないならね…。そんなこと聞いてくるってことは、あんたも聞こえたのか?今の声」

「まあね…って、そんなこと今はどうだっていいでしょ!早くよこしなさいよ、それ!」

「嫌だっつってんだろ!?だいたいこの剣が生きてるんだったら、人身売買みたいで寝覚め悪いじゃねぇか!」

『先程、我を売り払う、などとのたまっていたとは思えん台詞だな』

「うるせぇな、事情が変わったんだよ!こうなったらとことんまで使い倒してやる…!」

「そんなことさせないわよ!それはあたしのものよ!」

ギャーギャー言い合っているうちに、斧を携えてもう一人が駆け寄ってきた。物騒だなぁ。まぁあんまり他人のこと言えないけど。

 

「ルーティ、何をやっている!?早く脱出するぞ!」

「ちょっと放してよマリー!あたしのお宝があっ!」

「死んでしまったら元も子もないだろう。行くぞ!」

どうやらこの二人は元々知り合いらしい。斧を担いだ女の方が、ゴーツク女を引っ張っていく。これはもしや、チャンスなのでは?

 

「ちょっと待ってくれ!俺も一緒に行かせてくれよ!甲板まででいいからさ!」

「…何言ってんのよ、あんた。図々しいわよ」

「お前が言うなっ!真面目な話、魔物もいるんだし、協力した方が生き残れる確率は上がると思うんだ。どうだろう?」

———結構剣の腕は立つぜ、俺。と付け加えておく。甲板までそう長い距離ではないが、魔物の数が不明瞭な以上、人手が多い方が間違いなく生存しやすいだろう。まぁ、ダメだと言われても勝手に着いて行くつもりではあるが。

 

「うん、確かに。わたしはマリーという。お前の名前は?」

「俺はスタン・エルロン。よろしく、マリーさん」

いいね。こっちのお姉さまは中々話が分かる。この非常事態だ。すんなり話が通って、ありがたいことこの上ない。しかし———。

 

「ちょ、ちょっと待ってよマリー!あたしの意見は聞かないわけ!?」

「そうは言わないが…。ここは万全を期すべきだと思うぞ、ルーティ」

「そりゃ、そうだけど…」

どうも納得いってない、って感じだな。ここはゴネられる前に行動を始めたほうが良いだろう。一気に距離を詰めようか。

 

「あんたルーティっていうのか。改めまして、俺はスタン。よろしくな」

「…気安く話かけないでくれる?他人のお宝盗んだような奴と仲良くする気はないわ」

こ、こいつ…!露骨に視線逸らした挙句、詰ってきやがった!?

 

「って、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!?早く甲板まで行こうぜ!」

二人を急かす。マリーさんはいわずもがな、口ではブリブリ文句を言っていたルーティも行動を始めた。これでなんとか生きて逃げられるといいが…。とにかく、甲板へ行こう。

 

 

☆☆☆☆

作戦はシンプルだ。俺が前衛で魔物を押しとどめ、マリーさんがそいつを仕留める。ルーティには背後の警戒を担当してもらう。即席のチームながら、悪くない動きだったと思う。道中、三度魔物と交戦したが、誰一人負傷することなく、甲板までたどり着くことができたからだ。脱出ポッドも無事なものが六台あったので、全員で脱出ができる。

 

「いやぁ、本当助かったよ、二人共!俺一人じゃ脱出が間に合わなかったかもしれないし」

「お礼は後!あんたが殿務める約束、忘れてないでしょうね」

「もちろんさ。さ、二人は早く脱出してくれ。もし魔物が来ても、俺が倒すから」

二人は頷くとともに、脱出ポッドに乗り込む。カタパルトから火花が走り、空へ駆けていった。よーし、次は俺の番だな。

 

「あばよ、ケダモノども!俺もズラからせてもらうぜ!ハーッハッハッハ!」

脱出ポッドに乗り込み、発進させる。トラブルばっかりで一時は死の危険すら感じたけど、これでようやくダリルシェイドまで行ける。俺の素晴らしい新生活の幕開けだぁ!

 

———ボウッ!

なにかが焼ける匂い、そしてわずかに爆発音。この中で聞こえるということは、まさか、まさかまさか———!

 

「あんのクソ鳥がああぁぁっ!」

ヤロウ、俺の乗ったポッドに火ィ吹きやがったな!?まだ生き残りがいたのか!しかも後ろを見たら穴が開いてやがる!げぇっ、こっち来たぁっ!?

 

———ガコンッ!

 

奴がこちらに突撃してくるよりもわずかに速く、脱出ポッドが動き始めた。かろうじて追撃は免れるものの、コレ、穴が開いてんだよなあ…。ってことは、つまりだ。ろくな装備もなく、紐なしバンジーモドキをするということで…。

 

「うわあああっ!死ぬ!これ死ぬってええぇぇっ!」

落下のスピードから身を守ってくれるポッドが機能不全なのだ。これが叫ばずにいられるか!っていうか速い速い速い———!

 

———ドボオォン!

湖に墜落したのは、ラッキーといえるのだろうか。こうして、五体満足なんだから。でも、いしきが、と、お…くなって……や、べぇ…。

 

『生きたいか?スタン・エルロンよ』

 

…なんだ、こんなとこでひとのこえがするぞ。はは、そんなにさびしいのかねぇ、おれ。

 

『生きて助かりたくば…我の名を呼べ。これは契約だ。我はお前に、生き残る力を与えよう』

 

そんなの、きまってるさ。

「生きたいに、決まってるだろ———!」

『叫べ、我が名は———』「お前の名は———」

『「———ディムロス!」』

瞬間、紅い光が立ち上る。空から俺を受け止めた湖は、空へと還っていった。同時に、俺の意識も。力尽き、倒れるまでに時間はかからなかった———。

 

☆☆☆☆☆

この時、俺はまだ知らなかった。欲望の糸で手繰られた運命の輪に、乗せられていたことなんて。

 

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