さて、今回は人気ぶっちぎりの彼が出てきます。それではどうぞ。
☆
神殿を後にした俺たちは山道を抜け、ジェノスの町に辿り着いた。その道中で、セインガルドの兵士に盗掘者の容疑を懸けられそうになったが、魔物に襲われた旅人一行を装うことで事なきを得た。だけど、兵士の隊長らしき人からディムロスをまじまじと見られているようで少し気になったが…。まぁ、なにはともあれ無事に町へ辿り着いたわけだ。通行証も無事に手に入ったことだし、少し休んだらダリルシェイドに向かうとしよう。
「よし、ここでお別れだな。二人共元気で。それじゃ」
「ちょ、ちょっと待った!あんた、あたしたちを放って行くつもりなの!?こちとらか弱い女の二人旅よ!?」
「……体よく護衛に使おうってんなら、もう少しマシな嘘をつくんだな。第一、ルーティとマリーさんだけでもここいらの魔物なんかに遅れはとらんだろ」
「そ、そこをなんとかっ!同じソーディアンのマスターでしょっ!」
食い下がってくるなぁ。確かに同じソーディアンの使い手だが、それなら尚更俺なんかいなくたって大丈夫だろうに。ルーティの持っているソーディアン———確かアトワイトといったか。彼女にもルーティを諫めるよう頼んでみるか。
「アトワイトさん、で良かったよな。あんたからも何とか言ってくれよ。あんたの言うことならルーティもきっと聞くだろ?」
『あら?スタンさんほどの実力なら、護衛くらい簡単にこなせると思うのだけれど…』
『おい、アトワイト…。あまりスタンを調子づかせるようなことを言うんじゃない。こいつはまだまだ半人前だぞ』
「え、アトワイトさんまで乗り気なの…?あとディムロス、半人前ってのはどーいう意味かな?」
『…言葉通りだ。剣技や体術はともかく、美辞麗句に簡単に乗せられ、すぐ感情的になって目標を見失う…。そんな男を半人前と言わずなんという』
「ぐえっ、そ…そこまでボロカスに言うことねーだろ!?…確かに、半分くらい当たってるような気もするけど…」
『それじゃあ、その半人前のスタンさんを鍛えるっていうことでどうかしら?ルーティに万一のことがあれば、スタンさんだって気が気じゃないでしょう?』
…ダメだ、口で勝てる気がしねぇ。それに、ルーティが死んじまおうモンなら———確かに寝覚めが悪いしな、観念したよ。
「……わかったよ、一緒に行こう。俺はダリルシェイドに行くから、その道中なら構わないよ」
「やりぃ!これで護衛代が浮くわね!」
「…お前、ほんっとブレねぇのな……」
やっぱり体よく俺を使おうとしてたんじゃないか…。まぁ彼女らもダリルシェイド方面に向かうみたいだし、良しとしよう。そうしてもう少しの間旅の道連れになった俺たちは、ジェノスの町にて一晩宿を取り、彼女らの目的地———ハーメンツの村を目指すことになった。
☆☆
「すかー、すこー…」
「ちょっと、朝よスタン。起きなさいよ。……起きろっての!」
「…なんだ、さみしいのか?よーし、兄ちゃんといっしょにねるか?」
よーしよし、こわくないぞー、リリス。兄ちゃんがついてるからなー。
ぴとっ。
「———な、なななっ…!なに抱き着いてんのよーっ!!」
「ふべらっ!…………んあっ、おはようルーティ」
「おはよう…じゃないでしょ、この変態っ!嫁入り前の乙女に抱き着くなんて何考えてんのよっ!!」
「…そりゃすまんかった。とりあえず、かおあらってきていい?ふあぁ…ねむてぇ…」
「こ、こいつ…!護衛じゃなかったら後十発はぶん殴ってやるところだわ…!」
…ああ、良く寝たぁ。顔洗って目も覚めたことだし、ハーメンツの村に行くとしますか。
しかし、なんであんなに怒ってんだろうな、ルーティのやつ。なんかヤなことでもあったんだろうか。本人に聞くのも憚られるし、ソーディアンの二人にそれとなく聞いてみた、みたのだが…。
『…スタン…お前というやつは…』
と、ディムロスには呆れられ…。
『ふふっ、大胆ね、スタンさん』
一方アトワイトさんは妙に楽しげで…。
「えっ、何、俺のせい…?」
肝心の俺は呆けるしかできなかったとさ、チャンチャン。…助けてマリーさんっ!
「スタン、ルーティに謝っておいた方が良いぞ…」
あれぇ、まさかのガチトーン!?ちくしょう、なるようになれだっ!
「どうもすみませんでした…」
土下座を敢行して謝り倒したところ、何とかお許しは頂けました。ハイ。しかし、ルーティの顔が妙に赤かったのはなんでだろうな?
朝早くからいろいろあって大変だったが、俺たちはハーメンツの村に向けて歩き出した。
☆☆☆
ファンダリアの国境を抜けて、セインガルド領に。そして最寄りの人里で、一旦の目的地であるハーメンツの村へとたどり着いた。聞けば、二人はこの村に住んでいるウォルトという人物に用事があるのだとか。町の人に尋ねたところ、あまり良い顔をされなかったので、ま、あ、つまりはそんな人なのだろう。既に気が重くなってきたが、この際仕方がない。二人の護衛として、仕事はしっかりしないとな。そうしてウォルトの屋敷に入った途端、ルーティに護衛を頼まれた理由を悟った。
「…なるほど、それで俺の出番ってワケか」
「あぁん、なんだ?テメェ…」
見た目だけ怖~いお兄さん方からガンを飛ばされる。いくら強かろうと女二人じゃ足元見られるだろうから、用心棒役が必要だったんだな。うんうん。
「あんた方のご主人の客人ですよ。ま、俺は単なる付き人だけど」
「ほう…喧嘩売ってんのか、クソガキが」
「おっと、腕自慢は結構だけど…。客人に手を上げるようなマネして良いんですか?」
「…チッ、ウォルト様がお呼びだ。さっさと二階へ行きな」
二階へ上がる。そこには恰幅の良い、偉そうな男がいた。なかなか仕立ての良い服を着ていやがる。おそらくこの男がウォルトだろう。彼は俺たちに気づくと、ルーティの持っていた人形についての商談を始めた。俺はその辺についてはもうさっぱりわからんので、ボケーっと突っ立っていることにした。マリーさんは結構楽しそうだったが…。そんなに他人の家の中を見るのが楽しいのだろうか?と、そうこうしているうちに、商談は終わりを迎えようとしていた———って、なんかぞろぞろ出てきたんですけど。マリーさんに小声で尋ねたところ、最初の条件に対して、ルーティが倍のガルドを要求したのだとか。えぇ…。
「こっちにも用心棒はいるんだからね!スタン、あんたの出番よ!」
「あいよぉ、スタン・エルロンで~す」
「なによあんた!全然やる気ないじゃない!」
「いやさぁ…これってお前が人形の値段吹っかけたから起きたトラブルじゃんか。こんな馬鹿馬鹿しいことに付き合ってられんぜ」
「ほう、この状況でまだそんな減らず口を叩けるとはな…おめぇら、やっちまえ!」
「おおっ!」
ウォルトの号令の下、怖いお兄さん方が殴り掛かってきた。まともに相手すんのも馬鹿馬鹿しいが、自衛くらいはさせてもらおう。
「おっと、暴力は良くありません」
「ぐえっ」
拳打を躱して、顔面に一発。良いのが入ったな、まず一人目だ。あと三人、適当に伸してしまおう。
「俺たちは人間ですから」
「ふぐっ」
左から回り込んできた奴の鳩尾に前蹴り。これで二人目。そのまま頭を掴んで振り回す。無駄に長い髪が仇になったな、そういう商売なら短く切っておけっての。
「話し合おうじゃあないですか」
「がはっ」
「げふっ」
残った二人も弾き飛ばしつつ一回転、そのままお仲間の元へご招待して差し上げる。我ながら器用に投げ飛ばせたモンだ。狭い空間で一斉に飛びかかってくるからそんな目に遭うんだぜ。
「さて、と…。全員伸びちまったみたいですけど、どうします?」
「ぐぬぬ…!」
「どうよ!こいつ無駄に腕だけは立つんだからね!」
「お前が勝ち誇るなっ!…ウォルトさんや、すみませんね。うちのルーティが吹っかけたせいで」
「……チッ、仕方がねぇ。言い値で買ってやる」
「おぉ、良かったなルーティ」
「…感情がこもってない。やり直し」
「良かったな!おめでとうルーティ!」
「まぁ?このあたしにかかればこんなもんよ!あーっはっは!!」
楽しそうで何より、って大丈夫なのか?後で手痛い報復を喰らいそうなんだが…。まぁさっさとズラかれば問題ないか。そう思っていたら、予想外の展開が起きた。なんとウォルトが今晩の宿を手配してくれるとのことだ。……怪しすぎる、絶対に寝込みを襲ってくるだろ。俺は反対したのだが、ルーティとマリーさんがまさかの賛成。じゃあ二人だけ残ったらどうだと言うと、ルーティがすごい勢いで反対してきた。しかも朝の一件まで持ち出してきて、だ。それを言われると口を噤むしかない。何があったのかは覚えていないが、俺がルーティに何かやらかしたことは事実なのだ。甘んじて受け入れるしかない。寝起きの悪い俺は、宿にて一睡もせず、ただ朝を待ち続けた。その間、闇討ちはなかったが。あれ?勘が外れたか?
☆☆☆☆
「おはよう、なんの用だ?」
「うわっ、起きてたのあんた」
早朝一番に俺の元へやって来たルーティに一言。どうやら俺がまだ眠っていると思っていたらしい。夜襲を警戒してこっちは一睡もしてないんだ、当てが外れたな。
「夜這いにしては遅すぎるな。…まさか、まだディムロスを狙ってたのか?」
「な、なんのことだか、さっぱりわかんないわね~」
「わかりやすい奴…」
「あんたにだけは言われたくないわね…スタン、あんたなんか雰囲気違わない?」
「完徹したからな。ウォルトのとこのチンピラ連中に襲われたら敵わんだろ」
そう言うと、ルーティは納得したようだった。しかし眠い。眠すぎる。眠気に抗い、欠伸を噛み殺しながら立ち上がる。
「んじゃあ今度こそお別れだ。達者でな」
「ちょっと、もう出発する気!?」
「だってもうハーメンツまでは着いて来たじゃん。ここで別れる約束だろ」
「それは、そうだけど…」
あぁ、もう。そんなに悲しそうな顔すんなよ———ほっとけなくなるだろうが。
「…俺はダリルシェイドに行く。……着いて来るか?」
「…いいの?」
「最初っからその気だろ?それに———ディムロスを諦めるとは思えないしな」
「…スタンのバカ」
「えっ、俺なんかした…?」
『スタン、我は責任を取るべきだと思うぞ…』
「ディムロスまで!?俺にどうしろと…」
そんなこんなで、また三人でダリルシェイドに向かうことになった。なったのだが…。なーんか宿の周りを兵士が囲んでるんですけどー…。
「…俺が事情を聞いてくる。ルーティはまだ出てくるな」
「あんた一人で大丈夫なの?見るからにコンディション最悪じゃない」
「別にドンパチやるわけじゃないさ。問題ない」
「…気を付けてね、スタン」
「あぁ、ありがとう、ルーティ。行ってくるよ」
最低限の身支度を整え、表へ出る。こっそりライフボトル———生命力を高める薬。絶命さえしていなければある程度の効果は見込める———を飲み干し、体調を整える。外傷を癒すグミ類とは異なり、使いどころに困ると思っていたが、結構役立つな。頭が少しだけ楽になった。目の前で一番偉そうな兵士に声をかける。
「あの~、なにかあったんでしょうか?」
「…我が国の遺跡に無断で立ち入り、盗掘を行った“強欲の魔女”ルーティ・カトレットが宿泊しているとの報せがあった。貴様もその一味ではないか?」
「いやいやとんでもない、俺の連れに“強欲の魔女”なんてやつはいませんよ」
「ほう…情報によれば、ルーティ・カトレットには金髪で凄腕の用心棒がついているそうだが…。誰のことだろうな?」
「さぁ、俺以外にも金髪の男がいたんじゃないですね?」
「おや、おかしいな。私は“金髪の男”だとは一言も言っていないぞ?」
「やれやれ…。ルーティだけじゃなく、俺にも用があるんですかい?」
「その通り。貴様には、我が国の所有する宝剣を強奪した容疑がある———。覚悟ッ!」
いきなりか。大剣の横薙ぎを、屈みこんで躱す。そのまま伸び上がる勢いを乗せ、局部に右の拳打を叩き込む———!
「はうっ……!」
「悪いね、こっちも事情があるんでな」
兵士が倒れるのを横目に、ディムロスを抜き放つ。他の兵士たちは鎧のデザインが異なるようだ。おそらく、今殴り倒した兵士が隊長格だったのだろう。士気が下がっていることがありありと見て取れた。それじゃあ俺は止められないな———!
「———爪竜連牙斬っ!」
踏み込みながらの連続斬り、爪竜連牙斬が兵士たちを襲う。やはり実力的には大したことはないようで、俺の剣戟を受け止めることは叶わず、全員が一刀のもとに切り伏せられていった。
「とりあえず、全員生きてるよな。まずはこっちの話も聞いてもらいたいんだけど———」
「このスカタン!なんでいきなり兵士に喧嘩売ってんのよ!」
「おまっ、ルーティ!一番言ってはならないことを~!」
「
「———ふん、無様なものだな。とても見てはおれん」
いきなりやって来たルーティともみ合いになっているところに、少年の声が響いた。小柄ながら尊大な態度、他人を見下したような目。おまけに秀麗で端正な顔立ち。
「オレ、コイツキライ」
「いきなり何言ってんのあんた!?」
「俺よりイケメンで性格の悪そうな奴は、肥溜めにでも頭から突っ込んじまえばいいんだ」
「だから何言ってんのよ!?」
「…なんだこいつらは」
「そりゃこっちの台詞だよ。今お兄さんたちは取り込み中なんだ、早く帰った帰った。シッシッ」
「そういうわけにもいかん。貴様らを連行するのが僕の任務だからな」
なんだこいつ、偉そうなだけじゃないな。剣を抜いた途端、雰囲気が変わりやがった。相当できるぞ、こいつは。ルーティを下がらせ、一歩前に出る。ルーティの実力じゃ、恐らく歯が立たない相手だ。俺がやるしかない…!
「一応名乗っておこう。スタン・エルロンだ。…お前は?」
「セインガルド王国、客員剣士…リオン・マグナスだ。———行くぞっ!」
言うが早いか、奴———リオンは俺に向かって飛び出してきた!まるで放たれた矢のようだ。そこから繰り出される逆袈裟の一撃を、かろうじて防ぐ。
「———速ぇな…!」
「———ほう、これを防ぐか」
力ずくで弾き飛ばすと、リオンは事も無げに体勢を整えた。想像以上に手ごわい、万全な状態なら負ける気はないが———どうしよう、今になって眠気が激しくなってきたんだけど。
「ならば速攻…!爪竜連牙斬!」
「ふん、一度見せた技がこの僕に通じるものか!」
一打、二打、三打、四打。爪竜連牙斬を完璧に防がれてしまった。しかもただ防ぐのではなく、正反対の剣戟で以て受け流されてしまったのである。
「じっちゃん譲りの技なんだけどなぁ。…自信なくすぜ」
「セインガルドの兵士に伝わる技だ…。当然対処法も知っている」
「なるほど、ならこいつはどうだ!?」
じっちゃんに教わった技の多くは防がれると見ていいだろう。ならば俺自ら編み出した技で仕掛けるっ!
「———閃空裂破っ!」
「なにっ!?」
真空波を纏いながら飛び上がり、唐竹割りを繰り出す技———閃空裂破が、リオンの身体を捕える。剣で防御こそされたが、体躯で勝る俺が繰り出したのだ。大きく吹き飛ばすことに成功した。頼むからこれで伸びてくれ…!こっちの眠気はもう限界だ…っ!
「くっ、どうやら侮っていたようだな…。こちらも奥の手を見せてやる、行くぞシャル!」
『はい、坊ちゃん!』
「えっ、お前のそれもソーディアンなのか!?」
『馬鹿者、隙を見せるな!』
一瞬の動揺、そして睡眠不足による判断力の低下。普段の俺であれば絶対に晒さないような大きな隙を、自らと同等以上の実力の相手に晒してしまった———。やべぇ、死ぬかも。
「———塵も残さん!奥義!“
「うわあああっ!」
黒い炎が、俺の身を焦がした。———闇の炎に抱かれて消えろ。奴の声が遠くなる。まずい、ルーティを守らなきゃ。おれ、が…ルー、ティを…。
☆☆☆☆☆
いつの間にかダリルシェイドの王城の地下牢に放り込まれていた俺たちは、リオンたち兵士の立会いのもと、国王の待つ謁見の間に行くことになった。
俺たち、もしかして死刑コースでは…?
次回、スタン一行に明日はあるのか!?(この稚拙な文を読んでくださっている皆様ならとっくにご存じでしょうが…)
評価、感想など励みになります。暇なときにでもしてやってくださると喜びます。それでは。