古龍以外の通常モンスターは古代生物扱いで過去には存在していたが軒並み絶滅している現代ベース。古龍もドス古龍などの通常クエスト枠に登場するモンスターもバルファルクを除いて絶滅している。所謂ラスボス格や超大型古龍はひっそりと生存しているがマントルに近い地中や深度一万m以下の深海だったり現代技術でも観測が極めて難しい場所に生息しているのでバルファルク以外のモンスターは認知されていない。
『言葉』について
この二次創作の設定では古龍枠のモンスターは生まれつき彼らの中だけで通じるテレパシー染みた言語がある設定。ただし作中に登場するバルファルクは他の多くの古龍達が絶滅する少し前くらいに生まれてしまい他の古龍に会うこともなくずっと空を飛んでいたため会話した経験が無い
セイウンスカイとバルファルク
いつ頃からであったか。
有史以来、気付けば人類の頭上にはどれだけの時代を経ても一筋の流星が時を問わず空を駆けていた。
ある者は幸福の兆しと言い、ある者は災厄の前兆と呼び、またある者はその神秘性に信仰を捧げた。古今東西、様々に幾つもの名を持つ星ではあったが、それが星に意味する事は無く。
時代が進むとそれが単なる星ではなく、生物である事が分かってきた。最初は高山で、次は気球、そして人類がようやく飛ぶための翼を得ると徐々に生物としての輪郭がはっきりとしてくる。やがて富や名誉欲しさに挑む者も現れたがそれらは文字通り逆鱗に触れ、二度と生物の姿を見る事は叶わなかった。
この地上においてたった一個体。それのみが人類の敷いた領空なぞ気にせず空を謳歌している。
漢語圏においては天彗龍。英語圏においてはValstrax。通称バルファルクは、今日も変わらず空を飛んでいる。
「うわぁ、すごく良い景色!」
「ここまで登ってきた甲斐があったわね」
「グラァス……。もうへとへとですよ~」
「エル? 大声出してはしゃいでばかりいたのは貴方なんですよ」
「まぁまぁ。せっかく五人で登れたんだから、そうかっかしないでよグラスちゃん」
富士山。
標高3,776m。日本最高峰であり最も有名な山。自然的・文化的に認知度が極めて高く国内外から多くの観光客が訪れる。日本を象徴する山としてその存在感は留まる所を知らない。
7月1日。この日五人のウマ娘が富士山へ登山に来ていた。中央トレセン学園にて、互いにしのぎを削るウマ娘達。だがレースが終われば和気あいあいとしたクラスメートとしての絆がある。言い出しっぺのスペシャルウィークを筆頭にキングヘイロー・エルコンドルパサー・グラスワンダー・セイウンスカイが仲睦まじく山頂からの景色を楽しんでいる。
「本当、ここに来れて良かったなぁ~」
「スペちゃんの提案、良かったよね。意外とその気にならないと来れない場所だもんねぇ、ここ」
「タイミングも悪くないわよね。もう少ししたら合宿だもの。7月の始めならまだ人が少ないっていうのは本当に良かったわ」
「エル達だけで、この絶景を独・占デース! 声がよく響きますよー!」
「ふふっ。エルったらまだはしゃぐ元気があるんですか? ……ここからならトレセン学園だって見えそうですね」
発端はスペシャルウィークの一言だった。
────日本一を目指すからには、日本一の山に登ってみたい!
北海道から中央トレセンにやってきたスペシャルウィーク。地元の風景だけが世界だった彼女からすれば中央は見る物全てが新しい。とはいえ学業やレース・ライブの練習などで忙しく、およそ年頃の娘らしい遊びには暇が無いのが彼女達である。スペシャルウィークは多くの事が気になりつつもそれらに手を出すのが躊躇われた。そんな彼女の背を押したのは他ならぬ同期の仲間達である。彼女達はスペシャルウィークの新鮮な様子を大事にしてくれていて、それが先の一言に繋がったのだ。
「ツルちゃんも来れれば良かったのに」
「彼女は仕方ありませんよ、スペちゃん。聞けば合宿も来るには来るそうですけど全日見学のみと聞いてますし」
「ツルちゃんはなぁ……。下手に連れて来たら来たで麓でダウンしてるだろうしまぁ残当だよね」
「その代わりお土産とかいっぱい買うって約束したじゃない。ほら、写真も撮りましょ。せっかくの貴重な体験なんだもの。楽しまなきゃ損よ」
「キングの言う通りデース! ツルちゃんにいっぱい見せましょう!」
スペシャルウィークの言葉に感化された仲間達は皆で集まり富士山登頂への計画を立てた。例年通りであれば7月の始めに富士山の登山シーズンが始まる。ちょうどそれは、ウマ娘のレースでは日本ダービーや宝塚記念といった春のレースが終わって一区切り着く頃合いである。7月から8月までが丸々合宿で予定が埋まる彼女達にとっては僅かに空いた隙とも呼ぶべき期間であった。この期を逃すまいと各々はトレーナーを説得して機会を獲得した。とは言っても実はまだメイクデビューすら済ませていない有精卵達。本格的にレースに打ち込むのは来年以降になる。合宿も各々のトレーナー達が管理するチームの中では比較的まだ緩めな練習が設定されていた。
「あれ、なんだろ。あそこって入っちゃいけないのかな」
「どうしたの、スペちゃん」
「ほら、あそこのちょっと高くなってるところ。規制線が張られてるよ。……それに、骨?」
「ありゃ? スペちゃんは知らないのかな?」
「ああ、そこはあれね。たまに降りてくる場所って聞くわね」
「スペちゃん、もしかして本当に知らないんデスか?」
「ええと、ちょっと分からないかも……」
「ほら、ずっと昔から空を飛んでる生き物がいるっていう話よ。学校で習わなかった?」
「ああ! それなら聞いた事ある! 確か昔は星だと思われてて、すっごく綺麗な赤色で飛んでるんだよね」
「あそこはそいつがたまに降りてくるところなんだよ。色んなところから獲物を捕まえてきて食べる場所なんだけど、高い山の上にしか降りないんだ。あそこで散らばってる骨は食べ残しだね」
「はぇ~……。知らなかった~」
「一応刺激さえしなければ危険は無いっていう話だから、もし今ここで来ても近づかないようにね」
スペシャルウィークはまじまじとそこを見る。山頂とは別に妙に綺麗なすり鉢状の地形になっている箇所は獰猛なイメージを持たれる生物の縄張りとは裏腹に区画され整備されていた。
スペシャルウィークがあれこれ質問しているのを傍らにセイウンスカイは空を仰ぎ見る。青雲、つまるところ自身の名前そのものである景色はセイウンスカイにとって見慣れていて、けれど飽きることの無い景色だった。
おもむろに背負っていたリュックを下ろしてその場で横になる。ゴツゴツとした岩肌がセイウンスカイの体に相応の圧力をかけるがその程度の痛痒など今のセイウンスカイは歯牙にもかけなかった。
見渡す限り満天の蒼。
如何に映像技術が進歩したとしても、こればかりは日本最高峰に到達した者の特権である。
いつしかあれやこれやと雑談に興じていたスペシャルウィーク達も、セイウンスカイと同じように地面に寝転がり同じ景色を共有していた。
「……良い景色だね~」
「言葉が……出ないよね」
「なんかこう……スゴくスゴいデース!」
三者三様、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、エルコンドルパサーが感想を漏らす。キングヘイローとグラスワンダーはその様子に応えることなく、しかし同じ想いを共有して空を見上げていた。
「ん……?」
異変に気付いて声をあげたのは誰だったか。
一点の濁りもない蒼穹にいつしか黒点が見えた。それは徐々に移動し高速で動いているように見える。
「ねぇ、みんな、あれって……」
"あれって何なのかな"とスペシャルウィークが続けようとしたところで気づけばそれは、轟音と風圧と共に区画された規制線の中に降り立った。
誰も声を出せなかった。
恐怖はある。けれどもそれ以上に神秘さが勝った。
鉛のように黒光りした体躯。赤く明滅する胸。深紅の龍気を漏らす翼。
後に黄金世代と謳われる五人のウマ娘の前に、天彗龍バルファルクが姿を現した。
────五匹か、この時期のここは少ないな
富士山頂に降り立ったバルファルクは簡素にそう思った。
足元には近海から獲ってきたイルカが力無く横たわっている。何の変哲も無いいつもの生態、ただの食事である。
バルファルクの縄張りは世界規模に渡る。より正確に言えば世界中を飛行してその場で見つけた適当な地域で標高が高い場所がバルファルクの縄張りとなるのだ。常識を越えた埒外の移動能力を持つバルファルクのみが持つ特権である。遮る物が無い空にわざわざ線引きをして縄張りを決めるような真似はバルファルクの常識には無かった。
バルファルクが持つ他者との認識は極めてシンプルであり明快である。即ち自分か、それ以外か。
いつ頃から生きているか数える習慣を持たないバルファルクではあるが、"ここ最近"地上の二本脚の生き物をよく山頂で見かけるようにはなったというくらいには覚えている。今日のように五匹程度なら兎も角、過去に一度数えるのもバカらしい数に囲まれて、その内の一匹がやたらに眩しい閃光(カメラのフラッシュ)を発するものだから、驚いて翼を振り回して彼らをなぎ倒したことがある。何やら騒々しくわめいていたが、それ以来山頂で彼らを見かけることは少なくなり、いても今日のように少人数であまり気に障ることはなくなった。
今日もまた、遠目から二本脚がこちらを観察している。何も無ければ、無視してイルカを捕食してそれで終わりだ。
「~~~……!!!」
「…………!」
遠巻きに二本脚の鳴き声が聞こえる。どうも五匹の内一匹が興奮しているらしい。視覚は当然として、聴覚も優れているバルファルクは、食事を続けながらもしこちらに来るようであれば風でも吹かして脅かしてやろうと五匹に一瞥もせず考えた。
「『キングの言う通りだよスペちゃん。びっくりするのは分かるけど、今は静かにね』」
────そうそう、そうやって言葉で制してくれれば……
────はて?
────今
バルファルクが食事を止めて五匹の方を見る。よく見るとどれも違う色の皮を纏っていて見かけの区別が付きやすい。どれも若いメスだろう。その内の一匹、頭が白く見える個体が発するそれは……。
「『え……。なんでこっちを急に見たの……』」
「……。……!」
「~! ……」
「『そうだね。何かめちゃくちゃ見てくるし危ないことにならない内にさっさと帰ろうか』」
おかしい。
声を発する様子は他四匹と大差無い。だというのに白頭の鳴き声だけ『言葉』として理解できる。
────何故二本脚が"我ら"の言葉を話している。いや……? "我ら"とは何のことだ……?
親もおらず、自我を認識したその時から知らぬうちに言語的思考を獲得していたバルファルクにとって、他者の言葉を理解するという経験は初めてのことだった。
食事をするのを忘れてバルファルクは彼女達に歩み寄る。規制線が張られた先をやすやすと踏み越えて行く中、黄金世代の五人はろくに動くことができなかった。
建前として急に逃げては刺激してしまう、ということだったり、そもそも荒れた山道ではウマ娘特有の快足を活かせないということはある。ただ最もらしい事実を述べるのであれば、バルファルクが持つ存在感に圧倒されていただけであろう。
バルファルクが白頭────セイウンスカイの前で停止する。空よりなお蒼い双眸の眼差しにセイウンスカイはただ立ち尽くすことしかできない。他四人はただそれを見ていることしかできなかった。バルファルクの口は人一人を優に飲み込めるほどの大きさはある。次の瞬間、もしかすれば惨劇が起きかねない事態に誰も理性的な行動がとれなかった。
バルファルクは一通りセイウンスカイを見たあと少し匂いを嗅ぎ、そうして
『貴様、なぜ俺の言葉を話せている?』
「『え……』」
『なぜ話せるのか聞いているんだ』
「『え、なに……? なんか鳴いてる?』」
バルファルクは愕然とした。セイウンスカイの様子を見る限り、どうも言葉が通じていたと思っていたのはバルファルクの方だけでセイウンスカイはバルファルクの『言葉』を理解できていなかったのだ。繰り返しバルファルクが語りかけるもやはりセイウンスカイにとっては意味の無い鳴き声に過ぎないらしい。
バルファルクが心理的衝撃を抱えている間セイウンスカイは仲間の呼び掛けに応えゆっくりと後退りしそのまま反転した。見れば四人の仲間達が静かに、けれども確かな足取りでセイウンスカイを先導するかのように山道を下っていく。不思議な行動をしたバルファルクが気になったが振り返らず山道を下りようとセイウンスカイは足を進めた。
「ねぇ、まだあれ着いて来てるんだけど……」
セイウンスカイ達五人が富士山を降りようと五合目まで下ったところ。
富士山は五合目までであれば規制等もあるが車で行ける。黄金世代五人はトレーナーや実家に頼んで五合目まで車で送ってもらい指定の時間までには五合目に戻るという計画を建てていた。予定よりかなり早いがバルファルクに遭遇した上接近されるというトラブルに遭った以上早めに切り上げるのはおかしくともなんともない。
困ったのはバルファルクが歩きながら下る五人をつけ回していたことだった。7月始めで少ないとはいえ他の登山客はいる。道中他の登山客に奇異の目で見られながらも五合目付近にまで来た五人だがこのまま五合目の駐車場まで入っていいのか悩んでいた。
「どうしよう……。このまま中に入ったら絶対騒ぎになるよね」
「どうして着いてきてるのかしら……」
「っていうか、あたしに着いて来てるのかなあれ」
「明らかにセイちゃんに興味があるみたいデスヨネ~」
「警察とかに通報して何とかなりますかね……」
五合目の登山口で固まる五人だが後方、おおよそ100mほどの位置にバルファルクはいた。五人、というかセイウンスカイの様子を気にしながら、他全てを無視するようにそこにいる。
そうして五人が色々迷っている間徐々に見物人の数が増えていった。始めは登山道の脇を通りすぎる程度だったのが登山口の出入口付近で人が集まるようになったのだ。これでは通行の迷惑になってしまう。
セイウンスカイは己のせいでこうなってしまっているのではと自罰的な考えを持ち始めたころだった。突如として突風が舞う。発生源は先ほどまでバルファルクがいた場所。見ればバルファルクはいなくなっており空に深紅の流星が輝いている。セイウンスカイら五人は預かり知らぬ話ではあるが、人が増えてきたのを嫌ったバルファルクが退避しただけであった。
こうして黄金世代五人はようやく安堵して帰途に着くことができ、バルファルクの不思議な行動は翌日に全国紙の一面を飾ることとなった。
二ヶ月後。
富士山登頂からしばらく経つ頃、セイウンスカイはターフでのトレーニングに精を出していた。
セイウンスカイは同期の中で時折サボることがあるとはいえレースに対しては真面目な方ではある。将来ぶつかるであろう同期達五人を見据えてトレーナー監修の元、励んでいる。
最近のセイウンスカイは少し不調ではあった。理由はあのバルファルクとの遭遇である。接近してきたあの時、実は何かを語りかけていたんじゃないかと日に日に悩むようになった。友人達と過ごす時はおくびにも出さないようにしていたが、こうして走り込む時スタートからゴールまでぼうっと考え込む癖がついてしまっていた。
「スカイ、今日はここまでにしよう」
「はいはーい。……どうしたんですか、トレーナーさん。いつもならもうちょい頑張ろうかぐらい言いますよね」
「いつもの君ならからかい混じりに手を抜くでしょ。でも今の君は全然走りに集中できてないからさ」
「あー……。やっぱ分かります? そういうの」
「悩み事なら力になれる範囲で相談に乗りたいんだけどね。人に話してどうにかなるものかい?」
「いや……。たぶん無理かな~」
流石に、トレーナーには見抜かれる。とはいえ元凶が元凶なので話し辛いのもまた事実なのだ。友達と富士山へ登りに行ったらバルファルクに遭遇して話しかけられました、なんてどこをどう考えてもおかしいとしか思われない。少なくとも、セイウンスカイは、思慕と敬愛が入り交じった想いを抱く相手に悩みの種を話そうとは思わなかった。
(トレーナーには悪いけど、こういうのは時が解決するものだと思うんだよね~)
悩んでいる当人でありながら、悩みそのものは楽観的に考えられるのはある意味セイウンスカイの個性なのかもしれない。
時が過ぎれば、というのは悩み事の解決方法としてごく一般的なものである。少なくともセイウンスカイであれば、これから先クラシック路線を考えトレーニングに打ち込んでいる内に忘れられるだろう。
ただしその考えは
『見つけたぞ』
突如として突風と轟音が鳴り響く。
何かが近くに勢いを付けて降り立つ。その風圧にヒトより強靭なウマ娘であるセイウンスカイはギリギリ耐えられたが、トレーナーが軽く吹き飛ばされてしまっていた。
襲いくる衝撃と風圧にセイウンスカイは既視感を感じた。いや、既視感を感じるどころの話ではない。何せ目の前に、富士山山頂でもない芝生の上で、あの黒光りする巨体が赤い気配を滾らせていたのだから。
「『え……。なにこれ……。夢じゃないよね』」
『貴様の言う夢というのはよく分からんが、やはり他の二足共と違って貴様の言葉は分かるようだ。尤も俺の言葉を貴様が理解できないのは面倒ではあるが』
「『や、やっぱり何か話してる……?』」
『ほう。理解できていないなりに俺の意図を感じとれるわけか。それなら話は早い』
バルファルクは可能な限りセイウンスカイに頭部を押し付けしっかりと双眸を合わせた。
自身の目と同じ色、蒼穹の眼に。
前よりもはっきりと、目は口ほどよりも雄弁に。
セイウンスカイはと言えば押し付けられる頭部にかろうじて立っていることしかできない。
何よりも見つめてくるその目が、"声"は理解できなくとも強烈な意思を示していた。
空色の瞳が、互いを映している。
『何故貴様が俺の言葉を話せているか、それが分かるまで俺は貴様の側に居よう。俺の目からは、"逃れ"られぬと思え』
「『ははは……。何とか"逃げ"られないかなーこれ……』」
微妙に噛み合っているような、噛み合わないような会話とも言いづらいやり取り。
この後セイウンスカイ目当てにバルファルクが中央トレセンに居座るようになり一つや二つでは済まない程の騒動が巻き起こることとなるが、それはまた、別のお話。
短編で久方ぶりに書き起こしてみたけどもし反響があったら続けます。