セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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書いてる内にタイトルやプロットが変わっていく現象に名前を付けたい


鎮め戦け、戦禍は遠く

 

 

 

 

 

 

 バルファルクと黒い龍が衝突する少し前。

 神社がある山の頂上から黒い龍を見下ろす者がいた。

 

「まさかこの時代になって新たなヒトと龍の物語が紡がれるとは」

 

 見下ろす者────赤衣の男は興奮した様子で眼下を見下ろす。

 

「多くの龍が絶えて以降、ヒトがこの地上で繁栄したが、しかし覇者と呼ぶにはまだ遠い」

 

「さぁ、新たな絆よ。巨大な戟にどう立ち向かうか……たっぷりと楽しませてくれ!」

 

 赤衣の男は不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルファルクは過去最高に苛立っていた。

 

(この前もそうだった。変に俺から離れようとすると知らん龍の気配が揉め事を呼ぶ)

 

『そんなノロマな攻撃、当たるか!』

 

 ────オマエ、ウットウシイ! 

 

 黒い龍が上空のバルファルクを撃ち落とそうと熱線を乱射する。だがどれも当たらない。史上最速の機動力は伊達ではないのだ。

 

 返す刀でバルファルクは熱線の隙間を縫って黒い龍に肉薄し槍翼で黒い龍を斬り付ける。しかしバルファルクも黒い龍を相手に攻めあぐねていた。

 

(なんだ、この甲殻でもなければ鱗でもない粘り気は。気持ち悪いことこの上ない)

 

 バルファルクが攻撃する度に黒い龍から漏れた重油のような液体が纏わりつく。自慢の速度で無理矢理振るい落とせるのだが、攻撃する度に絡まれるので一々振るい落とすのにも難儀していた。

 

(まずいな。このままではジリ貧だ)

 

 戦闘は総体的に黒い龍の方が有利だった。

 セイウンスカイの意図を理解しているバルファルクはこれがユクモ村を守る防衛戦だと分かっていた。バルファルクは攻撃を完全に避けていて負傷など一切無いが、黒い龍もまた、どれだけ攻撃を受けようともその歩みを止めることはない。最初に直撃させた遠方から不意打ち気味に食らわせた突進で何とか距離を稼げたのが今のところのバルファルクの戦果である。同じようにもう一度最速の突進を喰らわせたが、あれは不意打ちだから成功したのであって、黒い龍も同じ攻撃が来るなら六足でがっしりと大地を掴み吹き飛ばされないよう耐えられていた。

 ジェット運動の応用で槍翼の噴出口からエネルギー弾を当てても効果が薄い。痛痒は感じているようなのだがやはり質量を伴った攻撃でなければ黒い龍を止めるのに足りなかった。

 

(せめてもう一度、さっきの突進を無防備なこいつに当てられればいいのだが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『せめてもう一度、さっきの突進を無防備なこいつに当てられればいいのだが……』

(え?)

 

 セイウンスカイとトレーナーはユクモ村に戻るルートの離れた位置から二頭の戦いを見ていた。黒い龍が散発的に熱線を発射しバルファルクがそれを避ける。しかしその間にも黒い龍がゆっくりとだが着実に進むので二人揃って汗を滴らせていた。

 

(声が聞こえる……)

「スカイ、早くここを離れよう。いつ巻き込まれるか分からない。どうしてバルファルクが来てくれたかは分からないけど、彼じゃダイダラボッチを止められない」

「わ、私が呼んだんです……」

「え、スカイが?」

「えっと、この指輪に祈ったら"繋がった"感じがして……」

「……何もこんな時じゃなきゃ喜べたんだけどな」

「それと……バルファルクの"声"が聞こえるんです!」

「声?」

「今ならはっきりと分かるんです。指輪を通じてバルファルクの思念が伝わってくる……」

「バルファルクは何て言ってるの?」

「最初の突進がもう一度出来ればって……何とかして気を逸らせばさっきみたいに吹き飛ばせるみたいなんですけど……」

「お嬢さん、やつの気を逸らせばいいんだな?」

「おじいさん!?」

 

 二人が逃げるために殿(しんがり)を務めようとしていた老人。どうやらバルファルクと黒い龍が戦い始めた時点で退避していたようだった。

 

「事情はよく分からんが……あの飛び回ってるのがユクモ村を守ろうとしてくれてるんだろう?」

「そうなんですけど、このままじゃジリ貧で……」

「そしてお嬢さんは巫女さんとおんなじように話せると。なら一言伝えとくれ。合図したらさっきみたいに突っ込めとな」

 

 二人が何をするか問う間もなく老人は年齢を感じさせない身軽さで颯爽と山の中へ消えていく。

 セイウンスカイはどうにでもなれ、と今度は指輪に意識向けた。

 

『バルファルク? 聞こえてる?』

『ん? セイウンスカイか。こっちは今手が離せんが……待て、なぜ貴様の声が聞こえている?』

『コツを掴んで君の声が分かるようになったんだけどその話は後回し! さっきの君の声聞こえてたんだけど、要するにあいつの気を逸らせればいいんだよね?』

『それはそうなんだが……何でまたこんな時に限って貴様は俺を振り回すんだ!』

『振り回されてるのはこっちも同じだよ! とにかく、こっちで何とかあの黒いやつの気を逸らすから、合図したら同じ攻撃で突っ込んで!』

『了解した。……事が終われば全て聞かせてもらうぞセイウンスカイ!』

 

 実のところセイウンスカイも老人が何をするのか全く分かっていない出たとこ勝負なのだが、今回ばかりは天秤がセイウンスカイ達へ傾いた。

 バルファルクが先ほどと同じ突進を当てるために一時的に距離を取る。同じ攻撃が来ると身構えていた黒い龍であったがその左目が突如として激痛と共に閉ざされた。

 

 ────!?!?!?!? 

 

 激痛にのたうち回る黒い龍。残った右目で周囲を見渡してみれば左目の方角から、ポツンとあの老人がイタズラが成功した子供のような笑顔で猟銃を構えていた。

 

「いくら体が丈夫でもな、目ン玉抉られたら痛いだろ」

 

 何をされたか分からないが、黒い龍は怒り任せにその砲口の如きアギトを老人に向ける。熱線で老人諸とも目の前の風景を焼くつもりの黒い龍だったがそれより早く、横合いからバルファルクの突進を無防備に喰らった。

 

『貴様の相手は、俺だろう?』

 

 またしても大きく吹き飛ぶ黒い龍。吹き飛ばされた先にはあの硫黄の噴出地があった。

 ちょうど良い。ここにある程度の硫黄では腹を満たすのに足りないが、空きっ腹のまま戦い続けるのも酷である。そう考えた黒い龍は、硫黄丸ごと大地を飲み込もうと地面に口を向けるがその地面がやけに湿っている事に気が付いた。

 

「その弓……そんな使い方ができるんだ……」

「"記憶"が全部教えてくれるので!」

 

 矢をつがえたセイウンスカイがあの金色の弓を黒い龍に向かって射っていた。矢に実体は無く指輪から溢れた龍属性が弦に触れることで矢の形になっている。そうして放たれた矢は黒い龍そのものではなくその上空へと向かっていった。黒い龍の真上で四散したそれはその場で極めて局所的な豪雨を引き起こす。

 黒い龍からすれば雨に打たれたところで何も意味は無い。だがセイウンスカイの狙いは別にあった。

 

『バルファルク、足元を狙って攻撃して! 今なら地盤がゆるんでる!』

『次から次へと……一体貴様は幾つ驚かせば気が済むんだ!』

 

 セイウンスカイの狙い通りぬかるんだ地盤にいる黒い龍はまともに進むことが難しくなっていた。草木が無い山というのは存外崩れやすい。植生そのものが根を張ることでまるで強固な鉄筋コンクリートのように骨子を形成するからだ。硫黄のおかげでそれがろくに無い地形では踏ん張りが効かず、暴れる度に黒い龍はぬかるみにハマっていった。

 

「『よし、良い調子!』」

『このまま殺してしまえばいいのか?』

『……あんまり殺すとか言いたくないけど……放っておいてもまた同じ事が起きるだけだよね』

『当たり前だろう。互いの生きる都合をぶつけ合ってそれでどちらかが死ぬ。俺とていくらでも繰り返してきた理屈だ』

「バルファルクはなんて?」

「このまま殺していいのかって。……正直仕方がないと思いますし、そう思うのも傲慢だと思ってます」

「嬢ちゃんは優しいなぁ。世の中いくら優しくしたってどうしようもないやつはいる。あのダイダラボッチのようにな」

「おじいさん……」

「命懸けてんだ。善いも悪いもありゃしねぇよ。仮にあったとしてもだ、腹の底まで呑み込んで、お天道様の下歩くしかねぇんだよ。傲慢だ、罪ってのは人間しか思いつかないからな」

 

 老人の含蓄ある言葉に思わず沈黙するセイウンスカイとトレーナー。だがその沈黙を黒い龍は許さなかった。

 

 ────オマエラ、イイカゲンニ、シロォォォ! 

 

 黒い龍が翼脚を広げていく。どうみても朽ちているはずの翼だが、しかし翼膜はあった。漏れ出る重油の性質も変化している。全身から煙を上げ甲殻や鱗と共に鎧として形成されていた重油は熱を持ち膨張するようになっていた。

 

「嘘だろ、あの巨体でまさか飛べるのか!?」

『バルファルク! 飛ぼうとしてるけど、足で踏ん張れない分、さっきの突進が有効なはずだよ!』

『いや、待て。様子がおかしい!』

「ありゃいかん! おまえさん達、早よ逃げな!」

 

 黒い龍が先ほどまでいた地面に熱線を放つ。元より大規模な爆発を起こす黒い龍の熱線だったが硫黄と反応することによりキノコ雲を作る程の爆発を引き起こした。

 慌てて距離を取る三人。離れていても耳をつんざくような衝撃に一同耳を抑えてしゃがんでいた。

 

『セイウンスカイ!? 無事か!』

『痛てて……。耳がキーンとする……。こっちはケガとか無いよ。耳が痛いぐらい……』

『それは、無事と言えるのか?』

『こっちよりもあの黒いやつを気にしてよ……あいつはどうなったの?』

 

 セイウンスカイに諭されたバルファルクが爆発地点を見る。粉塵が舞っており動きを確認することができない。相手の出方が分からない以上無闇に突っ込むのは躊躇われた。

 中々晴れない粉塵に業を煮やしたバルファルクが槍翼の噴出口を粉塵に向けて突風を巻き起こす。やっと晴れたそこにはいたはずの黒い龍の姿が忽然と消えていた。

 

『……まさか、逃げたのか?』

 

 

 

 

 

 黒い龍は粉塵を隠れ蓑にあの大穴へ引き返していた。

 邪魔された事に怒りこそ感じるがそもそもの目的は敵対者の殲滅ではなく食料の確保である。ヒトの住み家がそういったものを貯め込んでいると学習していた黒い龍であったが、ここまで苛烈な抵抗を受けては費用対効果(リスクとリターン)が釣り合わない。何もヒトの住み家にしか無い訳ではないのだ。ここら一帯を掘り返せば奴らと戦うよりかはまだマシな労力で食料を確保できるだろう。住み家を襲うよりちょっとばかし時間がかかるくらいである。

 

 そう考えた黒い龍は間もなく大穴に到達し、降りようとしたところで黒い龍を衝撃が襲う。またも進路を邪魔された黒い龍は苛立ちながら周囲を見渡すと餌の臭いがする奇妙な長い何かをこちらに向けて動く物体が山の中から隠れるように顔を覗かせていた。

 

「初弾命中! 同一諸元、効力射!」

 

 黒い龍が知らない何か、それは黒い龍が何百年と寝ている間に人間が発明した戦争の最高傑作の一つ────戦車である。日本の最新鋭主力戦車(MBT)である10式戦車は傾斜装置を駆使し、運用が難しいとされる地形でも森林を活用したゲリラ戦術で黒い龍を相手に猛威を奮っていた。

 

「全く。あのお姫様はとんでもないもん起こしてくれたな。まさかゴ○ラと戦う羽目になるとはね。出演料はいくらかな」

 

 戦車隊が奮闘するのとは別に遠くから観測装置を使って黒い龍に照準を当てている者達がいる。セイウンスカイが旅館で見かけていた護衛任務に従事していた者達。正体は自衛隊の特戦群である。影ながらセイウンスカイの身辺警護に務める彼らはセイウンスカイらの道中を尾行しており勿論セイウンスカイが訴える都市部における人間への加害性についても聞いていた。情報元が真偽定かでないセイウンスカイの"記憶"からだったため一時混乱を生んだが迷わずユクモ村に向かおうとする黒い龍を見て有事と判断、迅速な戦力配備が行われたのであった。

 

 ────オマエラ、タベテヤル! 

 

 戦車からの榴弾で重油に引火し炎上する黒い龍。黒い龍の性質を見抜き徹甲弾ではなく榴弾での砲撃に切り替えたのは一重に特戦群の慧眼であった。

 苛立ちを隠すことも無く一つの戦車に目を付け突進する黒い龍。戦車より遥かに巨大でありながらそれを凌駕する機動性に面食らう自衛隊であったがそれより早く再び赤い彗星が黒い龍を弾き返した。

 

『なんだ、ヒトの"へいき"とかいうのも存外対抗できているではないか』

 

 バルファルクは戦車隊の奮闘に感心していた。基本的に"強さ"において人間とは格下の存在であると認知していたバルファルクにとって戦車の活躍は新鮮であった。もし敵対すれば当たることはまずないが、当たれば死にはしなくてもケガは免れないだろう、という評価に人間の兵器を上方修正していた。

 

「えぇ!? 戦車が来てるの!?」

「うわ……映画でも見れないぞ、こんな光景」

 

 とうとうセイウンスカイ達も大穴付近へ追い付く。

 進めばセイウンスカイやバルファルクに邪魔をされ、戻れば戦車隊の砲撃に止められる。黒い龍はここにきてようやく食事を邪魔される怒りではなく純粋な生存本能から殺されるかもしれないという恐怖を感じ始めていた。

 

 ────ナンデ? タベタイダケナノニ

 

『貴様はそう思うだろうな。俺も以前は貴様の考えとそう変わらない生き方をしていたよ』

 

 ────ナラ、ナオサラ、ドウシテ

 

『そりゃ、ただ生きるよりも大事な者が出来たからな』

 

 チラリとバルファルクが黒い龍に促すようにセイウンスカイに目を向ける。黒い龍はここで始めてセイウンスカイの言葉が聞こえるという事実を認識した。

 

 ────ア、ア……

 

『どうするかは貴様次第だ。"話が通じる"という意味をその足りない頭で考えてみろ』

 

 バルファルクは攻撃しなかった。いつの間にか戦車隊の砲撃も止んでいる。

 黒い龍はゆっくりとセイウンスカイの方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って! みんな攻撃を止めるよう言って下さい!」

 

 セイウンスカイは目敏く見つけた特戦群の隊員に攻撃を止めるよう願った。トレーナーはもちろん山をよく知る老人ですら見つけられなかったレンジャーを見つけた事にレンジャー自身が驚いたがそこはプロ、冷静に無線で各方面にセイウンスカイの言伝を伝えていた。

 

 セイウンスカイもまた黒い龍の方へ向かう。バルファルクは上空でホバリングするように待機しており戦車隊もまたいつでも砲撃できるよう準備している。

 大穴の淵、かつて村があった痕跡すら無いその場所でセイウンスカイと黒い龍は相対した。

 

 

 

 

 

「『ねぇ。伝わってきたんだ、君の気持ち。最初は怒ってばかりだったけど、今は凄く怖いでしょ?』」

『シニタク、ナイ』

「『そうだよ。みんなそう思うんだ。君は昔ここで暴れたみたいだけど……君が暴れた村に住んでたヒト達も同じ気持ちだったと思うよ』」

『ドウスレバ、イイ?』

「『君が他のヒト達……生き物を殺さなければいいんだ。難しいかもしれないけど、私達だって死にたくない。だからこうやってぶつかるんだ』

『デモ、タベナイト、シヌ』

「『そうだね。だから今はじっとしててほしい。君がごはんを食べられるように私が色んな人に言ってみるよ』」

『ソレデ、タベラレルヨウニ、ナル?』

「『なるよ。痛い思いしなくても、お腹一杯にしてあげられるからね』」

 

 セイウンスカイが黒い龍に優しく触れる。

 砲撃のおかげであちこち炎上した体に重油は残っておらずまるで青銅器のような真新しい甲殻や鱗が露出していた。

 黒い龍にもう戦意は無い。そればかりかセイウンスカイに甘えるように地に伏せ顔を寄せようとする。それが気に食わないバルファルクが地面に降り立ち槍翼で黒い龍の頭を小突くような一悶着があったがそれはそれ。ふざけた一幕に張り詰めた雰囲気が弛緩していく。

 

 結末は呆気なく、黒い龍はセイウンスカイの説得の元、静かに佇むのであった。

 

 

 

 

 




当初ゴクマジオスは討伐させる予定でした。しかしここはウマ娘の世界、基本平和なこの世界で人はもちろんの事モンスターであってもセイウンスカイの前で誰かが死ぬ場面が発生するのはどうかと思い何度も練り直しました。
ここまでご愛読ありがとうございます。これで一区切りのつもりですが今後とも連載していきますので何卒よろしくお願いします。
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