セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、いつもご愛読頂き誠にありがとうございます。
今回は敢えて説明せずにいたタマモクロス周りの回となります。


チーム:イナズマ

 

 

 

 

 

 

「ガァ~」

「……貴様、割と現金な性格なんじゃないか?」

「ガ?」

 

 訓練所にて。

 本来なら未来のハンターを養成する闘技場の一角。そこに収容されたドラギュロスは暢気に欠伸し、それを見ていた教官は毒気が抜かれたようにため息をついていた。

 

 

 

 

 

 冥雷竜ドラギュロス。

 それが今回雪山近郊に現れたモンスターである。

 ギルドへの問い合せにより正体が判明したモンスターであったが、ギルドは蜂の巣をつついたような騒ぎを起こしていた。

 ポッケ村のギルドは元を辿るとドンドルマ管轄であり、ドンドルマではドラギュロスの狩猟を認可していない。ドラギュロスを狩猟できるのは魔境と名高いメゼポルタギルドであり、緊急事態とはいえ管轄外のモンスターを捕獲してしまった手続きでポッケ村ギルドはてんてこ舞いになっていたのだ。

 おかげでタマモクロス達によるエリア外での活動は見過ごされ、結果としてお咎めなく村に入ることが出来たのだった。

 

 

 

「改めて、タマモクロスや。さっきはありがとうな。こっちのキリン装備は……」

「オグリキャップだ。先ほどの救援、本当に助かった」

「礼はいいぜ。ハンターなら困った時はお互い様だ。エリア外にいたのは気になるが……」

「それを話すと海よりも深い事情があるんや……」

 

 スタンダード邸ではタマモクロスとオグリキャップがこれまでの経緯を一同に話している。アグネスタキオンの見立て通り、彼らよりも早くこの世界に来たようで、ウマ娘としての先輩ハンターである二人の話をジャングルポケットは目を輝かせて聞いていた。

 

「ウチらはジォ・ワンドレオから来たんや。たまたま放り出されたところが湖の真上やってん。そのまま水にドボン、ってな」

「へぇ! ってことはあれか、本家本元の双剣使いって訳か!」

「本家本元?」

「ジォ・ワンドレオは双剣発祥の町なんだよ。俺も一度行ったことあるが、かなりでかい交易拠点だぞ。湖の上に木の足場を浮かべてそこに建物を建ててんだ。他じゃ見ない光景してて面白いんだよ」

「よう知っとるな。ウチらはまぁ、そこで順当にハンターやってたんや」

 

 空から現れた二人は大層注目を集めたらしい。飛竜か何かに連れ去られ、たまたまジォ・ワンドレオに落ちたのではないか────特にその日ジォ・ワンドレオ周辺にモンスターは確認されていないが────そういうことにしておこう、ということで二人は出自を誤魔化しハンターとして生計を立てていくことになった。

 

「大変やったで。最初はランポス一頭狩るのもままならんし、オグリの食費でゼニーが飛ぶわで……」

「狩場なら元手ゼロで肉が食べられるから最初はアプトノスを狩りまくっていたな……」

「アプトノス狩り過ぎて、一時期イビルジョーが出たんやないかと勘違いされてたなぁ」

「た、タマ! その話はいいだろう……!」

「まぁそんなこんなでハンターやっとるうちに、あのキリンに会うたんや」

 

 幻獣キリン。

 古龍として比較的名は知られてはいるものの、幻獣の異名が指すように目撃例が極端に少ない古龍である。多くの気候に適応出来る性質を持ち、雪山や火山といった極端な環境に出没する。個体数の少なさとあまりにも広範な生息範囲が目撃例の少なさに由来しているだろう。

 近年になって、新大陸の古龍調査隊により他のモンスターとの力関係も調べられている。古龍ではあるものの、その角がラージャンにとっては垂涎の的らしく両者の力関係はラージャンに軍配が上がるようだ。

 古龍らしく雷を操る能力を持ち、出現した地域の天候を変える支配力も持つが────。

 

「雷……降ってませんね」

「そこはあれや、あいつがちゃんと気を利かせてくれてんねん。口を開けば文句ばっかしやけど、根っ子はええやつなんやで」

「人間に配慮する古龍かよ……今までの常識が覆されてくぜ」

 

 タマモクロス達と行動を共にするキリン────イカズチは流石にポッケ村には入れないので外で身を潜めている。何でも雷雲を起こすかどうかは完全に気分の問題らしく、こうして人間の害にならないよう力を加減してくれているのだ。

 

「びっくりしたで。古龍は上位やないと戦えんもんやと思ってたからな」

「あー、そこはケースバイケースだな。ほとんどの古龍は上位からだが……力量次第じゃ撃退に絞って下位から受注できる場合がある。あとキリンはあれだ、古龍全体の中じゃ今一つ格っつうか強くねぇんだよな。滅多にキリンのクエストがあるわけじゃねぇが、運が良ければ挑めるはずだぜ」

「そう、それや。こっちで初めて会えた古龍がキリンなんや。話聞きたくて密林に行ったら……もうボロボロでおったわけや」

 

 比較的極端な環境を好むキリンにしては珍しい密林での依頼だったらしい。どういうことかと現地に行けば、ラージャンに追いかけまわされて這う這うの体で体を休めていたのがイカズチだったという訳だ。

 

「マジか。ってことは……」

「せや。キリンじゃなくてラージャンのクエストになってもうてん。追いかけてきたラージャン相手に共闘したんやで」

「死ぬかと思った……もう二度とあの金色は見たくない。ドラギュロスも大変だったがラージャンの方が危なかった」

「下位でラージャンなんて軽く百は死ねるだろうに……」

「ねぇ、タキオンちゃん。ラージャンってそんなに危ないの?」

「危ないなんてもんじゃないさ。ラージャンもキリン同様目撃例が少ない生物だが、その由来は"超攻撃的生物"と呼ばれるほどの攻撃性によるものだ。ラージャンに見つかる、ということは死を意味しているに等しいね」

「でも、おっさんはラージャンの防具持ってるよな!?」

「まぁな……俺も正直に言えば、そう何度も相手にしたいモンスターじゃねぇ。能力を使ってくる古龍は対策できりゃ少しは楽になる。だがラージャン相手だと純粋なフィジカル勝負になるんだ。しかも俺は大剣だからな、真っ正面からのガチンコバトルだぜ。古龍よりもきつい相手だったなぁ」

 

 大ベテランたるガジルですらもこの評価である。ある程度成熟したハンターにとって、古龍級の代表格たるラージャン、イビルジョー、バゼルギウスの三種は下手な古龍よりも危険な存在として認知されているのだ。

 

「で、その後どうしたんだ。まさか討伐までいったんじゃ……」

「それがなぁ、いけたんや、討伐」

「マジかよ。どう考えても下位装備で勝てる相手じゃないだろ。キリンの援護があったとしても一撃貰ったらお陀仏だぜ」

「エスピナスのおかげや。そいつが近くで寝てたから、寝てるところにラージャンを突っ込ませたんや」

 

 棘竜エスピナス。

 深緑に溶け込む濃い緑色と、薔薇を思わせるトゲを全身に生やした飛竜である。上記三種と同様、実力は古龍級と見なされているモンスターではあるが危険度はずっと低い。ほとんどの活動を睡眠に費やしており、餌もカンタロスなどの甲虫類かガスガエルの仲間を捕食するくらいで食い荒らしたりもしない。

 激怒すれば大変な暴れん坊になるが、刺激しなければ狩猟する必要性は無いと判断される温和なモンスターであった。

 

「密林にいたエスピナス、後から聞いた話だがG級の個体だったんだ。キリンやラージャンがいるのに堂々と昼寝していて……」

「悪いとは思ったんやけど、背に腹は代えられんからラージャン誘導してエスピナスにぶつけてな、そっからはもう大怪獣バトルやったなぁ……」

 

 上位ラージャンVSG級エスピナス+タマモクロス・オグリキャップ・キリン。

 世にも奇妙なマッチアップが密林において成されてしまった。

 

「戦力的にはこっちが勝っとるんやけどラージャンがとにかく早いんや。エスピナスはあいつの足について行けへんから、ウチらで撹乱してなるべく注意が向かんよう立ち回ったで」

「最後はエスピナスの毒に蝕まれて動きが遅くなったラージャンにみんなで止めを刺したんだ。毒のトゲを知らずに取っ組み合おうとしたのがラージャンの敗因だ」

「聞けば聞くほどヤベぇ戦いだなおい」

「エスピナスありき言うても下位ハンターが上位の、それもラージャン倒した言うんはやっぱ凄いことやって言われてな、それで上位に昇格したんが一年前や」

「すっげぇ……」

 

 ジャングルポケットは最早感動していた。

 自分達と同じ境遇で成り上がり、上位に昇格している。しかも内一人は同じ大剣使いである。

 タマモクロスの"龍呼びの声"という特殊性が、頭からすっぽ抜けているジャングルポケットであった。

 

「イカズチと組むようになったのはそれからや。あいつも恩の概念があってな、流石に街の中までは無理やけど気配はお互い追えるから狩場で待ち合わせできるんや」

「イカズチと組んでからは狩りがずっと楽になった。本当、彼には助かっているよ」

「キリンの装備はその、イカズチからなのかい? 同胞を狩るとは思えないが」

「せやせや。角とか皮とか、また生えるからええんやって。オグリが良い時期に装備更新出来てよかったんよ」

 

 全身雷一色とばかりの二人である。装備に属性の偏りはあるが、雷弱点のモンスターに対して極めて強いのがこの二人だ。雷を弱点とするモンスターはリオス夫婦やガノトトス、ディアブロスなどの強力なモンスターが多い。そこに古龍たるキリンの援護が入る訳で、イカズチと組むようになった二人の依頼達成率は100%をマークしていた。

 

「キリン……イカズチと組むようになった経緯は分かったよ。けど、今回のドラギュロスとは結び付かないな」

「それは……元を辿るとうちのせいやな。でっかい気配を追ったらあいつに出会うてしもうて……」

「でっかい気配?」

「スカイを探してたんや。上手いこと合流できんかって。大きな龍属性の気配を探せばそのうち会えるやろと思うてたんやが……」

「出てきたのがあのドラギュロスだったというわけか。なるほどねぇ」

 

 イカズチと共にハンターとしての経験を積んでいた二人だが何も無策でハンター生活を送っていた訳ではない。セイウンスカイ────詰まるところ、この世界に来る契機となった彼女を探して元の世界に帰るための手掛かりを得ようとしていたのだ。

 共に"龍呼びの声"を持つ者同士、強大な龍の気配にはお互い気付けてしまう。ならその気配を追っていけばその内会えるのではと、タマモクロスは片っ端から龍の気配がする地域に足を運んでいたのだ。

 

「タマのおかげで色んな古龍に遭遇したが、中には話が噛み合わなくて戦闘になってしまった古龍もいた。ラージャンやドラギュロスも危ない思いをしたが、古龍達の反応も個性があったと思う」

「厄介やったのはテオ・テスカトルやったなぁ。あいつ初っ端から炎ぶちまけてくるし、話したい言うても"力を示してからだ"としか言わへんもん! 気性が荒いったらないで!」

「俺のイメージする炎王龍そのままじゃねぇか。やっぱあいつ気位高いんだな」

「逆に話し合いが出来た古龍は?」

「イヴェルカーナとクシャルダオラが常識人やったで。ほんまにただの話し合いだけで済んだわ。あ、でも、クシャルダオラは脱皮の時イライラしとるからそん時はあんま近づかんでほしい言われたなぁ」

 

 上位に上がってから受けられる依頼の種類が増えたタマモクロスは積極的に古龍の依頼を受けまくっていた。セイウンスカイの手掛かりを探すことと、後は顔見知りを増やすのも目的らしい。古龍が出現すると、大抵は天候などが変化してその地域に大きな被害を与えることが多いのだが、そこに知り合いのタマモクロスがいれば話すことができる。

 一部の古龍達の中では、人間相手の面倒事を回避できる人材としてタマモクロスはよく知られるようになっていた。

 

「狩場の外の活動も褒められたもんやないけど、ちょいと遠出して古龍に会えれば縁ができるやろ? 話し合いで済むようになるならちょっとくらい狩場の外へ出てもええと思うとったんや」

「それが今回に繋がった訳か。古龍以外に強大な龍属性を持つモンスターを想定していなかったのが原因だねぇ」

「確かに少ないが、ジンオウガ亜種やイビルジョーみてぇに古龍じゃなくても龍属性を扱うモンスターはいるぞ。……あれだな、古龍のクエストばっか受けてて普通のモンスターを相手にしなかった経験不足が祟ったんだろうよ」

「それを言われたら立つ瀬が無いねんな……」

「私もタマに頼り過ぎていた。古龍が相手だと、タマが何とかしてくれると甘えてしまっていたんだ」

 

 ガジルの評価は厳しい。"龍呼びの声"のおかげで楽をしていたが、それがもたらす弊害から目を背けていたのだ。

 極めて真っ当な批評に二人の気は小さくなるばかりである。ハンター業において本来ならすべき経験が出来ていないというのは命取りでしかないからだ。

 

「おまえらの事情は分かった……で、これからどうするよ。同郷なんだろ? ポッケ村にしばらくいんのか?」

「それについてなんだが、タマモクロスには今まで通り古龍との接触を続けてほしい。やり方に問題があったとはいえ、方向性に間違いは無いんだ。特に古龍の知り合いを増やすという戦略はスカイ君を探すだけじゃなく、多くの場面で有効に機能するはずだよ」

「スカイだけやなくっちゅうと……」

「私達を襲ったあの謎の古龍に対して、とかね」

「……!」

 

 ウマ娘全員が総毛立つ。

 誰もあの日を忘れてはいない。

 

 業火が全てを焼き尽くす、始まりの日。

 

「あの謎の古龍が何なのか、詳細を知っているのはスカイ君だけだ。恐らく、奴を攻略しない限り私達が安全に元の世界へ帰ることは難しいだろう」

 

 アグネスタキオンの言葉に誰もが言葉を失っていた。

 およそ現代日本ではまず味わうことのない根元的な恐怖────"死"は確実にウマ娘達の心に焼きついている。

 

「……あいつをぶっ倒せるくらいに強くなんなきゃいけねぇってこったよな」

「空元気はよしたまえよポッケ君。私とて理屈のみで語っているんじゃないんだ。あれは必ず私達の邪魔をする。いや、邪魔だけで済むならまだいい。

 ────あの敵意は、自分以外の全てを許さないという意思そのものだ。奴とは必ず()()()()となる」

 

 殺し合い、とは言わなかった。

 単なる戦いではない。

 種としてどちらが淘汰されるべき存在なのか。

 繁栄か絶滅か、そのどちらなのか────。

 

「面白い話してんじゃねぇか」

 

 心が冷えたウマ娘達へ、不敵な一声がかけられる。

 

「要は、おまえらが帰るのを邪魔するモンスターがいるってことだろ。なら俺の出番じゃねぇか」

 

「乗りかかった船だ。これくらい面白くないと割に合わん」

 

「一口噛ませろよ。ここに最強のハンターがいるんだぜ?」

 

 モンスターを狩るのはハンターの仕事である────そう宣言せんとばかりに、ガジル・スタンダードは堂々たる態度を示してみせたのだった。

 

 

 

 

 

「とりあえず、ウチらはここでしばらく厄介になるわ」

 

 ガジルの意気揚々とした宣言に胸を撫で下ろしたウマ娘達。

 突拍子も無い事情を信じてくれて、尚且つ味方をしてくれるというのだ。この上無く心強い存在である。

 

「なら安心だな。俺はしばらく出かけるからよ」

「しばらくって……?」

「短けりゃ一月、長けりゃ一月半ってとこだな」

「そんな長く出かけんのか!?」

「そりゃそうだ。だってギャー助をメゼポルタにまで運ばなきゃいかん」

「ギャー助……? あぁ……」

 

 ギャー助、もといドラギュロスは本来メゼポルタギルドが管轄するモンスターだ。ポッケ村支部で請け負うモンスターではない。ポッケ村ギルドはうちでは手に負えないと匙を投げ、結果としてメゼポルタにまで運ぶことになったのだ。

 

「一ヶ月もかかんのか? おっさんが乗って飛んでいけばいいんじゃねぇの?」

「アプトノスやポポだって訓練しないと使えねぇんだ。まだ捕まえたばかりのギャー助にできる訳ないだろ。それに、おまえらちょいと俺に頼りすぎだ。一回目はともかく、二回目の無茶は回避出来たはずだぜ。なぁ、アグネスタキオン」

「それを言われると弱いね……」

「本来ハンターってのは、自分であれやこれや苦労するもんだ。俺がいるとおまえらが必要な苦労ができねぇ。これはタマモクロスとオグリキャップもだぞ。妙な能力があるのはいいが、それで経験不足になるんじゃ本末転倒だ」

「肝に命じます……」

「俺がいない間、おまえらでここ(ポッケ村)を守れ。俺に並べとまでは言わねぇから、せめて後ろを任せられるくらいには強くなってみせろ」

 

 ガジルからの厳しい叱咤にウマ娘一同の気が引き締まる。

 謎の古龍もそうだが、まずは確かな地力を身に付けなくてはならない。そうでなければ、業火を放つあの古龍と相対するなど夢のまた夢なのだ。

 

 出発はすぐらしい。ポッケ村ギルドにとってドラギュロスは火中の栗を拾ったようなものらしく、なるべく早く放り出したいようだ。アグネスタキオンとしてはまだ懸念が残るドラギュロスだが、実績も実力もない現状ではギルドの決定を覆せないだろう。

 何をやるにしても、実力と実績の不足がウマ娘達の足を引っ張っている────それがウマ娘達の現状だった。

 

 各々はガジルの言葉を胸に、精進する日々をこれから送ることとなる────。

 

 

 

 

 




いい加減F産モンスターを出したがる癖から脱却せねばならぬ(使命感)

なお、拙作において"黒龍"と対峙したことのあるハンターは一人だけとなっています(ガジルじゃない)

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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