前回の後書きにも書いた通り新しい古龍登場です。数少ない和風モンスターですね
ちなみにここのトレーナーのイメージですがブルアカアニメの先生っぽい感じです
────イナガミ様イナガミ様! 見て下さい、今年はこんなに取れましたよ! イナガミ様のおかげで豊作です!
(なんやこれ……誰かの夢……?)
────自分の力じゃないって……もう、イナガミ様ったら謙虚だなぁ。神様なんですからもっとこう、ドーンと構えてればいいんですよ!
(尻尾……? ごっつ長いやん。突き刺したら周りの植物みんな大きくなっとる)
────イナガミ様……? ケガの事ですか? 心配無いですよ。ちょっと派手に転んだだけです
(いや、その青アザ殴られとるやん。転んだは無理あるわ)
────あ、イナガミ様……。変なところ見られちゃいましたかね。すみません、ちょっと村のみんなと上手くいっていないんです
(石ぶつけるなんてそんな……。この子が何したって言うんや?)
────……イナガミ様…………? 怒ってるんですか……。やっぱり、イナガミ様は優しいですね……。でも……村のみんなには……怒らないで……ほしい……です……
(こんな血まみれで……これ、まるで死んでまうような……)
ゆらゆらと。
長い夢を見ていた気がする。
黒と金、だろうか。優雅な毛並みに乗せられていたような。
凄く柔らかくて良い寝心地────。
「……あれ? ウチ寝とった……?」
はて、と。周囲を見渡す。目の前にはどこまでも広がる鬱蒼と茂った竹林。
「まだ夢見てるんかいな~あははは……」
頬でも引っ張ってみたが景色は変わらない。何やら座り心地がいいと振り返って見ればかなり朽ちているものの祠のような物に腰かけていたと気付いた。金色の毛で作られた布の上で寝ていたらしい。
一分。たっぷり待ってようやくこれが現実なのだと気付く。
「いやここどこやねーん!!!!!!」
誰も返すことのない悲痛な叫びが竹林に響き渡った。
「タキオンさんから緊急の要請? なんだろ……」
元旦明け。
実家でゴロゴロ寝正月を過ごす予定だったセイウンスカイはアグネスタキオンからの急な話にトレセン学園へ戻っていた。
実はセイウンスカイからすると渡りに船であった。初詣の後、実家に戻ったセイウンスカイとトレーナーは気を良くした彼女の家族に迎え入れられトレーナーもそのまま彼女の実家で過ごすこととなったのだ。セイウンスカイからすれば嬉し恥ずかしといったところである。住み慣れた我が家に思い人がいるというのはやはり精神的に疲れるようで、「もうちょっと段階踏めないかなぁ」とアグネスタキオンからの要請に嬉々として馳せ参じる次第となった訳である。
今回呼ばれたのはセイウンスカイ一人であるためトレーナーは実家で留守番である。トレーナーは申し訳なさそうにしていたが、甘いルックスに反して中々の酒豪であり親戚の男連中からは大層可愛がられていた。
指定された場所はいつも通りの旧理科準備室である。
正月の最中である学園は多くの生徒が出払っていていつもの活気さが感じられない。夜の学校が怖いのと同じかな、と薄気味悪さを感じながらセイウンスカイは旧理科準備室へと向かった。
果たして、アグネスタキオンは変わらぬ白衣姿で旧理科準備室にいた。ただその表情は些かアグネスタキオンらしくもなく真剣さを漂わせている。
「久しぶりだね、スカイ君。明けましておめでとう、と言いたいところだが事態は急を要していてね」
「えっと、どうしたんですか? バルファルク関連でまた何か?」
「いや、今回は関係無い。まずは落ち着いて聞いてくれたまえ」
「なんか物々しくないですか……」
「本題から切り込ませてもらうとタマモクロス君が行方不明となった」
「え……」
事件の概要はこうである。
セイウンスカイと同じく実家に顔を出すため帰省していたタマモクロス。それだけなら普通なのだが実家からトレセン学園へ戻る際にその行方が分からなくなったという。混乱を避けるために彼女の家族や知り合いにはまだ伏せられているという状態であった。
「何ですかそれ。私と同じように自衛隊が守ってるはずなんですよね!?」
「そうだ。ところが肝心の自衛隊も被害を出していてね。
「昏睡って一体何が……」
「結論から言ってしまえば、政府はこれをゴグマジオス同様未知の"龍"による襲撃であると見込んでいるよ。だから君が呼ばれたのさ」
「えぇ……。また"龍"案件……」
「まずはこれを見てくれたまえ」
そう言ってアグネスタキオンが見せてきたのは1台のノートパソコンである。画面にはドローンで空撮されたであろう映像が映っておりまるで早回しのように急成長する竹林の様子が克明に映っていた。
「何これ。竹がめっちゃ生えまくってるじゃないですか」
「当初はガス攻撃を受けたとして工作員による化学兵器が疑われたんだがね。回復した一部隊員がこの謎の現象について証言したのさ。人間が直接近づくと危険だからとドローンで検証したらこれだ」
「うわぁ……」
「竹が突然急成長する現象について私の方でも調べてみたんだがどう考えても非現実的でね。確か君のご先祖様が祀っていた神様も嵐を起こす龍神だろう? こんな超自然的な現象を起こせるのは"龍"じゃないかという結論に至った訳だ」
「……あの、今さらなんですがなんでタキオンさんが政府への窓口みたいになってるんですか?」
「それこそお偉いさんの事情というやつだよ。現状仕方ないとはいえ君やタマモクロス君といった一個人に税金が使われている訳だからね。与党を批判したい連中にもし君の事がバレてしまえばしょうもない誹謗中傷が飛んでくるのは間違いない。だから、君には何も知らない体でいてもらいたいのさ。それならもしバレても君はただ一方的な監視を受けた"被害者"になる訳だからね」
人知れず国家に身を捧げる自衛隊とそれを極秘裏に指揮する関係閣僚。時折テレビ等で国会の中継が流れるがあれに巻き込まれるのはセイウンスカイとしても御免被る。政治的には無関係でいてほしいのにこんな時だけ協力を要請するのは如何なものかという話も関係者で流れたが、セイウンスカイが事実上"龍"と会話可能な能力を持っている時点で穏便な解決には彼女の協力が必要不可欠だ。
色んな人達に助けて貰ってるんだなぁ、とセイウンスカイは改めて感謝の念に絶えなかった。一時は自虐的な思考に陥ったが今はこういう政治の便宜についても理解を示せている。
一旦受け入れてしまえば柔軟に思考できるのがセイウンスカイの長所だろう。
「事情については分かりました。……それで、私は何をすれば?」
「バルファルクと共にタマモクロスがいるであろう竹林に入ってほしい。あれから何度か自衛隊を派遣しているそうなんだがその度にあの急成長する竹林と睡眠ガスに襲われているようでね。不思議な事にガスマスクを装備しても睡眠ガスを防げないんだ」
「それ私も危ないのでは?」
「だからこそのバルファルクだよ。過去の研究から彼の生理的耐性は極めて高いものだと分かっているからね。最悪君一人連れ帰ってくれるだろうさ」
「また戦闘になったら嫌だなぁ……話聞いてくれるといいんだけど」
「ちなみに現場だが地下のガス管で不具合があったとして周辺の道路を封鎖しているよ。可能な限り今回の事件はゴグマジオス同様秘密裏の解決が目標となる。俗に言う"お偉いさん"からは秘匿性を高めるために
「あーやってみますよ。多分無理でしょうけど」
「それは仕方ないからね。無理なら無理でバルファルクには遠くから待機していただこう」
『構わんぞ』
「『あ、良いんだ』」
『どうせ厄介事に巻き込まれるのは確定だ。それならそれで最初からセイウンスカイと共にいる方が良い』
初詣の後、いつも通りターフにいたバルファルクに事情を説明すれば思いの外色好い返事が返ってきていた。
「『こんなことお願いしてる側が言うのはおかしいけど……狭いところ嫌じゃないの?』」
『飛ぶのに不便というだけで別に好き嫌いは無いぞ。本当に嫌ならその場で破るだけだからな』
「『あははは。破るのは勘弁してもらいたいなぁ』」
『で、竹か。そんなものが俺の脅威になるとは思えないが』
「『あんまり油断しないでよ? 今度のはゴグマジオスと違ってどんな姿してるとか事前に分からないんだから。そもそも戦いにならないのが一番だからね』」
『どうだろうな。俺はあまり縄張り意識とやらに活発な方じゃないが、あの黒いやつの話を聞く限り縄張りに踏み入った他の龍を主がそのままにしておくはずがない。戦闘は恐らく避けられんぞ』
「『えぇ……』」
『どうせなら俺が軽い挑発でもしてそいつの気を引く囮作戦なんかどうだ。それならそいつの気が俺に取られている内にタマモクロスとやらも探せるだろ』
「『……現状一番マシな作戦っぽいなぁこれ。お願いだからケガとかしないでよね』」
配備は迅速に行われた。
バルファルクが思っていたより聞き分けが良かったため当初の予定通りにバルファルクが入れる巨大なコンテナとそれを運ぶ大型トレーラーがトレセンへやってきた。普段なら巨大コンテナなどトレセンに関係無い物であるため話題になりかねないが正月ということもあり極端に人がいないトレセンは最低限の箝口令を敷くことで事態の外部流失を免れたのであった。
セイウンスカイはバルファルクと同じコンテナの中に入るつもりだったがコンテナの中は人が入るのに適した環境ではないため自衛隊とバルファルク双方から外された。自衛隊はともかくバルファルクからもそんな意見が出たことに驚きを隠せないセイウンスカイである。
コンテナに入る間際、セイウンスカイはバルファルクに窘められていた。
『別にわざわざ直接いなくても話すことはできるだろ』
「『ああ、指輪だね。……君もちょっとは人の事が考えられるようになったんだね』」
『ちょっとは、とはなんだ。俺はいつもセイウンスカイの事を考えているぞ』
「『それはそれでなんか怖い気が……。他に考える事は無いの?』」
『そもそもセイウンスカイを目当てにしているというのに何を今さらな事を言うんだ。それ以外など食って寝る以外無いぞ』
「『……そういえば君はそういう野生動物だったなぁ。関わるようになってから君をそんな目で見るようなこと無いから忘れてたよ』」
『あぁでも最近考える事は増えたな』
「『え。なになに?』」
『話せるのがセイウンスカイだけだと、流石に不便になってきたとな。俺の方でも色々考えている』
そういってバルファルクはコンテナの中へ乗り込んでいった。
「うぅ……ほんとにどこなんやここ~」
一方その頃。
タマモクロスは途方に暮れていた。
周囲どこを見渡しても変わらぬ竹林の風景にタマモクロスは全く見覚えが無い。最後におかしなタケノコを見た覚えがあるが、それとこれがどう繋がっているか皆目見当もつかない有り様であった。
「ほんとになんなんや。歩いても歩いても同じ風景なの絶対おかしいやろ」
祠から離れて真っ直ぐに進んでいたはずのタマモクロス。しかしどういう訳だか気付けばまた同じ祠の下へ戻ってきてしまうという摩訶不思議な現象に辟易していた。
(あの黒と金色……。ウチの気がおかしいんやないんやったらあれの背に運ばれてた気がする)
眠りにつく前、うっすらとだが僅かに残る記憶を思い返す。タマモクロスはこれが"龍"に関わるものだと薄々勘づいていた。
「『おどれぇ! ウチを拐ったやつおるんならツラの一つでも見せんかい!!! ドタマかち割ったるぞ!!!』」
不安に駆られそうな自身の心を叱咤しそれを吹き飛ばすよう大声を張り上げる。しかし何も起こらない。
諦めてまた歩きだそうとした時だった。タマモクロスの背後からそれまで何の気配も感じられなったというのに、急速に圧力が膨れ上がる。
驚いたタマモクロスが振り返ってみれば、そこには。
『虚勢の張り方だけは一人前だな、小娘』
金のたてがみ。黒の甲殻。悠久を漂わせるその威厳。
イナガミの異名である雅翁龍(がおう)凄いカッコいいですよね。私ならこの特徴持ったやつ安直に竹龍とかしか考えられない。他の異名も良いですよね。シンプルな《火竜》もいいし《冥灯龍》も名は体を表していて凄く良い。モンハンの開発陣はオサレ度極まってて素晴らしいです。皆さんはどの異名が好きですか?