それとイナガミの能力をフロンティアの描写より強くしてあります。フロンティアだと竹オンリーでしたけど調べてみたら設定上竹に留まらない事が判明したので強くしてみました
「むぅ……。雅翁龍イナガミか……」
とある地域の竹林地帯にて。
タマモクロスの行方が分からなくなったとされるその場所で足止めを食らう姿があった。
「《騎士》殿。そのイナガミという龍はゴグマジオスよりも危険なのですか」
「ある意味ではな。単純な人類への脅威としてならゴグマジオスの方が危険なんだが……」
「ゴグマジオスとは違うと?」
「奴の能力は、環境、取り分け植生に与える影響が甚大なんだ」
騎士────かつて上野でセイウンスカイに重要な情報を与えた青年は焦燥を滲ませる。
青年はセイウンスカイとの話の後に公安に接触され適宜必要な"龍"の情報を提供する協力者としての立ち位置にいた。
「もし我々の推測に間違いが無いのなら奴の能力の真骨頂は竹を生やす能力ではない」
「本質は植物の成長を司るという概念そのものだ。もしこの接触で在野に解き放たれれば従来の生態系に不可逆的な被害を引き起こすぞ」
竹林地帯、周辺封鎖道路にて。
セイウンスカイとバルファルク、そして協力してもらう自衛隊は竹林突入前の入念な打ち合わせを行っていた。
バルファルクの考えを元に、セイウンスカイを筆頭として可能な限りの隊員を投入する人海戦術が提案されている。
「素案のバルファルクさんの作戦を活かしましょう。我々とセイウンスカイさん、バルファルクさんの二手に」
「『わぁ、凄いよバルファルク。君の作戦を使うって』」
『……一応確認しておくが武器は持たない方が良い。黒い奴との戦いに使ったあのでかい戦車とかいう兵器ならともかく貴様らの携行できる程度の武器では意味が無い』
「『武器は持たない方が良いって言ってますよ。威力が足りないみたいです』」
『付け加えるならもし遭遇した際は抵抗ではなく逃走を選んだ方がいい。話を聞く限り向こうも無用な殺生はせずに追い出したいみたいだからな。その方が貴様らもケガせずに済むはずだ』
「『もし出会ってしまったら抵抗ではなく逃げましょうって言ってます。逃げた方が見逃してくれるみたいです』」
「なるほど……承知しました。では突入の先鋒はバルファルクさんに。結構派手にやってください」
「『最初はバルファルクが入るって』」
『ああ。でなきゃ囮の意味が無いからな。そのまま倒してしまうかもしれんが』
「『バルファルク? 目的を忘れないでよね』」
奇妙な光景である。
バルファルクを運ぶコンテナの中でそのまま機材やスクリーンを持ち込んで今回の作戦を担当する隊長が現地の地形や概要について説明していた。
「これはあくまでもお願いといった形になりますが……バルファルクさんには戦闘の際、極力飛ばないでいてもらいたいのです。申し訳ありませんがどうしてもバルファルクさんは目立ってしまうので……」
「『あー、バルファルク。もし戦いになった時に、出来れば飛ばないでほしいんだって。めちゃくちゃ目立つからって』」
『……うーん。まぁ良いか。そんな長丁場にならんだろ』
「『……ほんとに大丈夫かなぁ』」
なんというかどこか油断しているバルファルクにセイウンスカイは不安が拭えなかった。
そしてその不安は予感となり的中してしまうのである。
「『あ、あんたがウチを拐った龍……?』」
『拐ったとは失敬な。おまえが狙われているようだったから助けてやったというのに』
(ウチが狙われてる? ……それよりもいつの間に、こいつの言葉分かるようになっとる)
とうとう邂逅した雅翁龍イナガミとタマモクロス。
想像していた龍の姿とはかなり違うものの威厳ある髭や気品に輝く黒い甲殻、そして面長の爬虫類を思わせる特徴はどこをとっても伝説に噂される龍に他ならない。
ごくり、と生唾を飲み込むタマモクロス。混乱してセイウンスカイやアグネスタキオンから話を聞かなかったのが響いていた。目の前の存在がヒトに比して圧倒的な超越者であること以外何も分からないのだ。
「『ウチ、帰らなきゃいけん場所があるねん。そういう親切は嬉しいんやけど気持ちだけ受け取っとくな』」
『まだそやつらがお主を狙っておるようだが』
「『……はぁ?』」
『とかく、お主はここで待っていろ。案ずること無く果物でも
そういって龍は体長と比べて長い尻尾を地面に突き刺すとタマモクロスの目の前に草が、いや木が生えていく。タマモクロスより少し背が高い程度に成長すると今度は幹が太くなりあっという間に樹齢を感じさせるほどの見た目になった。
「『……柿ぃ?』」
『安心しろ、ちゃんと甘柿だ。3日4日はそれで持つだろう。くれぐれもここから動くんじゃないぞ』
「『え? ちょい待ち! まだ聞きたいことが……!』」
巨体から想像もつかない身軽さで龍は颯爽と駆けていく。
タマモクロスはその姿を呆然とただ見つめるだけしかできなかった。
『時間だよ、バルファルク……。作戦開始だ』
『応とも。では一発かますぞ』
タマモクロスがいるとされる竹林は山の裾野から扇状に広がった形をしており近くにはタマモクロスの実家がある住宅街とも隣接している。
突入の人数を揃えるにあたり、ガス管の事故という名目で封鎖されている住宅街側からセイウンスカイ以下自衛隊が入り反対側の人通りが少ない車道側からバルファルクが突入する手筈となっていた。
まずはいの一番、バルファルクが竹林に入る。
入ってすぐバルファルクは異常に気が付いた。
ゴグマジオス以外今まで他の龍と出会うことは無かったため龍が持ち得るという視覚外の龍属性探知を知らなかったバルファルクであったがゴグマジオスとセイウンスカイに教えて(ゴグマジオスは不承不承であったが)もらいバルファルクも使えるようになっている。その新たに会得した感覚が囁くのだ。
(まさか、全方位敵とはな)
一見普通の竹林だがバルファルクは気付いていた。竹のみならずそこらに生えている雑草の一片まで自身とは異なる龍属性に染まっていることを。
セイウンスカイから事前に今回の龍の能力についてある程度の考察を聞いていたバルファルクだが流石にこれは予想外である。しかし怯む理由にはなりはしない。
(どういうつもりでタマモクロスを拐ったかは知らんがこちらにも事情がある。悪いが恨んでくれるなよ……!)
槍翼を前方に向け噴出口から溜めた自身の龍属性エネルギーを一気に開放する。創作物に造詣があればビームと呼ばれるであろうその攻撃は、竹林の一帯を焼くかに思われたが直後射線上に複数の竹が壁のように生えビームの直進を阻んだ。
ビームを阻んだ竹の向こう側からは金のたてがみと黒の甲殻が見え隠れする。藪の隙間からねめつけるような視線がバルファルクを射抜いていた。
(お出ましか)
『無礼者め。何用でこの地に踏み入った』
『貴様が拐った人間の娘を探しにきた。心当たりがあるだろう?』
『拐った……だと? おまえに教える事など何も無い!』
『悪いがそういう訳にはいかない。少しばかり付き合ってもらうぞ』
先手を仕掛けたのはバルファルクだ。長大な槍翼を伸ばし竹の壁ごと粉砕せんと突き破る。
しかし突き破った竹の向こう側には誰もいない。横合いからしなる尾がバルファルクの顔面を打ちすえた。
『……この程度か?』
『あまり油断していると足を掬われるぞ、若僧』
イナガミの尻尾による痛打はバルファルクに大した痛痒を与えていない。しかしイナガミがそのまま尻尾を地面に突き刺すと地面からバルファルクに向かって竹が生えてきた。
『これが何だと……うぉ!?』
『そのまま地べたに這いつくばっていろ』
不思議な事に本来真っ直ぐにしか生長しないはずの竹はバルファルクの四肢や顔にまるで蔦のように伸び拘束してしまう。
『舐めるな……!』
唯一縛られていなかった槍翼の噴出口を下に向けると無理矢理発進し強引に竹の蔦を引き千切る。僅かに滞空し着地したバルファルクをイナガミは心底面倒臭そうな顔で見ていた。
『大人しくしていれば良いものを。これだから膂力馬鹿は困る』
『言ったろう。こちらにも事情がある。貴様が拐ったタマモクロスを大人しく差し出せば穏便に済むのだがな』
『タマモクロス……?』
『その様子じゃ自分が拐った娘の名すらまだ知らんようだな。いいか、ヒトにもヒトの生活がある。貴様は知らんようだがタマモクロスにも家族や友人等の親しい者がいるんだ。何を根拠に連れ去ったかは知らんがそやつらと引き離しては……』
『何を、言っている』
『ん?』
戦いつつもセイウンスカイの望み通り可能な限り言葉での説得を試みるバルファルク。だが何か地雷を踏み抜いたのがイナガミの圧力が急速に増していく。
『"声"を持つ者が! ヒトと共に生きていける訳無いだろうが!』
『なっ……!』
怒りの声と共に竹林の様子が一変する。
そこかしこから伸びた草木の根がバルファルクに絡みつき、竹林を含めた草木が生き物のように動きバルファルクの元へ殺到する。先ほど竹で拘束された時とは次元の違う質量にバルファルクは押し潰されそうになる。
『ぐ……が……!』
『そのままこの森の糧となれ! 何も知らん奴に話す口など無い!』
(まずい、ぬかった……!)
油断が仇となり、バルファルクは窮地に追い込まれていく。
『バルファルク? え……』
「セイウンスカイさん? どうかされましたか?」
一方こちらは自衛隊の捜索隊。
バルファルクとイナガミの戦闘に巻き込まれないようセイウンスカイがバルファルクと逐一連絡を取り安全な範囲からタマモクロスの捜索に当たる手筈であった。
「バルファルクが不利みたいです。拘束されて思うように動けないって」
「拘束ですか?」
「予想した通り植物を操る力を持っているみたいでそれに巻き込まれて足止めされてるみたいです。もしかしたら戦ってた龍がこっちに来るかもしれません」
「……どれくらいでこちらに接触するかは分かりませんか?」
「そっちについては何とも……。でも捜索をやめちゃダメです。まだバルファルクに気を取られているみたいですから」
努めて冷静に、セイウンスカイは同行する隊員にバルファルクの状況を報告する。しかしセイウンスカイの表情は焦燥に染まりつつあった。
(あのバカ! 油断しないでねって散々言ったのに!)
飛行を制限しているのは差し引いてもバルファルクの状態はあまり褒められた状況ではないとセイウンスカイは考えていた。
バルファルク同様この竹林の異常性にセイウンスカイも気付いている。しかしバルファルクのように細かな探知が行える訳ではなかった。周囲の環境が一つの龍属性に染まり過ぎていて判別がつかないのだ。
(結局普通に探すしかできないか。タマモ先輩、無事でいてくれると嬉しいんだけど……)
頼りになるのはやはり人海戦術である。ヘリコプターによる空から捜索も初期の段階では考えられていたが政府上層部からヘリコプターは遠くから目立つという意向でドローンでの低空飛行に切り替えられていた。
現在は竹林の主と思われる龍をバルファルクが相手にしているおかげか先日まで捜索隊を阻んでいた竹の成長は発生しなくなっている。この時間が勝負どころだと改めてセイウンスカイは気合いを入れ直した。
「ここじゃ何も分かりません。もっと奥に行きましょう!」
「セイウンスカイさん、気持ちは分かりますがまだ焦らないでください。状況確認を進めましょう」
今回集められた自衛隊の一部には地形の観測班も混じっている。国土地理院にてこの竹林の地形図を参照してきたが異常な植生のせいか実際の地形が地形図より大きく変化していた。それらの地形図をリアルタイムで更新し部隊内で共有することで一度捜索した場所の確認など捜索効率を上げるのだ。
必要な作業だと分かっているセイウンスカイだが焦りは否めない。それでも着実に前に進むことが大事なのだとセイウンスカイは自身に言い聞かせた。
だが────。
「みなさん、下がって! 来ます!」
「総員退避!」
通常より上手く機能しないとはいえ感覚拡張が役立った。
隊員とセイウンスカイを切り離すように竹の壁が生えてくる。強制的に分断されたセイウンスカイだが焦りは無い。想定されていた状況だ。
事前に渡されていた無線から隊員達と安否を確認する。しかしそれより早く金と黒の影────イナガミが姿を現した。
「『あなただね。タマモ先輩を拐ったのは』」
『……似たような事を先ほど聞いたな。おまえはなぜ他の人間達といるのか』
「『なぜってタマモ先輩を探しにきたからに決まってるでしょ。私一人じゃ探せないくらいにここは広いんだからちょっとお手伝いさん呼んだだけ』」
『……何か強いられているのか?』
「『……何の事?』」
『おまえは我の声が分かるだろう。あの人間達に何か弱味でも握られて脅されていないか?』
「『はぁ? 脅されるどころか守られる立場ですけど』」
「『守られる……? "声"を持つ者が?』」
「『……あー、はいはい。なるほど、そゆことね』」
数度の会話からセイウンスカイは目の前の龍の勘違いを察した。
以前赤衣の男の上司だと名乗る青年から示唆された迫害に関する件、そこからこの龍はおそらく過去に仲良くなった"龍呼びの声"を無惨にも排除された経歴があるのだろう。タマモクロスを拐ったのも悪意は無く警護する特戦群がタマモクロスを襲う外敵に見えたからである。
善意からなるただの勘違いであった。
「『えっと、名前あるなら教えてくれない? あるんならそっちで呼びたいな』」
『……イナガミと呼ばれていた事はあったが』
「『なるほど、イナガミさんね。過去に何があったか私からわざわざ聞かないけど今は昔ほど苦しい時代じゃないんだ。私みたいなのがいてもひどいことされない時代なんだよ』」
『……本当なのか?』
「『本当だよ。それとね、今は人間の文明って物凄く発展してて人一人いなくなるだけでも凄い大騒ぎする時代でもあるの。頼むからさっさとタマモ先輩を返してほしいんだ。今はまだ人間の偉い人が穏便に済ませようとしてるけど、このままいったらこの森消えて無くなるよ』」
セイウンスカイとしてはハッタリ込みで入れた脅しであった。おおまかには間違っていない。しかし竹林を滅ぼすのは少々難しい。自衛隊が兵器を使用し空からの爆撃や、かつて自由の国がやらかした森林に対する除草剤投下等を理論上可能ではあるものの、様々な制約により現実的には実行不可能な暴論である。
「『そういえばバルファルクはどうしたの? あなたと戦ってた黒い龍なんだけど』」
『あれか? 不躾にも我の領地を踏み荒らさんとしていたからな。今頃根に引きずりこまれて肥やしにでもなっているだろう。そういえばそやつがおまえと似たような事を呟いていたが……』
「『ふーん。ま、いいや。とにかく私達はタマモ先輩を探すから、邪魔しないでよ』」
『おまえの言うことが真実なら我の元から出してやってもいいのか……? だがこの森にいれば外界と関わらなくても……』
「『油断』」
『ん?』
「『君って本当に私達人間を格下に見てるんだね。そりゃ確かに君のように植物を操る力も無ければ強靭な体でもないよ。だけどさ』」
『何を……!?』
「『それでキレない訳無いでしょうが!』」
いつの間にかイナガミの懐へ近づいていたセイウンスカイ。いや、正しくはイナガミが近づくのを許していたというべきか。
セイウンスカイが右手を振りかぶりイナガミの顔面に龍属性を纏った何かを投げつけイナガミが悶絶する。弾かれたイナガミの顔面から綺麗にセイウンスカイの元へ戻ってきたそれは星の龍鱗を付けたあの指輪に他ならない。
全く予見できなかった衝撃にイナガミは思わず後ずさりし信じられないものを見る目でセイウンスカイを見た。
『一体何のつもりで……!?』
「『何のつもりも何も何様のつもりだよ! 軽く記憶を探ってみたらお涙頂戴の展開じゃない。そりゃ君からしたら守ってあげたくなるんだろうけど、ただ守られるのは私もタマモ先輩も性に合わないんだよ!』」
『な、なんだと……!?』
「『良い? 私とバルファルクは対等! あいつの嫌な事は私も文句言うし、逆にあいつにとって嫌な事もあいつもちゃんと言う。お互い生きてきた人生も食べ物も姿も種族も何もかも違うけど!』」
「『今! 同じものを見て! 言葉交わせて! 一緒に同じ時間を生きてるでしょうが! そんな大事な"相棒"を肥やしにしただなんて妄言分かってても許せるか!』」
『相……棒……?』
セイウンスカイの気迫に圧倒されるイナガミ。
目の前の"声"が言っている事が分からない。いや理解は出来ているが心が納得を拒んでいる。
妄言────?
一拍遅れてイナガミが気配に気付く。向かってくる気配に慌てて竹の壁を生成するがそれを見逃すセイウンスカイではない。
(これを、こう!)
『目を……!』
今度は指輪を投げつけるのではなく指輪から溢れた龍属性を指をしならせ指弾として弾く。実はトレーニングの傍らバルファルクとアグネスタキオン監修の元、龍属性の制御に時間を費やしていたセイウンスカイ。黒い稲妻は的確にイナガミの顔面を焼いた。
『しまっ……!』
イナガミの視界が復帰した時にはもう遅かった。バルファルクが無作為に生成した竹の壁を突破しイナガミに激しく衝突する。
ろくな受け身も取れないままイナガミは激しく跳ね回り吹っ飛んだ。吹っ飛ばされた先はタマモクロスがいるあの朽ちた祠である。突然の轟音にタマモクロスは祠の後ろに隠れ何事かと周囲を見渡していた。
激しい衝撃にイナガミはしばらく起きられなかった。環境と自身の能力を使い優位に立っていたつもりのイナガミであったがただの突進一つで趨勢が覆された。
「『バルファルク、遅かったね。速さが自慢の癖にこんな時だけ遅いのはどうしたの?』」
『奴の操る植物に苦戦していた。……なんか言葉にトゲがありすぎないか?』
「『油断するなって忠告無視したおバカさんにはこれぐらいでちょうど良いんじゃない?』」
『分かった分かった。俺が悪かった。セイウンスカイの時間稼ぎには助かった。今度はもうヘマはしない』
痛みに呻くイナガミが何とか起きあがり一人と一頭を見る。
共に軽口を叩き合い並び立っていた。バルファルクが雄々しいのはまだ分かる。しかしその隣に当然といった顔をして同じだけ溌剌な気配を漂わせるセイウンスカイの姿はイナガミが考えるか弱い姿と程遠いものだ。
彼らの声にタマモクロスも気が付いた。
「『ん……あれ? スカイ? あんたスカイか!』」
「『あ! タマモ先輩! 心配したんですよ。正月寝て過ごそうと思ったら拐われたって聞くし!』」
『タマモクロスか。ようやく見つけたな。さっさと学園に帰るぞ』
「『うぉっ!? バルファルクの言葉も分かるようになっとるわ』」
「『バルファルクも? ってことはタマモ先輩、イナガミの声が分かるようになったってことですか?』」
「『あいつイナガミ言うんか。名前すら教えてくれんかったわ。柿でも食うてろ言うて、話もせんとフラっとなぁ』」
和気あいあいと話す二人と一頭に遅れて自衛隊も駆けつける。どうやらセイウンスカイが無線でタマモクロスの発見を報告したらしい。多数の人間の姿に一瞬身構えるイナガミであったが自衛隊が二人に乱暴するばかりか明らかに労るような仕草を見せたためやっとセイウンスカイの言う事が真実だとイナガミは納得した。
『おい、イナガミとやら。この様子を見てまだ戦うつもりか?』
『いや……我は……』
『どのみち俺が勝つがな。能力の扱いは俺より遥かに
『……おまえ、どうやってあの拘束を破った』
『破るも何もセイウンスカイの言う龍属性とやらを全開にしただけだ。俺達の生きるエネルギーというやつは互いに反発するらしい。ならばより力の大きい方が勝つだろう。過剰な龍属性は同じ龍による能力の干渉を抑制する。俺の龍属性で貴様の操る草木を焼いただけだ』
『結局は力業ではないか』
『力があってなんぼだろう。貴様はそれで懇意にしていた人間を救えたのか?』
『……戯れ言を!』
『どうにも貴様の能力の使い方には違和感がある。俺はともかくこの森から他の人間を排除するならその竹で刺し貫いたっていいだろう。だが貴様は一人として死傷者を出していないな』
『知ったような口を……』
『減らず口をほざくならまずはタマモクロスに謝罪しろ。話はそれからだ』
バルファルクがイナガミにタマモクロスと話すよう促す。
さっさと竹林から逃げていたと考えていたイナガミだが予想に反してタマモクロスの方からイナガミの方へ近寄ってくれていた。
「『なぁ。あんた、話聞いたけど本当にウチのこと助けてくれようとしてくれてたんやな』」
『う、うむ。どうやら我の思い違いであったようだが……』
「『それは仕方ないねん。ウチもあんたもお互い何も知らんかったんやからな。悪気は無かったんやろ?』」
『そうだな……。やり方を間違えていたようだ。済まない……』
「『謝る代わりに一個教えてほしいことがあるんやけど』」
『なんだ?』
「『他の人間嫌いな癖して誰もケガせんと追い返してくれてたやないか。あれなんでなん? あんたからすればそないなことする義理ないやろ?』」
タマモクロスの問いに思わず目を伏せるイナガミ。それはイナガミにとって大切だった者の最後の願いだったからだ。
『イネがな……。イネというのは前のその、"声"を持つ者なんだが、最期まで報復することを否定していたのだ。我と関わってしまったばかりに他の人間達と交えられず田畑の出来が他より良いという理由で疎んじられていたというのに、今際の際まで誰も恨むことはなかったのだ』
「『なるほどなぁ。そのイネさんの願いをあんたは律儀に守っとる訳か』」
『攻撃してしまえば神様からただの化け物になってしまうと、そう言っていた。神のつもりは全く無かったのだがイネは我を信じ続けていた。もうイネはこの世にいないが我までイネの願いを辱しめる訳にはいかないのだ』
「『そっかぁ。あんたやっぱり、優しいやつなんやなぁ』」
────やっぱり、イナガミ様は優しいですね……
「『さすがにそろそろ行かんと。イナガミ、また会おな』」
『あ、ああ……』
去っていくタマモクロスがいつかの彼女と重なって見えたのは錯覚だろうか。
撤収準備が整ったらしい。いよいよとなったところで最後にイナガミが話しかける。
『お、おい待て。また会おうとは、どういうことだ!?』
「『どういうことも何もあんたここで独りぼっちやないか。寂しくはあらへんの?』」
『勘違いとはいえ我はおまえに無体を働いたのだぞ。その我を許してくれるというのか……?』
「『また勘違いしとるなぁ。許す許さないの話じゃないんよ』」
「『あんたがまたやらかさんようウチが見に来るだけや。ここ実家に近いしな。また美味しい柿くれたらそれでええよ』」
そういってタマモクロスはセイウンスカイ・バルファルクら自衛隊と共に竹林から去っていった。
『相棒か……』
「タマモ先輩、良かったんですか? また会いに行くだなんてまだ決まってないのに」
「ええんや。どのみちいつかはこうなると思っとったからな」
自衛隊の車両の中、帰途につく二人。
タマモクロスはイナガミに対しそこまで悪感情を抱いていなかった。どちらかというと龍と話せることから逃げて曖昧な態度のまま、ろくに話を聞かなかった自分にも責があると考えていた。
「帰ったら色々教えてくれん? このままじゃいかんのはさすがにウチでも分かるわ」
「もちろんです! 仲間が増えるのは大歓迎ですからね!」
「ふぁぁ……。ほんなら良かったわ。交換条件ってつもりやないけど礼にウチがレースの稽古つけたるさかい、ビシバシ覚悟したってや」
「ふふ。その時はよろしくお願いしますね、タマモ先輩。……ところで、眠いんですか?」
「よくよく考えたらろくに寝とらん。毛布一つで寝とったからなぁ。トレセンに着くまで寝ててええか?」
「良いと思いますよ。着いたら私が起こしますから」
「ありがとうな。ほんじゃ、おやすみ……」
「はい、おやすみなさいタマモ先輩。……あれ、タマモ先輩の尻尾……」
疲れに眠るタマモクロスの尻尾には金色に輝く複数の毛が絡み付いていた。
イナガミとバルファルクの強さですがどちらが明確に強いという訳ではなく作中でもお話した通り能力ならイナガミ、フィジカルならバルファルクというイメージでいます。能力フル活用して完封できるならイナガミ、重い一発当てられるならバルファルク、といった感じです。
果たしてタマモクロスとイナガミはセイウンスカイとバルファルクのようにコンビになれるでしょうか。今後に期待ですね