セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日々のご愛読、誤字脱字報告等誠にありがとうございます
モンスターもウマ娘も個性強すぎるなぁとこの頃思う次第


皇帝の御前

 

 

 

 

 

 レースに絶対は無いがそのウマ娘にはある。

 

 数多の勝利よりも、三度の敗北を語りたくなるウマ娘。

 

 彼女を称える言葉はどれほど探しても足りないほどだが端的に呼ぶなら一つしか無いだろう。

 

 皇帝。

 

 この二つ名が許されるのはこの世においてただ一人、シンボリルドルフに他ならない────。

 

 

 

 

 

「あんまり気が進まないなぁ……」

 

 皐月賞での勝利から明けて翌週。

 セイウンスカイは生徒会室の前にいた。

 セイウンスカイとしては遠慮したかった。生徒会長シンボリルドルフの逸話は嫌というほど知っている。正直な話雲の上の人、高嶺の花という印象だ。凄い人だと知ってはいるものの直接関わりたいとセイウンスカイは思わなかった。ちょうど名画のようなものだろうか。鑑賞する程度で十分だと思っていた相手に自ら話を聞きに行けというのは、心の準備が整わない。

 

 しかしながらタマモクロスが既に話をつけてくれているという。トレーニングで散々お世話になった相手の要請なので無下にはできない。

 意を決してノックし声に応じて中に入る。

 

「やぁ、君がセイウンスカイか。初めましてになるかな。そう畏まらなくていい。まずは座って、お茶にしよう」

 

 泰然自若に微笑む皇帝────シンボリルドルフはそう言ってセイウンスカイを穏やかに迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、もしかして賭け事が好きかい? よくこんなメニュー組めたもんだよ。セイウンスカイとやらがもう少し柔だったらどうなっていたことか」

「め、面目ありません……」

「まだクラシック始めなんだ。トレーニングの方向性は悪くはないが、調整がいるね。タマもよくこんなのに付き合ってくれたねぇ」

「まぁそこは後輩のよしみってやつや、ばあちゃん。見所ある子なんや」

 

 同じ頃。

 トレーナー室ではセイウンスカイのトレーナーがタマモクロスのトレーナーからダメ出しされていた。

 基本的には柔和なご婦人なのだが同じトレーナー業をやっていた者としてどうしても厳しい目になるという。引退を宣言していたもののトレーナー資格を返上した訳ではないため堂々とトレーナー室へ乗り込み講義を行っていた。

 

「まさかあの走りがトレーナーとの打ち合わせ無しでやったとはね。若いの、話聞いて何も考えなかったのかい?」

「いえ、その……。せいぜい走ってる最中の補助ぐらいでしか考えてなくてですね……」

「才能に優れたウマ娘だとは思っていたけど、まさかトレーナーすら才能頼りとはね。お互い相性がいいもんだからすれ違いが発生しない訳だ。ほんとあんたらが羨ましいよ」

「……誉められてます?」

「皮肉に決まってるじゃないか。セイウンスカイが初めての担当なんだってね。そのまま次のウマ娘を担当してみな。すれ違いだらけであっという間に次の子を潰すよ」

 

 歴戦のトレーナーからの指摘に新人であるセイウンスカイのトレーナーは青くなるばかりであった。

 一見華やかに見えるレースの世界だが、思うように結果を出せずレースから去っていくウマ娘は多い。その理由の一つにトレーナーとの相性がある。ウマ娘もトレーナーもれっきとした人間。それぞれの性格や育成方針等によりトレーナーとウマ娘が衝突することなぞ珍しくはないのだ。縁があれば移籍という手段もあるが、頻繁に移籍を繰り返しているウマ娘は信用されない。短期間での転職が多い社会人と事情は同じだ。堪え性が無く性格に問題ありと判断されてしまう。

 そしてそれはトレーナーも同じだった。ケガ無く事故無く、例えG1を勝てなくても一定の成績さえ残したウマ娘を育てあげて初めて一人前として数えられる。短期間の移籍やケガによる引退を多く出してしまっているトレーナーは管理不足としてその力量を疑われてしまうのだ。

 

「あのセイウンスカイって子はね、放っといても大成する子だよ。そうして初めて育成した子でそれだけの成績出したトレーナーには人気が殺到する訳だ。期待の新人ってね」

「……正直な話をしますと、その懸念はずっとありました。トレーニングの管理とかは勿論やっていますがそれはトレーナー資格さえあれば誰でもできる事です。私からレースの作戦を提案したこと無いんですよ。いつもスカイがこれで行こう、って」

「それに間違いは無いさ。いくら理屈を積み上げても走るのはウマ娘。最後は走る子の勘が大事さね。けど、あんたがこれから先担当するウマ娘みんながその勘に優れてる訳じゃあない。感情任せにしょうもない走りをして、あんたが悪かったと手前任せにキレる子もいるんだよ」

「……ばあちゃん、そこまでにしぃや。まだ新人なんや。言いたい事は都度都度でええんとちゃう?」

「ああ、いけない。年を取ると話が長くなりがちだね。……よし決めた。あんた、他のウマ娘を担当する予定はあるかい?」

「いえ……正直セイウンスカイに手一杯で予定なんてとても……」

「なら今から探しに行きな。一人ずつ育てるだなんて悠長な真似あたしが許さないよ。今が一番良い時期なんだ。脂乗ってる現役ウマ娘を先達に、後輩ウマ娘を育成できればあんたのトレーナーとしての腕は大きく伸びる。やれる事は全部やるんだ」

「今からですか!?」

「そうさ。ほらいったいった。心配しなくてもタマの頼みさ、しばらくはあたしがあんた達の面倒見てやる。気にせず探してきな。見つけてくるまで帰ってくるんじゃあないよ」

「ええっ!?」

 

 突然トレーナー室から追い出され、ピシャリと閉められる扉に呆然するセイウンスカイのトレーナー。

 優秀とはいえまだ新人の彼にベテランからのお小言は強く響いたらしい。流石にショックを隠せない様子ではあったが切り替えは早く、足早に去っていく。

 

「なぁ、ばあちゃん。流石にスパルタが過ぎんとちゃう? 確かにばあちゃんの話聞けたらなぁって言うたけど、ここまでがっつり言うとは思わんかった」

「あたしも最初はそのつもりだったさ。なのにこの子達ときたらアドバイス程度で終わらせてくれる才能じゃないからね。老婆心が疼いてしかたない!」

 

 既に現役を退き一線を引いたはずの老トレーナーはそれを感じさせない眼光で未来を見る。

 

「乗りかかった船だ。こうなったら死ぬまでに好き放題やるよ。タマも何か隠し事してるみたいだしねぇ。どうせ後は死ぬだけなんだ。老い先短いこの人生、せいぜい楽しませておくれよ」

 

 ひひひ、とまるで童話の魔女のような笑いをする自分のトレーナーに、タマモクロスは表しようがない喜びを隠しきれず半ばにやけた顔で抱きつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊張しているのかな? 萎縮させているつもりは無いんだが……」

「あはは……。私の事はどうぞお構い無く……」

 

 生徒会室にて。

 シンボリルドルフと対面したセイウンスカイは居心地の悪さに調子を崩していた。

 

(いやもうオーラが違う。これが私と同じウマ娘? 全然違う生き物だよ)

「二人しかいないのに構うも何もないだろう? 君とは一度話してみたかったんだ。タマモクロスから話が来て良かったよ」

「そ、そうですか。二人だけっていうのは? 確かエアグルーヴ先輩とナリタブライアン先輩が生徒会にいたはずですよね?」

「ああ、彼女達に離席してもらってるんだ。私の我が儘で悪いんだが、君とは一対一で話したくてね」

(変なところで気がきくなぁこの人!)

「さて。君と私は本来接点が無い。君もどうしてここに呼ばれているのか、分かっていないはずだ」

「それはそうですね。タマモ先輩から行くように言われてここに来ただけです」

「ふむ……そうか……」

「……」

「……」

「……」

(あの、沈黙が重いんですけど)

 

 気まずいのはシンボリルドルフも同じらしい。顎に手を当てて何かを思案している。普通の人がやればわざとらしい仕草ですら様になっているのだから、つくづく生まれというのは人を作るのだなとセイウンスカイは自分を棚に上げて思っていた。

 たっぷり考えこんだシンボリルドルフは紅茶を一つ口に含むと、それが気分転換になったのか彼女の方から口を開いてくれた。

 

「唐突なんだが、君にはレースに懸ける想いなどはあったりするだろうか。美学、主張、その他何でもいい。レースを走るにあたってこれだけは外せないという精神的支柱になるものだ」

「想い……ですか」

「君の特殊な事情は把握している。あのドラゴンだって君のレースを見に行っていると聞いているよ。君が走る理由には彼も入っているのかな」

「あー……そうですね……」

 

 セイウンスカイは以前バルファルクに話したレースでの楽しさを語った。セイウンスカイに目標となるレースは無い。クラシック三冠を目指してはいるが、それは狙えるから狙っているだけ。本質的には自身の才能を存分に奮える機会さえあればセイウンスカイはそれで良いのだ。

 

「君の話には共感できるよ。深謀遠慮、私も勝つための布石は常に打っている。二重三重にそれを構築することで如何なる事態にも対応できるわけだ」

「いやぁ~私のは会長さんのと比べるものじゃないですよー」

「いや、比べるべきなんだ。というのも、タマモクロスが私に連絡してきた理由の一つがそれでね」

「えっ、タマモ先輩が……?」

「君の皐月賞を見せてもらったよ。率直に言えば私でも唸るくらいに周囲を把握できていた。スパートのタイミングも見事だ」

「は、はぁ……それはどうも……」

「一応言っておくと、君が"能力"を使ったことを責めようという話ではないよ」

「! どうしてそれを……」

「タマモクロスからあった話というのはね、君が行った作戦がクラシックのウマ娘に本来できる事ではないという話なんだ。あれを同じ頃の私にやれと言っても無理だ。せいぜい好位置についてスパートできるかどうかという話だというのに」

「……私、もしかしてやらかしました?」

「ああ、やらかしている。ちぐはぐなんだ、君は。周囲への観察やスパートのタイミング等はシニアの子と比べても綺麗過ぎるくらいに纏まっている。しかし走り方や体の出来具合はクラシックのウマ娘として平均的なものだ。一体どんな指導をしているのかと、君のトレーナーには大きな注目が集まっているところだよ」

「うわ……まじか……完璧にやらかしてんじゃん私……」

「君が"能力"を使うことについてはタマモクロスと同意見だ。あらゆる手を尽くしてこそ、レースには走る意義が生まれる。君は"能力"を使うことが他のウマ娘と違法な差になるのではないかと当初考えていたそうだね。能力を使って勝った今はどうかな?」

「正直言うと……気持ちとしては半々です。これは強すぎるんじゃないかなっていうのと、スペちゃんキングちゃん相手に手加減するのはおかしいでしょって……」

「後者の心構えでいた方がいい。私見だが、君のライバル達はその程度で潰れるウマ娘ではないよ。次こそは勝ってやるという意気込みでいるはずだ」

 

 まぁそれはそうだろうとセイウンスカイは同意した。

 スペシャルウィークは日本一を目指しておりダービーはその代名詞たる大レースである。皐月賞は前座くらいで考えていてもおかしくはない。次こそ本腰を入れてくるだろう。

 キングヘイローは一流を自称している。そのプライドの高さは自身に一切の妥協を許さず、どれだけの泥に濡れようが不屈の精神で這い上がってくる。皐月賞での負けをバネに更なる磨きをかけてくるはずだ。

 

 思い返すとセイウンスカイはかなり面倒な面子に目を付けられているなと感じてしまう。友人としての意識は勿論あるがレースでの競走相手として見ると、フィジカルや作戦以上にそのメンタルの強さが厄介過ぎるのだ。

 自身も把握している通りセイウンスカイには爆発力が無い。それは爆発力がある相手に不利として働くので、相手にその本領を発揮させないよう揺さぶりをかけるのがセイウンスカイの十八番である。しかし皐月賞で想定以上の勝ち星を納めたセイウンスカイへの対策は日夜研究されているはずで、詰まるところ余計な注目を浴びている今はセイウンスカイにとって非常に都合が悪かった。

 

「ヤバい……思ってたよりなんか面倒な事になってる……」

「タマモクロスは君の走りに私との類似性を見出だしたようだが私からすればまだまだだ。教えようにも肝心の君とそのトレーナーが何をやらかしたか分かっていないようだからね。君へアドバイスするのは吝かじゃないが、それはシニアまでお預けだ」

「それまでは自力で何とかしろってことですよね……。きつ……、いきなり最下位人気とかにならないかな……」

「そう悲観する事ではないよ。確か引退したはずのタマモクロスのトレーナーが戻ってきているそうだからね。もしかしたらそちらの方で何か話があるかもしれないよ」

「……ま、やるだけやるしかないかぁ。帰ったらトレーナーさんとも話さないと……」

「大いに悩むといい。苦心惨憺、悩んだ数だけ君の糧になるはずだ」

 

 既に出された紅茶は冷めきっていて風味が損なわれているが、それを呷るようにセイウンスカイは飲む。高級なものなのだろうがそんな良し悪しをセイウンスカイが分かるはずもなく。

 

「私から言いたい事は以上だ。君の方から何かあるかな?」

「私からは特に。貴重なお時間頂いてありがとうございました。色々とやらなきゃいけない事が見えた気がします」

「では最後に一つだけ。少し意地悪な予測をしよう」

「……?」

 

「次のダービー、君は負ける。しかし負けてからが君の本番だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『話は終わったか?』

『うわ、どうしたの急に。学園でテレパシー使うとか何かあったの?』

『タマモクロスから伝言だ。会長とやらの話が終わればすぐ部屋に戻ってきてほしいそうだ。何でも新メンバーを紹介したいと』

『は?』

『タマモクロスのトレーナーが来ていてな。セイウンスカイのトレーナーへかなりダメ出ししたらしい。詳しい事は知らんがそのダメ出しの一環で新たなウマ娘を迎えるべきだと』

『待って、色々と話が進み過ぎてるんだけど』

『俺は言われた通りの事しか言っていないぞ。とにかく部屋に戻ってみろ。詳細はそっちで聞け』

 

「はぁ……?」

 

 シンボリルドルフからの最後の言葉に首を捻っていたセイウンスカイ。しかし事態というのは待ってはくれないらしい。バルファルクからの伝言に慌ててトレーナー室へ向かう。

 

「ちょっと!? トレーナーさん、新しいウマ娘を増やす……って……」

 

 怒号と共にトレーナー室のドアを開ける。

 しかし見えた光景はセイウンスカイを困惑させるのに十分だった。

 困ったように笑うセイウンスカイのトレーナー。なぜか大笑いしている老女。げんなりした様子のタマモクロス。それら三人の中心にいたのは、金と青の輝きを放つ異彩の少女。

 

「セイウンスカイ……コンタクトを確認。『友好』を提案……。ネオユニヴァース、これから一緒に走るよ。よろしくね」

 

 新たなウマ娘の登場によりセイウンスカイの日々は更に混沌とした事態に巻き込まれる羽目になる。この出会いが更なる混乱を生むことになろうとは、誰一人として知る由もなかった。

 

 

 

 

 




ネオユニちゃんが参戦!この不思議ちゃん個人的な推しの一人です。お月見イベ良かったですね
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