セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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まさか投稿してすぐ反応があるとは思いませんでした。
いくつか作品エタらせてる身ですが続けられる限り連載しようと想います。


一人と一頭、その考察

 

 

 

 

 

「ふぁ……」

 

 11月のある日の中央トレセン。

 セイウンスカイは学生として当然の身分ながら午前の授業を受けつつあくびを漏らしていた。

 

 寝不足気味かと言われればそうかもしれない。何せ悩みの種が堂々ターフの中央に居座っているのだから。

 ちらりとセイウンスカイが横目に見ればターフからあのバルファルクが全く視線を外さず窓の向こうからセイウンスカイを見続けている。

 バルファルクが中央トレセンを根城にして以来、ずっとこんな調子が続いているのであった。

 

 

 

 

 

 2ヵ月前の9月。

 バルファルクが中央トレセンにやってきた当初は蜂の巣をついたような大騒ぎであった。

 これまで世界中を飛行し一定の場所を生息地としないバルファルクが突如として生態を変えた衝撃は世界を駆け巡った。富士山での遭遇は、まだ希少な生物が珍しい行動をしたというくらいで話題にはなっても混乱を生むことはなかったが、中央トレセンを寝床にして以来世界中からひっきりなしにインターネット、物理的な往来問わず人が動くようになったのだ。レースとは全く関係しない形で。

 バルファルクを研究している学者や研究機関は世界中に多い。人によってはこの地上に残された最後の神秘と信じ、他のどの生物とも酷似しない生態解明に人生を捧げている猛者も少なくないのだ。国内外を問わず中央トレセンにはバルファルクを目的とした連絡が連日止むことはなかったが、そこは天下の中央トレセン。話題となるスターウマ娘を狙った過剰なメディア対応には慣れており、その経験からバルファルクを狙ったアプローチからも、度が過ぎる類いは排除に成功していた。

 

「セイちゃん、大丈夫?」

「あー、大丈夫かそうでないかと言われたら……まぁ大丈夫かな」

「何か偉いとこの学者さんと話してたりしてるんでしょ? トレーニングの邪魔とかになってないの?」

「そういうのは大丈夫かな。今のところ付き合いがある学者さんは結構こっちの予定とか考えてくれててさ。トレーニングの都合とか含めた調整はトレーナーさんに丸投げしてるんだよね。だから予定とかで悩んだことはないよ」

 

 昼休み、クラスメートと食事に談じながらセイウンスカイはバルファルクを考える。

 

 トレセン学園に降り立ったバルファルクを調べる上で注目されたのは当然セイウンスカイである。バルファルクが徹底してセイウンスカイ以外に興味が無い態度をし続けるため研究者も困ったのだ。当初こそ、セイウンスカイに関わらずトレセン内へ入る許可を得た学者などがバルファルクに近づこうとしたが、唸り声をあげたりあの大きな槍翼を掲げたり威嚇するかのような仕草を見せるので学者だけでの接触が不可能と判断された。結局、学者が来る度にセイウンスカイが付き添わなければならなくなった。

 

(なんかあいつ、やけに独占欲的なのあるよね……)

 

 バルファルクが見せたセイウンスカイ以外に興味が無い態度は学者以外にもトレセン学園やセイウンスカイ当人にも影響を及ぼしている。

 どういうわけだか、1日の内バルファルクに直接触れ合う機会が一度も無いとセイウンスカイがいるであろう校舎や寮に無理矢理入り込もうとしてくるのだ。この騒ぎで何度ドアや窓ガラスが犠牲になったことか。セイウンスカイがその場で学園長に土下座し許しを乞い願った話は笑い話として語り継がれている。もちろん学園長秋川やよいは笑って許しているが。

 

 ともかくセイウンスカイはバルファルクから興味どころか執着と言っていい目線を向けられている訳だが、原因であろうコミュニケーションらしきバルファルクからの鳴き声については学者に話せてはいなかった。理屈の上ならこれまで人類に対し無関心を貫いてきたバルファルクの方針転換について学者とも相談して調べるべきなのではと思うセイウンスカイだが、バルファルクの様子を見てそれは望ましいことではないと理屈ではなく感情で判断していた。

 

(あいつ、私にしか興味無いみたいだし。また他人を増やすようなことしたらもっと機嫌が悪くなりそうなんだよね)

 

 セイウンスカイが学者と一緒にいる時は目に見えてバルファルクの態度は悪い。

 例えば、体表面に垢などの体から排出された有機物がないか採取しようと学者がセイウンスカイを伴って近づいても、飛んで逃走し近寄らせてくれない。そういったバルファルク本体に近づく必要がある研究には、セイウンスカイが学者から説明を受けて業務を代行する羽目になっていた。

 こうしてセイウンスカイが他人と一緒にいる時にバルファルクはあのコミニュケーションらしき鳴き声を発さない。これがセイウンスカイが学者に鳴き声について相談しづらい点だった。セイウンスカイなりにバルファルクを慮っているのだ。

 

 現在のセイウンスカイの1日はバルファルクが来る前とさして変わらない。せいぜい学業やトレーニングが終わる夕方頃バルファルクの元へ触れ合いに行くくらいだ。だが将来的には困るだろうとトレーナーと共に頭を悩ませていた。レースは別にトレセンだけでやるものではないし、時には遠征で数日以上トレセンを空けることも普通にあるからだ。

 セイウンスカイが悩むことではないとトレーナーが学者と話を交えて解決策を模索しているが芳しい成果は出ていない。

 

 セイウンスカイは憂鬱になりつつ、今日もどうやってバルファルクとのコミュニケーションを成立させるか、午後も頭を悩ませているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たか。この頃は日が落ちる頃に来るようになったな』

 

 夕方。

 既に11月ということで肌寒い程度では済まない寒さ。

 セイウンスカイはコートを羽織るなどそこそこ厚着をしてバルファルクへ会いに来ていた。

 

「『相変わらず何言ってるのか分からないねぇ。頼むから大人しくしててよ?』」

『言われずとも、そうしている。俺の気に障らなければな』

「『あーあ……。またこんなに骨を散らかしちゃって。綺麗にお肉を食べるのはいいけどこれくらいどこか持っていってくれたらいいのに。片付けるのは私なんだよ?』」

『そんなゴミなど捨て置けば良いだろうに。不思議なことをするものだな。やはり貴様は見ていて飽きない。これで他の二足共がいなければより良かったのだが』

「『……本当、何で私なんかに興味を持っちゃったのかなぁ』」

『貴様が俺の言葉を話せているからだ。……いつになったら自覚するのやら』

 

 横たわりリラックスした姿勢を取るバルファルクに対し、ちょうど首の辺りを背にして芝生に座るセイウンスカイ。金属のような光沢に反して意外にもセイウンスカイが背にする首周りは生物らしい柔らかさと体温を感じさせる。

 最初こそおっかなびっくりにバルファルクと触れ合っていたセイウンスカイだが、バルファルクに害意が無いのが分かるとあまり気にしなくなっていた。

 

 なおバルファルクとセイウンスカイが仲睦まじくしている様子に某アグネスは「心を通わせる人外×ウマ娘ちゃん! 有りよりの有り!」と叫んで一時昇天したそうだが完全に余談である。

 また寝ているバルファルクにこっそり近づき「未だろくにサンプルが無い神秘の生態……。手に入れられれば私の計画(プラン)に未知の可能性を与えてくれそうだよ!」と叫び、すげなくバルファルクにあしらわれた某アグネスもいたそうだがこちらも完全に余談である。

 

 寮の門限近くになるまで、その日あった出来事や楽しかったこと、悩みや愚痴など他愛も無い話をするセイウンスカイ。バルファルク、セイウンスカイ両者共にこの時間が嫌いではなかった。バルファルクはセイウンスカイの『言葉』が聞ける上に人類に対しての理解が進むし、セイウンスカイは相手が完全な人外なのもあって人間相手なら憚られるような話題も気にすることなく話せていた。危険だからと両者の他に誰もいないのも拍車をかけている。

 

 黄昏時は完全に二人だけの世界だった。

 

 

 

 

 

 いつもの語らい、寮の門限が迫り来る頃になってセイウンスカイがふと疑問を溢す。

 

「『そう言えばなんだけどさ、君ってたぶん、私に話しかけてきてるよね』」

『うん? 確かにそうだが、今更そんなことに気付いたのか』

「『君が私に話しかけてると仮定してさ、お互い話しかけてるのに私は君の話が分からないんだよね。一方的に話しかけてるようにしか見えなくてさ』」

『それは仕方ないだろう。俺とて考えてはいるが、今のところ良い案が見つからぬ。まぁ貴様の話だけでも興味はあるから不満は無いが』

「『もし、なんだけどさ』」

 

 セイウンスカイが立ち上がりバルファルクの正面に向き直る。セイウンスカイの声音には若干の緊張を孕んでいた。

 

「『もし仮に、私の言葉が通じてるならさ、こう……立って頭を縦に振ってみてくれないかな。私の言う通りの動きが分かるなら言葉が通じてるって分かるよね。……何言ってんだろ、私。こんな馬鹿なこと通じるわけ……』」

『なるほど。これで良いか?』

「『え……。いやたまたま、とか……。こ、今度は横に振ってみてよ』」

『ほら。……上手く考えたな。これなら俺の言葉が通じずとも意志疎通ができているか、図れる』

「『うそ……』」

『嘘であるものか。貴様が言い出したことだろう』

 

 どう見てもセイウンスカイの言葉を理解して動いているようにしか見えないバルファルクにセイウンスカイは呆然としていた。

 

「『ほ、ほんとに私の言葉が通じてるならさ……! なんで私なの!? 他の人とじゃ、何が違うの!? 君がやってきてからもう色々と大変なんだよ……』」

『貴様が俺の言葉を話しているからだと……。いやこれでは伝わらんな。そうか。俺なりに二足共への棲み家へ配慮していたつもりだったがそれなりの負担をかけていたのか。……俺からも伝え方を変えなくてはならないな』

 

 バルファルクは得心したかのように一息つき、そして槍翼をセイウンスカイに突きつけた。普段飛行以外で使われることの無い巨大な翼にセイウンスカイは一瞬萎縮するが、もちろんバルファルクに傷付ける意図は無い。槍翼の先端がセイウンスカイの喉を指し、続いて口を指した。

 

「『指みたいに動かしてる……。喉と、口? もしかして私の、言葉?』」

『おお、そうだそうだ。……確か貴様らは肯定の意図を示す際に頭を縦に揺らしていたな?』

「『めっちゃ、うんうん頷いてる……。ええっと、確か私と他で何が違うのって聞いたよね。……もしかして私の言葉に、何かある? ……あ、他の人を嫌ってるってことは、私の言葉だけが分かるの?』」

『おお! 見事に俺の意図を汲んでくれたな! そうだともそうだとも! 貴様のみ言葉が通じて俺の言葉だけが通じないのはやっぱり癪に障るんだ!』

「『頭振り過ぎでしょ……。地面にぶつけて穴空けてるし……。そっか、富士山で会った時にいきなりこっちを見たのは、皆と話してた私の言葉だけが分かってびっくりしたからなんだね。んー……、学者さんぽく考えるなら多分、君にも人類とは本来共通はしないけど言語に相当する能力があって、たまたま私とだけ何かの波長が合ったから通じたってことなのかな?』」

『面白い。面白い意見だぞ、白頭。その波長とやらが何なのか分かれば俺の言葉も貴様に届くはずだ』

「『多分日本語とか英語とかも関係無いよね……。他の人と違う発音をしているつもりは無いから音そのものは物理的に関係が無い……。頭を縦に振ってとか、意味は分かっていたから……。違う、逆なんだ。()()()()()()()()()()()()? 意味だけのやり取り……それってテレパシー? ……あ!』」

『おい、待て。貴様の言葉を説明しろ。ところどころ知らん言葉が混じっているぞ。貴様だけで考察を進めるんじゃな……何故今になって帰ろうとしている!?』

「『ごめん、もう寮に帰らなきゃいけない時間なんだ。ローレル先輩からめちゃくちゃ通知来てるし……。お互いの理解がぐっと進んだところで悪いけど、続きはまた明日だね! それじゃ!』

『おい。……二足共はとみに、時間とやらにうるさいな。そんなものいくらでもあるだろうに』

「『あ、忘れてた!』」

 

 寮の門限に慌てて走っていたはずのセイウンスカイが振り返る。いよいよ日は沈み、暗くなる頃合いなのだがバルファルクはその優れた視覚でセイウンスカイの()()()()をしっかり捉えていた。

 

「『一度も自己紹介したこと無かったから今言うよ。私の名前はセイウンスカイ! 君がどういう風にヒトを認識してるか知らないけど、名前っていうのは他の人と区別するために分かりやすくヒトそれぞれ持ってるものだよ! 皆同じ生き物じゃないんだ! 忘れないでよね! じゃ、また明日!』」

 

 今度こそターフを越えた先へ消えていく白い影。

 バルファルクは先程のセイウンスカイの言葉を思考の中で反芻する。ただそれ以上にバルファルクはセイウンスカイが最後に見せた笑顔を不思議に思っていた。

 

『名前……。同じ生き物ではないのか? ああだからこそ、個体ごとに識別する必要があるのか。……セイウンスカイ。なぜ貴様は最後に笑っていたんだ? 貴様の話を聞いていれば自ずと分かるぞ。笑う、というのは貴様らにとって面白い、楽しい時にするものだと。……一つ貴様の考察には欠けがあったな』

 

 バルファルクはセイウンスカイがいるであろう美浦寮の部屋を一瞥し独りごちる。バルファルクは自身の感情を自覚してはいなかったが、間違いなくセイウンスカイを案じる考えを持っていた。

 

『意味だけではない。俺が理解できるのは意味以上に貴様の感情も、なのだ。あの時考察を進めて帰る直前まで興奮していたというのに、何かに気付いて感情を変えたな。決して楽しい、面白いという感情ではない。貴様が最後に感じた思いとやらは』

 

『悲しみ、というやつなんじゃないか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイウンスカイは寮の自室に帰宅後、ごく普通に振る舞った。寮長であるヒシアマゾンからはギリギリの帰宅になったことを軽く叱られ、同室のサクラローレルからは心配されていた。バルファルクと何かあったか、という質問もあったが得意のポーカーフェイスは全く違和感を感じさせることなく、いつも通りだと、ついついセイウンスカイ一人が話し込んでしまうんだとそれらしい言い訳を述べてやり過ごした。

 セイウンスカイはバルファルクとの意志疎通が出来たことを一度も、誰とも共有することは無かった。

 就寝時間、ベッドの中で改めてセイウンスカイは先程の考察を思い直す。

 

(言語能力、ないしそれに相当する能力があるんだ……。知能だって他の動物の比じゃない。犬や猫は二歳児くらいの知能があるとか、カラスは小学生くらいの知能があるとか言うけど、あいつはきっと私達人類と同等くらいの知性を持ってる)

 

(言語を持つってことは伝える相手がいるってことだ。でも調べた限りあいつ以外のバルファルクなんていない。少なくとも、定説じゃ、人類が文明を持つ前から同一個体が今日まで生きてるって話になってる。だとしたら)

 

(あいつは誰かと話す能力があるのに、今までずっと、独りぼっちだったってことになるんじゃないのかな)




書き出してみると意外と筆が進むものですね。
続けられるよう頑張ります。感想貰えるとめちゃくちゃ嬉しいです。誤字報告めちゃくちゃ助かります。
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