さて初めての合宿となります。不穏なフラグが立っていますが果たして……?
「「「「「「おおっ、海だ~」」」」」」
季節は進み早7月。
合宿の時期である。
セイウンスカイを含め一行は送迎のバスに連れられて合宿所に向かっていた。
ダービーでの惜敗とそれによる"龍呼びの声"の不調。それらを糧にチーム【ドラコ】は心機一転、再出発を掲げた。
基本的な方針は変わらないが"龍呼びの声"による感覚拡張は発動を限定しつつもより精密さを重視する方向性に変わっている。今まではざっくばらんに周囲の気配を掴んでいたセイウンスカイだが、それをし続けた場合キャッシュのように無用な情報処理が重なりいざという時またダービーのような不調を起こしかねないからだ。
アグネスタキオン曰く人間は無意識化でも高度な情報処理を脳で行っているという。そういった無意識の情報処理を軽くするためにも感覚拡張の制御は必須と言えた。
意外にも発動を限定する方向性には一定の効果が見られている。今までは周囲300mまでが能動的に気配を掴める範囲であったが一方向に限定すれば1kmまでは余裕で索敵範囲に収まるという。また、セイウンスカイの感覚ではまだまだ余裕があるように感じられているがまた負荷がかかるといけないので少しずつ伸ばしつつも発動には自重していた。
合宿までの一ヶ月半はそうした"龍呼びの声"の制御に時間をかけていた。通常のトレーニングを最低限に、アグネスタキオンやバルファルク監修の元、制御に尽力する日々。タマモクロスのトレーナーからの案であり、体は申し分無く仕上がっているためアクシデントを起こさないことの方が大事だという方針に固まっていた。どの道合宿で応用的に体を鍛えあげるのと菊花賞までまだ時間はあるため本格的な身体トレーニングはそこまで重要ではないという見方であった。
「わぁ~遠くに富士山が見えるよ!」
「懐かしいわね。登ったのはちょうど二年前になるかしら」
「そっか~。そうするとバルファルクと会ってちょうど二年になるんだね~」
「あれから二年……すっかりトレセン学園に馴染みましたね」
「最初はびっくりしましたけど、今じゃトレセンの一員デスね!」
「あー私も登りたかったな~。今なら絶好調だし行けないことも……いやダメか……」
六者六様とでも言うべきだろうか。
現在セイウンスカイがいるバスにはチーム【ドラコ】のメンバーではなく同期たる親友達が乗車していた。
「それにしても……セイちゃんのカミングアウトにはびっくりデスね~。私が負けたのも仕方ないというか」
「あ、エルの時は能力使ってないよ」
「ケェッ!?」
「あらあら。どうやら実力で完敗していたみたいですね、エル」
「……皐月賞の時のスパートの秘密がそれね。ま、そうでもなければ辻褄が合わないもの」
「セイちゃんは大丈夫なの? 目が見えなくなってたでしょ」
「今は大丈夫です! 最近はコントロールを頑張ってるところだからね~。菊は獲らせてもらうよ~」
「も、もし体の具合が悪くなったら私に言ってね。自慢じゃないけどそういうときにどうすればいいかよく知ってるから!」
「本当に自慢にならないわね……」
セイウンスカイがチームメンバーと共に合宿に向かわなかったのは理由がある。自身が持つ"龍呼びの声"としての能力、それを親友達に明かしたかったからだ。
チームの方針として能力に制限はかけつつも使っていくつもりでいるのだが、それはそれとしてセイウンスカイが皐月賞で行った視角外のスパートの把握というのは"龍呼びの声"でもなければ説明のしようが無い。痛くもない腹を探られるのはお互い無用な時間を使うことになるので早い内に共に走る同期には教えることにした。
もちろん教えることに難色が出なかったわけではない。タマモクロスのトレーナーとしてはセイウンスカイしか持たないというアドバンテージをわざわざ崩すメリットは無いという判断だ。しかしセイウンスカイとしてはいつまでも秘密を抱えたまま走るのはあまり楽しくないという心情もある。双方どちらの意見も正しいがセイウンスカイのトレーナーはセイウンスカイの意見を採用した。逆に能力について教えることで別の作戦の布石にもなり得ると、セイウンスカイのトレーナーはタマモクロスのトレーナーを説得した。
セイウンスカイは"龍呼びの声"について明かしたがゴクマジオスやイナガミの騒動については話していない。これらのカミングアウトはセイウンスカイなりに取捨選択し、最低限バルファルクと関わるようになってから得た能力であるというふうに説明していた。
当然セイウンスカイのこれらの意向はアグネスタキオンを通じて政府にも知られておりバスの運転手も実は特選群の隊員だったりする。無用な情報流出の阻止というよりは知っている者の把握をするよう自衛隊側で務めていた。
合宿に向かうマイクロバスの中には六人と運転手の一人だけ。セイウンスカイの秘密を知った五人の同期達がそれをどう活かすのか、或いはトレーナー等他人に話すかは完全に五人に任せるという意思でセイウンスカイは考えていた。もし良からぬ誰かに情報が渡ったところで最速の暴力であるバルファルクに頼めば大体解決である。セイウンスカイのみならず政府側でもそう考えている節があり前ほど情報の保全には力を入れていなかった。
例えばセイウンスカイが誘拐されたところで"龍呼びの声"による独自のチャンネルでセイウンスカイがバルファルクに言えばバルファルクがすっ飛んでくる。更にはバルファルク経由でタマモクロスにまで連絡できるわけで、妨害しようが無いこの連絡網とバルファルクの機動性により下手な工作員の存在が無意味と化していた。当然セイウンスカイやタマモクロスの家族親類には依然として特選群が護衛として張り付いている。
自衛隊の方では、有事の際にIFF(敵味方識別装置)をバルファルクに取り付けてそれをセイウンスカイにオペレーターを担ってもらうという願望に近い要望が出されていた。基本的にはバルファルクの気分次第なのだがセイウンスカイとの関わりのおかげか思った以上に聞き分けが良く、自衛隊として何らかの協力協定を結べないかという意見が頻繁に出されている。
「今回は許可が出てるからね。バルファルクと一緒にトレーニングできるよ」
「バルファルクとトレーニングって……一体どんなトレーニングを……?」
「まぁまぁ、それは着いてからのお楽しみってことで」
当然セイウンスカイの合宿にはバルファルクも着いてきている。今もバスの窓から見上げれば近くを飛んでいるのが見えるはずだ。
彼女ら六人は、ワクワクする気持ちを抑えつつも今か今かと合宿所への道のりを楽しんでいた。
「おっ。きたきた。ばあちゃん、スカイが来たで」
先に合宿所にいたチーム【ドラコ】。
流石に拠点となる合宿所は六人それぞれ違う。マイクロバスから各々降りセイウンスカイが向かった先はこぢんまりとした民宿であった。
出迎えにはタマモクロスとそのトレーナーがいる。セイウンスカイのトレーナーはまだ合宿でのトレーニングメニューを詰めているらしく集中させるために敢えてセイウンスカイの到着を伝えていないのだとタマモクロスのトレーナーは笑っていた。
「ここはあたしの別荘みたいなとこでね。他よりちょいと山奥になるのが良いのさ。静かで鍛練に集中するにはもってこいの場所だよ」
言葉通りセイウンスカイが泊まることとなる民宿は海沿いの道路を挟んで反対側、未舗装の坂を登った先にあった。周囲は鬱蒼とした森林に囲まれていて、海岸からだと木々に阻まれて見えづらい。せいぜいセミの声が響くくらいで都会の喧騒から逃れられるこの場所は保養地としても最適である。
タマモクロスのトレーナーが若い頃から使っているらしく、木造の家屋はそれらしい年季を感じさせている。タマモクロスのトレーナーが復帰すると決めた当初から改修工事を依頼していたらしく、外観を裏切るような清潔さが屋内には保たれていた。
「悪いんやけど、ここそんなに広くはないんや。一階がトレーナーの場所、ミーティングも一階や。二階がウチらウマ娘の場所。寝るところも一緒やな。雑魚寝になるけどスカイはそれで構へんか?」
「全然大丈夫ですよ。何ならそういうの楽しみにしてたぐらいです」
「ほんなら良かった。旅の疲れもあるやろ。トレーニングは明日からや。まずは荷物の整理とかしとき」
「はいはーい。ところでタキオンさんやネオユニヴァースさんは?」
「そういやそうやったなぁ……。二階にタキオンがよう分からん実験機材広げとるけど近付いたらアカンよ。ネオユニヴァースは……あれ、あいつどこ行ったんや?」
「あー……何なら私が探しましょうか? 今日は荷物の整理以外予定無いですし」
「頼むわ。ウチも明日からの準備でばあちゃん手伝わなあかん事が多いねん。スカイがやってくれると助かる」
「りょーかいです。それじゃ、荷物置いてくるので……」
荷物を持ち渡り廊下を進んでいくと襖の隙間からセイウンスカイのトレーナーが机に向かっている姿が見える。相当集中しているのだろう。隙間から覗く横顔はセイウンスカイが見たことがないほど真剣な様子を募らせていた。
(やっぱ……こういう時のトレーナーさんカッコいい)
それを見て嬉しくなってしまうセイウンスカイ。挨拶でもしようかと思っていたがこんな様子を見てはその気も失せるというものだ。
ゆっくりと音を立てないよう二階に上がっていくセイウンスカイ。二階では部屋の隅で旧理科準備室のような光景をそのまま切り取ったかのようなスペースが展開されており、その中心にはいそいそと何かの作業に没頭するアグネスタキオンの姿があった。
「うっわ……。タキオンさん、何やってるんです?」
「……おや? ああ、ようやく君も来たのか、スカイ君。なに、去年は許されなかった実験を行う予定でね。いくつかは君にも手伝ってもらいたいんだ」
「トレーニングの邪魔にならなきゃいいですよ。……合宿に来てまで実験を行うんですか?」
「当然だとも! 環境を変えることで学園では得られなかった実験結果が有り得るからねぇ。こちらでしか行えない実験だってある。本当は去年や一昨年にでもやりたかったんだが、私のモルモ……トレーナー君が許してくれなくてね」
(自分のトレーナーをモルモット扱いしてる……)
「いや当然だと思いますけど」
「今年の私はただの付き添い……併走なら付き合うがその他のトレーニングは必要無し! こんな機会そうそう無いからねぇ。存分に実験させてもらうとするよ」
「……まぁ公序良俗の範囲から外れなければいっか……。ところでネオユニヴァースさんを見てません? タマモ先輩に聞いても知らないみたいで」
「ネオユニヴァースかい? ふむ、来た時は一緒だったんだが……彼女は高い場所を好むからね。裏手の山にでも登っているんじゃないのかな」
「なるほど、分かりました。それを参考に探してみます」
よっこらしょ、と荷物を下げる。
トレセン学園から出発して既に5時間余り。荷物の整理を終える頃には昼前となっていた。
(タキオンさんは……まだ忙しそう。他のみんなも色々あるみたいだし……私一人でネオユニヴァースさんを探すか……)
階下からは料理の準備なのか美味しい匂いが漂ってくる。合宿中はタマモクロスとそのトレーナーが食事を作ることになっている。トレーナーとしてばかりでなく栄養管理士としての資格もあるタマモクロスのトレーナーと、家庭料理に一日の長があるタマモクロスの料理は献立が知らされずともその美味しさを疑うことは無いだろう。
(なるべくみんなで食べたいしね。まずは山に行ってみるか)
一人散策に出かけるセイウンスカイ。
彼女にとっては珍しく一人の時間であった。このところ"龍呼びの声"の制御などでセイウンスカイには常々誰かがいる状態であったのでこうして一人で歩き回るのは久しぶりである。いつになく陽気に鼻歌を歌いながら山の中を歩くセイウンスカイ。
しかし土地勘の無い山の中で地図も無く歩き回るのは本来自殺行為だ。歩き始めて早々にセイウンスカイは山の中で迷ってしまった。しかしセイウンスカイに焦りは無い。こんな時に頼りになる心強い味方がいるからだ。
『助けて~バルえも~ん』
『おいなんだその呼び方は。明らかにふざけているだろ』
『ごめんごめん。ちょっと道に迷っちゃってさ。そっちから私の位置分かる?』
『……はぁ。一応分かるが、なんだ。帰り道でも案内すればいいのか?』
『ネオユニヴァースさんを探しててさ、帰り道もそうなんだけど、その人も探したいんだよね。もしかしたら山頂にいるかもしれないんだけど、バルファルクなら探せる?』
『ああ、確か新しく入ったやつだろう。ちょっと待て……何?』
『どうしたの?』
『山頂に確かにそれらしき姿が見えた。だがそれとは別に……龍の気配も隣にいる。あまりにも濃密な、下手をすればあの黒いのを越えかねん程の気配だ』
『はぁ!?』
『山頂まで道を指示してやる。急いだ方がいいぞ』
バルファルクからの案内に従って山を登るセイウンスカイ。ゴクマジオス、イナガミの一件から"龍"関連の事件はこりごりだとセイウンスカイは辟易していた。
(合宿に来てまで事件とか嫌なんですけど!』
『心の声が漏れているぞ。それについては俺も全く同意だが』
『何でもいいからさっさと鎮めるよ、バルファルク! 処理や何やらで合宿の時間潰れたら最悪なんだからね!』
『焦るな焦るな。もうすぐ山頂だ』
セイウンスカイが山頂に着いたと同時にバルファルクもセイウンスカイの位置に降り立つ。
山頂とされている位置は比較的平らな地形だった。時折登山客が来るからなのか整備されており各所に休憩のための長椅子が設置されてある。その中の一つにネオユニヴァースは座っていた。
「『あれはな……に……』」
『な……』
そしてそれは存在しているというよりも出現しているという方が正しい現れ方をしていた。
ネオユニヴァースの隣、その虚空から濃密な龍属性の塊がある。そこから首だけが伸びていた。体の全容は全く分からない。頭と首だけ。ただそれだけの存在が宙に浮き、セイウンスカイとバルファルクを絶句させている。全てに歯向かんばかりという逆向きの鱗。天を貫かんとする大角。
何もかもが、セイウンスカイとバルファルクが知る全てを凌駕していた。
「……セイウンスカイ……とバルファルク。"UAP"……新しい出会いに感謝を。『初めまして』、"友達"が貴方達に会いたいと思っているよ」
ネオユニヴァースは何でもなく、いつもの調子でセイウンスカイとバルファルクにそうポツリと呟いていたのだった。
あいつをイカ扱いする理由、そういえば烏賊骨なんて素材ありましたね。ほなタコちゃうか……
それはそうとワイルズのオープンベータテスト楽しみですね。何やら新情報では頭足類みたいなモンスターがいるし。ゴクマジオスが好みそうなフィールドだし。ワイルズますます楽しみですね!
ちなみにアルバトリオンについては設定盛りました