さてそろそろ本編も大きく動く頃合い、穏便に済むのかどうさ是非ともご一読ください
「これが?」
「そうや。白い木に見えなくもないんやけど、記憶は読み取れとるんや」
タマモクロスからの急報に駆けつけたセイウンスカイ。そしてその傍らには《騎士を従える少女》の姿もあった。
砂浜は一時立ち入り禁止となった。オストガロアによる危機は政府からメディアに知らされないまでも裏では大きく浸透しており早速自衛隊が海岸を封鎖していた。
もはや一般に隠す事もなく官民一体となってオストガロアに対抗する腹積もりである。
「これは……オストガロアの物ではないわ」
「……?じゃあ別の"龍"がいるってこと?」
「断言はできないけど……おそらくこれは大海龍ナバルデウスの角と考えられるわね。断言できないのはこれが私の知る物と比べて非常に小さいからよ」
「小さいって……これ2、3mはあるよ」
「私の知る大海龍ナバルデウスは全長50mを越える巨体なの。当然角もそれだけ大きくて10mは越えるはずなのよ。でもこれは……」
「ウチが見た記憶からして多分そこまで大きくないんや。もしかしたら子供やないか?」
タマモクロスが読み取った記憶を説明する。角の持ち主はどうやら件のオストガロアに追われているようだった。
「確か……私があの謎の龍に見せられた記憶でも白い角を持った何かをオストガロアが追いかけてたよ。オストガロアに視線が向いてて白い角がどんな生物かはよく見えなかったけど……」
「龍の幼体だなんて……前例が無いわ。だけどオストガロアの生態上食べる相手を選ぶような真似はしないから、十分考えられるわね」
「ウチの勘なんやけど、これ流れ着いてからそう時間は経っとらんと思うんや。まだこの海どこか、近くにおるかもしれへん」
「バルファルクに特徴を伝えて探させます。もしかしたらその子を狙ってオストガロアがこっちに来るかも」
話を聞いていた自衛隊が慌ただしく動き始める。周辺海域を捜索するだけなら海上保安庁でも良いのだが、もしオストガロアと遭遇してしまえば海上保安庁では対処できない。必然的に海上自衛隊が対応し、護衛艦や哨戒機が周辺を警戒することになった。
バルファルクもセイウンスカイを通じてナバルデウスの特徴を聞いており自衛隊の航空機に混じって捜索に参加している。既に有事が前提となっているためIFFを首もとにくくりつけてこの事態に臨んでいた。
この日は砂浜にナバルデウスの幼体の物と思われる角が漂着しただけでそれ以外に異常は無かった。午後から立ち入り禁止は解除されたためトレーニングを行えるようにはなったがバルファルクは警戒飛行を続けており、セイウンスカイもまた万が一に備え屋内で待機していた。トレーニングで疲れて有事に動けないことも考えしばらくは自粛である。タマモクロスのトレーナーは余計な事を、としばらく呪詛を吐いていた。
そして角が漂着してから翌日、事態は更に動くのである。
最初に気付いたのは深夜、周辺を航行していた護衛艦であった。水上捜索用のレーダーが海面近くを浮遊する謎の物体を捉えていた。それはゆっくりと意思があるかのように泳ぎ、日本本土を目指して移動している。
だがオストガロアではない。既にオストガロアの身体的特徴は自衛隊内で共有されている。おおよそ15mほどの、体をしならせて動く姿ではないのは明白だ。
そうして謎の生物を追跡し、とうとう目視できるようになってその生物の姿に一同驚く。
前例の無い事態ではあるが《騎士を従える少女》の要請に従って護衛艦はそれを追いたてるように追跡し、セイウンスカイ達が泊まる民宿近くの浜辺に誘導することに成功した。
『ひっく……ひっく……うぇぇぇん。あの大きなの何なの……ずっと着いて来てて怖いよぉ……』
「『大丈夫、大丈夫や。もう怖いことあらへんよ。姉ちゃんがついててやるからなぁ』」
翌朝。
朝からナバルデウスの幼体が確認できたと聞いたセイウンスカイとタマモクロスは早速その場に駆けつけその大きな
「これがナバルデウスかい?ジンベエザメ並みの大きさじゃないか。これが幼体とは、恐れ入るねぇ」
「セイウンスカイ、この子から話は聞けないの?」
「『……ダメ。ひどく怯えてて、ずっと泣いてばかりだよ。断片的にオストガロアに狙われていたことは話してくれたけど、それよりも海上自衛隊に追いかけ回されたのが響いてるみたい……』」
新たな生物の姿を記録に収めようと出てきたアグネスタキオンと《騎士を従える少女》が見る先には、波打ち際から首から先だけ陸に乗せタマモクロスに撫でられているナバルデウスの姿があった。
巨体ではあるが情緒は幼いようで、子供の扱いは得意と豪語するタマモクロスが必死に慰めていた。おそらくは初めて見るであろう人間に言葉が通じることも混乱の一助となっているのだろう。
既にナバルデウスを追っていた護衛艦の姿はない。それをタマモクロスは丁寧に諭し何とか話せるよう親身に寄り添うことでナバルデウスからの信頼を得ていた。
『お姉さん……ありがとう。ボク、ずっと一人でいて怖かったんだ……』
「『そっか~。ずっと一人か。親はおらんの?ママはどうしたんや?』」
『ママは……ひっく……うぇぇぇん……ママがぁ……』
「『どうしたどうした。落ち着きな。ゆっくり話してくれればええんや。何があってもウチらが守るさかい、な?』」
『ママが……ママがボクのこと庇ったんだ。離れちゃダメって言われてたのに、ボクがママの言うこと聞かなくて、ちょっと遠くに行ったら骨を被ったあのウネウネするやつに捕まったんだ。最初は食べられるって思ったけど、あいつはボクを持ったままママに近づいてそれで……』
「『せやなぁ。ほんまに辛い目に遭うたなぁ。けど偉いで、ここまで生き延びたんやろ?ウチらがその悪いのはっ倒すからな。安心しぃや』」
「『……オストガロアって結構知能高いんじゃないですかね。それも悪辣な方向に』」
「それも伝えておきましょう。正直ここまでの存在とは思わなかったわ。……それと、その顔はやめておきなさい。控えめに言っても、淑女がするものではないわよ」
どうやらこのナバルデウスの幼体は自らがオストガロアに捕まった際に人質として使われ目の前で母親を亡くしているようだった。角が折れたのもその時らしい。オストガロアが母親を捕食している間に何とか抜け出し逃げおおせたが、それをオストガロアがわざとゆっくり追いかけその様子を楽しんでいるようであった。
あまりの悪趣味な狩りにセイウンスカイは知らずと瞳孔が縦長になっていた。僅かだがチリチリと指輪から内包された龍属性が空気を焼く音がしている。《騎士を従える少女》に窘められなければまた暴走していたかもしれない。それほどの怒りをセイウンスカイは覚えていた。
「龍が龍を捕食するなんて有り得るのね。龍に対する既存の見方を変えないといけないわ」
「それだけ大食らいなのだろうね。幼体より成体の方が肉は多いわけだからある意味合理的……」
「『タキオンさん、ちょっと黙っててもらえます?』」
「えぇー!?何故私だけなんだい!?真面目に考察しているんだよ私は……分かった、分かったからその腕に纏った龍属性を引っ込めたまえ。そんなもの食らったら一溜りもないだろう!」
「……随分と個性的なのね、貴方の仲間は」
「『取り繕わなくていいですよ、こういう人ですから……ん、バルファルク?何かあった?』
同時刻。
セイウンスカイへバルファルクからの知らせが届く。
それはいよいよとなる開戦の知らせであった。
『あいつだな。オストガロアとかいうイカは』
セイウンスカイ達がナバルデウスに接触する少し前、砂浜から100km以上も離れた沖合いでその異形は蠢いていた。
『初っぱなからぶちかましてやる。さっさと海に沈んでしまえ……!』
さしものバルファルクといえど濁った海中を10mより深く視認するのは難しい。しかしあまりにも異様なオストガロアの姿は見失う方が難しいほどに目立っていた。
オストガロアの真上から海の底まで貫かんという勢いで龍属性のビームを撃ち放つバルファルク。寸分違わず直撃し辺りには赤黒い爆発が轟いた。
────あ?なんだ?
オストガロアが攻撃に気が付いて海面に浮上する。バルファルク渾身の一撃はオストガロアに全くダメージを与えることができていなかった。頑強な骨の鎧が守ったのだろう。傷一つなく健在である。
それを分かっていてバルファルクは攻撃し続けた。オストガロアも攻撃に晒されていることに気付いたが、それが脅威になり得ないと気付くと警戒を解きバカにするような仕草でバルファルクに向かって触手を振る。
『俺の攻撃が通じないことなど織り込み済みだ。貴様を浮上させた時点で作戦は成功している』
────誰だよテメェ。負け惜しみか?
『負け惜しみかどうかは、その身にたっぷりと味わってから考えるんだな』
上空から戦況を把握するバルファルクには既に見えていた。
オストガロアがいる位置よりも更に沖合いから、計1000を超える魚雷群がオストガロアを標的に迫りつつあった。
一方的なアウトレンジによる飽和攻撃。
リムパック司令部がオストガロアへの対策として下した結論がそれだった。
フィクションのような手に汗握る砲撃戦など無い。あるいは英雄譚のように刃物一本で挑みかかるわけでもない。極めて機械的に脅威を判断し排除することのみを目的とする。
リムパック司令部は
自衛隊は既にバルファルクと協力関係にあることをリムパックに秘密裏とはいえ公開している。龍を討伐するなら同じ龍の協力が必要だと訴えバルファルクを先鋒として攻撃させる布陣に至った。
今回の作戦において最も許してはならないのがオストガロアの艦艇、ないし陸地への接近である。オストガロアほどの巨体であれば駆逐艦などを直接掴んで海に沈められるし、そうでなくても対象を一瞬で蒸発させる極大ビームも備えている。陸地については言わずもがな、かつてのハワイの惨劇を繰り返すことに他ならない。
バルファルクが龍としての気配を発しているなら当然オストガロアの注意はそちらに向く。自慢の速さで対空攻撃にはまず当たらず撃墜される恐れは無い。囮としてはこれ以上無いほどの先鋒である。
全てが計算通りであった。
計算通りではなかったのはオストガロアのタフさとその知能の高さであった。
────だぁぁぁ!?ふざけんなよ、
先手を取ることには成功したリムパックとバルファルク。
だがオストガロアは沈んでいない。
────あァ……?なるほどな、正確に追ってくる
オストガロアは体の上部を骨で覆っており下部は骨で守られていない。弱点となりうる本体は雷撃を受けて大きく血を流し触手の幾つかは千切れている有り様であった。
だがそれだけだ。1000を超える魚雷を受けてオストガロアの被害というのはただ大怪我を負っただけに過ぎない。そしてその程度であればオストガロアは幾らでも活動できた。
『あいつ……あれを受けて平気なのか……?』
オストガロア健在の報を受けてすぐに第2群が放たれる。しかしオストガロアは最初の攻撃で魚雷の性質を完全に把握し巨体に見合わない急制動を駆使して魚雷を一方向に纏めそれを龍属性ブレスで薙ぎ払った。
────んー?もしかしてこいつら、あのガキが逃げた方からは来ねぇのか?そんならちょうどいいなぁ……
『っ!?不味いぞ!?こいつ、陸に向かうつもりだ!』
「『え、マジ!?こっち来るの!?』」
『マジも大マジだ!最初の作戦を凌がれた!攻撃を繰り返しているが、魚雷というやつでは威力が足りていないぞ!』
「作戦失敗ですって……!?」
雷撃に耐えるばかりかそれをいなしてみせるオストガロアの行動は想定外であった。ナバルデウスの幼体を追い詰めるためにゆっくりと行動していたオストガロアだが、今は急速にセイウンスカイらがいる方へ接近している。
『どうする?接近は論外という話だが』
「『どうするって言ったって……』」
バルファルクの眼下には魚雷だけでなく、数えるのもバカらしい数の対鑑ミサイルもオストガロアのへ殺到していた。しかしほとんどは海中に潜るオストガロアの前に届かず届いたとしても頑強な骨の鎧が弾いてしまう。魚雷の追尾に対処しながらの接近のため最短ルートではないのだが、このままでは到達するのも時間の問題と言えた。
「周辺住民の避難は!?」
「自衛隊の方で封鎖規制は行っているが、オストガロアがどこに来るかだね。そこのナバルデウスを目的とするならともかくそれ以外の場所に来たら避難は間に合わないだろう」
「『タキオンさんなんでそんなに冷静なんですか……』」
「それはだね、私に一つ腹案があるからだよ」
「そーだぜ。焦ったって良い事なんも無いからな」
アグネスタキオンの言葉に一同顔を見合わせた。状況は逼迫しているというのにいつも通りの冷静さを保つアグネスタキオンの隣にはなぜかゴールドシップも腕を組んで仁王立ちしている。
「『……?え、待って、なんでゴールドシップがいるの!?』」
「細けぇこたぁ気にすんな。アタシにもとっておきの秘策があるんだよ」
「え、えっとこの方はトレセン学園の生徒で合ってるのかしら……?」
「困惑しているところが悪いが、ミス・
「……!?」
アグネスタキオンが《騎士を従える少女》のファミリーネームを厳かに呼ぶ。いつも通りに見えてアグネスタキオンなりに情勢を判断しているのだろう。いつもとは違う有無を言わせない迫力が今のアグネスタキオンにはあった。
「米軍の協力って……今だって彼らは攻撃してるわよ?これ以上何を要請しろというの?」
「いや、上層部は日和見を決め込んでいるよ。オストガロアの撃破に求められているのは堅牢な鎧を突破し急所に一撃を見込める貫通攻撃さ。加えて動き回るオストガロアへ正確に叩き込める精度もね」
「……まさか。でもあれは眉唾物の兵器よ!?」
「いいや、彼らは間違いなく保有している。極秘兵器だからリムパックに参加させている癖に使わないでいるようだ。何とも嘆かわしい事だよ」
「なるほど、私に
「その通りだとも。日本からの要請じゃ、恐らく首を縦に振らないだろうからね」
「分かったわ。必ず使わせてみせる」
「それと……スカイ君。当然君の協力も必要だ。ゴールドシップと組んで行動してもらいたい。この作戦は二段構えでね。彼女が持つ
「『はぁ……?』」
アグネスタキオンの提案を訝しむセイウンスカイの視線の先には、元気よく黄金の錨をぐるぐると振り回すゴールドシップの姿があった。
太平洋沖、航空母艦ジョン・C・ステニス。
今回のリムパック総司令官である艦長は対オストガロア戦の戦況に頭を悩ませていた。
実のところ戦況としては最悪ではない。初撃で仕留められなかったのは確かに想定外だが、むしろこのまま浅瀬に到達してくれた方が都合が良いと考えていた。被害を受ける日本の都合を無視した作戦だが、浅瀬の方が身動きが取れなくなり結果的に本体へ攻撃を叩き込みやすくなる。そのためにはいち早く日本本土へ向かってもらった方が都合が良い。
艦長が頭を悩ませているのはまさにそこだった。まさかそっちの方が討伐しやすいから一旦魚雷を撃つのをやめてくれ、なんて指示を出せるはずがない。リムパックは政治的示威も兼ねており、同盟国への攻撃を容認するような真似は今後の外交上どう考えても禍根を生みかねない。折しも日本は米国の戦略上重要な要衝である。下手な事をすれば
恐らくどう終わろうと大統領からのお小言を聞く羽目になるだろう。
艦長は中間管理職としての責務として、如何にもそれらしい言い訳をどう並べようかと思案していた時だった。一本の電話が鳴る。それは、幾重にも厳重なセキュリティを通した上での無線だった。
「USSステイツだ。そちらは?」
《貴方達何のつもり!?この期に及んで兵器の出し惜しみなんてしてる場合じゃないでしょ!?》
「まずはそちらが名前と用件を言いたまえ」
《失礼したわね。アーサーよ。イングランド子爵【シャーロット・マールバラ・ジョン・アーサー】。貴方は?》
「ワイルダーだ。私は航空母艦USSジョン・C・ステニスの艦長だ。ミス・アーサー、こちらの作戦に何か不満でも?」
《ワイルダー艦長、このままオストガロアを討伐できると思ってるの?》
「現状としては打てる手を打っている。最善は尽くすつもりだ」
《魚雷やミサイルだけで討伐仕切れないのは分かっているでしょう?それともこのまま日本の浅瀬に追い込みたいのかしら?》
「……結果的には、そうならざるを得ない可能性も視野に入れている」
《問題だと思ってるのはどうせそこでしょう?大丈夫よ、オストガロアはこっちで誘導するから貴方達は駆逐艦をこちらに差し向けなさい》
「駆逐艦を?待ってくれ、ミス・アーサー。何を言って────」
《レールガンよ。マッハ7で弾を撃てるやつ。オストガロアを倒すにはそれしかないわ》
「それは機密情報だ、ミス・アーサー」
《この有事に機密だのなんだのとぬかさないでくれる?そっちの政治事情なんて高が知れてるの。いい?今すぐ駆逐艦を向かわせなさい。レールガンも準備するのよ》
それきり電話口から声は聞こえなくなった。無線を切ったわけではなく単に話していないだけだ。
艦長が思案するのに一秒もかからなかった。このご時世戦上がりの昇進をしたわけではないが、そもそも有能でなければ艦長職を命じられるわけが無い。
「駆逐艦を呼べ。USSキットだ」
全ての情勢を勘案して、艦長は最善の指示を下していた。
代償となるのはより激しくなった胃痛と、恐らく議会から責められるであろう自分の責任であった。
極めて個人的な嗜好ですが映画【トランスフォーマー】シリーズを大変リスペクトしております
ナバルデウスの子供については生態を捏造しました。なんかクジラっぽいやつだなと思っていたのでクジラみたいな子育てをするのかなと。母親は退場済みですが
幼体ナバルはショタだと覚えてください