セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日々のご愛読誠にありがとうございます。
遂に決着です。もう可能な限り書けるとこ入れました。個性が大渋滞してます。書けてないウマ娘もいますが特殊な事情が無い限り実装済み発表済みのウマ娘はみんないるものだと思って下さい


嗚呼、ウマ娘の夏

 

 

 

 

 

 

「「「「トレセーン!!!」」」」

「「「「ファイッ!!!」」」」

「「「「オーっ!!!」」」」

「「「「ファイッ!!!」」」」

「「「「オーッ!!!」」」」

 

 ウマ娘達の掛け声が青雲(セイウン)の空の下響き渡る。

 

『俺様に力で勝とうってのか……!うぉっ!?』

「『勝負になるんだよね、これが』」

 

 オストガロアを釣り上げる策をゴールドシップが提唱した際、《騎士を従える少女》────シャーロット・アーサーは無謀だと反対していたのだがウマ娘達は全く物怖じしなかった。

 日々の強化合宿の中、バルファルクとの綱引きトレーニングで気付いていたのだ。例え超常的な存在であってもそれは確かに今を生きる生物であり、そして生物であるならば絶対に限界は存在するのだと。そうでなくては僅かでもバルファルクを相手に綱を引けるわけが無いのだ。

 オストガロアは魚雷や機雷による損傷と【宿り龍の種】による寄生で衰弱していた。レールガンでの貫通も響いている。オストガロアは必死になって後退しなければならないことに憤慨していた。

 

『雑魚共が!調子に乗ってんじゃねぇぇぇ!!!』

 

 残った触腕を掲げ見境なく蹴散らそうと振り回す。

 だが────。

 

『馬鹿め』

『やらせるか』

 

 左右それぞれの触腕をバルファルク、イナガミが受け止めた。最初の魚雷攻撃で疑似餌となっていた骨鎧が既に剥がれている触腕にかつての堅牢さは無い。バルファルクは槍翼で、イナガミは尻尾を突き刺し様々な植物で触腕を縫い止めた。

 

『なっ!?てめぇらなんなんだ!俺様の邪魔をするな!』

『するなと言われて止める馬鹿がどこにいる。貴様は既に詰んでいるんだ。大人しく釣り上げられていろ』

『往生際が悪い。このまま肥やしにしてやるか』

『くそぁ……!なぜこんな雑魚の味方を……んおっ!?後ろから押してるのは誰だ!』

『ボクだって手伝えるよ!ママの仇だ!』

『クソガキが!どいつもこいつも調子に乗りやがる!』

 

 オストガロアの後方ではナバルデウスが残った角を押し当てて健気な援護をしていた。

 間違いなく進退極まったオストガロア。状況を打破しようと、今度はビームではなく溜める必要の無い単発のブレスを吐こうと口を開いたが直後にその口内へまた何かが突き刺さった。

 

『また口か!今度はなんだ!?』

「オストガロア……暴れすぎ……」

 

 オストガロアの口に刺さったのは謎の光を放つ黒と紫の槍だった。神々しいような、あるいは禍々しさを伴うそれを投げたのはこっそり待機していたネオユニヴァースである。彼女は何故かいつもの服装ではなくこれまた黒と紫の鎧を纏っていた。

 

「"伝言"……『年貢の納め時』……『煌黒銃槍アルメルト』、"点火(ファイヤー)"!」

『ごふぇ!?』

 

 爆薬か何かが装填されていたのか、銃槍は激しく火を吹き上げオストガロアの口内を焼く。銃槍はそのまま突き刺さっておりそれがオストガロアの邪魔になっているのは明白だった。

 

『ゲホッ……次から次へと……!』

「ネオユニヴァース、その纏っている鎧はなんなんだい?随分と異質な物に見えるがねぇ!」

「"異種生命体"……"友達"……"アルメルト"のおまけで『貰ったよ』。スキル構成は『攻撃Lv7』『逆恨みLv5』『体力増強Lv3』……」

「前半はともかく後半が全く分からないねぇ!未知の武装を持ってくるとは大変興味がそそられるよ!」

「これ……一式でガンランス向けじゃない……せめて"砲術"が欲しかった……」

「タキオン!笑ってねぇで腰入れろ!気合い入れねぇとこっちが持ってかれちまうぞ!」

 

 なぜか落胆しているネオユニヴァースと興奮しているアグネスタキオンに発破をかけるジャングルポケット。

 いつの間にか黄金の鎖には四方から親綱が結ばれてウマ娘達がより引っ張りやすいように分散されていた。幾つか伸びる綱の一つはウマ娘ではなく地元の人間達が引いているものもある。周辺一帯は封鎖されていたが封鎖区域内で騒ぎを聞きつけた地元の土建業者が入り込み仕事で鍛えた腕前を発揮していた。親綱は更に道路にも伸びそちらではショベルカー等の重機すらも用いて引っ張り出している。

 

「おらおらぁ!なぁにがクラーケンだ!土方舐めてんじゃねぇぞクソッタレ!」

「親方!ウマ娘ちゃん達の前で汚ねぇ言葉は厳禁っすよ!」

「こちとら工程煮詰まってんだ!こいつの封鎖規制のせいで工期遅れたらどうするってんだよ!」

「親方さん!それ私達でも手伝えます?」

「ん?あんたは……」

「私、メジロライアンって言います。友達の勧めで筋肉使うバイトを探してて……荷物の運搬ならトラックにも負けませんよ!」

「威勢の良い嬢ちゃんだ。気持ちは嬉しいが、まずはこいつを釣り上げてからだ!根性見せろよ!」

「はいっ!うおおおっ!マッスルマッスル!」

 

「うひょぉぁぁぁぁぁ!!!ウマ娘ちゃん達が一同に会して切磋琢磨してるぅぅぅぅぅ!!!尊すぎてもう……ヤバ……」

「で、デジタルさん、こんなところで倒れないで下さい!あともうちょっとなんですから!」

「トップロードさん……それ、デジタルさんのいつもの発作みたいなものだから……放っておけばいつも通りよ」

「ハーハッハッハッハ!どうやら汗水滴る僕の様子が彼女にクリーンヒットしたらしいねぇ!いやはや、僕にこんな美しさを与えてしまった三女神が憎らしいよ!」

「ひぇぇぇ……デジタルさんが倒れてしまいましたぁ……。きゅ、救急車を……確か177を……」

「待ちなさいドトウさん、どうして天気予報の番号と間違えているの!?」

 

「ゴルシのやつ、変な作戦考えついたと思ったら意外と凄いじゃん。ワガハイだって負けてられないもんね!」

「テイオー!今日勝つのはターボだぞ!こいつを10匹20匹釣り上げてやる!」

「いやいや……こんなやつ何体もいないでしょ。いたら大変だって……」

「マーベラース!今日は一段とマーベラスな日だね!ネイチャはそうじゃないの?」

「分かってるよ。……もう、こんな熱血に頑張るのはキャラじゃないんだけどなぁ……!」

 

『ちくしょうが……!こんな、ところで……!』

 

 オストガロアがまごついている間に状況は大きくウマ娘側に傾いていた。無駄に触腕を振り回したり、ブレスを撃とうとしなければまだ良い勝負ができただろう。

 オストガロアがいる水深はもう5mを切っている。既に体の大部分が海面からはみ出ていた。

 骨鎧は剥がれ、触腕は止められ、虎の子のブレスも使えない。バルファルクが言う通り、完全な詰みだった。

 自身がここまで追い込まれることに、下等だと見下していた虫けらに、追い詰められていることをオストガロアは認識したくなかった。ただ目の前の現実からオストガロアは生まれて初めて"逃げる"という選択をしなければならないことを必死に誤魔化そうと足掻いているのだ。

 だが無慈悲にも、その現実を突きつける存在がオストガロアの上に立っている。

 

『……!?てめぇ、いつの間に!』

「『やれやれ、ここまで悪足掻きをするなんてね』」

 

 セイウンスカイはナバルデウスの上から離れオストガロアの頭の上へ登っていた。揺れるオストガロアの体だがバルファルクとのトレーニングで鍛えられた体幹の賜物か、転ばずにしっかりと立っている。

 

「『暴れ過ぎたツケ払う時が来たんだ。君の記憶を覗かせてもらったけど思うままに食い荒らすどころか必要が無い殺戮すら繰り返してるね。知ってる?人間の言葉には因果応報って言葉があるんだ。良い事も悪い事も、やったら自分に返ってくるっていう言葉だよ』」

『知るかそんなの!俺様が何しようが俺様の勝手だろ!』

「『そうだろうね。人間は色々ルールとか法律で縛るんだけど、人間じゃない君に言ったってしょうがない。なら……』」

 

 セイウンスカイが右腕を大きく振りかぶる。いつもは迸らせている龍属性だが、今回のそれは一味違う。右手の一点に龍属性を集中させ極小ながらも濃縮された龍属性の塊を右手に纏う。合宿までの間重ねた制御訓練がここに来てまた一段セイウンスカイを成長させていた。

 さしものオストガロアも気付く。平時ならともかく今あれを喰らったらまずい、と。

 

『おい、ちょっ、待────』

「『言って分からない奴を、待つわけ無いでしょ!』」

 

 狙うは脳天、レールガンが開けた傷口。

 セイウンスカイ渾身の拳がオストガロアに突き刺さる。

 

『ほげぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?』

 

 これが決め手となった。痛みに呻くオストガロアの力が大きく緩み、そして。

 

「「「「「いよっっっしゃぁぁぁあああ!!!」」」」」

 

 勢い良く水飛沫と共に跳ね上がる巨体。

 

 リムパックの攻撃。

 ナバルデウスとセイウンスカイの挑発。

 散布した機雷。

 イナガミの【宿り龍の種】

 レールガンの一撃。

 そして集まったウマ娘や人間達の尽力。

 

 それらが全て合わさり見事、骸龍オストガロアは陸の上に釣り上げられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、本当にオストガロアに勝ってしまうなんて」

「ええ。それも、犠牲者どころか怪我人一人も出していません。見事という他無いかと」

 

 感嘆を漏らすのはシャーロット・アーサーとそれに仕える騎士である。

 彼らは政治的に特殊な立場にあり離れたところで見守ることしかできなかった。本当なら一本釣りに駆けつけたかったのだがそれはアグネスタキオンからやんわりと断りを入れられている。

 彼らの眼前には砂浜に横たわるオストガロアを足場に遊んだり写真を撮ってはしゃぐウマ娘達の姿があった。もうオストガロアの戦意は完全に喪失しているようでセイウンスカイやタマモクロスが色々とオストガロアに言い聞かせているようだ。

 

「犠牲無くして、勝利無し……か」

「アーサー家の家訓でありますね」

「今回、私達は何を犠牲にしたのかしら」

 

 彼らアーサー家の先祖はその昔、ハワイでのオストガロア撃退に大きく貢献している。しかしそれらが書き残された日記には撃退にまで至る激動の人生が綴られていた。撃退への過程で家族を亡くし、友を亡くし、仲間を亡くした先祖の尽力は、最終的にそんな怪物など艦艇喪失を誤魔化す方便だと汚名を着せられ失意の内に没している。

 今回シャーロット・アーサーが成した貢献は大きい。きっと先祖の無念も晴らされるであろう。

 先祖の無念が晴らされることに安堵の息を漏らす二人に、優雅さと気品さを備えて話しかける一人のウマ娘がいた。

 

「こんにちは、アーサーさん」

「貴方は……ファインモーション殿下……」

「もう、殿下はやめてよ。今の私は一人のトレセン生なんだから。畏まるのは無しだよ」

 

 アイルランド王家の王女、ファインモーション。

 彼女もまた一本釣りに参加していたウマ娘である。明らかに危険なオストガロアを相手にSPが止めるのも聞かず参加し、結果的にSP達も参戦したことでオストガロア相手の戦力増強に貢献していた。

 傍らにはもう一人ウマ娘がいる。パソコンを片手にいじっているのはエアシャカールだ。実は今回のレールガンの座標測定には彼女が大きく貢献していた。

 

「エアシャカールさん、先程はどうもありがとうございました」

「礼なんざいらねぇよ。データのほとんどはタキオンがくれたからな。オレはただ計算し直しただけだ」

「もう、シャカールったら照れちゃって。最後まで座標が間違ってないかギリギリまで計算を詰めてたのに」

「なっ、バッ、おまえ……!」

「……お二人は大変仲がよろしいのですね」

「そうだよ。二人でラーメン巡りに行ったりするんだ。ここだって地元の美味しいラーメン屋さんが無いか探してたりするんだから」

「……しつこいから仕方なく、だ。ラーメンは高カロリー高タンパク質を一度に摂取できる機能食品だ。合宿中の飯には悪い選択じゃねぇ」

 

 エアシャカールはバツが悪そうにそっぽを向いていて、それをファインモーションがからかっていた。

 

「お二人は砂浜の集まりに参加されないので?」

「オレは、ああいう人多いのは苦手なんでな……」

「それを言うなら貴方達もだよ。アーサーさん達がオストガロアを知らせてくれたから、みんなで対抗できたじゃない」

「……私は私にできる限りの事をしたまでです。特別な事は何も……」

「それは、何のためかな?」

「何とは……」

「家かな。国かな。それとも信念とか、忠誠とか。あ、別に意地悪で言ってるんじゃないよ。私だってそういうところの生まれだし」

「殿下とは比ぶべくもありません。私よりも殿下の方が……」

「もう、殿下は余計だってば。大事なのはね、その時自分の何を信じたかなんだと思うよ。もちろん立場とか色々あるから難しい時はあると思うけど」

「で……ファインモーションさん……」

「私はね、ここにあの脅威が伝わった時に逃げましょうってお話が来たの。それは別に普通の事だと思うんだ。けど……」

「あン?なんだよ、オレの方を見て」

「ふふふ。面白いでしょ、シャカールったら口では面倒だとかロジカルじゃないとか言うのに、いざとなれば誰よりも求められた数字を計算してくれるの。それが自分にできる一番の事だからって」

「……あー、なんだ、たまたまそういう気分だっただけだ。……こういうのガラじゃねェンだっつうのに……」

「私は友達を見捨てたくなかった。それだけだよ。アーサーさんにも素敵な友達がいるんでしょう?」

「……ええ、もちろんいますよ。とびっきりの、抜ける(スカイ)のような友達がね」

 

「おーい、アーサーさーん!!!こっちに来てよ!みんなに貴方のことを紹介したいんだ!」

 

 遠くから手を振るセイウンスカイ。周囲には彼女の友人であろうウマ娘達も一緒になって手を振っていた。

 

「ちょうど良く呼ばれているようなので、これで」

「うん。また何かあったら、助けになるからね」

 

 そうしてウマ娘達の輪に入る少女。最初はおっかなびっくり、といった体であったがここにいる誰も彼もが仲良くなることに躊躇う理由が無かった。気付けば年頃の少女らしく、姦しく話に花を咲かせている。

 騎士はホロリと溢れそうになる涙を我慢した。未だ成人ならずとも彼女がこれまで家から受け継いだ苦労を最もよく知っていたからだ。先祖だけでなく彼女も報われていることに騎士はただただ安堵の念を憶えていた。

 

「おや、珍しい。我らが主は控えめに言ってもああした交流が得意ではなかったように思っていたのだが」

「貴様……この有事にどこに行っていた」

「いや、なに、オストガロアの痕跡を見つけていたのだが日本に戻るまでに時間がかかり過ぎてね。まさか既に事が終わっているとは、夢にも思わなかったよ」

「いけしゃあしゃあと……。今回に限れば貴様は無能だぞ!今日という今日は貴様のその性根を叩き直してくれる!」

 

 ひょっこりと、騎士の横合いからあの赤衣の男が顔を出していた。オストガロアを察知したのは良かったのだが太平洋のど真ん中での辺境だったためネットや携帯の電波も通じず船も天候で動けない時があったため色々と大変だったらしい。

 大の男が二人、一方は生真面目に激昂しもう一人はそれをあしらっている。意外にもそれは主人たるシャーロットに目撃されていて、今後そのネタでからかわれるこもになるのだが今この時はまるで男子のようにじゃれ合う姿を見守られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 未だ喧騒は鳴り止まず、むしろその熱は度合いを増していた。

 

「『はいはい!みんなちゃんと順番守りや!焦らんでもたこ焼きは無くならんで!』」

「もっきゅ……もっきゅ……。やはりタマのたこ焼きは最高だ。こんなにも食べられるなんて……」

「たこ焼きだけじゃありませんよ~。こちらのイカフライはどうですか~」

「いや本当にどっちなんでいこれ。でも多分食感的にイカか?」

 

 オストガロアの前では簡易的にグリルを設置し、そこにたこ焼き用のホットプレートを使ってタマモクロスがその辣腕を振るっていた。たこ焼きだけでなく、普通に焼いたイカ焼き、揚げ物にもしていてセイウンスカイがオストガロアに送ったイメージが現実そのままになっている。

 当初未知の生物を食べることにシャーロットが有毒な物質等の危険性を懸念していたが、釣り上げられて速攻で検体を採取したアグネスタキオンがその心配は無いと太鼓判を押していた。当然ゴールドシップが宣言した作戦通りウマ娘達の関心は食に向くわけで、バルファルクの槍翼を使いあの触腕を解体したのだ。

 

『ち、ちくしょう。俺様の腕が……』

「『いや、君どうせ再生するでしょ。また生えるなら別に良くない?』」

『なんで分かるんだよオメーはよ!暴れ過ぎたとか言う割にてめぇも好き勝手過去を覗きやがるじゃねぇか!』

「『別に私は他人様に迷惑かけてないもーん。少しは自分の振る舞いを反省したら?』」

『てめぇもてめぇで問答無用の過去視ずるくねぇか……?』

『んっ……くっ……。ほう、中々旨いな貴様の足。人間が加工したものにこれまで興味は無かったんだが……この弾力と醤油の味がまたなんとも……』

『醤油も良いがこのバター焼きも中々だぞバルファルク。この香ばしさは作物では出せんな……』

『ボク海に浮かんでるのを食べてるから、そういうのは食べないんだけど……また生えるならまた食べられるってことじゃない?』

「『おお、ナバルったらええ事思い付くなぁ!そんならほんとにいくらでも食えるで』」

『えっ、俺様の腕また食われるの!?』

「タマ、まだ食えるのか!?」

 

 もうしっちゃかめっちゃかである。

 砂浜にはいつの間にか誰が組んだかキャンプファイヤーが灯されており、周囲にはこれまた出所不明な様々な色の電飾が付けられていてさながらライブ会場である。

 情報の保全はどこへやら、四頭の龍相手に各所では記念撮影が絶えない。なんならよじ登ったりして触れあいを楽しむウマ娘すらいた。

 

「うわ、マジ、ヤバ。これみんなドラゴンなんだって」

「バルファルクは分かるけど~オス……オスなんたらはタコじゃない?」

「あれ、あっちじゃイカって言ってなかったっけ」

「たこ焼きとイカ焼きどっちもあるじゃん。どっちでも良くね?」

「何このオレンジの~。一緒に食べてる~。この子もドラゴンなの?イカ焼き美味しい?」

「ねぇ見てみて、タマ先輩の言ってた子供の龍ってこの子だよ。子供なのにこんなにおっきいんだ」

 

「『イナガミ平気か?あんまり人多いの、嫌やないか?』」

『案ずるな。昔ほど嫌ってはいない。むしろおまえが同じ年頃の者と上手く付き合えているのが分かって良かった』

「あら~タマちゃんちょうどお話してますね~。タマちゃんもドラゴンと話せるってほんとですか?」

「『せや。実は今年の1月に実家帰ってたらこいつに誘拐されてもうてな……』」

『ゆ、誘拐!?いや確かにそうだが……待ってくれ悪気は無くてだな……』

「あら、ドラゴンも慌てるんですね。イナガミっていう名前だったかしら?私は言葉が分からないけれど悪い子じゃないのは分かりますよ~」

 

「ネオユニヴァースよぉ。さっきのあれなんなんだ?めっちゃイカしたもん着てたよなぁ!」

「"友達"……貰い物だけど返した……欲しいのは『ゾラマグナシリーズ』……『ブラキウム』も捨てがたい……」

「えぇー!?あれを返してしまったのかい!?調べたい事が山ほどあるというのに!?」

「タキオンさん、あれはおそらく異界の品ですよ。そう長くこちら側に留めていい代物ではありません」

「まぁまぁ。無事事件は解決したんだからいいじゃない。オストガロアだって調べる事はいっぱいあるでしょ?」

「ふむ、まぁダンツ君の言う通りではある……。よし、後で君たちの検体を採取させてくれたまえ。もしかしたら龍を食べたことで何かしら変化があるかもしれないからねぇ」

「はぁ!?タキオン、てめっ、これ実験じゃないとかほざいてたよなぁ!?やっぱなんか入ってたりしてねーか!?」

「別に嘘は言っていないさ。龍を食べるという前代未聞の状態を調べないわけにはいかないだろう?」

 

「セイちゃんお疲れー!オストガロアにとどめを刺したパンチ、カッコ良かったよー!」

「『いやいや。私は最後の仕上げをしただけだよ。スペちゃん達みんなのおかげじゃない』」

「それは傲慢な謙遜というものよ、スカイさん。勝利の一番の立役者がそんな調子じゃ締まらないわ」

『そうだぞ、セイウンスカイ。最後の一撃は見事だった。あれならそこそこ他の龍相手に戦えるんじゃないか』

「『まず戦いにしたくもないんだけどねぇ……』」

「皆さん、ちょっと思い付いた事あるんですけど、内緒話、良いですか……?」

 

 やいのやいのと、ヒトも龍も共に宴は続いている。

 グラスワンダーが提案した先には足場を組み立てて簡易的な舞台のセットを作っている鳶職人の姿があった。先程共に重機を用いて綱引きに参加した地元の土建業者が呼んだらしい。どう考えても業務外の作業なのだが、どうせしばらくは封鎖区域で工事が進められないからとノリよく来てくれたようだ。

 

 ウマ娘に舞台、それらが並べばやる事は一つだ。レースはもちろんだが同じくらいウマ娘は歌って踊るのが大好きなのだ。

 

「『アッハハハ。それじゃあアーサーさんも見ててよ、私達のライブ。バルファルクも近くで見るのは初めてだよね』」

『おう、行ってこい。好きなだけ楽しむんだぞ』

「ええ、全力で楽しませてもらうわ」

 

 

 

 

 

 夏真っ盛りのこの8月。

 レースにグルメにライブに、ウマ娘達の夏は太陽よりも熱く燃え上がっている。

 ならこのゲリラライブで歌うのはこの曲以外無いだろう。

 

《みんな一緒に、UMA Summer !》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月。

 色々ありすぎた8月を乗り越えて合宿は終了した。

 オストガロア襲撃を越えてからはイナガミやナバルデウスもトレーニングに参加し(オストガロアはちょうど良いジャングルジムのような扱いである)セイウンスカイだけでなくあの場にいた全てのウマ娘達が充実した夏を送っていた。

 

 そして全てが終わったと思っていたセイウンスカイは調子に乗っていた。浮かれていたとも言う。

 合宿が終わったセイウンスカイが向かわされた先はトレセン学園ではなくシャーロットが泊まっていた帝国ホテルである。制服に着替えトレーナーと共に入っていった先は記者会見会場だった。

 

 貴賓ある長机に並ぶのは錚々たる面々。

 セイウンスカイの左にまずいるのは学園長秋川やよい、これはまだいい。トレセン学園の生徒が巻き込まれているのだから。

 秋川やよいの更に左にシャーロット・アーサー、英国海軍にオストガロアを知らせ間接的にリムパックを動かした立役者である。これもおかしくはない。

 

 ここからセイウンスカイは現実逃避を始めていた。

 

 セイウンスカイの右にはトレーナーがいるが、その更に右にいるのは時の内閣総理大臣である。日本を襲った未曾有の怪物襲撃事件に重い腰を上げざるを得ず。

 そして更にその右にはリムパック総司令を務めていたワイルダー艦長も立派な制服に身を包んでいた。胸には幾つもの勲章が輝いている。

 

 そしてその中央に座るのがセイウンスカイであった。

 

 ごく当たり前の話ではあるが、あれだけの事件が話題にならないはずが無いのだ。封鎖されていたとはいえ封鎖の外では報道陣が大挙していたし空撮ヘリで戦いの様子が生中継で記録されていた。

当然セイウンスカイがバルファルク達と話している様子もしっかりネット上に流失している。何だったらその後の綱引きも触腕を食べている姿もゲリラライブで楽しんでいる様子も。イナガミの存在もバレているし集まっていたウマ娘の何人かはSNSに記念写真として龍達との写真を載せている始末である。

 もう誤魔化せるどころの話ではない。

 

(やべ、羽目外しすぎちゃった)

 

 因果応報。

 セイウンスカイは一月前の自分のセリフを心の底から呪っていた。

 

 

 

 

 




セイウンスカイ「助けて(;・ω・)」
政府「ごめん流石に無理(@_@;)」

オストガロアとナバルデウスの処遇については次回にて
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