セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日々のご愛読いつもありがとうございます。
本日は二話投稿となります。もう1話は纏めですが
事実上オストガロア編のエピローグっぽくなるのかな。まぁまだまだ続きます。もっと出したいモンスターいるので
さてオストガロアとナバルデウスがどうなるのか、どうぞ


事の顛末

 

 

 

 

 

 

「……従って今回の自衛隊の出動には何ら違法性はなく、災害派遣事例の一つとして認むものと考えております。えー、また、リムパック環太平洋合同演習につきましても、今回の事例におきましては共に協議を重ねた上での合同作戦であり……」

 

(わー、すご。ほんとにテレビとおんなじ感じで話すんだ)

 

 淡々と今回の事件について政府見解を交えた説明を行う総理大臣。それを本当はテレビか何かを介して見るはずだったセイウンスカイはテレビに映る側として同じ記者会見会場で聞いていた。

 眼前には数えるのがバカらしいほどの記者とカメラが並んでいる。時折明滅するフラッシュに視力が悪くなりそうだと会見そっちのけでセイウンスカイは現実逃避していた。

 

 

 

 

 

 合宿を満喫していたセイウンスカイ。

 あれだけの事があって混乱無く過ごせていたが、それは合宿の中だけでそれ以外では政府が対応に追われていた。

 合宿期間中セイウンスカイらウマ娘達が平穏に過ごせたのはひとえに自衛隊からの計らいである。本来であればトレーニングに精を出す日々だというのに、報道陣などがやってきてはそれどころではない。事件は1日で終結しているが、その後も合宿期間中はウマ娘達のために封鎖規制が継続された。これに関しては自衛隊側の独断であったが、総理大臣が最終的に許可を出している。オストガロアはそのまま生存していたため名目上は危険生物の警戒警護ということで理屈を通していた。

 

「……事件の全容としましては、シャーロット・アーサーさんからの要請にリムパックと自衛隊双方で応じた形となります。被害についてですが、現状、人、物いずれにおいても損害等は確認されておりません……」

 

 セイウンスカイが記者会見に出席しなくてはならなくなったのを知ったのは合宿が終わる前日であった。

 政府は何としてもセイウンスカイを守るために、表舞台に立たせたくなかったのだが国内のみならず国外からも正規非正規問わずセイウンスカイの説明を求めていたのだ。元々セイウンスカイはバルファルクに目を付けられた少女としてある程度の知名度はあったのだが、文字履修騒動以降は時の流れで注目は少なくなっていた。しかし今回になってそれが再燃している。単にバルファルクとの関係性だけでなく、右手に纏ったあの謎のエネルギーは何なのかという疑問も飛び交っていた。

 記者会見会場に入る前、ギリギリの時刻に僅かだが総理大臣からセイウンスカイへ電話がかかっている。初めに謝罪から入りそこからどうしても無理ならこちらで何とかすると総理大臣は徹底してセイウンスカイを案じていたが、それをセイウンスカイは断った。何せセイウンスカイ自らのやらかしである。セイウンスカイは多くの大人達に守られていることを自覚しておりそれに報いたいと考えていた。

 

(あのパンチ、見えてたんだ。ダービーの時はみんな見えてなかったのに、油断したなぁ……)

 

 どうやら龍属性は一定の濃度で一般人が可視できるかどうか変わるらしい。元々ダービーの時の暴走でその可能性に当たりはつけていたのだが、流石に対オストガロアでそれを意識する余裕はなかった。

 

 現在はシャーロットが説明を引き継いでいる。セイウンスカイと同い年だというのに貴族としての振る舞い故か毅然とした振る舞いで説明を行っていた。今回のシャーロットの立場としては未確認生物の専門家での登壇であった。別に嘘は言っていない。シャーロットはこれまで追ってきたオストガロアの生態について詳しい解説を行っている。

 学園長秋川やよいもそれに続いた。今回は多数のウマ娘が最後の綱引きに参加していたが、それはあくまでも現地のウマ娘が善意によって参じたのであり、学園としてオストガロア戦に協力せよと命じたわけではないという説明であった。これもそのまま真実である。一部では若いウマ娘の身体能力をあてにして協力を強制したのではないか、という批判の声が上がっていたためそれを真っ向から否定する内容だ。学園長秋川やよいはウマ娘の自主性を強く重んじておりその意思を殊更に大事にしているのである。

 

「スカイ、君への質問はなるべく他の人達が引き継いでくれるからね」

「えっ」

 

 隣でトレーナーがセイウンスカイに小声で言い聞かせる。

 それは共に出席するセイウンスカイ以外全員の真意だった。

 今はまだ淡々と説明が続いているが記者が一番関心を向けているのは間違いなくセイウンスカイである。善良な記者もいるにはいるだろうが、大半は面白おかしくセイウンスカイを好き勝手に記事にしたいのだ。共に会見に出席するセイウンスカイ以外の全員はそんな目に遭わせないと確かな覚悟を以てこの会見に臨んでいた。

 

(アーサー家への不名誉なら甘んじて受けましょう。それは私が受けるべき責だから。けれど、私の()()には如何なる悪口も許さない……!)

 

 よく見ればトレーナーの手が震えている。セイウンスカイはそれを見て緊張しているのは自分だけでないと少し安堵を感じていた。

 時折レースへの出走表明や告知すべきニュースとしてウマ娘側から会見を開くことはある。しかしこういった形で会見に臨むのはトレーナーとしても本意ではないだろう。

 

 説明は最後にリムパック総司令であるワイルダー艦長に移っている。日本語通訳を交えながら厳格に説明を行っていた。

 リムパックへの疑惑としては演習の作戦名であるクラーケン作戦は事前にオストガロアの存在を察知していたからではないのかという疑惑であった。しかしこれについてはあっさりと認めた。既にシャーロットから要請があったのでそれに対応したという説明である。

 シャーロットはセイウンスカイから事前に謎の龍から警告があったということを話していない。シャーロットがオストガロアを調べている内にオストガロアの襲撃を予測しそれをリムパックへ要請、ウマ娘達はそれに巻き込まれただけに過ぎないのだという体で説明を通していた。

 

 あらゆる説明は徹底してセイウンスカイに衆目の目が向かないような配慮を重ねている。あくまでもセイウンスカイは巻き込まれただけであると強調していた。

 

 

 

 

 

 説明は戻って総理大臣である。総理大臣からは無力化しながらも生存しているオストガロアやナバルデウスについてどのような処置を取るのか、今まで全く音沙汰がなかったイナガミについての説明も行っている。

 

「……まず巨大未確認海洋生物、呼称オストガロアについてですが、これはアーサーさん監修の元、GPSを取り付けた上での放流となります。オストガロアは常に監視下に置かれ再度襲撃の予兆があれば米海軍と共に対応する運びとなっております……」

 

 実はオストガロアの処分については1ヶ月丸々揉めていた。当初こそ人類への敵性生物として討伐すべきという意見が強かったのだがそうすると残った死骸をどうするかという話になる。未知の巨大生物故に検体を欲しがる国家や組織はいくらでもいる。

 もし検体を切り分けるとなるとリムパックに参加した全ての国に権利がある。しかしそれを行った場合中露を含む反米勢力から大きなバッシングを受けるのは避けられない。日本は親米国でありつつもイラン等の反米国とも比較的良好な関係性を維持している。当事者ではないにしても、親米勢力にだけ利益があるのは彼らとしても面白くないだろう。かといって声が大きいだけの中露に渡すつもりは全く無いのも本当だった。

 それに待ったをかけたのは米国である。米海軍ではむしろ生かしておいてそれをレールガンを搭載した駆逐艦で監視していればいいという意見が出されていた。米国側の事情としては意図せずして秘密兵器であるレールガンが露見していたために、逆にここで見せておいてレールガン保持の妥当性をオストガロア監視によって保とうとしていた。

 検体については既にアグネスタキオンが採取したデータがありそれを無料公開するつもりである。この1ヶ月間でアグネスタキオンは細胞や体液等を徹底して調べあげており今後も研究の第一線を担う予定だ。

 

 セイウンスカイとしては人類を襲うことを反省して悪行を働くことが無ければ良いという見方であった。本当にどうしようも無ければ仕方ないが、生きるために他の生物を捕食するのは当然なのでその方面を咎めるつもりは全く無い。

 そもそもオストガロアは骨を剥がされ両腕を切断され口の中にはネオユニヴァースの銃槍が刺さったままであるため大きく弱体化している。監視できるなら大きな危険性は無いとの見方であった。

 

 結果としてオストガロアは人類側の、それはそれは入り交じる政治的な都合によりその命を保証されることとなった。建前としてはクマなどと同じように、危険生物ではあれ希少な存在でもあるため一度捕らえた後野生に帰すのと同じ扱いである。もちろんこの決定でも中露は難癖を付けるだろうが、レールガンを持たない国に何ができると逆に米国側が強気の姿勢を見せていた。オストガロアの生息圏は太平洋でありその太平洋を勢力圏とする覇者は米国に他ならない。日本もまたかつて太平洋の覇権をかけて米国と争った仲であり当然米国と軍事同盟を結んでいるため堂々とオストガロアの監視に参加することができた。

 

 ちなみに肝心のオストガロアは四六時中監視されることを嫌々ながらも了承している。感知できない範囲から一方的に狙撃されるのは彼としても御免被るとのことで、当初の威勢は嘘のようにセイウンスカイの言葉に従っていた。しばらくは深海に潜りダイオウイカ等を狩って過ごす予定だという。

 もうこんな目はこりごりだと、反省しながら海に帰っていった。

 

 さて次はナバルデウスである。こちらもGPSが付けられることとなったが監視下に置くわけではなかった。既にジンベエザメ並みの体躯を誇るのにも関わらず更に大きくなるという予測が出ているのだ。GPSを付けるのは単に近隣を通る船舶への警戒表示である。もちろんナバルデウスに船を襲う意思は全く無いが、それはそれとして自分の大きさが色々と人間達に影響を与えてしまうのをタマモクロスから教えられていた。こちらは目の前で母親を喪ったばかりでありタマモクロスと離れることをひどく嫌がっていたため現在は東京湾にその身を移している。ウマ娘達と遊びながらトレーニングに付き合ったこともあり人間に対して非常に友好的な存在となっていた。

 しばらくは多くの人達に見守られながら、ゆっくりと着実に成長していくだろう。

 

 そしてイナガミ。こちらは元々日本国内に生息していた未確認生物であるという見方であった。タマモクロス誘拐については完全に秘匿できていたため一切公表せず、逆に以前から秘密裏に協力関係を構築できていたという形で説明した。植物を操る特異な能力については現在も調査中で科学的根拠が確立されないために詳細は不明とのことである。

 今回説明があった龍の中では最も説明が少なかった。農業での協力研究もまだ話していない。自由自在に農作物を育てられる能力は依然として詳細不明ということの方が混乱させずに済むという見方であった。

 

 またタマモクロスも龍と話せるがどうやらネットやメディアでの話題はセイウンスカイに集中しているらしく意外にもタマモクロスについては露見していない。一番目立っていたセイウンスカイと比べてイナガミと一緒にいただけのタマモクロスは他のウマ娘と大差無く見えていたようでたこ焼きウマ娘としての知名度の方が勝っていた。

 

 

 

 

 

「それでは質疑応答に移ります。質問は一人一回のみ、質問がある方は手を上げて頂いて所属とお名前を……」

「はい、毎朝新聞の山田です。先程の説明の中でセイウンスカイさんへの言及がありませんでした。多数の目撃情報からセイウンスカイさんがバルファルクと会話できているという証言が上がっていますがこれの詳細をお聞かせください」

 

(遂に来た……!)

 

 意図的にぽっかりと穴が空いたようにセイウンスカイへの説明が無いのだ。当然質問の対象になる。

 

(え、え~っと……)

「セイウンスカイさんはバルファルクとの信頼関係があるため、こちらから協力を要請した形になります。セイウンスカイさんとバルファルクがどのようなコミニュケーションを取っているかについてはプライベートなものとして考えていただくようお願いします」

 

 食い気味に来た質問にセイウンスカイが慌てるも即座に総理が返している。流石に総理ともなるとこうした場での受け答えは場数が違う。

 しかし記者も当然そんな説明で納得するわけが無く。

 

「総理、申し訳ありませんが私はセイウンスカイさんに聞いています。実際どうなのでしょうか」

「え、え~っと、その~」

「あくまでも、プライベートなやり取りです。それ以上はお答え致しかねます」

「私はセイウンスカイさんに聞いてます!……」

 

 好奇の目がセイウンスカイに向けられている。

 総理の表情を見てふとセイウンスカイは思った。

 

(もしかして一番知られたらまずいのはゴグマジオスのこと?)

 

 セイウンスカイの懸念通りである。イナガミはまだ誤魔化せるつもりだが、明らかに重油らしき液体を排出しているゴグマジオスは外交上大きな問題を生む。そしてセイウンスカイが話せるようになったのはまさにゴグマジオスとの一件だ。

 

(下手に話せるとかっていうといつ頃からとかそういう話にシフトするんだ。言われるままに答えたらゴグマジオスに気付く人が出てきちゃう)

 

 ゴグマジオスのいる大穴は既に大型の採掘プラントが完成しておりゴグマジオスの収容は完了していた。ゴグマジオス自身も必要な分の食料は食べ終え既に休眠している。

 それでも過去にこの一年で何の脈絡も無い場所に大量の硫黄を運んでいるのは怪しさしかない。下手な事を呟けば政府の炎上どころでは済まなくなる。

 セイウンスカイは意識を切り替えた。セイウンスカイの十八番といえば面白おかしく相手を騙すことだ。

 眼前では最初の記者が総理相手に五月蝿く喚いている。本来なら他の記者だって質問したい事があるだろうに、むしろ野次を飛ばしてイケイケと煽っているのだ。総理はそれに対応している。

 

 セイウンスカイは意を決してそれに割り込んだ。

 

「……ですからね、総理!私が聞いているのはあくまでセイウンスカイさんであって総理では────」

「え~っとですね、私がバルファルクと話せるのは本当です」

 

 一瞬静まり返る会場。次の瞬間にはまるで爆発でもしたかのように連続でカメラのフラッシュが炊かれセイウンスカイに注目が集まっていた。

 

「そ……それは本当なんですか!?」

「本当です。鳴き声とかニュアンスとかじゃなくて、私とバルファルクはお互いに会話できます」

「お……おお……」

 

 どよめく会場。先程まで対応していた総理を見れば何とも言えない表情でセイウンスカイを見ている。一瞬だけ目を合わせ、セイウンスカイなりに何とかするつもりで話を続けた。

 

「それでは……いつ頃から話せるように────」

「質問は一人一回ですよ。次の方に譲って下さいね」

 

 少し茶目っ気をきかせて記者を諭すセイウンスカイ。重要なのは場の流れを自分で掴んでコントロールすることだ。

 

「はい。……夕方新聞の佐藤です。先程バルファルクと話せるとおっしゃいましたがそれはどのようにして行われているのでしょうか。バルファルクが我々の言葉を理解しているのか、セイウンスカイさんがバルファルクの声を理解しているのか、またそのいずれでもないのでしょうか」

「当たらずとも遠からず、です。バルファルクを含めてああいうドラゴン達は何故か特定の人間の言葉だけが分かるということがあるみたいです。その特定の人間の一人が私なんですが当初私はバルファルクの言葉が分かりませんでした。交流を重ねていく内に理解できた、という形です」

「バルファルクが人間の言葉を理解できているわけではないと?」

「あくまでバルファルクが分かるのは私の言葉だけです。どうして言葉が通じるかについては私達自身も調べている最中でよく分かっていないんです。アーサーさんによれば、過去にそういった人達はいたみたいなんですが弾圧があったようで詳しい記録は残ってないそうなんです」

 

 大きく頷くシャーロット。セイウンスカイが過去の"龍呼びの声"について初めて聞いたのは騎士を上野に案内した時だったのだがそこでの話を織り混ぜて話していた。

 実のところ弾圧があったかどうかは定かではない。"龍呼びの声"の記録が残されていない理由に推論でそういう事情があるのではないかと考えただけだ。しかし重要なのは真実かどうかではない。弾圧という概念は一部の人権主義者が過剰に反応するセリフだ。自らをかつて迫害された可哀想な人種()()()()()()と定義することで強硬な意見を先んじて封じ込めるのだ。

 このセイウンスカイの意図にトレーナーを除く会見の出席者全員が気付いていた。政治家ではないトレーナーが気付かないのは仕方ない。人種差別は米国・英国にとって慢性的な問題であると言えるし、秋川やよい・総理も政治的に必要な立場の振る舞いを理解している。

 これはセイウンスカイなりのキラーパスと言えた。

 

 幾人かの記者はここでセイウンスカイがドラゴンを操っているのではと声をあげようとしていたのだがこれで封殺された形になる。昨今は過剰な人権主義が蔓延っているせいで社会的少数者(マイノリティ)への指摘の声はかなりデリケートなものとなっているのだ。

 

「セイウンスカイさんがおっしゃられたように私達アーサー家でも調べてはいますが詳しい事は分かっていません。ですが、世界各地にドラゴンと共に生きた伝説が残っています。ウェールズにおける【ウェルシュ・ドラゴン】もまたその一つです」

 

 記録には乏しいが過去いなかったわけではない────。

 ドラゴン伝説は世界各地にある。ヨーロッパにおいて人を襲う邪龍ファヴニールもいれば、穏やかに過ごしていたとされるシャヴォンヌ湖の白竜もいる。エジプト・ギリシャでは双頭の龍アンフィスバエナ、インドでは帝釈天インドラと戦ったヴリトラ、そして日本では伊吹大明神として今なお信仰を集める八岐大蛇などその伝説には枚挙に暇が無い。

 

「私達アーサー家は初代ジョン・アーサーの遺志の下、立ち上がった家系となります。今回のオストガロアのように、単独で人類に大きな被害を与えかねない生物もいるため、そうした被害を未然に防ぐ意味でも我々が活動しているのです」

 

 シャーロットが締めくくる。質問のターゲットをシャーロットへ移すことでセイウンスカイに焦点が当てられることを防いでいた。

 

「質問は以上ですかね。では────」

「すみません。共文通信の中田です。セイウンスカイさんは今後もレースに出るつもりで?」

「ええ。もちろんそうですが────」

「やめた方が良いんじゃないんですか?」

「え……」

 

 記者のセリフにセイウンスカイは凍ってしまった。あまりにも無遠慮な発言に冷静さを忘れかける。

 

「だって、危ないじゃないですか。セイウンスカイさんだけの言葉が分かるっていうんならそれ目掛けてくるんじゃないんですかね。それにほら、バルファルクがトレセンのターフを陣取ってるんでしょ?他のウマ娘だって迷惑してるんじゃないんですか?」

 

 セイウンスカイは知る由もなかったがこの記者は質問にかこつけて自身の思想を押し込む活動家的な側面がある悪質記者として有名だった。質問とは名ばかりの持論をどんどんと展開する。

 

「話せるだけじゃないでしょ?あのイカにパンチしてたし。レースで走るのに色々フェアじゃ────」

「レースには出ますよ」

 

 答えたのはトレーナーだった。静かに、それでいて明らかな憤怒を瞳に燃やして悪質記者を見ている。

 

「いやいや、それって無責任じゃ────」

「質問に質問で返しますが、それは貴方個人の意見なのですか。それとも会社の意思で?」

「いやぁ、それは……」

「どっちでもいいですが、セイウンスカイは仲間や友達と共に切磋琢磨しながらレースに臨んでいます。それは同期であるライバルも同じです。フェアも何も、レースに出れば誰もが同じなんです。特に犯罪を犯したわけでもないスカイを一方的に晒しあげるような真似を私は容認しない」

「なっ……」

「それで、どっちなんですか。こちらはレースに出ると答えました。曖昧にして答えを言わないのは貴方の言う無責任なんじゃないんですかね」

「……いや、えっと……もういいです」

 

 憮然としながらもこれ以上は旗色が悪いと判断したらしい。悪質記者は大人しく座っていた。

 セイウンスカイはこんなトレーナーの表情を今まで見たことがなかった。セイウンスカイにとってトレーナーとは、ある意味の憧れで優しさの象徴である。それがここまでセイウンスカイのために怒ってくれていることがどうしようもなく嬉しく感じて先程の悪質記者の質問など忘れてしまっていた。

 

「時間も押していますので最後に────」

「はい!月刊トゥインクルの乙名史と申します。セイウンスカイさん、まずは大変なご尽力お疲れ様です。色々と大変な目に遭われたかと思いますが、今後レースに影響などあったりしますか?」

「レースに影響はありません。今後も走っていくつもりです。そして……」

 

 セイウンスカイはチラッとトレーナーを見る。そこには先程の悪質記者に怒っていた様相は無く穏やかにセイウンスカイを見守る姿があった。

 

(さっきのもカッコいいけど、やっぱりトレーナーは優しい顔の方が好きだな)

 

 セイウンスカイは宣言する。自分はウマ娘なのだ。政治の難しい事は大人に任せればいい。言うべき事は一つだけ。

 

「クラシック最後の菊花賞、そこで私は勝ちます。私はウマ娘です。だから、私を信じる人も、そうでない人も、私の走りを見に来てください。それが、私の全てです」

 

 記者会見の場を借りた宣言に思わずシャーロットは小さく拍手をしていた。秋川やよいは満足そうに頷き総理大臣・ワイルダー艦長も口元を綻ばせている。

 そしてトレーナーはセイウンスカイのその言葉に全力で応えるつもりだ。合宿中共にトレーニングした仲であれど、スペシャルウィークやキングヘイローに向けて自分は健在だと示す意味もある。

 結局のところウマ娘なら走るしかないのだ。それが自分を応援する全ての人達への恩返しになるのだと、セイウンスカイは決意を秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紆余曲折あった記者会見は最終的にセイウンスカイの言葉に妄想を垂れ流した乙名史記者が叩き出されるハプニングで終了した。

 セイウンスカイが公的に表明した事実に報道各社はこぞって書き立てる。皐月賞勝利とは違う熱気にセイウンスカイは辟易するが、自分で蒔いた種なのだからそこは許容範囲内だ。

 

 帝国ホテルからの帰り際、自分の一言一句の恥ずかしさに身悶えていたセイウンスカイだったが外は入れなかった記者や見物人でごった返していた。車に乗り発進させるが人の波に囲われて中々思うように進めない。

 

「人多すぎ……会見で全部言ったんだけどな……」

「困ったな。これじゃトレセンに帰れないじゃないか」

 

 プライバシーなど知らないとばかりに写真を撮り続ける外野。凶悪な事件を起こしたわけでもないのにこの扱いは如何なものかとイラついていた時だった。

 

「お、おい。今空を飛んでるのって────」

 

 外野が騒ぎ立てる。そうして幾ばくかの猶予を以て離れていくと車の前にバルファルクが降り立った。突然のバルファルクに外野は驚き遠巻きに見ているだけである。

 

「『ちょ、どうしたの、バルファルク!?』」

『なに、進むのに困っていたようだったからな。俺がいればこいつらも下がるしかないだろう?』

「『待って、ここの人達は君をよく分かってないんだ。カメラのフラッシュとか────』」

 

 パシャリ。

 カメラのフラッシュが炊きつけられる。

 その光景にセイウンスカイは顔を青くしてしまう。バルファルクはその鋭すぎる視力から過剰な光には弱いのだ。まだバルファルクがただの動物だと考えられていた頃にそれが原因で人を襲ってしまうくらいには危険な行為である。

 

「『ば、バルファルク……?』」

『……』

 

 しかしセイウンスカイの懸念とは裏腹にバルファルクは大人しく佇んでいた。周囲を見渡し、やがて一人の人間に目を付けると素早い動作で持っていた携帯を口で奪ってしまう。

 

「『バルファルク、何してるの……?』」

『セイウンスカイ、よく言い聞かせておけ。俺にこんなものを向けるな、とな』

 

 バルファルクは携帯を噛み砕き、念入りに前足でこれ見よがしと踏みつけていた。バルファルクなりのパフォーマンスだ。

 車窓から身を乗りだしセイウンスカイは大きく叫ぶ。

 

「『すいませーん!バルファルクってカメラのフラッシュとか大きな光が苦手なんで携帯のフラッシュ切ってもらえませんかー!じゃないとこういう事になるので!』」

 

 バルファルクの示威行為にどんどんと人は遠ざかっていった。セイウンスカイが話せるとはいえ相手はれっきとした人外だ。その気になれば幾らでも殺戮できてしまう。無論バルファルクにそんなつもりは毛頭無いが、危害を加えられるかもしれないと思わせることには大きな意味があった。

 

「『ありがとう、バルファルク。これでトレセンに帰れるよ』」

『礼を言うほどでもない。さっさと帰ろう、トレセンにな』

 

 ようやく道が空き帰途に着くことができたセイウンスカイとトレーナー。空には建物にぶつからないよう低空飛行で東京の空を飛ぶバルファルクがいる。どうやらトレセン学園に着くまでの間先導するつもりらしい。

 

「バルファルクに助けられたな。帰ったらお礼しないとね」

「『お礼はいらないって言ってますよ。それより早く帰ろうって』」

「帰る……か。バルファルクはトレセン学園を帰る場所だと思ってくれてるんだね」

 

 トレーナーのその言葉にしみじみとするセイウンスカイ。バルファルクがトレセンにやってきてもう二年になるのだ。馴染むのには十分な時間である。

 

「トレーナーさん。この先どうなるか分かりませんし、きっとまた色々巻き込まれると思うんですけど……それでも私は走っていきたいです。トレーナーさんとだけじゃなくて、チームのみんなや友達、何よりもバルファルクと一緒に」

「君の願う道行きを助けるのがトレーナーの役目だからね。いくらだって巻き込まれるさ」

 

 星に願いを。

 空に瞬く赤い流星に、セイウンスカイは進む道行きの躍進を願っていた。

 

 

 

 

 




難産でした。もしかしたら冗長になってたかもしれません。
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