さて夏の合宿が終わり心機一転の9月。色々バレちゃったセイウンスカイ達がどう過ごすのか、どうぞ
「大変な目に遭ったなぁ……」
「スカイさん、お疲れ様。でもこんなところでへばってちゃ困るわよ」
「そんなつもり無いから安心してよ、キング。あんな大見得切っちゃったからにはね……」
「立派な啖呵だったわよ。そうでなくちゃこのキングが競い合う相手相応しくないもの。貴方も一流の振る舞いというものが分かってきたわね」
合宿が終わり9月。
様々な物議を醸した記者会見を終えたセイウンスカイは学園生活に戻っていた。
いつも通りの日常、と言いたいところなのだが流石に目立ち過ぎている。同じトレセン生と言えど遠巻きに観察する視線が多いのだ。キングヘイローを始めとするいつもの友人達は変わりないのだが、学園内を出歩くだけで好奇の視線に晒されるのは何ともむず痒かった。
「プリントはこれで全部だっけ」
「まだ教室にあるわよ。各科目ごとに分けなきゃいけないの。二人で手分けすれば早いわ」
セイウンスカイに注目が集まろうが勉学は待ってくれない。菊花賞に向けて準備するセイウンスカイだが、学生の本分は勉強だ。
合宿中はトレーニングだけでなくしっかり夏休み中の課題も出されている。小学校の時程悩むような量ではないが、合宿中勉強が疎かになりがちな生徒のためを思って合宿までに行った授業内容を復習する小冊子が配られていた。
「いやぁ~スペちゃん、ここの漢字間違えてるなぁ。うわ、エルもだ。百歩譲ってエルは帰国子女だから言い訳できるけど……。いやグラスは書けてるからダメだねこりゃ」
「スカイさん、他人のプリントを盗み見なんて、行儀が悪いわよ。知られたら大変じゃない」
「いやいや、プリントの隙間から見えちゃったんだって。不可抗力ってやつですよ」
「全く……」
クラスの係で今回はこれらを集める役割を持つのがセイウンスカイとキングヘイローである。二人は今こうした課題を集めて職員室前の提出入れに纏める仕事をしている。
「キングってさぁ、こういう勉強、結構真面目にやるよね」
「……はぁ。学生なんだから当然じゃない……って言いたいのだけど……」
「あら、そこは一流のウマ娘たるもの~とか言わないんだ」
「勉強なんて最後は自己満足のためにやるものよ。得意不得意はあるにせよ、やるかどうかは本人の意思だもの。塾にまで通って重ねた勉強で90点を取る人もいれば、ろくに勉強しないで遊んだ人が満点を取る事だってある。少なくとも私は、勉強のできるできないを人を計る物差しにはしないのよ。ねぇ、学年3位さん?」
「……キング、さっきは他人のプリント盗み見するの良くないって言ってなかったっけ?なんで私の成績知ってるの?」
「たまたまね、職員室で先生方が話してるのを聞いたのよ。それこそ貴方が言う不可抗力というやつね」
「自分で墓穴を掘っちゃったかぁ……」
「その気になれば1位を狙えるんじゃないかしら。でもそれを聞くのも野暮よね」
「それこそその気にならないからだよ、キング。下手にトップを取ると目立ってしょうがないんだ。トップを取るのはレースだけでいいんだよ」
「その言葉、今の貴方の状況でまた言える?」
「なんか今日のキングは手強いな……」
セイウンスカイが軽く頭を抱えて窓越しからターフを見る。当然そこにはセイウンスカイが目立つ原因となったバルファルクがいた。
合宿の一件から獰猛な肉食生物という認識は薄れ今では気前良くウマ娘との触れ合いに応じている。合宿で行っていた綱引きトレーニングが高評価だったらしく、今はタマモクロスが監修しながら他のウマ娘達との綱引きに応じている様子が見てとれた。
「すっかり人気者ね。貴方のバルファルク」
「私のじゃないよ。あいつを縛りつけられるものなんてこの世にあるもんか」
「ふふっ。そういう信頼関係、嫌いじゃないわ」
セイウンスカイが窓から見ている事に気付いたのだろう。少し余所見をしたバルファルクに綱引きをしていたウマ娘達が好機と見て更に力を入れるがその程度で揺らぐバルファルクではない。逆に綱を引いてやはり簡単にウマ娘達を負かしてしまった。
『おい、見ている暇があるならこっちに来い。セイウンスカイもするんだろう、トレーニング』
『はいはい。分かってるよ。こっちも色々用事あるからそれを終わらせてからね』
『あまり俺を待たせるな。他の奴らのトレーニングに付き合うのは吝かではないが、やはり相手をするならセイウンスカイが良い』
『……君、結構恥ずかしい事言ってると思うんだけど言うだけ無駄かなぁ』
「あら、今バルファルクと話していたの?」
「そうだよ。早くこっちに来いって。さっさと係の仕事終らせなきゃ。でないとバルファルクが拗ねちゃう」
「それは大変ね。バルファルクが"拗ねる"なんて何が起きるか分からないもの」
キングヘイローが冗談めかしてつかつかと歩いていく。
以前にセイウンスカイがバルファルクと喧嘩して口きかないと話した時と反応が雲泥の差だ。
紆余曲折がありすぎた夏の強化合宿だったが終わってみれば良い事ばかりだとセイウンスカイは安堵していた。記者会見だけはもうこりごりなのだが。
夏の一件で友誼を結んだシャーロットは既に英国に帰国している。リムパックには
(いやぁ、凄い人と知り合っちゃったなぁ)
シャーロットはまだ友人と呼べる範囲だがセイウンスカイのLANEにはもう一人、総理大臣の連絡先が追加されていた。記者会見場でのセイウンスカイの振る舞いをいたく気に入りもし何かあればすぐ助けになると総理の方から申し出たのだ。セイウンスカイ自身気を付けているつもりだが、バルファルクの振る舞いは時として政治的な問題を引き起こしかねない事を知っているため、セイウンスカイは困った時のお助け先として総理をLANEに登録した。実際そのつもりでの連絡先交換なのだろう。シャーロットと比べればそう何度も連絡を取り合う事はないとセイウンスカイは考えていた。
「うわぁ……」
『むぅ……』
「ふふふ……」
係の仕事を終わらせて体操着に着替えたセイウンスカイはターフで異様な光景に遭遇していた。
「『なにこれ。なんでジェンティルさんが一人でバルファルクと良い勝負してるの……?』」
「『いやぁ、ウチもビックリや。突然来たかと思えば一人でええ言うんよ。まさかホンマに一人でいけるとは……』」
驚くべき事にジェンティルドンナがバルファルクを相手に一人きりで綱引き勝負を繰り広げていた。人間より身体能力が高いウマ娘六人がかりでもバルファルクは手加減するというのにジェンティルドンナは全く引けを取らずに渡り合っている。
ただ互角に見えたのはバルファルクの匙加減だったようだ。絶妙な力加減でバルファルクが少しずつ力を込めると徐々に綱が引いていき最後にはバルファルクの勝ちとなった。尤もこれまでのような圧勝ではなく、ジェンティルドンナは威風堂々倒れずに立っている。そのジェンティルドンナの足元には引かれる際に踏ん張ったのであろう跡がターフを抉って残っていた。
「あら……負けてしまいましたわ。まさか私と言えども手加減されるとはね」
『なんだこいつは……怪我をさせないようにかなり気を使ったぞ。一人にしては力が強すぎないか』
「『ジェンティルドンナ、あんた中々やな。バルファルク相手に良い勝負したのは初めてやで』」
「いいえ、この程度で満足しないわ。打ち勝ってこその"力"なのよ。……とはいえ、パートナーたるセイウンスカイさんの邪魔をするのは野暮ね。また日を改めてお邪魔するわ」
負けてなお保つ優雅な威厳に呆気に取られるセイウンスカイとタマモクロス。そのまま颯爽と去っていく姿に呆然としていた。
「『ジェンティルさん……もしかしていずれはバルファルクに勝つつもりなのかな?』」
「『普通無理って言いたいんやけど、ジェンティルドンナならやってのけそうなとこあるなぁ……』」
『あいつ本当にウマ娘なのか?力の規格が他と違う気がするんだが』
「おーい!」
ジェンティルドンナの怪力に三人揃って戦慄しているところに二人のトレーナーが合流する。セイウンスカイのトレーナーとタマモクロスのトレーナーだ。二人もまたジェンティルドンナによって抉られたターフの跡に驚いていた。
「呆れたパワーだねぇ。手加減込みとはいえ、バルファルクと一人で綱引きを成立させるのは体の作りが他と違い過ぎる」
「ターフがぐちゃぐちゃだ……。またたづなさんに頼んで整備を手配して貰わないと……」
「『トレーナーさん、タキオンさんとネオユニヴァースさんはどうしたんです?』」
「タキオンは例のイカもどきの研究で忙しいみたいだ。自分の研究以外でも引っ張りだこみたいでね」
「あの不思議ちゃんもタキオンに付き合ってるようだよ。あの子のデビューは来年だから、まだせかせかしなくてもいいのさ」
「『タキオンさんとネオユニヴァースさんの研究か……。想像もできないや』」
「『せや、ターフで思い出したんやけど、知らせなあかん事があるねん』」
「『知らせなきゃいけない事?』」
「『うん。イナガミのやつがな、準備整うたらトレセンに来るつもりなんやと。あいつの力で多分ターフは直して貰えると思うで』」
「説明!諸君らはなぜイナガミがこの学園にやってくるか、現段階では不可解であろう!」
タマモクロスのカミングアウトに衝撃が走った一同はその後予期したかのようなタイミングでトレーナー室に現れた学園長秋川やよいに説明を受けていた。
「あの……拒絶したい訳じゃないんですけど大丈夫なんですか?受け入れる余裕というか、世間からの目もありますし……」
ごく当然の疑問は投げ掛けるのはセイウンスカイのトレーナーである。バルファルクの場合は無理矢理にターフを居座っているためまだ言い訳できるが、秋川やよいの話しぶりではどうも政府と都合つけた上での受け入れのようであった。
「すんません、学園長。つい漏らしてもうて……」
「いやいや、気にする事はない。どのみち近い内に公表する予定だったからな。まず私の意向だが学園として【大豊食祭】というものを開催したいのだ。これについては、以前から話を出しているだろう?」
「確かウマ娘達にたらふく食べてほしいっていう話だったねぇ。それで学園に畑を作るんだって?」
「その通り!そして聞くにイナガミの能力はそういった事にうってつけだと聞いている。それ故に私からタマモクロスを通じてイナガミに協力を打診したのだ!」
「タマモ先輩、それイナガミはOKしたんですか?」
「せや。ほら、合宿で色々バレてもうたやろ?その内イナガミを探してイナガミの棲み家に入ってくるやつが出るかもしれん。そんならウチに来た方がまだマシなんやないかっちゅう話になったんや」
「当然!政府とも話は済んでいる!元々バルファルクを受け入れている関係である程度の便宜を図って貰っていたのだが、政府としても監視すべきドラゴンが1ヶ所に纏まるのは都合が良いようでな!」
「監視ねぇ……」
「まぁ建前というものである。彼らと接していれば、監視など無意味な存在だというのは誰もが実感しているだろう。しかし世の中接していない者も多い訳だ」
「なるほど。知らない人からすれば人間を簡単に殺せる怪物が野放しにされているようなものですからね」
両手に腰を当ててむふーっと精一杯のドヤ顔をしている秋川やよい。
彼女なりの渾身の策なのだろう。今までは龍に関われた人間は限られた関係者のみだったが、合宿を通じて不特定多数のウマ娘達と共に過ごした事でそれが変わりつつあった。学園長秋川やよいは校風として、トレセン学園で過ごす全ての者にのびのびと暮らしてもらいたいのだ。それはウマ娘だけに留まらない。育成校という事で基本はウマ娘が優先なのだが、バルファルクやイナガミにも有意義に過ごしてもらいたいと考えていた。
「ま、何にせよ来てからのお楽しみっちゅうことや」
「私としても、歓迎しますよ。基本的にはみんな友好的な意見が多いけど、それでも過度に怖がる人もいる訳ですからね」
「出来ればこの2頭のドラゴンには駿大祭で多くの一般人と関わってもらいたいのだ。強大であれ、ヒトと共に生きる隣人だという事を分かって貰えれば過激な意見も鳴りを潜めるであろう」
「二人共前ほど人間を嫌がってませんからね。もし悪い事を考える人が来ても……いや二人に何が出来るんだろう。せいぜいバルファルクにフラッシュ浴びせたりとか?」
「そう深く考えんでいいと思うで。どうせ嫌がらせ程度しかできひんやろ。そういうのいたらウチらでとっちめればいいんやからな」
「うむ。セイウンスカイとタマモクロス、特にセイウンスカイは菊花賞を控えていて何かと忙しいのは重々承知している。しかし彼らも含めた明るい未来のためにも尽力していきたいのだ」
「あははは。大丈夫ですよ、学園長。今は合宿の時よりトレーニングを抑えめにしてるんです。ね、トレーナーさん?」
「そうだね。合宿でかなりの仕上がりが出来たから後はそれを菊花賞まで維持するというところです。合宿の時のような負荷の高いトレーニングを続けていると、どうしても事故の確率が上がりますからね」
深く頷いているのはタマモクロスのトレーナーである。今セイウンスカイのトレーナーが言った事は全てタマモクロスのトレーナーからの受け売りだ。
セイウンスカイはその性格もあってあまりに詰め込むようなトレーニングには向いていない。ストイックな性格のウマ娘なら徹底された管理主義で限界までトレーニングするのを好むだろうが、セイウンスカイはむしろ気分が乗ってこそ効率が上がるタイプだった。
「そういえば……アグネスタキオンとネオユニヴァースが何やら面白い実験をしているそうだ。新しい発明が出来たと言っていてな。備品の申請があったのだが一度君達で見て貰えないか?」
「うげ……タキオンさんの発明だって……?」
「それもネオユニヴァースとの合作かいな。悪い予感しかせえへんよ」
「不可解。彼女達の評価は推して聞いている。私も申請内容は見ているのだがいかんせん文字だけでは分かりづらい。私も直に足を運びたいのだが、残念ながらまだ他に仕事があってな……」
「あー私達で見に行きますよ。ヤバそうだったら取り下げさせるので」
「そうしてくれると助かる!ではまたな、諸君!」
旧理科準備室。
学園長秋川やよいに言われた通り、旧理科準備室に来たセイウンスカイとタマモクロスは部屋の外から異様な気配を感じとっていた。
「なんやねん……。なんか、グツグツと煮えたぎる音が……」
「絶対これ学校でしていい音じゃないですよ……」
もう既に入る気が失せているのだが、しかし放っておくと何をしでかすか分からないのがアグネスタキオンである。ネオユニヴァースも意味不明な行動が多い。
「よ、よし開けますよ────ってうわぁ!?」
「ポ、ポケット!?あんたポケットやないか!?一体どうしたんや!?」
「タマ先輩……俺はもうダメです……タキオンのやつを止められなかった……」
「気を確かにせぇ!倒れたらアカンで!」
意を決してドアを開けようと近づいた時、中から勢いよく弾かれてきたようにジャングルポケットが飛び出してきた。アグネスタキオンの研究に巻き込まれたのか、黒とも紫ともつかない色の謎の液体が制服に飛び散っている。これがジャングルポケットが朦朧としている原因なのだろうか。
「タキオンさん!一体何を作って────」
ジャングルポケットの介抱をタマモクロスに任せセイウンスカイが勢いよく部屋に踏み込めば、そこには部屋の奥で哄笑をあげるアグネスタキオンと呆れ果てるマンハッタンカフェ、慌てているダンツフレームとやはり何かと交信中のネオユニヴァースというカオス極まりない状況だった。そして彼らが囲んでいるのは一つの巨大な鍋。
「実験は成功だ!まさかこちらの世界でも再現できるとはねぇ!いやはや、ネオユニヴァースのおかげだよ!」
「タキオンさん!?一体何を作ってるんですか!?」
「おや、君も来たのかい、スカイ君。では君にも紹介しよう。これはネオユニヴァースが観測した異世界からもたらされた新たな技術────」
「……はぁ?」
アグネスタキオンの発明に、また騒がしくなる日々を予感するセイウンスカイであった。
タキオン、やらかす(い つ も の)