セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃よりご愛読頂き誠にありがとうございます

導きの地にこもり続ける日々……
それはそれとして本編どうぞ


黄金の残滓

 

 

 

 

 

 

「情報を整理しよう」

 

 11月初め。

 

 駿大祭が無事成功し、二頭の龍の社会的な認知が大きく進んだとされるこの頃。本来なら喜ばしい筈だが、それどころではない被害がセイウンスカイ達と全く関係ないところで起きてしまっていた。

 

「『タキオンさん、土曜日のトークショーで遅れてた理由はこれですか』」

「そうだ。とはいえあの時点ではまだ事態が判然としなくてね。全てが明らかになったのは今日未明だよ」

 

 重苦しい雰囲気のトレーナー室。

 トレーナー以外のチーム・ドラコの面々が集められコロンビアで起きた惨劇への会議が行われていた。人間だけでなく窓からはバルファルクとイナガミが頭だけをトレーナー室に入れて聞いている(イナガミはタマモクロスの翻訳付きだが)。トレーナー二人がいないのは単に彼らの立場が龍に近いだけの一般人であるからして、込み入った話になる今回の事案では機密上話すには不適格と判断されたからだ。

 本来なら単なるウマ娘達のチームだが、所属するウマ娘全員がそれぞれ何らかの事情で龍と関わっているのである。公言こそされないが、チーム・ドラコが事実上の龍対策班として認められているのは暗黙の了解であった。

 

「まず事態が起きたのは現地時間夜11時から12時の間と推定される。そのコロンビアと日本の時差は14時間……トークショーの時間帯と合う訳だ。そしてその時間にボゴタ東部で大規模な地盤沈下が発生した」

 

 プロジェクターから投影された映像にはボゴタの地図が写っている。アグネスタキオンが指し示した地域は赤く塗り潰されており一目でそこが危険地域なのだという事がありありと分かった。

 

「地盤沈下の時点で相当な被害が出ているが話はここからでね、この地盤沈下で発生した穴から巨大な未確認生物が出現した。それは何かを探すようにボゴタ全体を歩き回り、そしてあるものを徹底的に収奪していった。その過程で多くの家屋やビルが壊されあの映像のように壊滅的な被害を引き起こしたのさ」

「『あるものって……?』」

「金属だよ」

 

 映像が切り替わる。

 どこか高階層のビルから撮影したのか、高所から道路を練り歩く"それ"を見下ろしているような絵面だった。周囲には一般的な乗用車が打ち捨てられており、未確認生物との全体像がよく比較出来る。目算でおおよそ40m以上といったところだろうか。

 未確認生物は一つ適当な車に目を付けるとそれに対して火を吹き掛ける。車は爆発し炎上するが、それよりも高温の炎で金属部分は赤熱を越え異常な速度で融解していく。その溶けた金属を未確認生物は体表に擦り付けており自身の体に付着させていた。

 

「『金属を纏う生態って事ですか?よく見たら体が金ぴかですね』」

「『エラいけったいな見た目しとるなぁこいつ……。まるでドレスや』」

「自然物を取り込みそれを纏う生態を持つ生物は多い。それ事態はおかしい事ではないんだ。厄介なのは人類が資源とする鉱物類を積極的に狙うところだね。この災害でボゴタ全域が被害に遭った。倒壊した家屋やビルは百二百じゃ済まない数だし、死傷者・行方不明者に至っては未だ正確な人数が出せていない。また、怪我は免れても住む家を失って難民と化した被災者も多く被災者だけでも80万人と言われているそうだ。これはボゴタ人口の10%を越える被害だよ。生物が意図的に人間へ被害をもたらした事件としては過去最悪と言っていいだろう」

「『これは……少しまずいな。駿大祭は成功しているがこの影響は……』」

『何がまずいというのだ、バルファルク?』

 

 バルファルクは冷静に今回の事件を分析していた。基本的に自由人で他者の事情(主にセイウンスカイ)を考えない節があるように見えるバルファルクだがあくまでもそう見えるだけであって必要であれば理知的な判断力も備えている。

 

「一応補足しておくとバルファルクの懸念はそこまで重大に考えなくていいよ。少なくともバルファルクやイナガミが人類の隣人である事はアピールできたからね」

「『俺が危惧していたのはこの一件で俺達に無用な目が集まる事だ。基本的におまえ達人間の事情はあまり気にしないが、トレセン学園にいる以上完全な無視はできん。話を聞くに、マスコミとやらは他人を好き勝手にあげつらう事を好むようだからな』」

『人間の事情か……それは我も無視できんな』

「『……事件が起きた原因とかは分かってるんですか?』」

「良い質問だ、スカイ君。実はこの事件には南米故の特殊な事情が関わっていてね。実は事件前から予兆はあったのさ。ただこんな被害になるとは誰も予想しえなかったけどね」

「『南米故の特殊な事情?』」

 

 またプロジェクターの映像が切り替わる。そこにはフードを目深に被ったりマスクをして顔を隠す者達の姿があった。銃撃戦やドラッグ等の様々な犯罪が映し出されている。彼らは南米に巣くう、所謂ギャングと呼ばれる反社会的組織だ。

 

「まず南米というのは、世界でも類を見ない程にギャング等の反社会的組織が土地に根差している特色がある。特にブラジルがひどいね。誘拐や殺し屋、違法薬物の販売等は定番だと言っていい。これらは貧困と結び付いてしまっていて、それがギャング達が根差す温床となってしまっているんだが、これがドラゴン探しと重なってしまったんだ」

「『ドラゴン探しと?なんでですか?』」

「"エルドラド"。この言葉に聞き覚えは無いかい?」

「『あーなんか聞いた事あるわ。確か眉唾の黄金都市とかそんなんやろ』」

「そう、眉唾だ。大航海時代、ヨーロッパ人が南米に進出した際に現地の部族から手に入れた金の装飾品から噂が立ち、南米には黄金郷が存在すると思われたのさ。実際ボゴタの北にあるグアタビタ湖にいた現地部族には金の採掘技術とそれの加工技術が発達していて、黄金郷はともかく金がある事は本当だったからね。だが重要なのはその部族だ。当時のヨーロッパ人侵略の折に、当該の部族が滅び去り名前さえ記録には残されていないのだが、その部族が地母神として崇め奉る存在がいた」

 

 再び切り替わった映像には何かの遺跡からの出土品だろうか、古めかしい土器が映されている。初めてみる遺物だがその装飾には見覚えがあった。またその隣にはこれまた古めかしい日記帳のようなものが数ページ開かれて置いてありその中には絵柄こそ違えど装飾と同じような絵が描かれていた。

 

「『これ……さっきの龍の絵……?』」

「"マム・タロト"。当時の開拓者達は部族を介してその神との接触に成功していたようだ。本来なら現地部族語での名前があるはずだが、滅んでいる以上これが最古の記録となる。一神教全盛のこの時代、他の神を認める訳にはいかなかったから母としての性質と、悪魔アスタロトから名前を繋ぎ合わせたんだろう。当時グアタビタ湖に住んでいた現地部族とマム・タロトは共存しており、それがエルドラド伝説に拍車をかけてしまったようだ」

「『でも……都市伝説で終わってるやろ』」

「そう。噂を本気にした多くの冒険家が未開の南米に挑みそのほとんどは帰らず、あるいは生きて戻った者はただ絶望だけを伝えた。最終的に19世紀にドイツ人が南米全土を暴き黄金郷伝説は伝説のまま潰えた筈だった」

「『でもそれが、夏のオストガロアで変わった』」

「そうだ。オストガロアの一件を機に世間では大々的にドラゴンの存在が認められるようになった。そして黄金郷伝説を知る者はこう考えたのさ。あのドラゴンにも見える地母神、ひいてはエルドラドも実在するのではないかと」

「『んなアホな……』」

「人というのは時として想像を越えて愚行を重ねるものさ。つい数年前にも、観光道の補修をしていた地元の職員が金製品を見つけた事があったからね。ブラジルから流入した違法採掘者がグアタビタ湖周辺に入り込みボゴタの治安は急激に悪化していたんだよ。本来ならボゴタは南米でも比較的治安の良い都市だったんだがね」

「『悪い事の玉突き事故って感じだなぁ……』」

「『そいつらの元締めがギャングなんやろな』」

「『ん……?おい、アグネスタキオン。こいつが暴れたのはボゴタという町であって湖ではないのか?』」

「そこが不可解なところだよ。ボゴタからグアタビタ湖までは57km離れているんだ。確かに違法採掘者達は人の多いボゴタを拠点にしていたが、それは首都であり交通の便が比較的良いからだ。何を理由にマム・タロトがボゴタを選んだのかは不明だよ」

「『こいつは最終的にどこ行ったんや?』」

「映像は無いが、目撃者の証言によると地盤沈下で発生した大穴へ潜っていったらしい。ただその大穴も金属を融解させて塞いだように見える壁で閉じられていて穴の奥までは見えないんだ。これが今分かっている全てだよ。現地日本大使館も倒壊こそはしなかったが被害を受けていて、事態の全容解明にはまだしばらくかかる見込みだ」

 

 元々オストガロアの事件以降世界中でドラゴン探しの熱が加速していた。ただそれは、暇を持て余した金持ちの余興や動画配信者等が再生数稼ぎにネタにする事がほとんどだった。ロマンという意味では人々を楽しませたドラゴン探しだが、それが南米では現地の犯罪ビジネスと関わりを持ってしまったためにボゴタの惨劇を招いたのだ。

 

「先ほど不可解だと話したボゴタを標的にした件だが、現地だと事件以前に例の違法採掘者達が"黄金回廊"を見つけたと自慢していたらしい。そこから多数の金製品を手に入れたという話でね。マム・タロトはそれを奪い返しにボゴタを襲ったという噂が流れているが、現状だと"黄金回廊"なるものは発見されていない。彼らも被害に遭っているし、現状だと憶測の域を出ないな」

「『そういえばシャーロットさんは……』」

「彼女から連絡もあったがあちらも現時点で把握している情報は変わり無いようだ。どうやら英国の秘密情報部(MI6)が動いているようでね。こういう海外での情報精査は英国の十八番だ。彼らからの連絡を待つのが得策だろう」

 

 駿大祭後すぐに帰国してしまったシャーロット。元々はセイウンスカイの菊花賞を見るために滞在していた予定を大幅に延長しての日程だったために駿大祭の後は打ち上げにも参加する事なく帰国の途に着いていた。時差はあるはずだがあちらも何らか形で事態を把握していたのだろう。エージェントを秘密裏に派遣しているようだ。

 

「『……それで、ここからどうするんです?所感ですけどあのマム・タロト、凄く怒ってるように見えましたが……』」

「怒ってる?それは本当かい?」

「『俺も同じ意見だ。金製品を奪い返しに来たとさっき言っていたがあながち間違いではないように思う。あれは、縄張りを荒らされた怒りと大事な物を盗まれた怒りという二つが合わさったが故の激怒なんじゃないか』」

「ふむ……」

 

 どうする、という事は無い。今はまだ現地が混乱しておりこちらから何かしらのアクションを起こす段階ではないのだ。

 未曾有の事態に既に先進各国が支援の準備を始めている。日本も準備しているが、それは一般的な災害支援に収まる範疇であり龍三頭を擁する立場である事は全く関係無かった。一部ではドラゴンと話せる少女を現地に派遣すべきとの声も挙がっているが日本政府からしたらとんでもない。セイウンスカイとタマモクロス、二人ともまだ何の職責もない未成年の少女なのだ。立場として二人は善意の協力者でしかなく、未だ混乱が続く危険地域に送り込むなどというのは政治的にも倫理的にも言語道断と言えた。

 年末に有マ記念を控えるセイウンスカイに代わり密かに現地へ行く事を覚悟していたタマモクロスだが、その懸念は空回りする事となった。

 

「『俺は貴様らに関わらず飛んで行けるが』」

「バルファルクも今行くのはやめてくれ。駿大祭で周知できた日本と違って向こうは明確にドラゴンの害意に晒されたんだ。理性的な判断ができる状態じゃない。今君が行ってもパニックを引き起こして悪化させるだけだ」

「『そういうものか』」

「最低でも1ヶ月待ってくれ。誰が行くにしろ、向こうでマム・タロトの調査を行うには現地の安定化が最優先だ」

「『1ヶ月か……』」

「『スカイ、気にしたらアカンで。今ウチらにできる事は波風立てん事や。ただでさえウチらは色々特殊なんやからな。ちょっとした言葉一つでマスコミの燃料になる。有マまでなるべく我慢や』」

 

 タマモクロスの言葉に黙って頷くセイウンスカイ。彼女とて気持ちは分かるのだ。なぜマム・タロトがボゴタを襲ったのか、話を聞けるのはセイウンスカイとタマモクロスの二人だけだ。

 事態解決に繋がる能力を持っているというのに、それを様々な事情で振るえないでいるというのは中々どうして居心地が悪かった。

 

 

 

 

 

 結局のところこの1ヶ月、チーム・ドラコとして何か声明を発表する事もなかった。学園が肩代わりして、一刻も早いボゴタの復興を願うと当たり障り無いコメントに終始しただけである。その姿勢に批判の声が無かった訳ではないのだが、政治的地理的要因から迂闊に手出しできないのは誰の目にも明らかである。

 少なくとも今回の事件においては日本のウマ娘が活躍する機会は無い……筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々の荒れっぷりだな。日本のようにはいかないか」

 

 12月初め。

 未だ被害の爪痕を残すボゴタに特徴的な赤衣を翻す男の姿があった。

 シャーロットの騎士の部下である赤衣の男は英国のエージェントの一人としてボゴタを訪れていた。パスポートや身分証明書を偽造し全くの別人として潜入している。名目上は被災者を支援するNGO団体のメンバーだ。

 

「まるで爆撃でも受けた後のようではないか」

 

 建物の多くが倒壊しており住む家を失った人のために簡易的なテントが至るところで併設されていた。

 多くの支援団体が炊き出し等を行っているが難民達の雰囲気は皆一様に暗い。コロンビア政府がこの惨状を打破する能力が無い事を知っているからだ。日本のように災害対策が進んでいる国家ならともかく、一夜にして都市の大半を瓦礫の山にするような怪物の被害など、誰も補填しようがなかった。

 

「ふむ、ここか」

 

 赤衣の男は居住区画を外れて東へと足を向ける。そこには軍によって建てられた簡易的なバリケードがありその奥の地面が沈んでいる様子を遠目から観察していた。

 赤衣の男の目的であるマム・タロトの調査として大穴の中に入りたかったが今はどこも警戒警備されている。何が理由でボゴタを襲ったのかはまだ不明だが、またマム・タロトを刺激して同じような事になるのは避けたいため、政府の方針でマム・タロトと関わる全てが病的なまで警戒を向けられていた。

 赤衣の男は困ったと思案していた。ボゴタの復興はもちろんだが同じだけマム・タロトの情報も欲しいのだ。そもそも今回の襲撃が能動的なものなのか受動的な反応によるものなのかすら判然としていない。誰もが口にしないが再度の襲撃が無いとも考えられないのだ。せめて動機だけでも調べなければボゴタに真の安寧がもたらされる事は無いだろう。

 

「……む?君は……」

「こっちに来て」

 

 佇む赤衣の男を引っ張る小さな影があった。現地で被災した子供だろうか。フードを被っており身長差で赤衣の男からでは人相が分からない。声からして女の子だろうか。

 導かれるままに進むと難民キャンプの一つに辿り着いた。どうやら中に入ってほしいようだ。その様子を見てらしくもなく赤衣の男は顔を歪める。

 混乱するボゴタでは金に困る難民達を唆して犯罪行為に走らせるビジネスが蔓延っていた。特に顕著なのは親を失った女子による売春だ。ブラジルから糸を引くギャングはこの混乱すら利益に変えようと人道の何たるかを踏みにじっている。もちろん各国から集まってきたNGO団体はそういった犯罪ビジネスを警戒しているが、取り締まれているとはとても言い難い状況だった。

 

「お嬢さん、悪いが私にその趣味は無くてね。金なら渡すからこんな事はしなくても────」

「いいから入れ」

 

 キャンプの入り口から伸びた手に引っ張られ無理矢理中に入れられる赤衣の男。

 こんな小さな子のどこにそんな力が、と考える暇もなくキャンプに連れ込まれた赤衣の男は思考を停止した。キャンプの中には予想していたような物は何もなく、中央には宙に浮かぶ龍属性の塊がある。

 

「は……?」

「だから入って」

 

 後ろから蹴りつけられた赤衣の男はその龍属性の塊に突っ込み一瞬の浮遊感の後、尻から着地した。起き上がって見ればそこは先ほどまでいたキャンプではない。洞窟だというのに金に照らされた豪奢な空間が眼前に広がっている。

 

「な……!?ここは!?」

「黄金回廊。貴方達が探してた場所。この都市の地下」

 

 振り返れば先ほどの少女もいる。顔を隠す必要が無くなったのかフードを下げて顔を見せていた。

 

「君は……ネオユニヴァース?どうしてここに……」

「"アファーマティブ"……ネオユニヴァースだよ。貴方を手伝ったから今度は貴方が私を手伝ってね」

 

 無表情のまま────しかしどこか興奮した雰囲気でネオユニヴァースは淡々とそう告げるのだった。

 

 

 

 

 




ネオユニ「空気だと思った!?残念今回の主役は私!」※意訳
アルバ「頑張りました(棒読み)」
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