セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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タキオンのエミュ疲れますね……
この二次創作を投稿している時期にウマ娘3.5周年とモンハンワイルズの新情報が重なるのは偶然とはいえ中々感慨深いものがあります
4周年で「キンイロリョテイ」、待ってます


バルファルクから見たレース

 

 

 

 

 

『そういえばだが、なぜ貴様らはああも走り回っているのだ?』

 

 

 

 

 4月。

 11月の文字騒動から5ヶ月。

 いよいよセイウンスカイにはデビュー戦を控える頃合いとなった。

 当然だがバルファルク絡みで何も無かったはずがない。むしろトレセンに来たとき以上にてんやわんやであった。

 バルファルクがただの野生動物から、知性を持ちうる霊長に属するのか日本のみならず国内外で議論が錯綜し、日本にだけ留まり続けるバルファルクに陰謀論を展開する某国、過激な動物愛護団体からバルファルクに人権を認めるべきといった主張まで、様々な流言が飛び散るばかりである。ここでもトレセン学園は、結局のところ一人と一頭の関係でしかないことを流布し過度な干渉は止めるよう関係各所に奔走していた。度重なる騒動にトレセン学園単体では人手が足りず、某生徒会長やアイルランドの姫君等それぞれの実家や祖国の手を借りる事態となっていた。

 

(こうなるから秘密にしておきたかったのに。なんだよ~、バルファルクに国際航空法を理解させろとか無理に決まってるじゃん)

 

 この5ヶ月の中、一通り基本的な五十音順を履修したバルファルクは簡易的なやり取りなら行えるようになった。セイウンスカイが関係各所にお願いをした結果、バルファルクが根城とするターフの内側に五十音順が描かれた特大サイズの看板が建てられている。文字を覚えてもバルファルクが書けるサイズのメモ帳なんてものは無いため、五十音順の看板をバルファルクが指差すことでバルファルクの意図が伝わるようになっていた。

 

 セイウンスカイに対する世界の注目は上昇し続けているものの、意外にもセイウンスカイがトラブルに巻き込まれることは無かった。学園側が徹底してメディア等の報道機関に睨みを利かせており、加えてプライベートで出かける際も陰ながら護衛が付くようになったからである。この護衛というのは政府からその筋の元、派遣されてきた選りすぐりのエリートであり詰まるところ、セイウンスカイのプライバシーは彼女を庇護する関係各所に筒抜けであった。もし本人にバレたら問題どころでは済まなくなるやり方だが、バルファルクそのものが最もどうにもならない存在のため必然的にセイウンスカイの重要度も上がっていた。

 

 

 

 

 

「『暖かくなって良い陽気だね~。絶好の昼寝日和だよ~』」

 

 デビュー戦が近くなってきたとはいえセイウンスカイとバルファルク間に変化が生じるような事は無い。それなりにトレーニングを積んでいるセイウンスカイだがトレーナーと彼女自身の方針一致の元、傍目にはバルファルクの興味に巻き込まれた哀れな女の子という刷り込みを周囲に張り込んでいる。そんな"弱い立場"を駆使しあの手この手で、デビューからレースが重なりそうな相手の情報を釣り上げているのだ。事ここに至ってセイウンスカイは未だどの脚質で走るのか、クラシック路線なのかはたまた別路線なのかそういった具体的なレースの指針を他所に知られること無く過ごせている。尤も、一番仲が良い五人の友人達には薄々勘づかれているようだがそれはそれ、セイウンスカイとしては無為に警戒されるぐらいが丁度良いと考えていた。

 

 今はトレーニングに打ち込む傍ら、セイウンスカイはついでとばかりにバルファルクとよく居るようになった。

 元々過度に干渉しなければ危険が無いバルファルクとはいえ、ターフに居着くようになってから併走などターフでなければやれない他のウマ娘のトレーニングの利用率が減ってしまっている。予め危険は無いと周知されてはいても、その気になればいくらでも暴れられる猛獣が檻も無く芝生に放たれている現状は、一般的な安全意識として好ましく思われなかった。

 

「『どうしたの急に。君が他の人に興味を持つなんて』」

『他の人というか、貴様がそいつらと同じような真似をしていたからな。どういうものかと気になっただけだ』

 

 バルファルク用の五十音看板に槍翼で器用に「なぜはしる」と濁点を交えて指している。

 ちなみにバルファルクが文字を覚えだした当初、漢字や英語等も教えるべきという意見があったためセイウンスカイが試してみたが失敗した。漢字は同じ字でも音読み訓読み等の読み方が異なることをバルファルクは理解できず、英語も簡単な単語は覚えたもののそこから状況によって読み方の違いが発生する現在進行形や過去形等、文にするための理解が出来なかった。バルファルクは、表意文字は理解出来ず表音文字の並びだけ理解している、というのが言語学者の評価である。

 

「『なぜかって……。そうだね。レースっていうのが私達ウマ娘にとっては生き甲斐なんだ。やることは単純だよ。決められた長さの競技場をみんなで走ってその中で一番早くゴールに着いた人が勝ちっていう競技をやってるんだ』」

『はぁ。それに勝ったりすると何かあるのか』

「『難しい質問だね。大きなレースで勝ったりすると、お金がたくさん貰えたり有名になったりして色んな人から凄いって思われたりとか色々あるよ』」

『金か。こればかりは貴様がしつこいくらいに教えてきたな。二足共はその金が無ければ生きていけないのではなかったか? 食えもしない物によくもまぁ、執着できるものだ』

「『けどそれだけじゃないんだ。ウマ娘みんなが同じ理由で走ってるんじゃないんだよ。有名なレースで勝ちたいとかもそうだけど、ライバルのウマ娘に勝ちたいっていうのもそうだし応援してくれる家族や友達のために頑張りたいって人もいる。レースで走ることは単純だけど、どうしてレースで走りたいかっていうのはウマ娘によって答えが違うんだ』」

『なるほど。一概には語れない訳か。……なら貴様はどうなんだ?』

「『……私? 私か~。実を言うとこれといってデカい目標があるわけじゃないんだよね~』」

 

 そう言いながらバルファルクの隣で芝生の上に横になるセイウンスカイ。セイウンスカイはこの格好が好きだった。青空と一緒に同じ色をした目が自分を覗き込んでくるのがどうしようもなく綺麗に思えたからだ。

 

「『たださぁ……。この間、見てたと思うんだけど模擬戦で私、色んな子達と走ってたんだよね。で、その子達にそれとな~く私は追い込みで走るかもって事前に話しててさ。でもレースが始まったら私は逃げの一択! スタートしてすぐ後ろ見たらみんなが同じ顔して驚いてるの! 釣りと一緒なんだよ。ここぞっていうときに仕掛けがさ、綺麗にハマって勝てるとそれだけで楽しいんだよ』」

 

 セイウンスカイが楽しげに話す様子をバルファルクは黙って聞いていた。バルファルクはこういうセイウンスカイが好きだった。セイウンスカイがする人間の話は理解できない内容もあるが、それ以上に空と同じ色をした目が喜楽を以て自分を見てくれているのが何よりも心地よかったからだ。

 

『なるほど。要するに楽しいと』

「『楽しい……。そうだね、凄く楽しいよ。ウマ娘のレースって色んな走り方があるし、各レース場でコースの形が違ってたり、雨とか天候でも色々変わってくるから、全く同じレースっていうのは一回も無いんだ。一番早くゴールに着ければ勝ちなんだけど、そのゴールに辿り着くまでにどう動いたらいいか、駆け引きとかも重要なんだよ』」

『ふむ。そういえばその模擬戦というのでも貴様が先頭を走っていたな。あれは貴様の勝ちなのか』

 

 バルファルク自身は気付いていないがバルファルクはセイウンスカイを中心とした話をよく覚えるようになった。相変わらずセイウンスカイ以外の人間に興味を持たないのは変わらないが、セイウンスカイが関わることには関連して興味を持つようになっていく。

 

 一人と一頭の関係は、嵐の静けさの如く何事も無く過ぎ去っていき季節はデビュー戦を迎える6月となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、セイウンスカイ。自信のほどは?」

「らしくもないこと聞きますね~トレーナーさん。そういうトレーナーさんの自信はどうですか~?」

「バッチリさ。セイウンスカイのその答えが、一番安心できるよ」

「あははは~。まぁいつものセイちゃんですよ。焦らずゆっくりのんびりと。トレーナーさんはどっしり構えてて下さい」

 

 6月某日。

 中山、2000m。天候は晴れ。バ場良好也。

 念願のデビュー戦である。

 奇しくも、皐月賞と同じコースであるのは何も偶然ではない。セイウンスカイとトレーナーは明言しないが、これが他の同期達ライバルに向けたメッセージであるのは明白だった。

 

「分かったよ。……ところでバルファルクについてなんだけど」

「はい? バルファルクがどうかしました?」

「いや、君がいないとまた厄介な事になるんじゃないかと思ってさ。前も君に会いに校舎の出入口とか壊してただろ」

「ああ。大丈夫です。今回は言って聞かせてますからね。バルファルクからもちゃんと返事貰ってますし」

「バルファルクはなんて?」

「『もんだいない』、だそうです。今日ばかりはあいつのことを忘れて、快調に飛ばしていきたいですね~」

「かかってくれるなよ、と言いたいんだけど多分飛ばして大丈夫だと思う。他の面子を見る限り、君に匹敵する実力者はいないと思うからね。何よりこの中山だ。サイレンススズカ並みの大逃げをしろとは言わないけど、ハナを取り続ければそのままゴールできると思うよ」

「奇を衒う必要は無いわけですね」

「……それにしても、バルファルクと意志疎通ができるなんてね。本当に大丈夫なんだよね」

「ちょっとちょっと~。それ言われるとセイちゃん困っちゃいますよ。あいつは結局、ヒトの理屈で動いてないんですから。トレセンで待ってて、なんて言っても独自の解釈で動かれたらもうお手上げなんです」

「言うだけ言ったからあとは成るようになれってことか。……そろそろ時間だ。君の第一歩を駆け抜けておいで」

「はいはーい」

 

 レース前だというのに、全く気後れせずいつも通りのセイウンスカイとトレーナー。

 セイウンスカイがスタート地点へ向かう途中、横目で観客席を見ればスペシャルウィーク、キングヘイロー、ツルマルツヨシの三人が見える。皆一様に期待と厳しさが混じった表情をしていた。応援で駆けつけている意味は勿論ある。ただそれ以上に将来の強敵たるセイウンスカイに向けた敵情視察もあるだろう。傍らにはそれぞれのトレーナーが食い入るような視線をセイウンスカイに向けている。セイウンスカイはバルファルクを盾にのらりくらりと情報を出し渋っているため、彼女達同期の中では最も情報が少ないのだ。僅かな模擬戦も、相手に嘘を言って脚質を騙すような真似をしているため、各トレーナー全員がセイウンスカイを最大限に警戒していた。

 

 ゲートにセイウンスカイが入り後はスタートを待つだけ。

 セイウンスカイはゲートが苦手だ。はっきりとした根拠があるわけでもなく生来のものと言える。トレーニングを積んだとはいえゲートに対する苦手意識は拭えない。だが短くも長いようなその間、セイウンスカイは嫌悪感を掻き消すような()()()()()()()()()()

 スタートした直後、ロケットスタートもかくやという速度で飛び出したセイウンスカイは喜色満面の笑みで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ほう。あれが貴様の言うレースか

 

 ────前と同じように先頭を走っているな。余力がある走りをしているように見えるが、後続の二足共は追い付けないでいるようだ

 

 ────唯一抜きん出て、並ぶ者無し。だったか。貴様から聞いた時は意味が分からなかったが、なるほど。これは分かりやすい

 

 ────む。急に速度を落としたが……そうか。貴様が勝ったのか。わざわざこちらに腕を振らなくてもいい。見えている

 

 ────さて、この後はライブというものがあるそうだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、スカイ」

「いや~。だい・らく・しょー! でしたね」

「大方の予想通り、といったところだね。……一応聞いておくけど、体に違和感とか無いかな」

「全然! 余裕のセイちゃんですよ~」

「……勝てて嬉しいのは分かるんだけど、テンション高くない? そんな入れ込んでたっけ?」

「……ふふっ。分かります? 実はですね、来てたんですよ。()()()

 

 無事一着でレースを終えライブも済ませたセイウンスカイ。トレーナーとの会話に想起するよう控え室の窓の外、空を見る。

 

「……え? 来てたって、バルファルクが?」

「あいつも人間との付き合い方学びましたね~。降りたら騒ぎになるって分かってたから、降りないで空からずっと見てたみたいです。あ、もうこの辺にいませんよ。もうトレセンの方へ帰ってると思います」

「空って……。全然気付かなかったよ」

「雲の上から海の中の獲物を捕らえるくらいですから、普通の人が気付かないような高度から見るくらい、朝飯前なんでしょうね」

「とんでもない視力だな……」

 

 

 

 

 セイウンスカイとトレーナーは一つ、無意識に気付かなかったことがある。

 バルファルクの察知。彼女は得意気にトレーナーへ語っていたが、そもそもセイウンスカイ自身もバルファルクを見ていない。だというのに、彼女は明確な"何か"を感じとりバルファルクを察知した。

 セイウンスカイとバルファルクの関係は、セイウンスカイが一方的にバルファルクに変化を与えていると思われがちである。だが、決して一方通行の関係ではないのだ。

 

 徐々にではあるが、この後セイウンスカイもバルファルクと関わったことによる変化が表れるようになる。やがてその変化は世界を巻き込む程の物へと成長するのだが……それはまだ、先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、トレセンに戻ったセイウンスカイは意気揚々とバルファルクがいるターフへ向かい、レースはともかくライブが理解出来なかったバルファルクの無遠慮な言葉に初めてブチギレ、バルファルクを慌てさせ各所関係者を戦慄させるという珍事のような暴挙をやらかしている。

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