セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆々様、日頃よりご愛読頂きまして誠にありがとうございます。偶然ですが作中の時期と投稿時期が被りましたね。大晦日前にもう1本投稿したいな

ちなみに今回はひたすらマムが可哀想です。別にマムが嫌いな訳ではないんですが練り上げたらこうなりました。一応別の機会に再登場の予定はあります


一幻華、黄金を平らげる

 

 

 

 

 

 

「あれ……脱がない……?」

『こやつめ……!』

 

 ぜぇぜぇと、傍目に見ても大きく息を吐いて消耗している様子のマム・タロト。それに反比例するかのようにネオユニヴァースは平静のまま太刀を構え直していた。

 

 本格的な戦闘に突入したネオユニヴァースとマム・タロト。しかし依然としてマム・タロトはネオユニヴァースを捕らえられないでいた。体に纏う金属の自重で動きが鈍いのだ。だがマム・タロトはそれを脱ぎ捨てるつもりはなかった。

 ネオユニヴァースが首を傾げる。彼女が見た予習の中では一定の傷を負わせる事で金属を捨て全力を出す姿になると学習していた。だが目の前のマム・タロトにその様子は無い。ただ頭部を中心に比較的金属を纏っていない箇所での傷が多いだけだ。

 

「脱げない……?いや、脱ぎたくない……?どっちでもいいけど、最低でも角は折らないと……」

『ええい、妾に引っ付くな!この……!』

 

 とはいえやる事は変わらない。マム・タロトの様子を見て逐一ぶっとばしを繰り返す事で盗掘者達の出入口に近づいていた。

 マム・タロトとて無抵抗ではない。顔面からぶっとばされるのは学習しているため頭を振り回しどこかにぶつけようと暴れ回る。壁や地面、そこかしこを破壊するがネオユニヴァースは天井の鍾乳石にスリンガーを引っかけ離脱していた。

 

『ええい、こやつは猿か何か!いい加減に────』

「あっ、近づき過ぎた。……"マストオーダー"は達成。後はタイミング次第……」

 

 ネオユニヴァースは鍾乳石をつたい、マム・タロトから離れていく。先ほどまで戦っていた相手が見せた不可解な行動にマム・タロトが訝しむが、直後別の方角から騒ぐ人間の声が聞こえてきた。

 

「はぁ!?なんであいつがここにいるんだよ!さっさと上に戻って────」

『む?そうか、ここにも盗人共の仲間がいたか。……その罪、身体で払ってくれようぞ!』

 

 マム・タロトにとって重要なのは自身の縄張りから遺品を盗み出す曲者に天誅を加えてやることであった。先ほどまで戦っていたネオユニヴァースを忘れ、マム・タロトは天井から覗いた穴に向かって炎を吐きつける。

 ネオユニヴァースはいいのかという話になるが、どうもあれは他の盗掘者とは違う人間なのではないかとマム・タロトの勘が囁いていた。マム・タロトからして、ネオユニヴァースの行動は理解できない奇行であり、あんなのに絡まれるくらいなら分かりやすい目標へ動くのはごく自然な行為であった。

 

 出入口を見張っていたギャングは慌ててはしごを登り穴の上に避難するが逆効果だった。昇る炎は狭い縦穴を焼いていきその中にいた者達は文字通りの地獄を見た。

 マム・タロトはこの程度で終わらぬと更に火力を強めていく。やがて穴の周辺が赤熱していき周囲の天井がぐにゃりと下に歪んでいく。恐ろしい事にマム・タロトは吐き出す炎熱だけで岩場を融点にまで加熱させ物理的な強度を下げたのだ。柔らかくなった天井の岩場は自重を支えきれなくなり大崩落を引き起こした。

 

『なるほど、このような小道から来ていたのだな。まるで虫けらではないか』

 

 崩落により盗掘者が掘った縦穴が消え、そこに通じていた横穴が見えるようになっていた。どうやらまだ生きている人間がいるらしく横穴が騒がしい。そこにまたマム・タロトは火を吹き掛け念入りに焼いていく。

 

 一方その頃、マム・タロトが盗掘者の出入口で暴れている様子をネオユニヴァースは遠目から観察していた。ネオユニヴァースは盗掘者達の通路の高さをおおよそで割り出しており、ブレスで焼く事はあっても、登って地上にまた進出できるような位置ではないと分かっていたのだ。ただ彼女には誤算があった。

 

「はしご、壊れた……上へ登る手段が……」

 

 生存者達を引き連れて脱出する算段が崩れた事に頭を悩ませるネオユニヴァース。だがその目論見は、予想外の方向から解決する糸口を見つける事となる。

 ひとしきり暴れさせるまで暇になったネオユニヴァースは戦闘で飛び散った黄金をいそいそと己の懐に収めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって。

 

「さて、ボヤ騒ぎに気付いてくれると良いが」

 

 赤衣の男はギャングの拠点から回収した地図を元に盗掘している現場のすぐそばで潜んでいた。

 どうやら金製品ではなく純粋な金脈のようだった。黄金都市とは違い、周囲は険しい岩場であり自然の地形である事が窺える。だがところどころに不自然な窪みがあり、おそらくは数百年前の現地部族もここで採掘していのが容易に察せられた。

 ギャング達もここが採掘跡だと気付いていたのだろう。奥からは生存者を無理矢理働かせるためか時折怒号や罵声が聞こえてくる。だがほどなくして、赤衣の男が潜む岩のすぐ横を多数の足音が足早に通りすぎた。

 

「おいおいなんだってんだよ。こんなところで火事だって?」

「隠れてハッパ吸おうとしたやつがしくったんだろ。クソが、手間かけさせやがって」

「つーかどうやって火消すんだ?水道なんて無いぞ」

「上から消火器持ってくるしかねぇだろ。どのみちあの小屋はそろそろ取り壊して中身も捨てる予定だったんだ。手間賃浮いたもんだと思えばいいさ」

(その中身は私が確保しているのだがな)

 

 彼らも同じように地下ではトランシーバー等の無線通信を使っているのだろう。黄金都市で見張りをしていたメンバーから通信を受けたようで愚痴りながら拠点のある黄金都市へ去っていく。

 周囲に人の気配が無くなった事を確かめて赤衣の男は奥へ進んだ。ネオユニヴァースからの報告は無いが、予定ならこの時間に盗掘者の出入口へマム・タロトを誘導し暴れさせている頃合いだろう。彼らが消火器を求めて上に戻ろうにも鉢合わせるのはマム・タロトだ。

 

(ここか。予想よりも遥かに広い。だが見張りはたったの二人、やれるな)

 

 採掘現場となる奥は扇状の広場になっていてその壁から金脈が露出している状態だった。ざっと百人以上が、採掘に従事している。しかし彼らのほとんどは採掘の知識を持たない一般人だ。地盤沈下で負った傷もあるのだろう。衛生面は最悪で皆一様に何かしらの怪我や疾患を抱えている。

 それを採掘現場の出入口で歩哨を務めるのはたった二人のギャングだ。本来ならもっと大人数で管理するのだろうが、大半はボヤ騒ぎで抜けてしまっていた。二人で百人以上を管理するなどできるはずがないが、そもそもするつもりもないようだ。彼らはただ逃げる者がいれば、それを他の者への見せしめに撃ち殺せばいいだけなのだから。

 二人はサブマシンガンを携帯しているだけで他に武装している様子は見当たらない。であれば、頭を狙った投石で一人を昏倒させるのはさして難しい事ではなかった。

 

「お、おい!?おまえどうし────ガッ」

「恨むなら、その道行きを信じた自分の判断を恨みたまえ」

 

 突如昏倒した相方に駆け寄ろうとしたもう一人を背後から喉へナイフを突き立てる。秘密情報部( MI6)にも所属する彼は仕事柄こうした荒事にも手慣れている。特に感慨もなく、昏倒した相方にもとどめを入れるとネオユニヴァースへ確認を取ろうとトランシーバーを出し────直後に洞窟全体が震えている事に気が付いた。まるで楽器のような、遠く響くような音も聞こえている。

 

(なんだこれは?これもマム・タロトによるものか?)

「な、なぁあんた、誰なんだ?こいつらをやっつけてくれたって事はギャングの仲間じゃないんだよな!?」

「そうだ。私は君達を助けに来た。このままだと危険だ。動ける体力はあるかね」

 

 生存者の一人が赤衣の男に気付いたようで、藁にもすがる有り様で赤衣の男へ駆けよっていく。他の者達も気付いたようで周囲には安堵が広がっていくが安心するにはまだ早い。

 多数の負傷者をケアしつつ地上へ誘導しなければならない状況にさしもの赤衣の男も焦燥が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"UNKNOWN"……まるで"アポカリプティックサウンド"……?」

『なんじゃこの音は!?これまでで最も響いておるぞ!?』

 

 洞窟が震動する様子はマム・タロトとネオユニヴァースの方にまで届いていた。いや、この二人どころではない。上を見上げればマム・タロトが崩した天井に亀裂が入り始めている。ここまで響いていれば地上にも異変が伝わっているだろう。

 ネオユニヴァースはマム・タロトの様子から地盤沈下の原因がマム・タロトではない事を確信していた。おそらくだがマム・タロト以外にもう一頭、極めて強大な力を持った古龍がいる。

 ネオユニヴァース個人の目的はマム・タロトの外装から剥がれる武具類だが、そもそもの本命はボゴタが被災した原因を調べる事である。原因であろう震動の元へ向かおうとしたが、それを引き留める赤い雷がネオユニヴァースの前へ瞬いた。

 

「え……?行ってはダメ……?危ない……?あ、待って」

『まずい、このままでは信徒が築き上げた都市が壊れてしまう!』

 

 慌てているのはネオユニヴァースだけではない。マム・タロトはこの震動が黄金都市を破壊しかねないとネオユニヴァースの事を忘れて急行した。生存者とギャングの見分けがついていない彼女を放置すればいらない犠牲が出てしまう。仕方なくクラッチクローでマム・タロトの背に飛び乗り黄金都市まで共に向かう。道中で慌てた様子のギャング達がいたが進路上にいた者は例外なく轢かれるか弾き飛ばされていた。

 

「これは……火事?」

『なんという事じゃ!?盗人共、漁るだけ漁って用が無ければ火の海か!!おのれ、不届き者めが……!』

 

 何百年と姿を保っていた黄金都市、実は劣化対策として特殊な油が塗られていた。その事を知っていたマム・タロトは黄金都市の周囲で火炎の使用を自粛していたが赤衣の男がそれを知る筈が無い。哀れ、勝手に罪を勘違いされたギャング達はまたマム・タロトの怒りのボルテージを引き上げてしまった。

 

《ネオユニヴァース、聞こえているか?こちらは行方不明者の保護に成功した。だが人数が多すぎて私一人では手に負えない。マム・タロトの目処が付いているならこちらに来てくれないか?》

「可能……だけど、マム・タロトが出入口で暴れてはしごが壊れてる。震動で亀裂も発生しているから、今出入口の方へ行くのは危ない」

 

『せめてこの黄金だけでも……!』

 

「わ……」

 

 マム・タロトが自身の体を限界まで赤熱化する。高温になった背の熱さに堪らずネオユニヴァースは飛び退くがマム・タロトがそれに気を配る事はなかった。

 火事と洞窟の震動で黄金都市はあちらこちらが崩れており、元の姿を失いつつある。マム・タロトは自身の能力で可能な限り金属を引きつけ持ち出せる量を纏うつもりのようだ。図らずも液状化した周囲の黄金と相まってそれは非常に幻想的な光景だった。

 

『一体妾が何をした!?妾だけではない、慎ましくも昔日の憧憬に思いを寄せていただけの日々に何の罪科があるというのか!今は亡き妾を神と慕った信徒達、その遺品すら安穏が許されぬとでもいうのか!妾は────』

 

 彼女の慟哭は長く続かなかった。

 一際強い震動が発生しマム・タロトとネオユニヴァースの間に巨大な亀裂を生む。亀裂は一つだけではない。黄金を纏おうと直前まで身を固めていたマム・タロトは呆気なく愛した都市と共に奈落へと落ちていった。

 

《ネオユニヴァース!地上との通信が回復した!君が言っていた出入口に大きな穴が空いたんだ!君も早くこちらに来たまえ!この洞窟、長くは持たないぞ!》

「……分かった、すぐ行く」

 

 赤衣の男の言う通りだ。急いで出入口のところまで戻ろうするネオユニヴァース。

 だが違和感を感じた。いや、()()()()()()()

 

 走りながらも振り返った先に、人の手のような岩塊が蠢いているのをネオユニヴァースは目撃した────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の顛末としては、生存者を偶然にも発見し無事救助出来た赤衣の男の美談として表向きは語られる事となる。どうやら火災と地殻変動によりギャングの大半は行方不明になるか大怪我を負っており僅かに生き延びた者も逮捕される運びとなった。赤衣の男がバラック小屋で手に入れた闇取引の書類が有効な証拠だったようで、賄賂を受け取っていた役人や軍人も一掃する手筈となっているらしい。

 共に活躍したネオユニヴァースだが、早々に日本へ戻っており赤衣の男は口裏を合わせて最初からいなかったものとして扱っていた。ネオユニヴァースとしても色々と誤魔化しながらのコロンビア行きであったために特段両者の間に不利益は生じていない。ちゃっかりマム・タロトの外装から剥がれた武器を入手していたネオユニヴァースはホクホク顔であった。

 また、震動により生じた亀裂から大規模な金脈が正式に発見された。ギャング達が違法採掘していた鉱床が地殻変動により、浅い深度にまで位置が変わっていたのだ。被災により困窮していたコロンビア政府はこれに目を付け、同じく被災により職を失っていた者達も我先にツルハシを掲げるようになる。コロンビアは未曾有のゴールドラッシュへ突入し、国始まって以来の好景気に湧く事となった。

 

 

 

 

 

 最後に目撃した謎の岩塊について、ネオユニヴァースは自身と感覚を共有する龍に何も聞けないでいた。

 ネオユニヴァースに"龍呼びの声"の力は無い。基本的にはお互いにイメージする映像を脳内で可視化し送り合う事でコミニュケーションを成立させているのだが、今回の事案に限ってはいくら呼び掛けても何の反応も得られないでいた。

 明らかな強い拒絶にネオユニヴァースはらしくもなく不安な様子を拭えないでいるのであった。

 

 

 

 

 




アルバトリオン
「ごめんねユニちゃん。君が思ってたより強かったのは嬉しい誤算だよ。よくよく考えたら初戦が古龍ってまず有り得ないよね。どこぞのハンターはパン一でやったらしいけど」

「それでもさ、あいつの相手は荷が勝ち過ぎる。君だけじゃない。君といつも一緒にいる面子が全員いても勝ちの目が薄いんだ」

「三女神さんとの交渉次第なんだけど下手するとこれは────」

「────俺がそっちに出張しないとヤバそうなんだよねぇ」
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