セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、年末如何お過ごしでしょうか。お読み頂いている方々に改めて日々のご愛読御礼申し上げます。
さて、予告した通りこれが今年最後の投稿となります。書いていている内に話が広がっていきとても楽しくお話が書けています。それもこれも読んで下さっている皆様のおかげです。
新年も継続して投稿していきますので、皆様最後までどうぞお読み頂ければと思います。

なお今回のレース結果は史実通りにはなりません。


有マ記念

 

 

 

 

 

 

 12月下旬。

 

 中山 芝 2500m 天候:晴れ バ場:良

 

「いや~まさか私が人気投票1位とはねぇ」

「ある意味当然だとは思うけどね。私としてはアスリートとしてのスカイを見てほしかったな」

「それは今更でしょトレーナーさん」

 

 駿大祭が終わって2ヶ月、特に何事も無くトレーニングに臨み迎えた有マ記念。

 セイウンスカイとトレーナーは軽口を叩きながら控え室でリラックスしていた。

 

 

 

 

 

 駿大祭の後に知らされたコロンビアの凶報だがチーム:ドラコとして動く事は全く無かった。滅多に無い総理からのLANEには早まった発言はしないよう注意する内容が送られている。

 国内ならともかく、やはり地球の反対側での出来事では政治的に難しいのだろう。SNSではボゴタの様子を心配する一方で、セイウンスカイ・タマモクロス二人を派遣すべきという声が散見されていた。しかしあくまでもそれは匿名の一般人の持論によるもので、各国政府などの政治的団体ではその話は全くと言っていい程議題に上がらなかった。総理を含め、日本政府が苦心してくれているのだろう。SNSでの盛り上がりと反比例するかのように静けさを保つ自身の周囲に、セイウンスカイは総理を始めとする首脳陣へ感謝の念が絶えなかった。

 

 この2ヶ月で変わった事と言えば大豊食祭プロジェクトチームのトレセンブランド【トレセンオオモロコシ】が軌道に乗り始めたところである。駿大祭での販促が功を奏したのか、オオモロコシの一粒一粒が飛ぶように売れていた。中身を擦り潰して皮を器にしたコーンポタージュであったり肉やチーズを詰め込んで焼いたコーンの肉詰めなど、大きさに伴って丈夫になった皮を活かしたレシピが大きく広報されている。

 この様子にイナガミは大変気を良くしており、プロジェクトチームのメンバーと共にその喜びを分かち合っていた。タマモクロスからの人語の勉強も進んでいるようで、今なら初期のバルファルクと同じように簡単な単語であれば文字を理解できるらしい。流石に喋るのは無理そうだと、ケラケラ笑うタマモクロスだがイナガミは執念を燃やしている。実はイケるんじゃないかとアグネスタキオンはイナガミの発話に期待を寄せていた。

 

 その他にもネオユニヴァースが出所不明な金塊を旧理科準備室のマカ錬金に持ち込もうとして物議を醸した事があった。時期が時期だけに例の事件と心当たりありそうなものなのだが、そうするとどうやってコロンビアから運んだのかという話になる。何やら重大な情報があるらしいのだが、詳細についてはアグネスタキオンからの精査を待つ事になったため、金塊については秋川やよいが学園で所有する金庫で厳重に管理される運びとなった。未だ共同研究が停止されているのにも関わらずそのような奇行に及んだ当のネオユニヴァースは金塊の出所について固く口を閉ざしている。

 セイウンスカイはネオユニヴァースの奇行に最早怒りすら湧かず諦観していた。他の者達も同様の反応だったようでアグネスタキオンがわざわざ取りなしている次第である。まさかアグネスタキオンよりも問題児になるとは、誰も最初は思わなかったのだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで有マ記念である。

 レースへの目立った障害は無い。こう言ってはなんだがコロンビアの事件以外で特筆した話題は無かった。強いて言えば英国にいるシャーロットから()()()()()を貰ったくらいだがそれは有マ記念の後の話である。シャーロットには有マでの勝利を持っていくとセイウンスカイは大見得を切っていた。

 

「いやぁ……改めて見ると壮観な面子ですよね。ツルちゃんも滑り込んで同期四人集まるし、エアグルーヴ先輩やバブル先輩とかシニアのお歴々の何たるか……」

「自信を持って良いはずだよスカイ。なんたってここは君のホームグラウンドだ。君が不足無く実力を出しきれれば勝てない相手じゃない。"龍呼びの声"だって正直いらないレベルだと思うよ」

「そ、それは買い被り過ぎなんじゃないですかね……?」

 

 デビュー戦の時から数えて既に三勝している中山でのレースである。一応口では謙遜するものの、内心セイウンスカイも絶好のレース場であると自負していた。

 中山ラストの直線310mは有名だ。最後の直線がゴールまで短いおかげで中山では逃げ・先行が有利とされている。もちろん過去のレースで差し・追い込みのウマ娘が勝利している例はあるが、統計的には前残りしやすい脚質が勝っているだろう。

 何にせよセイウンスカイにとって有利なレースだ。勝って気持ちの良い新年を迎えるつもりでセイウンスカイは臨んでいた。

 

「注意したいのは君が今言ったシニア勢だね。クラシックの時には通用した戦法が通じないかもしれない。もっと言えばスカイの感覚能力をあちらなりに分析して当たりを付けてるかもしれないんだ」

「えー。それはやだなぁ……」

「向こうにだってプライドや意地があるからね。あっちからしたらクラシック上がりの新人にシニアの貫禄を見せつけるつもりでもあると思うよ。今までは奇策で勝てたかもしれないけど、シニア特有の対応力ってのをここで見ておきたいし」

「トレーナーさん、もしかして勝てなくてもいいとか言っちゃいます?」

「いやいや、それはないよ。やるからには勝つつもりでね。ただこれまで競ってきた同期の子達とは、比べものにならないんじゃないかな。もちろん能力の使用はスカイの判断でいい。今回は作戦らしい作戦はないからね。好きに走ってきておいでよ」

「はいは~い。じゃあセイちゃんらしくいつも通り、そこそこ頑張ってきますね~」

「うん、期待して待ってるよ」

 

 いつもの調子でレース場に駆けていくセイウンスカイ。それを、同じようにいつもの穏やかな眼差しでトレーナーは見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《今年も残すところ後僅か。そんな貴重な年末にウマ娘達の勇姿を見ようとここ中山には大勢の観客が押し寄せています》

《年の瀬一番の大レースです。ここを勝って是非とも最強のグランプリウマ娘に名を連ねてもらいたいですね》

 

《人気ウマ娘を紹介しましょう》

《三番人気、スペシャルウィーク。今年のダービーウマ娘です。夢だったダービーの称号、それを胸にどこまで羽ばたいていけるのか》

《クラシックの娘では最も良く体が仕上がっていると思われます。勝ちの目は十分にあると思いますよ》

 

《二番人気、エアグルーヴ。シニアのオークスウマ娘です。秋の天皇賞ではバブルガムフェローと死闘の競り合いを制し見事勝利を収めました》

《この娘のガッツには見所があります。女帝と称されるその実力を遺憾無く発揮してもらいたいですね》

 

《一番人気、セイウンスカイ!皐月賞・菊花賞を制した今年の二冠ウマ娘です!確かな実力とそれを活かす奇策上策でクラシックを盛り上げてくれました!》

《中山を得意とするウマ娘です。この娘の走りは目が離せません!どんなレースを展開してくれるのか楽しみですね!》

 

「はんにゃかはんにゃかはんにゃか~……」

(なんでフクキタル先輩の隣なの……)

 

 ゲートインしたセイウンスカイは少し憂鬱になった。セイウンスカイから見て内枠側の隣にマチカネフクキタルがいるのだが何やらお祈りしているようで訳の分からぬ内容をブツブツ呟いているからである。マチカネフクキタルはトレセンでは占い師としてわりかし有名であったりする。インチキなどではなく真面目に占いをやっており意外と当たると評判も良い。一方で本人は一挙一動の落差が激しく何かと叫んでいる事も多いため、人によって明確に評価の変わる人物だった。その人相から軽んじられがちだが、これでもセイウンスカイの先輩菊花賞バである。当然舐めていい相手ではない。

 マチカネフクキタルだけでなくここに出走している全てのウマ娘が実力に裏打ちされた人気を元にゲートに入っているのだ。

 

 セイウンスカイは意識を切り替える。本の少しだが"龍呼びの声"による感覚拡張を展開した。ダービーからほぼ半年、"龍呼びの声"のトレーニングは欠かさず続けている。その甲斐あってか感覚は単に気配を索敵するだけに留まらず、気配を捉えた相手の状態が少し分かるようになっていた。表面的な感情が読み取れるようになったのだ。喜怒哀楽はもちろんの事、レースに挑む不安や焦りといった感情はコンディションに著しく影響する。それら読み取り自分以外の有力バを推し量るのである。

 

(やっぱ最有力はエアグルーヴ先輩だよねぇ。穏やかな水面みたいな心持ち。何ならスズカ先輩と競り合ってて有力な逃げウマ相手の勝ち方知ってるだし下手すると天敵かも)

 

 やはりこの場で難敵となるのはエアグルーヴだろう。セイウンスカイはエアグルーヴをマークする事に決めていた。

 

《各ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!》

 

《さぁ最初に飛び出したのはエアグルーヴです!鮮やかなスタートを切りました!》

(スタート上っ手(うっま)!?)

 

 本来なら逃げであるセイウンスカイが先陣を切りたいところをエアグルーヴが先頭をかっさらっていった。だが先頭を維持する訳でもなくそのままするすると下がり好位置に着けている。その脇からセイウンスカイが先頭に出たがエアグルーヴから放たれる圧力(プレッシャー)は相当なものだ。

 

(やっば。本気で前に出ないと差されるやつだ)

 

 セイウンスカイ相手の差し切りといえばスペシャルウィークだがそのスペシャルウィークは出遅れていた。一応差しという事で比較的後方の位置取りであるからまだ挽回はできるのだが、差しの好位置にはあのマチカネフクキタルがいる。こちらも妙な気迫を持っていてそれが周囲のウマ娘との間に一定の距離を作っていた。

 

 今回は菊花賞で採用したラップ走法は行っていない。あれが出来れば確かに勝利の確実性は上がるのだが、常に掲示板へ注意を払うのは"龍呼びの声"以前に精神的な負担が高かった。また今回は高速化しやすい中山2500mである。菊花賞より500mも短い上に最後の直線はたった310m。それならば、レース中にじっくりタイムの確認をするよりとにかく前へ出る方がやりやすいとセイウンスカイは考えたのだ。

 

(エアグルーヴ先輩に気をつけて取り敢えず逃げる!これしかない!)

 

 エアグルーヴへの対策、それ自体は有効だった。実際人気を除けば純粋な実力で最も強いのはエアグルーヴだろう。セイウンスカイが皐月賞で行ったマーク戦法は有力バが他に一人しかいない時に機能する。そういう意味では間違いがなかった。

 

 ただ一点、セイウンスカイは読み違えていた。

 あの不屈の王がクラシック無冠のまま終わるはずがなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《さぁ第4コーナーを回って……後続がジリジリと差を詰めています!セイウンスカイ粘る!中山の直線は短いぞ!セイウンスカイは粘りきれるか!?》

 

「ああもうとんでもない末脚だなぁ……!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 エアグルーヴが詰め寄りセイウンスカイが何とか粘るというラストの直線だった。少なくともこの二人の内どちらかが勝者だろう。そういう絵であった。スペシャルウィークは残念ながら好位置に恵まれずバ群に沈んでいる。

 だからこそ、第4コーナーを曲がりきるまで誰も気に留めていなかったのだ。

 

《エアグルーヴ僅かに並ぶか!?いやセイウンスカイが差し返す……いや大外から、大外から!?》

 

《キングヘイローが飛んできた!?キングヘイローが飛んできたぁ!!!》

 

「うそっ!?」

(ここでキングは聞いてない!)

 

「最後に勝つのは……このキングなのよ……!!!」

 

《キングヘイローか!やはりキングヘイローか!》

 

《キングヘイローが撫で切ったぁ!!!》

 

《なんと!なんと!同期はおろか、並みいるシニアすら押し退けて!ここまで無冠、キングヘイローが勝ちました!》

 

「まーじかー……」

「……してやられたな」

 

 二着・エアグルーヴ、三着・セイウンスカイ。二人揃って感嘆の声を上げる。

 セイウンスカイはキングヘイローを全くマークしていなかった。"龍呼びの声"でキングヘイローの感情を読み取った際は焦りを越えた何かが渦巻いており戦績から苦境に立たされているのは明白だった。エアグルーヴとは対称的でありこれまでの様子から見て脅威にはなりえないと判断してしまったのである。

 おそらくエアグルーヴもセイウンスカイが有力バだと考えていたのだろう。サイレンススズカがいる限りエアグルーヴにとって逃げとの対決は宿命だ。ここでスズカ以外の逃げウマに負けるつもりは無かったのだ。

 

「はぁ……はぁ……キングちゃん勝ったんだ。おめでとう!」

「つ、ツルちゃん、大丈夫?息戻せるの?」

「ふぅ……大丈夫だよセイちゃん。これでも夏の特訓で体がかなり仕上がってるんだ。走れただけでも御の字だよ」

「ようやくこのキングに相応しい走りができたわ。見てなさい、キングはここから輝くのよ!」

「いやぁ~上手くいかなかったべ……フク先輩の位置取りが上手すぎる……」

 

 やいのやいのと、セイウンスカイの同期達が集まり囃し立てる。

 キングヘイローの勝利は世間に衝撃を与えた。これまで好走しつつも後一歩及ばずといったキングヘイローは徐々にナイスネイチャのような善戦ウマ娘としての扱いが目立ち始めていたのだ。それがここに来てそのイメージを払拭するG1初勝利である。やはり今年のウマ娘達も粒揃いだと思わせる締めくくりに観客達は大いに湧いた。

 

「まさかここで負けるとはねー……」

『セイウンスカイ、負けたのか?』

『ん?ああそうだよ。残念ながらセイちゃん負けちゃいましたー。いやぁ私の判断ミスが祟ったなぁ』

『その割には気落ちしてないようだが』

『ありゃま。やっぱりバレる?』

 

 空からはいつも通りバルファルクが観戦していたが、セイウンスカイの様子が気になったバルファルクが声をかけている。負けたと聞いてダービーを思い出したバルファルクだが、その頃とは違って晴れやかなセイウンスカイの心情を不思議に思っていた。

 

『負けたというのに、楽しいのか、セイウンスカイは』

『そっか、楽しいか。バルファルクにはそう見えるんだね』

『以前は焦りや驚き、不安・怒りなどを感じていた。だが今のセイウンスカイは違う』

『楽しいよ。だってさ、同期の仲間達がこんなにも強いんだ。そんな友達とこれから目一杯レースができるって凄く幸せな事じゃない?』

『みんな仲間でライバル、だったか。今さらになって歌詞の良さが理解できるとはな』

『でしょでしょ。これからも走り続けられる限り走ってくよ。その方がずっと楽しいしね』

 

 キングヘイローの初勝利に湧く同期達。確かに自分が負けて悔しい気持ちが無い訳ではない。ただそれは自分の問題であって仲間の勝利には純粋に祝福する気持ちの方が強かったのだ。

 

(帰ったらシャーロットに謝らなきゃね)

 

 異国にいる友人に少しばかりの謝罪の念を携えてセイウンスカイは中山レース場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、スカイは負けてしまったのね」

「同期の一人が突出したガッツを見せたようです。レースというのは丁寧に鍛えあげられた才能よりも、荒れ狂う克己心が上回る事もあります」

「そういうものなのね。とはいえ負けて三着、善戦した方よ。まだ負けた数の方が少ないんだから」

 

 英国、ロンドンにて。

 極東のレースに心を寄せる少女と騎士の姿があった。

 

「ま、積もる話はこちらに来てからね。まさかダメ元で話した訪英が承諾されるなんて」

「コロンビアの件についても合わせてお話しましょう。どうやらネオユニヴァースは話せていないようなので」

「ええ、そうね」

 

 書斎で紅茶を飲み一息付くシャーロット。その視線の先には在りし日の祖父の写真があった。

 

「やっと……やっと聞けるわ。亡くなったお祖父様とムフェト・ジーヴァがどんな関係だったか。それを彼女に聞いてもらいましょう」

 

 セイウンスカイが受けた招待。

 それは年末年始に英国に行き赤龍────ムフェト・ジーヴァと邂逅する事だった。

 

 

 

 

 




はい、スカイのイギリス行きです。とうとう日本を飛び越えました。
次回の投稿は新年からとなります。
それでは皆様、良いお年を。
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