セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

44 / 102
日頃よりご愛読のほど、誠にありがとうございます。

以下アルバからの贈り物

「いや~ユニちゃん悪いね、三女神さんと交渉中なんだけど上手くいかなくてねぇ。俺の存在事態が天変地異と言われたら否定しようがない」

「交渉はまだ続けるけど次善策としてこれを送っておくよ。最悪俺行けないかもしれないから、ヤバくなったらこいつでなんとかしてね」







春眠、暁を覚えず

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 3月末。

 冬は過ぎ春の兆しが訪れる頃。

 少ない春休みの間で惰眠に耽るネオユニヴァース。しかし彼女の腹には覚えの無い重みが感じられた。

 

「これは……」

 

 大きな黒いトゲ、としか言いようのない物体だった。大きさはネオユニヴァースの腰から首まである。黒光りした艶やかな鋭さを放っていて、突き刺してしまえば容易にネオユニヴァースの体を貫通しそうだ。

 一見すると由来不明の物体だが、謎の龍を通して異世界を見聞きしたネオユニヴァースにはこれが何なのか分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず併走は疲れますね……」

「何言ってんねん。もう教えるとこないんやぞ」

「そうだね、スカイの走りはだいたい完成しちゃってるな」

 

 英国から帰って早3ヶ月。

 セイウンスカイは春の天皇賞を目標にこれまで通りのトレーニングの日々に戻っていた。

 

 英国から帰り変化が無かった訳ではない。最も顕著なのはやはり赤龍から託された卵だろう。事情を聞いたシャーロットは大層驚き、また合わせて聞いた赤龍の死に一時はパニックすら起こしたが何とか平静さを取り戻した後、わざわざ所有するプライベートジェット機でセイウンスカイを帰国させた。通常の手荷物であれば普通の旅客機で帰っても良いが、前代未聞のドラゴンの卵があるのだ。経緯を聞けばセイウンスカイから離すのも良くない。世間に知られればとんでもない騒ぎになるのは確実のため、手間をかけてセイウンスカイと卵が一緒にいられるよう尽力したのだ。

 

 そして帰国してからも大変だった。

 ドラゴンの卵、これをどこに置こうかという話である。保管場所が中々定まらなかったのだ。セイウンスカイの部屋では無関係のルームメイトがいるし、だからといって金庫などで保管しては外からの刺激を得る事はできない。最終的にセイウンスカイがチーム:ドラコのメンバーと相談して決めた場所はトレーナー室だった。トレーナー室なら毎日通う上にチームの誰かしらがいるため話し相手には困らない。堂々と卵を外に晒して良いものかという意見もあったが、そもそも既に生まれる準備は整っていて温度管理などは必要無い。無関係の人間から問われた際はそういうインテリアだという事で押し通す事になっていた。

 ドラゴンの卵を他に知る者は学園長や総理など限られた者となっている。学園長の胃だったり総理の生え際が心配になる案件なのだが二人とも笑って受け入れてくれていた。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで3ヶ月である。短い春休みだが春の天皇賞まで猶予は無い。3200mというG1最長距離を駆け抜けるには徹底して体を鍛えあげねばならないのだ。

 

「『精が出るな、おまえ達。次は3200mだったか?わざわざ過酷なレースへ挑もうとするとはな』」

「スカイの適正を考えたらこれくらいは走ってくれなきゃね。それともバルファルクから何か意見ある?」

「『意見というほどでもない。敢えて直感を話すならセイウンスカイの適正距離は3000を越えないのではないか、というくらいだ』」

「『へぇー。それはバルファルクなりに根拠がある話なの?』」

「『あくまで俺の解釈だが、貴様らのレースは後半にしか意味がない。より正確に言うなら後半の、最も足を使う時のみだ。セイウンスカイより後ろの位置なら話は変わるだろうが、貴様は常に先頭を走り続けるのだろう?であれば、貴様らがラストスパートと呼ぶその時間を最も適正に扱える者がレースで勝利すると踏んだ。3200mで俺が合わないと感じたのは、その距離ではセイウンスカイがゴールまで足が持たないと感じたからだ』」

「『……』」

「『……』」

「……」

「『なんだ、揃いも揃って。まぁ所詮人でない俺の意見だ。的外れなことを言った自覚はあるが────』」

「『逆だよ、逆!レースに凄く詳しくなってない!?』」

 

 三者三様に揃って惚けたがバルファルクの、あまりにも"らしすぎる"意見に誰もが驚いていた。

 実のところバルファルクはセイウンスカイのレースだけでなく、仲良くなった他のウマ娘との交流でレースの話を聞く事が多い。相変わらすターフの中央が縄張りのため、併走なり模擬レースをやれば嫌でもバルファルクの視界に入る。結果的にではあるが、随分とレースに対する目が肥えてしまっていた。

 タマモクロスのトレーナーが聞けばいつもの調子で豪快に笑い飛ばすだろう。しかし彼女はこの冬から体調を崩しており自宅と病院を行き来する療養の日々が続いていた。時折タマモクロスが様子を見に行っているが大事無いという。

 

「頑張ればバルファルクもトレーナーやれるんじゃない?」

「『頑張る気にならないから無理だな』」

「『随分と切れ味のある返答やなぁ。あんたますます言葉に磨きがかかってへんか?イナガミはようやっと言葉が分かるくらいになったところやで。喋るのは夢のまた夢や』」

「『あいつは口の形が違うからな。まぁ好きなだけ頑張ればいいさ』」

「『……悪意無いのは分かってるけどそれ絶対イナガミに言わないでね。めんどくさいから』」

「『面倒なのはセイウンスカイが持ってきたあの卵だろ。何やら妙な力が……』」

『しーっ!それ秘密なんだから!言うなら人の言葉切ってからにして!』

 

 慌ててセイウンスカイがフォローに入る。セイウンスカイのトレーナーもタマモクロスも指でバッテンを作り首を横に振るジェスチャーでバルファルクを諭していた。

 

 セイウンスカイが赤龍の卵を持ってきた当初、意外な事に難色を示したのはバルファルクだった。どうもセイウンスカイが他から厄介事を引き受けてきたのが気に食わないらしい。大方もっと構ってほしいんだろうとセイウンスカイは当たりを付けていたし、実際バルファルクのそういった感情に間違いは無かった。イナガミはというと、話せはせずともヒアリングができるようになったためそれを活かして大豊食祭チームとの農業に躍起になっていた。卵の話を聞いても農業と関係無いのなら大した興味を抱かない、といった具合である。イナガミらしい割り切りに一同は苦笑するばかりであった。

 

 その他東京湾に住み着いているナバルデウスは年下が出来る事を喜んでいた。ナバルデウスは現在判明している古龍の中で、GPSを除く人間の管理下に唯一置かれていない古龍である。去年の夏の事件の後、母親を失ったショックからしばらくタマモクロスへ甘える事が多かったのだが、最近は観光客がナバルデウスを求めて押し掛ける事が多くその人の多さを気に入っていた。どうやらナバルデウスは一人ぼっちになってしまうのを極端に不安に思っていただけで、人間が近くにいてくれるなら言葉は分からなくても寂しさを紛らわせる事ができるようだ。フラッシュ付きの写真撮影も問題無い。基本的に沖を泳いでいるため直接触れ合う事は無いのだが、人間の声に反応してブリーチングを行うなどサービス精神は旺盛だった。

 

 

 

 

 

『そのだな、そういう秘密があると新人が入ってこれないんじゃないか?』

『それは確かに問題なんだよね……』

 

 トレーニングの後。

 トレーナー室で喫緊の問題に頭を悩ませるセイウンスカイの姿があった。

 

 春の天皇賞も大事なのだが、春は出会いと別れの季節である。この場合大事なのは出会い、つまりはチーム:ドラコの新規加入ウマ娘なのだがこれをどうしようかとチーム全体で頭を痛めていた。単純に募集すれば間違いなく飽和するレベルでウマ娘が集まるだろう。ただその一部には古龍への興味だけで応募してくる者もいるわけで、それらを振り分けるのは通常のトレーナー業を押し潰しかねない苦行が予想されているのであった。

 本当ならチーム:ドラコ全体で会議を開くべきなのだが、タマモクロスのトレーナーの体調不良やアグネスタキオンが研究に没頭していたりと中々時間が揃わないでいた。

 尤もタマモクロスのトレーナーからは直感で選んでいいというお達しがされている。どうやら教えられる事は教えてやったという体であり、これ以上積極的な指導は行わないとの事だ。クラシック二冠を達成し、負けても未だ三着以内に食い込むなどセイウンスカイの競争成績は揺るぎ無い。結局のところトレーナー次第であるというのがセイウンスカイにとっては問題だった。

 

(トレーナーが他のウマ娘も担当するのがな~)

 

 ネオユニヴァースの事をすっかり忘れているセイウンスカイ。ネオユニヴァースは今年がデビューの年であるのだが、トレーニングとしては可も無く不可も無くといったところだった。そもそもワープじみた位置取りを行う彼女の走りに対応したトレーニングメニューは組めておらず、半ばフィーリングでの進める事になったからだ。つまりはなるようになれ、である。

 セイウンスカイからすると本当に理解できない奇行を繰り返すので認識としては最早ウマ娘の枠から外れていた。ちなみにだが【大砲モロコシ】事件から処されていたアグネスタキオンとの共同研究停止は3月から解除されている。去年12月の黄金持ち込みを最後に目立った奇行が無かったためだ。恐らくは反省しているのだろう────いやそうあって貰わないと困るのだが、とにかく頼むからもう何もやらかさないでくれという切実な想いをセイウンスカイは願っていた。

 

 

 

 

 

「トレーナーさん、新しいウマ娘どうするんですか?まだ様子見だったり?」

「四月に模擬レースがあるからね。私としてはそこで見るつもりだよ。話としてはまだ先かな」

「……ふーん」

 

 不機嫌、というほどでもない。

 恋敵にネオユニヴァースは除外するとして、基本的にセイウンスカイのトレーナーは男として良物件だ。若く容姿も整っており、図らずもセイウンスカイのおかげで半ば将来の成功が約束されている。考えてみれば引く手数多のはずなのだ。

 しかし今に至るまでセイウンスカイはトレーナーに女の影を感じた事すら無かった。

 

(聞いたら気があるって思われるかな……)

 

 ここでお得意のセイちゃんクオリティである。新しいウマ娘が来ても自分を差し置いて懇意にする姿をセイウンスカイは想像出来なかったのだ。もっと言えばセイウンスカイのトレーナーは"トレーナー"としての職責に誇りを抱いて遂行している。ごく一般的な感性だが、未成年の女子と成人男性の恋愛など受け入れるはずがないだろう。これが某貴婦人なりガラスの少女なり閃光であれば家族などから外堀を埋めにかかるだろうが、セイウンスカイにそんな強かさは無かった。

 

(もうちょっと自然なボディタッチとかで意識させるとか……いやいや、恥ずかしくて死にそう)

 

 デスクワークに向かうトレーナーの死角でうにゃうにゃと机に突っ伏すセイウンスカイ。本来なら誰かからツッコミをもらいそうな絵面だが、タマモクロスは自身のトレーナーに付き添い、アグネスタキオンとネオユニヴァースは引き続き共同研究を行っている。久しぶりの二人きりなのだが、トレーナーと中々距離を詰められない事にセイウンスカイは業を煮やしていた。

 

 しかし静寂ばかりではない。悩むセイウンスカイを思考を止めたのは礼儀正しいノックからだった。

 

「はーい。どちら様でしょう……うぇっ!?」

「済まない、驚かせてしまったかな。遅れてしまって申し訳ないのだが、去年の約束を果たしに来たよ」

 

 来客────シンボリルドルフは、セイウンスカイすら忘れていた去年の口約束を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 旧理科準備室にて。

 いつもの通り研究しているアグネスタキオンはネオユニヴァースからもたらされた物に眉を寄せていた。

 

「……これは……ふむ……いや、しかし……」

「独り言が多いですよ、タキオンさん。珍しく唸っているじゃないですか。いつもみたいにテンションが上がらないのですか?」

「確かに興味深いのだけどね、これが"生きている"というのが腑に落ちない」

「……"生きている"?」

 

 アグネスタキオンが困惑している先にあるのはネオユニヴァースが持っていた謎の黒いトゲだった。ネオユニヴァース曰く生物の一部位らしい。言ってしまえば"あちら"の世界の産物でありこの世界には関係無い。しかしネオユニヴァースはアグネスタキオンにこれを調べてほしいと依頼していた。肝心のネオユニヴァースは他に調べる事があるからとどこかへ出掛けてしまっている。

 

「このトゲ、ただでさえ硬いのだが白いところは若干柔らかいみたいだ。そこをほじくったりして内部を見ているんだが、これを見たまえよ」

「……?」

 

 アグネスタキオンがマンハッタンカフェを促し顕微鏡を覗かせる。するとそこには僅かに蠢く細胞のようなものが見えていた。

 

「何ですかこれは……」

「胚だよ」

「はい?」

「生物の発生初期段階の状態さ。ここから細胞分裂を始めて繰り返し、徐々にただの細胞の集まりから生物の姿になるんだが、不可解なのはこれがこのトゲの中で活動可能な癖に胚の状態を保っているという事だよ」

「生物って……つまりこれは、何らかの卵という事なんですか?」

「私としては植物の種に近しいものだと考えていてね。動物であれば、細胞分裂が可能な時点でさっさと生物の姿になるはずなんだ。一方植物の場合は種のまま生育に望ましい環境になるまで発芽を待つ事ができる。ちぐはぐなんだ、この胚は。姿は動物の胚だというのに植物の胚のような特性を持っている」

「動物か植物か分からない……と?」

「これを持ってきたネオユニヴァースは生物の一部位だと言っていてね。そう一部位だ。卵ですらないんだこれは。口振りから動物の一種……だと思うのだがね。ただあまりにもこの繁殖方法は通常の生物から逸脱し過ぎている」

「どういう生物か分かっているんですか?」

「姿は分からないがネオユニヴァースの証言とこの胚の特徴からおおよそは推察できる。まず、この生物は卵や子供などを産まない。それどころか雌雄の間で交尾すらしない。雌雄の概念があるかすら怪しいね。何せ繁殖方法は胚を含んだこのトゲを多数撒き散らす事なんだから」

「……?撒き散らしてからどうするんですか?」

「さっきも言っただろう?望ましい環境になるまで、と。恐らくこの胚はこのままでも細胞分裂が可能なんだろうが、それでは生物の姿になるまでの栄養が足りないんだ。多分なんだが、この生物がこのトゲを撒き散らす先は他の生物、それも潤沢な栄養を持った強大な存在────例えば古龍なのではないかとね」

 

 アグネスタキオンはトゲを持ち上げ呟く。

 研究のために空けられた穴はみるみる内に再生し穴を塞いでいく。まるでビデオの早回しのような光景にマンハッタンカフェは絶句していた。

 

「古龍……貴方達がそう呼ぶドラゴンを狙うなんてそんな……」

「相当、いや、極めて好戦的な生物だよ、このトゲの持ち主は。オストガロアとの戦いを見ただろう?古龍に対抗できるのは古龍しかいない。つまり持ち主の正体は────」

 

「古龍を喰らう古龍。そう呼ぶのが適切なんだろうね」

 

 

 

 

 




ゼノだけじゃないんすよ、とだけ

まさか筆が乗り過ぎて2日連続投稿ができるとは思いませんでした
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。