セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

45 / 102
皆様、平素よりご愛読の程誠にありがとうございます。

めちゃくちゃ筆が乗る。書きたかったこと書いてるとめちゃくちゃモチベ上がりますね。
今回シンボリルドルフの人物像に独自の解釈を交えています。勝ち方にこだわりそうだなと思った次第です


出会いと生まれ

 

 

 

 

 

 

「えっとこれは……」

「TCG、トレーディングカードゲームだよ。小さな頃に遊んだ事は無いかな」

 

 いつぞやぶりの生徒会室にて。

 セイウンスカイは皇帝らしからぬカードの束を見て面食らっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 去年の春、皐月賞の後の対談でセイウンスカイはシンボリルドルフからアドバイスを貰うという話をしていた。しかし一年近く前の話をセイウンスカイは覚えていなかった。仮にセイウンスカイが覚えていたとしてもその場限りの愛想だと考えて本気にしていない。実際シンボリルドルフはトレセン学園の生徒会会長として多忙の身であり中々セイウンスカイの元へ行く時間が作れなかった。

 

「シニアに入ったらという約束だっただろうに、気付けば春天が目前だ。君の力になれば良いが」

「いやー、正月から書き初めイベントやってたって聞きましたし忙しいなら仕方ないですよ」

 

 シンボリルドルフに連れられてトレーナー室を後にする。セイウンスカイ。この時セイウンスカイが考えていたアドバイスというのは、シンボリルドルフが経験を基にしたありがたいお話なんだろうと考えていた。だが実際に来て見れば、意外な程シンボリルドルフには似つかわしくないものだった

 

「私がこういったものを好むことに驚くかな。結構本気で集めているんだよ」

「……正直に言えばイメージと全然合わないのでびっくりしました。会長さんの趣味って、クラシックを聞くとか難しい本とか読んでそうな感じだったので」

「そういう趣味が無い訳じゃないよ。実は自分から集めだした訳じゃないんだ。前にゴールドシップがカードゲームで私に勝負を挑んできたことがあってね。私はトランプなどで遊ぶつもりだったんだがゴールドシップが持ち出したのがこれだったのさ。それ以来ハマってしまってね」

 

 派手な装飾がなされたカードには今風のアニメ絵だったり色んなクリーチャーだったりと多彩な絵が並んでいる。それをこれまた高額そうな菓子箱に綺麗に詰めて並べているものだから、ミスマッチなその雰囲気にセイウンスカイはただ困惑するしかなかった。

 

「えっとこれが……もしかして私へのアドバイスに繋がるんですか?」

「そうだ。とはいえ、まずはアドバイスについては忘れてくれ。これで何回か遊んで貰えれば、何が言いたいか分かるはずだ」

 

 言いながらカードの束を開封する。TCGの種類は多岐に渡っており、全てを網羅するのは難しい。しかしシンボリルドルフが取り出した箱にはおおよそセイウンスカイが知り得る主要なゲームタイトルが連なっていた。

 

「君にこういったカードゲームの経験はあるかな。無ければ私が推奨するもので教えるが」

「あ、大丈夫です。子供の頃にこういうので遊んでたので」

 

 セイウンスカイは言いながら見覚えのあるタイトルのデッキを手に取る。小学校低学年くらいまではこういった遊びが主流だった。子供の頃の思い出を懐かしみながらデッキの中身を検める。どうやら最新のシリーズらしく、ほとんどのテキストは知らない効果だったり新システムだったりするが、ルールは覚えているので遊ぶのに不都合は無かった。

 

「そうだな……デッキは貸すからとりあえず五戦してみよう。手抜かりなく、よろしく頼むよ」

「あははは。久しぶりなのでお手柔らかにお願いします」

 

(どういうつもりなんだろう。でもまぁ普通に遊ぶか)

 

 合縁奇縁、まさかあのシンボリルドルフとTCGに興じる機会に恵まれるとは露ほどにも思っていなかったセイウンスカイ。

 この勝負は意外なほど伯仲し、セイウンスカイも素直に楽しめたために気付けばシンボリルドルフの前でリラックスする事が出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって。

 トレーナー室ではセイウンスカイのトレーナーが黙々とデスクワークに没頭していた。

 これまでのトレーニングからセイウンスカイの成長を数値化し、それを今後の予測線として纏め必要なトレーニングメニューを組み上げる。今のところ大した不調や怪我なくここまで走れているため頭を悩ませることは無いのだが、今後担当するウマ娘がそうであるとは限らない。無事是名バである事は大事だが、怪我した後のケアもトレーナーとして重要な職務だ。

 

(怪我はさせないものだけど、怪我の経験が無いのも問題、か……)

 

 つい先ほどまでいたセイウンスカイはシンボリルドルフに連れられて行った。トレーナーとしてもシンボリルドルフからのアドバイスという話は寝耳に水であり大層驚いたものだ。しかし心配は無い。セイウンスカイは要領良く物事をこなせる才能がありシンボリルドルフからのアドバイスにしても、必ずモノにして帰ってくるであろう事は容易に分かっていた。

 育成ウマ娘として見るとセイウンスカイはあまり手がかからない。ウマ娘によっては気性が激しかったり、独特な感性でコミュニケーションに難があったりする者も多いが、セイウンスカイは基本的に常識人でありその方面で苦労する事は無かった。

 

(気晴らしに校内のウマ娘を見て回るか……ん?)

 

 気分転換に散歩でもしようと立ち上がった時だった。窓からこちらを覗く人影が見える。ここトレーナー室は一階に位置しているため窓の外から直接中を見る事が出来るのだが、こんな風に覗いてくる人間に心当たりが無い。

 思わずカーテンをどかしてみる。そこにいたのは一人のウマ娘。

 

「あっ、ごめんなさい。……何もなくじろじろと見ているのは失礼よね。すぐいなくなるから……」

「待った、君の話が聞かせてほしい。部屋の中が気になるんだろう?おいでよ、コーヒーくらいなら用意できるよ」

 

 誰が見ても分かるくらいにひどく憔悴した様子のウマ娘────アドマイヤベガが佇んでいた。

 

 この時、窓から外を見ていたトレーナーは気付かなかった。

 セイウンスカイが持ち帰ってきたあの赤龍の卵が、ひっそりと光を強めゆらゆらと揺れだしていた。

 

 

 

 

 

「それで、どうしたんだい。傍目に見ても今の君は良い状態に見えないけど」

「それは……その……」

「言いたくないならいいさ。無理することじゃない。ただ部屋を覗いていた理由は教えてくれないかな。それも言いたくない?」

「……光っていたの。それが、すごくキレイで」

「光って……?」

「これよ」

 

 アドマイヤベガが指差す先にはあの赤龍の卵があった。二人が座る丸テーブルの中央に飾られたそれは如何にもそういうインテリアにしか見えない。

 

「ああ、ま、まぁこれはそういうものだからね。ちょっと珍しいものみたいで」

「……貴方のところって他にウマ娘を募集していたかしら」

「来月に新規ウマ娘を探す予定だけど……?」

「それ、私じゃいけない?」

「えっ?それはどういうことだい?君にはトレーナーが……」

「解約したの」

 

 思わず息を呑むトレーナー。静かで、しかし荒れ狂う程の感情に襲われているアドマイヤベガは、まるで吹雪のような冷たさと荒々しさを兼ね備えていた。

 

「言われたのよ。背負うものが理解できないって」

「それは……」

「当然よ。話していないもの。私がレースに懸ける意気込みなんて言われても私には……」

「……君のプライベートに深く関わることだから、かい?」

 

 言葉も無く頷くアドマイヤベガ。今の事情はかなり端的に説明していたが、実際はかなり荒れた話し合いになっただろう。

 恐らくアドマイヤベガとしては単にトレーニングメニューを組んでくれるだけで良かったのだ。しかしウマ娘のトレーナーはそういかない。何のために走るのか、何が走るための理由なのか、そういった精神的支柱も考慮してウマ娘とトレーナーは互いに信頼し合うのだ。そうでなければトレーナーは担当するウマ娘の実力を引き出せない。

 

「理解ができないから君に沿ったトレーニングを提案できない、このままだと自分は無責任なトレーナーになってしまう、なんて言ってたわ。ほんと、真面目な人だった……」

「それでも言う気になれなかったのか」

「ええ。だってこれは私個人の問題だもの。意気込みとかそういう話ではないのよ。私は走れさえすればそれでいいから……」

「悪いけど今の君を受け入れる気にはなれないかな。私も同じ結論を下すよ。ただトレーニングメニューを作るだけがトレーナーじゃないんだ。多分、今の君には相性の良いトレーナーがいないだけなんだろうね」

「っ……そうよね。分かってたわ。ダメ元だもの。貴方の言う通り他を当たってくる」

「君が良縁に出会えるように手伝いくらいはさせてくれ。このまま帰すのはトレーナーとして後味が悪いよ」

「それくらいなら……まぁ……?」

「ん?え、ちょっと待っ……」

 

 二人が席を立とうとしたその瞬間、割れるような音と共に一際強く卵が輝きだし、そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、中々強いね。まさか勝ち越されるとは。流石に経験者は違うな」

「いや、始めて一年でこれって大会出れるレベルですよ」

 

 一通り遊んだセイウンスカイとシンボリルドルフ。

 当初のアドバイスという目的を忘れてくれカードゲームに没頭した二人は珍しいほどの充足感を感じていた。

 

「まさかこの歳になってからまたこれで楽しめるなんて思ってませんでした。どうしよ、久しぶりに復帰してみてもいいかな……」

「それは願ってもないことだ。実はというとゴールドシップ以外ではシリウスしかこれに付き合ってくれないんだ。カードを集めても対戦する相手がいなければ宝の持ち腐れだ」

「シリウス先輩がですか……?」

「まぁ向こうは嫌々ながら、なんだけどね。私の気性を良く知ってくれているから」

「そういえば幼馴染みなんでしたっけ」

「ああ。……さて、すっかり前置きが長くなったがどうだろう?強いデッキ、弱いデッキ、それぞれで勝ち負けを経験するのは」

「そうですね。昔から言われてますけどこの手のカードゲームって最後は運ですからね。強いデッキでも欲しい時に欲しい手札が来ないなんてザラですし、弱いとされてるデッキでも回りが良ければ勝つこともあります」

「そう、それだ。私が言いたかったことはまさにそれでね」

 

 シンボリルドルフは多少興奮しながらもいつもの調子で話し始める。滅多にないカードゲームの対戦相手であるセイウンスカイを特に気に入っているようで、その口振りにはらしくもなく熱が入っていた。

 

「私は、レースでもそうなんだが単純に実力だけで勝てる試合を好まないんだ。確かゴールドシップがこう言っていたかな、"レベルを上げて物理で殴る"。呆れるほどに単純でそれ故につまらない」

「それでカードゲームを……?」

「私が好むのは運も絡んだその上で勝利する試合さ。運も実力の内と言うだろうが、あれはただ幸運であったことを誇る台詞じゃない。勝負事における幸運とは()()()()()()()()()も指しているんだ」

 

 流石に神妙な顔になるセイウンスカイ。シンボリルドルフが言う運に覚えがあったからだ。

 

「それって例えばレースでの調子とか展開の話になりますよね。いくら絶好調でも位置取りに恵まれなくてバ群に沈んだり、反対に有力バがみんな潰しあってくれたおかげで人気の無いウマ娘が勝ったりとか」

「実力があれば不利な位置取りを回避する立ち回りができるし、有力バが潰しあってくれた先の勝利もそこに食らいつけるだけの実力が無ければならない。肝要なのはレースに挑むまでに至った実力の積み重ねだ」

 

 三度。絶対とすら言われるシンボリルドルフですら三度の敗北を喫している。負けた理由はいくらでも語れるが、とどのつまり言えるのはその三度において()()()()()()()だろう。

 

「こういったカードゲームとレースは良く似ている。望む手札が来ない時と有利にならないレース展開、とかね。しかしそれが勝負を諦める理由になりはしない」

「カードゲームなら今ある手札でやれることをやりますし、レースの展開なら不利な位置でも突破口が無いか探します。どちらも前提となる知識・実力が無いとやれませんね」

「アドバイスというか、これはある種の老婆心かな。たまに実力あってのレースと言う者がいる。それは間違いではないが正解とも言い辛い。そういう者に限ってベストを尽くして負けた時に負けた事実を受け入れられない者がいるんだ。挙げ句の果てに迷走して勝てるはずのレースで勝てなくなったりとかね」

 

 含蓄ある含みであった。

 そもそもウマ娘のレースはトレーニングの末に実力が拮抗する者同士で行われる事がほとんどだ。拮抗するという事はそれだけ勝負の結果が安定しない訳でもある。それがレースの醍醐味なのだが、出走するウマ娘からすればそういう訳にもいかないだろう。

 

「シニアまでくると、ほとんどのウマ娘はもう鍛え切っているようなものなんだ。早ければ既に衰え始める者もいる。故に、例え負け越していたとしてもトレーニングでは劇的な変化は望めない。君がこれから先勝っていきたいのならトレーニングそのもよりもあらゆるレース展開に対応できる手札が必要だ」

「それでカードゲームかぁ……めちゃくちゃためになりました。ありがとうございます」

「礼はいいよ。本当ならある程度の走り方もアドバイスするつもりだったんだが、君は既に自分の走りを確立しているようだからね。そこまではいらないだろう?」

「もちろんです。私の走りは私のトレーナーさんと相談して決めますから」

「それは重畳。そうだな……もし良ければこれからも私と対戦してくれないだろうか。こんな機会そうそう無いからね」

「いいですよ。これからも一緒に遊びましょう」

 

 既にセイウンスカイがシンボリルドルフに抱く緊張感は無い。カードゲーマー同士、通ずるものがあるのだ。友達と言うにはまだ距離があるかもしれないが、それもこれから先徐々に狭まっていくだろう。

 

 充足感のまま生徒会室を後にするセイウンスカイ。

 彼女の脳裏は今あるお小遣いでどれだけのデッキが組めるか試算していた。とはいってもG1レースを複数勝っている身であるからして、金に糸目を付けない真似は出来るのだがそれでは面白くない。カードゲームのデッキとはやりくり、今ある資金でどれだけ妥協できるかも醍醐味の一つであるのだ。

 

(成金デッキとか負けフラグだし。ちょっと色々思い付いたのもあるからね)

『おい、セイウンスカイ。今どこにいる?』

 

 ピタッとセイウンスカイの歩みが停止する。

 なんだか既視感を感じる展開に思わずセイウンスカイの思考が停止した。

 

『……あの、何かな。なんかこの展開めちゃくちゃデジャヴ感じるんだけどトラブルとかじゃないよね?』

『……生まれた』

『はい?』

『貴様のトレーナーが大慌てで俺を呼んだんだぞ。生まれたんだ、あの卵が知らんウマ娘の前でな。ほらさっさとこっちに来い』

「『なぁんでこういうトラブルばかり私に水差すのかなぁ!?』」

 

 さっきまでの楽しい気分はどこへやら、一瞬で急降下した気分にケチを付け大急ぎでトレーナー室に向かうセイウンスカイ。

 駆けつけた先のトレーナー室ではいつかの時と同じように困惑するトレーナーと窓から部屋を覗き込むバルファルクの姿。

 そして。

 

「きゅいー」

「わ、分かったから。ほら、いい子にして。ああもう、そんなに私の顔を舐めないで……」

「きゅぉぉぉん」

「『まじか……』」

「『マジもマジだ。どうするんだこれ。セイウンスカイが親代わりになるんじゃなかったのか』」

 

 赤龍とは似ても似つかぬ透ける水色の姿。

 大きさは卵とそう変わらない。孵ったばかりであろう小さな古龍の幼体が、アドマイヤベガに甘えていた。

 

 セイウンスカイのトレーナーは全てを悟っていた。

 この日、あらゆる都合を無視したアドマイヤベガのチーム強制加入が事実上確定した瞬間であった。

 

 

 

 

 




セイウンスカイがママになる感想書いてくれてた方すみません、ママになるのはアドマイヤベガでした。

TCGについてはどんなタイトルかぼかして書いてます。私がやったことあるTCGはデュエマくらいなので……あと数えていいか分からないけどシャドバも
ルドルフなら教えればハマりそうなんですよね。頭も良いから各シーズンごとのカードプール全部覚えるとかやりそう。そんなのは朝飯前っていう人は漏れなく廃人です(n敗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。