セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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日頃よりご愛読頂き誠にありがとうございます。

完全にゼノ回です。あと名前決まります


一番星

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、実に興味深い光景だねぇ」

 

 チーム:ドラコの緊急招集。

 カオスに陥るトレーナー室では元凶であろう古龍の幼体は相変わらずアドマイヤベガに甘えている。

 そんな光景をアグネスタキオンはいつもの調子で検分していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~、チーム:ドラコの緊急会議を始めたいと思います。……議題は!見ての通り!」

「きゅ?」

「大人しくしててね、良い子だから……」

 

 トレーナー室に合流してから間髪入れずにタマモクロスのトレーナーを覗く全メンバーを招集したセイウンスカイ。その場に居合わせてしまったアドマイヤベガは、未だ自分から離れずうだうだと腕の中で甘える小さな古龍を居心地悪そうに宥めていた。

 

「『また面倒事を……』」

『そう言うな、バルファルク。こんなにも弱々しいのだから保護は必要だろうに』

「『抜かせ。俺達がご丁寧に育てられた経験があったか?』」

「『はいはい、喧嘩はよしとき。メインはガキの頃のあんたらの話やないねん。今目の前の赤ちゃんとアドマイヤベガの話や』」

「私としてはそちらの話も是非聞いてみたいものだが」

「『話の腰を折らないでくださいねタキオンさん』」

「……冥灯龍?まさか赤龍武器が狙えた……?」

「あの、ごめん、みんな、一先ずはアドマイヤベガがうちに入るのは確定でいいのかな」

 

 窓の外から部屋に顔を入れるバルファルクとイナガミも交えての会議だが突然の事態に意見すら出ず混沌としていたためトレーナーが強制的に確認した。とはいえこれは最早既定路線であり確認のためにわざわざ口に出したに過ぎない。

 

「このチーム:ドラコは事実上の古龍対策班だ。所属するメンバーが古龍と話せたり、私のように研究していたり、時空を越えたチャンネルを持っていたりする訳だが、まぁ何かしら関係があるのは事実な訳で。それが所属するための条件な訳じゃないんだけどねぇ」

「待って、どういうこと?時空を越える……?」

「『アヤベさん、とりあえずそっちは忘れてください。大事なのは常識を保ったまま適度に非常識をスルーすることです。……ネオユニさん!無言でピースしない!』」

「"コモンセンス"は投げ捨てるもの。彼らモンスターにそれらは通用しない……」

「『いや、貴様のそれは常識を無視しているだけだろう。……なんで俺が人間に常識を語っているんだ?』」

『こいつがそれだけ非常識だからだろう。喉元過ぎたつもりかもしれんが我はあのトウモロコシを改造した暴挙を忘れてはおらぬぞ』

 

 じとーっとした視線をネオユニヴァースに向けるイナガミ。

 イナガミはバルファルクと比べると幾らか精神的に余裕があるようだった。去年の10月からウマ娘と協力して農業を始めて5ヶ月、常識的なブランド品の生産にも成功し商業的にも軌道に乗り始めていた。イナガミからすれば農業の邪魔にならなければそれで良いのである。

 

「『ええと、じゃあアヤベさんがドラコに入るのは決定事項として、次はこの子です。名前とか、世間に公表するべきか』」

「前者は親であるアドマイヤベガが決めるべきだろう。後者に関しては時期を見た方がいいね。この幼体がどんな生態を持つか未だ不明だ。公表するにしても情報が無さ過ぎる」

「お、親って私やっぱり私なの……?本来ならセイウンスカイさんが引き取る予定だったのよね?」

「『あくまで私が請け負ったのはこの子の成長を見守ることです。まぁ確かに里親をやるつもりでしたが、ほら……』」

 

 セイウンスカイが幼体をアドマイヤベガから取り上げようとすると、幼体は激しく暴れて抵抗する。生まれたての赤子と言えどそこはやはり古龍、傷付けないように手加減した力では容易に抜け出てしまう。するりとセイウンスカイの手から離れたところで床に落ちてしまい、慌ててアドマイヤベガが抱き上げた。

 

「きゅい~」

「『一応卵の頃から意識はあるはずなので私を知らない訳じゃないと思うんですけど、見ての通りです。アヤベさんがどうしても嫌なら引き取りますが……』」

「嫌な訳ではないわ。ただドラゴンの母親なんて大役、務まるかどうか……」

「バルファルク、一応聞くけど、アドマイヤベガに"龍呼びの声"として力は無いんだよね?」

「『無い。こいつから俺達に通ずる声は聞こえない』」

「『何を基準にアヤベを選んだか分からんなぁ。何食うかも分からへんし、タキオンの言う通りまずは様子見……』」

「済まない、唐突だが部屋を暗くしてもいいかな」

「『どうしてなんですかタキオンさん』」

「その幼体の様子が気になってね。それと、アドマイヤベガ、暗くしたところで一度下にその子を下ろしてもらえないかな。それから少し離れるように」

「?ええ、やってみるけど……」

 

 言われた通りに部屋を暗くして赤龍の子を床に下ろす。すると幼体は一直線にアドマイヤベガの元へ走っていった。まだ生まれて数時間だというのに足腰はしっかりしている。

 

「今度は明かりを付けたまま同じことをしよう。やってくれ」

 

 今度も同じように床に下ろす。だが先ほどまで元気にアドマイヤベガの元へ向かっていた幼体は何かを見失ったようにキョロキョロと首を回していた。どうやらアドマイヤベガがどこにいるか分かっておらず、不安げな鳴き声を発している。その声に堪らずアドマイヤベガは幼体を抱き上げていた。

 

「きゅいきゅい~」

「『え?どういうこと?まさか見えていないの?』」

「違う。照明が眩しいんだ。恐らくなんだが、この幼体は私達のような視覚を持っていない。明るさを感じる器官と何か別の感覚だけで外界を感知しているんだ。ほら、角の部分にそれらしきものが見えるだろう?」

「ほんとね。貴方よくこんなことに気が付いたわね……」

「先ほどスカイ君がその子を取り上げて地面に落ちた際に周囲の様子が分かっていなかったようだったからね。いくつか知覚に当たりを付けて試したんだ」

「『ちゅーことは、こいつウチらの見た目分かっとらんの?アヤベも含めてか?』」

「そうだろうね。多分なんだが、この幼体は暗い洞窟のような場所で生まれることが想定されていたのではないかな。それが成長と共に視覚が発達しやがてその能力が退化する、といった具合にね」

「一から十を知れる辺り流石はアグネスタキオンだね」

「褒めたって何も出ないさ。話を戻すと、その子は見た目でも何でもない理由でアドマイヤベガを選んだんだ。光だけじゃない知覚能力もあるだろうから、アドマイヤベガ以外がその子の親をやるのは無理だろうね。世話くらいなら手伝えるが」

 

 言いながらトレーナー室にストックしてある汗ふき用のタオルを赤龍の子に被せるアグネスタキオン。それで視界が落ち着いたのかアドマイヤベガに甘えてばかりだった赤龍の子はそれまでの多動性が嘘のように落ち着いていた。

 

「こんな感じで角、いや触角と呼ぶべきか。暗い方が落ち着くだろうから光を遮断してやるといい。本来の目が発達するまでは障害物もろくに見えないだろうし、こうしてアドマイヤベガが抱き抱えて移動させるしかないだろうね」

「それって……寝る時やお風呂に入る時も……?」

「可能であれば、さ。心配せずともここにいる全員は協力するつもりだ。遠慮なく私達の力を借りたまえよ」

「『せやせや。なんぼでもウチ頼ってな。こいつら相手に気後れしてたら身が持たんで』」

『餌の心配なら我がおるぞ。何を食うかまだ分からんが、作物なら我が幾らでも都合付けられるからな』

「『おい、俺を一緒くたにするな。俺はそいつと関わる気にならんぞ』」

「『そんなに嫌なの?ずっとちっちゃくて弱いのに?』」

「『強い弱いではない。こいつはなんか……ダメだ。適当な言葉が思い付かん。とにかくなぜか妙なんだ。弱いのならなぜここまでの存在感を放つ?』」

 

 バルファルクは言い知れない不快感に襲われていた。

 元々卵の時点で一定の嫌悪感があったがどうしてかイラついてしょうがないのである。セイウンスカイよりアドマイヤベガに懐いたため良かったが、これがもし予定通りにセイウンスカイに懐いていたらうっかり殺していたかもしれない。そう思うほどの不快感だった。

 

「『ともかく、俺はそいつと関わらん。育てるのは勝手にしろ』」

「『珍しく感じ悪いなぁ……』」

 

 ぶっきらぼうに吐き捨てトレーナー室の窓から去るバルファルク。

 イナガミは特段そういった不快感などは感じていなかったためこれは単純に性格の違いによるものと当初は思われていた。

 しかし実は、この時既に古龍の王たらんとする片鱗を醸し出していたのだがその事に気が付くのはずっと後の話になる。

 

 

 

 

 

「『そういえば公表の件についてなんですけど、学園の中なら問題ないんじゃないですかね。というか隠しようがないんで説明しておくべきかなと。私を騙したあのLANEで』」

「『まだ根に持ってるんかあれ……。まぁあれまだグループ残っとるし説明するならあれが手っ取り早いねんな』」

 

 バルファルクが去った後も話は続いていた。

 バルファルクの発話をセイウンスカイから隠すLANEグループは非公式学園グループとして今も健在だ。役目を失った後もトレセンドラゴンLANEとしてバルファルクの動向やイナガミの農業の様子などを各ウマ娘が発信している。セイウンスカイの言う通り、学園内だけで隠し事を完結させるのにうってつけだった。

 

「学園の説明ならそれで行こう。まぁ一部重要な人物にはスカイ君から直接説明した方がいい。こういう説明は筋を通すものだからね」

「『あー、そういうものですよね。そっちは私でやっておきますよ』」

「さしあたって気になるのはこの子の食性だね。何を食べるか親から聞いてないかい?」

「『えっと……地脈の生体エネルギーを直接取り込めるらしくて……』」

「地脈?生体エネルギー?」

 

 セイウンスカイが赤龍から聞いた話を説明する。しかしその反応は芳しくない。当然だ。現代の科学では到底実証しようのない抽象的な内容だからだ。

 

「確かに生物は死ぬと地に還る。ただしその"還る"というのは所謂微生物の活動による腐敗なんだ。生物にエネルギーがあるというのはカロリーなどで説明できるが、生体エネルギーなんて概念聞いたことがないよ。何より食事などの生理的行動が必要ないだって?」

「『そう思いますよね。でもそういう話なんです』」

「バルファルクやイナガミですら肉食なんだ。食事がいらないなら口すらいらない。……元来、生物というのは原型として栄養を取り込む腸から生まれたと言われている。脳はその腸を動かす筋肉を制御するために生まれた後次的な器官に過ぎない。生体エネルギーだけで生きていけるのなら、生物の形である必要すら────」

「こ、こら。どうしたの。あっ……」

「きゅいきゅい」

 

 それまで大人しくしていた幼体が突如としてアドマイヤベガの腕から抜け出た。器用にアドマイヤベガを足蹴に跳んだかと思えば未だテーブルに散らかっている卵の殻へ近づいていく。

 何をするのか一同が見守る中、幼体は殻の中心に立ったかと思うと手足の先から鉤爪のような細長い何かを伸ばし、それを殻に付着させていく。すると殻は徐々に小さくなり消えていった。

 

「これは……まさか取り込んでいる?」

「『あっ、確か王様が言ってた。これは生体エネルギーで出来た殻だって。そっか、生まれてすぐのごはんになるんだね』」

「きゅぉん」

「あの、セイウンスカイさん、貴方ならこの子が何を食べたいかとか分かるかしら」

「『スカイでいいですよ。残念ですけどこの子からそういう思念みたいなのは感じません。人間の赤ちゃんとそんな変わらないんじゃないですかね。人間だって成長しないと歩くのだってままならないし』」

「この生物を人間と同様の常識に当てはめていいのか判断しかねるね。あまりにも類例が無さすぎる」

『我々で言う龍属性が生体エネルギーなのではないか?試しに鱗の一つ見せてみよ。ほれ、タマモクロス』

「『えっ、鱗ぉ?あー、やってみよか』」

 

 イナガミがタマモクロスに自らの鱗を渡して与えさせる。前足で探るような仕草を見せたものの、何か基準に達していなかったのかその内興味を失った。どうやらイナガミの鱗では不適格らしい。

 

『我の鱗ではダメか。なら肉で良いのではないか。生体エネルギーというくらいなら生き物の肉でもよいだろう。口はあるのだから』

「『イナガミが肉でええんとちゃうかって言うとるよ。何にせよ色々試さんと分からんなぁ』」

「私の方でも色々と調べてみるよ。いくら育てると言っても食料が確保できなければ育てるどころの話じゃないからね」

「『分かりました。すみませんアヤベさん、LANEでの発信は私の方でやっておくのでアヤベさんはこの子と一緒にいてもらってもいいですか。しばらく注目が集まるかと思いますが……』」

「分かったわ。……色々騒がしくさせてしまってごめんなさい」

「『いやいや、これは不可抗力なので!むしろこちらがアヤベさんに迷惑をかけているというか。……とりあえず、今後の課題としてはこの子の食料ということで一旦解散しましょう。皆さん急な呼び掛けに応じてくれてありがとうございました』」

 

 後の方向性は決まったためここで緊急会議はお開きとなった。今後チーム:ドラコは各々のやれることでアドマイヤベガの古龍の子育てを支援していく事となる。急な話だが全ては幼体の気紛れが原因だ。あまりにも無邪気な暴君に今後チームは頭を悩ませる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、大変な日だったわ……」

「お疲れみたいですね、アヤベさん」

「きゅ~」

 

 夜。

 あの後トレーナー室から出たアドマイヤベガを待っていたのは好奇の視線だった。気難しい性格であるという説明がセイウンスカイでなされていたため表立って近づく者はいなかったが、嫌でも遠目から覗く視線をアドマイヤベガは感じざるを得なかった。

 

 そしてそれは寮に帰っても変わらない。夕食は流石に抱えられないため脇に置いたのだがアドマイヤベガと極端に離れる事を嫌がっているようで、勝手にアドマイヤベガの体をよじ登り後ろからアドマイヤベガの頭に顎を乗せるような姿勢でしがみつくまでになった。この時点でアドマイヤベガは色々と諦めておりこの姿勢の方が自由に両手を動かせるためなされるがままになっていた。

 入浴でも同上だ。しがみつくのを何とかおいやって服を脱ぐとこれまたアドマイヤベガの後頭部に引っ付く。どうやらこの姿勢がお気に入りになったらしい。シャンプーなど人間が使う洗剤が幼体にとって有害な可能性があったため触れさせないようにしたが体を洗うアドマイヤベガに気にせず触れており平気な様子だった。大浴場のため依然として衆目には晒されている。

 

 そうしていつもより大分疲れた夜、就寝時間ではあるのだが幼体が寝付く様子は一向に無かった。

 アドマイヤベガは同室のカレンチャンと共に寝ない幼体について頭を悩ませていた。

 

「どうしましょう。この子まだまだ寝たくないみたい……」

「アヤベさん、ここはアレですよ、アレ」

「アレって……?」

「寝ない子供と言えば子守唄じゃないですか。カレン、アヤベさんの子守唄聞いてみたいな~」

「子守唄……」

 

 荒唐無稽かもしれないがやらないよりはマシかもしれない。

 他に有効な手を思い付かなかったアドマイヤベガは意を決して自分が知り得る一番の子守唄を歌った。

 

きらきらひかる おそらのほしよ

まばたきしては みんなをみてる

きらきらひかる おそらのほしよ

 

「……うそ、ほんとに寝た……」

 

 幼体は子守唄のおかげかアドマイヤベガのお腹に顔を埋めて寝息を立てていた。あまりにも神秘的かつ #カワイイ 光景にカレンチャンのテンションは寝る前に有頂天に達する。しかしそこはカレンチャン、ぐっとこらえてアドマイヤベガの健闘を称えた。

 

「すごいですよアヤベさん。やっぱりお母さん向いてますって」

「まさか寝てくれるなんて。そう、貴方は星が好きなのね。……ねぇカレンさん。この子の名前、決まったわ」

「え、ほんとですか?もしかして星繋がり?」

「そうよ。ずっと考えてたの。この子卵の時からずっとキレイな光を放っていたのよ。それこそ星のような。だから、貴方の名前は────」

 

アステラ(一番星)。それが貴方の名前よ」

 

 

 

 

 




みなさんアヤベのきらきらぼし聞きましょう
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