セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃よりご愛読誠にありがとうございます。

5日連続投稿に自分が一番驚いてる


"独り"と"一人"

 

 

 

 

 

 

 4月。

 本来であれば新入生の受け入れやそれに伴う新トレーナーの就任など、主に人事で慌ただしくなる頃。

 しかしチーム:ドラコとその周辺では全く違った忙しなさに襲われていた。

 

 

 

 

 

 アドマイヤベガの名付けにより正式にアステラという名が決まった翌日から、アドマイヤベガとアステラは共に過ごす日々となった。

 そして当然の事ながら、アステラはトレセンの皆から可愛がられる事となる。アステラがアドマイヤベガ以外を受け入れないため無理に触れたがる者はいないが同級生からは話題の種だ。授業中もアステラはアドマイヤベガの頭に乗っかるのが定位置となっている。

 

「アヤベさん、ほんとにドラゴンのお母さんになったんですね!すごいです、こんなにも懐かれてて……」

「とても内気な子よ。私以外とあまり関わりたくないみたい。ごはんも食べないし……」

 

 教室ではナリタトップロードだけがアドマイヤベガと絡んでいた。元より同期で比較的仲の良い二人だが、そんなナリタトップロードにもアステラは無反応を貫いている。

 

「ごはんずっと食べないんですか?何を食べるか分からないって言ってましたけど」

「そうよ。最初に卵の殻を食べて以来何も口にしていないの。本人は至って元気そうなのだけど……」

 

 アステラが生まれてから数週間、殻以外は何も取り込んでいない。殻にそれだけの栄養があったのか、それとも単純に食べる気が無いのかが分からないのだ。

 一応、卵生の生物にはヨークサックと言って孵化後もある程度の栄養を蓄えてから生まれる種類もいる。そのため孵化してもしばらくは何も食べずに平気だったりするのだが、アステラにそれが当てはまるのかは依然として不明のためチーム:ドラコ全体で難儀していた。最も科学的に探求するアグネスタキオンですら手掛かりが掴めないのだ。

 

「不思議な生き物ですよね。よく見たら体透けてますし……。他の人には慣れないんですか?」

「私以外を認識しない、というよりも認識したくないのかしら。何度かチームのみんなやイナガミに触れてもらってるけどダメだったわ。人見知りが激しいのよ、この子」

「私も……あ、ダメですね。全然反応してくれません」

「それは目が見えてないからよ。明るさと他に何かを感じて外を見ているみたいって……アグネスタキオンは言ってたわ」

 

 アステラの外界に対する反応は芳しくない。

 時折寮の自室等で部屋を暗くすると元気に走るのだが、外ではべったりとアドマイヤベガに甘えていた。明るさ以外にもう一つ感覚があるはずなのだがアグネスタキオンでも詳細は分かっていない。卵の殻を吸収した様子からセイウンスカイは生体エネルギーを感知しているのではという推論を立てていたが、その生体エネルギーが何なのか分からない以上実証しようがないのだ。

 とはいえアステラ本人は至って大人しかった。常にアドマイヤベガに引っ付いているが授業中等で声をあげて妨害するような事はない。あくまで一緒に居られればそれで良いのだろう。それでもアドマイヤベガが名前呼び掛けると元気に反応する辺り、決して静かなだけではない。分別を弁えて甘える様子は確かな賢さを周囲に伝えていた。

 

 

 

 

 

 アステラを迎えてから数日経った頃、トレーナー室にスーパークリークが訪れていた。セイウンスカイとアグネスタキオン連名による招聘である。餅は餅屋、実家が託児所であるスーパークリークはそれだけ幼児の扱いに精通しており、スーパークリークから見たらアステラの様子がどれだけ幼児らしいのか見て貰う話になったのだ。

 

「人間と古龍……ドラゴンだから全く違う可能性の方が高いんだがね。とはいえ私達だけで考えても仕方のない事だ」

「すみません、クリーク先輩。お力を貸して頂けると幸いです」

「お気になさらず。私の手伝えることなら何でもお手伝いしますよ~。それでは早速なのだけど、アヤベさん、その子をちょっと抱かせてもらえないかしら」

「え、ええ。でもこの子他人が嫌みたいで……」

「大丈夫です。それも分かった上、ですから」

 

 ひょいとアドマイヤベガからアステラを取り上げるスーパークリーク。セイウンスカイが以前取り上げた時では力加減が上手くいかず落としてしまっていたが、流石に経験が違うのだろう。上手い事スーパークリークは抑えこんでいた。

 

「こんな風にママがいいよ、知らない人は嫌だよって泣く子はいっぱいいるんです。むしろ、それまで育てられていた人から知らない人になってしまえば不安に思うのは当然なのでこの反応はそこまでおかしくないと思います」

「おおすご……。流石トレセンのママ……」

「でもこの子、ちょーっとだけズルい子ですね。皆さんが思うほど何も考えてない訳じゃありませんよ」

「え……?」

「アヤベさん、少し辛いかもしれませんが一度部屋から外に出て頂けるかしら。LANEでビデオ通話しながらこの子の様子を見てみましょう」

「きゅいきゅい~」

 

 じたばたと手足を動かしアドマイヤベガを求めるアステラ。その様子に胸を締め付けられる想いに駆られたが、アドマイヤベガは言われた通りに部屋を出てLANEをセイウンスカイに繋げた。

 

「あれ?大人しくなった?」

「すみません、アヤベさんは声が聞こえるとまたこの子のわがままが始まってしまうのでまだ声を出さないで下さいね。子供って結構周囲の状況をよく見てるんです。パパやママと離れたくないよって泣く子は多いんですが、どれだけ泣いてもいない事が分かると泣く意味が無いのが分かるので、さっきまでの号泣が嘘なくらい大人しくなるんですよ」

「へぇー、そうなんだ……」

 

 LANE越しにアドマイヤベガは驚いていた。自分がいない他人の前でここまで大人しいアステラを見るのは初めてだったのだ。

 

「もう一つ。子供って泣くことで大人をコントロールしようとします。それは赤ちゃんから発話できるようになるまでの間のコミニュケーションとして当然なのですけど、ここでもう個性が出るんです。お腹が減ったよ、とかうんちしちゃったよっていう必要なお知らせと、なんか嫌なことがあった、ミルクの味が好きじゃなかったとか必要じゃない泣き方。全部に対応するのは難しいです。でもこの子は違いますね。だってこの子にそういうお世話はいりませんから」

「ふむ。確かにそうだ。アステラは幼体ながらも足腰が自立し走り回れている。目が見えないのも本来なら生育に適した他の場所があるからであって最初から親による介護が必要な訳ではない。するとこの子は────」

「ええ。アステラちゃんは本当に好きでアヤベさんと一緒にいるんだと思いますよ。それ以外の理由が無いんです。この子は本来一人で生きていけるはずの生き物ですから」

 

「あ……」

 

 その言葉にアドマイヤベガは前トレーナーとの確執を思い出してしまった。

 

 ────一人でいい。余計なことはしないで

 

 ────走る理由なんて貴方が気にすることじゃない

 

 ────トレーナーとしての責務?私が勝てばいいだけでしょう

 

 ────目標なんてもの、私には無いの

 

「……私は、"独り"で在りたかったのね」

「アヤベさん?」

「ごめんなさい、もう戻っていいかしら」

「ええ、大丈夫ですよ」

「きゅい!きゅい!」

 

 アドマイヤベガの声が聞こえて嬉しいのか大人しかったアステラは声をあげて探していた。部屋に戻ったアドマイヤベガは穏やか笑みでアステラを受けとる。その目には確かな決意と覚悟を秘めていた。

 

「申し訳ありませんけどこれ以上お力になれることはありません。ミルクの作り方やおくるみの着せ方なら教えられるんですが……」

「人間じゃないからそこはいいよ。あくまでスーパークリークの勘に頼ったプロファイリングに期待していたからね。しかしそうするといよいよこの子には通常の食料が期待できないな……」

「スーパークリーク先輩、ありがとうございます。何かお礼できればいいんですが……」

「あら、お礼だなんて。……う~ん、それならタマちゃんと遊ぶ事くらいかしら。最近はすっかり疎遠になっちゃってあんまり話せてないんですよ~」

「そう言えばイナガミの商売を切り盛りしてましたからね。あっ、今なら農場の方にいるみたいですよ」

 

 この瞬間タマモクロスの未来が確定したがセイウンスカイに悪気は全く無く。後におくるみを着せられおしゃぶりでろくに動けず話せずのタマモクロスを見た一同はスーパークリークの"母性"に戦慄する事となるが未だ知らぬ話である。

 

 

 

 

 

 スーパークリークが去った後(遠くからタマモクロスの断末魔が聞こえたような気もするが)、トレーナーが改めてアドマイヤベガと面談していた。

 なし崩しの加入となったがアドマイヤベガ自身の問題は解決していない。まだデビューは先だがこのままデビューさせていいはずないのだ。アドマイヤベガ自身の気質が比較的温和とはいえ根っ子はセイウンスカイを越えた気性難である。トレーナーは気を改めてアドマイヤベガとの面談に臨んだがその心配は杞憂だった。

 

「ねぇ、トレーナーさん。私……少し考えを変えたの」

「それは、君自身の話かい?」

「ええ。この子のために走りたいって、今は思えるようになったから」

「うん、良いことだと思うよ。それなら私も安心できる」

「……私事で申し訳ないのだけど、まだ全てを話す気にはなれない。ただ、この先言えるようになる日が来ると思う」

「それでいいよ。君には時間が必要だ。ゆっくり、君が君自身と向き合えることを祈るよ」

「……ありがとう。きっとこの子は、この先隠してばかりじゃいられないと思うの。今までのドラゴン達はみんな強い存在だったけどこの子はそうじゃない。狙われることもあるかもしれない。その時に、世間に向けて発信できる力が無いとこの子の親は名乗れないと思うのよ」

 

 少しずつだがアドマイヤベガの苦心は氷解し始めている。

 その立役者であるアステラは母親の決意を分かっているのか分かっていないのか、不思議そうな顔で首を傾げていた。

 

 

 

 

 

「この子、本当に何を食べるのかしら……」

 

 夕食。

 これまでも同じようにアステラを頭に乗せて夕食を食べるアドマイヤベガ。人間の食事には興味が無いようで食べ物をねだるような真似はしなかった。

 ただ不思議な事に食べ物を咀嚼する様子は興味ありげに見るのだ。しかし食べ物に近づくような真似はしない。これまでも様々な種類の食べ物を見せたり、口元に持っていったりしているのだが口を付ける様子は無かった。

 

(口が気になるのかしら……)

「やぁやぁアドマイヤベガ!ちょっとその子の食性について試したい実験があるからこの後の時間をもらえないかな!?」

「……分かったわ。それと、もう少し音量を下げてもらえるかしら」

「おっとすまないねぇ。こればかりは、つい。もしかしたら最も有効な手立てかもしれないんだ。気分が上がるよ」

 

 いつもの調子で平和な夕食を乱したのはアグネスタキオンだった。どうやら有効な何かを思い付いたらしい。特に上機嫌なようで声が上ずっている。好奇の視線が集まるがどうせアグネスタキオン絡みだ。風評が知られているため逆に注目が集まらなかった。

 夕食を終わらせトレーナー室へ向かう。あまり第三者には見られてほしくない内容になるらしく、部外者を入れづらいトレーナー室でアグネスタキオンの実験を行う事になっていた。部屋にはアグネスタキオンしかいない。その片手には一般的なパンが握られていた。

 

「貴方が食べさせたいのはそれ?それも食べるとは思えないけど」

「違う。問題は食べ物そのものじゃなかったんだ。スーパークリークの話と夕食時の様子を見て確信したよ。ほら、これを飲み込まずに噛んでくれ」

「えっ?この子じゃないの?」

「いいから、騙されたと思って、ね?」

「……はぁ」

 

 アグネスタキオンの奇特な提案にため息を吐いたがこうなったアグネスタキオンは止まらない。仕方なく言われた通りにパンの一部を口に含む。味もおかしいところは無く、何の変哲も無い普通のパンだ。

 

「それでだ。飲み込まずにそれを吐き出したまえ」

「……!?」

「ほら、紙皿は用意しておいたからここに」

「んっ……貴方、私に何をさせたい……の……」

「きゅおおおん」

 

 吐き出した先、アドマイヤベガが咀嚼したパンをアステラは嬉しそうに頬張っていた。あっという間に飲み込むがまだ食べ足りないようで紙皿に残った唾液を舐め回している。

 

「ど、どういうこと?食べ物の問題じゃないってまさか……」

「そう、その通り!もっと原始的な子育てに考えを回帰するべきだったんだ!人間以外でも子育てする生物は多いが、餌の与え方の一つに親からの口移しがある。鳥類なんかが分かりやすいが、あれは親が自力で餌を取れない幼体にこれは餌であるという刷り込みを以て教えるんだ。親の食べる物なら安心して食べられる、この信頼が重要で親の臭いがしない食べ物には最初は口を付けないんだよ。アステラはアドマイヤベガにしか興味が無いから君以外を通しても食べる気にならなかったんだ」

「わ、分かったからちょっと引いて……」

「きゅい~きゅい~」

 

 アグネスタキオンによる怒涛のマシンガントークにアドマイヤベガは終始気圧されていた。その間もアステラはもっとアドマイヤベガから餌が欲しいらしく、下からアドマイヤベガの右手を軽く噛んで催促している。仕方なく、アドマイヤベガは同じようにパンを口に含んだが、アステラは皿に乗せる前に口移しで貰おうと執拗にアドマイヤベガの口を舐め回していた。

 

「ちょっと……待っ……」

「もうそのまま口移しでいいんじゃないかな。多少汚くしたってここなら誰も見ていないよ」

「……んくっ。もうダメよ。今ので全部だから」

「きゅいきゅい~」

「ねぇ、このあげ方何とかならないかしら。流石にこれは恥ずかしいわ」

「難しいな。もう少し成長して目が見えるようになれば視覚で判断できるようになると思うんだが、今の状態ではこれ以外の方法が無い」

「そんな……」

「ちなみだが主に炭水化物を食わせるといい。唾液越しに消化酵素であるアミラーゼが摂取できるからね」

「唾液だなんて……そんなの聞きたく無かった……」

「きゅぃ……」

 

 げんなりするアドマイヤベガ。

 アグネスタキオンによる生態考察は当たっていたとはいえまた別の問題が発生してしまった。食事の度に一々口移しで与えるのは非効率であるし、何より絵面が万人受けしないだろう。

 そんなアドマイヤベガの悩みは知らずとばかりに、アステラは翼があるのにも関わらず器用に仰向けになって寝ていた。親の心子知らずとは言うがお腹を晒して寝ている姿は実に滑稽である。これが可愛くて仕方がないのだから、アドマイヤベガは自分がすっかり子煩悩になってしまった事を自覚していた。

 

「まぁ無理の無い範囲で何とか続けてくれたまえ。必要であれば場所の確保など私に頼って構わないさ」

「分かったわ。やれるだけやってみましょう」

 

 鼻提灯を掲げて眠るアステラを抱えるアドマイヤベガ。

 育児の大変さというものを全く別のところから味わう羽目になったが、当の本人は気分とは裏腹にその頬を緩めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私はあの子の代わりに生きている)

 

(だから、これまで"独り"であることに努めてきた)

 

(私がそうしてきた。私が望んだ、私の世界よ)

 

(けど、そんな私にぶつかってくる人達が何人もいる)

 

(トレーナー、トップロードさん、オペラオーさん、ドトウさん、カレンさん。そして……アステラ)

 

(眩しくて、見ていられないような輝き放つ人達。まるで、本物の星みたいよね)

 

(本当なら人に育てられるはずじゃないんでしょう。"独り"で生きていけるのでしょう)

 

(それでも貴方は私を選んだ)

 

(代わりのいない、私を選んでくれた)

 

(おかげで私は"一人"でいることを自覚できた)

 

("独り"じゃなく"一人"よ)

 

(私の"一人"は貴方達に許された私の自由なのね)

 

(本当に"独り"きりの世界は、結局自分が"独り"であることすら分からなくなる)

 

(それじゃあ星の輝きだって見えやしない)

 

(貴方が私を選んでくれたというのなら、私は貴方の道しるべになりましょう)

 

(貴方の目が開くその時まで、私は貴方に星を教えましょう)

 

(世界という大きな星を、見逃させはしない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 暗い洞穴にて。

 ネオユニヴァースが松明を掲げ佇んでいた。

 目の前にあるのは横たわる赤い姿。

 死してなお威厳を保つ赤龍の遺骸がそこにあった。

 入り口は塞がれていたもののネオユニヴァースに協力する龍にそれは関係無い。当たり前のように不法侵入していた。

 ネオユニヴァースがもう片方の手を掲げる。そこにはアグネスタキオンに調査を依頼していたあの黒いトゲがあった。

 

「……これをしたら最後、後には引き返せない」

 

 言葉よりも行動は雄弁に。

 ネオユニヴァースは黒いトゲを勢い良く赤龍の遺骸に振り下ろした。

 

 

 

 

 




アヤベにドラゴンをインストールしました
ちなみに私は格ゲーやってないです
ところでビターグラッセにジャンクヤードが似合うってほんとですか?
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