セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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日頃よりご愛読頂きまして誠にありがとうございます。

さてそろそろ話を早めていきたいですね
書いてるとずっとネギのテーマが脳内BGMしてる


この世の果たて

 

 

 

 

 

 

《シャーロット!?大丈夫!?》

《私は大丈夫よスカイ。落ち着いて》

 

 セイウンスカイにもたらされた一件の急報。

 それはセイウンスカイを焦らせるのに十分な衝撃を与えていた。

 

 

 

 

 

《ジャイアントコーズウェイから突如出現したと見られる謎の生物はアイルランド北西から海へ向かった後行方が分からなくなっており……》

 

 テレビ・ネット・新聞・ラジオなどあらゆるメディア媒体でジャイアントコーズウェイの一件が報じられている。

 その様子は海を越えた日本でも伝えられていた。

 

「これは由々しき事態だねぇ」

「またドラゴンかい?またぞろ厄介を起こしてくれるね」

 

 トレーナー室ではアグネスタキオンと久々に復帰したタマモクロスのトレーナーがテレビを見ながら駄弁っているが事の次第は深刻だ。

 メディアではジャイアントコーズウェイから出現した事と飛び去った方角までしか報じられていないが(くだん)の謎の龍はひとしきりシャーロットの目の前で暴れており、多数の人間に重軽傷を負わせていた。シャーロットは騎士が庇ったため奇跡的に無傷であったが、騎士本人は吹き飛ばされ複数箇所の骨折を負う等の被害が出ている。

 謎の龍が飛び去った方角はアイスランドやグリーンランドがある北極圏だ。アイスランドには他国のような軍事力は無くせいぜいが沿岸警備隊、グリーンランドはデンマークが安全保障を行っているが元より地政学的な緊張がないため軍事力もそれ程多くは置かれていない。共に北大西洋条約機構(NATTO)の範囲下であるため米国等の超大国が動く口実が無い訳ではないが、現状では様子見が大多数であった。

 

 

 

 

 

「『なぁイナガミ。もしかしたらまた他の古龍と戦う事になるかもしれへん』」

『分かっている。テレビのニュースとやらで聞いていた。安心せよ、ここを荒らさせるような真似はさせんさ』

 

 農場ではタマモクロスがぼやきつつイナガミがそれを宥めていた。目の前では春野菜の収穫で大豊食祭プロジェクトチームだけでなく他の多くウマ娘が楽しそうに収穫作業を手伝っている。

 現在の農場は初期の頃より農場と生産種類を増やし、多岐に渡って農作物を育てていた。大豊食祭プロジェクトチームによる売上が黒字を維持しており、頭を悩ませていた水道費が多少工面できるようになったからだ。ただいたずらに作物の生育効率を上げるだけではまた水道費が嵩むため、種類を増やす事で普段はお目にかかれない品種を安価に消費者へ提供する事で販売を促進していた。

 事ここに至って大豊食祭チームは農業よりも商業としての側面が強くなっていた。イナガミのおかげで水道費以外は困る事は無いからである。むしろ作り過ぎた場合売れ残った作物を処分する費用が嵩んでしまう。在庫処分にオグリキャップやスペシャルウィークが使えるからといって毎度それを頼むのは二人に対して失礼である(本人らはあまり気にしていないが)。環境にかまけて商業的努力を怠るようでは成長が望めない────というのはイナガミを含めた大豊食祭チーム全体の共通認識であった。

 大豊食祭チームに所属しているウマ娘は世間でも名が知られた有名ウマ娘でもあったりする。それら知名度を活かし、学園の公式動画等で農場の様子や料理動画を配信したり、時にはテレビにも出演して販促を行う等地道な活動を続けていた。特にライスシャワーとニシノフラワーによる【おべんとうばこのうた】が大変好評なようで、幼児にありがちな野菜嫌いを克服する動画として保育施設や親御さんに重宝されている。

 

「イナガミさん!今日もいっぱい獲れたよ~。鍋にしたら美味しいかな~」

「ボーノ!ちゃんこ鍋なら一度沢山味わえるの~」

「キャベツとか葉ものなら肉を包んじまうのもありだな。そろそろ惣菜にも手を出してみるか……?」

「『スペもよう働くわぁ。こないだウチのスカイと競り合ったばかりだっちゅうに』」

「あ、それよく言われます。トレセンに来て初めてトレーナーに言われたんですけど沢山食べられるのって才能なんですって。どんな時も沢山食べて体を動かせばフィジカルは約束されるって言ってました!これからもいっぱい食べますよ!」

「『……耳に痛いわぁ。ウチなんて食おうとしても腹が食う前に締まるんよなぁ。おかげでこのちんちくりんや』」

「え、えっと、そのイヤミとかそういうのでなくてですね……!」

「『分かっとる分かっとる。今のはウチのしょうもない愚痴や。忘れといてええよ』」

『タマモクロス、食うのが苦手なのか?』

「『ウチな、元々ビンボーだったさかい、昔から食費切り詰めて生活してたんよ。チビ達にも食わせなアカン、ウマ娘だからって長女のウチがばくばく食う訳にはいかんかったんや。今はそんな心配無いんやけどな。こればっかりは染み付いた体質なんや』」

『ふむ……』

 

 イナガミがまじまじとタマモクロスを見る。ウマ娘は本格化という成長もあり同じ年頃でもその体格は様々だ。しかしタマモクロスは同学年のそれと比べてあまりにも小さい体躯をしている。

 

『なら、それが気にならないほど豊かに実らせ続けよう。いつかおまえが、ひもじさを忘れられるように』

「『……っ!?イナガミ、なんやのそれ、そんなのウチに────』」

『おまえとの付き合いは他のウマ娘と比べてまだ短いかもしれん。だが、おまえが頑張り続けていた事は知っている。あの老婦人に聞いた』

「『────』」

『おまえの家族も、おまえのおかげで金に不自由しなくなったと聞いている。ならひもじさで明日を憂うことはないはずだ。……タマモクロス、おまえは十分報われるべきなのだ』

「『ち、違うんやイナガミ。ウチもう十分過ぎるくらいばあちゃんやみんなからいろんなもん貰ってて……!』」

「あー!タマ先輩泣いてる!」

「どうしたんだタマ!イナガミさんになんか言われたか?」

『ま、待て。これではまるで我が泣かしたようではないか!?』

 

 気付けば泣いていたタマモクロス。

 それを心配してチームのみんながわらわらと集まってくる。それがどうしようもなく愛おしくて、これが嬉し涙なのだと言う前に随分と心配させてしまった。

 

(ウチな、もう十分幸せなんよ。ありがとな、イナガミ)

 

 慌てたイナガミの様子は、タマモクロスに確かな安堵感を与えていた。

 

 

 

 

 

「まさかこっちに来るなんてないわよね……」

「きゅ~?」

「大丈夫ですよ。海の向こうの話みたいですし」

「いえ、北極の方へ向かったのが気になるのよ」

「どういうことです?」

 

 寮のプレイルームに備えつけられているテレビを見ながらアドマイヤベガはこの先どうなるか不安を覚えていた。傍らにはクラスメイトのナリタトップロードがアステラの手足を持ったりして遊んであげている(アステラは嫌がっているが)。

 

「普通の世界地図だと意識しづらいのだけど、北極圏を中心に見るとアイルランドと日本って意外に近いのよ。北極を縦断すればいいの」

「北極を縦断なんて……そんなことできるんですか?」

「人間なら難しいけど……相手は常識を越えた怪物よ。楽観視はしない方がいいかも」

「北極なんて寒くて動けそうにないような……あ、ほらほら、いっぱいお手手の運動しましょうね~」

「きゅい~」

 

 アステラはナリタトップロードに前足を掴まれ嫌々ふらふらとぶら下がっていた。これはスーパークリークから普段アドマイヤベガに掴まっているせいで運動量が足りていないのではという指摘があったからだ。合わせていつまでもアドマイヤベガ以外の人間を認識しないのも問題だという事で積極的にアドマイヤベガ以外の人間も触れるように推進された。

 最初はアドマイヤベガに助けを求める声を挙げていたアステラだがアドマイヤベガが助けてくれない事が分かると徐々に鳴き声も収まっていった。スーパークリークが言うように中々現金な性格をしている。アステラが生まれてから1ヶ月、ようやく性格が掴めるようになっていた。

 

「凄い怖い格好でしたね、あれ。あんなトゲトゲで何から身を守るんでしょう?」

「身を守る?あれが?」

「だってほら、ハリモグラとかヤマアラシとか自衛のためにトゲ生やしてる生き物いるじゃないですか。あんな感じかなって」

「あれはどちらかというと……自分からけしかけるタイプじゃないかしら。映像じゃ一瞬だったけどかなり獰猛な印象を受けたわよ。なんにせよこっちに来ないことを祈るばかりね」

「きゅ~」

 

 いそいそと戻ってくるアステラを抱き上げるアドマイヤベガ。給餌方法など頭を悩ませる問題は依然としてあるが何も食べないよりマシだ。

 謎の龍については一旦忘れ、母親らしい問題にアドマイヤベガは頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《騎士さん重傷なんだ……》

《半年は絶対安静よ。まさかこんな事になるなんて》

《事故だし仕方ないって。調査は継続するんでしょ?》

《もちろんよ。これが諦める理由になりはしないわ》

 

 日本と英国を結ぶ連絡は時差をものともしない。

 セイウンスカイはターフの片隅でニュースよりも早くシャーロットから情報を受けとる事でメディアより早く詳細について知れていた。

 

《ごめんなさい、本当だったらまた時間を見つけてそちらに行きたかったの。赤龍の卵から生まれたというアステラの様子も気掛かりだっし》

《それを言うなら謝るのは私の方だよ。私じゃ里親やれなくてさ。私じゃない親の元であの子はやんちゃに育ってるよ》

《確か……アドマイヤベガさんだったかしら。彼女にも挨拶しなくちゃね》

《……それで、あいつの様子は?》

《メディアには出していない情報だけど、あの謎の龍はアイスランドを超えて北極にいるわ。どうやら現地でホッキョクグマを食べているみたいなのよ》

《それは……まずいね》

《ホッキョクグマは絶滅が危惧されてる希少生物よ。あんなのに食い荒らされたらますます絶滅が近づいてしまう》

《それについてはこっちから対策出せるよ。っていうかそれしか出来ないんだけど》

《なるほど、来るのね?》

《バルファルクが、ね》

 

 

 

 

 

『バルファルク、話は聞いてたでしょ』

『聞いている。どうやら俺が行くべきらしいな』

『求められてるのは斥候ってやつ。いきなり自分からけしかけないで。ただでさえ分かってないことが多いんだから、情報優先だよ』

『了解した。……久々に腕が鳴るな。コロンビアの時では行けずに気が削がれたものだ。人間の政治だのなんだのは大丈夫なのか?』

『そっちは総理が何とかするから大丈夫。北極は難しい事情が無い訳じゃないんだけど、ボゴタと違って人が住んでる訳じゃないからそういう意味じゃ暴れても問題無いの』

『いいだろう。殺せそうなら殺すが……』

『ほんとにそういうの無しだからね。どうしようも無い時なら仕方ないけどバルファルクなら飛んで逃げられるでしょ』

『分かった分かった。適当に、貴様のようにほどほどで頑張ってきてやろう』

『……そこで私を引き合い出すのズルくない?』

『トレーナー曰く、俺達は似た者同士らしいぞ。良かったじゃないかセイウンスカイ』

『……微妙に否定できないの腹立つなぁ』

 

 既に米国から要請があった。北極はその厳しい風土故に直接的な人類の往来は無いがロシアとも巡って争われる地政学的な難所である。表立って動くには道理が足りない以上観測に最適な人選はバルファルクを置いて他にいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月中旬。

 日本では早ければ梅雨の足音が聞こえてくる頃合いである。

 しかし極寒の北極において季節の移り変わりなど無いに等しかった。ただ永劫に閉ざされる流氷だけが大地の代わりとなっている。地球上でおよそ最も過酷な環境の一つであるこの場所は、ある一つの異常存在に襲われていた。

 

 ピチャリ、と滴る音がする。しかし流れ出るのは水ではない。血が、謎の龍の喉元から滴り落ちていた。

 犠牲になったホッキョクグマの周囲には夥しい程の血液と飛び散った謎の龍のものであろうトゲが突き刺さっている。黒い龍の狩りに合理性というものはなかった。ただ空を飛んで獲物を見つければそこに突貫し喰らう。呆れる程単純な暴力である。

 その様子を遥か上空でバルファルクは見下ろしていた。

 

(なんというか、振る舞いに知性が見られないな。俺達(古龍)らしい能力も見受けられない。謎が深まるばかりだ)

 

 バルファルクの気配を察知したのか謎の龍は食べるのを止め上を見上げる。視力がどれほどのものか知れた話ではないか、目視できる距離ではない。少なくともバルファルクはそう考えていた。

 しかし────。

 

(ん?あいつまさか俺の方へ飛んで来ているのか?)

 

 速度はバルファルクよりずっと遅い。しかし並みの自動車よりはずっと早い速度で謎の龍はバルファルクの方へ飛んでいく。

 

(全く面倒な。こいつもこいつでかなりの聞かん坊とみた)

 

「グァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」

『そう吠えてはこれから襲うというようなものだ』

 

 バルファルクがいる高度まで飛んできた謎の龍だが突進してきたそれをひょいと軽々躱すバルファルク。フィジカルはあるようだが如何せん能力らしきものを行使する気配が無い以上、現時点では脅威として考えるに足りなかった。

 突進を躱された事に苛立ったのかバルファルクを睨みつける謎の龍。その表情はどこまでも飢え渇く渇望に苛まれていた。

 

『おい。考える頭が無い訳じゃないんだろう。何とか言葉の一つでも返したらどうなんだ』

『……セロ』

『ん?何を言って────』

 

『オマエヲ、クワセロ』

 

『マジかこいつ!』

 

 再度突貫してくる謎の龍。その速度は先ほどよりも更に早い。すんでのところで躱したバルファルクだが先ほどの言葉と謎の龍の振る舞いからその危険性を認識した。

 

『こいつ……俺を獲物と見ているのか。なんてやつだ……』

「グルルルル……」

 

(マズいな。こいつがどこへ行きたがってるか分からんが、人間の生活圏に行かせたらコロンビアと同じような被害になりかねん)

 

『何も分からないでは情報も何も無い。一戦交えるしかないか!』

 

 様子見から一転、空中でバルファルクから謎の龍へ向けて突貫する。世界最速を誇る一撃だが謎の龍はなんと真正面からそれを受け止めた。

 

『力では貴様の方が上か……!』

「グオァ……!」

 

 受け止めつつバルファルクに食らいつこうとする謎の龍。しかし食われるのは堪ったものではないとバルファルクは槍翼の噴射口を点火し錐揉み回転する。謎の龍は遠心力と速度で無理やり振り落とされ氷床へと落下していった。

 

『全く、とんだ喰わせものだな。コロンビアといい、あのガキ(アステラ)といい、こいつといい大きすぎる異変が多すぎる』

 

 バルファルクも氷床に降り立ち謎の龍の行方を追う。振り落とされた衝撃で氷床は割れ海が波立つ様子が確認出来ていた。あれなら海の中に沈んでしまっているだろう。

 しかしその予想は外れる。海から黒い何かが氷を割って浮上していた。────その背に謎の龍を乗せて。

 

『あれは……潜水艦というやつか!?なぜここに人間がいる!?』

「グオァ!」

『しまった!』

 

 ロシア海軍の原子力潜水艦であった。ロシアもまた謎の龍の動向を求めて潜水艦を派遣し海中から観測していたのだ。本来なら海中のため影響を受けないはずがたまたま空から降ってきた謎の龍が潜水艦に強打してしまったのである。潜水艦には謎の龍の物と思われるトゲが突き刺さっておりそこから内部に浸水をもたらしていた。

 謎の龍は破壊衝動のままに潜水艦すらも襲おうとしていた。潜水艦の武装では謎の龍に太刀打ちできない。慌ててバルファルクは突進し謎の龍を潜水艦から弾いた。

 

「『おい!英語が分かるやつがいるか!誰だか知らんが早くここから逃げろ!』」

「できない!艦が損傷していて潜航できないんだ!」

『チィ……!』

 

 ハッチから乗組員がバルファルクに返答する。バルファルクは思わず舌打ちした。

 状況は最悪だ。本来ならただの斥候のはずが動けない要救助者を抱えて謎の龍と対峙する羽目になった。

 

「『どうにかならないのか!あれは文字通り話が通じんぞ!』」

「今ダメージコントロールを行っている!最低でも30分は時間をくれ!」

「『30分か。何とか凌いでやろう……!』」

 

「グォォォォッ!!!」

 

 謎の龍はとうに態勢を建て直し翼を高く掲げ臨戦態勢を整えている。30分、この世の果てとも言われる極北の彼方で孤独なバルファルクの戦闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




悉ネギ、太刀で戦ってて一番楽しい相手です。変な能力もないし裂傷はスキルで対策できる程度、ワンフレームで分かりやすい攻撃が多いので太刀の見切りや居合い切りが刺さる刺さる
最近はイベクエ悉ネギで遊ぶことも多いです。ムフェトもいきたいけど今さら他の部屋探すのもな……
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