セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日々のご愛読誠にありがとうございます。

人間を巻き込んだ多数の古龍同士の大戦、果たしてどうなるか……


古龍大戦 【銀翼の凶星】バルファルクVS【浮かぶ山岳】ヤマツカミ

 

 

 

 

 

 

『痛ぁ~い。痛ぁ~い、痛ぁ~い。もうやんなっちゃうね~』

『嘘こくな!平然と浮遊しておいて何を今さら……!』

 

 海上でヤマツカミを相手取るバルファルクはヤマツカミの異常なタフさに攻めあぐねていた。

 ヤマツカミは龍として見ると異形である。辛うじて四肢を思わせる四本の触手はあるが、それ意外に龍らしい特徴は無くむしろ軟体生物にしか見えない姿だ。生物として、恐らくはオストガロアに近しいのだろうとバルファルクは考えた。

 しかしオストガロアと違うのは身を覆う鎧が無い事だった。オストガロアは骨を纏う事でその弱点をカバーしていたがヤマツカミにそれは無い。もっと言えば、鱗も甲殻も無くただぶよぶよとした肉の塊でしかないのだ。しかしそれが逆にバルファルクにやり辛さを助長させている。

 

(なんだこいつ。表面を傷付けても弾力で弾かれる!堅牢とは程遠い体だろうに……!)

『君早いね~。中々捕まらなくて~、困った~困った~』

『減らず口を……』

 

 勢い良くバルファルクがヤマツカミに突っ込む。槍翼の爪で交錯する間際に傷付けるがどれも傷は浅い。ならばと龍属性によるエネルギー弾で攻撃するがこれも通っているとは言い難かった。いや、確かに効いてはいるようなのだが独特な体型のせいで急所が分からないのだ。エネルギー弾も表面こそ焦がしているもののヤマツカミの動きを止めるに至らなかった。

 

(普通に仕留めるのは難しい。なら……)

『あれ?いなくなっちゃった~。どこに────』

 

 最速である事がバルファルクの持ち味である。瞬く間にヤマツカミの視界から外れたバルファルクは金属音を響かせてヤマツカミに『襲撃』した。

 悲鳴すら挙げられずにヤマツカミはすっ飛んでいく。翼による飛行ではなくガスによる浮遊のため踏ん張りが効かないのだ。風船のように吹き飛ばされたヤマツカミはぐるぐると上下に回りながら目も回していた。

 

『ありゃありゃ~。世界が~回っているよ~』

『回っているのは貴様の方だ、バカめ。なんなんだこいつ、一々気勢が削がれる……』

『困ったね~。君も強いけどアタシも強い。決着付かないな~』

『抜かせ、俺に振り回されているだけの木偶の坊が……!』

 

 再び『襲撃』を敢行するバルファルク。ヤマツカミがバルファルクを捕らえられていない以上、『襲撃』を繰り返して追いやるのがベターだとバルファルクは考えた。

 しかし────。

 

『あ~ん』

『……!?』

『えっへっへ。形勢逆転ってや~つ~』

『貴様も俺を食う気か!』

『食べるんじゃないよ~。君みたいな硬いのはお腹壊しそうだし。ただ粉々にするだけ~』

『クソが!』

 

 バルファルクが突っ込んだ先にあったのは巨大なヤマツカミの口だった。慌てて制止したが間に合わずヤマツカミの口に捕らえられてしまったのだ。必死にもがくバルファルクだが全身を噛まれているため上手く動けない。噛まれている箇所からはギチギチと嫌な音が響いていた。

 

『勝敗は一瞬の隙だよね~。横着せずに遠くから攻撃してれば良かったんだ~』

『この程度で……勝った気になるな!』

『およ?あばばばばばばばばばばばば』

 

 バルファルクはヤマツカミの口内で無理矢理翼を反転させ喉の奥に照準を定める。放った『龍閃』はヤマツカミに確かなダメージを与えたようで思わずヤマツカミはバルファルクを離してしまっていた。

 

『かひゅ~。今のは効いた効いた~。ほんとに効いた~』

『油断した……次は無いぞ貴様……』

『同じ手は引っ掛からないよね~。さて次はどうしようか~』

『次などあるはずないだろう。もう貴様を仕留める算段はついた』

『はへ?』

 

 両者痛み分け。

 だがバルファルクにとって今の攻防で実力を把握するのに十分だったようだ。槍翼の噴出口を点火、今まで以上の高速でヤマツカミの周囲を飛び始める。

 

『め、目が追い付かない……右?左?上?下?……多分うえ!』

『そこまでは当たりだ』

『目がっ……!?』

 

 バルファルクがもう一度『襲撃』してくるのだろうと身構えたヤマツカミだったが、それより早くバルファルクはヤマツカミに向かって直上から『龍閃』を放っていた。ちょうどそれはヤマツカミの目に放たれており激痛と共にヤマツカミの目を閉ざす。

 そこにヤマツカミの視界が晴れるより先にバルファルクの『襲撃』が炸裂した。

 

『あひょ~、ガボッ、ボボボ……?海ぃ!?』

『チェックメイトだ木偶の坊。貴様はガスで浮いているんだろう?冷やされれば困るんじゃないか?』

『しまった.……ほんとに困る……!』

『浮かせるかバカめ』

 

 直上からバルファルクに『襲撃』されたヤマツカミは勢いのままに海に落ちてしまった。そのままならガスで浮けるのだが、上からバルファルクがのしかかりヤマツカミを抑えつけている。じたばたと暴れるヤマツカミだがヤマツカミは自分より"上"にいる相手と戦った事がなかった。唯一直上に効果がありそうな可燃ガスも海の中では出せない。

 

『あ……もしかして詰んだ?』

『俺の勝ちだ。そのまま海を漂っていろ』

『わ~ん。久しぶりに起きたのに~』

 

 ヤマツカミに状況を覆す術は無かった。

 

 古龍大戦、グアム島南方沖の戦い。

 勝者、天彗龍バルファルク。

 

 

 

 

 

『トドメ刺さないの~?』

『黙っていろ。いたずらに殺すと色々面倒なんだ』

『……あれがニンゲンのフネってやつ?』

『そうだ。貴様はあれに引き渡す。大人しくしていれば命は保証されるぞ』

 

 無事にヤマツカミを無力化したバルファルクだがそのままの姿勢で十数分以上待機していた。

 グアム島には駐留する米軍がいる。日本を通じてバルファルクから要請を受けた米海軍が無力化したヤマツカミを引き取りに来ていたのだ。多数の艦艇に囲まれたヤマツカミは現代人類の艦艇に驚いていた。

 

『へぇ~今のニンゲンってこんな大きなものを作れるようになってたんだ~……ってあれ?なにあのデカい針?』

『海から引き上げたらどうせガスで逃走を図るだろう?あれは本来牛の腹に溜まったメタンガスを排出するための管らしくてな。貴様専用の特注サイズだ。これで浮けなくなる』

『へっ……?』

 

 作業用の艦艇からクレーンで吊るされた巨大な針はそのままガス管と繋がっている。ネオユニヴァースからの証言を元に米国が金と資材に物を言わせて作らせた一品物である。某大統領は札束で殴れる相手ほど安いものは無いと資本主義を盛大に賛美していた。

 

『ちょ、ちょぉぉぉっっっと!?それはマジで洒落にならな────』

『しばらくは研究とかに使われていろよ。じゃあな』

 

 ブスリ。

 人間でも分かる野太い悲鳴がむなしく海上に響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 硫黄島に接近しつつあった古龍に対してだが、海岸では困惑が広がっていた。

 

『あの、ほんとうに、ずびばぜんでじだ』

『まだ口答えできる元気があるようだなぁ!?』

『叔父さんその辺にしとこうよ。今は味方みたいだし……』

「『……カオスやんなぁ』」

 

 硫黄島に接近していた古龍は二体おり、内一体はGPSで所在が判明しているオストガロアであった。ならもう一体は何なのかというとナバルデウスの亜種である。太く聳えた一対の巨角と神々しささえ感じられるその身体は神と見紛う神秘さである。

 本来ならここでオストガロアに対してレールガンが放たれるところだったのだが、オストガロアはタマモクロスに聞こえるよう必死に味方アピールを行っていた。主に皇海龍ナバルデウス亜種をダシにして、である。しかしその目論見は儚くも崩れ去った。

 

「『まさかナバルの親戚やと思わんやん、普通』」

『あのイカめ。こちらで揉め事が起きるのを期待していたのか。相変わらずの阿呆っぷりだな』

 

 呆れて嘆息するタマモクロスとイナガミ。

 ナバルデウス亜種が接近した段階で、すわ戦闘かと海岸で身構えた二人だが、それより早くナバルデウスが近寄っていったのである。似た姿に近似種ではあるだろうとは考えられたがまさかナバルデウスから見て叔父に当たる関係だと誰も思わなかった。

 ナバルデウス亜種は自身を呼び寄せる不思議な気配に連れられて行ったまでは他の古龍と同じである。しかしもう1つ目的があった。しばらく見ていない妹と甥に挨拶にでも行こうと考えていたのだ。まぁ結果はお察しである。ナバルデウスはオストガロアも見つけてすぐに去年の事を話して(チクって)いた。

 

『なんべん殺しても飽き足らぬわぁ……!貴様も妹が受けた苦しみと同じように楽には殺してやらぬ!』

『あぎっ……締まる締まる締まる締まる締まる……』

「『あのー、ナバルの叔父さん。気持ちは分かるんやけども今はいったん置いといてくれへん?今は少しでも味方が必要なんや』」

『そうだよ叔父さん!東からもっとデカいやつが近付いて来てるって話だよ!』

『むぅ……致し方無し。良かろう、そこなるイカ、貴様は最後に殺してやる』

『俺殺されるのは確定なの!?』

「『擁護できひんもんそれ……』」

 

 ナバルデウス亜種は武士然とした男であった。

 甥のナバルデウスから話を聞いてすぐにとぐろを巻いてオストガロアを拘束していた。純粋なパワーならナバルデウス亜種に軍配が挙がるようで戦う前からオストガロアは半死半生である。

 

『叔父さん大丈夫だよ!今度はボクが大きくなってこいつをやっつけるから!それまで生きてて貰わないと困るよ!』

『なるほど、そういうのもアリか。良い、では(それがし)が直々に鍛えよう。一回と言わずいくらでも叩きのめせるように』

『どっちにしろ俺様ボコられるのは確定なのね……』

「『可哀想なんやけどそれだけのことしとるもんなぁ……』」

『軽率な自分の行動を恨むんだな』

『皆さん当たり強くない……?』

「『ま、オストガロアの話は後にして、ナバルの叔父さんはウチらに味方してくれるっちゅうことでええんやな』」

『血族が世話になったのだ、礼は返さねばならぬ。狙いは東から近付いてくる巨大な気配で良いのだな?』

 

 戦闘になるどころかあっさり味方になってくれたナバルデウス亜種に一同安堵した。この情報は現場の海上自衛隊を通じ即座に多方面へ共有される事となる。

 

『あっ、俺様も味方っす。皆さんと戦いますから』

『謙れば良いというものではないが……まぁ良かろう。肉壁程度には使ってやる』

「『……アカン、流石に不憫が過ぎるわ。ナバルの叔父さんちょいと手加減してもろうて。大丈夫や、逃げてもウチらにはレールガンがあるからな』」

『あのー、タマモクロスさん?それ逆に死刑宣告なんですがそれは』

『オストガロアをいじるのはいいがそろそろ迎撃に向かった方がいいぞ。まだ距離があるとはいえ相手は規格外の巨体だ。なるべく島から距離をとって迎撃した方がいいだろう』

 

 イナガミの言葉に弛緩していた空気が引き締まる(若干一名落ち込んでいるが)。

 ゾラ・マグダラオスの遊泳速度は思っていたよりも早く、のこのこしていれば硫黄島への上陸を許してしまう。米海軍が使用可能なあらゆる兵装で攻撃しているが、こちらもダラ・アマデュラ同様焼け石に水だった。250mを越える生ける火山など考慮の内にあるはずがない。

 

 ナバルデウス亜種の問題は解決された。一同はイナガミの提案に賛同し海上自衛隊もそれに応じる。

 海棲古龍三体を含んだ連合艦隊は一路、東へと船を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふーむ。これは困ったのう』

 

 中国・武陵源より先。

 武陵源に程近い都市内にて。

 老山龍ラオシャンロンは周囲全てを囲まれた光景に戸惑っていた。

 

 蛇王龍ダラ・アマデュラと戦力が二分されている中国軍はラオシャンロンに対して有効な手を打っていた。当初こそ武器・兵器群で攻撃していたがあまり効果は無かった。しかしラオシャンロンには特殊な能力が無く、あくまで見た目通りの巨体でしかないと分かると足元を狙って爆破を繰り返しのだ。純粋に歩行せざるを得ないラオシャンロンは足を取られて思うように進めず、その時間稼ぎの間に作られた落とし穴にラオシャンロンは知らず踏み入ってしまったのである。

 

『掘り進めても良いが、それはそれで時間がかかる』

 

 落とし穴と言っても全長70m近くあるラオシャンロンを落とせる穴などそう簡単には作れない。しかし幸か不幸か、中国国内の劣悪なインフラ事情としてよく道路の下にはシンクホールが空いている事があった。そこを爆破などで無理矢理な掘削を繰り返して急造の落とし穴を作り上げたのである。

 中国の政治事情として、人権や倫理などを無視できる強行さがなせた英断であった。

 

『なにやら遠くで戦っている気配がしている。この波に乗り遅れては起きた意味が無い』

 

 ラオシャンロンも他の古龍同様アステラの気配に導かれて起きた類いである。動機そのものはヤマツカミと変わらない。

 しかし穴の上からは中国軍が絶え間無く土砂を投入していた。ラオシャンロンを埋めるまでにはまだ至らないが、このままだと生き埋めは時間の問題だろう。生き埋めになったところで寝ていた時と変わらないのだが。

 

 しかしラオシャンロンには有効となった一手も、もう一体の古龍には無意味だった。

 穴の上が騒がしくなったかと思えば急に静かになる。そこからラオシャンロンを覗き込む巨大な影が見えていた。

 

『おお!これはこれは、大蛇殿!久しい再会です。恥ずかしいところを見られましたなぁ』

『うむ、その割には息災であるな、大龍(たいりゅう)よ。そのようなところで一体どうしたというのだ』

『大龍などとは。貴方様からすれば全てが矮小でしょうに』

『あの"火山"を除けば、な。そのような些事で呼び名は変えんよ』

 

 蛇大龍ダラ・アマデュラであった。

 ラオシャンロンとは違いダラ・アマデュラには有効な手が下せず中国軍はその進行を許してしまっていた。本気を出したダラ・アマデュラはその巨体に見合わず時速100km以上の速度で移動が可能で、ラオシャンロンが落ちたこの落とし穴にまで来ていたのである。

 

『困ったことにこの穴に落とされてましてな。いやなに、小さき者達も知恵が回るというもの。はてどう進もうかと思案していたところにございます』

『そこで燻っていたところで良い案など思い付かないだろう。どれ、朕が引き上げてやる』

 

 ダラ・アマデュラはその巨大な前足でラオシャンロンを引っかけ地上へと引き上げる。ラオシャンロンも巨大だが、更に巨大なダラ・アマデュラとの組み合わせは見る者のスケール観を狂わせた。

 

『なんと忝ない。この御礼はなんと返しましょうや……』

『この程度で礼などと申すな。どうせ乗せるのなら朕の背が良い。悪くは言わんが、貴殿の徒歩(かち)では遅かろう?』

『何から何まで……』

『だから礼はいいと言っているであろう。何やらこの気配、胸騒ぎがするのだ。微かだが以前に朕と引き分けたあの"火山"の気配もある。悠長にはしておれんぞ』

『ははっ。では失礼して……』

 

 巨大生物の上に乗る巨大生物というとんでもない絵面である。

 ダラ・アマデュラはラオシャンロンの重さを感じさせずより早い速度で進行を再開したのであった。

 

 

 

 

 




牛のメタンガス除去ですが知らない方は画像検索してみてください。本当に牛のお腹に管突っ込んで燃やしてメタンガス消費してます。凄い光景ですが放っておくと最悪死ぬので牛にとっては必要な処置なんです
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