セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、平素よりご愛読頂きありがとうございます。

ワイルズ第二回OBTが近づきテンションが上がる次第です。ゲリョス以外に誰が出るかな~


古龍大戦 硫黄島の戦い【中編】

 

 

 

 

 

 

『むぉっ!?なんだこの衝撃は!?おい待て、逃げるな!』

「グギャア!」

 

 地啼龍が放った振動の球体は摺鉢山すら揺らしていた。そのおかげで衝撃に揺れたラオシャンロンの態勢が崩れ、ネルギガンテの脱出を許してしまう。

 

『今度は小生を狙わないのか。おかしな奴め。しかし放っておくのも不味いか』

 

 ネルギガンテはラオシャンロンを襲わず衝撃波の方へと向かっていた。後を追いかけるラオシャンロンだが流石に速度ではネルギガンテが勝る。

 

『この山かなり急峻だな……お、おお、まだ揺れるのか!?頼むから揺らすな……あっ』

 

 急いでいたのが悪かったのだろう。

 急斜面で足を滑らせたラオシャンロンは盛大に転び、そのまま頭を打って気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちぃ……被害がデカ過ぎる……!』

 

 地啼龍が放った特大の衝撃波は島に甚大な被害をもたらしていた。

 バルファルクは直前に飛ぶ事で何とか退避出来ていたが、空を飛べないイナガミとマム・タロトは衝撃波をまともに喰らっていた。

 

『イナガミ!息はあるか!』

『我なら何とか……しかしマム・タロトが……』

 

 遠くから観察していたイナガミは余波を受ける程度で済んでいたが、深刻なのはマム・タロトだった。直前まで敵対していたマム・タロトに向かって放たれたためにマム・タロトに直撃してしまったのだ。マム・タロトは地に伏して動く様子も無く、象徴であろう豪奢な大角も根元からぽっきり折れてしまっている。

 正直生きているか、怪しい状態であった。

 

『次は、諸君らか?』

『っ!いや、待て、今の俺達に敵対する理由が無い。アステラ……不思議な気配に導かれてきたのだろう?』

『アステラ。そうか、女に抱かれていたあれには"名前"があるのか』

(女?)

 

 バルファルクは地啼龍の言い回しに違和感を憶えた。多くの古龍は人間をまともに認識しない。認識してもその理解は大雑把でバルファルクやイナガミのように積極的に関わるようにならなければ人間に対する理解は浅いと言えた。

 しかし地啼龍は最初から性別を理解し名前すら気にする素振りを見せている。基本的に名を持つ風習が無く、人間からの呼称をそのまま名前にしているバルファルクらとは違う感性を用いているのだ。

 

『さて敵対する理由が無い、と。それは如何なる所以か?』

『は?』

『諸君らは人間と共に行動している。私の活動は人間に被害を与えている故、協力する人間らと共に私を止めに来たと思考するが解なりや?』

『な……』

 

 異常な理解力だった。

 これまでの古龍が人間に与えた被害というのは、生態の活動の結果として人間に興味を持たず成り行きで被害を与えるなどある種の事故のような遭遇がほとんどだった。

 しかし地啼龍は自らの活動と、併せてバルファルクとイナガミが人間に協力している事すら理解している。

 今までのどの古龍にも無い振る舞いにバルファルクとイナガミは声を出せないでいた。

 

『驚嘆する必要は無い。諸君らも人間と出会う前はそう生きていたはず』

『なら……なんだその答えは!まるで人間を知ったその上で、その生き方を止めていないように聞こえるじゃないか!』

『そうだが?』

『……!貴様一体どういうつもりで……』

「グォォォ!!!」

 

 バルファルクが問い詰めようとしたその時ラオシャンロンの拘束から脱出したネルギガンテが猛然と地啼龍に襲いかかった。元より地啼龍を標的に定めていたのだろうネルギガンテの猛攻はバルファルクと対峙していた時よりもずっと苛烈なものとなっていた。

 

(これ)。これが最も分かりやすい。こうして生きるための振る舞いをする事に一体何の躊躇いが?』

『オマエ、クウ!』

『相変わらずだなこいつは!』

『幾ら我らが龍と言っても知性ある振る舞いが出来るはずだ!他者を省みない生き方に未来など無い!』

『否。それは単にそれが必要であるというだけ。私にはそれが不要』

 

 地啼龍はネルギガンテの猛攻をあしらっていた。異形の翼から発せられる振動を的確に使いネルギガンテの足元を崩す。そうして崩れた端から砂地の地形に嵌め、最後には両翼を合わせて発せられる直進する振動波で吹き飛ばした。

 それでめげるネルギガンテではない。だがそんなネルギガンテの執拗さも理解しているのだろう。振動波の勢いそのままにネルギガンテのいる地形を完全に粒子化させ、あっという間に砂の中へと埋めてしまった。

 

『これもまた分かりやすい。力及ばず敗れることもそう珍しくはない』

『……どうあっても止めるつもりは無いのか?例えば被害を出さずにエネルギーを補給する手段を共に探すとか』

『無い。私が生きるためにはその気が無くても結果的に他者を害さなくてはならない。私はそのように生きるしかないと、()()()()()()()()

『言われている?まるで誰かにそう言われたことがあるかのような言い回しだな』

『……そこまで回答する気にはならない。さて、諸君らは敵対するのかしないのか。するなら殺すし、そうでないのなら失せるといい』

 

 ここまで淡白な反応だった地啼龍が初めて逡巡するような振る舞いを見せたが余計に話したくないのだろう。異形の翼はバルファルクとイナガミに向いておりいつでも攻撃できる構えを見せていた。

 

『悪いが、貴様を打ち倒す他あるまい。生憎死ぬのも放っておくのも御免なんでな!気張れよイナガミ!』

『勿論だ。お主の方こそ足を引っ張るなよ、バルファルク!』

 

 無言で振動を撃ち放つ地啼龍。二体は揃ってそれを避け、それを皮切りに最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また振動……ここが崩れなければいいのだけど……」

「きゅー?」

 

 地下で地啼龍とマム・タロトの争乱から退避していたアドマイヤベガとアステラは振動により揺れる地下で必死に上へ上がる手段を探していた。

 地下の各所では振動により壁や天井が崩落しており生き埋めは時間の問題だった。声を上げても返答は無く、二人は窮地に瀕していた。

 

(コロンビアの古龍が出てきた穴はあるけどあれじゃ上へ行けないし……一体どうしたら……)

「きゅいー!きゅいきゅい!」

「アステラ?あ、こら、そう何度も離れちゃダメよ。……向こうに行きたいのね?」

「きゅおん!」

 

 アステラが反応した先はマム・タロトが出てきた穴である。融解した地面は冷えて固まり坂のようになっていて下に進む事は出来た。しかし懸念の通り上に繋がる通路ではない。

 

(けど、他に行くアテが無いのも事実。ここはこの子の直感を信じましょう)

 

 不安定な足場に足を取られつつもアステラの行く先を信じ、アドマイヤベガは更に地下へと進んで行く。

 これは後から判明した余談だが、マム・タロトが地啼龍を追うために進んだ結果、本来なら振動で粒子化していて脆くなっている洞窟を熱で溶かしながら金属で塗り固めながら進んだためマム・タロトが通った跡は非常に強固な洞窟となっていた。結果的にだがこれがアドマイヤベガとアステラを救っている。

 

(凄く暑いわ……地下の熱気がここまで届いているのね)

 

 地下を進む内に気温は徐々に上がっていた。硫黄島は火山島である。地啼龍が掘り進めた近くにはマントルがありそこからマグマが湧出していた。このおかげで地下だというのに光源もあり、進むのに差ほど苦労はしなかった。アドマイヤベガは生まれて初めて流れる溶岩をその目で見た。

 

「まだ潜るの?これ以上は暑過ぎるのだけど……」

「きゅー!」

 

 暑さに辟易するアドマイヤベガだが一方でアステラに不調は無かった。それどころかテンションが上がっているようですらある。元々はこういった洞窟に生息している生態であるためか、好ましい環境を前に気分が良いのだ。

 

 そうして、進んで行った最奥部には一面に広がるマグマの湖があった。更に奥には地啼龍とマム・タロトの通り道であろう穴が見えるが、マグマの湖に隔てられていて進みようが無い。事実上ここが終着点である。

 

「アステラ、これ以上は無理よ。私じゃここを渡れないもの」

「きゅいー」

 

 一歩間違えればマグマに転落し御陀仏である。しかしアステラはそれでいいという風に一鳴きするとマグマの手前で下ろすようにアドマイヤベガに促した。

 

「まさかここでも地脈を吸収するの?……アステラ、貴方まさか……」

「きゅー……」

 

 地啼龍の前でもやったようにアステラは地脈を吸収していた。しかしこれまでと規模が違う。アステラが吸収を始めると地下全体に無数の光が伸びアステラへと集まっていく。これまでよりもずっと長く時間をかけて吸収しており、アステラの体はひび割れるように大きくなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『せいっ!』

『絡みつけ!』

 

 地啼龍とバルファルク・イナガミの戦闘は二体がかりでなお地啼龍が押していた。

 バルファルクが空からエネルギー弾や龍閃を放つが翼の先端から放たれた振動がそれらを悉く打ち落としてしまう。イナガミも様々な植物を生やすものの、振動で地面が粒子化されてしまうために植物が根を張れないのだ。ならばと二体共に接近を試みるが、翼から放たれる振動波が牽制し容易に近付けない。よしんば近付けても、地啼龍の方が体格を上回っており、力ずくで弾かれる始末であった。

 

『こいつ、手数が多すぎる!あの異様な翼全てが別々に動くとは!』

『泣き言は言ってられんぞバルファルク!ここで止められねばまた災異の二の舞だ!』

『分かっている!しかし……!』

 

『無為』

 

 振動波をあちらこちらに飛ばす地啼龍は極めて的確かつ冷静に対処していた。そこには去年のオストガロアのような驕りや慢心といった隙は見当たらない。

 油断無く、過不足無く地啼龍は二体を殺しにかかっている。

 

(隙という隙が無さ過ぎる!どうにか突破できないものか……ん?)

 

 共に損耗し、気勢が削がれかかっていたその時だった。戦場にいる三体全員が濃密な別の龍の気配を捉える。その正体は北から飛んでくる青銅色の巨体。

 

「『二人とも、離れて!今からブッぱなすから!』」

『ヒサシブリに、イクヨ!』

 

 セイウンスカイとゴグマジオス、現着。

 地啼龍に対し、全力の熱線が放たれた。

 

 

 

 

 

「『この惨状は……』」

 

 硫黄島に辿り着いたセイウンスカイは言葉を失った。

 あるはずの基地は倒壊し、振動によりめくれ上がった地面が粒子化している。本来島にあったはずの植生が崩壊していた。

 生態系を破壊する古龍の真骨頂をまざまざと見せつけられる形となった。

 

「『二人共、無事!?』」

「『俺達はなんとか。しかしアドマイヤベガとアステラが見つからないんだ!』」

『探したいところだが、こやつめ……予想以上に強い!』

『……』

 

 放たれた熱線に対し、地啼龍は自分のいる地面を粒子化させ高速で地中を移動する事により退避していた。

 地啼龍は二人の来訪にこれまでのような戦闘態勢を取らなかった。ただじっと、セイウンスカイを見つめている。あまりにも抑揚の無い行動に、バルファルクもイナガミも寒気を感じていた。

 

『もし、そこの』

「『君が地啼龍アン・イシュワルダ?長いから地啼龍って呼ぶけど』」

『ああ、なるほど。やはりこちらの言葉が聞けるのか。では、頼みが』

「『頼み?出来るお願いならするけど────』」

『これらを退かせてくれないか。面倒で困る』

「『……悪いけど、それは聞けない頼みかな。君はそれで振動を起こすのをやめてくれないでしょ』」

『然り。私の振動はそちらで言う歩くのと同義。敵わぬ相手に挑むのは徒労』

「『敵わないと決まった訳じゃない。こうして援軍に私達が来た訳だしね』」

『セイウンスカイ、タタカウ?まだタタカワナイ?』

「『ゴグ君、ちょっと待っててね。……私から聞きたい事があるんだ。君はなんでこの島に来たの?気配に導かれたのはあるだろうけど、きっとそこに君自身の動機があるはずだよね』」

 

 異様な姿である地啼龍にも臆さずセイウンスカイは正面きって地啼龍と対峙していた。片手には赤龍から貰った弓も手にしており、いつでも戦闘に移れるよう油断無く構えている。

 

『その弓……』

「『弓?これが気になるの?っていうかこれが"弓"って分かるんだ』」

『それをどこで手に入れた?"あれ"は既に死んでいる』

「『……当人から貰ったんだよ。地啼龍……君と戦うかもしれないからってね。それが何?』」

『アステラ、と呼ぶそれも同じ気配を宿していた。あれはまだ未熟だが。教えてくれ、あれは如何にして死んだ?私はそれだけが興味の対象である』

「『王様の死って言われても……私は直前に話しただけでその後どうなったかは知らないんだ』」

『何を話した?』

『貴様寄り過ぎだ!』

 

 セイウンスカイに詰め寄る地啼龍。それを見てバルファルクが間に割って入った。しかし地啼龍はバルファルクの事などどうでもいいようで、変わらず感情を感じさせない目でセイウンスカイを見ている。

 地啼龍の態度の変わりように一同困惑していた。

 

「『何を話したって……だいたい世間話だよ。後はアステラ……王様の子供を託されたりとかね。どうして死んだのかは知らないよ。きっと王様は私に死ぬ姿を見せたくなかったんだと思うよ』」

『世間話、子供。……何故そんなことを?』

「『そんなことって……』」

『龍が人と過ごしたところで生きる年月には隔たりがある。子を人間に託すよりも、自ら育てあげる方がより確実に、そして強靭な子孫を増やせるだろう。総じて不可解な行為だ』

「『それは……王様が私を信じてくれたからだよ。他に理由なんて』」

『信じる。最も意味の無い行為だ。それが龍であるならば、なおさらに』

 

 無表情な顔のまま地啼龍の口調は上がっていた。感情は無いのにただ興味だけを声音で表している。そんな地啼龍の様子に思わず後退りするセイウンスカイだが、セイウンスカイを守るようにバルファルクとイナガミが立ち塞がっていた。

 

『一度としてまみえたことは無いが、かの龍はおよそこの地上で最も強大な龍である。古き時代、我らの"ルーツ"を下し、その権勢は磐石なものとなった。それが人間に傾倒とは』

「『随分と勝手な印象を王様に抱いているみたいだけど、王様はそんな風に振る舞わないよ。私は会って数時間の関係だけど認めてくれたし、何より多くの人と対等に振る舞ってた』」

『対等。爪も牙も持たず、体も小さく大した能力も無い。寿命すら短い(なれ)らが一体どう対等なのか』

「『さっきから聞いていれば随分と的外れなことを言うな。そんな特徴があったところで話せることに変わりないだろう』」

『我も同じだ。そんな力が無くとも共に畑を耕し同じ苦労を分かち合える。言葉すら無くとも思いを共有できるのだ』

『……諸君らは本当に龍か?少々人間に肩入れし過ぎではあるまいか?どの道先に死ぬのは人間だ』

「『そうだね。確かに寿命っていう限界はあるけど、代わりに残していくものがあるんだ。それは人によって様々だし、後世の人がどう解釈するかはその人次第だけど────それでも、受け継がれるものはあった』」

 

 セイウンスカイの先祖。魔術師マーリン。共にセイウンスカイへ言葉を残してくれていた。それらを思い出しセイウンスカイは一歩前に出る。

 

(分かった、こいつは人間を知らないんじゃない。きっとバルファルクやイナガミよりも人間を知ってる。いや、()()()()()())

 

「『そんなに人と龍が一緒にいるのがおかしい?気になるなら君もそうしたらいいじゃない。もしかしたら前にそうしたのかもしれないけど』」

『そうだ。(なれ)らにとっては古い昔、私はそう生きた。奇跡とも呼べる時間(とき)だった。そうして生きた果てに"シッダールタ"は私にこう結論を下した。────【我ラ(とも)二天ヲ戴カ()】、と』

 

 異様な気配をセイウンスカイは感じていた。未知の存在であったがためにその気配の正体が何なのかしばらく分かっていなかったセイウンスカイだったが、たった今それが分かった。

 

(ずっと無感情なんだと思ってた。でも違う、これはどこまでも深い────)

 

『教えてやろう。人と龍にどれほどの隔たりがあるのかを』

 

(────絶望だ)

 

 記憶の海。

 セイウンスカイの視界には寺などでいくらでも見た事があるような顔の男が鎮座していた。

 

 

 

 

 





マム・タロト不憫な描写多いですが大丈夫です。ネギ?ネギが沈められた程度で死にます?
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