セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、いつもご愛読頂ありがとうこざいます。

今回のストーリーは長いです。普段なら二編に分けて切る長さなのですが敢えてやりたいこと詰め込みました。
また宗教についての独自の解釈も交えています。予めご了承下さい。


古龍大戦 硫黄島の戦い【後編】

 

 

 

 

 

 

(仏像!?いや、動いて喋ってる……)

 

 ある意味では東アジアを中心に最も広く知られた男の顔である。

 男は座して五人の男達に自らが得た悟りを語っていた。どうにも、五人の男達は悟りを語る男に敬服や崇拝の念を抱いているようで深々と頭を下げ神妙な顔で話を聞いている。

 その後ろに、真体を晒した地啼龍がいた。

 男達は得心すると共に悟りへ至ったのか、教えを説く男と同じ姿勢を取った。それに満足したのか、悟りを説いていた男は地啼龍へと話しかけていた。

 

『我が自在天(イーシュヴァラ)よ。そう怪訝な顔をしないでほしい。悟りを広めるべしと言ったのは貴方の方ではないか』

『当たり前のことを当たり前に話すことの何が悟りなのか。私には到底分からない』

『当たり前、というのは個々人の価値観によって形成される。教えはそれを均一化できるのだ』

 

 変わらず男は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 男と地啼龍の出会いは少し前に遡る。

 男は、所謂王族に該当する立場で何不自由無い生活を送っていた。既に妻子もいる身ではあったが、そのような安穏とした生き方に嫌気が差していたらしい。城から抜け出し"生"とは如何なるものか、その真実を追及した。

 その過程で男は多くの苦行を見てきた。そして自身にも実践し苦行という苦行を重ねてきた。しかしその苦行ですらも、「自分はここまで苦労したのだから報われて当然である」という我欲に基づいたものでしかないと知り、苦行からも逸脱した。

 共に苦行を重ねた先ほどの五人はこれを厳しく批判し男を置いて去ってしまった。苦行により疲弊していた男の体は満足に動けずあわや死を迎えると思われたその時、地面が裂け奈落に落ちた男を地啼龍が受け止めたのだ。

 地啼龍はあきらかに損耗している男の様子を見て普段なら気にもかけないだろう小さな生き物が、どうしてそのように餓えているのか、気になって思わず話しかけていた。

 

『そこの小さいの。なぜそうまでして衰えているのか。食べる物にありつけないでいるのか』

「『そうではない。これは自らに課した修練である』」

『修練?それをして何を得られるというのか』

「『……何も。何一つ得ることは無い。苦行とは結局のところ心身に富んだ者が行う贅沢の一つでしかない。己はそれを噛み締めていたところだ』」

『意味が無い、ということか』

「『意味はあった。意味は無い、ということが分かるだけの意味があったのだ』」

 

 その後、男の言動に興味を持った地啼龍に助けられた男はとある村娘から乳粥の施しを受けそれをきっかけに悟りへと達した。幾数日もの間、瞑想に浸り悟りの楽しみを味わった男はそれを楽しげに地啼龍へと話していたのだった。

 

『見るに(なれ)らは群れる生き物である。だというのにそれを語らず己が内にし舞い込むのはそちらの在り方として沿ぐわぬのではないか』

「『苦行は皆の目指すところであり、それらに苦行が徒労であることを説いたところで聞き入れられないだろう』」

『だが、私には分かる。私と話す汝の姿は話を聞かせるのに十分なように見えるが』

 

 この頃、地上に姿を現した地啼龍は神の写し身として信仰を集めていた。単に地上を移動する際に、重い岩を纏っていては動きづらいというだけで真体を晒していた地啼龍だったが、その姿は人々が崇める"神"の姿とよく似ていたのだ。

 そんな地啼龍と唯一言葉を交わせる男といえば、それだけで聞くに値する畏敬の念を集めていた事だろう。しかし男は近寄ってくるあらゆるどの人間よりも、先に男から去った五人の仲間達に教えを説く事を優先した。

 

 地啼龍は男の行く先々を共にした。元より言葉を交わせるというだけで興味の対象であったのだが、悟りを開いた男の教えに地啼龍は興味の対象を移していたのだ。

 "神"と共に教えを説く男の存在は瞬く間に広く知れ渡り、数年の間に飛ぶ鳥を落とす勢いで信者を増やしていった。

 

『シッダールタ。汝の教えは広く浸透しているな』

「『増やすばかりでは意味が無い。それぞれの生を当人自身が追及せねば入り口に立ったとも言えないだろう。……それよりも自在天(イーシュヴァラ)、貴方は窮屈ではないのか』」

『窮屈、というのは?』

「『以前に貴方は私達人間のことを群れる生き物と解釈した。同じことは貴方にも言える。本来ならここにいる存在ではないのでは?』」

『だが汝らに興味があるのもまた事実だ。過度の快楽は元より、過度な苦行も節制し、中道を掲げるその心算の果てを私は見てみたい』

 

 男の教えに感化した人々が最も有り難がったのが地啼龍である。数年の後、多くの人間と交流する中で地啼龍は自然と人間の言葉と文字を理解できるようになっていた。男と共に並び立つ"神"の教えはより広く信者を増やす根拠になっただろう。男はそれが人間の都合に付き合わされていないのかと心配していた。

 

 そうして何年も布教を続けた穏やかな日々に戦乱の気配が近づく。男の故国を狙わんとする外敵から守るために男もまた立ち上がり防人の任に着いた。

 この時地啼龍は手を貸そうと男に善意で提案したが、男はそれをやんわりと断った。曰く、これは人の戦いであるからして、"神"の助けを借りるのは決定的な亀裂を生むのだと。地啼龍はその決定的な亀裂が何なのか、当初は全く分かっていなかった。

 結局、男は祖国の防衛に死力を尽くしたが四度目の攻略を経て男の守りは遂に突破された。しかし敵の首魁もこの後洪水に遭ったか、落雷に討たれたともされて死んでいる。

 勝者も敗者もいない、虚しい戦いであった。

 地啼龍にとって人間同士の戦いを見るのは初めてだった。戦いに介入しなくとも、戦火から逃れようと集まった難民を受け入れた事で自在天(イーシュヴァラ)としての権勢は揺るぎないものとなっていた。

 

「『自在天(イーシュヴァラ)よ、頼みがある』」

『何なりと申せ』

「『己はこれより破戒の損失と持戒の利益を説きに南下する。しかし、未だ戦災の爪痕は濃く難民を放置するのは危険だ』」

「『私が受け入れた難民を私に任せるということであれば元よりそのつもりだ。彼らには庇護が要る』」

「『それもそうだが、貴方自身が無理の無いようにしたいのだ。どうもここ最近の貴方は"神"として振る舞っていることが多い。それは確かに人々を安心させられるが、一方で私はよく知っているのだ。貴方の気性がそんなものではないことに』」

「『無理をしているつもりは無かったのだが、汝の言説は意味深い。心に留めておいておこう』」

 

 ここまで共に過ごしてきた一人と一体の初めての離別であった。後になって見ればこれが地啼龍にとって唯一とも言っていい分水嶺だったのだ。

 男と別れた地啼龍は男がいた時と同じように民衆へ教えを説いていた。初めの内は特に支障が無かったが、男がいない違和感は地啼龍の中で徐々に大きくなっていく。

 

『"シッダールタ"。こう呼ぶのももう私だけなのか。汝がいないこの感覚はどう言葉に表すのだろう』

 

 違和感を胸に抱えたまま地啼龍は布教を続けた。教えを受けた者は皆一様に地啼龍へ感謝や尊敬の言葉を伝えたが、それが地啼龍の違和感を払拭する事は無い。

 やがて地啼龍は一つの結論に達した。

 

『そう言えば、"シッダールタ"と会ってから地脈に触れていなかった。そうだ、補給をしていなかったのだ。きっと糧が足りないのだろう』

 

 人と共に暮らす内に地啼龍は本来の供給行為を怠っていたのだ。それに気付いた地啼龍は、それによって何が起こるのかを全く理解していなかった。

 

『……人とは、こんなにも脆いのか』

 

 皮肉にも響かせた振動は助けようとした難民達を最初に襲ってしまっていた。

 崩れる家屋、そしてそれに押し潰される人間。

 地啼龍にとってその光景は戦災と何ら変わりなかった。違っていたのはそれが自分によって引き起こされたという事実だけだ。

 自分のために建てられた寺院も、信仰してくれた者達も何気ない地啼龍の動作一つで滅んでいた。自分の能力が、人間にとっては災害になり得るのだと今更ながらに気付いたのだ。

 無論全て死に絶えた訳でもなく生き残った者もいる。しかし地啼龍はそれらに顔向けできなかった。無邪気にも変わらず地啼龍を信じるその姿勢に良心の呵責が耐えきれなかったからだ。やがて地啼龍は災害を起こしたのが自分だと訴え自身を責めるように民衆を促した。

 しかし────。

 

「何をおっしゃいますやら!それ以上の人数を貴方は救って下さった!」

「仕方なかったんです。だって最初分からなかったんでしょう?ならこれから理解すればいいだけ!」

「「「「「自在天(イーシュヴァラ)様!自在天(イーシュヴァラ)様!自在天(イーシュヴァラ)様!」」」」」

 

 地啼龍は民衆に恐怖した。その気になれば赤子の手をひねるように人も建物も潰せる地啼龍に寄せるその信仰が理解出来なかったからだ。

 

「『違う!不知であることは罪の払拭になりはしない!……それとも私は』」

 

 ────人でないから人の罪に数えようが無いのではないか

 

 地啼龍は己の内から湧き上がる黒い考えを深く恥じ、これをひどく嫌った。この考えは男が戦災の後に説いていた破戒の損失と持戒の利益に反するからだ。

 

 地啼龍は男ならば正しい答えをくれるのではないかと離れた男の元へ行こうとした。しかしそれより早く便りが地啼龍の元へと届く。

 

 (ふみ)にはこう書かれていた。

 

 ────我ラ(トモ)ニ天ヲ戴カ()

 

 男が死んだ事を地啼龍はその時に知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(仏教……)

 

「『あの後私は教えを広める気にならなかった。私は自ら入滅することを告げ人々の前から姿を消したのだ。私がいなくなれば、私への信仰も消えるだろうと。……しかし人間は変わらず私を信仰し続け、信仰はねじ曲がり、気付けば多腕の像が私だと解釈されるようになった』」

 

 セイウンスカイは憮然とした表情で地啼龍の話を聞いていた。

 ダラ・アマデュラの骨以来となる強制的な過去視である。これまでも何度か古龍の記憶を通じて過去を見聞きしたが、まさか世界三大宗教の一つである仏教の起こりをそのまま見る事になるとは思わなかったのだ。裡に眠る龍属性が強力なのか、過去視の範囲はセイウンスカイだけに留まらず、他の三体にも及んでいた。

 気付けばセイウンスカイが知らない言語を用いて話している。バルファルクよりもずっと昔に人語を解した古龍がいる事すら驚きだった。文字もバルファルクより理解が進んでいて、異形の翼を上手く使い筆を(したた)める事すら出来た。

 これまでの、どの古龍よりも人間と密接であった事は明白だった。

 

「『地中に身を隠したが、人々の声は聞こえる。シッダールタの教えは幾つにも別れ、その後に西方から来た別の教えに駆逐されていった。今でも教えが残らんでもないが、既に私が知っていた頃の面影は無い』」

「『ごめん、あんまり歴史に詳しい訳じゃないんだけど、その後お釈迦様の教えは東に伝わっていったよ。海を越えてこの日本にもそれは届いたんだ』」

「『それはあまり重要ではない。いくら信者を増やしたところで表面をなぞるだけでは真理に到達したとは言えない。そして人間は派閥を作り、対立し合う生き物だ。シッダールタの教えも、そうした争いの口実となった。破戒と持戒の何たるかを教え説いたはずなのに、だ』」

「『……君は、どうしたかったの?お釈迦様と一緒に教えて回ってたんだよね?それでうっかり自分の能力を人に巻き込んでしまった事を悔いてる。ずっと』」

「『私が悔いてる、だと?』」

 

 一段と地啼龍の声が低くなる。言葉を間違えればここで殺しにくるのだろうとセイウンスカイは分かっていて言葉を続けた。

 

「『さっき、君は人間と古龍が対等じゃないって言ってた。それは最初、古龍らしい傲慢さなのかなと思ったけど違ったんだね。()()()()()()()()()()()()()()だったんだ。ずっと君を、神様って崇めてた』」

「『そうだ。結局のところ災異もまた天の機嫌だという。私のそれもそういうものだと。私は()()()()()()()()()()()()()()』」

「『それが諦めた理由なの?自分の能力に人間を巻き込んでも構わないって』」

「『そうだ。結局のところ私は人外であり、人の教えの通りには生きられない。不倶戴天と言われるのも当然で────』」

「『解釈間違えてるし、それってただの八つ当たりじゃん』」

 

 いつの間にか、セイウンスカイは地啼龍の目の前にいた。

 拳を握ってこそはいるが、地啼龍からはうつむいて見えるためセイウンスカイの表情は知れなかった。

 

「『悪いって分かってるんだよね。自分が人間に被害を出してるって』」

「『だがそれを諌める者は誰一人────』」

「『お涙頂戴は!いらないんだよ!』」

「『がふっ!?』」

 

 強烈なアッパーだった。某格闘ゲームに登場するが如く、セイウンスカイは地啼龍の顎下から完璧な拳を龍属性と共に喰らわせたのだ。

 

「『な……に……!?』」

「『うわぁ、あれモロに入ったぞ。セイウンスカイのあれ痛いんだよな……』」

『わっはっはっはっは!かつて我がやられたことだが、横から見ると如何に滑稽か分かるな!』

『セイウンスカイ、ツヨイ!カッコいい!』

「『あー、初めて?真っ向から人間に殴られるの』」

「『な……な……な……』」

 

 突然の打撃に困惑せざるを得ない地啼龍。四十歯相・牙白相とも言われる歯の数本は砕けたり抜け落ちたりして惨々たる有り様だ。

 セイウンスカイは黒い雷が散り続ける右腕を構えながら、続けて勢いのままに言い放った。

 

「『あのさぁ、仏教詳しくないから下手なこと言えないんだけど、それでもさわりくらい聞き齧ったことあるよ。人生悩みとか多いけど、善行を積んでより善く生きましょうってやつでしょ?で、君は?何様のつもり?』」

「『そんな単純な話では……!』」

「『単純だよ。仏教は単純じゃないだろうけど、君はめちゃくちゃ単純だよ』」

「『私が、単純……だと……!?』」

 

 ちりちりと龍属性が迸る様子を響かせながらセイウンスカイは地啼龍の顎下を掴むと無理矢理引き寄せ地啼龍を睨み付ける。地啼龍の顔は畏怖と共に信仰を集めた"神"そのものの顔なのだが、それに一切臆さず今までのどの人間にも該当しないセイウンスカイの振る舞いに地啼龍はただ放心するしか無かった。

 

「『試し行為って言ったっけ。気になる人にわざといたずらとかして反応を見たり、反応してもらえることを目的にするやつ。諌めるとか罪とか言ってるけどさぁ、要するに()()()()()んでしょ。人間に』」

「『それは……それだけのことをしたのだから……当然で……』」

「『あんたの構ってちゃんに、世界を巻き込むなって言ってんの!』」

「『ぐぼぁ!?』」

 

 今度は真正面からの右ストレートだった。寸分違わず額を狙った一撃は、地啼龍の慈眼殻を完全に破壊する。

 人間から受けるにあまりにも重すぎる一撃は、地啼龍に現実を理解するだけの衝撃をようやく与えていた。

 

「『あんたはただ一言、"寂しい"って言えばよかったんだ!その一言だけの話だよ!』」

「『寂しい……寂しいなどとは。しかしともに生きていけないと……』」

「『そんなもん普通に寿命で死んじゃうからごめんねってだけの話でしょうが!これから死ぬから一緒に生きていけないよってだけの話を曲解するな!』」

「『ごっ……!?』」

 

 右フック。地啼龍の横っ面を狙った渾身の一振は、体格差を全く意識させずに地啼龍を吹き飛ばした。

 思わず横たわる地啼龍。こんな風に"説教"されるのは何年振りか。一瞬でも高揚した地啼龍であったが直後にポキポキと指の骨を鳴らすセイウンスカイを見てそれが間違いだったと気付いた。

 

「『バルファルク、イナガミ、ゴグ君。こいつコテンパンにするよ。どうも履き違えてるみたいなんだよね。だって一度でもこいつが必死に生きようとしたことある?』」

「『無い。こいつは可哀想な自分に酔ってるだけだ。同情も何も無い』」

『神扱いは覚えがあるんだがな。しかしこやつ自身は飢えというものを知らぬ。仏教とやらの教えは分からんでもないが、他ならぬこやつ自身に当事者意識が無いのだから説得力が無いだろう』

『ムズカシイ話、ワカラナイ!』

「『いや、待ってくれ。悪いことをしたと分かっているのだから、その、言説で以て説教を……』」

「『漫画の受け売りなんだけどさ、痛みの無い教訓には意義が無いんだって。分かるよ。だって痛い思いしないと分からないこといっぱいだもん』」

 

 サァーっと青ざめる地啼龍。地啼龍には分かっていた。セイウンスカイから迸る龍雷が並みのものではない事に生まれて初めて危機感を感じていたのだ。

 

「『存分に叱ってあげるよ。昔から、聞き分けのない子供にはゲンコツだって相場が決まってるからね』」

「『いや子供という歳では……』」

 

 返答はセイウンスカイからの矢だった。慌てて避けて距離を取る地啼龍だが他の三体も戦闘態勢を整えていた。

 バルファルクは得意の高速機動から絶え間なくエネルギー弾を射出し、イナガミは結局竹を生やしてそれを武器のように咥えて振り回す。ここまでならまだ対処出来た地啼龍だが、巨体かつ高威力の熱線を振り回すゴグマジオスと、的確に眼を狙ってくるセイウンスカイの矢に防戦どころか逃げ回るしかなかった。

 

「『その、諸君!話で済ませられるならその方がいいと思わないのか!』」

「『戯れ言だな、バカめ。さっき生きるための振る舞いに~とかふざけたことをほざいてたじゃないか』」

「『これはそういう戦いじゃないだろう!』」

「『君を叱りつけるというか、まぁ私が気にくわないからなんだけど。そもそもからして、ついこないだまで地震起こしてたやつが話し合いだけで改心しましたっておかしな話でしょ。一回ボコった方が説得力ある』」

「『そんな理由で!?』」

『おまえのやっていることは、その程度の理由しかないのだ!』

 

 地上に逃げ場が無い事を悟った地啼龍は地中を粒子化させ地脈に戻る事で逃走を図ろうとした。

 しかし────。

 

「グギャア!」

「『しまった、これを仕舞いこんでいたのを忘れていた……!』」

「グルァ!」

「『私を喰らうつもりか……!』」

「『そうだった。問題児もう一人いたね』」

 

 地啼龍が掘り起こした先には先ほど埋めたネルギガンテがいた。砂の圧力に押し潰されずに飛び出してきたのだ。

 ネルギガンテは地啼龍の腹に噛みつきその剛力を発揮する。振動で引き離そうとした地啼龍であったが、僅かにでもその牙は地啼龍の肉を抉った。

 僅かとはいえようやく古龍の肉にありつけたネルギガンテはご満悦なようで、大事にその肉を咀嚼していたが────。

 

「『君も、ちょっと人の話聞こうか!』」

「グギッ!?」

 

 セイウンスカイから放たれた矢は的確にネルギガンテの頭部を狙撃し、その捕食を邪魔させた。

 

「『……2体同時に相手をするのか?』」

「『地啼龍はそっちに任せるよ。ヒシアマゾン先輩の真似じゃないんだけど、やりたいことがあってさ。ちょっとタイマン張ってくる』」

『無理はするなよ。危なそうならいつでも言え』

『オマエ、逃ゲルな!』

「『こんな戦闘に巻き込まれたくはないというのに!』」

 

 地啼龍はゴグマジオスに上から羽交い締めにされていた。振動を起こそうにも単純に上からのし掛かられている体勢のために異形の翼がうまく動かせない。

 

「『さっきは良くもやってくれたな、貴様』」

『罪の意識を覚えるまではいいが、そうであるなら尚更に人と共に過ごすべきだっただろう。少なくとも我はそうセイウンスカイに叱られたぞ』

「『ちょ、待っ────』」

 

 龍気を片翼に滾らせるバルファルクと、竹を尻尾に巻き付けまるでハンマーのような鈍器を作り上げるイナガミ。

 二体共に大きくそれを振りかぶる。

 

「『『問答無用!』』」

「『おわーっ!?』」

 

 槍翼のアッパーと尻尾による殴打が炸裂し、無事(?)に地啼龍は昏倒したのだった。

 

 

 

 

 

「『よっと。話す気も無いんだろうけど一応自己紹介しとくね。私はセイウンスカイ。君を止めにきたんだ』」

「ウガァ!」

 

 返答は飛びかかりからの滅尽掌だった。それをステップを踏むような動作で回避し、流れるような動作でセイウンスカイは矢を放つ。

 

「『ネオユニさんからあらましは聞いたよ。君は向こうの世界に帰さなくちゃいけないんだけど、そうさせるには弱らせないといけないんだって。まぁでも、大人しくするつもりはないんだろうけど』」

「グォォォ!」

 

 2本の大角を地面に突っ込み猛進するネルギガンテ。中距離からそれを回避するセイウンスカイだが、飛び散ったネルギガンテのトゲがセイウンスカイの頬を掠めた。

 

「『ファンタジーな見た目してる割に武骨だね』」

『オマエ、ジャマ!シネ!』

「『死なないよ。君みたいなのを一人で狩れるようにならなくちゃいけないんだ』」

 

 セイウンスカイの心算は決まっていた。既に異世界への扉はネオユニヴァースと通ずる龍によって開かれている。

 一人で戦うのはセイウンスカイなりのけじめであり、異世界へ向かうための前哨戦だった。

 セイウンスカイが動く度に懐の装飾品が光る。三眼シリーズ、防具こそ無いが装飾品を入れる穴はあった。アグネスタキオンが研究した装飾品の成果がここで正しく発揮されていた。

 

「『チームのみんなと話したんだ。向こうの世界に行きたいって』」

「グギャッ!?」

 

 クラッチ攻撃強化。

 まずは肉質を柔らかくする。狙いは右前足と頭部だ。

 

「『ネオユニさんからたくさん話を聞いたよ。色んな生き物、雄大な大自然、それと共に暮らす人々』」

「グギッ」

 

 弱点特攻。

 傷を付けた部位への会心率上昇により当該部位への火力が高まる。

 白いトゲを破壊され、ネルギガンテはダウンした。

 

「『そして……君達みたいな生き物……【モンスター】を狩る人達がいる』」

 

 貫通弾・竜の一矢強化。

 絶好の機会。セイウンスカイから最高の矢が放たれる。体の内部にまで浸透した一撃は、タフさを誇るネルギガンテですら無視できない威力を誇った。

 

「『【モンスターハンター】。向こうでやるならこれくらい箔付けてから行きたいよね』」

「グァァァァァァァ!!!」

 

 ダウンから起き上がったネルギガンテが滞空滅尽掌を当てようと飛び上がるも時既に遅し。

 

「『言ったでしょ?弱らせるって。もう聞こえちゃいないだろうけどね』」

 

 攻撃がセイウンスカイに当たる直前にネルギガンテはその姿を消していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ久しぶり。去年の夏以来だと思うんだけど』

「『……』」

『いやー助かったよ。俺の不手際を尻拭いさせるような形になってしまって。それにこっちの世界に来てくれるんでしょ?いやー頭が上がらなっ!?』

「『あのさぁ』」

 

 セイウンスカイはいつぞやと同じく中空に浮かぶワームホールから首を伸ばすアルバトリオンの喉元を掴んでいた。

 度重なる戦闘にネルギガンテと言えども消耗がなかった訳ではない。タフさがウリとはいえ、自衛隊の対空ミサイル・ラオシャンロンの重量・地啼龍の振動を続けて食らって平気でいられるはずがないのだ。セイウンスカイとの戦闘は最後の一押しといったところだろう。

 三女神にネルギガンテの件を詰められていたアルバトリオンはこれ幸いにとセイウンスカイへ話しかけていたが、セイウンスカイから発せられる不穏な気配に冷や汗を垂れ流していた。

 

「『なんで勝手に一件落着みたいな話してるの?貴方にも悪いところあったよね』」

『なんで俺の鱗触れるの!?普通触れたらズタズタになるんだけど!?』

「『話聞いてる?今回の事件どう落とし前付けてくれんのって聞いてるんだけど』」

『おうっ!?なにこれ首絞められてる!?ワ◯ピースの流楼みたいに龍属性だけで触れてるの!?どんな精密操作だよ……あだだだだ、はい答えます答えます答えます。答えるから首締めないで!』

 

 去年はアルバトリオンの威容に気後れしていたセイウンスカイだったが、度重なる修羅場に今さら気にかけなくなっていた。

 

『そのですね、元々はアン・イシュワルダが強すぎるからネルギガンテと同じようにこっちの世界に飛ばすって話してたんですよ。そしたらわんさか古龍出てきたし、思ってたよりアン・イシュワルダもメンヘラだったしでこちらも大変でしてね?』

「『君が大変かどうかはどうでもいいんだけど。ネオユニさん唆して王様の亡き骸を苗床にするよう仕向けたのは君だよねぇ?』」

『あっ!?ガチギレされてる!?』

「『たった数時間の会話だったけど、あの人は本当に"王様"だったんだ。そりゃ君達モンスターにとって死体なんか腐るか利用するかなんだろうけどさぁ、一番人間に寄り添ってくれて人間のために死んでくれたような大恩人の墓荒らしとか逆鱗に触れるどころの話じゃあ無いんだよ!』」

『ぎゃあああ!?』

 

 当然の報いである。鉄拳制裁はアルバトリオンにも及び、天をつらぬくはずの大角が欠けたり、横っ面に強烈な打撲痕を被る羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

 

 全てが終結し、島で後片付けとなった頃。

 セイウンスカイは一人、硫黄島の浜辺で横になっていた。

 戦いが終わっても事態の収拾はまだまだだ。

 セイウンスカイが今できる事は何も無い。バルファルクはその速度で本土と硫黄島の間を行き来する事で運べる物資を運べるだけ手伝い、イナガミは能力で崩壊した島の植生を回復させようと奮闘していた。ゴグマジオスと気絶から回復したラオシャンロンもその図体で艦艇からの荷下ろしを手伝っている。

 遠くからは対ゾラ・マグダラオス戦から戻ってきたタマモクロスの怒声も聞こえる。どうやら復活したマム・タロトが地啼龍と揉めているようでそれを諌めているようだった。

 

 日は既に落ちている。一人になりたいのはセイウンスカイの希望だった。西はまだ明るいが、夜空を彩る星々が夜の訪れを癒してくれる。

 

「随分と苦労したようだな」

「全く。おかげさまで、ってところかな」

「ふむ。取り繕うのはやめたのか」

「そういう貴方こそ」

 

 セイウンスカイは起き上がる事をしなかった。ただ視界の端からたなびく赤衣から、誰がいるかを分かっていたからだ。

 

「聞きたいこと、あるんだけど」

「答えられることならいくらでも」

「貴方この世界の人じゃないよね?」

「ほう?その根拠は?」

「こっちで名付けられたモンスター達、ゴグマジオスとかがそうだったんだけどなぜか向こうの世界と名前が一緒だったんだ。ネオユニさんが不思議そうにしてたけど、確かそういう名前を決める時にはいつも貴方がいるってシャーロットが言ってたよ」

「それは……一本取られたな」

 

 赤衣の男はいたずらがバレたような顔で破顔する。目的も不明なまま暗躍していた事が判明したというのに、まるでそれを待っていたと言わんばかりに笑っているのだ。

 

()()()()を気にかけてくれて礼を言う。シャーロットは今でこそ良い調子だが、幼い頃は引っ込み思案でね。家族以外には中々心を開いてはくれなかったのだよ」

「子孫?」

 

 ここで初めてセイウンスカイが赤衣の男へ顔を向ける。怪訝な言い回しに、また話題を煙に巻くのかと疑ったからだ。

 

「ああ。……私の本来の名は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。私の故郷へ参るというのなら、私が辿った数奇な運命を君に聞かせてしんぜよう」

 

 いつもより厳かに、それでも興奮を隠しきれない赤衣の男────ジョン・アーサーはそう告げるのだった。

 

 

 

 

 





王立書士隊の設定覚えてる人どれだけいるんですかね……?
あとアヤベとアステラについては次回
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