セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、いつもご愛読頂き誠にありがとうございます。

アルバトリオンと三女神後始末ダイジェスト

アルバ「ひどい目に遭った……」
ダレ「残念でもないし当然」
ゴドル「むしろあの程度で済ませてくれたことに温情を感じるレベルね」
バイ「これを期にもう少し他者を省みるんだな」
アルバ「あの、みなさん冷たくない?いやネギの見通し甘かったのは弁解できないけど」
ダレ「無駄なムフェト嫌いも追加で。確かにネギの苗床に使った方が早いのは認めるけどそこに君の悪意が無かったとは言わせないよ?」
アルバ「うちの世界のムフェトよりも分を弁えてるやつだったし再利用した方が喜ぶかと思って」
ゴドル「で、結果がアレなのね」
アルバ「ほんっとうにすみませんでした」
バイ「で、セイウンスカイがそちらに行きたがってるようだが問題無く行けるんだな?何か余計なことをするつもりは無いよな?」
アルバ「……ダイジョウブダヨ。ナニモ問題アリマセンヨ」
ダレゴドルバイ(((絶対何かする気だったなこいつ)))



強化合宿 ~硫黄島古龍交流会~

 

 

 

 

 

 

 7月。

 三年目にして二度目の合宿である。しかし今年は去年とは合宿の場所が異なっていた。

 

 

 

 

 

「うぉー、すっごくデカいぞ!ここにターボの旗を立ててやる!」

「やめなって。どうせ硬くて刺せないんだから」

「あまり気にしている様子はありませんがね。どうです、ネイチャさんも登ってみては?」

「いやー、ターボが落っこちそうで目が離せな……言ったそばから!」

「わぁっ!?……あれ?痛くない?」

『全く、元気な童子じゃな。まぁ、好きに遊んでくれて良いぞ』

「ラオシャンロン、別名で老山龍と呼ぶそうですがとても老いてるとは思えないスピードですね。あんなにも首を曲げて背中から落ちたターボを頭で掬いあげるとは」

「ターボ、大丈夫?」

「全然平気!なんならマチタンも一緒に登ろう!」

「お、それならどっちが先に頂上へ行けるか競争だー!」

『ウマ娘達のなんと可愛らしいことか。言葉は分からぬが鈴の音のような声を聞くだけでも元気がもらえるなぁ』

 

 硫黄島、摺鉢山頂上にて。

 今年の合宿はなんと一部が硫黄島で行われる運びとなった。これは硫黄島で過ごしてもらっている古龍達と関係している。

 元々トレセン学園には既に三体の古龍が生息しているが、セイウンスカイやタマモクロスを中心にウマ娘と古龍の交流が盛んになるに連れて、ウマ娘と古龍は相性が良いのでは?という意見が政界でも見られるようになった。学術的な根拠は何一つ無いのだが、バルファルクがラオシャンロンに人間と過ごす事の良さを説いておりそれが硫黄島の古龍達に伝播していた。硫黄島は自衛隊の直轄地であるため所属するウマ娘以外の人間はおらず、彼女達も古龍と会話できる訳(地啼龍は特殊)ではないため試しに夏の2ヶ月に限り自衛隊協力の元、硫黄島での強化合宿が実現したのである。

 尤も行けるかどうかは抽選だ。建物も限られている以上管理に限界があるため希望するチームやウマ娘の応募を経て、その中から行けるウマ娘達が無作為に選ばれた。チーム:ドラコは例外的に抽選無しで行ける事になっているが、誰でもその特異な実績が知れ渡っているためそれに反対する者はいなかった。

 

 

 

 

 

「『駆け競べか。私の時代にはこれほど大きな催しではなかった』」

「誰が勝利するか、予想してみるといい。単純に見えて、駆け引きが奥深いんだ」

「『紹介してくれたことに礼を言う。少なくとも今の汝らは平和であることがよく分かった。教えを説いてもことあるごとに武器を取り出していた頃とは大違いだ』」

「流石に古代インドとは違う世の中さ。とはいえ、私としてはその頃の話を是非聞かせてもらいたいよ」

 

 整備された硫黄島には一通りのインフラと、ウマ娘がトレーニングするにあたりターフも作られている。

 そして併走で切磋琢磨するウマ娘達を地啼龍が観察し、それをシンボリルドルフが解説していた。

 

 古龍大戦で集まった古龍の内、最も政府の頭を悩ませたのがこの地啼龍である。セイウンスカイから報告された経緯の中で、正真正銘仏教の祖でありあのブッダと並び教えていたという事実は宗教的な問題を起こしかねないと危険視されたからだ。他の世界三大宗教に(なぞら)えれば、あの神の子や預言者と同じ立場に当たる。他二つの宗教と比べればまだ摩擦が少ないとはいえ、仏教を国教とする国もある以上地啼龍の詳細発表は慎重にならざるを得なかった。

 この問題を解消したのは他ならぬ地啼龍自身である。かつて一宗教を率いた身として人間の政治的都合にも知見があり、自ら硫黄島に引きこもる事を提案していた。日本政府は硫黄島に集まった古龍達の積極的な情報公開を心がけているが、合わせて地啼龍の情報にも問題が起きないよう地啼龍と辻褄を合わせ発表していた。今のところ地啼龍は古代インドでかつて人間と関わりを持った事がある、という程度の扱いになっている。

 これら折衝を重ねる中で地啼龍はたった数週間の間に日本語をマスターしてしまっていた。現代でもインドは複数の言語に別れた国家だが、古代でも同じなのだろう。元より複数の言語を修めていた地啼龍にとって、日本語を覚えるくらい訳が無かったようだ。

 

 地啼龍はウマ娘達と交流を重ねる事で、今度はかつて犯した自らの罪に向き合おうと努力していた。

 

「『なんというか、この日本という国は宗教に対する考えが独特だ。良く言えば取捨選択が上手と言えるし、悪く言えば節操が無い』」

「ほう、それはどういう知見かな?」

「『より善い教え、とは言うが宗教の本質的な役割は一般常識の形成、それに伴う社会風紀の均一化だ。本来人間とは家族単位でしか共通の価値観を保てない。故に血統の異なった相手とは激しい対立を起こしがちだが、それを武力や経済で支配することで社会という概念が誕生した。しかしそれだけでは対立したままのため、これを安定させるために家族より上の単位での価値観の共通化が図られたのだ』」

「例えとして、殺人を犯したら地獄に落ちる、というのは現代でもよくある言い回しだ。悪行は風紀の乱れを招き、放置すれば国家の存続にも関わる」

「『そうだ。罪には罰を。これが最も原始的かつ確実な社会の安全保障である。西方の一神教でもこの基本は変わらないのだ』」

「ふむ。しかし日本でもその考えは変わらないと思うが」

「『日本が特殊なのは異なった宗教をそれぞれ切り取っているところだ。本来宗教というのはそれ一つが社会であり、宗教が異なれば罪と罰の定義も変わる。故に異なる宗教は対立し合う運命にあるのだが、どうしてだか日本人はこれを()()()()()したがるのだ』」

「ふふふっ……いや、済まない、貴方の言い回しが面白くてね……しかしちゃんぽんか。言い得て妙だな」

「『異なった宗教が乱立するのは良い。それはよくあることだし、どこが優れた倫理を持つかというのも宗教の間で論争になる。しかし宗教そのものを混ぜるというのは、なんというか、その……ある種の惨さを感じてしまうのだ。まるで人間の遺体を躊躇いなく損壊するような、そんな狂気を』」

「年末年始にはクリスマスと除夜の鐘、そして初詣が日本で当たり前の光景なんだがそれもおかしく感じるのかな」

「『それは……ただ単に縁起が良い物を詰め合わせたように見える。実際のところ元の儀式的意味合いは無いに等しいだろう?』」

「それもそうだ。結局のところ、日本人は何かにつけて騒げればそれで良いのかもしれないよ」

「『規律に厳しいのかと思えば、催事には目が無い。ますます興味深い特性であるな』」

 

 シンボリルドルフは地啼龍が交流を持ったウマ娘の中で最も話が進んだ相手である。元々地啼龍自身が宗教家としての側面を持っているが、そうした地啼龍が興味を持つ話題に一番着いていけたのがシンボリルドルフであった。シンボリルドルフもまた頭脳明晰・才色兼備を地で行く傑物である。幼い頃から帝王学を教えられていたシンボリルドルフにとって、為政者としての視点から見る宗教というのは堪らなく彼女の知識欲を刺激していた。

 

 

 

 

 

「ほう……」

『こやつ、目利きには自信があるつもりか?よくもまぁ、しげしげと妾の黄金を見ていられるな』

「どうだい、オル。気に入る物はあったかい?」

 

 硫黄島、地下黄金宮殿。

 自身の能力で作り上げた居城では、マム・タロトが自慢の作品を展示していた。

 

 当初硫黄島で過ごす事に憮然としていたマム・タロトであったが、能力を使い自分で金細工をやってみてはどうかというタマモクロスの提案に自ら乗った。自身の能力で金を引き寄せたり、融解させる事は出来ても金細工はこれまで献上されるばかりであったので、マム・タロト自ら挑戦しようという気になったのだ。

 マム・タロトはかつて自分を信仰してくれた部族のデザインを覚えておりそれを残す意味でも工芸に努力していた。当初はその体でどう細工するものかと思われたが、極めて微細な熱操作を駆使し、まるで木彫りのように黄金の塊から皿やツボ、刀剣などを成形してみせた。更には、その延長で地下を掘りかつての黄金都市のような宮殿を作り上げるほどに至った。元々は地下で生活するマム・タロトにとって、こうした地下空間は生態的な意味でも心地よい生息地である。昔日の黄金都市には規模で劣っているが、その出来映えにマム・タロトは自身の才能を自画自賛していた。

 またマム・タロトはこうした金製品の持ち出しを許可した。より詳細に言えば、日本政府を通して商売にするよう訴えたのだ。マム・タロトは自分が纏う"金"という概念が人間を狂わせる事をよく知っていた。当初は激昂してばかりでつけ狙う者全てに敵対していたマム・タロトであったが、全てが終わった硫黄島では思考に一息つく事が出来たために考えを改める事が出来た。無闇に独占するよりも、節度を持った取引の方が人間の欲望を刺激せず済むと考えられたのだ。

 当然の事ながら、マム・タロトが作り出した金製品はべらぼうに値が張る。しかしそこはウマ娘、トレセン学園に在籍するウマ娘の中には名家や企業の令嬢であったり、単純に自身がレースで稼いだ獲得賞金で億万長者であるものは珍しくもない。そしてオルフェーヴルとドリームジャーニーという二人の姉妹もまた、そうしたトレセンきっての実力者と富裕層である事に当てはまっていた。

 

「ふむ、金というだけではない。他の金属も併用することで異なる色合いも表現出来ている。単なる工作の品としては見れんな」

「金は目立つ分、無駄に使うと下品にも見えてしまうからね。けど、ここのは面白い。この柱は……凹凸と影で絵を表現し、当時の情景でも起こしているのかな。文化的価値も気になる逸品だよ」

『そのように見ていても、宮殿の装飾は販売の対象外だ。どうしても欲しいというのなら別途の制作になる。……む?そうかこやつら話が通じんのか。タマモクロスを呼ばねば……』

『聞こえとるよ。悪いんやけど、別件で今は手が離せんのや。スカイもトレーニング中やから一人で乗りきってな』

『待て待て、どうせあのうねうねしたやつの足を食うか食わないかの話だろう?あんな気持ちの悪いやつ食べるものでは……』

『こればっかりはウチら日本人の(さが)や、堪忍な。それに受付は地啼龍の方でもやっとるやろ。嫌なら自分で日本語分かるように勉強したらええねん。地啼龍なら教えてくれるで』

『むむむ……あやつの手を借りるのは癪だが……しかし背に腹は変えられぬか』

 

 マム・タロトが作り上げた地下宮殿と金製品は意外にもウマ娘達の人気を集めている。普段とは根を詰めたトレーニングに疲れた時の気分転換として、厳かな雰囲気でリフレッシュしているのである。また、奥には別途マム・タロトが自身で作り上げた工房(とは言っても機材も無くだだっ広いだけの空間だが)もあり、距離を取れば制作過程を見学する事も出来た。

 

「ふん……こんなもんか」

「その割には随分と熱心に見てるじゃないか」

「先生がこういうのに目が無いんだよ、芸術とかな。写真は禁止だから、見て覚えてこいってさ。私からすりゃ、"金"は賭けてなんぼのもんだ、よく分からねぇ。そういうアンタは良いとこのお嬢さんだろ?目が肥えてるんじゃないのか」

「目が肥えてるってのは否定しねぇ。身に付ける装飾一つで振る舞いも変わるしな。が、ここのは独特過ぎる。由来からして文化的価値はあるだろうが、それと高価さが比例するとは限らねぇよ」

 

 宮殿の別の場所ではナカヤマフェスタとシリウスシンボリがマム・タロトの作品を批評していた。オルフェーヴルとドリームジャーニーの姉妹同様、この二人も同室であり気質が合うのかよくつるんでいる事が多い。

 黄金宮殿を訪れたウマ娘の反応は二通りだ。一つはトレーニングから疲れた精神を休めるための憩いの場として、もう一つがこれら四人のウマ娘のようにデザインや価値を見積もる上流階級としての視点だ。

 硫黄島での合宿以降、ウマ娘から話を聞いた関わりのある多くの企業から注文が殺到する事となる。その盛況っぷりが後々ある外交問題を引き起こすのだが、それまだ先の話。

 

 

 

 

 

『あの、あねさん。あねさんとおんなじ色のウマ娘が凄い気迫で俺様を見てくるんだけど何事?』

「『ああ、オグリやな。オグリには勝ったらまたあんたの足食える言うてるから、まぁ意気込み入っとるわなぁ』」

『誰かぁぁぁ!!!誰か別の人勝ってぇ!?お願いだからぁ!?』

『うるさいぞイカ。どうせ再生するならいいだろうに』

『いっぱい人いるし、必ずしもそのオグリって人が勝つ訳じゃないんじゃない?』

「『オグリ相手だとそうもいかへんのや……』」

 

 硫黄島海岸では多数のウマ娘が集まってビーチフラッグ大会が行われていた。

 合宿に来たほとんどのウマ娘が参加しているが、ここで一際強大な気配を醸し出しているのがオグリキャップである。元々話しかけなければ口数が多い気質ではないが、静かに闘志を滾らせるその姿は他のウマ娘を萎縮させていた。

 ビーチフラッグ大会の優勝賞品だが別にオストガロアの触腕だけではない。正確に言えば、優勝した者には古龍にまつわる何か、例えば鱗などが希望の何かが貰えるという話であった。それがオグリキャップにとっては去年食べたオストガロアの触腕という話なだけだ。

 オストガロアは不幸にも呼ばれて行かない選択は無いし、ナバルデウス一族の二体はそれを外から面白がって見ていた。

 

「あのー、タマ先輩、記憶が正しければタマ先輩と同じでオグリ先輩も引退してたような……」

「『ウチと同じでチームの付き添いなんよ。確かスカイと同期のスペと同じやったはずや』」

「タマ先輩は出ないんですか?」

「『出てもええけど今のオグリは相手したくないなぁ。現役なら食ってかかってたけども、今はほら、通訳とか料理の準備とか、やることあるし』」

「リッキー、こういう時こそ風水とかで……」

「いやぁ……風水は実力差をひっくり返すものじゃないよぉ……」

 

 ダートが主戦場のコパノリッキー・ホッコータルマエはまさかのラスボス出現にげんなりしていた。

 とはいえオグリキャップだけが優勝候補な訳ではない。スペシャルウィークもまた並々ならぬ覇気を纏っている。彼女もまたオグリキャップ同様オストガロアの触腕を狙っていた。

 

「オグリ先輩!胸を借りるつもりで行きます!」

「スペシャルウィーク、君もかなり成長している。手強いが……それでも勝つのは私だ」

「『シリアスっぽい雰囲気出しとるけど、これご馳走食べたいだけなんよなぁ』」

「出来ればタマとも競いたいのだが……」

「『出ない言うとるって。ウチらロートルみたいなもんや。後任が活躍できる場広げんと、いつまでもウチらが威張るのもいけんのやで?』」

「それなら……私は出ない方がいいのだろうか?」

「『そないに腹鳴らして言うセリフやないでオグリ。ウチは出えへん、オグリは出るっちゅう話なだけや』」

「そうです!押し付けがましいかもしれませんけど、私はオグリ先輩に出てほしいです!だって、相手が強ければ強いほど勝った時嬉しいじゃないですか!」

「なるほど……分かった。それなら全力で勝ちに行こう」

『ねぇ、これってもしかしなくても俺様の触腕狙い増えてる?』

『いいじゃないか、人気なようで。某の角は折れても再生しないのだぞ』

『こんな人気いらねぇよ……』

 

 ちなみに去年ウマ娘達が食べていたオストガロアの触腕だが去年は意外なほど話題にならなかった。意外なほど、というのはあくまでも日本人の所感である。他にインパクトがあったというのもそうだが、世界は日本人が思うほどタコやイカを食べる訳ではないのだ。

 なおネオユニヴァースがもたらした異世界の知識では一応モンスターの部位を食べる事があるらしい。しかし古龍を食べるのは前代未聞だそうで、セイウンスカイが向こうに行った際には食料目的で継続的な狩猟ができないものかと画策していた。早い話がこちらと同じ漁業である。尤もネオユニヴァースは相手が災害を起こす古龍である事を忘れている。扱いが不憫とはいえオストガロアも立派な古龍、例えここのオストガロアがどれだけアホでも他のオストガロアがそうとは限らないのだ。

 

 一対一のトーナメント形式で行われたビーチフラッグ大会は白熱し、見所のある接戦もあったが、誰が勝ったかは────オストガロアの悲鳴で察して頂きたいところである。

 

 

 

 

 

「『そういえばだけど……龍っぽくない見た目なのにヤマツカミやオストガロアの分類は古龍なんだ』」

「よく分からないモンスターを総称して古龍に分類しているからな。おかしな話だが、古龍という名称が必ずしも龍を示す意味を持つ訳ではないのだ」

『あんた初対面でしつれ~い。こんなんでも龍ですよ~だ』

「『……こいつも足切り取ったら美味いんじゃないか?』」

「あ、それ僕も食べてみたいな。お母さんはオストガロアの足を去年食べたんでしょ?」

「ええ。ただヤマツカミが美味しいかは……」

「それも含めて研究しようじゃないか。さてどこから切り分けられるかな……?」

『えっ、もしかしてアタシ食われそう?』

「オストガロアがいけるなら……ヤマツカミもあり……?」

 

 硫黄島、中央の広場では地面に寝そべるヤマツカミを前にタマモクロス以外のチーム:ドラコのウマ娘が集まっていた。それらに対し、赤衣の男は自身が持つモンスターの知識を惜しげもなく披露する場として講義を行っている。

 アステラの存在だが、流石に大きくなったアステラを世間に向けて隠しておく余裕をトレセン学園は持たなかった。一応新たなドラゴンがトレセンに棲みつく事になったとして広報したが、硫黄島の地下にいたという設定で誤魔化していた。これによる世間の反応は想定よりも小さい。流石に三体目ともなると、「あー、またか」という感想の方が大きいようだ。ドラゴンそのものよりも、トレセンにそんなスペースがあるのかと敷地面積を心配する声が挙がったほどだった。

 

「米国も中々やる。まさかヤマツカミの体内から独自の肥料に着目するとは」

「ヤマツカミは面白い生態をしているねぇ。体内に"生態系"を飼うことで栄養を得ていたとはね」

「生態系?それはどういうものなの?」

「ヤマツカミの食性はかなり特異だ。肉食、草食とも呼べず、ただ手当たり次第に有機物を吸い込む摂食を行う。この際吸い込まれた多くの生物はヤマツカミの体内で固有の環境を作り上げ、それによって発生する土壌から栄養を得ているのだ」

「生態ピラミッドでの分類は分解者に近しいね。この土壌が極めて肥沃らしい。米国じゃこの土壌を人工的に作れないか研究されているそうだよ」

「『だってさ。君自分がどうやって生きていけるか知ってた?』」

『知る訳ないでしょー。というか君達の話分かんないしー』

「僕も似たようなものなのかな。その気になれば何でも食べられるし」

「貴方は一般的な食べ物にしなさい。こういうのはその……飢えた時の最後の手段だと思うのよ」

「あははは、冗談だって。でもこうして見ると、僕も面白い生き物だよね」

「冥灯龍じゃない……?でも赤くない……」

 

 ヤマツカミは一時米国本土に移送され研究されていたが、ヤマツカミを研究する上でその莫大な食料に大きな維持費がかかる事が分かった。米国が入手出来たドラゴンとして米国本土での研究を続ける声も挙がったが、そもそも仕留めたのはバルファルクな上にお世辞にもドラゴンと呼べるビジュアルでもないため人気もない。そんな訳で、いつの間にかドラゴン問題担当としての立場を得ていた日本に米国はヤマツカミを押し付けたのである。

 ヤマツカミの維持には豊富な有機物が必要だ。しかし、この問題を解消できる存在がいた。イナガミである。金さえかければとにかく作物を増やしてくれるイナガミは今やトレセン学園のみならず、政府の方でも重要な役割を担っている。加えてイナガミ自身は商売を目的として作物を積極的に売り込むため、政府とイナガミお互いがwin-winの関係を築いていた。このためか、今回の硫黄島合宿にイナガミは参加しなかった。合宿で共に管理するウマ娘達も出払っているため、そういった意味でもイナガミは農地の管理に手を尽くしていた。

 

「古龍に分類するにはいくつか定義がある。"よく分からない"というだけでなく、例えば血液に含まれる謎の成分がそうだ。謎という割に、これらの成分は古龍種において共通して含まれている事が分かっている」

「『何が謎なの?』」

「端的に言えばそれが存在している意味が分からないといったところか。例えば人間を含め、多くの生物はヘモグロビンという酸素を運ぶ役割を持ったタンパク質を持つ。他にもウィルスを除去する白血球や、怪我をした際に出血を止める血小板など血液には様々な能力がある訳だが、一方で古龍の血はどれだけ調べてもそういった能力などが判然としないのだ」

「一緒なのは血が赤いくらいかしら」

「『ん?そういえばあのイカは確か青い血だったはずだぞ』」

「色はあまり関係無い。同じ成分があるならそれも古龍種だ。この辺は未だに研究が進んでいなくてね。とりあえず、そういう成分があったら古龍、という体で分類されている」

「大雑把だね。僕も分類は古龍みたいだけど、研究が進めば細分化されるのかな」

「その辺りは如何んともし難いな。もし世界を越えて向こうの世界とこちらが継続的に繋がれるのなら、あり得ない話ではないだろう」

 

 赤衣の男は自身が持ち得る知識をセイウンスカイだけでなく、その仲間や希望する他の人間に教えていた。なおこれについてはシャーロットに話を通していない。シャーロットにもし自分が先祖だと知られれば話が拗れてしまうからだ。故に赤衣の男はいつも通り行方を眩ませチーム:ドラコの付き添いで硫黄島を訪れているのだ。

 

 

 

 

 

 こうした硫黄島での強化合宿はいつも以上に異なった環境としてウマ娘達からは非常に良い評価となっていた。しかしトレーニングメニューを考案するトレーナー陣からは離島での合宿に一部メニューの見合せが発生しているとの事で、この辺りはおいおい対処していく事となる。反省点はあるにしろ、総合的には成功と言えるだろう。

 ウマ娘と古龍との交流が、また新たな歴史を紡ぐその一歩となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異なる世界。異なる場所。

 硫黄島から元の世界へと送り返されたネルギガンテは周囲の異様な風景に────ただただ戦意を滾らせていた。

 

 敢えて擁護するのなら、アルバトリオンに詰めの甘さはあれどこんなところに移送される確率はそう高くないと言えるだろう。本来なら送り先を任意に確認できるはずたが、硫黄島の決戦ではとにかくネルギガンテを元の世界へ戻す事を優先していたためネルギガンテがどこに行ったのか、その後を全く確認していなかった。

 

 ネルギガンテが踏みしめる地面は自然ではあり得ないほどの平坦さがあった。不思議な事ではない。単に自然ではなく────人間が作り上げた石畳なのだから。

 ネルギガンテが寂れた古城の空を見上げる。昼か夜かも分からない空模様は、禍々しい深い紫色をしていて不吉な予感をどことなく感じさせていた。

 こんな場所、誰であれまず逃げ出したくなるだろう。それでもネルギガンテには分かっていた。自身が持ち得る本能として例え相手がどれだけの超越者だったとしても、そこに迸る生態エネルギーがあるならそれに食ってかかるしかないのだとネルギガンテは戦闘態勢を整えた。

 

 翼を掲げるネルギガンテが見つめる先には、壊れた塔の頂上でとぐろを巻く龍の姿。

 それはネルギガンテを見てすらいない。

 ネルギガンテが通ったであろう虚空に浮かぶ小さな穴、それはやがて消滅していく。

 穴のあった位置を、その龍は(よこしま)な眼でじっと見ていた。

 

 

 

 

 




アルバトリオンやらかし多いですが挽回の機会はちゃんとありますぜ
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