今回はタイトルが全てを説明している
「こりゃいかんな」
「え……。どういうことですか」
「どうもこうも、うちじゃ加工出来ん。済まないなお嬢ちゃん」
「はぁ……」
都内某所。
セイウンスカイはとある町工場にいた。
つい先日、紆余曲折を経てバルファルクから貰った"星の龍鱗"。セイウンスカイは穴を開けて紐を通し首飾りにしたいと考えていた。
しかしセイウンスカイに宝飾品を専門とした知り合いはいない。困った彼女はトレセン内で訪ね回ったところ、ナイスネイチャの地元の商店街に、金属加工を専門とする町工場の業者がいるとのことだったので紹介してもらい休日に事務所を訪ねたところだった。
「加工が出来ないっていうのは、硬すぎてですか?」
「硬いには硬い。ただ割ったり削ったりするのは恐らく出来る。問題なのは穴を通したいって要望だ。こいつの強度や特性が分からないんだ」
「……穴が開けられないのはそれが理由……?」
「こいつがな、うちで相手にしてる一般的な金属類ならどういう金属が使われててどういう構造してて、なおかつお客さんが求めてる形状がどんなものかってのが分かるから自然とやるべき事が分かる。お嬢ちゃんのは今挙げた三つの内最後の一つしかないんだ。加えてサンプルはこれだけ。うちはこの仕事してて結構長い方だが、未知の素材を一発勝負で仕上げろってのはちょいと酷だね」
如何にも、といった風体の作業着を着た男性が嘆息する。年の頃そろそろ還暦を迎える頃合いだろうか。右手を見てみると中指がやけに短い。本人曰く、若いころヘマをやらかした証だと言う。
「無理矢理穴を開けようとすると、穴を開けるどころか割れちゃう可能性の方が高いってことですか?」
「おお、そうだそうだ。飲み込みが早いな。アクセサリーにしたいんだったら、ケースか何かに入れてそれで吊るした方がいいだろう」
「……なるほど。分かりました」
「にしても凄いなぁ、これ。確かに鱗の形してるが、信じられん。新種の鉱物と言われた方がまだ信じられるぜ」
しげしげと、工場の職長は星の龍鱗を眺めている。ばつが悪そうにセイウンスカイは星の龍鱗を持っていた。
「穴を開けるのが無理なのは分かりました。……うーん、それなら指輪をくっ付けるのは無理ですか?」
「指輪? なんだってそんな」
「ケースに入れるのは勿論有りだと思うんですけど……私自身これと直接触れていたいというか。あ、無理ならいいですよ! 頼みこんでる身で悪いですし」
「そっちならいけるな。鱗を直接加工する訳じゃないなら難しい事は考えなくていい。接合加工になるから鱗の耐熱性を考えなくちゃいかんが、例のばる……ばるなんたらはあちらこちら飛び回って空気摩擦で高熱に晒されてるんだろう? たぶん心配しなくても大丈夫だな」
「やった! ありがとうございます! ……ところで、お代は……?」
「安心しな。ネイチャちゃんの紹介だし、今回はツケといてやるよ。この先レースに出るんだろう? がっぽり稼いでこいよ!」
ガハハハ、と笑う職長に背を叩かれて思わず前のめりになるセイウンスカイ。
商談は上手くいって一安心のセイウンスカイであった。その場で付けたい箇所のセイウンスカイの指の径を計り事務所を後にする。この程度であれば、夕方には出来上がるとのことだったのでセイウンスカイは適当に散歩することにした。
(どうしよっかな~。特に予定が無いんだよね~)
思えば久方ぶりの完全なオフである。ここしばらくはデビュー戦に向けてトレーニングも詰め込んでいたし、暇さえあればバルファルクと一緒にいたのもあってセイウンスカイは中々一人の時間が取れないでいた。
いつもだったら友人達を誘って遊びに出掛けていたが、最も仲が良い同期達五人はこの時期なのもあってトレーニングに忙しい。
(あ、思い付いた。あそこに行っちゃおう)
一つ思い付いたセイウンスカイは電車を乗り継ぎ、鋼の龍鱗の件で思い出した場所────上野まで行くことにした。
「ここが上野の博物館か~」
セイウンスカイは博物館の正面にある巨大なオブジェを見上げてポツリと呟く。博物館の象徴たるシロナガスクジラが原寸大で再現されているのは人目を引くだろう。何人か観光客が次々と立ち止まり写真撮影に興じている。
しかしセイウンスカイのお目当てはこれではない。入館料を払い中に入ったセイウンスカイが目指したのは、古代生物が展示されているエリア、所謂恐竜展である。
(すっご……どんだけ尻尾長いの。体のほぼ半分じゃん)
恐竜展のメインとしてセイウンスカイを出迎えたのは巨大な肉食生物の完全骨格であった。見れば付属されている説明に《ディノバルド》と書かれている。説明ではこの長大な尾を武器として振り回していたらしく包丁のような刃物であったらしい。しかし生物がそのような構造を持ち得るのかと未だ疑義があるらしく諸説の一つとして展示されている。
(こいつからは……何も感じないな)
大きさに圧倒されたもののセイウンスカイが目的としているものではない。その後セイウンスカイは他にも見て回り、やがて一つの展示品に辿り着いた。
(ああ、これだ。鋼の龍鱗と同じ。しかもあれよりずっと凄い)
セイウンスカイの目に止まったそれは、骨の一部分だった。7000万年前のインドの地層で見つかったらしい。ただ、あまりにもデカい。説明では脊椎の一部とされているものの、4mを越える大きさで存在している。一部分のみのため元がどんな姿をしていた生物なのか、大きさはどの程度か判別がつかないという。構造として内部が捻れているらしく、そのおかげで骨密度と筋繊維が高い密度で肉体を成していただろう、とあった。
(ヤバい。今自覚出来てるからいいけど、めちゃくちゃ引き込まれる)
セイウンスカイが探していたのはこういう鋼の龍鱗と同じような、自分の"何か"に触れる代物だった。鋼の龍鱗の時は分からずに近づいたため無意識に引き込まれたが、理性を以て見てみるとセイウンスカイ自身が考える以上に"触れなくてはいけない"という"衝動"に襲われていた。
(動け、ない。視線が外せないっ!)
鋼の龍鱗以上にこの骨からは強大な威圧感をセイウンスカイは感じていた。まるで蛇に睨まれたカエルのようだ。視界からこの骨を断てばそれだけで終わるのに呪縛のような威圧感はセイウンスカイが視線を外すことを許さない。
(動けっ、動けっ、動けっ!)
セイウンスカイ以外に異常は無い。傍から見ると、ただセイウンスカイが展示品の前で立っているだけである。しかしセイウンスカイは声を上げることすら叶わなかった。恐らくこの骨の元となった生物は、鋼の龍鱗の持ち主よりずっと強大な存在だったのだろう。鋼の龍鱗はここまで束縛してこなかった。
(このままだと、手が、出────)
「それが何なのか、気になるかね?」
ポン、と肩に置かれた手。
衝動に負けかけ、後もう少しでガラスを割ろうとしたところでセイウンスカイを襲う圧力は霧散した。
「……っふぅー。……あの、貴方は?」
「通りすがりの研究者、だと思ってくれたまえ。丁度その骨について研究している者でね。君が熱心に見ているものだから、気になって声をかけたのさ」
想像以上にセイウンスカイは精神を消耗していたらしい。息すら止めていたようで、一息ついた後彼女は肩に手を置いた人物を見て振り返る。
不思議な男性であった。彫りは深い顔立ちで大柄な体格は、流暢な日本語とは裏腹に恐らく日本人ではないだろう。そのせいなのか年頃が判別できない。顔立ちだけ見れば若く見えないこともないのだが、厳かな雰囲気や祭司のような声音で青年なのか壮年なのか、セイウンスカイから見て今一分からないでいた。一番不思議なのは赤い衣を纏っていたことだった。下に着ている服装も、およそ日本で見かけるような物でもなく古い印象を受ける。彼の故郷の民族衣裳のような物なのだろうか。
「あはは……。ついつい見入っちゃいました。こんな大きな骨を持った生き物が、大昔いたんですね。どんな姿をしてたんだろう」
「ロマンがあるだろう? 悠久に思いを馳せるのは、人間だけに認められた特権だ。……どんな姿か、それはとても大きな蛇だろうな」
「蛇、ですか? 恐竜とかじゃなくて?」
「ああ。それもこの大きさだ。動くだけで山脈を崩すような……そんな大蛇だろう。全身に剣のように鋭く尖った鱗を持ってな」
「研究してるって言ってましたけど、まるで見てきたかのように詳しいんですね……。それってもう学会とかで発表しましたか?」
「いいや、していない。
「……? どういうことです?」
「私だけが分かっていれば良いのさ。今はまだ、な」
「……良く分かりませんけど、自己満足なのは分かりました」
「随分と威勢が良い事だ。その威勢の良さを活かせていれば良かっただろう。筋はあるというのにもったいない」
「えと、何の話です?」
「ふむ……。君、先ほどの骨をもう一度見たまえ」
「え、いや、もう十分かな~って……」
「では、こうだ」
突如として両肩に手をかけられたセイウンスカイはそのまま強引に反転させられる。ウマ娘と人間の間には隔たる差があるはずだというのに、セイウンスカイは全く逆らえなかった。
(待って、何で……!)
渦巻く骨の圧力は健在だ。またセイウンスカイは声を上げることも出来ずにその場で固まってしまう。一体全体何なのかと、セイウンスカイが混乱しつつも抗おうとなお努力するが、それより先に先ほどの男がセイウンスカイの耳へ囁いた。
「良いかね。元より"それ"は君の力であり君の一部だ。抑えつけるものでもなく、然りとて自棄に身を任せるものでもない。ただそう感じる事を当たり前だと認識しろ」
「……っ!」
「そうだ。その調子で良い。もっと肩の力を抜け。然すれば新たな視界が開けるだろう」
セイウンスカイは言われるがまま、目の前の渦巻く骨に対する認識を変えていく。触れたいという衝動ではなく、骨から感じる圧力をある種の問いかけのような物だと解釈して。
セイウンスカイが覚悟を以て意識を変えると今見ている視界とは別の視界が重なるように浮かび上がって見えていた。
(見える……。"私"は山の中にいて……いや中じゃない。山を見下ろしているんだ。ずっとずっと昔から、山が出来るよりも、大陸が今の形になるよりも、この"龍"は全部見てきた)
視界が地面を見下ろす。セイウンスカイが捉えるもう一つの視界には見たことが無い生き物達が慌てるように走る様子が見える。散り散りになって逃げているが、まるで視界の主から逃げるように離れていた。
(ああ、これ草じゃないや。木だ。それも現代にはもういないような、凄く大きな木。なのに、腕の一振りで伐採できちゃう。────腕?)
視界が動く。歩いてこそはいるものの、後ろ脚の感覚が無い。山から山へ、巻き付けられる物には体を絡ませるように進んでいく。
(ここは……海なのかな。何をしに来たんだろ。あ……遠くに何かいる……?)
視界の奥、海から何かが現れる。砂浜までまだ遠いというのに、海面から黒い山のような姿が見えていた。
(何あれ。でっかいカメ……? 火山を背負っているのかな。あ、吠えた)
見る物全てが小さかった視界の主にとって唯一対等だと言える巨体が目の前の火山だった。
ちらりと映る海面には、青白い蛇のような顔が赤眼を爛々と輝かせ咆哮する様子が映っている。すると空から次々と隕石が降ってきて蛇の周囲を彩った。対抗するかのように火山の龍は咆哮と共に背を噴火させ周囲に噴石をばらまいていく。
隕石と噴石によって染め上げられる地獄のような光景。そんな、お互いの派手な咆哮を皮切りに二頭は揃って衝突した。
「うわー。なんかヤバいもん見たわ……」
互いが衝突したところでセイウンスカイの記憶は終了した。時間にしておよそ1分も経っていないだろう。
「……? あれ、そういえば何で貴方私の事知って……?」
セイウンスカイが男性に礼を言おうと振り返った時、既に男性はいなかった。そう時間も経っていないはずなのに、まるで最初からいなかったように誰もいなかったのだ。
「何だったんだあの人……」
少し振り返って渦巻く骨を見てみれば変わらず威圧感はあったものの、前のように衝動に突き動かされるような感覚はセイウンスカイから消えていた。
(もしかしたら、あの骨はただ聞いてほしかっただけなのかもね。自分が経験してきたこととか、話す人が誰もいないと寂しいし)
この後セイウンスカイは普通に博物館を観光し、他に目を引く物が無かったため指輪の出来上がりに間に合うように退館した。セイウンスカイからすれば、不思議はあっても収穫のある見学だと言えるだろう。
ただ懸念事項はあった。
(あの赤い男がいた形跡が無いのは怖いんだけど。私幽霊と話してたのかな!?)
セイウンスカイを助けた、と思われる男。目立ちやすい服装をしていたので、それとなく受付でそういった男がいなかったか聞いたセイウンスカイだが返答は否であった。また博物館の職員にあの骨について研究している者がいるか訪ねたところこちらもいないとのことである。みんな他の物を研究していて渦巻く骨に割く人手がいないと。
背筋に薄ら寒いものを覚えてちょっぴり涼しくなるセイウンスカイであった。
博物館観光後は特にトラブルも無く、町工場に戻り出来上がった指輪をセイウンスカイは嬉々として着けて学園にもどった。途中ターフのバルファルクに指輪の報告をし、それがかなり気に入ったのかいつもよりも離さないバルファルクのせいで寮の門限をギリギリ越えそうになったのはご愛嬌である。
博物館でハプニングがあったものの、全体としてかなり有意義な休日であったと寝る前にセイウンスカイは振り返る。
(いや~途中変な人に会ったけどまぁ上々かな。ああいう古代遺物へのコツも掴んだし……ん? 何これ?)
今日を振り返りながらセイウンスカイが使っていたバッグを整理していた時だった。見覚えの無い物が入っている。古ぼけた紙だ。現代のような一般的なコピー紙ではなく、羊皮紙のような、恐らく何らかの生物の皮を使ったであろう紙。
そこには日本語でもなければ英語でもない、恐らく現代のいずれの文化・地域圏にも当てはまらない言語が書かれている。
(何これ……。まさかあの男? いやそれより何で私これが
そこにはこう記されていた。
セイウンスカイとバルファルクの話なのにバルファルクが出てこない不思議回
皆さんモンハンの依頼人や依頼文どう思ってますか?当たり前の内容からこいつイカれてるんじゃないかとか依頼文だけでキャラ立ってる人いますよね。ということでシリーズ最古参であろう人の特別出演でした。