セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃よりご愛読頂きまして誠にありがとうございます。

ワイルズOBT、みなさんアルシュベルド倒せましたか?私は友人と二人で挑みましたが足引きずらせるのが精一杯でしたね……


バルファルク「スマートフォンが欲しいんだが……」

 

 

 

 

 

 

「『ゼッッッッッタイ、ダメ!!!』」

「『なんでだ?別にいいだろ、携帯くらい』」

「『それで何するつもりなの?』」

「『そいつはもちろん、SNSのアカウントを作って人間の反応を見るためだ』」

「『余計に、ダメ!!!』」

 

 エルコンドルパサーが凱旋門賞に勝利して数日。

 セイウンスカイはターフに帰ってきたバルファルクの要望にブチギレていた。

 

 

 

 

 

 日本のウマ娘では初となる凱旋門賞制覇。

 その吉報に日本全体が歓喜に湧き踊った。

 国を挙げての祝福ムードであり、この期に乗じて各企業や商店は緊急セールやキャンペーンなどを始め景気にも影響していた。

 とはいえセイウンスカイはそれどころではなかった。

 バルファルクとエルコンドルパサー、揃って煽りの文句にセイウンスカイの名を使っており、これまたセイウンスカイに注目が集まってしまったからだ。

 帰ってきたエルコンドルパサーをそこそこに祝福しつつ、バルファルクの意図を問い詰めようとした矢先に、先程の要望を聞いたセイウンスカイの怒りは頂点に達していた。

 

「『ほんっとにどういうつもり!?こちとらこれ以上面倒事に関わりたくないんだけど!?』」

「『言うほど面倒じゃないだろ。レースに勝てばいいんだから』」

「『違う、そうじゃない。わざわざ煽る必要無かったよねぇ!?』」

「あー、それはデスね、あの後バルファルクとちょっと話したんデスよ」

 

 ターフにはチーム:ドラコもそうだが同期全員も集まり激昂するセイウンスカイを宥めようと大所帯になっていた。

 

「『話したって、何が?』」

「セイちゃんに、余裕を持たせるなって話デス。ダービーでも宝塚記念でもそうでしたけど、セイちゃんって無駄な余裕あるとそれに胡座をかくことがあるね~って」

「『くっ……』」

 

 事実なだけに何も言い返せないセイウンスカイ。

 集まった一同、得心して頷く。ダービーでは"龍呼びの声"による慢心が祟って過負荷を起こしていたし、宝塚記念では古龍大戦が終わった反動で呑気になってしまっていた訳で、反論しようにもこれまでの実績が全て証明していた。

 

「『それであんな公の場で煽るのは違うでしょ……』」

「『いやまぁ、あれだぞ?最近のセイウンスカイが真っ当にトレーニングを重ねてるの分かる。別に怪我してる訳でもなし、体調は万全であるとな』」

「『ならなんでさ……』」

「『そりゃ、貴様の同期含めて全員がそんなことで勝てる相手じゃないからだろう。分かるだろ、スペシャルウィーク、キングヘイロー』」

「確かに……前のセイちゃんは何やってくるか分からない感じがあってレースの時は怖かったけど、今はそんな感じじゃないなぁ」

「右に同じね。もうお互いの癖を知り尽くしてるんだもの。クラシックのスカイさんは昼行灯を気取りながら勝利への欲求が見え隠れしていたけど、今のスカイさんからはそういう気迫が感じられないものね」

「『うーん、評価が辛口!』」

 

 四つん這いで落ち込むセイウンスカイ(orz)。

 と、そこへジャージ姿のウマ娘達がぞろぞろと姿を現す。規律が取れているようで、先頭を進むのはあのシンボリルドルフだった。

 

「やぁ、歓談中に済まな……歓談中という訳でもなかったか」

「『ルドルフさん!!!この人達ひどいんですよ!!!みんなして私をいじめてくる!』」

「残念だが、そのいじめには私達も混じるんだよ」

「『は?』」

 

 集団の中から一人、シリウスシンボリがエルコンドルパサーに歩み寄る。彼女もまた、高き凱旋門の頂きに挑んだ猛者の一人だ。

 シリウスシンボリはエルコンドルパサーをまじまじと見ると、いつもの挑戦的な声音でセイウンスカイに残酷な事実を告げた。

 

「バルファルクとエルコンドルパサーが無駄に煽りやがった。ま、これは事故みたいなもんだからしょうがねぇ。面倒なのはおまえが事実上日本総大将になりかねない、ってことだ」

「『やめてくださいよ、それ~。必死に目をそらしてたんだから……』」

「ただでさえ話題を集めるバルファルクの言葉だ。嫌でも注目は集まる。君だけじゃない、君を差し置いてダービーに輝いたスペシャルウィーク、逆境をはね除け各距離G1制覇を成し遂げつつあるキングヘイロー、クラシックで共に競り合った君達はまさに"黄金世代"と呼ばれるに相応しい評価を得ているのさ」

「えへへへ……それほどでも……」

「スペシャルウィークさん、お褒めの言葉だけじゃないのよ、これは」

「その通りだ。今の君達が鍛練を怠っている訳ではないというのは承知している。しかしその上で更なる負荷が必要だと私達は判断した」

「『更なる負荷って……?』」

「ルドルフったら前置きが長過ぎよ。要するに、私達とレースをしましょう、ってこと!」

「『えっ?』」

 

 マルゼンスキーが結論を述べる。普段は柔和で後輩への面倒見が良い大先輩だが、スーパーカーとも呼ばれたその走りを陰らせる気配は無い。いつもの口調ながら、大分────いや、まるで肉食獣が獲物を前に舌なめずりするかのような気配をマルゼンスキーは滾らせていた。

 

「貴方達、体は仕上がってるし技術とか走り方はもう決まってるものね。そうなると普段のトレーニングだけじゃ伸び代は薄いのよ」

「実戦に勝る鍛練は無ぇってことだ。これから先、毎週私達と模擬レースをやる。とにかく量を重ねて、少しでも経験を積むんだよ」

「『な、なんでそんなことに……』」

「さっきも言ったろ。おまえが腑抜けちゃ話にならない。別にセイウンスカイが勝とうが負けようがそこはどうでもいい。ただ、世間を納得させるだけの走りが出来なきゃ笑われるのはバルファルクだぞ?」

「『そ、そんな……。はっ、そうだ、トレーナーさん!こんなの横暴ですよね!?トレーニングはちゃんとやってますし、毎週レースだなんて負荷がきっと────』」

「スカイ。その、残念なんだけど、もう予定は付けてあるんだ」

「『うそでしょ……』」

 

 最後に頼った自分のトレーナーですら今のセイウンスカイにとっては敵だった。セイウンスカイのトレーナーは申し訳なさを出しつつも事実を告げていく。

 

「スカイはね、なんていうか限界まで追い詰めてどうにでもよくなった時に出す最後のやけくそがスカイの持ち味だと思うんだ。そういう時にスカイらしい一番の奇策が、ここぞという時に刺さる感じでね」

「『トレーナーさんそんなこと思ってたの!?』」

「ひっひっひ。腹ぁ括りな、セイウンスカイ。どのみちドラゴン共のせいで目立ってるのは今更なんだ。むしろ、ウマ娘として正当な目立ち方だよこれは。アスリートとして評価されてるんだからね」

「『発端がバルファルクなんですがそれは』」

「『なんとも擁護できへんなー。宝塚で良い走りしとったらここまでの話にならなったはずやもん。やっぱ身から出たサビやで、スカイ』」

「『……』」

「『返事が無い。ただの屍のようだ』」

「『泣くよ!?私みっともなく泣くよ!?てかどこで学んだのその言い回し!小心者をここまでいじめて楽しいか!?』」

「セイちゃんが小心者は絶対に無いよ」

「右に同じね。クラシックでやったことを思いだしなさいよ」

「エルの方がもっとマシな嘘つきますよ?」

「セイちゃんは誰よりも図太いと思いマース」

「せ、セイちゃん。この際仕方ないから一緒に頑張ろ?」

「『ツルちゃんしか助けてくれないよぉ……』」

 

 半泣きでターフに崩れ落ちるセイウンスカイの頭をツルマルツヨシが撫でて慰めていたが現状は変わらない。トレセン学園オールスターズを以て、全力で黄金世代を応援する趣旨はこうして組まれてしまった。

 

「『楽しみだな。セイウンスカイのこうした様子をネットで見れるようになるのは』」

「『そうだった、その話まだ終わってないよ!ていうか認めてないし!そもそもどうやって持つの!』」

「『別に貴様からの許可はいらん。アグネスタキオンに繋いでもらったが総理に話したら都合付けてくれるらしいぞ。確かリンゴが目印の……名前は忘れたが大手の会社だとかが特注してくれるとな』」

「『はぁ!?』」

 

 バルファルクが望んでいるのは自分の四肢で抱えられる大きさのパッドの形をした端末だった。胸の吸気口より後ろ側に専用のバッグを括りつけて出し入れしやすいようにしたいらしい。飛行している時は前足で操作できるし、地上でも槍翼を接地させれば前足の代わりになる。四肢とは別に可動する槍翼はこういう時に便利なのだ。

 日本から話を受けた米国の大手企業はこの案件に小躍りした。難しい注文だが、それだけにドラゴンでも使える携帯端末が作れれば技術力をアピールできる。当然作った製品にはリンゴのマークが彫られる訳で、世界中を飛び回るバルファルクなら持ってくれるだけでも良い宣伝になると鼻息を荒くしていた。

 この案件を国内企業ではなく米国の企業に話を通したのは総理なりの思惑があった。古龍大戦で久しく艦艇の喪失を経験した米国だが、それに見合う利益があったかというとそうでもない。ヤマツカミの研究はあったがあれもまだ途上で利益生む段階には至っておらず、そのせいで米国の古龍に対する態度が硬化されると困るので一定の便宜を図ったのだ。

 総理から漏らされる愚痴に、バルファルクは口だけ同情し、けらけらと内心笑っていた。

 

「『君ひらがなくらいしか読めないでしょ!』」

「『アン・イシュワルダから教えてもらってるぞ。これまで他の文字が読めなかったのは考え方の違いらしい。俺だってちゃんと勉強してるんだぞ。そんなに嫌なら総理に直談判すればいいじゃないか。電話できるんだろ?』」

「『そうする!』」

「『そういうところが小心者でないと言っているのに』」

「『なんか言った!?』」

 

 何の恐れもなく総理のLANEに通話をかけるセイウンスカイ。本来なら自国の首相相手に電話をかけるなど憚られて当然なのだが、疑う事なくセイウンスカイはかけていた。

 

《もしもし?君からかけてくるなんて珍しいね》

「『お忙しいとこすみません。なんかバルファルクのバカがスマホ持ちたいとか抜かしてるんですけど』」

《ああ、あの件か。既に先方から色好い返事を貰っていてね。流石に天皇賞までには厳しいが、ジャパンカップには間に合わせると言っていたよ》

「『間に合わせなくていいです。てか作らせないで下さい。こいつのせいでめちゃくちゃ迷惑してるんですよ私。総理だって分かるでしょ!?絶対おかしなこと言って世の中を混乱させるに決まってます!』」

「『ひどい言われようだな。俺なんかやったか?』」

「『スカイがひどいのはともかく、バルファルクも大概やで』」

《ふむふむ。セイウンスカイ君、今君の周りに人はいるかい?》

「『え?あ、はい。チームのみんなとか、友達とかまぁ色々……。込み入った話になるならまた改めてかけ直しますけど』」

《いや、いいんだ。むしろそれがいい。スピーカーをONにしてもらえないかな?》

「『はぁ……』」

 

 訝しみながらも言われた通りにするセイウンスカイ。もしかしたら周囲に自制を促してくれるのかもしれない────と、そんな事を思ったが総理が語るのはある組織論だった。

 

《皆さん、このような形で申し訳ないね。どうやらセイウンスカイ君が荒ぶっているようだが》

「お久しぶりです、総理。多忙の中、セイウンスカイに応えて下さってありがとうございます」

《おお、その声はルドルフ君か、久しぶりだね。君も生徒会長として随分と奮っているそうじゃないか。君ならゼークトの組織論も知っていることだろう》

「ハンス・フォン・ゼークトの組織論でしたか?確か人間を有能か無能か、働き者か怠惰かで四分割し無能な働き者こそを排除すべきという論理だったかと」

《君から見て、セイウンスカイ君はどれに当たるかな?》

「それはもちろん、有能な怠け者ですね」

「『待って、ゼークトは知らないけどそれなんか聞いたことある』」

《有能な怠け者というのはね、自分にとって居心地の良い現状を維持することに努めるものなのさ。何せ働きたくないんだからね》

「『あの、総理……?』」

《どうせ他のウマ娘から発破をかけられてるところなんだろう?それにセイウンスカイ君が激しく抵抗しているといったところかな。優れたウマ娘は気性難であることが多いと聞くが、彼女にも当てはまるかね、ルドルフ君?》

「それは私の耳にも痛いお言葉です。先程の例えで言えば、有能な怠け者は現状を維持することに努めるあまり、それが崩されることを極端に嫌います。なればこそ、そこに有能さが発揮されるのです」

《満点の解答だね。秀才っぷりは相変わらずらしい。そういうことだ、スカイ君。随分と荒れているようだが、ここはウマ娘らしく、レースで決めるのが筋だと思わないかい?》

 

 テレビ通話ではないため想像だがおそらくそれは間違っていないだろう。官邸でニヤリと笑う総理の姿をセイウンスカイは幻視した。

 

《今度の天皇賞、君が勝てば君の望む通りに。そうでなければ、予定通りだ。実にシンプルで、分かりやすい決着だろ?》

「『~~~!!!分っっっっっかりましたよ!!!勝てばいいんでしょ、勝てば!!!』」

《その意気だとも。では次の会議が控えているからこれで失礼するよ。ルドルフ君、後はよろしくね》

「はい。……さて、覚悟は決まったかな、セイウンスカイ」

 

 ターフに五体を投げ出し大の字で寝そべるセイウンスカイ。しかしシンボリルドルフから声をかけられると起き上がり、それまでの鬱憤が爆発したのかこれでもかという様相でバルファルクを指差した。

 

「『こんの、おしゃべりクソバード!絶対スマホ持たせないからね!』」

「『バードとはなんだ。俺はドラゴンじゃなかったのか』」

「気にするとこそこなんだ……」

「『黙らっしゃい!!!ヨウムが会話できるのとそんな変わんないでしょうが!これ以上引っ掻き回されたら堪ったもんじゃない!私の平穏な生活のためにも、絶対勝ってやるからね!!!』」

「お~、珍しいセイちゃんの勝利宣言だ」

「他人事じゃないのよスペシャルウィークさん。しごかれるのは私達もなんだから……」

「えっ?セイちゃんだけじゃないの!?」

「おまえら纏めて全員だ。言ったろ、腑抜けちゃ話にならねぇって。エルコンドルパサー、天皇賞に出る予定は無いだろうがおまえも付き合えよ。凱旋門に勝ったやつの走りには興味がある。それが付け焼き刃だとしてもな」

「もちろんデス!最近はグラスとも走ってませんでしたからね!」

「ふふっ。先輩方、お手柔らかにお願いしますね」

「楽しそうなことやってるじゃん。あたしも混ぜて貰っていいかな?」

「シービーか。もちろん大歓迎さ。参加するウマ娘が多いほど、鍛練はより磨かれるものだからね」

「『ウマ娘が増えて面白くなってきたな。俺は初めてセイウンスカイ以外のウマ娘を応援すればいいんだろう?さて、誰が良いか……』」

「『この、一人だけ美味しいポジションだからって……!』」

 

 ミスターシービーだけでなく、徐々に有力ウマ娘達が増えていく。

 ここから秋の天皇賞を超えてジャパンカップまで、今を生きる伝説のウマ娘達が集いそれら全てと黄金世代は併走や模擬レースを重ねる事となる。後に週間レジェンドレースと名付けられたこの期間はトレセン学園全体のイベントへと発展し、後進への育成へと役立てられていくのであった。

 

 

 

 

 




ワイルズが待ち遠しい……
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