セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、いつもご愛読頂きましてありがとうございます。
さて今回は閑話、天皇賞を前に一息入れるところ。しばらく音沙汰の無いダラとゾラが何してるのか、それに対する人間達の反応となります


閑話:超大国の努力

 

 

 

 

 

 

「……目標(ターゲット)、17ノットで巡航中。依然変化無し。追跡を続ける……」

 

 日本が初の凱旋門勝利に湧いたりセイウンスカイがやけくそになっていた頃。

 太平洋のど真ん中でダラ・アマデュラとゾラ・マグダラオスを追跡する潜水艦の姿があった。

 

 

 

 

 

 ドラゴンの法と権利について世界が揺れる中、世界一の大国である米国は表向きドラゴンへの融和姿勢を見せつつも裏では並行して討伐への糸口を掴む動きを行っていた。

 別に騙し討ちがしたい訳ではない。古龍大戦において大きな被害を出した米国だがそれが理由となる訳でもなかった。契機となったのはネオユニヴァースからもたらされた核攻撃すら効果が薄いのではという二体の超巨大龍の評価である。有史以来、核を保有するのみならず唯一核を戦争で使用した責任として()()()()()()()()()()()()という可能性は米国が持つ軍事的影響において大きな懸念となったのだ。現状人類が持つあらゆる兵器の中で、核を上回る物は存在しない。セイウンスカイのおかげで今のところ大人しいが、もし人類に対して敵意を見せた際にやられる一方になっては冗談ではない。

 世界一であるという自負は、そのまま人類を牽引する先進性を持つものだと米国は超大国としての意地を以て二体の超巨大龍を調べていた。

 

 

 

 

 

 グアム島・アンダーセン空軍基地。

 米国の策で秘密裏に設立された対ドラゴンの対策司令部は米国本土からの要請に頭を悩ませていた。

 

「こんなもん生き物のはずねぇって……」

ターゲット・M(ゾラ・マグダラオス)はまだ鉱物を含んでいるから理解のしようがある。ターゲット・S(ダラ・アマデュラ)が訳分からん」

「ターゲット・Mだって鉛を大量に含んだ外殻だぞ。素で鉛のスーツ着てるのと変わらねえ。こんなやつらが存在するってなんのジョークだよ」

「ジョークじゃ済まねぇんだよ。ターゲット・Sはなんなんだ?どの金属よりも硬く、それでいて熱を持っても融解しない、あらゆる検査に引っ掛からない素材で今現在のあらゆる実験で物理的な破壊が不可能……」

 

 エージェント達はこれまで収集した二体のデータに絶望していた。

 薄暗い部屋の中央には古典的な蛍光灯で照らされた長机がある。そこには様々な数値が記載された紙だったり、遠目からだが様々な角度から撮影された二体の写真、そして現物であろう黒い欠片と白銀の鱗そのものがあった。

 

「核じゃなくて、なんか別のアプローチの方がいいと思うんだが」

「それはそうなんだが、そうするとまた一から別のラインを構築しなきゃいけない。ただでさえ核は厄介物なのに、こいつらに通じる兵器なんてまた軍拡競争の火種になりかねないんだよ。ワシントン(米国政府)はそういうエスカレーションを避けてる。戦争なんて金かかるばかりだからな」

「Chinaも大人しくしてりゃいいのに」

「ずっとうるさいぞあいつら。うるさすぎて向こうの潜水艦が日本に見つかってるくらいだ」

「うるさいのは潜水艦も変わらないんだな」

「世界市場やってりゃまだ金稼げるだろうに。なんでこう俺ら(米国)に楯突きたがるのかね」

「まぁなんだかんだ恨み買ってるらしいからな。こっちだって楽じゃねぇのに」

 

 他の国が聞けば憤慨する話だが、米国とて好きで超大国をやっている訳ではない。

 第二次世界大戦で勝利した国家として、唯一核兵器を使用した悪しき前例として、その責務を果たさなくてはいけなくなったからだ。もし米国が超大国としての振る舞いをやめてしまえばどうなるかという話である。ただでさえ国家単位で胡乱な輩が多いのだ。一番力がある国家が理性ある振る舞いを保ってこそ、前世紀のような戦争地獄に陥らずに済むのである。

 未だ盛る火種はあれども努めてそうしてきたと、米国政府はそう考えていた。

 

「あいつらもターゲットを追いかけようとしてんのか?」

「東シナ海に近づいてきた時だけさ。あいつら行動範囲が広すぎる。その内太平洋越えてもおかしくないぞ」

 

 ダラ・アマデュラとゾラ・マグダラオスは太平洋全域に渡って移動している。

 どうやら二体は仲が良いらしく、よく二体で並んで泳ぎながら遠目で沿岸部の都市を観察している事が多い。時折船舶の妨害になる事もあるが、要請を受けたバルファルクがすっ飛んできて二体に言い聞かせていた。その度に二体はバルファルクから人間の事を教えて貰っているようで、バルファルク曰く「ほどほどに人間への興味がある」との事だった。

 太平洋を越えないようにしているのは彼らなりに決めた領域だかららしい。バルファルクは人間が脅威になるよりかは、どちらかというと面倒臭い存在である事を強調して教えていた。どちらも本気を出せば人間を蹂躙するなど容易いのだが、人間だって黙ってやられる訳ではない。必要ならいざ知らず、自然の生き物としてはごく普通の判断として余計な戦闘にならないよう二体はちゃんと人間に気を遣っているのだ。ただ米国としてはやはり口約束のため、二体が太平洋を越えて世界を移動する可能性もゼロではないと考えていた。

 

「今あいつらはどこに?」

「南米沖だよ。ほら、こないだまでカリフォルニア湾にいただろ?そのまま大陸に沿って南下してる」

「ってことは……」

「ああ、またコロンビアが騒ぐだろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間は忙しないなぁ。見よ、ああもフネを持ち上げてはひっきりなしに荷物を運んでおるぞ』

『大蛇よ、それはワシの背に乗って言うセリフか?ワシ、見えんのだけど』

 

 パナマ、太平洋沖にて。

 ダラ・アマデュラはゾラ・マグダラオスの背に乗り、その長大な体躯を伸ばしてパナマ運河を観察していた。

 

 パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ海運の要所である。パナマを南北に横断するそれは、それまで南米を大きく南下せざるを得なかった既存の航路を上書きし、世界の海運に今日まで貢献し続けている。

 ダラ・アマデュラはパナマ運河の要である通称【水の階段】に関心していた。自分ほどではないにしろ、ゾラ・マグダラオスより大きな船が水位の上下により運ばれていく様子は圧巻である。閘門(こうもん)を採用して船をより高い場所や低い場所に移動させる機構は他にもあるが、パナマ運河のそれは世界最大の規模を誇っていた。

 

『なるほどなぁ、水位をいじれば浮き沈みも変わると。当たり前だがそれをここまで見事に活用するとは。火山よ、お主もあれでせり上げて貰ったらどうだ?』

『入れる訳なかろうが。ワシらが入ればそれだけで色々壊すんじゃというのに。第一ワシは水に浮かんぞ』

 

 このようにダラ・アマデュラとゾラ・マグダラオスは米国に追跡されているとも知らずに呑気に観光していた。

 

 しかし、それとは一方で勝手に自爆している政府がある。

 コロンビアの民衆は自国の目と鼻の先に現れた二体の超大型モンスターにパニックになっていた。

 パナマとコロンビアに何の関係が?となるのは当然だが、ただ単に隣接しているだけである。二体による配慮が行き届いていたパナマと違い、コロンビアは未だに去年のトラウマを引きずっている。確かにその気になればコロンビアにすぐにでも行ける距離だが、二体がいるのはパナマの領海である。

 要するに、ただの早とちりだった。

 パニックになる民衆を前にコロンビア政府は統制が取れないでいた。理由の一つに現コロンビア政権がドラゴンに対して過激な保守論を語ってしまった事が挙げられる。別に放っておけばいいものを、先制攻撃をして外敵を退けるべきだという主張が民衆に流行ってしまったのだ。マム・タロトならいざ知らず、ほとんど怪獣としか言えない存在を前にそんな真似できるはずがない。ないのだが、流石に冷静な首脳部の動静は何も知らない民衆にとって弱腰に見えてしまっていた。

 保守政権であるコロンビア政府はこれに焦っていたが何もできないでいる。実のところ支持率回復を狙ったはずの対日裁判では逆に支持率を落としてしまい、民衆への影響力が極端に下がってしまっていた。やはりだがコロンビアの主張よりも日本の方が目立って見えてしまったがために映りが悪かったのだ。

 一応、当初の予定通りのプロパガンダを流してはいる。しかし裁判で負けた事で頭が冷えた民衆はそれすらも冷ややかな目で見ていた。国際社会から抑圧されている、なんて言っても裁判の内容は現コロンビア政府の一方的な言い掛かりである。それを理解できないほど民衆だってアホではない。

 

 パニックはそのまま現政権への不満に繋がり、コロンビア各地では政権へのデモとそれに伴う暴徒化でコロンビアの治安は混迷の一途を辿っていた。

 

 これだけでもコロンビア政権にとって死活問題なのだが、そこに追い討ちがかかる。

 米国と英国、二つの大国からのそれぞれ一つずつ要請であった。米国は金の取り扱いについて()()()()()()に留めるよう自制を促すもの、英国はドラゴンについて過激な発言を繰り返すのは国際社会において()()()()()()()()()立ち位置になるだろうというある種の()()である。

 米国と英国、それぞれの大使からアルカイックスマイルと共に発せられたこの内容はコロンビア政府を恐慌させた。やんわりとした表現に留まっているが、相手は()()()()()()について誤解を許さない事で最もよく知られた国家である。ここで日和った真似をすればどうなるか分からない訳ではない。この2か国を敵に回した愚か者の末路など歴史が証明している。

 

 米国からすれば南米は自国の勢力圏という認識がある。よく地理関係から日本を米国の裏庭と呼ぶ事が多いが、日本が裏庭なら南米は正面の庭先と言っていい。その認識にふざけるなと声を挙げる南米国家もあるだろうが、少なくとも米国はその認識を間違わなかった。その庭先で勝手に金をばら蒔く()()()()がいるのだ。米国として面白いはずがない。しかも南米(ラテンアメリカ)は豊かな米国を食い物にしようとするギャングどもの巣窟でもある。コロンビアで調子に乗ったギャングは更なる利益を貪ろうと、米国へ薬物や人身売買などの違法取引を加速させていた。多少のちょろまかしなら多目に見てやるかと、取り締まりを怠ったツケが米国からの要請であった。

 

 英国は少し違う。一見するとコロンビアとは無関係に見えるがベネズエラを挟んだ大西洋側には英連邦に加盟しているガイアナがある。ガイアナもまたコロンビアを元とする金の荒れ具合に煽りを受けており辟易していたのだが、かといって自国だけでは発言力が無いため親分である英国を頼った。

 当初こそまだ穏当な対応をしようとしていた英国だったが秘密情報部(M16)がコロンビアで蠢く工作を察知した。それは、コロンビアにおける嫌日運動への煽動である。元々裁判に負けてから日本への心象が悪くなっていたが、SNSなどでやけに強硬な意見が多く見られるようになった。何者かが複数のアカウントを束ねてそういった意見を醸成していたのだが、出所を辿ると正体はコロンビア人ではなく()()()()()()だったのである。これに気付かない英国ではない。即座に米国へ身元を照会した結果、直近で中国本土への渡航歴があり米英共に状況証拠から限りなく黒に近い白(グレー)と断定した。おそらくは中国による涙ぐましい対日工作の一環なのだろう。もしかすれば裁判すらそういう手引きなのかもしれない。日本に恩を売る訳ではないが、こうした工作を黙って放置する程英国は愚かではないのだ。

 こうした中国からの工作にコロンビア政府は全く気付いておらず、英国大使からそれとなく話を振られ慌てふためいた。大国同士の工作の場に自国が荒らされては堪らない。

 

 結果として現コロンビア政権は自国の膿を排除する方向にやっと舵を切った訳だが、時すでに遅く民衆の保守支持者は弱気な姿勢を批判し続け、良識ある者も今さらな対応に嘆息するばかりである。

 そうして、現コロンビア保守政権は発足から一年を迎えようかという頃合いに自ら総辞職。後釜は常識的な前政権である。そっくりそのまま、閣僚のメンバーが入れ替わる様子に英国からは「思春期のはしかが治ったようだ」と口を滑らせていた。

 

『次はどこに行くか?』

『バルファルクが言うには水に浮かぶ()()()()()()とかいう都市があるらしいぞ。なんでも干潟に丸太を埋めて、それを基礎に建物を建てているらしい。美しい都市だと評判なようだ』

『ほほう。しかし、それはかなり遠方の都市じゃったような』

『この辺も見て回ったからな。そろそろ他の海にも行こうではないか。なに、フネにさえ気をつけていればとやかく言われんよ』

 

 原因の一端である二体はそんな事は露知らず、二人でのんびり旅行計画を立てていたのであった。

 

 

 

 

 




祝・ドドブランゴ復活!

久々に白猿薙を握れると思うと胸が熱くなりますねぇ……!
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