セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、平素よりご愛読頂きまして誠にありがとうございます。
しばらく更新ペースが遅くなるかもです。それでも一週間の内にはなるべく投稿します。


天皇賞(秋)

 

 

 

 

 

 

 10月下旬。

 

 東京 芝 2000m 天候:晴れ バ場:良

 

《ウマ娘たちが追い求める一帖の盾!強豪ひしめくこの府中で盾を手に入れるのは誰か!》

《今年も今年で粒揃い。秋の中距離において誰が頂点に立つか、楽しみですね!》

 

(私は全く楽しみじゃないんだけど)

(セイちゃん、やる気あるのは良いけど雰囲気違い過ぎるよ……)

 

 

 

 

 

 

 誰もが待ちに待った秋の天皇賞である。

 才能溢れる"黄金世代"。そこからエルコンドルパサーを除いた五人が出走するのだ。そしてそこには、本人にとって全く不本意な形で注目を浴びたセイウンスカイも当然いた。

 

 エルコンドルパサーとバルファルクによる煽りから数週間、今さらながらアスリートとして注目されたセイウンスカイは海外からもその走りを分析されている。特に評価が高いのはレコードを叩き出した菊花賞での走りだ。

 セイウンスカイは生粋のステイヤーとして、その名が知られるようになった。

 

(好きなだけ対策するといいよ。こっちもこっちで秘策はあるんだから)

 

 シンボリルドルフの提案から始まった週間レジェンドレースにより現役世代のウマ娘達は大幅な強化が成される事となる。下手をすれば合宿よりも濃密な日々に中心であったセイウンスカイは半ば死んだ目をしていた。

 

(ほんっとうに余計なことしてくれたよね……)

 

 ちらりと、ゲートの中から上空を見る。そこにはいつもの調子でニヤニヤと笑みを隠そうともしないバルファルクがいた。セイウンスカイにとって尋常でない事態を生み出した張本人は、今日も今日とて自由に空を謳歌している。

 バルファルクは週間レジェンドレースの最中、積極的に口出ししレジェンドレース全体の流れを意図せずして統括していた。単にレースだけでなく、繰り返される併走を往年のウマ娘達と共に行う事もバルファルクの慧眼に適っていたのだ。もちろんセイウンスカイにも意見するが、バルファルクとしてはセイウンスカイ以外に勝ってほしい訳で、今まで以上に腰を入れたバルファルクの教官っぷりに当初の興味の無さはなんだったのかとセイウンスカイは人知れず憤慨していた。

 

(気分屋クソドラゴンめ……)

 

 どうせこれが終わればバルファルクが躍起になる事も無い。

 要は勝てばいいのだ。勝てば。

 しかし今年の天皇賞(秋)は錚々たる面子である。エルコンドルパサーを除いた同期である四人、去年より現役を続行するエアグルーヴ・バブルガムフェロー・マチカネフクキタル、そして何といつぞやに秋の盾を逃したメジロマックイーンとそれに呼応するかのようにトウカイテイオーも参戦していた。

 セイウンスカイがデビューするより前の有マ記念で劇的な勝利を納めて以降音沙汰が無かったトウカイテイオーだが、メジロマックイーンの復帰を待っていたらしい。

 

 久方ぶりとなるTM対決、ひしめく古豪、そして今を煌めく"黄金世代"。見所しかないレースに会場は満員、レース場の外にも人が溢れる人気を誇った。

 

 

 

 

《人気ウマ娘を紹介しましょう》

《三番人気、メジロマックイーン。長い沈黙を打ち破り、久しぶりの参戦となります。トウカイテイオーのような復活劇はなるか》

《以前に挑んだ際は18着という悔しい結果に終わっています。何としても、ここで雪辱を晴らしたいですね》

 

「メジロの名に、自分自身に、そして何よりもトウカイテイオー、貴方に恥じない走りを御覧に入れましょう」

 

《二番人気トウカイテイオー。奇跡の復活から雌伏の時を経て秋の府中に戻って参りました。得意とする中距離で二度目の奇跡を果たせるか》

《彼女も以前に挑んだ秋の天皇賞では結果を出せていません。とはいえこの距離で実力が発揮しきれないことはないでしょう》

 

「ふっふーん。悪いけど盾は貰うよマックイーン。奇跡なんて、そう簡単には起きないんだからね!」

 

《一番人気はこのウマ娘!最早説明不要でしょう!世界が見ているぞ、セイウンスカイ!》

《エルコンドルパサーとバルファルクが盛り上げてくれましたねぇ。強豪集う秋の盾、世界が見つめる中いったいどんな走りを見せてくれるんでしょうか》

 

「やってくれやがりましたからね。まぁ勝ちますよ。確実にね」

(セイちゃん、雰囲気真面目なのはいいけど理由がなぁ)

 

 セイウンスカイはいつもの気怠げな顔でもなく、真剣な顔でもなく、ただただ能面ような何かを圧し殺した表情でレースに臨んでいた。外野から見れば珍しい真面目な顔に見えるのだが、内情を知る他の出走者はそのしょうもない理由に笑うのを堪えている。

 とはいえ本気になったセイウンスカイほど恐ろしいものはない。少なくともセイウンスカイとはそういう類いだった。昼行灯を気取りながら、いつの間にか勝利を釣り上げる食わせ者。

 少なくともセイウンスカイの隣にいるスペシャルウィークはそう理解しているつもりだった。

 

 だからこそ、なのだろう。

 

《さぁスタートしました!先頭は……トウカイテイオー!?》

《セイウンスカイは……出遅れではないようです。位置取りからしてこれは……》

《差しです!これまで逃げ先行と前目につけていたセイウンスカイが後方に下がりました!序盤から大波乱です!》

 

「せ、セイちゃん!?」

「スーペちゃん。ちょっと仲良く走ろっか」

 

 セイウンスカイはスペシャルウィークをマークしていた。

 

 

 

 

 

「あ~。セイちゃん、完全にスイッチ入ってマスね。まぁそう仕向けた訳デスけど」

「スイッチ……というのはやる気の話かい?」

「それもありますけど、私達の中じゃちょっと意味が違うんデスよ」

「というと?」

 

 観客席にて。

 週間レジェンドレースの成果を直接目にしたいとシンボリルドルフは会場におり、その隣でエルコンドルパサーもレースの様子を分析していた。

 

「私達六人はよく集まってゲームとかで遊んだりするんです。テレビゲームとかデスね。で、セイちゃんって本気を出せばそういうゲームで一番強いんデスよ」

「でも彼女はそうしない、と」

「遊びデスからね。みんなで楽しむのが目的なのに一人で勝つのにマジになってたら白けるじゃないデスか。スイッチ入るっていうのはそれなんデス。対戦ゲームとかで楽しむのを無視して場を白けさせるような真似。普段そういうことセイちゃんはしないんデスけどうっかり私が怒らせちゃったことがありまして……」

「なるほど、つまり手段を選ばない訳だ」

 

 レースはまだ始まったばかり、各々が位置取りに奔走する中スペシャルウィークは走りづらそうにしていた。無理も無い。これまでマークする側であったスペシャルウィークが逆にマークされるなど無かったからだ。

 レース全体のペースも想定より遅い。おおよそウマ娘のレースにおいては先頭、特に逃げウマ娘がペースを形作る事が多いのだが、有力な逃げウマ娘であったセイウンスカイが後方に下がる事で全員のペースが乱れていた。

 

「テイオーも実力者なんだがね、ここでペースを作れるかはまた別だ」

「マックイーンさんも復帰明けでこれはきついと思いマスよ。セイちゃんが逃げないにしろ、自分達と並ぶ位置くらいまでしか想定してないはずデスから」

「君から見てセイウンスカイの差しはどうだい?」

「Amazingとしか言えませんよ。今までセイちゃんは前目のレースばっかりしてた訳ですけど、ライバル三人が差しなんデス。そりゃ差しについてはよく知っているでしょう」

「私達とのレースでも、差しで走れる者は多くいたからね。糧としてくれたようで何よりだ」

 

 第1、第2コーナーを越えて中盤にさしかかろうかと言うところ。セイウンスカイは依然として内を走るスペシャルウィークを外からマークし続けている。それだけではなく、妨害にならない程度に揺れ動き注視してくる他のウマ娘へ牽制もかけていた。

 ここで一番割りを食っているのは同じ差しであるウマ娘達である。マークされているスペシャルウィークは当然として、キングヘイロー、グラスワンダー、マチカネフクキタルは想定に無い乱入者に位置取りを調整し続けなくてはならなくなった。

 先頭を走っているトウカイテイオーとメジロマックイーンも何をしてくるか分からないセイウンスカイが後ろにいる以上下手な真似は出来ず、結果としてそれがレース全体のペースを遅延させていた。ある意味マシなのはエアグルーヴとバブルガムフェロー、そしてそれに追随するツルマルツヨシだ。この三人は先頭のTM二人と後方集団の間に位置しておりそこまで位置取りに苦労しなくてよかったからだ。

 

 とはいえ、前例の無いセイウンスカイの走りにツルマルツヨシは焦っていた。

 

(せめて私より前にいてよ~。みんなピリピリしてるじゃん)

 

 最も自分のペースが保てているとはいえそれが有効に働くかは分からない。誰も差しで走るセイウンスカイの動きを知らないのだ。動きが鈍くなるのも当然と言えよう。

 

(徹底的なスペシャルウィーク潰しか。少し癪に触るな)

 

 エアグルーヴはセイウンスカイのマークに僅かながら苛ついていた。

 マーク戦法は事前に有力ウマ娘に目を付けそれを徹底的に狙う作戦だ。マークする相手に選ばれなかったという事は詰まるところ()()()()()である。バブルガムフェローも似た思いだったが、むしろマークされなくて良かったと胸を撫で下ろしていた。

 

(目の付けどころを間違えたね。こっちが先に足を進めれば……!?)

 

 ぞくっ、と背筋が凍るような気配にバブルガムフェローは一瞬体勢を崩しかけた。スペシャルウィークをマークしているならと、先に抜け駆けするつもりで動いたのだがそれを縫い止めるような殺気を感じたからである。その殺気と共に、ピッタリと後方に食いついてくるセイウンスカイの姿をバブルガムフェローは幻視した。

 

(別に抜け駆けしたっていいよ。今度はそいつをマークするだけだから)

 

 セイウンスカイは"龍呼びの声"としての能力を惜しみなく使っていた。他のウマ娘の動きを把握するのは勿論なのだが、それとは別に自分自身の気配を過剰なほど放出している。まるでシンボリルドルフがやるように、周囲を威圧しレースの流れをコントロールしようとしているのだ。

 そのセイウンスカイの動きにいち早く気付いたのはやはりキングヘイローだった。セイウンスカイはスペシャルウィークをマークしてはいるが、その気になればいつでも他の相手へ標的を移す事ができる。間もなく大ケヤキを迎えるところ、キングヘイローは分かっていてスパートを早めた。

 

(来るなら来なさい。気後れしてちゃ、レースに勝てないんだから……!)

(へぇ、キングらしいや。諦めの悪さは一流だもんね)

 

 さて第3コーナーに入りそろそろ勝負どころ。キングヘイローはスパートをかけているが、府中のレース場は第4コーナーを越えてもまだ600mある長丁場だ。各々がスパートのかけ時を図っている。

 その中で、セイウンスカイだけが一番早く足を速めた。

 

(はしご外させて貰うよキング。このレースで私の他に一番勝ちそうなのは────)

 

(────ツルちゃんなんだからね)

 

 セイウンスカイの影響を受けなかった三人。

 その内ツルマルツヨシだけが、第4コーナーに入り先頭に踊り出ていた。

 

 

 

 

《さぁゴールまで残り600!先頭はツルマルツヨシ!しかし後続のセイウンスカイが追い上げているぞ!》

《エアグルーヴ、バブルガムフェローが追っていますね。しかしこれは……》

 

「私だって!勝ちに来たんだ!」

「こっちだって、負けてられないんだよ!!!」

 

 トウカイテイオーとメジロマックイーンはスパートが遅れ、ツルマルツヨシとエアグルーヴ、バブルガムフェローに抜かれてしまっていた。それを外から追い詰めるのはセイウンスカイである。

 他の後方ウマ娘も追っていたが、トウカイテイオーとメジロマックイーンが邪魔で内を走れない。外を走るセイウンスカイに辛うじて後ろから食らいついていけたのはキングヘイローだけだった。

 

(やっぱりツルちゃん伸びるな。こりゃ想定より気張らないと)

 

 実のところセイウンスカイが本気でマークしたかったのはツルマルツヨシである。虚弱体質のせいで普段は実力を発揮できない事が多いのだが、それだけに実力が発揮できる程体調が良ければ一番のポテンシャルを秘めているとセイウンスカイはツルマルツヨシを警戒していた。

 スペシャルウィークをマークしたのは単に作戦の一つだ。ダービーウマ娘であるスペシャルウィークはセイウンスカイに次いで注目される事が多い。セイウンスカイはスペシャルウィークに一度負けているためマークしても不自然ではないように振る舞いたかった、というのもある。実際スペシャルウィークも有力ウマ娘でありセイウンスカイからのマークが無ければ十分に勝ちを狙えただろう。

 

 ライバルが多い差しに対して同じ差しで走り牽制し、本命のツルマルツヨシに対しては"龍呼びの声"で遠くからマークする。

 何の狂いも無くセイウンスカイはライバル達を潰して回っていた。これは最早勝負ではなく、セイウンスカイによる一方的な狩りだ。

 普段のセイウンスカイならここまで詰め将棋染みた戦法を取らない。それだけ、セイウンスカイがこのレースに入れ込んでいるという事だった。

 

《ツルマルツヨシとセイウンスカイ、横一線!僅かにセイウンスカイが躱すか!いやツルマルツヨシも差し返す!》

 

「こんな時だけ元気になってほしくなかったなツルちゃん!」

「事情は知ってるけど、負ける理由にはならないよ!!!さっさとバルファルクにスマホ持たせちゃえ!」

「も た せ て たまるかぁぁぁ!!!」

 

 両者、全く譲らずゴールへと迫っていく。

 セイウンスカイにとって想定外だったのは、ツルマルツヨシが秘めていたポテンシャルがずっと高かった事だろう。

 

(まさかここまで粘ってくるなんて────)

 

 セイウンスカイとツルマルツヨシ、互いに見合ったまま二人はゴールを駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また判定待ちか……」

「春の天皇賞もこんな感じだったよね」

「同着になったらスマホの話はどうなるんだろ……」

 

 春と同じく写真判定待ちである。

 全員が走り抜けた後、ターフでは手持ち無沙汰となったセイウンスカイが苛ついてるいる様子を隠す事もなく眉をへの字に曲げていた。

 

「セイちゃん、そんなにイライラしなくても.……」

「分かってるよ。分かってるけどさぁ……」

「ファンの方々が見てるのよ。しゃんとしなさい」

「キングの言う通りだけどさ……あいつ、ずっとニヤニヤしてるんだよ」

「あー……」

 

 上を見上げればバルファルクが変わらず空を飛んでいる。遠く離れているため目視しづらいがセイウンスカイには楽しげなバルファルクの気持ちが感じられていた。

 

『どうだセイウンスカイ。手応えあったか?』

『そりゃ勿論。ギリギリだったけど、私が勝ったに決まってるよ』

『そうかそうか。いやぁ自信があるのは良いことだなぁ』

『なにその自分分かってます風なセリフ。スマホ持たせないって言ってるでしょ』

『俺は上から見ていたからな。最も公正な視点で見えている。ま、結果は掲示板を見れば分かるだろ。────ツルマルツヨシの勝ちが、な』

「『は……?』」

 

 掲示板────一着、ツルマルツヨシ。

 

「え、え!?、ウソ、私!?やったぁ初めてG1勝ったぁ!!!」

「『はぁ?』」

「ちょっとスカイさん!」

「そうだよ、初めてツルちゃんがG1勝ったんだよ!」

「『分かってるけど……分かってるけど……これは無いよぉぉぉ!!!』」

「『はっはっは。俺のスマホデビューも近いな』」

「『こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』」

 

 勝利に酔うツルマルツヨシ。

 その一方でバルファルクのスマホ持ちが確定し、絶望するセイウンスカイであった。

 

 

 

 

 




これ書いてた途中でツルちゃん実装マジで心中タイムリーに踊ってました()
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