今までにないモンハンのストーリー、やばすぎて脳ミソやかれれれれれれ……
それはそれとして水冷ヘビィでグラビいじめるのたのちい(本職太刀)。怯みまくるのがバグなのお芝過ぎる
英訳基本ぐーぐる翻訳なので変なとこあったらすみません
11月下旬。
東京 芝 2400m 天候:曇り バ場:重
(ほんっとーにうざい……)
ジャパンカップ当日。
セイウンスカイは周囲から向けられる敵意、好機、興味などが混ざった視線に辟易している。
そしてその中心にいるのは間違いなくバルファルクが焚き付けたあのモンジューであった。
惜しくも二着に敗れた秋の天皇賞。
しかし依然としてセイウンスカイへの注目は集まったままである。ツルマルツヨシは地力を発揮し順当な実力で勝利したが、順当なだけにツルマルツヨシよりも衝撃的な作戦を披露したセイウンスカイの方が他所へ与えるインパクトが大きかった。
先行はホープフルステークスで披露している。少なくとも三つの脚質を自在に使いこなせるのだ。セイウンスカイがどの位置取りで来ても良いよう各陣営が対策に躍起になっていた。
(追い込みもやれなくはないんだけど今回は無しかな)
タマモクロスが追い込みもやれるためそれを模倣する事はできる。とはいえ今回やるには根拠が不足していた。模倣元が多い上に何度も競り合ってきた差しであれば精度の高い走りが出来る。そのため前回の天皇賞では初見殺しとして採用したが、追い込みでは今まで得たデータが少ないために満足する走りにはならない。
少なくとも、こんな世界の大舞台で使う作戦ではなかった。
『おい、意識が散りすぎだ。わざとやってるのか?』
『わざとだよ。こうでもしないと視線が鬱陶しいったらありゃしない』
『出力には気を付けろよ。出走者が倒れたらコトだ』
『分かってるって』
『スカイも災難やなー。ウチも現役の時は色々あったけども、ここまで人気になったことは無いで』
『人気って……随分な皮肉言ってくれますね』
『そらまぁ、今のスカイが大人げないからや。そないに龍属性出して不戦勝にでもしたいんか?』
『本音で言えばそうですね』
今回バルファルクは大変珍しい事に、というか初めて上空ではなく観客席で観戦していた。いつもは空から観戦するバルファルクだが、共に観戦するウマ娘達に一緒に見たいと懇願されたのだ。セイウンスカイ以外のウマ娘には甘い節のある(本人はセイウンスカイに一番甘いつもりでいる)バルファルクはその頼みを無下に出来ず、こうしてタマモクロスらと並び立っている。
そんなバルファルクの様子を発走前のセイウンスカイはジト目で見ていた。ただし、龍属性による周囲への威圧をしながら、である。
ウマ娘は人間より気配に聡い分、第六感に優れていてこうしたセイウンスカイの威圧に弱い者もいる。しかし、ジャパンカップに集った世界の傑物達はそれを受けてなお戦意を滾らせる猛者ばかりであった。
世界のウマ娘だけではない。マイルCSに出走するため都合が付けられなかったキングヘイローや有マ記念に向けて力を蓄えているエルコンドルパサーを除き、当たり前のように同期の仲間達も参戦している。セイウンスカイが龍属性を以て周囲に当たり散らしている様子も、いつもの事かと嘆息する剛毅さを備えていた。
「ねぇセイちゃん。せめてレース前はそういうのやめよう?気持ちは分かるけど、多分観客の人達も敏感な人は分かっちゃうよ」
「『スペちゃん。理屈は分かるんだけど納得いかないんだ。あの
「だからって他の人に当たって良い言い訳にはなりませんよ、セイちゃん。ほら、みんな貴方を見てるじゃないですか。注目、集めたくなかったんでしょう?」
「『そりゃそうだけどもさぁ……』」
「HEY!
白い歯をキラリと見せ豪快に笑う一人のウマ娘。
赤と青の、とても
「『え、えーっと……あい、きゃん、なっとすぴーく、いんぐりっしゅ……』」
「
「……はぁ。気にしなくていいと。私が通訳できますから、話させてほしいみたいです」
「そういえばグラスちゃんはアメリカからの帰国子女だったね。めちゃくちゃ日本人っぽいけど」
米国のウマ娘は以前からセイウンスカイに興味があり今日を心待ちにしていたそうだ。ジャパンカップ出走も、セイウンスカイが出走するか否かで参加の是非を決めていたらしい。世界から向けられる自分への興味を、これでもかと体感するセイウンスカイであった。
「
「どうやってドラゴンと会話しているのかと。テレパシーなんじゃないかって」
「『う~ん、それは答えづらいなぁ。テレパシーっぽいこともできるし普通に話したりすることあるし。なんていうか、腕や足を動かすのと同じ感覚でどうして出来るか理屈が考えられないんだよね』」
「
「Hmm……
「あら、とても面白そうな話をしているのですね」
「Ah……?」
もう一人、歓談中のセイウンスカイに話しかけるウマ娘。
豪奢な
「『日本語、お上手なんですね』」
「ええ。だって
「『お姉様……?』」
「ふふふ。ようやく会えたわセイウンスカイ。本当なら英語でいくらでも罵ってやりたいところだけど通じないのなら意味無いものね?本当、今日この時のためだけに苦労したんだから」
「『え、待ってなんのこと?誰かと勘違いしてない?』」
「勘違い?いいえ、貴方で間違いないわ。セイウンスカイ、私から
「『何の話!?』」
「Ahhh……
セイウンスカイ、グラスワンダー、米国のウマ娘は英国のウマ娘が放つただならぬ気配に三者三様、狼狽えたり面倒臭そうに、そして大人っぽくスルーしていた。
「『シャーロットお姉様って……シャーロットって確か一人っ子でしょ。妹がいたなんて話……』」
「馴れ馴れしくお姉様の名を呼ばないでくれるかしら。スクールにいた頃、あの人は孤高の花だったのよ。動物狂いの酔狂と言われる御家で親を早くに亡くしやっかみを受けながらもお姉様は毅然と振る舞ったわ。遺産狙おうとたかるウジ虫共を振り払うその姿は高貴さの象徴だったのよ。それがこんな極東に……」
「『ええと、君はシャーロットの何なの?今のところ熱心なファンにしか見えないんだけど』」
「ええ!熱心なファンよ!それがなにか!?」
「『面倒臭いやつだこれ……』」
「日本に傾倒するようになってからお姉様はスクールを休学することが増えましたわ。あの人のお顔が見れないだけでも苦しいというのに、帰ってくれば事あるごとに貴方の話ばかりして……!」
「ただの逆恨みですねぇ、セイちゃん」
「『知ったこっちゃないよ……』」
「バルファルクだかなんだかどうでもいいですが、貴方達が何かある度にあの人は極東を向いて憂うの。その横顔が美しい反面、原因がいわれも知らぬウマ娘というのは我慢ならないわ。ここで貴方に勝って、あの人の目覚まさせてやるんだから!」
「『あ、そーですか。そりゃ頑張ってくださいねー』」
棒読みで適当に流すセイウンスカイ。
ズカズカと、言いたい事だけ言って英国のウマ娘は去っていった。
「バルファルクもそうだけど、セイちゃんって変な人に好かれる才能でもあるのかな」
「『ツルちゃん、それは悪口?』」
「悪口というか……事実というか……」
「『スペちゃんも何気にひどいからね?』」
「セイちゃんがそうなのは今さらでしょう。ほら、またお客さんが来てますよ」
「『もー。今度はだ……れ……』」
「やぁ、セイウンスカイ。君と競い合えるこの日を心待ちにしていたよ」
堂々たる覇者の気骨。
セイウンスカイの龍属性を押し退けるように、神々しいまでの覇気を纏うモンジューがそこにいた。
「『あー……うちのバルファルクがご迷惑おかけしたようで』」
「その点については気にしなくていい。あの程度、
「『あっそうですか。出走前なんで長話はご遠慮頂けると』」
「そう邪険にしないでくれ。君がバルファルクのせいで色々と苦労を重ねているのは知っている。本当は無用な視線など御免願いたいのだろう?」
「『本当にそうなんですよ!あいつったらいつも私のこと巻き込んでばかり……!』」
「とはいえ今となっては仕方のないことだ。元より君の実力に疑いは無い。仮にバルファルクがいなかったとしても、注目が集まるのが遅いか早いかの違いでしかなかっただろうな」
「『そりゃどーも。別に私のことなんて忘れてくれていいんですねどねぇ』」
「それは無理な相談だ。そういう油断こそ君が好む隙だろう?」
不敵に笑うモンジュー。
その笑みは、これまで見たどのウマ娘よりも苛烈である。
「セイウンスカイ。君からしたら迷惑な話なのだろうが、宣言しておこう。私は、いや、
「『……はぁー。そういうことは前回私に勝ったツルちゃんに言ってほしいですね。別に私より強いウマ娘なんて日本にいくらでもいますよ?』」
「だが君が代表だ。よろしく頼むよ、日本総大将」
衣装を翻してゲートに向かうモンジューの姿はどこまでも王者の気風である。これに、エルコンドルパサーはセイウンスカイを真似して勝ったというのだから始末におえない。モンジューだけではなく、米国も英国のウマ娘もそれぞれ癖はあるとはいえどちらも国を代表できる実力を持つ事に疑いは無かった。
セイウンスカイ達もゲートに向かう。
(全く。みんな人の気も知らないで、勝手なこと言ってばかり)
ゲートの中で心に愚痴を溢すセイウンスカイ。
今回集まったウマ娘達はどれもが一癖も二癖もある猛者ばかりだ。それぞれが我の強い王道の走りを相手に押し付ける傾向があり、下手な小細工を仕掛けたところで逆に捻り潰されてしまうだろう。
(そういうのが一番困るんだよ。なるたけ楽して勝ちたいってのにさぁ)
セイウンスカイは稀代のトリックスターである。であるからして、セイウンスカイが取りうるあらゆる作戦は研究され尽くしていた。
逃げ、先行、差し。三つの脚質を使いこなせるのは確かに脅威だが、どこまでいっても身は一つだ。一戦で全て使える訳ではない。如何なる作戦であろうとも、策を引っかけるつもりならそれごと巻き込んで潰せるよう、海外のウマ娘は誰もがセイウンスカイのこれまでのデータを頭に叩き込んでいた。
しかしここにあってセイウンスカイへの理解力が高かったのはやはり同期達と言える。
スペシャルウィーク達同期はセイウンスカイの好みを理解していた。セイウンスカイは勝てる戦法が好みでありそれを選り好みするつもりは無いのだと。そしてセイウンスカイが最も好む戦法とは即ち────。
「一回限りだ。もってくれよ、私の足」
────対策のしようが無い、初見殺しだ。
「Amazing!ちょっとセイちゃんの足が心配デスが、あの様子なら大丈夫そうです!」
「スカイさんも無茶するわね……」
初っぱなから観客席は大歓声に轟いていた。
《大逃げだ!セイウンスカイの大逃げだ!これまで通りの逃げと思われたセイウンスカイが後続をぐんぐんと引き離して行きます!》
《かかっている様子ではありませんね。世界を相手に逃げ切るつもりのようです。彼女の足は果たして持つでしょうか》
セイウンスカイの逃げ。
これ自体はおかしくはない。複数の脚質を使いこなせるとはいえ本領は逃げだろう。その認識に間違いは無かった。
間違いがあったとすれば、日本には完成された最強の逃げウマ娘がいた事だと言える。短距離の速度で中距離を走れるなど対策のしようが無いからだ。
セイウンスカイはサイレンススズカの大逃げを完全に模倣して走っていた。
「『おい、トレーナー。話には聞いていたが、予想以上の走りだ。セイウンスカイはもつのか?』」
「一回限りの大博打だよ。セイウンスカイの体調を鑑みて、一回なら走れると踏んだんだ。正直気乗りしなかったけど、世界を相手に走るならこれくらいしなきゃね」
「心配しなくても、セイウンスカイのタフさはあたしが保証するよ。ああ見えて心も体も図太いのがあの娘の持ち味さね」
「もし怪我をしても私とネオユニヴァースが手掛けた装飾品や護石があるからね。後に響くことにはならないさ」
「……凄い逃げ……いつもの逃げだと勘違いした他のウマ娘が動揺しているわ。あれに追い付くのは難しいでしょうね」
「"イレギュラー"。それでも……追い付こうとしてる者はいる……」
セイウンスカイが一等図抜けて前に出ている。
海外のウマ娘は沸き立っていた。あの逃げへの対抗策などただ完璧に差し切る以外にありはしない。想定したあらゆる対策が無に帰したがその程度で諦めるなら国を背負っていないのだ。
(なんと暴力的な走り……!
セイウンスカイを注目するに当たって一つ見落とされがちな点がある。フィジカルの強さだ。
セイウンスカイはよく突飛な作戦でライバルを相手取る事が多いためそればかりに目が行きやすいのだが、突飛である事はそれだけ普通に走るより難しい事が多い。加えて脚質の使い分けはそれだけ足に負担がかかる。しかしセイウンスカイはこれまで一度も故障無く走りきれていた。
英国のウマ娘は中団やや後方、スペシャルウィークらと共に差しの位置にいる。一瞬セイウンスカイの大逃げに慌てさせられたが冷静にセイウンスカイを見るスペシャルウィークに英国のウマ娘も方針を転換した。
(スペシャルウィーク、彼女はセイウンスカイに勝っている。2400m、同じこの東京レース場で。なら……スペシャルウィークをマークするのが正解でしょうね)
「Hey!
「私英語分かんないけどぉ!?」
集団最前列────ツルマルツヨシと米国のウマ娘は集団を牽引するペースを意図せず作りながら共に並んで走っていた。
(セイちゃん、いくらなんでもこれは予想外過ぎるよ!)
ツルマルツヨシとしてはセイウンスカイが逃げる事に大きく予想を外れなかった。想定としては今までの逃げのように集団の一つか二つ先を取り、セイウンスカイがレースの流れをコントロールするものと考えていたのだ。しかし予想は覆りツルマルツヨシと米国のウマ娘がレースの流れを作り出していた。
(
楽しげな口調とは裏腹に米国のウマ娘は冷静に状況を観察する。
信じられない大逃げを行うセイウンスカイだが差せるかどうかで言えば差せる、といった塩梅だった。だが同じ事を考えるウマ娘は他にもいるだろう。他のウマ娘とスパートのタイミングが重なれば位置取り次第でバ群に沈みかねない。だからといって牽制を続ければセイウンスカイにセーフティリードを渡す事となる。
(Hm……
単純な采配ながらもこの状況を生み出したセイウンスカイには脱帽している。
しかしそれでこそ、勝負の醍醐味があるのだと米国のウマ娘はその口角を吊り上げていた。
(まともな走りではない……か)
モンジューは集団の中ほどで、じっくりと戦況を読み取っていた。
セイウンスカイに想定していた全ての策を潰された形になるが、最悪とは程遠い。要は差し切ればいいだけの話なのだ。
(セイウンスカイのスタミナが切れてしまえばいいのだが、まずもってそんなことは有り得ないだろう)
大逃げは当たり前だが本来走るより過剰に体力を使う。セイウンスカイのスタミナ切れも十分に考えられるのだが、世界を相手にするここ大一番でそんな凡ミスは冒さないだろう。セイウンスカイは自信を持って走っているのだ。そんな楽観論は考えるだけ無駄だった。
(さて、あとは位置取り次第か……)
モンジューも米国のウマ娘と同様の結論に達する。
そして同じ結論に達した自分を恥じていた。
(そんな汎用な走りで追い付けるはずがない!)
レースは第二コーナーを回って中盤に差し掛かっている。そのコーナーからわざと膨らむように横長にウマ娘達はバラけていた。ツルマルツヨシと米国のウマ娘が集団の前にいるので皆それの外から差せるよう位置取りを調整しているのだ。
(あれこそセイウンスカイの思う壺ではないか)
外差しは比較的位置取りしやすいが、それは多くのウマ娘が外を回る分発生するロスを嫌うからだ。外差しを狙うウマ娘が多ければ内を走るのと何も変わらない。あれでは各々のスパートで競り合いになりセイウンスカイに届くどころではないだろう。
(そうすると、やはり前か)
モンジューが目を付けたのはツルマルツヨシと米国のウマ娘である。結果として外差しが混戦するなら、普通に前で内ラチ沿いを走った方が良い。
「Aha!
「なんで私の方に来るの!?こっちに来ないでよ~!」
(この二人は楽しそうだな。マークする分には安定している方が好ましい。ツヨシ君、恨むならその位置にいた自分の采配を恨んでくれ)
ツルマルツヨシの後方、モンジュー。外、米国のウマ娘。
ツルマルツヨシは全く意図せず海外の強者二人に追いたてられる事となった。
《さぁレースもいよいよ大詰め!間もなくセイウンスカイだけが!セイウンスカイだけが大けやきを超えて第三コーナーから第四コーナーへとかかって行きます!後方のウマ娘達は追い付けるでしょうか!》
《集団の位置取りが難しそうですね。展開次第でどうなるか、勝負はまだ分かりませんよ》
(きっつ……!なんでスズカさんはこれで走れるの?)
セイウンスカイは自身が行う爆走に作戦どころではなかった。
ある意味何も考えなくていい作戦なのだが、相応に疲弊している。とはいえ2400mを走りきれるだけの体には仕上げてジャパンカップに臨んでいるのだ。
ジャパンカップが始まるまで、ほぼ毎日サイレンススズカの日課に付き合うという地獄のような特訓をこなした成果であった。
セイウンスカイが第四コーナーに差しかかるが後方のウマ娘達もスパートを始めている。コーナーでの加速はスリップや転倒の危険を孕むが今さらその程度で足を止める彼女達ではない。鍛えあげられた脚はしっかりとターフに蹄鉄の跡を刻んでいた。
(さぁ誰が来る……?本命はスペちゃんだけど……!)
龍呼びの声による感知は今回行っていない。単純にそれをするだけの余裕が無いからだ。ただひたすら先頭を走り続けていれば感知する意味も無いと踏んでいた。
間もなく第四コーナーを超えて最後の直線へ。
依然としてセイウンスカイが先頭だが後方の足音は大きくなっている。龍呼びの声か振り返って確認したい衝動に駆られるが、そんな事する暇があるなら少しでも前へ足を進めるべきだとセイウンスカイは自身を叱咤する。ここに集うライバル達は余所見をさせてくれるような相手ではないのだ。
(前へ!前へ!もっと前へ!)
府中のレース場は最終コーナーからゴールまで600mと長い。310mの中山レース場よりも、後方のウマ娘が差す余地があった。
(来てる!誰か分からないけど、もうすぐそこまで来てる!)
真後ろに蹄鉄が響いている。いや、やや外か。
ある意味では初めての経験だった。すぐそこに誰が走っているか、分からない。いつもなら龍呼びの声ですぐ分かるというのに、今はそれをするだけの余裕が無い。
こんな孤独な光景をサイレンススズカは楽しいと言って走るのだ。セイウンスカイには信じられなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!」
多分、横を見れば、誰かいる。
けど、それを見る余裕は無く。
「……!………………!!!」
遠くで誰かが喋っている、ように聞こえる。
けれど聞こえていなかった。正確には走るのに夢中で我を忘れていると言うべきか。
スペシャルウィークが吠えているようにも、モンジューが轟いているようにも聞こえる。
だがそれを理解するのも無駄だとセイウンスカイは振り切って。
あらんかぎりに吠えたセイウンスカイは、脇目も振らずゴールを駆け抜けていった。
「はぁ……はぁ……セイちゃん……」
「スペちゃん……」
セイウンスカイは芝生の上で仰向けに倒れていた。
「はぁ……はぁ……悔しかったんだ……あの時、ちゃんと走ってれば私は三冠獲ってたんだぞって……ゲホッ、悔しくて悔しくて……でも、色々あり過ぎたからずっと言えなかった……!」
「セイちゃん……」
「世界とか……どうでも良かったんだ……ただ、それだけだった」
「そうだね。これで、お互い一勝一敗だもの。イーブンってことでしょ?」
一着 セイウンスカイ 2:20:9
世界レコードでの勝利だった。
「Congratulation!
「全く……貴女と来たら……せめて勝者らしく振る舞ってくれませんこと?」
「わざわざ肩貸さなくたっていいのに……」
ターフに倒れていたセイウンスカイは掲示板が確定した後、両手いっぱいに勝鬨を挙げた。そうして挙げられた両腕を、米国のウマ娘と英国のウマ娘が揃って抱き上げ肩を貸したのである。
セイウンスカイは知らなかったがレースの終盤は大混戦だった。先行のツルマルツヨシ、モンジュー、米国のウマ娘が揃って詰めより外からはスペシャルウィークとそれをマークするグラスワンダー、英国のウマ娘が上がって来ていたのである。
スペシャルウィークを始めとする二着以下が揃って団子となり全く差が無い着順となった。
ウマ娘のレース史上屈指の名勝負と名高い試合となったのである。
惜しくもセイウンスカイに届きかけたのはスペシャルウィークだった。ダービーとは異なる状況であれども、出走するウマ娘の中でスパートのかけ時を最も間違わなかったからである。後方から追い上げるスペシャルウィークに圧されるか引っ張られるかして、最終的に団子を形作ったのだ。
そんな神試合を作り出した張本人は米国と英国のウマ娘にまるで捕獲された宇宙人のような格好で引きずられていた。あれだけの爆走をしたので当然全身全霊使い果たしている。本当はスペシャルウィークが担ごうとしていたのだが、ノリが良い米国のウマ娘と勝者らしい振る舞いをしないセイウンスカイにキレた英国のウマ娘がその腕を取っていた。
「ちょっと!疲れているからって体重かけないでくださる!?」
「いやぁ、セイちゃん疲れちゃいましてね~。せっかくだしこのまま運んで頂けると助かるなぁ」
「疲れてるのはこっちも同じですが!?」
「
「貴方だって負けた癖に何を煽ってらっしゃるの!?」
「いや、そこは英語で話してあげなよ」
「してやられたよ。スペシャルウィークがああも競り上がってくるとはね。結果的に外のバ群全てが上がった訳だ」
「ふふふっ、スペちゃんはそういうところがありますから。キングちゃんがいればまた変わってたかもしれません」
「よしてくれ。全距離対応の末脚、言い換えるならどこからでも使える足じゃないか。あの不屈の精神は相手にするだけ参るよ。……ところでツヨシ君は大丈夫なのか?」
「ああ、ツルちゃんですか?あれは……」
「す、スペちゃん助けて……あたしも、アブダクションされたい……」
「ええっ!?アブダクションって何!?またツルちゃん体調崩したの!?」
「またというかいつもというか……ここ最近の絶好調のツケが……げふっ」
「死なないでツルちゃーん!?」
「あんなこと言ってますけどいつものことなので」
「あれで前の天皇賞を勝ったのか……ある意味タフなのか?いや、タフならそもそも体調を崩さない……?」
「そこが、ツルちゃんの持ち味なので」
「ちょっ……待っ……運んでとは言ったけど肩車なんて聞いてなっ……!?」
「Hey Hey!
「ごめんなさい、私クイーンズしか話せないのよ。
「そんなブリカス今いらないよ!」
「ブリカス……BRICSの日本語読みかしら。面白い言い方をするのね。あれは似ているようで、
「嫌味なのか素なのか分かんないボケはやめてね!?」
セイウンスカイは米国のウマ娘に大層気に入られたらしく、勝手に肩車されてはやいのやいのと担がれている。米国のウマ娘がパフォーマンスする度に観客が沸くのでいつまでも喧騒は収まらず。
「『全く。ライブができなきゃレースは終われんだろう。ほら、さっさと支度してこい』」
「『ここ最近で久しぶりに君に感謝出来たよ……』」
見るにみかねたバルファルクがセイウンスカイを咥えて助けるまで、玩具にされ続けていたセイウンスカイであった。
ネタバレになるんで何がとは言わないけど拙作のセイちゃんも吸収されそうなんですよね