セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃よりご愛読頂きまして誠にありがとうございます。

ワイルズ楽しい。基本太刀たまにライトヘビィなのですが太刀には相殺も鍔迫り合いも無いのでそろそろ他武器に浮気したいところ。手頃そうなのは火力が凄い大剣か……?



今回ですが他の投稿作品との連載についてのアンケートがあります。よろしければ、ご回答頂けると幸いです。


BBQ

 

 

 

 

 

 

「YES!皆さんどんどん食べちゃって下サーイ!」

This is wagyu beef(これが和牛か……)……It was worth the excitement(楽しみにしてた甲斐があったぜ)

『おい待て、そのように粗雑に焼くな。その肉はこう……少し育ててだな……』

「『なぁ、こいつぶん殴っていいか?』」

「『気持ちは分かるけど抑えてよ……』」

 

 ジャパンカップより日を跨いで休日。

 大豊食祭プロジェクトチームが管轄する畑近くにて香ばしい香りが漂う。

 何の因果か、セイウンスカイはジャパンカップを共に走った面々と祝勝会という名のBBQに舌鼓を打っていた。

 

 

 

 

 

 ジャパンカップでの勝利は、このところ勝ちきれないセイウンスカイの評価を押し上げる結果となった。

 バルファルクが欧州を煽った大言壮語を実力で以て証明したのだ。バルファルクの批評に反感を持っていた者も、これには閉口せざるを得ない。セイウンスカイだけでなく、それに迫ったスペシャルウィークらも高い評価を得ておりセイウンスカイと同期である仲間達全体が世界に名を知られるようになった。

 "黄金世代(Golden generation)"という勇名は、名実共に世界レベルに至ったのである。

 

 セイウンスカイはようやく外れた重責に肩の荷が降りていた。

 実際のところ、注目は集まり続けているのだがバルファルクがやらかしたツケは自分が拭わなくてはならないという根拠も無い責任感に襲われていたので解消したつもりになっていたのだ。少なくとももうモンジューなどという世界レベルを相手にしなくていいんだとセイウンスカイは気を抜いていた。

 ────"黄金世代"そのものが、世界レベルにあるという評価をすっぽり抜け落ちているセイウンスカイであった。

 

 さて、BBQに至った経緯だがこれは米国のウマ娘発案である。元々米国のウマ娘はレースの結果に関わらずレース後は日本を観光する予定だったらしい。勝つつもりで挑んだジャパンカップであったが、勝者を称えるスポーツマンシップも勿論持ち合わせている。ただそれ以前にドラゴンと話せるセイウンスカイと興味本位で仲良くしてみたかったのだ。そして米国人らしく、友人と仲良くできる催し物と言えばBBQと相場が決まっている。

 始めは都内の適当なBBQ会場を借りようとしていたが、全員が全員有名人ばかりだ。開放的なBBQ会場では誰が近付いてくるか分からない。焼き肉店で大部屋を借りる案もあったが米国人曰く、外で焼いてこそBBQらしい。あれでもない、これでもないと米国のウマ娘がグラスワンダーと頭を捻った末に、話をどこからか聞き付けたトレセン学園がどうせなら内でと気を利かせて快諾したのだった。

 

 

 

 

 

「Wow!イナガミさんは、焼き方にこだわりがあるんデスね!」

『もちろんだとも。焦がすのは論外として、焼きすぎず、さりとて生でも無い絶妙の塩梅……どうやら人間は、多少焼き加減が曖昧でも食べるようだが、我の微細な舌は違うぞ』

「『何を言ってるんだ貴様。俺達は基本生だろうが』」

「『ツッコまなくていいと思うよ。もうだいぶ文明に被れてるから……』」

「『すまんなぁ。作物育てるついでに美味いもん作りまくったらグルメにさせてもうた……』」

『タマモクロスが作る料理は絶品ばかりだ……ニシノフラワー、カツラギエースの料理も素材の味付けを活かした素朴な料理で舌に優しい。ヒシアケボノのちゃんこ鍋は鉄板だな。豪快に量を味わいたいならあれに決まっている』

「『ねぇ、イナガミのお腹弛んでない?大丈夫?』」

「『……太り過ぎで死ぬ龍がいるとすれば、それはこいつの事なんだろうよ』」

 

 大豊食祭プロジェクトチームの畑近くであれば木々や校舎に囲まれているため余人の目を気にしなくていい。何より肉と共に新鮮な野菜も手に入るのだ。BBQ会場にはうってつけである。

 そしてBBQと聞いて黙ってられないのが米国人の(さが)だ。話を聞き付けたタイキシャトルがイナガミの資金をアテに勝手に肉の手配を行った。全国津々浦々、日本の和牛を知って貰いたいとブランド牛ばかりである。しかし話を聞いたイナガミはむしろそれを奨励し、美味い肉なら金を惜しまないとBBQの件も承諾した。結果として、ジャパンカップに一番関係無いのに肉にはうるさいイナガミが爆誕したのである。

 

「スペも凄かったぞ。あれだけ囲まれてたらプレッシャーヤバかっただろうに」

「いやぁ……あの時は無我夢中だったので……それに勝ててないですし……」

「『なら、勝つためにもいっぱい食わへんとなぁ。いっぱい食べて、いっぱいトレーニングや』」

『赤身肉をオススメするぞ。こいつは贅肉にならない良い肉だからな。まぁ他の肉をちょっとばかし我が貰って……尻尾を引っ張るなバルファルク!』

「『祝勝会だと言っただろうが、このアホめ。貴様は会場を提供したつもりなんだろうが、そもそもここはトレセン学園の物だぞ。貴様が偉そうにする根拠は無い。主役はウマ娘達だ』」

『むぅ。貴様も良い肉を食っているだろうに』

「『俺達は端役だ。おこぼれに預かる程度で良いんだ』」

 

 調子に乗るイナガミを苛立ち紛れに諭すバルファルク。

 イナガミと大豊食祭プロジェクトチームによる農場経営はますます潤っていた。今や種子から自活できるようになり、黒字収支のため問題となっていた水道費も解消できるようになっていたのだ。そのため農場を広げるのではなく規模を抑えたまま必要な時に徹底して作物を成長させる方向へと舵を切っている。このおかげで限りある敷地を圧迫させずに農場を有効活用出来ているのだ。

 稼いだ資金のおかげでイナガミが調子に乗るのも無理は無かった。

 

「BBQなんてと思っていましたが、間近で会話できるドラゴンと話せる機会を得たのは役得ですわね」

「会話できるっていうか、僕は逆に人の言葉しか話せないんだよね。龍の言葉が分からないんだ」

「言語があるのは確定的なのね。イナガミ、というドラゴンも何かを話している様子ではありますし……鳴き声に規則性は無いのかしら?」

「私達もその方面で一度探ったが、芳しい成果は無かったよ。どうも鳴き声は雰囲気で発しているだけで話す分にはテレパシーで十分らしい」

「彼らの音声を何かしらの形で科学的に記録出来なければ研究は進まないでしょう。こうして対面してみると、より不思議な存在であることを実感しますわ」

「この子が龍の言葉を話せないのが気掛かりなのよ。直感なんだけど、何か、大変なことを見落としているような気がして……」

「お母さんの言う通りだよ。僕も、なんかカチリとハマらない感じがして収まりが悪いというか……言葉にしづらいけど違和感は感じてるんだ。一体なんなんだろうね……」

 

 英国のウマ娘はアグネスタキオンから古龍に関する詳しい説明を受けていた。やはり気になるのは異種の生物同士でありながら成立するコミニュケーションだ。

 英国はお国柄か、古龍の存在にも肯定的な立場でいる。というか、シャーロットが積極的に関わっている事もあって日本以外では最もドラゴンと人間の共同参画社会の成立を推していた。

 ちなみネオユニヴァースがやらかした赤龍の遺骸利用については()()()は許すという方針でアイルランドと共に固まっている。世間にバレれば炎上どころで済まない騒ぎになるし、内々に済ませるにも対応する法律が存在しない。強いて言えば不法入国と不法侵入でしょっぴけるだろうが証拠はネオユニヴァースの証言だけだ。

 感情は別として、こういうところが英国の強みであった。何枚舌と呼ばれようとも政治的や外交を行うのに必要な筋道を違えない。英国が日和っていれば世界は平和であるし、真面目ならそれだけ不味いという案件なのだ。そして英国はドラゴンの権利という課題に真面目な態度で臨んでいた。

 

「全く。故国(フランス)はいつまで居眠りしているのやら。これでは醜態は見せたと言われても反論できないじゃないか。なぁ、キングヘイロー?」

「そこで私に振られても困るわよ……」

「遅くなったが、マイルCS制覇おめでとう。君とは一度話してみたかったんだ。セイウンスカイとスペシャルウィーク、クラシックで彼女達とぶつかり続けるのは並大抵の気力じゃないだろう。しかも有マと宝塚じゃ勝ってみせたそうじゃないか。是非とも話を聞かせてほしいよ」

「そんな大それた話じゃないわ。ただ……諦めなかっただけよ」

「キングちゃんの悪いところって言ったら、諦めの悪さだもんねー」

「ツヨシ君、君だって諦めずに食らいついて秋の天皇賞を制したじゃないか。正面からセイウンスカイの初見殺しを破ったのは君が初めてだぞ」

 

 モンジューも当然このBBQに参加している。同じ"黄金世代"という事でジャパンカップに出走していないのにも関わらず呼ばれたキングヘイローと不思議な縁を感じていた。

 

「モンジューさん、フランスに帰らないんですか?」

「ああ。今帰ったところで色々とうるさいだけだからな。しばらくは日本にいるつもりだ」

「しばらくはって……どれくらい?」

「そうだな……早ければ1()2()()()()かな」

「え、そんなに?クリスマスとかあっちで過ごさなくていいんですか?ヨーロッパの方は日本人よりクリスマスを大事にするって聞きますけど……」

「なるほど……そういうことね?」

「ほう、流石キングヘイローだな。気付くか」

「私も同じ立場ならやるわ。だってその方が、より高みへと近付けるんだもの」

「どういうこと?キングちゃん分かったの?」

「それは……本人の口から言ってもらった方がいいわね」

 

 モンジューが二人から離れ、適当な広場へと赴く。

 臨時に作られた会場のため分かりやすい舞台は無かったが、モンジューが発する気配に会場の全てのウマ娘が気付いていた。

 

「済まない、諸君。この場を借りて宣言させてほしいことがある」

 

 談笑にざわめいていた会場が静かになる。重ねた敗北、けれどもそれこそがモンジューに覇気を滾らせる理由となる。

 

「────二度。二度だ」

 

「諸君。私は、決して負けられないこれまでのレースにて、二度の敗北を喫している」

 

「一度目は凱旋門。我が故郷にして、揺るぎ無き世界の頂きである」

 

「不遜なことにこれをフロック(まぐれ)だとほざく輩もいた。だが言えるのは、バルファルクの言葉が全てであるということだけだ」

 

 チラリとモンジューがバルファルクを見る。視線を投げられたバルファルクに注目が集まるが、我関せずとばかりに焼く前の生肉を食べていた。無視しているようにも見えるが目は弧を描いている。これは、堪らなく面白がっている様子であるという事だ。

 

「二度目はジャパンカップ。言われずとも、諸君らの記憶には新しいだろう」

 

「一度目は二着という面子があった。しかし二度目は?そうだ、私は掲示板にすら入っていない」

 

「自惚れ無しに言おう。()()()が掲示板に入っていないのだ。これがどれ程のことか分かるか、セイウンスカイ」

「えぇー?そこで私に振ります?」

 

 もっきゅもっきゅと、焼けた肉を食べているセイウンスカイ。その姿はどこまでも平静である。

 米国のウマ娘が獰猛に口を吊り上げ、英国のウマ娘は静かな決意を秘めている。モンジューが発する気配に当てられここにいるほとんどのウマ娘が、いざ走りださんと疼く足を抑えているだろうに、セイウンスカイはそよ風にでも当たっているかのようなぼんくらさを見せていた。

 

「そう、それだ。君はどこまでも普通で────それが、私にとっては不快でしかなかった」

「……貴方もそんなこと言うんですねぇ」

「有名になってしまえば自ずと人格者としての振る舞いが求められる。それでもね、所詮は人間だ。腹の内じゃこんなものさ」

「……はぁ」

 

 セイウンスカイは嘆息する。

 まだ()()()()()()()を受けなければならない事に、ただただ面倒を感じていた。

 そう、挑戦だ。今やセイウンスカイら"黄金世代"は挑戦をする側ではなく挑戦を受けて立つ立場にいる。

 セイウンスカイはジャパンカップ発走前、モンジューが溢していた「勝ちに来た」という意味の理解を全く間違わなかった。

 

「それで?色々大変なモンジューさんはどうするんです?」

 

 あくまで冷静なセイウンスカイがモンジューに問う。こんな祝いの場で龍気など出さない。それでもモンジューは生唾を飲み込み言葉に詰まっていた。

 (いにしえ)の叙事詩には英雄が悪竜を討つ話がある。竜の巣穴にはこれまで悪竜が蓄えた金銀財宝があり、竜殺しを成せば富と栄光が手に入るのだと。

 モンジューはそんな昔話を思い出していた。────なるほど、竜の巣穴とはこういうものなのだ。相手は己の縄張りにいるから平静で、そこに訳知らず入る不届き者がいればどうなるか。今のように気分一つで見逃される事もあれば、虫でも払うような仕草で潰す事もあるだろう。

 それでも、と。モンジューは掲げた決意を裏切なかった。

 

「私は────日本URAに転籍する」

「なんですって!?」

 

 驚きの声を挙げる英国のウマ娘に対して米国のウマ娘は笑ったままだ。タイキシャトルやグラスワンダーからの通訳混じりに聞いているが、その意味はしっかりと伝わっていた。

 

「驚くことはない。これまで、ヨーロッパレース界における頂点とは即ち世界の頂点であると同義だった。だが、今は違う」

「日本のレースで勝って、最強を証明すると?」

「ああ。そして日本の冠を手に、最後はロンシャンへと凱旋する────もちろん、文字通りのパレード(凱旋)ではなく締めくくりはレースでな。どうだセイウンスカイ。共に競り合い、最後はフランスで雌雄を決しないか?」

「あー……つまり、モンジューさんは日本のレースで実績を立てて、最後に私と凱旋門賞で走りたいってことですか」

 

 セイウンスカイは天を仰ぐ。

 今にも射殺さんばかりにセイウンスカイを見るモンジューの視線だが、やはりセイウンスカイは変わらなかった。モンジューの眼光も、セイウンスカイにとってはその程度でしかない。

 モンジューには分かっていた。セイウンスカイは全くレースと関係しない形で修羅場を経験している。端的に踏んだ場数が違うのだ。如何に身命賭けようとも、レースのそれと、古龍達と交わした命のやり取りが等価であるはずがない。逆に言えばそれが古龍大戦後のセイウンスカイの不調に一役買っていたのだが、モンジューはそれが羨ましくて仕方なかった。

 

「私は、英雄になりたいんだ。君というモンスターに勝って、【英雄の証】を打ち立てたい」

「……いやぁ、そのぉ……」

「ああ、あくまで君はその調子だろうさ。空を舞うドラゴンからすれば、地上の人間など……」

「『その辺にしといてくれないか、モンジュー。貴様の心意気は見事だが、セイウンスカイにも事情があってな……』」

「『ごめんなさいモンジューさん。モンジューさんと走れそうなのは直近で有マくらいしかないんです……』」

「……え?」

 

 鳩が豆鉄砲でも食らったような顔。

 平静というよりも。心底申し訳なさそうなセイウンスカイの表情は、場の雰囲気を弛緩させるのに十分な理由を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「HAHAHAHA!!!Another world(異世界だって)!?How surprising is this guy(こいつはどこまで驚かせてくれるんだ)!?」

「……俄には信じ難いが……はぁ、そういうことか」

 

 米国のウマ娘が爆笑し、毒気が抜かれた様子のモンジュー。

 セイウンスカイは今年最後に走る事となる有マ記念の後、年明けに彼方へと旅立つ予定を話していた。

 

「よろしいのかしら。バルファルクが話せるようになったとはいえ、ドラゴンと話せる能力者が一人いなくなるのは多方面で混乱を招きますわよ?」

「『そこはウチの役目や。バルファルクにも頑張ってもらうし』」

「『……一通り観測した次第では他に暴れだしそうな龍はいなかったからな。ま、大丈夫だろ』」

 

 セイウンスカイが異世界へ冒険に向かうという話は関係各所に共有されている。ウマ娘としてキモとなる三年間、そのリミットが近付いているのだ。その後どうするかというのは、セイウンスカイの自由である。

 

「セイちゃん、気になったんだけどお母さんとか家の人には話したの?こんなにも有名になったんだからきっと家族の人も大変だよね?」

「『去年の秋……オストガロア騒動の後に一度実家に顔出してるよ。怒られたり泣かれたりしたけどね。今年の夏にも話してる。向こうに行くこともちゃんと言ったよ』」

「反対とかされてないの?流石に心配だと思うんだけど……」

「『そりゃね。でも、おじいちゃんが背中を押してくれたんだ。おばあちゃんの実家────ご先祖様っていうか、この力のルーツが気になるしね』」

 

 スペシャルウィークに訪ねられたセイウンスカイは人差し指を上に掲げて龍属性をちらつかせる。卓越した龍属性裁きは慣れを感じさせていた。

 

「有マ記念か……転籍を表明すれば、後は人気次第か」

「モンジューさんならもちろん出られると思いますヨ!あれだけ激しいレースをしたんデスから、絶対ファンの方が投票してくれマス!」

「君にもリベンジしなくてはならないな、エルコンドルパサー。もう、あの時のような付け焼き刃は通用しないぞ」

「Oh shit! If that was the case, I should have transferred too(こんなことなら、私も転籍すれは良かったぜ)

「そんは軽いノリで転籍できる訳ないでしょう!国を越えての転籍は、それまでのキャリアを蔑ろにするようなものなのよ!」

「『え、そうなの?』」

「ああ。それでも、いいんだ。むしろその方が良い。私の覚悟を示すのに十分だろう?」

「『でも、私、いなくなっちゃうけど……』」

「なら君が戻ってくるまでの間私が走り続ければいい。競争相手には事欠かないからな」

 

 現在フランスはモンジュー二度の敗戦を受けて大きく世論が割れている。

 フランスURAは兼ねてより周辺各国のレース事業を支援してきた実績があるのだが、それがヨーロッパのレース事情に鈍化をもたらしているのは周知の事実である。今まではヨーロッパ、中でもフランスこそがレースの頂点というプライドに頼っていたが、こうもモンジューが敗けてしまうと流石に言っていられない。元々ヨーロッパレース界には競技人口の横這いを嘆く政治勢力が現状の改革を訴えてはいた。しかしどれもがその改革に乗じて権力を握れないかという明け透けな欲を隠そうともしないのだ。故に改革には緩やかな反対意識を持つ者がが大多数であった。

 現フランスURAもその問題は認識しており、だからこそ継続した支援を行ってきた。しかしそれらが実を結ぶのは何十年という長い目で見なくてはならない。大衆が好むのは分かりやすい成果だ。短期的に 、誰でも分かりやすい成果の方が支持されやすい。競技人口で勝てないのに実力で負け始めたらおしまいだという論調が流行るようになった。

 フランスを二分する世論というのは、これまで通りの現状維持派と、より強いウマ娘を急進的に育成し競技人口も早急に増やせる改革派に別れているのだ。

 

(なんと浅はかな。美大落ち(ヒトラー)と同じ轍を踏むつもりか)

 

 モンジューはこうした政治の混乱に辟易していた。自分の至らなさが原因とはいえ、それで政治に巻き込まれるのは堪ったものではない。

 一部の改革派からフランスに戻り改革の旗印になって貰えないかという誘いすらあった。

 

(私はあくまでただのアスリートだ。それ以上でもそれ以下でもない)

 

 今のフランスはレースに打ち込みたいだけのモンジューにとって正常とはいえない。日本のウマ娘に負けたのが原因なら、日本で走り実績を積めば良い────一石二鳥という四字熟語を、モンジューはここで初めて知る事となった。

 

「行くのはセイウンスカイだけなのか?バルファルクとはパートナーなんだろう?」

「『だからこそ、です。こいつはまぁ……問題無い訳じゃないけど色々と上手いこと立ち回ってるし。任せても良いかなって』」

「『ああ。セイウンスカイの留守は俺が守る。貴様らは安心してレースに打ち込め。帰ってきたセイウンスカイが度肝を抜くくらいにな』」

「そうか……そうまで言われたら俄然やる気が出るな。明日から入寮するし、トレーニングのしがいがあるよ。噂に聞くバルファルクの指導も受けてみたいしな」

「『えっ?入寮?』」

「『察しが悪いなセイウンスカイ。これから日本で過ごすんだぞ。ホテル暮らしな訳ないだろう』」

「『まさか……』」

「くくっ……ははは……」

 

 それまで平静であったセイウンスカイの顔が驚きに歪む。セイウンスカイだけでない。他のウマ娘達もだ。

 モンジューは声を挙げて笑った。自分の威圧に全く怯まなかったセイウンスカイが、こんな事で表情を変えている様子が面白くて仕方ない。

 

「『モンジューさん、うち(トレセン学園)に転校しにくるってことォ!?』」

「その通りだ。残り1ヶ月程度だが、学友としてもよろしく頼むよ、セイウンスカイ」

 

 

 

 

 

 この後、モンジューが日本URAの転籍とトレセン学園への転校を発表し、またもセイウンスカイが注目され話題を呼ぶ事となる。

 いつまでも止まない注目に、結局のところいつもの風景でしかないのだとセイウンスカイは諦めていたのだった。

 

 

 

 

 

 




ダイジェスト
アルバ「あと1ヶ月……1ヶ月だ。待ちきれないよ。今から迎えにいっても良くない?1ヶ月くらい誤差だよ」
ネオユニ「流石に私も怒られ続けるのは嫌なので自重して下さい。あとそろそろチャンネル返せ」※意訳


※追記:表記するのを失念していましたがアンケート期間は今話が投稿されてから一週間とします。

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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