セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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OP


モンスターハンター 第一章
旅立ちの風


 

 

 

 

 

 

 木漏れ日が差す森。

 命の楽園であるここはかつて文明があったらしい。赤茶けた古い史跡が、僅かに面影を残している。

 穏やかではあるものの、しかしその森を大きく揺らす影があった。

 影は悠々と森の中を歩いていく。普通の生き物なら、例え平時であっても天敵に狙われないよう警戒するだろう。だが影の主にその気配は無い。

 何故なら────天敵がいない、()()()()なのだから。

 

 それを物陰から注意深く観察するのは一人のハンター。

 景気付けとばかりに一つ携帯食料を齧ると────右腕から何かを解き放った。

 虫だ。人の胴体ほどもある大きな甲虫が、あろうことか絶対強者の眼前に立ち塞がる。虫けら風情が何事かと、困惑させたところで────。

 

「せやぁぁぁっ!!!」

 

 絶対強者────ティガレックスはいち早く攻撃に気が付く。絶好の機会と思われた操虫棍の一撃は、惜しくもその一振りを逃してしまった。そしてティガレックスは曲者を相手に尻込みする気質ではない。

 《轟竜》とも称される異名の通りに、ティガレックスは猛々しく咆哮した。

 

「ほんとにスゴい声っ……リボン! 手筈通りに!」

「合点にゃ~」

 

 咆哮に吹き飛ばされ命懸けの追いかけっこが始まる。時に木々を滑り、時に史跡の隙間を通ってハンターはティガレックスから逃げる。

 しかし逃げた先にあったのは平原と森林を切り分ける断崖であった。ティガレックスが獲物を相手に追跡を緩める事は無く、勢いのまま猛然と迫ってくる。

 

「とーぅっ!」

「ギシャァアアア!!!」

 

 間もなくその顎がハンターを捉えようとしたところで、断崖を飛び越える。しかし跳躍が浅かったか、崖際に掴まる羽目になった。

 

「うわ、ヤバ……」

「エル! 早くこっちに来て!」

 

 崖に掴まるハンターに轟竜のアギトが迫るがそこに矢が突き刺さる。痛みにかぶりを振ったティガレックスの隙を突いて崖からハンターは脱出した。

 邪魔者は何処か────振り返ったティガレックスの顔に、平原の岩から矢が続けざまに飛んでくる。本能のままティガレックスは矢の方へと猛進した。

 

「サシミ、爆弾準備!」

「報酬は弾んでもらうニャよ~」

 

 ティガレックスが突進してくる中、弓使いのハンターはオトモアイルーと共に大タル爆弾を抱える。あわや自爆か、そう思われたところでティガレックスは背中から何者かに抑えつけられた。

 

「セイちゃんのとこには、行かせません!!!」

「グォウ!? グギャア!」

 

 最初に追いかけていた操虫棍のハンターがティガレックスの背中で大立ち回りを繰り広げる。

 邪魔者を振り払おうとティガレックスは必死だ。しかし操虫棍のハンターも気合いで耐える。

 その均衡を破るのはオトモアイルー二人の合体技。

 

「リボン、我らの力を合わせる時ニャ!」

「もちろんだニャ。これが私たちの」

「「ネコ式突撃隊、発射ニャァ!」」

 

 オトモアイルーら二人がロケットでティガレックスの顔面に直撃する。二人に視界を遮られたティガレックスはますます暴れっぷりに拍車をかけた。

 

「爆破準備オッケー!!! エル!」

「分かった!」

 

 合図と共に操虫棍のハンターが飛び降りる。同時に矢が放たれ、用意した大タル爆弾が勢い良く爆ぜた。

 爆炎に包まれるティガレックス。矢と比べ物にならない威力は、ティガレックスの顔面に裂傷を敷いている。

 

 ことここにきて単なる小競り合いの域には無いだろう。ティガレックスは明確に二人の外敵────ハンターを視認する。

 

 操虫棍のハンター────エルコンドルパサー。

 弓使いのハンター────セイウンスカイ。

 

 赤く怒張するティガレックスを相手に、二人は全く臆せず挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティガレックスの狩猟より、2ヶ月前。

 二人のハンターとしての歩みを語るには、少し時間を遡らなければならない。

 

 セイウンスカイは砂漠の中で佇んでいた。

 

「これアルバトリオン殴った方がいいやつかな……?」

 

 ミラボレアスの襲撃から命からがら異世界に飛び込んだセイウンスカイだが、待っていたのは一面砂の世界である。セイウンスカイは砂の海で孤島のように聳える岩山に腰かけて嘆息していた。

 

「大砂漠ってやつだよねぇ。歩いて行くのも出来ないじゃん」

 

 大砂漠は一帯がきめ細かい流砂で覆われており、迂闊に飛び込むと砂の中に沈んでしまう。異世界に飛び込んだセイウンスカイは一度砂のクッションにより落下の衝撃からは守られたのだが、今度は砂に溺れかけるという類を見ない体験していた。

 何とかもがき、宛ても無く岩山で黄昏るしかないセイウンスカイ。赤衣の男により持たされた物資には携帯食料があり、数日は餓えずに済む。しかしそれが希望にならないのは当然の理であった。

 

「バルバレは大砂漠に近いっていうし……遠目に砂上船が見えたら手を頑張って振るとか、それしかないよねぇ……」

 

 初手から、ほぼ詰んでいる。

 決意を胸に異世界に来たはいいが、それが空回りしそうな展開にセイウンスカイは思わずその辺の岩場を龍属性混じりに蹴っていた。

 

「『あ、無闇に使っちゃいけないんだっけ。まぁいいや、どうせここ誰もいないし────』」

『むおおお? なんぞ、誰ぞ儂の上におるのか?』

「『へっ?』」

 

 セイウンスカイの足場である岩山、だと思われていた者が動く。

 セイウンスカイの龍属性に反応したのだろう。尖塔のように突き出ていた岩山はゆっくりと水平に態勢が変化していく。

 

「『え……これってまさか、ダレン・モーラン!?』」

『んんん? まさか儂の上におるのは……人間? にしては気配が……いや、何故言葉が通じておる?』

 

 砂の中から完全に姿を現した岩山────豪山龍ダレン・モーランは、頭の上に乗るセイウンスカイに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

『はっはっは! まさか異世界とな! 久しぶりに面白い変化が聞けたぞ!』

「『あー、そりゃどうも』」

 

 吹き荒ぶ風。

 ダレン・モーランに事情を話したセイウンスカイは彼の好意に甘えていた。

 

『なんかごめんね。せっかく寝ていたのに』

「『いやいや、ヌシに悪気は無かろう。むしろ面白い話を聞かせてもらったのだ。こちらが礼をしたいくらいだ』」

 

 ダレン・モーランはセイウンスカイを乗せ、広大な大砂漠を航行している。

 詰みと思われた状況から一転、目的の一つであったダレン・モーランに出会えた事をセイウンスカイは安堵していた。

 

「『ねぇ、ほんとにいいの? 人間のところまで連れてってもらうなんて』」

『流石に近付き過ぎると攻撃を喰らうだろう。儂に出来るのは、砂上船と言ったか? あの人間の乗り物にヌシを近付けることぐらいだ』

「『それだけでも凄く助かるよ。君に会えてなかったらどうしようかと思ってたんだ』」

 

 ダレン・モーランは人間が航行する地域を知っているらしい。普段は近寄らないが、今回は特別だと張り切っていた。

 

「『それで……《黒龍》は知らないんだ? 《ミラボレアス》も』」

『うーむ。人間の呼称なんぞ知らぬからなぁ。それに、ヌシから聞いた特徴の龍も知らん。儂はずっとこの砂の中で生きておる。他の場所の龍について儂は宛てにならんだろう。龍の言葉を話す人間も、オヌシが初めてだ』

「『そっか。わざわざありがとね』」

 

 セイウンスカイが異世界に来た目的の一つに、古龍達と出会いその話を聞くというものがある。ミラボレアスの襲撃も合わせて、"龍呼びの声"にまつわる謎を聞けないか探しているのだ。

 残念ながらどちらともダレン・モーランに有力な手掛かりは無かった。

 

『この砂の中で暮らしているとなぁ、変化が無いのだ。安定した生活という意味では正しいのだろうが、やはり適度な刺激が欲しくなる。儂らは砂の中の餌を浚って泳ぐ日々を過ごすが、それだけでは物足りんのだ』

「『時々人間と戦ったりするんじゃないの? こっちでは貴方達を狩る事を催し物にしてるみたいだよ』」

『あれは良い。あれもな、時期によって餌の位置が変わるから、それが人間とぶつかっておるのだろう。儂らに刃向かう者など人間くらいしかおらん。良い命の競り合いだ。それで死ぬのなら本望だとも。まぁ、儂はこうして生き残っておるがな!』

 

 高笑いするダレン・モーランに苦笑するセイウンスカイ。

 事実、このダレン・モーランの体には幾つもの古傷があった。どれも刃などで切りつけられたものではなく、一点に空いた穴のような傷、飛び散るような爆発痕など明らかに兵器による傷痕である。幾度ものバリスタや大砲を喰らっているのだ。

《歴戦の個体》、そう称するのに相応しい実力をこのダレン・モーランは持っていた。

 

『さて、そろそろかの』

「『あ、もう? そんなに近かったんだ』」

『近くはないぞ? ただ気分が上がってちょいとトバしまくったわ! 風が中々気持ち良かろう?』

「『おじいさん、ハッスルし過ぎじゃない……?』」

『むはは。しばらくはこの辺りを周遊する。見つけたら教えてくれ』

 

 おおよそのポイントに辿り着き、一定の区域を周り始める。しかし待てども船の姿は見えない。

 

『中々見つからんのう。場所を間違えたか?』

「『バルバレは時期によって移動する街だから、今はここじゃないのかも』」

『淵に沿うというのであれば、もう少し奥になるか。またトバすぞ』

 

 大砂漠の外縁部を目的に航行する。

 まだ日は高いが少し西に傾きかけており、状況次第ではダレン・モーランの上で野宿する事も視野に入れなくてはならない。一応、赤衣の男に叩き込まれているとはいえセイウンスカイは現代の文明人だ。あまり喜ばしい状況とはいえなかった。

 

『そら、際に来たぞ。ここから沿うように……ん?』

「『あ、あれだ! そっか、今まさに移動中だったんだ!』」

 

 大砂漠の外縁部、平原と接している境で動く多数の列が見える。

 多くの竜車に率いられたキャラバン隊が、建物を引き摺って大移動を形成していた。

 

『儂はこれ以上近付けん。迂闊に寄ると()()()に襲われてしまう』

「『分かってる! けどこれじゃあ飛び降りるのも……!』」

 

 ダレン・モーランと外縁部との間までは距離がある。迎撃されないよう気を遣っているからだ。しかしこれではセイウンスカイが近寄れない。

 しかし弓使いとしての矜持だろうか、セイウンスカイが目敏くキャラバン隊の状況を捉えていた。

 

「『待って、様子がおかしい。あれは確か……ジャギィ?』」

 

 大規模なジャギィの群れだった。キャラバン隊であれば食料を大量に輸送しているし、それを牽くのは獲物であるアプトノスやポポだ。それらを狙ってキャラバン隊へジャギィの群れが襲撃していた。

 キャラバン隊も無抵抗ではない。ハンターが集まるバルバレのキャラバン隊は各々がハンターを擁しており、それらがジャギィの群れを迎撃していた。しかし移動しながらの戦闘のため剣士では近しい位置の相手しか攻撃出来ず、専らガンナーが頼みとなる。そしてガンナーは一度に多数のモンスターを相手取る事を苦手としていた。普段なら雑魚散らしに有効な散弾や拡散矢も、敵味方入り交じるこの状況では使えない。

 

「『おじいさん! 今なら近付けると思う! ジャギィへの対処でいっぱいになってる!』」

『だがどうやって降りるのだ。飛び降りる場所が無いぞ』

「『あそこ! 撃龍船じゃない砂上船が、もっと前で併走してる!』」

 

 セイウンスカイの読みは当たっていた。

 どう見ても今は腕自慢祭の時期ではない。つまり、()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()と仮定できる。平時であれば大銅鑼くらい鳴らせるだろうが、今はそれどころではない。ダレン・モーランの接近で更なる混乱を呼びかねないが、セイウンスカイとしても千載一遇の機会なのだ。

 

「『今いる船団は武装してないんだ! そこまで警戒しなくても良い!』」

『オヌシの言葉を信じよう。それで、あのフネに近付けば良いのか?』

「『いや……』」

 

 セイウンスカイはキャラバン隊の後方を見渡す。

 絶えずジャギィ達がアプトノスやポポを攻撃している。まだ死者はいないようだが、このままでは時間の問題だ。

 

(いる。どこかに絶対いる。これだけの規模、統率する親玉(ドスジャギィ)がいなくちゃ維持できない!)

「『いた!』」

 

 集団の最後方に一際大きな影。ジャギィのボスである狗竜ドスジャギィが冷酷に指示を下していた。

 ドスジャギィの作戦としては単純なもので、落伍するキャラバン隊を狙っているのだ。流石にキャラバン隊の全てを襲おうなどとは思っていない。一つか、二つ、孤立するキャラバン隊があればそれを数に物を言わせて仕留める算段であった。

 

(鳥竜種は比較的賢いって聞いたけど、あんな風に襲えるならG級は見積もれてもおかしくない)

「『ダレンおじいさん、あっちに寄せて! あのドスジャギィを仕留めれば、混乱は収まる!』」

『どうやって仕留めるつもりだ?』

「『ちょっとびっくりするかもしれないけど、とっておきがあるんだ。驚いて振り落としたりしないでよね』」

 

 言いながらセイウンスカイは胸のペンダントに龍属性を込める。ペンダントの小石は輝くと、たちまち弓へと姿を変えた。

 ムフェト・ジーヴァから下賜されたあの弓が再び日の目を見る。

 

(ごめん先生。使うのは控えるように言われてたけど、助けられる力があるのに見捨てる事はできない)

 

『オヌシ、なんだそれは……』

「『ちょっと説明しづらいかな! 狙撃するから、揺らさないでよ!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流星を見た。

 その日、移動の隙を突かれジャギィの群れに襲われていたキャラバン隊は皆口々にそう証言する。

 

 ジャギィの大群に加えてダレン・モーランが接近してくる。ただでさえジャギィに手を焼いているというのに、時期外れのダレン・モーランなどトラブルどころではない。大銅鑼を鳴らそうにも、それが格納されているハンターズギルド集会所も今まさに走行中であり、とてもじゃないが迎撃できる状況ではなかった。

 併走する砂上船が緊急事態を告げる信号弾を放つがそれよりもダレン・モーランの方が早い。すわ大惨事かと思われたその時、ダレン・モーランの特徴的な角から一筋の光が見える。

 

 星のような輝きは、あっという間に収束すると凄まじい速度でドスジャギィの側頭部を貫いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『……よしっ!』」

『もう大丈夫か? まさかオヌシがそこまで強いとは……』

「『強い? 矢を射っただけだよ?』」

『滾るその気配で分かるとも。なるほど、オヌシはヒトのような龍だったのだな』

「『……人間だって言いたいんだけど、今一反論しづらいなぁ』」

『ほれ、()()()()()()とやらはくたばったぞ。今の内に人間のフネに寄せてやろう』

 

 ダレン・モーランがキャラバン隊と併走していた砂上船に近寄っていく。おおよそ輸送用の商業船ばかりなのだろう。ダレン・モーランに迎撃する船は無かった。

 その中の一つに目を付け────。

 

「え……?」

『どうした? 知り合いでもおったのか?』

「『うん、いやまぁその通りなんだけども!』」

 

 "知り合い"がいる砂上船に飛び乗るセイウンスカイ。予期しない闖入者に、乗組員は驚きを持って出迎える。

 驚いているのはセイウンスカイも同じだ。まさかこんなにも早く会えるとは────。

 

「やっぱり! やっぱりセイちゃんデス!」

「『エル! 会えて良かった!』」

 

 アルバトリオンによって逃がされた一人────エルコンドルパサーが、嬉し涙と共に飛び乗ったセイウンスカイを抱き止めていたのだった。

 

 

 

 

 





タマミツネとゾ・シアで遅れぎみになるかもとは言った……
しかし!裏を返せばミツネとゾ・シアが来るまでの執筆時間はあるということ……!(所詮は不定期連載である)

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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