セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃よりご愛読頂き誠にありがとうございます。
さぁ今となってはお馴染み(?)亜空間タックルの使い手です。なんで水中より地上にいる方が強いんですかねこいつ


水竜、走る走る!

 

 

 

 

 

 

「キュオオオッ!!!」

「あらあら、なんてこと……」

「皆さん、離れて下さい! 私が撃退します!」

 

 浜辺にて跳ね上がる巨体。

 魚にすくっと両足を付けたようなその姿は見る者を驚かせる。

 エルコンドルパサーは期せずして巨体────水竜ガノトトスと対峙していた。

 

 

 

 

 

 水竜ガノトトス────古くから認知されてきた魚竜種のモンスターであり、通称の通り《水の王者》の異名を持つ。淡水、海水問わず水中に適応した進化を遂げており水中における生態系の頂点に立つだろう。基本的には水棲だが地上での運動能力も卓越しており、獲物や外敵を地上に認めた場合は自ら陸戦を挑む獰猛さを持つ。

 本来であればバルバレギルドでは狩猟が認可されていないモンスターだ。エルコンドルパサーは訓練所で教わった内容を復習しながら浜辺で暴れるガノトトスの猛攻を何とかいなしていた。

 

「なんで、こんなところにガノトトスがいるんデスか!?」

「そいつは普段からうちらが捕まえてる大物だニャ! いつもなら釣り上げてすぐ死ぬのに、こいつは死なないのニャ!」

「ガノトトスが釣り上げた程度で死ぬはずないじゃないデスか!? デタラメにもほどがありマスよ!?」

 

 村に被害が行かないよう立ち回るエルコンドルパサーだが、これが難しい。距離を離すと水ブレスか這いずり突進で村の中を荒らしかねないので近距離で対応しているのだが、ガノトトスは尻尾を振り回したり体当たりをぶつけてこようとするため躱すのに必死だった。

 エルコンドルパサーが凌げているのは操虫棍のおかげだ。ガノトトスの背中へ跳び、その背中を足場に跳び回る事で攻撃のほとんどを避けていた。基本的に大型モンスターは自身の背に陣取る相手を想定していないのでこうした操虫棍の動きは理に適っているのだ。

 しかし何事にも限界というものはあった。

 

(全然傷がつかない! 今の武器じゃ、斬れ味が足りてない……!)

 

 バルバレでは狩猟対象となっていないが、ガノトトスはエルコンドルパサーがこれまで相手にしてきたモンスターと比べるとワンランク上とされるモンスターだ。水場に限るなら危険度はティガレックスを越える。加えてエルコンドルパサーをジリ貧に陥らせている理由には武器の性能もあった。エルコンドルパサーが撹乱を担当し、ディゲルがその隙に一撃を加えるという連携でモンスターを狩猟してきていたためソロで火力を出す方法が無いのだ。武器の強化も後回しにしてきたツケが今ここで祟っていた。

 

「サシミ君!」

「はいニャー!」

 

 武器で有効打を与えられないなら他の手段で考えればいい。そう考えたエルコンドルパサーはいち早くサシミに声をかける。サシミもエルコンドルパサーの苦境を察しているのだろう。エルコンドルパサーの意思を汲み取ったサシミは大タル爆弾Gを抱えガノトトスの足に投合する。

 

「オオオッ!?」

 

 思わぬ痛みに驚いたガノトトスはその場で地団駄を踏みサシミを踏み潰そうと暴れるが、ガノトトスの視界を遮るようにエルコンドルパサーが顔の周りを跳び回る。これを嫌ったガノトトスは上体を持ち上げ独特な姿勢で海の方へと走っていった。

 

「撤退かニャ?」

「まだ安心できな……やっぱり!」

「ギュオオ!」

 

 海へ飛び込んだガノトトスだがまだ戦意はあるようだ。海から水ブレスを放ち射程内にある全ての物を裁断していく。

 ガノトトスの水ブレスはリオレウスのような単発のブレスと訳が違う。所謂ウォータージェットと呼ばれる代物であり、元の世界であれば工場などで主に金属製品を裁断するのに使われる代物だ。当然人体に当たってしまえば真っ二つは確実である。

 エルコンドルパサーもサシミもそんな凶悪な水ブレスを回避するのに精一杯だった。追いかけて水中に飛び込んでも良かったのだがエルコンドルパサーは水中での狩りを知らないのだ。ロックラック管轄地域であれば水中狩猟は珍しくないのだが、ドンドルマの訓練所では学習項目に無かった。

 

(せめて音爆弾があれば……)

「エルちゃんどうするニャ! このままじゃ村がめちゃくちゃになっちゃうニャ!」

「考えてマス! 考えてマスけど……!」

 

 水中にいるガノトトスは音に敏感なため音爆弾を投げつけると興奮して陸地に上がってくる、というのは良く知られた狩猟方法だ。しかし運悪く、この時のエルコンドルパサーらは音爆弾を持ち合わせていなかった。元々狩りをする予定でもなかったので武器や防具を持っているだけまだマシだろう。

 しかしジリ貧である事に変わり無かった。

 

(どうする!? どうする!? 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!)

「サシミ、閃光玉っ!」

「はいニャー!!!」

「ギュオッ!?」

 

 これ以上被害を広げる訳にはいかない。重要なのはガノトトスの狩猟ではなくチコ村の防衛である。とりあえずチコ村に狙いが付けられないよう閃光玉を放って視界を塞ぐ。ガノトトスは生息域や個体により閃光が効く生態なのか大きく異なる場合があるのだが、この個体は閃光玉が効く類いであったようだ。閃光に怯んだガノトトスは視界の不利を悟って水中に深く潜っている。

 

「エルちゃん、どうするニャ? 今は良くてもその場しのぎにしかならないニャ」

「そうなんデスよね……視界が回復したらまた戻ってくるでしょうし……」

「それなら、心配いらないわ」

 

 知らぬ声。

 二人が振り返ると、リオレウスの素材だろうか、それらしいライトボウガンを背負う妙齢の女性がいる。軽装で、如何にもガンナー、といった風体の黒人女性であった。

 

「ふふ……貴方を見ていると昔を思い出すわ。新人がよくここまでもってくれたわね」

「あ、あなたは……?」

「自己紹介をしたいところだけどまずはあのガノトトスね。ほら、戻ってきたわよ」

「あ……!」

 

 視界が回復したガノトトスは怒気を滾らせている。どうやら小賢しくも目潰しされた事が気に食わなかったようだ。エルコンドルパサーに向けて水ブレスを放つ。しかし────。

 

「ニコ」

「お任せを」

 

 女性の脇から一人のオトモアイルーが飛び出していく。サシミとは違う彼は、峯山龍ジエン・モーランの素材から作られる旗本ネコシリーズに身を包み、なんと真っ向からブレスに向かっていく。

 

「あぶな────」

「大丈夫よ。見てれば分かるから」

 

 ブレスに対しニコと呼ばれたオトモアイルーは身の丈を優に越える大盾を構えブレスを弾いていく。そのブレスを防いだまま、茶釜のような物を置くと中からカカシのような風船が飛び出て大盾と合体した。

 

「すご……!?」

「ふー。やっぱりモンスターの前に出るのは怖いニャァ……」

「え、あれ怖くてやってた動きなのかニャ!?」

「モンスターを怖がるくらい普通の話だニャ。大事なのは怖くても、冷静にやるべきことをやる"勇気"だニャ。君は新人かニャ? モンスターを相手に怖いだけじゃ、オトモは務まらないニャよ」

 

「ギュオッ!?」

 

 ガノトトスの悲鳴。

 大盾カカシに気を取られたガノトトスに対しライトボウガン────凰仙火竜砲から火の雨あられが放たれる。

 

「お喋りはそこまでにしましょう。さて新人さん、私達だけでも十分に狩猟できるけど────貴方はどうする?」

「そんなの……決まってマス!」

 

 気づけば水中にいたガノトトスは痛みに呻いて陸に上がっている。ガノトトスの怒気は最高潮に達しており、陸地にいる彼女達の排除を優先したようだった。

 

「私が撹乱しマス! 好きなところを撃ってください! 大丈夫デス、弾が当たりそうになってもこっちで勝手に躱しマスから!」

「頼もしいことを言ってくれるじゃない」

 

 戦意が高揚するエルコンドルパサーは先ほどよりも高まった精度でガノトトスを舞台に宙を舞う。怒りに支配されるガノトトスの動きは精彩さを欠いており、ガンナーの火炎弾速射が炸裂する隙は幾らでもあった。

 

 今日出会ったばかりの二人。

 しかしその息は長年組んでいたかのようにピタリと合っている。

 空中舞踏と正確無比な射撃を前に、ガノトトスが沈むまでそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね、貴方の手を煩わせてしまって」

「大丈夫デス。居合わせたならハンターとしての務めを果たすまでデスから……自分達だけだと打つ手が無かったので助かりました」

「礼を言うのはこちらの方よ。本来ならあれは私の獲物だったの。後一歩のところで取り逃がしてしまったのよね。私の不手際を拭ってくれた貴方には感謝してもしたりないわ」

 

 ガノトトスを無事捕獲した四人。

 即席ながら息の合ったコンビネーションは初対面でも親しさを感じるのに不思議は無かった。

 

「私、エルコンドルパサーって言います。あなたは……」

「あら失敬。後輩に先に名乗らせるなんてね。私はナディア。見ての通りライトボウガンを使っているの」

「僕はニコ。ここチコ村の生まれだニャ。まさか故郷でガノトトスと戦うなんて、10年前じゃ想像もできなかったニャ」

「オイラはサシミ。こないだオトモになったばっかりニャ。……もしかして君は、10年もオトモをやっているのかニャ?」

「そうニャ。昔は臆病で何もできないでいたけど、"我らの団"のハンターさんが僕を勇気づけてくれたニャ。おかげで今じゃ、そこそこオトモをやれてるつもりニャよ」

 

 どんと胸を張るニコ。昔は臆病だったと自称しているが、ガノトトスのブレスに自ら向かって行った勇姿にその頃の面影は欠片も見られない。サシミはニコを大先輩と見て、矢継ぎ早に質問を繰り返していた。

 

「"彼"とは縁があってね、ニコと組んでいるのはそういう巡り合わせなの」

「彼って……あの"我らの団"の?」

「ええ。ふふ、彼らったら今じゃすっかり伝説扱いよね。当人達はそんな風じゃないのに」

「"我らの団"……あっ」

 

 かつてを懐かしむように目を細めるナディア。

 聞けば、ナディアはギルド直属の"筆頭ハンター"と呼ばれる特殊なハンターであるらしい。内容が特殊なため、表に出せない危険な任務などに従事しているとの事だ。

 エルコンドルパサーはセイウンスカイが"我らの団"の団長を探している事を思い出す。赤衣の男と団長は知り合いのようで、セイウンスカイは彼への手紙を赤衣の男から預かっているのだ。口振りからして直接面識があるであろうナディアにセイウンスカイが探している旨を伝えたのだが────。

 

「団長さんね……ごめんなさい、確かに面識はあるのだけど、今どこにいるのかは分からない。風のような人だもの」

「風、デスか?」

「何か気になる謎があったらそれをとことん追いかける人なのよ。手掛かりがあればどこへとだって飛んでいく、そんな人。……ふふ、懐かしい日々を思い出すわ。まだ駆け出しの"彼"と出会ったのもその頃だったわね」

「"彼"ってあのパンツ一丁でダレン・モーランを倒したとかいう……」

「あら、そこまで誇張されていたの? 噂に尾ひれが付き過ぎね。実際はまだハンターですらなかった当時の彼が、たまたまダレン・モーランに遭遇して、それを撃退したのが私達筆頭ハンターなの。彼は巻き込まれただけよ」

 

 当たり障りない範囲で当時を話してくれるナディア。何を隠そう10年前、まだ未解明だった狂竜症事件において解決に奔走した当事者の一人なのだ。彼女達"筆頭ハンター"もまた、"我らの団"と共に称される伝説の英雄達であった。

 

「それで……どうして貴方はここに? 装備はあるようだけど、狩りに来たって訳でもないんでしょう?」

「実は、私の相棒になってくれるオトモを探してまして。一緒にいるサシミ君はセイちゃん────セイウンスカイのオトモで私のオトモじゃないんデス」

「セイウンスカイ……? もしかして、今バルバレで話題の彼女かしら」

「はい、そのセイちゃんデス。……やっぱり有名になってるんデスね」

「ええ。ハンターとしての腕も確かなようだけど、私としては彼女が編纂した資料の方が気になるわ。最近私達の方でも彼女が作ったモンスターの資料が出回るようになったのよ。あれだけの実力、ハンターとしても編纂者としてもどこかで話題になってないとおかしいほどなのだけど」

「あー……私達、最近になって故郷から出てきたので……」

「詮索はしないであげるわ。脛に傷の一つや二つ、この界隈じゃ珍しくないもの」

(勘違いされてる……いや、隠し事してるのは確かだけど……)

 

 ディゲルは誤魔化せたが、相手はギルドに直属するエリートハンターだ。"どことも知れぬ辺境からやってきたウマ娘という種族"という設定はおそらく通用しないだろう。尤も、親切さか他に含むものがあるのか、問い詰めるような真似はしないでくれるらしい。少なくとも今回は好意である事を信じてエルコンドルパサーも話題について広げる真似はしなかった。

 

「そう言えばオトモを探していたんでしょう? ちょうど紹介したい子がいるの。ガノトトスもそうだけど、本命は彼女を迎えに来たところだったのよね」

「迎え……? じゃあチコ村の子じゃないんデスか?」

「ええ。ミナガルデ出身の子なんだけど、親御さんに頼まれてね。もう着いていてもおかしくないのだけど……」

 

 周囲を見渡す二人。

 正直、人間から見るとアイルーの区別は難しい。人間社会に溶け込んでいるためあまり意識されないが、服や装備などを着ていなければ皆同じ顔に見えてしまう。毛並みなどでも判別できるが、チコ村など野良アイルーの集まる場所ではそれも効果が薄かった。

 

「何か特徴はあるんデスか? 装備を着ているとか、武器を持ってるとか……」

「確か……可愛いものが好きで、頭にピンクのリボンを巻いていると……」

 

「た、大変だニャ!」

 

 またもアイルーの声。

 再び浜辺の方へと注目が集まっているが、モンスターの姿は見られない。不思議に思った二人が駆け寄ると、何かを覗き込むようにアイルー達が集まっている。

 

「また何か起きたんデスか? ガノトトスは狩猟しましたけど……え!?」

「あらあら、噂をすれば……」

 

 そこにはガノトトスの足跡のど真ん中で、ベッタリと地に伏し呻いてるアイルーの姿。その頭には、砂ですっかり汚れてしまったリボンが巻かれてある。

 

「あー、もしかしてこの子が……」

「多分そうでしょうけど……大丈夫? 生きてるかしら」

「わからず屋の頑固親父から離れ……その末路がこれだと言うなら……所詮それまでの女だったということ……!」

「あ、元気そうデスね」

 

 恐らく先ほどのガノトトスとの戦闘に巻き込まれたのだろう。しっかり踏みつけられたような割りに頑固親父とやらの恨み言を呟いておりそれほど心配しなくても良さそうだ。

 

「自由の果てに待つ死……受け入れよう、我が生涯に一片の悔い無し……!」

「いや死なないでください。ここにあなたをオトモにしたい人がいるんデスよ」

「ニャ?」

 

 何事も無かったかのように起き上がった彼女────この後リボンとその姿通りに呼ばれるアイルーを前に、エルコンドルパサーはまた癖の強い奴が来たと頭を抱える羽目となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未知の樹海にて。

 

「グォォォ……」

 

 散乱した爆鱗。焼け焦げた地面。

 壮絶な戦闘の痕が残っている。

 その下手人であるバゼルギウスは、たった今力無く地に倒れ伏していた。

 

『外から来たかと思えば』

『しぶとい割りに、大して強くもない』

 

 バゼルギウスの死体を前に涼しげな表情を浮かべているのは二頭の古龍。白銀に輝くその高貴さに反して、怪しげな紫紺の狂気が周囲を漂っている。

 

『だが妙だ』

『妙も妙。他の龍の気配を何故これが宿す?』

 

 古龍────二体のシャガルマガラは、翼脚で不思議そうにバゼルギウスの死体を突っついている。このバゼルギウスはセイウンスカイに撃退させられたバゼルギウスである。龍属性やられの症状からは回復していたものの、弱った体で果敢にもシャガルマガラに挑み、敢えなく倒されたという次第であった。

 

『今までにない、龍の気配』

『どうする、"私"?』

『"私"よ。やることは変わらない。"私"だけの、永遠を』

『そう、"私"は変わらない。しかし変化の兆しは無視できない』

『ならばこちらから打って出る』

『打って出て、"私"の存在を知らしめよう』

 

『『そして世界に刻むのだ。"私"は二度と廻らない』』

 

 ────(えにし)とは、知らずに結ばれるものである。

 

 

 

 

 




ちょっと遅れぎみになったかも……

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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