最近フロンティアのモンスターを恋しく感じてますね……。サンブレイクでエスピナスが来てくれましたがワイルズでは果たして……
「お見苦しいところをお見せしましたニャ……これからご主人になってくれる方になんてことを……」
「いやいや、全然大丈夫デスから!」
申し訳なさそうに頭を下げる一人のアイルー。先程まで勇ましい口調だったが今は落ち込んだ表情で頭のリボンを抱えている。
話せば意外と普通────そんな感想を、エルコンドルパサーはリボンに対して抱いていた。
"アイルー族のハンター"。
それが彼女の父親である。
おや? と話を知らぬ者が聞けば首を傾げるだろう。アイルーでハンターをやっている者など探せばいくらでもいる。
だが違うのだ。
今では当たり前となったオトモアイルーも、そうではない時代があった。その矮躯で何するものかと嘲られ、アイルーであるならば人間の下働きをしていろという見下しをはね除けた先駆者がいる。
コツコツと、片手剣一本で、アイルー用の防具など無いから防具も無しに、アイルーと組むようなハンターもいないからと単身で。
それが、ミナガルデにいるたった一人でG級ハンターに到達したアイルーであった。
「……自分じゃ、好き勝手やっておいて、いざ娘の私が挑戦しようとしたら「おまえに才能は無い」だの、「おまえは弱い」だのそんなのばっかり……!」
「ナディアさん、これって……」
「素直になれない男親は、どこも変わらないものよ」
エルコンドルパサーはリボンの来歴を知ろうとその生い立ちを聞いていたのだが、話はいつの間にか自分の才能を否定する頑固親父への恨み節へと変わっていた。
彼の御仁はアイルーがハンターを務められるよう尽力したパイオニアである。自身のみならず、同じくハンターを目指すアイルーが人間と組めるよう後進を指導し、ギルドとオトモアイルーの概念を確立したのだ。その偉業を称えてアイルー族のハンターという名は固有名詞として彼を指す呼称となった。
そんな偉大な父親を持ったからにはと、リボンもハンターを目指していた。しかし予想に反して父親からの反応は芳しくない。何かにつけてリボンを否定しにかかるのだ。傍から見ると娘に無理解な毒親である。
ただ、察しの良いセイウンスカイと父親から手紙を受け取っているナディアは分かっていた。娘に同じ苦境を味わってほしくないのだ。彼が道を切り開いたとはいえ、やはりアイルーにとってハンター業は厳しい側面がある。人間と同じように命を落とす事も珍しくはない。女の子らしく可愛い物好きならと……穏やかな人生を過ごしてほしかったようだ。
それをナディアはあまりにも遠回しな、かつ迂遠な物言いをする手紙をギルドから受け取っていた。
「本人は家出した気になっているのだけど……彼から頼まれたのよね。面倒見てほしいって」
「それを私に任せちゃっていいんデスか?」
「ええ。というか元々迎えにきただけで私が面倒見るつもりは無かったのよ。実力差が有りすぎるとお互いに行きたいクエストに連れて行けないもの。本当なら私のツテで頼れるハンターを探すつもりだったけど……貴方なら適任だわ」
未だ父親に怒って恨み節が止まらないリボン。しかし手には"包丁"を持っている。ただの包丁と驚くなかれ、この包丁は彼女の父親が駆け出しの頃に使っていた由緒ある武器なのだ(尤も武器としての性能はお察しである)。そんな武器を家出で持ち出す辺り、中々嫌いになりきれないのだろう。
「……それで、パパったらこれが好きだろうってずっとサシミウオを山程持って帰るの! いっくらサシミウオが好きでもそう簡単に誤魔化されないんだから……!」
「あー、えっと、リボン……ちゃん? お話良いデスか?」
「あ、はいニャ!」
気付いたら自分ばかり話していることに気付いたのだろう。顔を赤くしてエルコンドルパサーを見ている。
「あなたについては大体分かりました。ただ、今のままだとまだ分からないことがありマス」
「分からないこと……ですかニャ?」
「はい。私もまだ駆け出しなので、難しいことは後回しにしましょう! まずは────」
「────一緒にクエストへ。いくら語れても、狩りに出た方が分かること多いデス!」
同じ頃。
バルバレでは。
「グッラビッモス! グッラビッモス!」
「……ぐっらびっもす、ぐっらびっもす」
「ブッラキッディオス! ブッラキッディオス!」
「……ぶっらきっでぃおす、ぶっらきっでぃおす」
「リッオレッウス! リッオレッウス!」
「りっおれっうす、りっおれっうす……」
セイウンスカイが死んだ目で目の前の女性の陽気な歌(?)を復唱していた。
「ごめんね、彼女はとても優秀な編纂者ではあるんだけど……」
ギルドマスターが申し訳なさそうに目を伏せる。
見た目だけならとても知的に見える女性────ソフィアは、セイウンスカイの第一印象をその行動で悉く裏切っていた。
ソフィア。
未知の樹海調査における編纂者の一人であり、あの"我らの団"で受付嬢もしていたギルドきっての敏腕受付嬢である。
彼女こそ、ギルドマスターが未知の樹海から救援願った助っ人だった。
無類のモンスター好きである彼女は如何にもな外見に反してモンスターの事となるとその情熱が止まらなくなる。バゼルギウスが遺跡平原に出現し、種の同定をまだ駆け出しのハンターが行ったと聞いた彼女は他の編纂者の話も聞かずにバルバレへ戻ってきたのだ。
「熱意があるのは理解しました。理解しましたけど……」
「わぁすごい、"不発の鱗片"! こんなところでお目にかかれるなんて……!」
当然彼女の興味はセイウンスカイに向かう。
バゼルギウスが出現したという証拠のためにあのクエストからバゼルギウスの痕跡を拾っていたセイウンスカイだが、ソフィアは挨拶もそこそこにいの一番それに食い付いた。セイウンスカイの解説も交えて、である。
セイウンスカイの解説は自他共に認めるモンスターのオタクのソフィアですら唸らせる知識量であった。単に受け売りを述べているだけでなく、セイウンスカイ自身の知見を交えての考察も入れている。セイウンスカイからすれば真面目に解説しただけなのだが、それがかえってソフィアの情熱に火を着けてしまっていた。
「なるほど……バゼルギウスには重殻竜下目*1との類似性が……」
「あくまで類似性があると私が考えてるだけで、近縁種かどうかはまた別かと。ただバゼルギウス以上に大きな体を持つ飛竜は軒並み重殻竜下目か、アカムトルムやウカムルバスのような翼を持つ以前の原始的な飛竜ばかりになるので、骨格的な類似性を考えるなら重殻竜下目のモンスターと比べる方がまだ比較しやすいはずです」
「確かに……飛竜種としての骨格を保ちつつもバゼルギウスは飛行を得意としていますね。反対に重殻竜下目のモンスターは皆飛行が得意ではない……」
「はい。体の大きさによって飛行に必要なエネルギーは当然増減しますし、重殻竜下目のモンスターとバゼルギウスとの間で飛行を選ぶかどうか、線引きできると興味深いかなと。バゼルギウスも飛行は得意ですが動作は緩慢としていましたし、あまり羽ばたかないというのも大きさと動作を関連付ける上で重要な観察点になると思います。他の飛行が得意とされる飛竜……リオス*2やセルレギオス、ライゼクスと比べるのも面白いかもしれません」
「重殻竜下目のモンスターと言えば……!」
こんなことを言うので、ますますソフィアの熱気がぶち上がる。最高潮に達したソフィアはなぜかグラビモスの名前を叫び、それをセイウンスカイに復唱させて統一感を図っていた。
「ゴホン! 君達、盛り上がっているところ悪いんだが、そろそろ本題に入っても良いかな?」
「あ……失礼しました……」
「ソフィア君、君がいないとセイウンスカイちゃんが自由に動けないんだよ。彼女は編纂者だけでなくハンターでもあるからねぇ」
「この知識量なら編纂者に集中した方が良いと思いますけど……」
「いや~、こちらにも事情が色々とありまして……」
様子を見計らってギルドマスターが声をかける。確かにセイウンスカイとソフィアの談義は学術院でするような高度な内容なのだが、本題はそれではない。
「そういえばティガレックスの調査をしたかったんですよね? 編纂者としての資格があるならご自分で依頼を出されても良かったのでは?」
「それは難しいです。私の中じゃ確信はあるんですけど、他人にはそれが説明できないので……」
「勘ってやつですよね! スカイさんほどの方なら正しい確信なのでしょう!」
(……言えない……龍呼びの声でチートしてるなんて流石に言えない……)
セイウンスカイはここ最近未知の樹海を騒がせている二頭のシャガルマガラの動向について、ある確信があった。ただしそれは、龍呼びの声による記憶の読み取りでようやく分かる事なのだ。ソフィアが編纂した資料でも、その事を裏付ける証拠がある。
「確かなんですよね。
「ええ。それどころか、直近では全く見かけません。シャガルマガラが二頭もいるのに……。それに、シャガルマガラも極めて非戦闘的な個体なんです。ハンターが攻撃しても、全く反撃しないで逃げてばっかりで……」
「二頭ともなんですか?」
「二頭ともです。最近じゃ私達のことを学習したのか痕跡を見つけるのが精一杯になんですよ。調査しようにも、これじゃあ……」
(……たぶん、いや、でも……仮にそうだとしたら……)
ソフィアからの証言で自分の仮説に当たりを付けるセイウンスカイ。当のシャガルマガラに出会えれば話を聞けるが、今では憶測程度しか語れない。
しかし────。
「ソフィアさん。これはその……学術的な論拠は全く無く、私の想像でしかないんですが」
「どうぞどうぞ! スカイさんの話なら金の卵千個に相当する価値があります!」
「(こっちだと価千金をそういう風に言うんだ……)えっとですね、前提としてシャガルマガラは狂竜症をばら撒きそれを他のモンスターに寄生させることで幼体であるゴア・マガラを生ませる繁殖をするモンスターです。ソフィアさんならこれに詳しい説明がいらないと思います」
「はい! 勿論です!」
「でもこれって、裏を返すと他のモンスターがいなきゃ繁殖できないという意味になりませんか?」
「他のモンスター……確かに……?」
「もっと言えば、確実にゴア・マガラが生まれる保証も無い訳ですから、1頭2頭じゃ寄生先が足りません。膨大な数、百か千かそこまでは分かりませんが大量に感染させることでトライ&エラーを行ってるんです。そして、そこまでやって生まれても三桁を越えるような数は生まれないでしょう。それはこれまでの狩猟記録から分かることです」
「ふむふむ。そう考えると、シャガルマガラは恐ろしい生態だけれど、豊かな生態系にひどく依存した繁殖を行っていると考えられますね。……あれ? そうするとあのシャガルマガラ達は……?」
「これは、極めて個人的な私の推測ですが────」
「────繁殖をしない。何らかの理由があってそう判断した方が、しっくりくるんです」
僅かに、セイウンスカイの声音は焦燥を帯びていた。
「いてて……ひどい目に遭いましたニャ……」
「あれだけやられてひどい目で済ますおまえも大概だニャ」
「あははは……」
ひどく疲れた様子のリボンと、呆れた様子のサシミ。それをエルコンドルパサーが苦笑いしながら見ている。
リボンの実力を見るという話で、原生林の採取ツアーに向かう事になったのだ。流石にまだ実力が分からない新人をいきなり狩猟クエストに連れていくのは酷だ。そういう訳で、採取ツアーで狩り場での知識がどれだけあるか確認し、余裕があれば遭遇したモンスターに挑むという話になった。採取ツアーであれば大型モンスターを狩れなくてもネコタクチケット一つで帰れる。リボンの実力を図るには丁度良いと思われた。
「本当に面白いわね、貴方達。ここまで個性的なパーティは珍しいんじゃないかしら」
「そんなに変わってマスかね?」
「ええ、それはもう。まさかガララアジャラを無傷で初見討伐するなんて、思ってもなかったわ」
「……たまたま相性が良かっただけだと思いマスが」
相性が良かった程度で絞蛇竜ガララアジャラを初見討伐できる訳がない。
言わずともその視線だけでなぜか居たたまれない気持ちにさせられるエルコンドルパサーであった。
エルコンドルパサーとしては、ババコンガやゲリョス程度で済ませるつもりだったのである。まさか原生林にガララアジャラしかいないとは思わず、血気に逸ったリボンが挑みたがったので様子見がてら相対する事になったのだ。
それを臨時的にパーティを組んだナディアが冷静に観察している。人間二人とアイルー三人では規定の参加人数を上回るのでニコは留守番となった。ナディアもミナガルデにいるリボンの父にリボンの様子を手紙に
「壁や木の枝を足場にしようだなんて、思い付いても普通実行しないわよ」
「う~ん、出来ちゃったからやってるだけでそんな特別なことやってるつもりはないんデスよね……」
「エルさんやサシミ君は良いニャ。私なんて攻撃されてばっかりで何も出来なくて……」
「それでピンピンしてるんだから、十分凄い才能ニャ……」
絞蛇竜ガララアジャラは原生林に生息するモンスターの中でも強者とされるモンスターである。少なくともエルコンドルパサーが想定していたババコンガやゲリョスなどよりは、間違いなく数段上に位置するモンスターであるだろう。
蛇のような体に僅かばかりの四肢を生やしたその姿は、並みの海竜種を遥かに凌ぐ体躯を持つ。最大金冠ともなれば全長は50mを越えるのだ。しかしその体に頼った戦い方はせず、麻痺毒を持つクチバシや鳴甲による足止めなど徹底して機先を制する戦法を好む。その体で囲うように追い詰めて最後に必殺の一撃を、という巨体らしからぬ狡猾さがガララアジャラの特徴であった。
他に類を見ない骨格という事で、剣士・ガンナー双方から戦い辛さを指摘されるモンスターである。弱点の頭部は常に頭をもたげる姿勢で剣士では狙い辛く、ガンナーもとにかく回り込むような動作を繰り返されるので狙いが付けづらい。ナディアほどの実力者であれば、事前に弾を"置いておく"真似ができるが今回の狩りでは同行しただけで力を貸す気は一切無かった。リボンの他にナディアの興味から、エルコンドルパサーの純粋な実力を図るための試金石でもあったからだ。
だからこそ、ガララアジャラの初見討伐という偉業には純粋に驚嘆せざるを得なかった。
「もちろん、オトモの功績は大きいわよ。特にリボンはその狙われやすさと打たれ強さは才能と言っていいでしょうし……」
「そうデスよ! リボンのおかげで私も安全にガララアジャラに乗れましたから!」
「そう言われると悪い気はしないニャ……囮役は大変だけど……」
ガララアジャラ狩猟の中で、最も異才を放ったのはリボンであるだろう。頭に巻き付けた名前通りの装飾が派手なせいか、ガララアジャラはしきりにリボンばかり狙っていたのだ。尻尾にはたかれ鳴甲を当てられ、地中から突き上げを喰らってもなおリボンは元気そうに転げ回っていた。ガノトトスに踏み潰されて起き上がってきたタフさは伊達ではなかったようだ。
唯一無二の空中殺法で翻弄するエルコンドルパサー、手先が器用でアイテムの作成・使用には一日の長があるサシミ、モンスターの気を引き打たれ強さが際立つリボン。火力不足が心配されるパーティであったが、蓋を開けて見れば彼らの個性にガララアジャラが成す術もなく。
ナディアが評価するに、これ以上無いと言っていいほど有望な新人達であった。
「貴方のお父さんに吉報を送れそうで良かったわ」
「ふんっ! あんなやつ、どーでもいいニャ!」
「まぁまぁ……リボンに才能があるのは分かりましたから、あとはそれをどれだけ伸ばせるかデスね」
「生命の粉塵をなるべくストックしておくニャ。不死虫を見付けたらオイラに渡しておくと良いニャよ」
ナディアの仕事はここまでのようだ。また別の任務に向かうのだろう。行き先も告げず、ニコと共に旅路に着く。
「また会いましょう。次は成長した貴方達と組んでみたいものね」
「はい! ナディアさんもお元気で!」
ニコも久々の故郷で充実した帰郷を過ごせたらしい。管理人と中々悪くない関係を築けているようだ。
旅は道連れ世は情け。交わる行き先もあるのなら、別れる事もまた道理。
また会える日を楽しみに、ナディアとニコ、エルコンドルパサー一味はそれぞれの道行きに向かっていくのだった。
ところ変わって。
「ほう……そなたがキングヘイローとやらか。うむ、話は聞いておるぞ。なんでもどことも知れぬ王の遺児というではないか」
「お目通り頂けて光栄ですわ、殿下。しかし、失礼ながら申し上げますと、それは風聞にしか過ぎぬ噂であります。この身は平民にしか過ぎません」
ドンドルマにて。
キングヘイローはこめかみが引きつきそうになるのを何とか抑えて目の前の尊大な少女に頭を垂れていた。
「はっはっは! そなたは冗談が上手いな! その振る舞いでどう平民と呼べるのか! ほれ、ちこうよれ。ウマ娘とやらの耳をよく見せよ」
「……たまたま、そういった機会に恵まれただけですわ。どうぞ私めにお気になさらずとも……きゃっ」
むんずと頭を掴まれ寄せられるキングヘイロー。噂に違わぬ我が儘っぷりにさしものキングヘイローも内心辟易していた。
「おお……やはり付け物ではないな。温かく、血も通っておる……」
「で、殿下! お戯れが過ぎます! ひゃっ……」
「ほ~う? なんじゃ、こうするとくすぐったいのか? ほれほれ」
「殿下……!」
気付けば背中から回られ文字通り馬乗りにさせられている。
"わがままな第三王女"────依頼主としてハンターズギルドでは有名なお姫様を前に、キングヘイローは相手をする事になった経緯を思い返していた。
みんなだいすき()例の王女です
一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?
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セイウンスカイとバルファルクに集中
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二作同時連載してほしい