今回はキングの回です。例の王女様は典型的な金髪のじゃロリ娘だと思ってください
第三王女とキングヘイローが出会う事となった経緯というのは、それはそれは複雑な事情が重なっている。
彼女はギルドが依頼を請け負う顧客の中でも屈指の大口である。王族故に金払いも良く、やはり金銭の恩恵は凄まじい。そして王族の依頼をこなしたとあれば、それそのものが他の潜在顧客たる依頼主に良い宣伝となるのだ。もちろん、ハンターズギルドは自然との調和を図る組織であるからして、言われるがままに依頼を受けてはいない。ただ彼女が持ってくる依頼というのは決まって無視できないモンスターであったりする事が多い。その筆頭はラージャンである。
ラージャンが持つ黄金の体毛で外套が欲しい、お揃いの手袋を作りたい、などと言った理由で依頼を出して来るがギルドとしてはそれを理由に依頼を受けている訳ではない。ラージャンは牙獣種でありながら古龍同様伝承に名を残す存在であり、古龍級モンスターの先駆けだ。目撃例が極端に少ないのも凶暴過ぎて目撃した者が大概死んでいるからである。それが王族の耳に入っている、という事からギルドとしては王女が依頼を出してきた時点で把握できない相当の被害が出ていると判断できるのである。
いくら自然との調和を図ると言っても人間に被害が出ている時点で取れる対策は一つしかない。そのためなら外套や手袋ごとき、何とでもなるというのがギルド側の本音であった。
さて、キングヘイローと出会う事となった経緯だが、これはいつものわがままが発端である。
王族の癖して無駄にフィジカルがある王女は、時折部下を出し抜いて自ら狩り場に向かったりする事がある。宝石を欲しがったり、チャチャブーを見に行ったり、果ては真の女王の座を懸けてリオレイアに挑むなど荒唐無稽な事をやらかしている。やらかしがやらかしなので最近は部屋にカンヅメにさせられているようだが、どうやら王女の興味はモンスターからハンターに移ったらしい。何と狩り場にてモンスターと対峙するハンターを直接見たいと宣った。
そんなの無視して部屋に軟禁していろと言いたいギルドなのだが、おかしな方向に才能を開花させつつある王女は下手すると1個師団すらすり抜けるスニーキングを誇る。ここで頭ごなしに叱りつけて言う事を聞く王女ではないので、いっその事目が届く範囲で好きにさせた方がまだマシなのではという話になったのだ。この話をギルドに提案した父王は王族らしからぬ疲労感を漂わせていたらしい。ギルドとしても勝手に狩り場を彷徨かれるのは困るどころではないので、妥協案として王の話に乗るしか無かった。
素案が固まったところで、同行させるハンターの選出が課題となる。
ハンターというのは経歴に差はあれど、基本的には皆荒くれ者だ。当たり前だが王族への礼儀など知らぬ者ばかりである。狩り場においてそんなものは石ころより役に立たないが、下手に無礼を働かれると困るのもまた事実だ。
では訓練所に在籍する貴族の子息なら、という話にもなったが彼らは何かしら実家からの息がかかっており一枚岩ではない。わがままが目立つとはいえ、王女は基本的には無垢だ。形ばかりの礼儀で何を吹き込むか分かったものではない。こうなると選出基準はかなり厳しくなる。
詰めに詰めて同行させるハンターは二人のみに絞った。一人はドンドルマに在籍するG級ハンターである。可能な限りの最大戦力で、不測の事態に備えての選出であった。こちらは直接王女に対応せず、王女の前で適当な大型モンスターと戦う役割となる。見世物にされる訳だが、報酬さえしっかり貰えれば気にしないという仕事人気質の熟練ハンターであった。
もう一人、これが最も肝要である。王女の護衛役として、ハンターの知識がある事、礼儀作法を理解しており、その上でどこの息もかかっていない事。どれも難しい条件だが不思議とぴったり、それが合う訓練生がいる。
果たして、運命の導きか、そんな難しい条件に当てはまってしまったキングヘイローは渋々ギルドの意向に従って第三王女の世話役をしなくてはならなくなった。
「災難だねぇ、あんたも」
「お気になさらず。自分の意思で参加しましたから」
最初の挨拶で第三王女に揉みくちゃにされたキングヘイローは行きの竜車でG級ハンター────チャージアックス使いの男に労われていた。
「知ってるかと思うが自己紹介させてくれ。俺はレドゥアン。見ての通り、盾斧使いでな。G級には最近上がったんだ」
「キングヘイローと申します。使う武器は……まだ決まってませんね」
「堅苦しいのは無しにしてくれ。敬語とかガラじゃないんだ。で、武器が決まってない? 訓練所にいるんじゃないのか?」
「それが……」
流石に王族と同じ竜車に同乗するのは憚られる。
王族とその側仕え、ハンターの竜車は別々としており、キングヘイローとレドゥアンは自己紹介がてら親交を深めていた。
「……なんでも扱えてしまう、と言ったら信じるかしら?」
「おお。あれか、全武器いけちゃうと」
「特別特化して使えるならまだしも、大体使えてしまうのが逆に悩むのよね……」
「へー。俺は回避が苦手でな。今でこそ火力を求めて盾斧使ってるが、若い頃はランスでとにかくガードしてたんだよな。気付いたらガード武器が専門になっちまった」
ブラキディオスの盾斧、ダイミョウザザミ亜種の装備に身を包んだレドゥアンは30代後半、G級ハンターとして見るに妥当な年齢である。ごく稀に才能か天にでも愛されたのか、破竹の勢いでランクを駆け上がっていく若いハンターもいるが、大概G級ハンターとは経験を積み重ねた者がなるのだ。
「そうするとあれか、モンスターごとに武器を変えるとかできるのか?」
「まぁそうなのだけど……今は片手剣ばかり使ってるわね。一緒に実地演習する子達が向こう見ずな子ばっかりで……今じゃ生命の粉塵を数えるのが日課になってるわ」
「俺からしたらそういうのはありがたいね。いつでも仲間が回復させてくれるってのは、攻撃に意識が割きやすくなる。死なない立ち回りも重要だが、一番安全なのはモンスターをさっさと狩ることだからな。攻撃は最大の防御ってやつだ」
「攻撃ね……火力が課題になってくるわね」
「ま、初めの内は火力なんて出したくても出せねぇさ。それこそ爆弾に頼ったりな。それにあんた、多分リーダー向きだぞ。狩り場じゃどうしたってモンスターに意識が向いちまう。仲間の方を見れるってのは間違いなく才能だ。案外片手剣の方が大成すると思うぜ」
流石にベテランとあって、キングヘイローが抱える悩みにも的確に答えていく。
彼とて一人で成り上がってきた訳ではない。ソロで活動するハンターもいるが、命懸けの仕事であればやはり仲間がいた方が生存率は上がるのだ。
「レドゥアンさんは何故この依頼を受けたの?」
「一番は金……と言いたいところだが、実を言うと暇だったってのがデカい。俺はともかく他の仲間達が休んでてな、たまたま空いてたのさ」
「一人でクエストには……」
「行かない行かない。俺は石橋を叩いて渡る主義なんだ。仲間がいねぇのに無茶はしねぇ。下位のクエストだって、普通は報酬が釣り合わねぇから行かねぇんだ。暇と金、たったこれだけだぜ」
実直な性格のハンターであった。出来ない事はしない。簡単なようで意外に難しい事だったりする。それを常に意識しているからこそのG級ハンターなのだ。
今回想定されている相手は原生林で下位のガララアジャラである。ガララアジャラは長大な体格と、とぐろを巻く動作で第三王女の目を楽しませるのにはちょうど良いと考えられていた。下位であるならばG級ハンターのレドゥアンが遅れを取る事も考えづらい。
何事も無く、考えられたはずの布陣であった。
しかしこの時既に、入れ違いでエルコンドルパサー達がガララアジャラを狩ってしまっていた。本来ならこうした誤差は極力無いよう情報のやり取りは緊密に行われるハンターズギルドだが、まだ電話やネットなど無い時代である。手紙の郵送はどうしたって時間がかかってしまう。
ガララアジャラの不在をきっかけがもたらす混乱に巻き込まれる羽目になるとは、この時まだ誰も考えていなかった。
「ここが原生林か。なんだが蒸し暑いのう」
意気揚々と原生林のベースキャンプに降り立つ第三王女。
お付きの侍女達は涼しい顔で王女の後ろに控えている。
ベースキャンプは湿地であり、第三王女の体格では下手に降りると溺れかねないため小舟に乗って堂々と胸を張っていた。
「まずはモンスター探しからであったな! 聞いたぞ、痕跡とやらを探すのであろう!」
「ええそうですわ、殿下。ただ、万が一ということもありますので、無礼は承知の上で私の後ろに控えて頂けると……」
「……仕方ないのう。わらわ自らモンスターを倒してやってもよいのだが……」
「姫様、あまりに羽目を外されるようであれば陛下の耳にも入れなければなりませぬ」
「分かっておる! ……また部屋に詰め込まれるのはごめんじゃからな!」
渋々といった様子でキングヘイローの話を聞く第三王女。それを、恐らく侍女頭であろう一人の侍女がぴしゃりと言い含めていた。
レドゥアンはというと、離れたところで準備をしている。正直下位のガララアジャラなら着のみ着のまま装備だけで瞬殺しかねないのだが、それをやるとほぼ確実に王女の不興を買うだろう。手に汗握る戦いを間近で見たいというのが顧客たる彼女の要望なのだ。依頼を受けている以上要望には応えなくてはならない。レドゥアンは本来不必要な準備を、これでもかと大袈裟に見せつけていた。
「キングヘイロー。痕跡を探す訳だが、これから狩るがらら……がららナントカはどのような痕跡を残すのだ?」
「まずは移動した跡である這いずり跡などを探すと決まっています。また、ガララアジャラの鳴甲……狩りに使用する特殊な甲殻があるのですが、それらが散らばっていれば、そこでガララアジャラが狩りをした痕跡となります」
「鳴甲とな……音を響かせる能力とは面白い! なれば狩ったガララで楽器でも作れば、さぞかし良い音が鳴るであろう!」
相変わらずモンスターを素材としたモノ作りには余念が無い第三王女である。
レドゥアンの準備が終わり一行はレドゥアンの後ろを追いかけるように原生林へ入っていく。舗装どころか何一つ人の手が入っていない大自然であるからして、歩き疲れて帰る事になるのを期待していたキングヘイローであったが、予想に反して王女の意気はますます軒昂となるばかり。
「うーむ。自然とはやはり良いなぁ! 空気も澄んでいて風も心地よい! 城で野暮ったい部屋に詰められるよりずっと背筋が伸ばせるではないか!」
「殿下、あまり前には……」
水浸しのエリアが多いため一度キングヘイローがおんぶでもして抱えようとしたのだが、第三王女は断った。意外にもお召し物が汚れるくらいは平気らしい。元より一人で狩り場に出掛けた経験があることからして、深窓のお姫様には程遠いようだ。
エリア1から順番に、1→4→3→5→2と反時計回りに回るルートを取る。もっと北にもエリアがあるが、そこは標高が高いため第三王女に崖登りさせる羽目になるからだ。標的であるガララアジャラも、どちらかといえば標高が低い場所での活動を好んでいる。
しかし原生林の中央、エリア5まで来たところでガララアジャラの痕跡は見つからなかった。
レドゥアンと王女一味は100mばかり離れている。レドゥアンはキングヘイローへ他の者には見えないよう小さく手を振った。────ハンドサインは卓越したハンター達が声を出さずに仲間へと連絡するポピュラーな連絡だ。慣れはいるが、例えば音に敏感なモンスターを刺激しないようにしたり、状況次第では声より手の方が早い時に重宝する。事前にキングヘイローと打ち合わせていた彼はこれまでの探索から、ガララアジャラがいないと判断した。
(ガララアジャラがいないって……)
ちらりと横目で王女を見るキングヘイロー。久々の外で興奮している第三王女だが、これでモンスターがいないと言って素直に帰ってくれる性格ではない。十中八九、ギルドや王家の思惑から外れて勝手に見つけようと動くだろう。上手いこと誤魔化さなくてはならない。
「殿下。かなり歩きましたし、そろそろ昼餉にされては如何でしょうか。あの様子ですと、ガララアジャラを見つけるのにもう少しお待ち頂くことになるかと」
「ふむ……そう言われると腹が空いてきたのう。しかしこんな場所で食せるものがあるのか?」
「ご安心を。狩人はいつ如何なる時でも食への備えをしていますのよ」
テキパキと携帯肉焼きセットを組み立てていくキングヘイロー。肉焼きはハンター生活における基礎の中の基礎と言っていい。ただの肉焼きセットと驚くなかれ、鍋でも用意すれば煮物だって作れるのだ。美味しい料理は正しく士気に直結する。ハンターという職は、ところによっては王族以上に美食珍味に巡り会える。腕があればなおのこと、食にはうるさいのがハンターなのだ。
「こうやって、直に肉を火に当てまして……」
「おお! 良い匂いではないか! わらわもやってみたい!」
「えっ、殿下、それは……」
「細かいことは気にするな! 侍女達も何も言わないであろう!」
「はぁ……」
王女の後方に控える侍女達は小さく目礼するだけで何も答えない。王家ではどうか知らないが、少なくともこの場においてはカカシに徹するようであった。何かあれば、先ほど王女を言いくるめたように一言飛んで来るはずだ。
「む……? おおおお!? 焦げてしまったではないか!」
「殿下、肉焼きにはコツがありますのよ。適切な瞬間を狙って火から引き上げますの。タイミングを図るための歌もありますから、まずは私の手本をご覧になさってください」
てっててってててってっててっててててれてれてれてれてれてててててん♪
「上手に焼けました~♪」
「なんと! 見事な肉ではないか!」
「さぁ、殿下も」
「やるやる!」
一度目は勝手が分からず失敗した第三王女だが、コツを掴むのは上手いのだろう。キングヘイローのお手本を見て、すぐにこんがり肉を量産していた。
王女にシェフの真似事をさせるのは如何なものかと、侍女達を気にしながら肉焼きをしていたキングヘイローだったが何も言ってこない。表情こそ人形のように変えていないが雰囲気からして柔らかく、まるで王女が自由にしている様子を心から慈しんでいるようだった。
侍女達の様子からキングヘイローは第三王女がそれなりに慕われている事が分かっていた。わがままは有名だが、だからといって平民や侍女をいたずらに虐げるような真似はしない。口にはしないが自分の歩くペースをそれとなく侍女と合わせたりするなど、その気になれば王族らしい寛容さやカリスマを持っている。"わがまま"であることは彼女の一側面でしかないのだ。
レドゥアンはそんな姦しい王女達とキングヘイローの様子を双眼鏡でニヤニヤ見ていた。キングヘイローが時間稼ぎに始めた肉焼きと合わせてこちらも携帯食料を齧っている。双眼鏡は如何にもモンスターを探してます、という雰囲気作りのためであってまともにモンスターを探してはいなかった。
(元気があって結構結構。ま、後はこの状況をどうするかだが────)
レドゥアンは原生林におけるモンスター達を思い返す。道中、ここまでにおいて全くモンスターを見かけていなかった。ゲリョス、ババコンガ、グラビモス、ガララアジャラ、他様々なモンスターが生息するはずの原生林でそれらの痕跡が一切見られない。それどころか────。
(大型モンスターがいないのはまだいい。ああいうのは当たり外れ激しいからな。だが小型モンスター……草食の連中もいないとなると……)
焦燥は無い。レドゥアンにはやるべき事が分かっていた。
(杞憂であってほしいもんだが────古龍がいるってなると、俺も本腰入れなきゃいけねぇよなぁ)
長年の経験から、最悪への予測だけは敏感なレドゥアンは、少女達の笑顔をどう守るかをひたすら思案していた。
原生林エリア5。
原生林においてほぼ中央とされるここは誰のものとも知れぬ巨大な肋骨が連なっている。
人が登れる場所ではないためハンターからは見過ごされがちな地形と化しているが、その肋骨の内一つ、頂上から眼下のハンター達を見下ろす影があった。
『くふふ、やぁっと見つけた、あれだよねぇ、頭に耳が付いた異界からの来訪者ってのは』
『異界から来たなんておかしなことを言うかと思ったけど、殲滅者の話もバカにできないなぁ。あいつの言う通りの姿だね』
『さしあたって邪魔なのは他の人間だけど……中央のあいつだけ引き離せばいけるかな。あの男だけやたら強そうだ』
影、といってもその姿は揺らめいていた。余程注視しなければ周囲と変わらぬ風景がそこにあるだけである。
『"来訪者"とだけ
『そうだ! あの子だけ捕らえて殲滅者に見せたらどんな顔をするかな! 無様にも負けたっていうし、きっと悔しそうな顔をしてくれるよね!』
『ああ、あの子の顔も、殲滅者の表情も今からどんな変化をするか、楽しみで仕方が無いよ────』
興奮した様子で長い舌を振り回し、ギョロリと別々に可動する両目は激しく揺れている。
やがて影は音も無くそこから消えた。最初から、そこに誰もいなかったように。
天候が急激に変化する。原生林全体が霧に覆われる事となるのは、影が去って間もなくの事だった。
次回、しじまの向こうへ
一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?
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セイウンスカイとバルファルクに集中
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二作同時連載してほしい