さぁ、ドス古龍トップバッターは元祖和風モンスのあいつ。今でこそ和風BGMと言えばジンオウガやミツネなどが挙がるでしょうが、個人的にはオオナズチを推したく……!
「なに? 帰れじゃと?」
苛立ちを隠そうともしない王女を前にため息を我慢するキングヘイロー。しかし状況は想定よりも悪くなっていた。
肉焼きで楽しく昼飯を食べた王女一味だが、食べ終わった頃にレドゥアンが見えなくなるほどの霧が突然立ち込めてきたのだ。当然だがこんな濃霧では狩りの観戦にも支障が出る。G級ハンターであるレドゥアンがいるとはいえ、その身は一つだ。ガララアジャラが見つからない事も踏まえて、また次の機会にと念押ししたのだ。しかし王女は不満げだった。
「まだモンスターを見かけてすらいないではないか。おぬしとの昼餉は悪くなかったが、わらわの見たいものとは違うぞ」
「殿下、狩り場において絶対は無いのです。G級ハンターがいても必ずしも守りきれる訳ではありません。この濃霧こそが既に危険なのです」
「姫様、私共もキングヘイロー様に並んで進言致します。どうかご再考を」
「……むぅ。そこまで言われては仕方ないか」
事前に父である王からも言い含められているのだろう。キングヘイローと侍女頭が揃って話せば不承不承ながらも聞き分けは良い。キングヘイローと王女一味は狩り場から撤退する運びとなった。
「レドゥアンさん! こちらは撤退するので……!」
「騒ぐな。位置がバレるだろ」
「いつの間に……!?」
濃霧ではレドゥアンにハンドサインが見えないため大声を挙げたキングヘイローだが、それより先にレドゥアンがキングヘイローに寄っていた。音も無く、気配も悟らせずにキングヘイロー達の側に忍んでいたのだ。
「全員黙って聞いてくれ。……俺達はもう捕捉されてる」
「……!?」
「正確な狙いが誰かは分からん。だが、この霧は明らかに自然現象じゃねぇ。俺達を分断する目的で作り出されたものだろう。噂に聞く霞龍────オオナズチの仕業ならな」
「……!」
「……んー!?」
「正直言うと、オオナズチに関しちゃ噂ばかりで俺に交戦経験は無い。戦ったことがある古龍はクシャルダオラだけだ。だが泣き言は言ってられん。古龍と戦えるハンターはここじゃ俺しかいないからな」
「私は……」
「お嬢ちゃんはこのままお姫様のところにいてくれ。この霧じゃ逃げろと言ったところで一人ずつ狩られるのがオチだ。メイドさん、あんたらも俺が見える距離にいてくれ。全員でゆっくりキャンプまで後退するぞ」
思わず叫びそうになった王女の口を無理矢理抑えるキングヘイロー。無礼は無礼だが今は一大事だ。古龍が相手では安全が確保できない。
鬼気迫るレドゥアンのセリフに流石の王女もわがままを言っている場合ではないと感じたのだろう。口を抑えられたままキングヘイローにしがみついていた。
音も無く、陣形が整えられる。
前後をキングヘイローとレドゥアンで構え側面に王女を囲むように側仕えの侍女達を配置する。正直万全とは言い難いがこれが現状できる限界だった。
キングヘイローとレドゥアンは双方側面を警戒する。古龍は知能が高い。武装している様子くらい分かるだろう。もし順当に狙うなら側面に侍女達を最初に狙うはずだ。
エリア4へゆっくり後退する。エリア2からでもベースキャンプに通じるエリア1に行けるが、これはエリア4がおおよそ浅い川のような地形になっており、オオナズチが接近してきた際には足音で気づきやすいからという目論見であった。
しかし。
古龍は想定を上回ってくる。
「の、のう、キングヘイロー、わらわ達は大丈夫なのじゃな? 無事に帰れるはずじゃな?」
「ええ、もちろんですわ。命に代えても、殿下を無事に────」
エリア5からエリア4へと差し掛かろうかというところ。
キングヘイローの言葉は続かない。
横合いから、しなる伸びた舌が彼女を捕らえたからだった。
『幸先良いなぁ~。まさかそっちから分断しやすくしてくれるなんてねぇ』
見解の相違である。
キングヘイロー、レドゥアンからすれば王族である第三王女を守るのが至上命題だが、オオナズチからすればそんな人間の都合など知る由も無いのだ。オオナズチの興味があるのはキングヘイローだけであった。
「……え……なに……!?」
キングヘイローは流石に混乱していた。王女に返答していたと思えば次の瞬間には見知らぬモンスターに咥えられているのだ。ハンターとして、まだ駆け出しですらない有精卵であるキングヘイローに状況を理解しろというのは酷である。
オオナズチはキングヘイローを咥えたまま崖を登り原生林で最も高い場所────エリア8に到達する。そこで一通り見渡したかと思えば、雑にキングヘイローを放り投げた。
「ちょ……いったいなんだっていうのよ────」
「『ああ、手荒になってごめんねぇ、邪魔が入らないところで君と話してみたくてさぁ』」
「……え?」
「『あれ? 言葉間違ったかなぁ。随分前だけど君達の"言葉"はちゃんと学習したはずなんだ。発音が問題かなぁ?』」
「待って、貴方まさか人語を……!?」
「『なんだ、通じてるじゃんか。そうだよ、ワタシは君達の"言語"を学習したんだ。君達人間は、とても面白いからねぇ』」
(まさか……バルファルク以外に話せるモンスターがいたなんて!)
キングヘイローに衝撃が走る。オオナズチはニタニタと、そんなキングヘイローの様子を観察していた。
「もしかして……私と話すのが目的なの?」
「『そうだよ。だって面白そうじゃんか。異界から来た違う人類なんて』」
「どこでそれを……!?」
「『ええっと、君達の時間感覚だと半年前っていうのかな? 少し前に、この世界の人間がシュレイドと呼んでるお城で動きがあったんだよ。あそこはワタシ達龍の間でも禁忌とされる場所でねぇ、みんな近づきたがらないけど動きがあれば気配で分かっちゃうんだ。そこでさ、いたんだよ。勝てる訳ないのに"黒い龍"に挑んでる龍がさぁ』」
「なんですって……」
「『そいつも面白くてね? "黒い龍"の炎に耐えようとしてたんだよ。何度も焼かれてるのにその度に体を再生させてね。どうせジリ貧だったろうけど、あのまま死なすには惜しいから、ちょちょいと霧を放って助けてやったんだよね』」
セイウンスカイがいればオオナズチの話を理解しえただろう。しかしキングヘイローでは概要くらいしか分からない。
キングヘイローに会えた事が嬉しいのか、オオナズチは一方的に話し続けていた。
「『助けてやったはいいけど恩知らずなやつでねぇ。回復したかと思えばワタシを食べたがるんだ。おかげで断片的な話しか聞けなかったよ。それでも、異界から来たという話はワタシの心を踊らせるのに十分だったのさ』」
「その……助けた龍から、私達の話を聞いたの?」
「『そうだよ。聞いたというか、毒に沈めて無理矢理尋問したってとこかなぁ。力任せのバカで助かったよ。いくら再生するといってもそれは肉体が十全に機能する前提だからね。毒に浸してしまえばタフさも関係無いね』」
「……」
キングヘイローはオオナズチの話を半分程度聞き流して周囲を観察する。
霧は無い。あくまでキングヘイローと他を分断するためであって、その必要が無いから今は使っていないのだろう。ただオオナズチのセリフからして霧は自在に制御できるようである。逃げ出す素振りを見せれば、また霧でこちらの視覚を遮るはずだ。
(隙が欲しいわね……一瞬でも、何とか出し抜かないと……!)
口調こそ軽薄だが仕事人気質のレドゥアンであればキングヘイローより王女を優先してキャンプに避難していると仮定できる。
第三王女については一旦無視だ。キングヘイローが今考えるべきは、逃げつつもオオナズチに追跡されないよう振り切る段取りであった。
「『……それで、君は、他の人間とどう違うのかな? 頭に耳が付いてるよね。それは他の人間には無い特徴だ。異世界だとそういうのが普通なのかな?』」
「……貴方、話したい癖に、よく相手の都合を無視できるわね。そういうの、嫌われるのよ」
「『嫌われる? 分からない。ワタシは聞きたいことを聞いているだけだよ。それのナニがおかしいんだい?』」
「そういうところ……って言っても分からないでしょうね。じゃあ、話を変えるわ。貴方ばかり話して私が話せないのは不公平じゃない?」
「『公平。不公平。……ああ、確か相手に対して対等な扱いを求める人間の認識の話だね! うん、それは分かるよ!
「……こちらから質問するわ。貴方はどうやって人間の言葉を学んだの? まさか通訳できるような人がいるわけじゃないでしょう?」
セイウンスカイとタマモクロスについては伏せて。
予感があった。
確信があった。
「『そんなの決まってるじゃないか。人間を捕まえて、ずぅっと間近で観察しただけだよ。複数捕らえて、彼らが話す様子をね』」
「……捕まえた人達は?」
「『……?』」
「会話を聞いたのでしょう。彼らをその後どうしたかって聞いてるのよ」
「『────殺したよ? だって、下手に逃がすと徒党を組んでワタシを探すじゃないか。面倒は潰すに限るよね』」
────オオナズチは、ヒトに
(バルファルクとは真逆じゃない……!)
その言葉を皮切りに、その辺の石ころをオオナズチへ投げて走り出すキングヘイロー。しかしオオナズチはそれを事も無げに舌で払って悠々と彼女を追いかける。
「『待っておくれよ、まだ君に聞きたい話がいっぱいあるんだ!』」
「聞いたら私の事を殺すつもりでしょう!? 違う!?」
「『あれ、なんで分かったのかな。まぁいいや、頼むから大人しくしてよ。その方が手間も省けるし』」
舌がキングヘイローへ襲いかかる。
毒も霧も使わないようだった。毒は話を聞く前に殺してしまう可能性があるからとして、霧を使わないのは単純にそれで事足りると考えているからだろう。そしてオオナズチがそう考えているように、キングヘイローとの差は歴然だった。
「『足が早いねぇ。普通の人間よりずっと早い。もしかしてそういうのが頭に耳が付いた君の特徴なの?』」
「この……!」
エリア8からはエリア3、もしくはエリア7へ行けるのだがどちらへ逃げようとも伸びる舌が阻んでいた。ウマ娘特有の脚力で何とか避けてはいるが、いつまでも避け続けるのは困難だ。舌を振り回すだけのオオナズチと走り続けるキングヘイローとでは、どう足掻いてもスタミナという限界がキングヘイローを襲う。
「舌ならまだ柔らかいでしょ……!?」
「『おおっと、そういうのはいけないね』」
せめて舌の動きを鈍くしようとすれ違い様にハンターカリンガで斬りつけようとしたキングヘイローだが、それを嘲笑うかのようにオオナズチは片手剣を奪い取ってしまった。これでもう、武器すらキングヘイローの手元に無い。
「『ほらほら。君の武器はもう無いよ。諦めて話を聞かせてよ。何をしたって無駄なんだから』」
「……!」
「『強情だなぁ。まだ走るの? ……その盾もいらないよね!』」
「ふっ」
不敵に笑うキングヘイロー。オオナズチと会敵してから初めて見せる笑みである。
「……一つだけ教えてあげる。私達ハンターの武器は、何もそれだけに留まらないのよ!」
「『ボエフゥッ!?』」
突如爆発する盾。
口元にそれを咥えていたオオナズチはそれをもろに浴びてしまう。
「『いったいなにが……げっ、眩しい!?』」
「さよなら、人間好きの古龍さん。貴方とはもう二度と会いたくないわね」
オオナズチが怯んでいる隙に閃光玉を投げるキングヘイロー。
突如視界を奪われ混乱したオオナズチはそれまでの優勢が嘘のようにキングヘイローの逃走を許したのだった。
「貴様、わらわの命が聞けぬと申すか! キングヘイローを助けよと言っておるのだ!」
「姫様、そればかりは……」
「……はぁ」
一方その頃。
原生林のベースキャンプにて。
レドゥアンはこれまで比較的聞き分けが良かった第三王女のわがままに辟易していた。
キングヘイローの見通し通り、レドゥアンはキングヘイローが拐われた上で第三王女の護衛を続行した。
突如として話していたはずのキングヘイローが目の前で消えてしまった事に第三王女はひどく混乱していたが、そこを無理矢理引っ張り何とかベースキャンプにまで帰還したのである。救難信号を意味する照明弾を撃ち上げており、後はギルドからの救援を待つという段階であった。
「助けが来るまでわらわはここにおれば良いのだろう! ならば貴様は手隙のはずじゃ! 疾く向かえい!」
「……ベースキャンプでも、安全は確実じゃないんですよ、お姫様」
努めて冷静に、レドゥアンが返答する。
ベースキャンプに戻って幾分調子を取り戻した第三王女は、強硬にキングヘイローの救出を主張した。後は助けを待つだけ、というのが良くなかったのだろう。例えベースキャンプにいてもレドゥアンを除けば残るのは非力な一般人だけである。不測の事態に対する意味でもレドゥアンは残らなければならないのだが、当の護衛対象である第三王女はそれに癇癪を起こしていた。
「姫様、まだ確実とは言えませぬ。どうかここは……」
「……分かっておる。どうせおまえたちもわらわの身を一番に考えているのだろう」
「お姫様よ、それだけ分かってんなら……」
「だが、
「……なに?」
レドゥアンが僅かに驚く。
わがままが有名だと聞いていて、確かにその通りに振る舞ってはいるのだが、しかし今の第三王女の言葉にはわがままでは済まない
「わらわは確信したぞ。あやつはな、どのような風説があるにせよ、やつの言う通り
「姫様、その点につきましてはまだ憶測の域は出ておりません。結論を出すには早計かと」
「いいや、違う。正真正銘、キングヘイローは平民なのだ。後ろ楯や血統などありはせぬ」
「……平民が礼節を知っているはずが────」
「逆じゃ。
今度こそ息を飲む一同。
まさか第三王女がここまで考えていたのかと、レドゥアンすら一目置いていた。
「おそらくじゃが、どことも知れぬ何処に我らの知らぬ大国があるはずなのじゃ。そこからウマ娘とやらがやってきた。何故来たかは知らぬ。だが、話を聞くにキングヘイローと同じウマ娘が同じだけの優秀さを訓練所で成したと聞いておるぞ」
「偶然……と片付けるのは難しいと?」
「セイウンスカイ、と言ったか。別の地で雑誌の見開きになるくらい名を挙げた新人もおったじゃろう。あれも確かウマ娘だという話ではないか。なぜ短期間に、知らぬ種族がここまで有名になる?」
「……」
「わらわはな、己がどう思われているか多少は分かっておるつもりじゃ。まぁ、それでどうわらわの振る舞いに頓着するかはわらわの自由じゃが、この程度ならわらわの"わがまま"で押し通せるじゃろ」
「……おいおい、中々食えねぇお姫さんじゃねぇか」
レドゥアンが嘆息する。
レドゥアンとしては、下手な政治事情に関わるつもりは全く無いのだが、聞いてしまった、いや、
「お姫さんよ、まぁそういう事情は抜きにしても、やっぱり俺が抜けるのは難しいぞ。ベースキャンプにモンスターがやってくることも、例は少ないが無い訳じゃねぇんだ」
「それでもキングヘイローには生きて帰って貰わねば困る。下手なことを言うのなら、あやつらの持ちうる知識はわらわ一人分等価にしても良いくらいじゃ」
「姫様!?」
「あと、助けを待つくらいならわらわ自ら向かった方が早いぞ。これを言うと城の皆が怒るが、その気になればわらわ一人で竜車は引けるからのう」
「……一番の懸念は、俺がお姫さん達を放っておいた時の風評とかその辺なんだが」
「うむ、そこは問題あるまい。わらわが命令して、その通り動いたのなら、わらわに責があって然るべきじゃ」
「……やれやれ、貧乏くじ引いたなこりゃ」
破岩盾斧イフルゼントを担ぎ準備するレドゥアン。先ほど見せたような大袈裟な準備ではなく、手際よく必要最低限のアイテムだけポーチに入れる。
「じゃあ行ってくる。……相手は古龍だ。手遅れでも文句は言うなよ」
「むぅ、そのようなことを言う暇は無いぞ。早うに行け────」
「待って下さい、あれは……キングヘイローさんでは!?」
「なに!?」
「はぁ……はぁ……はぁ……不肖キングヘイロー、戻って参りました」
ベースキャンプエリアの入り口。
息せき切って、武装も無く、それでも無傷のキングヘイローがいる。
第三王女はこれに喜びを爆発させ、思わずキングヘイローに抱きつくのであった。
『ゲフッ……なるほど、盾の裏にニトロダケと火薬草を仕込んでたんだ。調合ってやつかな? うっかりしてたよ』
思いもよらぬ一撃から回復したオオナズチは、キングヘイローを追いかけようと再度霧を展開させていた。
しかし────。
『逃げても無駄だよ。君の匂いは覚えたからねぇ。またすぐに捕まえて……』
『おイ』
空からオオナズチ目掛けて何かが降ってくる。直前に気付いたオオナズチが回避すると、先ほどまでオオナズチがいた場所に一つの黒い影が降り立った。
『おや君は……殲滅者! 殲滅者じゃないか! もうワタシの毒から回復したのかい? スゴいね、体力自慢じゃきっと君が一位────』
黒い影────滅尽龍ネルギガンテは返答せず、その剛腕を振るわんとオオナズチへ襲いかかる。接近してくるネルギガンテに対し、オオナズチは毒の霧を吐く事で牽制とした。
『またそれかい? 何度やっても、力任せじゃワタシに勝てないと言っただろうにっ……!?』
毒の霧を通り抜けて、ネルギガンテから放たれたトゲがオオナズチに飛来する。毒の霧を前にして、ネルギガンテは腕を地面に叩きつけたのだ。衝撃で纏っていたトゲが飛び散りオオナズチへ少なくない数が突き刺さった。
『君……そんな白かったっけ?』
『がくしゅうハ、おまえダケのハナシじゃない』
まるで
次回からセイちゃんの方へ戻ります
一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?
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セイウンスカイとバルファルクに集中
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二作同時連載してほしい