セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日々ご愛読頂きまして誠にありがとうございます。

アヤ国。実はモンハン世界の設定資料に名前だけある謎の国。拙作においては独自の世界観を加えています。お楽しみ頂けると幸いです。


アヤ国へ

 

 

 

 

 

 

『ぐぅ……』

『して……やられたな……』

 

 何処とも知れぬ森の中。

 端的に未知の樹海と称される森の中で、二体のシャガルマガラは痛みに耐えながらも必死に逃げおおせていた。

 

『迂闊だった。まさかあそこまで強いとは』

『逃げなければならない。"私"は決して死なない』

 

 ひどい有り様であった。

 二体の内、一体はシャガルマガラを象徴する狂角が完全に砕けており、もう一体は頭から背中にかけて未だ出血が止まらぬ裂傷が刻まれている。

 そして双方共に全身に火傷を負い、白銀に輝いていたはずの体は無惨にも灰色にくすんでいた。

 

 痛む体を引き摺るシャガルマガラ達。

 セイウンスカイが最後に放った渾身の一射は、着弾地点周辺を焼き尽くすほどの一撃だった。

 幻の眼差しに気を取られたシャガルマガラ二体は、直前で龍星に気付いたものの退避が間に合わず爆風のほとんどをその身に受けてしまう。かろうじて死なずに済んでいるのは古龍故のしぶとさのおかげだろう。

 

 顔も見せないセイウンスカイと二体のシャガルマガラの攻防は、シャガルマガラ側からすれば大敗も良いところであった。

 

『傷を癒さねば……』

『暑苦しい。まだやつの気配に焼かれている気がする』

 

 二体のシャガルマガラは逃走の道中、大河に差し掛かり飢え渇いた喉を癒す。

 二体には知らぬ事だったが、この大河は未知の樹海の中でも人間が調査の際に最終地点と区切られている箇所であった。未知の樹海は広大であるため、どこかしらで区別しておかないと調査の手が休まらないのだ。

 

『優先するべきは逃走だ。傷は後でも癒せる』

『そうだ、"私"の気配をやつに覚えられた。必ず追ってくる』

 

 偶然というべきか、この時対岸に設置されていたベースキャンプに未知の樹海を調査するハンターと編纂者の姿があった。普段なら高い警戒心で人前に滅多に姿を現さないシャガルマガラであったが、流石に損耗していてはそこまで気が回らない。

 

『"私"よ。やつから逃げられたとして、その後はどうする』

『ただ生き延びるだけだ。もう二度と、故郷に帰る必要は無いのだから』

『なれば、別の地に、安住を見出ださねば────』

『他の龍がいなければ良い。ただ穏やかな場所を────』

 

 ずるっと。

 大河の淵が崩れる。

 人の手が入っていない天然の河である。ところどころ脆くなっている淵も少なくない。

 普段なら、さっさと飛んで行けるのだが今は満身創痍。

 哀れ、二体はなんとも滑稽な姿を晒しながら落水し、河の進むままに東へと流されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後。

 バルバレにて。

 

「…………」

 

 いつもなら勝手知ったる我が家である竜車で、セイウンスカイは滝のような汗を流しながら黙って顔を伏せていた。

 

「年貢の納め時ニャねー。ご主人、これまでやりたい放題してきたツケが回ってきたのニャ」

「しっ! 今大事な話をするところデスから……!」

 

 いつもなら折檻するサシミの軽口も、今はそれどころではない。

 なぜなら、本来彼女達しか住まない竜車にギルドマスターや筆頭リーダー、更にはその師匠までギルドの名だたる重鎮が顔を揃えていたからであった。

 

 

 

 

 

 シャガルマガラとの一戦を経て。

 後先考えず大技を放ち、結果倒れたセイウンスカイは丸1日寝込んでいた。

 久しぶりとなる"龍呼びの声"の過剰使用である。ダービーでやらかした前回とは違い、ある程度制御した上での使用だったためセイウンスカイとしては予定調和だったのだが、エルコンドルパサーからはもう二度とするなと目覚めた時に泣かれてしまっていた。

 体の方は特に支障は無い。目が見えなくなる不具合も起きていない。そのため、明日からでもまたハンターとして活動できたのだがそれとは全く違った問題が発生していた。

 

「やり過ぎた……」

「セイちゃんってそういうとこありマスもんね。売られた喧嘩は倍にして買う主義なんデスか?」

「なんていうか……あいつら古龍は基本的に実力で物事を決めてること多いから、殴れる時に殴っておかないと後々調子に乗るんだよ……」

「その結果が森林火災なのは無理ありマスよ」

 

 エルコンドルパサーの言う通りであった。

 フィールド外とはいえ予期せぬ火災が発生すれば当然調査はされる。古龍と関わりがあるのなら尚更だ。

 目立ちたくなかったセイウンスカイは負傷や疲労という名目でとにかく外出する事を拒んでいた。本当なら真っ先にやるべきギルドへの報告もせずに、である。

 エルコンドルパサーなら無理やり連れ出して行く事も出来たが、とはいえ"龍呼びの声"の過剰使用がどの程度の負担なのか分からないためわざわざエルコンドルパサーがギルドマスターの元へ赴きセイウンスカイについて何とか誤魔化していたのだ。

 だがそれも、現場をしっかり調査し確かな証拠を揃えてきた筆頭リーダーらの前には無力だった。

 

「師匠、やはり退きませんか。婦女子の部屋に立ち入るというのはどうにも……」

「いつもならそう考えられるがね。これについて捨て置くというのは無理があるんだ」

 

 厳めしい顔つきでセイウンスカイを見るカンベイ。ギルドマスターが手ずから彼らをセイウンスカイ一味の竜車へと案内していた。

 

「セイウンスカイちゃん達には悪いんだけどねぇ。秘匿性が高い話なら、むしろこちらの方が良いんだよ。ギルドだと誰が聞いているか分からないからね」

「そういう配慮は、いらなかったかもですねぇ……!」

 

 自称小心者のセイウンスカイは挨拶もそこそこに、彼らが纏めた調査結果を聞いて顔を青くしていた。

 

「まずセイウンスカイ、君は以前からシャガルマガラの動向を掴むためにティガレックスの調査を欲していた。ティガレックスとシャガルマガラの間にどのような相関があるかは不明だが、君は確信を持ってティガレックスを捕獲した」

 

「そして捕獲したティガレックスを調査している途中にシャガルマガラの奇襲に遭った。それに対して君は迎撃し、結果として森林に火災を引き起こす程の被害を与えた……ここまでエルコンドルパサー君から聞いているが、何か相違は?」

「ありません。全部その通りでございます……」

 

 最早土下座と言っていいくらい頭を下げるセイウンスカイ。

 しかし、彼らの興味は当然ながらセイウンスカイの謝意よりセイウンスカイが持ちうる技能について向かっていた。

 

「どうやって迎撃したんだ? シャガルマガラと君がいた場所はおおよそで1.6里*1ほど離れていた。弓で届くはずがないし、届いたとしても居場所を掴む術が無い」

「それは……そのぅ……」

「セイちゃん、この際だからもう全部喋っちゃいましょうよ。その方が話やすいはずデス」

「……あぁぁぁもう分かりましたよ全部一切合切きっかり話しますよぉぉぉ!!!」

 

 とうとう自棄を起こしたセイウンスカイは、元の世界の事も"龍呼びの声"についても、洗いざらい白状する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって。

 

「なんで俺がこんなことを……」

「心中お察しするわ……」

 

 ドンドルマ、外門にて。

 レドゥアンとキングヘイローは、目の前で無邪気に姉へ甘える妹────わがままな第三王女と聡明な第一王女の二人を、レドゥアンと共に任される事となっていた。

 

 

 

 

 

 第三王女の護衛依頼において、お目当てのモンスターが存在せず逆に危険な古龍がいたというのは大騒動になった。

 エルコンドルパサーは知らぬ事だったがガララアジャラが既に狩られていた報告が入れ違いになっていたのである。状況としては不可抗力とはいえ、王族に万一の事態が起こりかねないミスが人為的に発生したためギルド側は王家へと平謝りし続ける羽目になった。最終的にはギルド側が多量の賠償金を王家に支払う事で政治的には決着した。

 

 キングヘイローはというと、あれ以来第三王女がドンドルマに遊びに来るようになった。それも、キングヘイローを目当てにして、である。やはり王族から覚えめでたいという事で、キングヘイローに纏わる風聞は悪化の一途を辿っていた。一時期は勇敢な第二王子の妃候補なのではとも噂されたが、流石にこれは王家が否定している。しかし、否定する一文の中に善き隣人としてこれからも交流を保つと明言されており、キングヘイローが王家にとって重要人物である事は最早確定的になった。

 当然キングヘイローにとっては困るばかりである。未だキングヘイローは学徒の身、たまたま条件に合う人材だったからクエストに行けただけで本来ならまだギルドカードすらない有精卵である。訓練所でハンターになるための修練に精を出したいキングヘイローとしては心休まらない日々が続いた。

 

 なお第三王女はいつものわがままを発動し、ギルド側にキングヘイローをさっさと卒業させろと迫ったがこれについてギルド側は強く拒否している。

 曰く失態とは別だと。最低限の知識が無ければ狩場で生き残る事すらままならないのだから、それも無い学生をむざむざ死なせるような真似は決してさせないと断言している。第三王女としては、訓練所を卒業したキングヘイローを王家専属にしてさっさと紐付きにしたかっただけなのだが、そこまで強硬に言われてはとあっさり引き下がった。

 このように、わがままは言うが無理なら無理で引き下がれるのは第三王女の長所と言えよう。たまに脱走はするのだが

 

 さて、転機が訪れたのはつい昨日である。

 キングヘイローに再び貴人の相手をしろという依頼が下った。このところ連日第三王女の相手をしていたキングヘイローにとっては対して変わらない話なのだが、聞けば相手は第三王女一人だけではないという。

 軽い胃痛を覚えながらなぜか呼ばれていたレドゥアンと共に指定の場所まで向かえば、そこに見目麗しい第一王女がいたという訳であった。

 

 

 

 

 

「みなさん、ご機嫌麗しゅう。……貴方がキングヘイローかしら。妹から貴方の話はよく聞くわよ」

「はっ。恐悦至極に存じます」

「そんなに硬くしないで。命懸けで古龍から妹を助けてくれたのでしょう? 本来なら褒美をあげて然るべきだというのに、父上ったら出し渋っちゃって……」

「浅学非才の私には、身に余る光栄かと……」

 

 第一王女は妹である第三王女をそのまま成長させたかのような姿をしている。しかし、身に纏う雰囲気は段違いであった。聡明と謳われるように、溢れる淑やかさや知性が所作一つで分かるくらいである。元気過ぎる第三王女と比べれば、これはなるほどとキングヘイローにも頷かせるカリスマを第一王女は持っていた。

 

「あー、姫さんよ。そういう挨拶周り俺は分かんねぇんだ。なんで集められたか、訳を話しちゃくれねぇか? キングちゃんはともかく、俺はいらねぇだろ」

「率直な物言い、嫌いではないわ。()()()()()()()私の方から話しましょうか」

(彼ら……?)

 

 レドゥアンの不躾な口調も、嫌な顔一つせずに答える第一王女。その背中から、第三王女がちょっぴり顔を出してはまるでイタズラが成功したかのように舌を出して笑っていた。どうやら今回は第一王女に着いて回るだけで、でしゃばるつもりは無いようだ。

 

「今回の依頼は護衛よ。けど、ただの護衛ではない。東の先の更に東へ、ずっと奥まで旅をする事になる」

「……どこまで行く気なんですかい?」

「アヤ国。聞いたことが無いかしら?」

「アヤ国……?」

 

 アヤ国。

 現大陸の南東部、海を越えた先の群島を治める国家である。

 大変珍しい鎖国国家でありその実態を知る者は少ない。過去に何度か多くの国々が使節を派遣しているが、それら全てがすげなく追い返されており、外界に対して極めて強い排他的意識があるとされている。

 稀にだがアヤ国から出奔する者もおり、そうした者達が現大陸で集まってアヤ国の流れを汲む集落を興す事もある。ハンターの拠点として名高いユクモ村やカムラの里はそれらの内の一つとされている。

 

(まるで昔の日本みたいじゃない……)

「そんな辺境の国になんかに行って、国交が欲しいんですかい? めぼしい物があるんですかね?」

「重要なのは彼の国が持つ歴史の古さよ。伝え聞く話だと、アヤ国は二千年近い歴史を持つと言われているわ。疑いようもなく世界最古の国家なの。……そして、アヤ国が鎖国を始めたのは約千年前……旧シュレイド王国が滅んだ時よ。そこからぱったり、アヤ国は外界との交流を閉ざしているわ」

「……!」

「我ら西シュレイドについての説明はいらないでしょう。もしかしたら、アヤ国には鎖国を行う前、旧シュレイド王国との交流の歴史があるかもしれないのよ。旧シュレイドの歴史を失伝している王家としてこれを見過ごすことは難しい。国交の樹立は我が国の悲願なのよ」

「なるほど……つまり、第一王女様が事実上の全権大使なのですね」

「事情は分かったが……また追い返されるんじゃないのか?」

「ふふふ……そのために()()()()を用意しているの。……そろそろ来たみたいね」

 

 第一王女が外に目をやると、奥からある一団がやってくる。彼らは旗を掲げておりその紋章はミナガルデの意匠で装飾されていた。そして一団の最前列にはキングヘイローが見知った顔が二人、一団の音頭を取っている。

 

「……え、まさか……!?」

「第一王女、第三王女、両殿下お初にお目にかかる。ミナガルデ技術士団、代表────シンボリルドルフ。この度着任致しました」

「待っていたわ。さぁ、貴女方が作ったという戦艦なる兵器……是非とも見せてちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむむむ……」

「……」

 

 チーン

 

 真っ白に燃え尽きているセイウンスカイ。

 それもそのはず、秘匿するよう言われていた事を何もかも暴露したためである。内容があまりにも突飛過ぎるため、ギルド側の三人も流石に飲み込むのに時間がかかっていたが、エルコンドルパサーも含め真摯な説明により少なくともセイウンスカイとエルコンドルパサーが嘘やでまかせを言っているつもりは無いというのは理解できていた。

 

「龍属性の使用、古龍との対話、痕跡から辿る過去視……とどめに異世界からの来訪者と。まぁ、君達が色々と異常なのは分かったよ」

「ソーデスネー、ワタシスゴイイジョウデスネー」

「セイちゃん、私みたいにしても現実は変わらないデスよ」

「少しくらい現実逃避させてよ! もうどんな処分が下るか考えたくないんだから……!」

「ほっほほ。それについては安心してほしい。むしろ、君の実力がどこから由来しているか分かったから、こちらとしても安堵しているんだ。そうか、あの王立書士隊の隊長殿とはねぇ……それなら納得だ」

「……えっと、怒らないんですか?」

 

 未だ考え込むカンベイに代わってジュリアスが努めて冷静に返答する。女性の耳目を集めて止まないジュリアスの容姿だが、セイウンスカイは彼に微笑まれても全く心動かされなかった。

 

「まず、君に処分を下すかどうかについては一旦保留だ。状況として、君の能力は極めて有用性がある。ギルドとしては間違いなく利用価値があるんだ。下手に処分を下して君がやる気を失うような事態は避けたい」

「いや……まぁ……やるべきことはやるつもりですよ。やる気とか、そういうんじゃなくて」

「ハンターとして、君の高い志には敬意を表する。実のところ、我々が追っていた二体のシャガルマガラについて異変があってね……」

「そこから先は俺が話そう。君が爆撃した二体のシャガルマガラだが、痕跡を辿って未知の樹海にいる編纂者が追跡してくれていたんだ。だが、()()()な理由でそれが不可能になった」

「政治的な理由……? あいつらがまた隠れたとかじゃなくて?」

「アヤ国だね。そうだろう?」

 

 苦々しい顔で頷くカンベイ。経歴から地政学には詳しいギルドマスターがアヤ国の概要をセイウンスカイ達に説明してくれている。

 

「シャガルマガラ達は河の流れに沿って大陸の南東まで向かいそこから海へと漂流していった。君の攻撃が重傷を負わせていたんだろう。飛び立つことも出来なかったようだ」

「その海の先に……アヤ国が?」

「話を聞く限り、昔の日本みたいデスねー。文化も日本っぽいデスし、サムライとかいそうデス!」

「サムライか。確かにそういう武人がいるという噂を聞いたことはあるが……ともかく、確定ではないにしろアヤ国にシャガルマガラが流れ着く可能性が高い。しかし、あそこはハンターズギルドすら及ばない未開の地、ギルドの支援が行えないんだ」

「えっ、サムライほんとにいるの……?」

 

 アヤ国にはハンターを派遣できない。

 国のみならず、過去にハンターズギルドも使者を立てたようだが結果は現在が物語っている。

 

「じゃあ、シャガルマガラはこれ以上追えないってことですか?」

「だが放置できるモンスターではないのも確かだ。君の言う通り、シャガルマガラ側に繁殖の意思が無くとも狂竜症は違う。例えシャガルマガラ達が死亡していてもウィルスは拡散する。もしアヤ国で大規模な感染爆発(パンデミック)が起きてしまえば、最悪アヤ国は滅亡する」

「何とかしてアヤ国に入らないといけないってことですね」

「ギルドとして、無理難題を言うようだがそれを以て此度の火災の免責、更には上位への緊急クエストとしたい。君ほどの実力者がいつまでも下位で燻っていては困るからね。ま、最悪帰っては来れるだろう」

「……エル、サシミ、リボン」

 

 ギルドマスターの言葉に覚悟を決めて仲間を呼ぶセイウンスカイ。エルコンドルパサーはいつも通りの快活さで、サシミは乗せかかった船ならぬ乗せられた船という意味で、そしてリボンは父に負けない名声を求めて、四人の意思が一つに固まる。

 

「行きましょう、アヤ国へ!」

 

 舞台は極東へと。

 四人の旅はまだ始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぅ……』

『"私"よ。ここは……?』

 

「わー、白いの動いたー!」

「なんかぼろぼろだね。死んでなかったんだ」

 

 東のどこか。

 その浜辺にて。

 

『これは……ヒトの幼体か?』

『"私"をつついている。どうやらやつらのなわばりに入ってしまったらしい』

 

 ゆっくりと体を起こす二体のシャガルマガラ。普段なら気にも止めない動作がやけに重々しく感じられる。

 

『腹が……減ったな』

『ヒトの幼体は食うに値しない。結局やつらから追われる羽目になる』

 

「こら、散りなさい! 凶暴なモンスターだったらどうするのですか!」

「うわ、()()()お姉ちゃんだ、逃げろー!」

「にーげろー!」

 

 子供達がクモの子を散らすように去っていく。代わりに現れたのは道着に身を包んだ一人の少女だった。その頭にはセイウンスカイ達と同じような耳が生えている。

 

「ふむ……得体の知れないモンスターのようですが……いや、()()殿なら知っている……?」

 

『こやつ、警戒しているな』

『爪も牙も無いようだが、余程自信があるようだ』

 

「はっはっは! こいつはまたとんでもないのが流れてきたな……うぉっと!」

「団長殿! 背後に立つのはやめてくれといつも言っているでしょう!」

「すまんすまん、おまえさんの反応が良くてなぁ。ついイタズラしちまうんだ」

「全く……それで、このモンスターについて知っているようですが……」

 

 一瞬、シャガルマガラ達でも掴めない気配がぬるっと少女の真後ろに現れていた。反射的に拳を振りかぶる少女であったが気配の主である男も手慣れたもので、あっさり躱している。

 

「ああ。知ってるも何も、10年くらい前に仲間と共にそいつを追いかけたのさ。懐かしいな、天廻龍シャガルマガラ……本来ならこんなところにいる古龍じゃないんだがなぁ」

 

 不思議な出で立ちの男であった。白いヒゲをたくわえ、極東独特の赤い着流しを纏う姿はどこかのご隠居を思わせる。しかしそれとは全く似合わない赤いテンガロンハットを被っており口元から溢れる笑みには若々しさを感じさせていた。

 

「古龍……となると御館様にお知らせした方がよろしいのでは……」

「そうだな……よし、ヤエノちゃんはシマヅさんのとこ行ってきてくれ。俺がこいつらを見てるから」

「よろしいのですか? 確か古龍は強大なモンスターと聞いていますが……」

「大丈夫だ。だいぶ疲れてるようだし、何より俺はシャガルマガラのことをよく知っているからな」

「……はぁ。加工屋のお兄さんには伝えておきますからね」

 

 赤いテンガロンハットの老人────我らの団・団長。

 道着のウマ娘────ヤエノムテキ。

 

 新たな地の、新たな出会いはすぐそこにまで迫っていた。

 

 

 

 

 

*1
1里=約4km。1.6里だと6.4kmくらいになる





ファンタジーあるある、極東に昔の日本っぽい国が大体ある説

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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