セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

83 / 102
皆様、日頃からご愛読頂きまして誠にありがとうございます。
やりたいこと詰め込みまくった感。ちょっとモンハンらしくない話がありますが大丈夫、この世界は"モンスターハンター"です。最後にはモンスターをハンターが狩る話に着地します。


砲艦外交

 

 

 

 

 

 

 しゃなり、しゃなりと。

 紅葉の葉が、踊るように散っていく。

 それを背景に、幾つも連なった鳥居の奥を進む一人の竜人族の姿があった。

 

 赤を基調とし、随所には長くのたうつ龍の装飾が施されている。冕服(べんぷく)と呼ばれるそれを身に纏う竜人族は、正しくこの国の頂点に他ならない。

 

 奥に進むと、光輝く一つの空間がある。そこには装飾らしいものは無く、ただ広い空間と薄く平べったい大岩があるのみだ。

 竜人族はその大岩に座す一体の龍に恭しく頭を下げていた。

 

 言葉も交わす事は無く、ただ静寂だけが全てを支配している。ただそれだけでよかったのか、あるいは言葉に代わる何かがあるのか。

 やがて竜人族は体を起こし、努めて龍に失礼が無いようその場を後にした。竜人族が訪れた時も、頭を下げた時も、そして去る時も龍に動きは無かった。

 

「主上。島津家より西シュレイドなる国から使者が参っているとの報せが」

「追い返しなさい。外来の者は攘夷せよと常に通達しているはずです」

「それが……彼奴(きゃつ)らは鉄でできた巨大な船を複数連れており、そのいずれもが大型砲を船体に備えているそうです。是非ともアヤ国近海で、()()をしたいのだと」

 

 鳥居を後にした竜人族に、官服を着た部下が報告を申し上げる。報せを聞いた竜人族は少し顔を歪めつつも冷静に指示を出していく。

 

「島津家に対応を任せなさい。どうであれ、一人たりとも我が国に侵入を許してはなりません」

「ははっ」

 

 いつも来航とは様子が異なるらしい。けれども、判断が変わる事は無く。

 

「我らの安寧は永劫不変。誰であれ、それが崩されることなど有り得ない」

 

「────ああ、百竜様は今日も穏やかであらせられる」

 

 一千年。

 今日も変わらず、アヤ国は時を止めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人力モーターボートとか頭悪いでしょこれ……」

「もーたーぼーとがなんニャなのか知らニャいけど、龍力の間違いじゃニャいかニャ?」

「セイちゃんも多才になってきましたねー」

「これならどこへでも行けますニャ」

 

 アヤ国、北方の近海にて。

 必要最低限の物資を携え海上を進むセイウンスカイ一味の姿があった。

 よく見るとセイウンスカイは小舟の後方におり、右手を海に突っ込んで龍属性を噴射している。そこから推進力を得て彼らはアヤ国を目指していた。

 

 

 

 

 アヤ国への侵入は危険が伴う。

 行くだけなら南から北上する潮の流れに沿って簡単に行けるらしい。ただしそれはアヤ国側も分かっていて、不審船が侵入しないよう南の海域には常に警戒船が巡回しているとの事だった。アヤ国西岸も同様で常に大陸からの侵入を警戒しているらしい。

 しかし、北は彼らの盲点になり得るだろうというのがカンベイの見解だった。アヤ国より北方の海域は常に荒れており侵入には適さないからだ。もちろん小舟でただ行くだけなら波にのまれるだろうが、セイウンスカイのおかげでそれを強引に突破する事が出来ていた。

 

「セイちゃん、そんなに能力を使ってて疲れないんデスか?」

「そういうのは無いよ。ていうかこの能力で疲れた事無いんだよね。龍属性だけならいくらでも使えちゃうんだ」

「それもまた不思議ですのニャ。モンスターだって限界はありますのニャ」

「つまり、ご主人はモンスターを越えたナニかかもしれないってことニャ」

「……まぁ今さら否定はしづらいよ」

 

 卓越した龍属性の扱いは舵を切る事すらお手のものだ。流石にこんな用途に龍属性を使う羽目になるとはセイウンスカイも思っていなかった。

 

「おや……?」

「どうしたんデスか、セイちゃん?」

「えーっと、海の中に古龍がいるね」

「え!?」

 

 海中の様子に気付いたセイウンスカイが舟を止める。他三人は慌てていたが、セイウンスカイは至って冷静だった。

 

「『大丈夫だよ。向こうも気付いてるし、敵対的な感じじゃないから。……おーい、初めましてー! ちょっと話が聞きたいんだけどー!?』」

『……なんだいなんだい。おかしな気配がすると思ったら……人間? にしてはなんでワテらの言葉が話せるの?』

「『あー、それには海よりも深い事情がありましてね……』」

「うわ……ほんとに古龍とお話ししてるニャ……」

 

 海から現れる黒い体躯。かと思えば体には幾つもの筋が通っており、それがまるで夜の街のネオンのように光輝いていた。

 

「『君名前ある? 無いならこっちでネロミェールって呼ばせてもらうけど』」

『そういうのは勝手にしていいよ。人間のやり方に興味なんて無いし。それで、君は一体何なの? ワテを追い出したいってなら受けて立つけど』

「『そうじゃないそうじゃない! この先にある島について色々聞きたくてさ……』」

 

 海から現れたのは溟龍ネロミェールであった。水を能力の主武装とする非常に珍しい生態を持ち、出現した地域には豪雨をもたらす古龍らしい天候操作も持つ。目撃例が非常に少なく、近年になって学術レベルで詳しい生態が纏められたのは新大陸古龍調査団のおかげだった。

 

『あんなとこ行きたいの? 止めはしないけどオススメしないよ。あそこは地脈が一方向に向かってるんだ』

「『地脈が一方向? それってどういうこと?』」

『どうも何も、地脈をいじって自分だけの物にしてるやつがいるんだよ。ずっと地脈を吸収してるだけあって凄く強大だろうさ。行くだけ無駄だから、ワテら龍は近づかないんだよ』

「『へぇ……。ところで最近ボロボロの龍が海に流されて来なかった? 二体いると思うんだけど』」

『二体の龍? 知らないな。もし流されて来るんだったらもっと南の方だよ。こっちは島から離れる海流だからね』

「『やっぱりそうなっちゃうか。他に何かここ最近で変わったこととかある?』」

『変わったこと……そういえば人間がやたらとでかいフネを南に寄越してたはずだよ。あれ底の方からかき回すような音がずっと響いててさ、すっごくうるさいんだよね。南の魚はよく肥えてて美味しいのに、あれに怯えて魚がみんな隠れちゃうんだよ。どかせるならどかしてほしいなぁ』

(かき回すような音……? まさかスクリュー音?)

「『分かったよ。フネの方も私の方で調べてみる。他に何かあるかな』」

『いいや、特には。不思議なもんだね、人間と話せるなんて。もう行っちゃうの?』

「『ごめんね。私達急いでてさ……また今度時間が取れたらお土産持ってくる。色々教えてくれてありがとう』

『はいはーい。まーたねー』」

 

 何とも気安い性格のネロミェールのおかげで触り程度アヤ国の現在を掴むセイウンスカイ。

 幸先の良い旅路だが、得られた情報はセイウンスカイを困惑させていた。

 

(スクリュー音? デカいフネって言ってたけど確かこの世界はまだ帆船が主流のはず……)

「セイちゃん、何か分かりました?」

「三つくらい。アヤ国には詳細不明だけど多分古龍がいること、ネロミェールはシャガルマガラ達を知らないこと、南の方にスクリュー音を出すデカいフネがあるってことかな」

「???」

 

 首を傾げる一同。

 アヤ国に未知の龍がいるのはまだ良い。未開故にギルドに知られていないモンスターがいても不思議ではない。ネロミェールがシャガルマガラを知らないのも、生息位置からして十分に有り得る話である。

 スクリュー音を出す巨船という話だけが異彩を放っていた。

 

「……その大きなフネって私達に関係あるんデスかね?」

「音がうるさくて魚が逃げちゃうって言ってたから、なるべく早く退かせてあげたいんだ。できるなら話くらいは聞きたいよ」

 

 再び右手を海に突っ込みアヤ国への旅路を急ぐセイウンスカイ。

 セイウンスカイは舟を進める傍ら、南に現れたという巨船の詳細がどうしても気掛かりとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「6年。これが、私とツヨシがこの世界に飛ばされて過ごした年月だ。キングヘイロー、君はこの年月を長く感じるかな。それとも短いか」

「6年……十分な長さに思いますけど……」

「私に言わせれば、余りにも短すぎた」

 

 アヤ国南方沖。

 甲板でキングヘイローは久方ぶりとなるトレセン学園生徒会長────現ミナガルデ技術士団代表たるシンボリルドルフと互いの近況について話し合っていた。

 

 

 

 

 

 6年前、ミナガルデ近郊にツルマルツヨシと共に飛ばされたシンボリルドルフは状況に困惑しながらも生きるための土台を築く事に奔走した。

 通常ならハンターとして身を立てていくのが手っ取り早いとされるがシンボリルドルフの才覚はハンターよりも全く別の道筋に活路を見出だした。────技術革新である。

 兼ねてよりシンボリルドルフは赤衣の男からもたらされる異世界の情報に大きな興味を抱いていた。なんとなれば、セイウンスカイ以外で最も熱心に赤衣の男の講義に出席していたのはシンボリルドルフである。

 あくまでも趣味の一環で赤衣の男の講義を受けていたシンボリルドルフであったが、実際に飛ばされたとなるとその行動指針には野望が含まれるようになった。

 

「ミナガルデは山の中を切り開いて作られた対モンスター用の迎撃拠点だ。当然それに応じて兵器群の高い技術力を誇っている。それに地球の技術史を教えてやれば────当然、産業革命が発生する」

 

 この世界に飛ばされてから一年間、シンボリルドルフは商人としてミナガルデの各鍛冶屋に地球の技術を知識として売り込んだ。ここにシンボリルドルフの才覚が冴え渡っており、全ての鍛冶屋に同じ技術を教えるのではなく、それぞれ別でしかも互いに補完しなければ完成しない物を教えたのである。

 最初は鍛冶屋も見向きもしなかったが、シンボリルドルフが自動車など未知の技術を次々と公開していくおかげで彼らの動向も変わった。常にモンスターの脅威に晒されている拠点という事でより優れた技術についてはいち早く研究して導入したいのがミナガルデの本音だ。シンボリルドルフはそうした鍛冶屋達の声を纏め最終的にはミナガルデ全ての鍛冶屋を持ち前のカリスマで従わせるまでに至った。それが5年前の事である。

 

 地盤を固めたシンボリルドルフはここで装甲艦の建造に着手した。山あいにあるミナガルデに必要な物なのかと当初は疑われたが、この世界特有の事情がそれを黙らせる。────砂上船である。

 大砂漠は現大陸のほぼ中央に大きく広がっている。普段ならいいが、時期次第ではジエン・モーラン、ダレン・モーラン二種の超大型古龍による襲撃が発生するのだ。腕自慢祭で有力なハンターを呼び集めているとはいえ特定の時期に船便が滞る事には変わらない。ミナガルデも砂上船による交易の恩恵は受けており、航路の安全を自力で確保するという名目は対モンスターへの意識が高いミナガルデ一同を纏めるのに十分過ぎた。

 

 砂上船という名目だが、浮力を計算すれば水上でも航行可能だ。シンボリルドルフは異世界で軍事力を手にするという野望を達成しつつあった。

 

「────建前としては対モンスター用なんだがね。とはいえ権力者は気付くだろう。前々から使者を通じて第一王女から打診があったんだ。こちらとしても、王家の後ろ楯を得られる訳だから丁度良いかと思ったのさ」

「まさか……自分が開国を迫る側になるなんて思ってもみませんでした」

 

 黒船来航。

 気分としてはそれ一色だろう。

 シンボリルドルフは前弩級*1戦艦の製造まで行けると考えていたが、流石に技術革新が進んでいても人手の確保は難しい。労働基準法もかくやというハイスピードで進めてきた技術革新も、流石に労働者から悲鳴が上がり始めていたためシンボリルドルフは一旦()()()のつもりで戦艦が登場する以前の、装甲艦のみの製造に留めたのだ。

 

「本音で言えばこれらを戦艦と呼びたくはないよ。私が目指す先は史上最大にして最強の戦艦────あの大和級なのだから」

「……なぜこの世界で戦艦の建造を……? 必要あるとは思えませんが……」

「この光景を見て必要無いと言えるかい?」

 

 3隻。

 シンボリルドルフが引き連れた艦艇の数である。

 それを取り囲むように前時代的な帆船が周囲を覆っているが、60m以上の船体を誇る装甲艦に対し、アヤ国側は最大でも20mほどの双胴船が旗艦という有り様だった。

 

「見てごらん、あの双胴船こそがアヤ国における最大の水上艦らしい。双胴船はね、船体こそ大きいがその特殊な形態のせいで波で荒れる外洋には不向きな艦艇なんだ。出来ても沿岸の警備に留まるだろう。もしかすれば、アヤ国には海軍の概念すら無いのかもしれないよ」

「島国なのに海軍が無い……?」

「この世界はね、人間同士の武力闘争の意識が極端に低い世界だ。私達の世界ほど、戦争で血濡れた歴史を持っていない」

「それは……」

「まぁ端的な実情を言えばそれどころじゃないというのもあるだろう。何せ古龍の機嫌一つで容易に都市が壊滅するからね」

「……そうでしょうね。古龍にとって人間の都合なんか知りませんから」

 

 人語を解するオオナズチと遭遇した経験から、キングヘイローは古龍の様子に大きく共感する。

 二人が乗船する装甲艦は横のみならず、高さでも帆船を凌駕しており意図しないとはいえアヤ国側の帆船を見下すような格好になっていた。

 

「だが、戦争が無ければ発展しなかった技術もある」

「ルドルフさん。その考えは危険です」

「何も戦争を直接起こしたい訳じゃないよ。ただ武力闘争の意識が低いと言っただろう? 古来より人間は異なる互いの政体、イデオロギーや宗教などで争ってきた。相手をどうしても上回りたいという欲望が、結果的に文明発展の狼煙を挙げている。しかしこの世界ではそれがモンスターにしか向いていないんだ。飛行船など目を見張る技術はあるが、全体として発展の兆しは薄い」

「……ルドルフさんは一体何が目的なんですか?」

 

 シンボリルドルフに薄ら寒さを憶えるキングヘイロー。

 学園にいた頃はまだカリスマ性のある生徒会長というだけでしか無かった。キングヘイローも一流のウマ娘として努力を怠った事は無いが、今のシンボリルドルフから発せられる圧はそれとは全く違う。

 

「"人間が想像することは、人間が必ず実現できる"」

「……ジュール・ヴェルヌ?」

「キングヘイローなら知っていたか。私はこれに大きく共感しているよ。私達の世界でも日進月歩、日夜目標に向かって邁進し続けている。その内、人類だけで異なる世界に旅立てたりとか、ね」

「……!」

「この世界は肥沃かつ豊かだ。今はまだ事故のようにこの世界へやって来させられたが、いつの日か行き来する日がきっと来る。けれどもそれは、決して有益なだけでなく互いに不利益を被る事態も発生するだろう」

「そして文明的な力比べをするなら……不利益を被るのはこちらの世界になる……わね」

「そうならないよう私は"力"を与えたい。今はまだ対モンスターとしての名目でしか作っていないが、いつの日か侵略者が現れるなら自力でそれを撃退できるように」

「……ルドルフさんの志は理解しました。しかし第一王女殿下は……」

「彼女も中々の女傑さ。そうでなければ、一人で供も連れずにあちらとの交渉に向かわないからね」

 

 シンボリルドルフはあらゆる事態を想定している。

 状況次第ではアヤ国本土への砲撃も已む無しと、剛毅な第一王女の身を案じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、アヤ国水軍旗艦、双胴船・国津丸。

 

「供回りを付けぬおんしの意気込みは買うが……梃子でも動かんつもりか」

「手ぶらで帰るつもりはありませんので」

 

 艦橋に設けられた一室でアヤ国風の着物を着た老人が第一王女に凄んでいる。しかし、それに全く臆する事無く第一王女はたおやかに微笑んで見せた。

 

 交渉は全く進んでいない。

 アヤ国側からは南島を取り纏める藩主島津家がアヤ国主上の名代(みょうだい)として西シュレイド大使である第一王女に対応していた。

 アヤ国としては非常に面倒な相手だった。これが名も知れぬ小国であったり由来が定かではない使者なら最悪切って捨てる事も出来たのだが、相手は現大陸最大の大国たる西シュレイドの王女である。アヤ国は鎖国を維持しているものの、外界に対して全くの無知という訳でもなく独自の諜報機関(シノビ)を用いてある程度現大陸の情報は入手していた。西シュレイドも当然既知であり、対応次第ではいらぬ諍いを招きかねない相手である事も分かっている。

 アヤ国としては何とか諦めてもらいたいのだが、第一王女が全くその気配を見せないので延々と何の益にもならない交渉に付き合うしか無かった。

 

「手ぶらとは言うが、貴様の言うシュレイドなる国なぞ知らん。我が国に求める物は無いぞ」

「有るか無いかは、こちらで決めることです。何にせよ、一度こちら側で精査する必要があります。そちらの歴史書を、我が国の歴史家に見せてもらうだけでもよろしいのです」

「……無い物は無い。それだけじゃ。手ぶらで帰ってくれ」

「手ぶらはあり得ないと言ったはずですが。それに……今はともかく、時間をかければ他にもやりようはあります」

(小娘が……)

 

 第一王女の言う時間とは、即ち装甲艦の就役にかける時間のことだ。現在出せる艦艇が3隻だけだったからその数で動いているだけで、他の艦艇は今もなお建造が進められている。第一王女達が乗ってきた装甲艦にはまだ水や食料などの必要物資が軽く数ヶ月は持つレベルで納められており、後から追加で来る装甲艦が来るまで十分に保たれる試算で西シュレイド側は臨んでいた。

 

「なんぞ、あの鉄甲艦で脅すつもりか?」

「まさか。千年に渡って鎖国を保ち続けた貴殿方(アヤ国)をこの程度で開けるとは思っていません」

「……意図が見えんな。まさかあれを持ってきておいて、ただ自慢したいだけとはあるまい」

「ええ、ごもっともです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけですので」

「……なに?」

 

 僅かに覗く窓の隙間から空を仰ぐ第一王女。

 シンボリルドルフによる技術革新は空にも及んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長、勝手にやっていいって言ってたけどホントに大丈夫かな……」

 

 アヤ国上空。

 小型の水上機────木造である事が随所に目立つものの、形だけで見れば二式水上戦闘機*2とそっくりな機体がアヤ国の空を旋回している。

 そのパイロットを務めるのは、体が弱い事で知られているはずのツルマルツヨシだった。

 

「ルドルフさんには何か考えがあるんだろ。ていうか、お嬢さんは平気かい? その……強走薬をがぶ飲みしてるみたいだが……」

「ああ、これは私の弱点を克服するためのアイテムです! これ使ってれば、しばらくは息切れしなくて済みますからね!」

「それはいいんだが……ま、いいか」

 

 同乗するのは比較的珍しい一族である土竜族の男性だった。しかし操縦桿は握っていない。機体の下部に空いた穴から粒さにアヤ国の地形をスケッチ、または写真に撮っていた。

 

 水上機も写真も、シンボリルドルフによる技術革新の賜物である。しかし写真はともかく水上機────より正確に言えば飛行機は当初受けが悪かった。

 シンボリルドルフは戦艦だけでなく、飛行機についてもミナガルデの技術者達にアピールしたがあらゆる技術の中でこれだけは技術者達も納得していなかった。既にこの世界には飛行船が存在していたからである。

 現代世界の飛行機と、この世界の飛行船では元となる運用思想からして違う。現代世界ではライト兄弟が空への憧れを抱きそれが結果として文明の発展に貢献したが、こちらの世界では気球が空への玄関口であった。飛ぶ事よりも、より高度のある場所で安定した拠点を求めたという赴きが強い。

 何より空の事情からしてニーズが異なっていた。現代世界とは違いこちらでは、飛行を得意とするリオレウス・セルレギオス・ライゼクスの飛竜三種、天候を操り局所的に荒天を生み出すクシャルダオラやアマツマガツチ、そもそも現代世界の戦闘機を凌駕しているバルファルクなどが生息している。このような修羅の空において速度ではなく飛行船の耐久性に重きを置くのはごく当たり前の事だった。飛行機では求める耐久性が得られないとされたのだ。

 また滑走路の情報も足枷となった。ごく一部を除き、飛行機は揚力を得るための長い滑走を必要とする。新たに滑走路を作るには土地を開発しなくてはならないがそのためにはモンスターの排除というコストがかかる。飛行船ならただ浮かせるだけで良いのでそういった取り回しの差も考慮されてしまった。

 結果としてシンボリルドルフが掲げた飛行機計画は頓挫する事となる。しかし転んでもただでは起きないのがシンボリルドルフだ。

 

「しっかしよく考えたもんだぜ。水上機って言ったかい? 海に浮かべりゃ滑走路代わりになるとはとんだトンチだな」

「一応、装甲艦に必要らしいので……」

 

 装甲艦の建造に着手した際、運用思想から偵察機が必要になるとシンボリルドルフは語った。元はと言えば大砂漠でモーラン二種を相手にするための兵器である。今まではデルクスの群れなどを基準に観測していたが、逆に言えばそれは船から目視できる範囲でしか探せないという事でもある。偵察機を使えばより広い範囲を索敵できるとシンボリルドルフは語ったのだ。

 水上機ならば滑走路を必要としない。何より機体が小さく装甲艦に収容できるのが強みとなった。技術者達が納得しなかった耐久性という問題も、偵察目的による短時間の飛行ならそれほど問題視されなかったというのもある。

 ツルマルツヨシはシンボリルドルフの補佐する傍ら、自ら水上機の有用性を実証するためにパイロットとして活躍していたのだ。

 

「……なるほどなぁ。よく区切られた島だぜ。真ん中の一番デカい島が本島なんだろうな」

「あれ? 奥にも島が一個ありますよね?」

「あそこは後回しだ。やけに離れた島だし、遠目から見ても家屋が見えねぇ。優先するのはアヤ国の村や町って話だからなぁ」

 

 現在ツルマルツヨシと測量士である土竜族はシンボリルドルフの命を受けてアヤ国の地図を作成しているところだった。もちろんアヤ国の了解は得ていない。完全なる無断である。

 完全にアヤ国の顰蹙を買う行為だが、そもそもアヤ国側が暖簾に腕押しなのだ。まともな交渉などハナから期待していない。シンボリルドルフは武力を直接用いずとも間接的に使う事でアヤ国への圧力を強める狙いだった。

 

 アヤ国には大まかに四つの島があり、それらの内三つが有人島である。北東から南西にかけて、斜めに連なるよう島が並んでおり、中央の火山が聳える最も大きな島が本土と見なされていた。

 

「昔の日本っぽいって聞いてたけど、富士山みたいな山まであるのはすごいなぁ……」

「へぇ、よく似た山を知ってんのか?」

「私の故郷にもあるんです。昔、友達がそれの登山に行ってて……私は行きたかったんですけど、体と相性が悪くてダメでした」

「今なら存分に見れるじゃねぇか。写真でも撮ってやりゃあお友達に自慢できるだろうぜ」

「フィルムだってタダじゃないんだからダメですよ。ほら、お仕事頑張らないと」

「ツヨシちゃんは真面目だなぁ。ならとっとと終わらせるか。三つの島は粗方記録しといたぜ。後は北の無人島っぽいところだな」

「はーい」

 

 進路を北に向けるツルマルツヨシ。

 無人島らしき島は、数km圏内の近傍に集まっている三島と違いおおよそで10km以上も離れた海域にあった。三島との間の海域は空からでも分かるくらいに海が荒れており、無人島である理由が垣間見える。

 

「やっぱり無人島みたいだなぁ。沿岸にルドロスが集まっちゃあいるが、他は何も無ぇ」

「木が全く生えてないですね。出来たばっかりの火山島なのかな……ん?」

「どうしたツヨシちゃ……なんだありゃ、小舟がすげぇ速度で動いてやが────」

「セイちゃん!?」

 

 操縦も忘れて窓の外に身を乗り出すツルマルツヨシ。

 6年。シンボリルドルフは短いと称したが、再会を祝すには十分過ぎる年月だった。

 

「ツヨシちゃん、あぶねぇって!? なんだ知り合いなのかよ?」

「うん、ずっと会いたかった友達なんです! あんなことできるのセイちゃんしかいない!」

「そいつはいいが操縦は忘れてくれるなよ。……ほら、あいつらあの無人島に行ってくれるみてぇだ。会いに行けるぞ」

「よっしゃぁぁぁ!!!」

 

 ツルマルツヨシが歓喜に湧く一方で、セイウンスカイ側も水上機の存在に気付いていた。

 

「うっそ……エル、あれツルちゃんが乗ってるよ!」

「ホントですか!」

「気配を確認したから間違い無い! みんなの気配は全部覚えてるから!」

「一旦あの島まで行きませんか!? あそこなら会えると思いマス!」

「OK、進路変更! ……あれ、島になんかいない?」

 

 双方共に再会しようと無人島に近付くが"龍呼びの声"による感知でセイウンスカイが気付く。

 

「不味い、モンスターがツルちゃんを狙ってる!」

「なんデスって!?」

「サシミ! 狙撃するから舟任せるよ!」

「合点承知ニャ~」

 

 手早くムフェト・ジーヴァの弓を構えるセイウンスカイ。直後に島から紫色の何かが飛び出しツルマルツヨシらが乗る水上機に向かっていく。

 

「げぇぇぇ!? なんかきたぁぁぁ!?」

「なんとか躱せ!」

「セイちゃん助けてぇぇぇ!!!」

 

「助けるに……決まってるでしょ!」

 

 再び放たれる龍星。

 シャガルマガラの時より威力は抑えてあるが、阻むのには十分である。

 

「グォゥッ!?」

 

 直撃したモンスターは空中で態勢を崩し島に戻っていく。不思議な事に羽ばたくような動作はなく、まるで宙を駆けるかのような動作で地上に降り立った。

 

「セイちゃん!」

「分かってる! 自衛、及び人命救助の必要性においてギルドはマガイマガドの狩猟を要請します! みんな、戦闘準備だよ!」

 

 海岸から忌々しげにこちらを見つめる影────怨虎竜マガイマガドは各所から鬼火を展開し、腕刃を大きく広げたのだった。

 

 

 

 

 

*1
時代による戦艦の区分。1906年に就役したイギリス海軍の戦艦ドレッドノートの性能がそれまでのあらゆる戦艦を凌駕するものであり、これ以後に製造される戦艦はドレッドノート級を基準に作られる程だった。このためドレッドノート登場以前の戦艦は前弩級(弩級の"弩"はドレッドノートの"ド"が由来)として区分されている。

 旧日本海軍では戦艦三笠などが前弩級に該当

*2
旧日本海軍で運用されていた水上戦闘機




ルドルフって絶対軍記物好きだよね

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。