カイチョー、不穏!といった感想が多いですね。しばらくはカイチョーのターンが続きます。
「ごめん、迎撃しなきゃいけないから舟を動かせない!」
「こっちで漕ぎますからセイちゃんは迎撃に集中して下さい!」
「グォォッ!」
アヤ国、北方海域にて。
セイウンスカイにとってはエルコンドルパサー以来となる二人目、ツルマルツヨシとの再会である。しかしそのセイウンスカイの行く手に怨虎竜マガイマガドが立ち塞がっていた。
ツルマルツヨシの水上機を狙ったマガイマガドだが、それを邪魔されて大きく苛立っていた。下手人であるセイウンスカイに矛先を変え、まずは上陸させないよう尻尾から特有の可燃ガスである鬼火を撃ち放つ。
「遅いんだよ」
しかしセイウンスカイには通じない。放たれる鬼火を龍属性の矢は容易にかき消していく。
「グルゥゥゥ!!!」
鬼火を消され頭に来たマガイマガドは独自の移動方法である爆発を使って、即座にセイウンスカイ一味の小舟に突貫する。勢いのままに舟を吹き飛ばそうとしていたが────。
「ほいニャ」
「ギャゥゥ!?」
「流石サシミ。アイテムの扱いだけは本当に上手いんだから」
「これがオイラの十八番だニャ。人間を自称する癖に力押し一辺倒のご主人とは違うのニャ」
「サシミ君、せめて狩りの最中に煽るのはやめようニャ……」
「セイちゃんも大人げないデスよ! 真面目にやりましょう!」
「「……は~い」」
これ以上無いピッタリというタイミングでサシミが閃光玉を投げていた。危険度の高いモンスターであるマガイマガドを前にして一瞬牧歌的な雰囲気が漂う。
視界を潰されたマガイマガドは落ちるよりも先に慌てて上空へと軌道を修正していた。位置は分からなくなったが海に落ちるのは不味いと分かっているらしい。
マガイマガドの視界が回復した頃にはセイウンスカイ一味が無人島へと上陸出来ていた。
「さぁ、今度はこっちが上陸させない番だよ!」
先ほどとは立場が文字通り逆転する。今度はセイウンスカイが海上にいるマガイマガドを狙撃し始める。
「グァ……!」
「いつまでもそのガスは続かないよね! さぁどうするつもりかな……!」
爆発で急制動を繰り返すマガイマガドだったがセイウンスカイからすれば止まって見える程だった。彼女が知る最速は他ならぬあのバルファルクなのだ。それに比べればマガイマガドの爆破跳法などノロマで通じる程度である。
「グルァァァ!!!」
「自棄を起こしたか……!」
セイウンスカイの狙撃に業を煮やしたマガイマガドは全身の鬼火を滾らせ矢にも構わず一気に急降下する────大鬼火怨み返しである。
鬼火を纏いセイウンスカイに向かって突貫するマガイマガド。着地と同時に爆破し一挙に滅する覚悟であったが────。
「グォ!?」
「突っ込んで来るのが分かってたらそりゃ仕掛けるよ」
「こいつご主人よりも力押しな癖してご主人より弱いニャ」
セイウンスカイに躱されることは予見していたマガイマガドであっても、着地地点に落とし穴が仕掛けられているのは想定外だった。セイウンスカイの指示で数瞬の間に罠を仕掛けられるサシミの職人技である。
「グォゥ……! グルゥァァ!!!」
「いつもなら普通にやるんだけど、今は急いでるので……!」
「グゥ!?」
身動きの取れないマガイマガドにセイウンスカイが右手を掲げて近付く。その拳にはいつぞやにオストガロアやアン・インシュワルダを叩きのめしたように龍属性が覆っている。
「ちょっと痛いけど、我慢してね!」
「グォォォォォ!?!?!?」
古龍すら悶絶させる一撃をマガイマガドが耐えられるはずも無く。
振りかぶった拳は、マガイマガドの左角をへし折り衝撃でマガイマガドを昏倒させていたのだった。
「セイちゃん!!! エル!!!」
「「ツルちゃん!!!」」
マガイマガド捕獲から少しして。
近場に水上機を停泊させたセイウンスカイとエルコンドルパサー、ツルマルツヨシは久しぶりの再会を祝っていた。
「まさかエルもいたなんて! もー、久しぶり過ぎて……!」
「ツルちゃんに会えて良かった……! エルからキングのことは聞いてたけど……!」
「え、キングちゃんなら会長と一緒に来てるよ」
「どういうことデスか!?」
再会も早々に近況報告に移る三人。
当初手放しで喜んでいたセイウンスカイだったが、シンボリルドルフが進めているという技術革新計画にまで話が及ぶと雰囲気を一変させていた。
「つ、ツルちゃん……その計画ってどれくらい進んでるの……?」
「進み具合? 会長に言わせればまだ全然だって。戦艦大和まで作れるようにしたいのが目標らしいよ。今は……だいたい2、3割くらいじゃないかなぁ」
「……ごめんツルちゃん、尊敬してる人を悪く言いたい訳じゃないんだけどそれ悪手なんだ。アイデアは悪くないけどアプローチの仕方が不味い」
「……やっぱそうなのかな。会長、なんか焦ってる感じするんだよね」
「焦ってる?」
「うん。最初は早く帰りたいのかなって思ってたんだけど……でもそれだったらセイちゃん探した方が早いし。でも凄く忙しくしててさ……あんまり聞けてないんだよね」
「そっか……ねぇ、南に大きな船があるって聞いてるんだけどそれもルドルフさんの?」
「そうだよ。アヤ国に開国を迫りに行くんだって。だから、西シュレイドの第一王女様とか偉い人も来てるんだ。キングは確か王女様のお付きの人になってたはずだよ」
「……私と別れて見ない内にキングは出世したんデスね~」
「もう何がなんだか……」
アヤ国と西シュレイドとの間で行われている外交についてようやく知る事となったセイウンスカイ一味。ネロミェールから装甲艦を退かせる依頼を受けているが、しかしセイウンスカイ一味の
「アヤ国が首を縦に振ってくれないと話が進まないんだよ。いつまでたっても無理の一点張りだから、勝手に地図を作っちゃえってなってるの」
「それは……」
「政治は得意じゃないけど私でも、これはヤバいって分かるよ。でも会長のことだからこれだけじゃなくてもっと色々用意してると思う。巨龍砲なんか持って来ちゃってるし……」
「巨龍砲デスって!?」
「待ってそれ……ドンドルマの最終兵器じゃん!? なんでそんなものを……!」
「戦艦には大きな砲を積むものなんだってさ。だから、ドンドルマの物を真似て作ったんだって。素材にレアなモンスターを使ってるから一個しか作れなかったけど、会長のいる旗艦にはそれが載せてあるんだよ」
東方派遣艦隊旗艦。
シンボリルドルフはこれを旧日本海軍で運用されていた扶桑に倣って建造させていた。
概ねの性能は扶桑に準ずる。燃料が石炭ではなくこの世界特有の燃石炭のおかげで航続距離が倍以上に伸びたり、搭載している兵装に水上機を採用していたりと違いはあるのだが、3隻の形状は
「巨龍砲、聞いた時は驚きました。今はまだ模倣しただけの代物ですが……これの長身砲化に成功すれば、古龍を相手を優位に立てられるはずです」
「いくらなんでもこれは……」
「やり過ぎだと思うかい? しかし、セイウンスカイに言わせれば古龍への対抗策はいくらでもあって然るべきだと言うはずだよ」
「大きな砲! 良いではないか! これで、古龍どもも我らの前に跪くであろう!」
「姫さんよ。喜ぶのはいいがこれはハンターから見ても異常だぞ」
艦の中央。
3隻の内、シンボリルドルフらが乗る1隻だけが明らかに後付けにされたような出で立ちで、すっぽり巨龍砲が載っている。
シンボリルドルフは第三王女に紹介するという名目でこれらの性能を公開していた。
「ルドルフさん。自衛のつもりで作っているとおっしゃっていましたが、これはギルドの理念と反します。ハンターズギルドはただモンスターを殺戮するのではなく、自然と人類のバランスを保っているんです。人間側からそれを崩すような真似は……」
「なぜバランスを保たなければならないか、分かるかい?」
「え……」
「キングヘイロー、君はひどく優秀だし、与えられた環境の中で最高のパフォーマンスを保つ努力としては君は随一だと言っていい。しかし、何故自分がその環境にいるかを理解出来ればより高みへと成長できるはずだ」
「なにを言って……」
「自然との調和を保つ。これは、
ミナガルデの技術者達の支持を得て装甲艦の建造に着手したシンボリルドルフだが全く障害が無かった訳ではなかった。戦列艦くらいはあるだろうど考えていたシンボリルドルフだったが、驚いた事にまともな武装船が撃龍船以外ほとんど存在しなかったのである。
この世界では火砲があまり優れていない。ボウガンなどと違って持ち運びに手間がかかる上に砲弾も重く嵩張るため基本的には迎撃拠点に設置するものという認識だった。これらの欠点は地球の歴史と同じだが、この火砲を進化させた現代と違ってこの世界ではハンターそのものや、撃龍槍など取って代わる戦力があったために火砲そのものの研究があまり行われて来なかったのだ。巨龍砲の登場でようやくスポットライトが当たったところであり意識としては発展途上どころの話ではなかった。
「私達の故郷では人類の活動が容易に自然へと影響してしまう。それらは公害など最終的は人類に跳ね返ってしまうため人類自身が自制を以て制御するが、ここでの人類は矮小なんだ。古龍どころか大型モンスターが暴れるだけで村が壊滅する。自然との調和とは即ち、自然をよく知った上で生存圏を広げる文明の発展に他ならない。決して自然が素晴らしいものであるとか、そんな理想論ではないんだ」
ハンターが搭乗する中で最大戦力である撃龍船ですらせいぜい4門の大砲だけである。撃龍船の主兵装はその名の通り撃龍槍であって、それ以外の兵器はあくまで補助としての役割しかなかった。
ボウガンでもそうなのだが、この世界では質量攻撃がとにかく物を言う。シンボリルドルフは地球の技術史を教える中で、ボウガンではなく大型の銃を作ろうとしたのだが、試作されたライフルとボウガンではボウガンの方が有用な威力を出している。地球の技術では金属を加工しそれを弾丸に使うが、この世界ではより硬く優れた弾薬が植物としてその辺に生えているのでコストパフォーマンスという意味でわざわざ銃を作る意味が無かった。金属の弾丸を高速で撃ち出しても、カラの実に色々詰めた方が有効であったのだ。
結局、地球の技術史を持ち込んで意味があったのは大砲をそのまま大口径化、かつ高威力化であった。地球の兵器のように武器の携行化や小型化を目指しても想定している相手が人間ではなく体の大きなモンスターなので、小型化では有効な火力が見出だせない。巨龍砲という先例のおかげで大砲の大口径化にも一定の理解があったためシンボリルドルフはそちらの方面から兵装の開発に乗り出していた。
「そうじゃなぁ。モンスターどもが邪魔なせいで我らの版図が広げられぬ。シンボリルドルフとやらの言う通り、ハンターがいなくては我が国もここまで発展しなかったであろう」
「その通りです、第三王女殿下。しかしハンターは個人戦力、もっと言えば国家に所属している訳でもない。パワーバランスとして、未だに世界はモンスターに傾いてしまっています」
「それに一石投じようってのがおまえさんの考えなのか? みんながみんなあんたみたい頭良い訳じゃねぇ。必ず無意味にモンスターを殺して回る奴が出てくるぞ」
「そうならないために国家での管理が必須なのさ、レドゥアン殿。……こんなにも広い世界だというのに、人類の勢力圏は非常に狭い。文明の発展を目指すなら、これは避けては通れない命題だよ」
(何かしらこれ……ルドルフさんらしくない、というよりかは何かと当てはまっていないような……)
シンボリルドルフが掲げる理想に大きな違和感を抱くキングヘイロー。確かに、訓練所ではモンスターを殺戮するのではなく必要に応じた狩猟をするのだと教わっている。モンスターが人間を襲うのは日常茶飯事だが、だからといってこちらから無理矢理追い出して人類の土地を広げたいというのは違うだろう。
「……ルドルフさんの考えは分かりました。しかし、ここでは勝手が違います。私達の知識を押し付けるのは的外れでは?」
「ほう、キングヘイローは反対かな?」
「歩んできた歴史が違う以上目指す先が異なるのでは、ということです。確かに
「……中々面白い話をしておるのう。わらわの見立ては間違いではなかったようじゃな」
「殿下、これは……!」
「よいよい! 共存か、それとも闘争か。無闇に戦ってばかりではいずれ力尽きるじゃろうし、しかし戦わずにいてもモンスターはこちらの都合を知りはせん。シンボリルドルフ、お主の言説には中々興味を引かれたぞ」
「滅相もありません。殿下を興じさせた所以、光栄の至り」
「しかし……あれじゃの。お主に傅かれるとむず痒くて仕方ない! シンボリルドルフ、お主どこぞで国でも率いていなかったか?」
「まさか。せいぜい学徒の身で先陣を切らせて頂いた程度ですよ」
「それで済む覇気ではないと思うがのう」
第三王女の軽口に心が軽くなるキングヘイロー。
顔にはおくびにも出さないが内心シンボリルドルフに反論するのは精神に相当堪えていた。なんと言ってもあの"皇帝"シンボリルドルフである。キングヘイローが欲して止まなかった三冠全ての栄誉を誇り、たった三度の敗北のみで戦績を閉じた日本レース界における至宝なのだ。キングヘイローは全距離G1制覇という自身の偉業を棚に上げて、シンボリルドルフを怪物視していた。
ちなみにシンボリルドルフに言わせると全距離G1制覇も大概である。お互いがお互いの青い芝生を見ている事に二人は全く気付いていなかった。
「キングヘイローの啖呵も見事であった。モンスターの中には稀な者もおるというし、それを我が国の財産とすれば殺すのは忍びない。どちらが良いというわけでもなくやり方を探していかなくてはいかんのじゃろうなぁ」
「殿下……」
「それはそれとして金獅子の毛は欲しいが」
「俺キレていいか???」
レドゥアンを見ながら至極真面目な顔でいつもの"わがまま"を言い出す第三王女。
第三王女はアヤ国行きに同行する間際、衣裳を新調せねばとまたラージャンの狩猟依頼を出していた。しかもレドゥアン指定である。レドゥアンは他にも第三王女の無茶振り依頼に付き合っており、それのおかげで数ヶ月以内にG1からG3に到達するというギルドもびっくりの速度でランク上げを果たしていた。レドゥアンは仲間から羨ましがられたが、当の本人からすれば完全に貧乏くじを引かされた有り様であった。
「ラージャンの連続狩猟ってなんだよ。古龍と互角のバケモンがわんさかいていいわけないだろ」
「面白い報告であったぞ。金獅子は稀なモンスターと聞くが、稀な理由は目にした者が殺されておるからで、生息数そのものは比較的多い方ではないかと聞いたな」
「……付け加えますと、ラージャンは雪山や火山などの極限環境を好みます。生息数に反して目撃例が少ないのは単純に人と出会っていないからかと」
「その依頼を受けて完遂させているレドゥアン殿も中々の実力者と見受けるが」
「ラージャンはもうこれっきりにしてくれ……」
まるで夜勤続きの社会人のような顔で辟易するレドゥアン。
ラージャンが1頭のはずが、ラージャン同士が凌ぎを削る熾烈な縄張り争いに巻き込まれたらしい。逃げる判断は出来たはずなのだが、しかし逃がしてくれる相手でもないと何とかラージャン達の猛攻を掻い潜って狩猟を成功させていた。
「確か……ラージャンには通常のものより良い毛並みを持つ個体が……」
「俺死ぬから!? 激昂ラージャンなんてやるわけねぇですからねお姫さん!?」
「そこまで言うか。つまらんのう、過去には
「流石にそれは眉唾でしょう……」
「どうだろう、ハンターの力量は青天井と聞くし、もしかしたら本当にそれを成し遂げた者がいるかもしれないよ」
「そんな化物ハンターと一緒にしないでくれよ。こちとら順当にキャリア積んだだけのノーマルハンターだっつうの」
「……G級の時点でノーマルは無いと思うわね」
オオナズチとの一件で王家に対するギルド側の立場は厳しい。賠償金を支払ったからといってすぐに済む話ではない。ギルド側の便宜で王家の依頼を優先的に受ける事になってしまっているため、第三王女から目を付けられたレドゥアンは割りと洒落にならない意味で雁字搦めの立場にされてしまっている。
第三王女がレドゥアンに飽きない限り、しばらくは彼の懐が暖かくなり続けるだろう。
「この際だから本音を言いますけどね、俺としちゃあ休暇のつもりなんですよ。こんなバカでかい船を襲おうなんてモンスター普通いませんから」
「うむうむ。たまには部下に休みを与えるのも良い君主の務めじゃ」
「あの、殿下……レドゥアンさんは王家の専属では無かったかと……」
「細かいことは良いではないか! ギルドからもレドゥアンを好きに使って良いと聞いておる! わらわに仕えられること、光栄に思うと────」
「ル……ルフさ……底……ナー……反……」
「分かった。報告ありがとう。心配せずとも、この艦はそう簡単に沈みはしないよ」
シンボリルドルフの元へ部下が一人、小声で報告している。どうやら予期せぬ事態であるらしく、シンボリルドルフよりもずっと年上であるはずの部下の男は険しい顔でいたが、シンボリルドルフは泰然自若である事を見せて、部下を激励していた。
「む? どうしたのじゃ?」
「この艦の下……海底に移動する大型の物体を確認しました。おそらくはモンスターかと」
「おいおい、そりゃどういうことだ? どうやって海の中を……?」
「まだこの艦艇の紹介途中でしたね。艦艇には巨龍砲とは別に、海の中を索敵するための実験的な機能も搭載しています。ソナーといって、簡単に言うと音で海中を探る機能です。音というのは地形に跳ね返って元の位置に戻ってくるのですが、それを利用すれば視覚が利かなくても探知することが出来るのです」
「ほうほう、それは何とも画期的じゃなぁ! それで、船の下にいるモンスターとは一体何奴か?」
「それが……ソナーはまだそれほど精度がよろしくなく、いるということは分かってもぼんやりとした位置までしか掴めないのです。モンスターの詳細まではなんとも……せいぜい大きさと形くらいでしょうか」
「その大きさと形だけでも教えちゃくれねぇか?」
部下から聞いた内容もそのままレドゥアンに伝えるシンボリルドルフ。話を聞いたレドゥアンはシンボリルドルフの部下ほどではないにせよ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「いいか、相手は別に歩いてるだけだ。こっちに何か被害を出してる訳でも、攻撃する意思がある訳じゃねぇ」
「それくらい分かっているとも。まさか無闇矢鱈と攻撃するとでも?」
「演習にはちょうど良いとかほざきそうだから釘刺してるんだよ。この船がどこまで強くても関係ねぇ。自分から鉄火場に突っ込んで自滅するような真似をしたところで、俺は助けないからな」
「ふふ、どうやらレドゥアン殿には大層嫌われてしまったらしい。だが安心してほしい、この艦に限っては貴殿の助けは借りないとも」
「どうだかねぇ。相手は正真正銘の古龍級────砦蟹シェンガオレンだ。やつの硬さは想像を超えてくるぞ」
「おい、お嬢さん方。再会に浸るのはいいが、こっちも仕事中でね」
「あ、土竜のおじさん!? ごめん、すっかり忘れてた……」
ところ戻って北方の無人島。
互いの近況報告に花を咲かせていたセイウンスカイ達であったが、今はお互いに立場が違う。ツルマルツヨシは測量士に声をかけられて戻るしか無かった。
「セイちゃん、エルちゃん! 時間があったらこっちに来てよ! 会長とも話せるしさ!」
「もちろんだよ。ルドルフさんには問い詰めなきゃいけないことが出来ちゃったしね」
「エルのこともキングちゃんから聞いてたよ! 二人には会ったよって報告しておくから!」
「久しぶりにキングと会いたいデスね! 私達とパーティが組めれば最高デス!」
ツルマルツヨシは測量士を伴って艦隊へと戻る。これがもう少し大きい機体ならセイウンスカイ達も乗せられただろうが、ツルマルツヨシの機体は二人乗りが前提だ。
セイウンスカイ達は再び空へと昇るツルマルツヨシ達を見送った。
「そーやってると、ご主人も年頃の女の子みたいなのニャ。友達はいいものなのニャ」
「"みたい"じゃなくて実際にそうなの! 全く……あとはスペちゃんとグラスちゃんかぁ」
「この様子なら他の二人も大丈夫だと思いマスけどねぇ」
「あのお二方、捕らえたマガイマガドはどうされますのかニャ……?」
「あっ、忘れてた……!」
リボンに諭され未だ昏倒しているマガイマガドに近づくセイウンスカイ。
編纂者としての役割も持っているため、マガイマガドの様子をスケッチしたり体長などの記録を付けていたのだがその途中セイウンスカイが何かに気付いたように焦った声で自分のバッグを探していた。
「やっべ、まずった……!」
「どうしたんデスかセイちゃん。マガイマガドに何かありました?」
「やらかしたっていうか……マガイマガドの角を折っちゃったのが良くないんだよ」
「なんでデスか? モンスターの角を折るくらい普通じゃないデスか」
「状況が特殊なんだよ。私達はアヤ国に入ったばっかりでこの地域の生態系を知らない。だから、襲われたからといって無闇に討伐してちゃ生態系に影響を与えるかもしれないんだ。私は可能な限り捕獲して、なるべく元の生態系を維持したいんだけど……」
「けど?」
「マガイマガドの角って……オスがメスへの求愛に使う物らしいんだよね……」
バッグからようやくセッチャクロアリを取り出してへし折れた角を何とか繋ぎ合わせようと四苦八苦するセイウンスカイ。その様子を手先の器用さではセイウンスカイ達を上回るサシミが呆れた様子で声をかけていた。
「ご主人、そういうのはオイラに任せるのニャ。ご主人じゃセンスが足りてないニャ。ほら」
「任せるよサシミ。……マガイマガドはより強靭な強さを獲得した特殊個体が確認されているんだけど、その
「モテない腹いせに他のことへ八つ当たりしてるようにしか聞こえないデス」
「エルさん、言葉を選ぶべきですのニャ……」
「ぶっちゃけそう言えばそうだろうけども」
たまに言葉の斬れ味が鋭くなるエルコンドルパサー。
それはさておき、こういう作業では一日の長があるサシミの手にかかれば砕けた角も元通り。
余程近くに寄らなければ分からないほどには、角が元通りになっていた。
「流石だね。これで誤魔化せればいいんだけど……」
「多分無理だニャ。普通にしてればともかく、さっきみたいに爆発でびゅんびゅん動いてたらその内ポロっと取れるニャ」
「えー……」
「えー、じゃないニャ。後先考えずに龍属性をぶっぱする癖を直すべきだニャ。そんなだからいらない苦労をする羽目になるのニャ」
「あぁ……いや、うんまぁその通りだね……」
「サシミ君の手でもダメなんデスか?」
「もっと強い接着剤があればいけるニャ。セッチャクロアリも優秀だけど、炎を纏うこいつとは相性が悪いのニャ」
「こういう時のサシミ君は職人さんみたいニャね……」
「よし……こいつが起きる前に島から出よう!」
セイウンスカイの宣言に一同ジト目になる。
言っている事に間違いは無いのだが、どう見てもマガイマガドという厄介事から逃げる気満々でしかない。
「いやほら! 私達の目的はシャガルマガラだから! マガイマガドじゃないから!」
「セイちゃん……」
ツルマルツヨシとの再会という予期せぬ幸運とマガイマガドを尻目にセイウンスカイ一味は再びアヤ国本島を目指したのだった。
────……?
数時間後。
昏倒から目覚めたマガイマガドは落とし穴からゆっくり抜け出て状況を確認する。
辺りはすっかり暗くなっていて、セイウンスカイ達はいなかった。そのため警戒は解いていたのだが、なんだか頭に違和感があるような気がしている。
海面に自分を映してみたが特に不自然は無い。だというのに、どこか感覚が通っていないような、そんな気がしているのだ。
無駄に動いたせいか、ひどく腹を空かせている。
ちょうどルドロス達が寝る時間であり、親玉であるロアルドロスも海から上がって来ていた。とりあえず、空腹は解消できるだろうと沿岸のコロニーを襲撃してロアルドロスを一撃で仕留める。セイウンスカイ相手には不発だった大鬼火怨み返しは正しくロアルドロスを焼いていた。
逃げ出すルドロス達には目もくれず、ロアルドロスを咀嚼するマガイマガド。
しかし違和感は拭えない。それどころか、何かバランスが悪いような────。
サシミの言う通り、激しい動きには耐えられなかったのだろう。違和感に沿って振るわれた頭部から左の角が落っこちる。
思わず食事を止めるマガイマガド。何度見てもそれは自分の角のようにしか見えない。
これをやった下手人は知っている。数時間前、意識を失う直前に渾身の拳を受けているからだ。
「グゥッ……グォォォ……オオォォォン……!!!」
咆哮と共に慟哭するマガイマガド。
怒り、ではない感情が彼を支配している。
涙に濡れる彼の瞳には、ただただ怨みだけが籠っていた。
【悲報】マガイマガド、無事角が折れる
一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?
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セイウンスカイとバルファルクに集中
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二作同時連載してほしい