セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃からご愛読頂きまして誠にありがとうございます。

さぁそろそろあいつが正式に登場。拙作の事情でちょっと特殊な個体になっております


転機/天気

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

「ふぅ……」

 

 交渉が一時中断され第一王女は装甲艦に戻ってきている。

 彼女は艦の中で、居住区画に設けられている浴槽で疲れを癒していた。

 

(島津の方も悪い人ね。意図的に隠していたなんて)

 

 交渉が中断された理由は海底に蠢くシェンガオレンの存在である。古龍に匹敵する危険性を持つ超大型モンスターがいるという事で、万一があっては不味いと第一王女は戻らざるを得なかった。

 アヤ国側はシェンガオレンの出現にそれほど驚いていなかった。どうやらアヤ国近海で度々目撃されていたらしい。これがアヤ国に上陸するならまだしも海中にいる限りは手の出しようが無いので放置するしかなかったのだ。

 ただ、今までがそうだったからこれからも大丈夫という保証は無く、レドゥアンが音頭を取る形でシェンガオレンの監視が続けられていた。

 

(砦蟹についてはハンターに任せるとしましょう。後はアヤ国の出方次第……)

 

 ツルマルツヨシと測量士の土竜族は帰投しており、彼らの記録を元にアヤ国の地図を作成している真っ最中であった。早ければ明日にも完成するとの事で、第一王女は優秀なアドバイザーであるシンボリルドルフに痛く感激していた。

 

(彼女の見識は決して一介の技術者に収まるものではないわ。この件が終わり次第、お父様に叙爵を願いましょう。あれほどの逸材、放ってはおけないわ)

 

 叙爵する事で王家と結びつけ関係を深化させる。そうすればより優れた知識が彼女から手に入るだろう。少なくとも第一王女はそう考えていた。

 狭い浴槽の中でほくそ笑む第一王女。

 この浴槽もシンボリルドルフあっての賜物だ。本来なら艦艇に湯船など考えもしなかった第一王女だが、王侯貴族を乗せるにあたり居住性も考えてシンボリルドルフが特別に作らせた物だ。尤も王族専用という訳でもなく一番風呂を頂く権利を持っているに過ぎない。この辺りはシンボリルドルフの配慮だろう。

 本来ならお供のメイドが湯浴みの世話を焼くのだが、狭い浴室では二人以上入るのも難しいためシンボリルドルフの配慮に応える形で第一王女は一人で湯船に浸かっていた。

 

(一人も悪くないわね……誰にも邪魔されずに自分の考えに没頭できる)

 

 アヤ国との交渉は依然として進んでいない。

 しかしそれはそれとして、シンボリルドルフによって作り出された先進性の塊である装甲艦を満喫出来ているのは悪い気分ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 国津丸では昼間と変わらずしかめっ面のままでいる島津名代が頭を悩ませていた。

 

「朝廷は何と?」

「相変わらず……いえ、より硬化していますね。とにかく関わらせるなと」

「無茶を言う……」

「こちらの独断で史書を見せる案もありますが……」

「ならん。それで諦める保証が無い。あの手の輩は次から次へと要求を通さねば済まん類いだ」

「……落としどころはあるのでしょうか……」

 

 島津家は主である本島朝廷に苛立っていた。

 西シュレイド側は預かり知らぬところであったのだが、アヤ国は国の頂点である主上を中核とした朝廷、その下部として島津家、足利家、北条家の三家で国を統治している。それぞれが順に南島、本島、北島を治めているのだがこの三家にもそれぞれ役割があり、軍事を担うのが島津、行政を司るのが足利、そして律令を執行するのが北条と決まっている。しかし島津はこの三家の中で冷飯を食わされる立場にあった。軍事といっても大規模な戦争がある訳でもなく、専らの任務は朝廷より発布されている鎖国の維持である。民の政治と直接結び付きやすい他二家と違って主な活動が洋上のため、口さがない者には政治を知らぬ粗忽者と小馬鹿にされる事すらあった。

 島津としては与えられた任を全うするだけであるのだが、流石に大国西シュレイドの相手は訳が違う。少しでも妥協して便宜の姿勢を見せない朝廷に島津家は怒りを通り越して呆れていた。

 

「そういえば、あの赤い()()()の力は借りれませんか? 確か彼は……」

「その先は言うでない。彼奴(きゃつ)らの能力が有能だったから取り立てた、その程度に過ぎん。何より彼奴らは例の古龍を見ているので精一杯だろう」

「ヤエノ殿は……」

「あれも言うてしまえば浪人のようなものだ。徒手空拳は見事だが、それ以外に何かあるか?」

「その割りに孫のように可愛がってませんでしたか?」

「だからこそ、だ。無邪気な女子を政治の世界に連れていく訳なかろう」

 

 気心の知れた部下と屈託無く交わすやり取り。

 異世界に飛ばされ行く宛ての無いヤエノムテキを拾ったのが島津家だった。否、拾わざるを得なかったというのが正しい。何せヤエノムテキが飛ばされた場所は島津家の本邸そのものなのだ。外部からならいざ知らず、まさか内部に密航者が現れるというのは流石の島津と言えども想定外であった。一度は捕らえようと挑みかかったものの、ヤエノムテキが誇る金剛八重垣流を前に人間では全く歯が立たず已む無く召し上げる事で失態を隠滅したのである。

 不慮の事故とはいえ自分が他人の家を侵犯してしまった事は事実だとヤエノムテキは頭を下げたが、ウマ娘としての身体能力と高い戦闘能力が合わさり半ば島津家所属の遊兵と化していた。

 

「どちらにしろしばらくはこのままじゃ。奴らが追加の船を寄越すまで動きは無いと見て良いじゃろう」

 

 島津名代の予測は外れてはいなかった。仮に相手が自国の地図を出してきたとしても態度は変わらない。

 そしてそれは西シュレイド側もそうであり、第一王女が宣言した通り地図だけでなく、更なる手練手管を尽くしてアヤ国側へと圧力をかけていく心算であった。

 

 第一王女、島津、両者共に時勢の読み違えはない。

 違いがあったとすれば、北からセイウンスカイ一味がやってきていた事と古龍の機嫌そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『"私"』

『分かっている。あいつが来ている』

『どうする? 迎撃は難しいが』

『このまま隠遁を続ける他無い。幸いこのおかしな人間のおかげで何とかなっている』

 

 南島の某所。

 何の変哲もない高床式の倉庫の奥で隣り合って地に伏せる二体のシャガルマガラの姿があった。

 

「お? 動きを起こしたな。何か気付いたのか?」

「団長殿、近づくなとあれほど……」

『いずれはここから出なくてはならない』

『左様。しかしあの龍は……』

『あいつと潰しあってくれるなら重畳。"私"はただ耐え忍ぶのみ』

 

 シャガルマガラ達は我らの団団長とヤエノムテキに拾われこの倉庫で匿われていた。

 拾われた経緯は団長の興味からだった。元々10年前の一件で純白の龍鱗という謎を追いかけた団長はこの世の誰よりもシャガルマガラについて熟知している。本来なら孤高であるはずのシャガルマガラが身を寄せあって一組を形成している事に団長が多大な興味を寄せたからだった。

 危険な古龍であるはずなのだが、当のシャガルマガラ達はなぜか危険の所以である狂竜症ウィルスを使いたがらない。深い傷を負っている事もあって当面は大人しいだろうと団長が面倒を見ていたのだ。

 

「しっかしどういう理屈かね。こんなのがいるなら今頃大陸じゃ大騒ぎだろうが」

「もしかしたら、あの船はシャガルマガラを追いかけてきたのかもしれません」

「だとしたら話がこじれるなぁ。おそらくあれを使ってるやつはただもんじゃあないぞ」

「ただ者ではない、とは?」

「ありゃどう見たって人を威嚇するための船だ。モンスター相手ならもっと違う見た目になってる。アヤ国に開国を迫りに来たんだろうなぁ」

「なんと……!? それでは、最悪戦争に……!」

「それはまず無いだろうが、先にああやって脅しかけてんだろう。厄介なことになったなぁ」

 

 団長はこれまでの経験からアヤ国の状況を冷静に分析していた。

 団長は今までと同じように"とある謎"を追いかけてアヤ国にまで旅路を進めた夢追い人である。本来なら排斥される大陸人にも関わらずアヤ国で過ごせているのは一重に島津家の計らいと彼ら自身の立ち回りのおかげなのだが────。

 

「こいつらが見てるのは北か……?」

「団長殿?」

「ヤエノちゃん、悪いがこいつら見てちゃくれないか? ちょいと気になることがあってね」

「それはいいですが……いつ頃戻られるのか……?」

「用事次第、ってところだな!」

「団長殿! 島津様との友誼を無下にはしないでください!」

 

 ヤエノムテキが止めるのも聞かず倉庫から出ていく団長。付き合いが長いとは言えないヤエノムテキだが、それでも裏表の無い団長の気風は止めても無駄だという事を彼女に感じさせていた。

 

「全く……いざとなったらこれで制圧するしか……」

 

 倉庫の脇。

 愚痴を溢すヤエノムテキの先には人の腕ほどの長さの棍棒が一対、まるで二つ一組の武器のように置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、ここからだよ~。みんなは私の後ろに着いてきてね」

 

 翌日。

 セイウンスカイ一味は荒れる洋上で何とか夜を明かしてアヤ国北島に上陸していた。

 

「うぅ……全然眠れなかったデス……」

「やっぱりあのマガイマガド、討伐してあそこで夜営した方がよかったはずだニャ」

「それはごめん……」

「それは仕方ありませんのニャ。気付いたのが遅かったのですから私も同罪なのですニャ」

 

 洋上での一泊は休むどころか疲弊させるほどだった。セイウンスカイはともかくエルコンドルパサーの船酔いが特にひどいようだ。

 

「ちゃんと休めるとこ見つけないとだね」

「でも島の人に見つかっちゃいけないんでしょう?」

「必ずしもそうな訳じゃないけど、鎖国してるなら外の人に厳しいはずだよ。見つからない方が面倒が無くて良いかも」

「こういうところでもご主人様々ニャねぇ……」

 

 "龍呼びの声"による感知で人の気配を避けられるため、一同はセイウンスカイの後ろに着いて島に潜入していた。

 砂浜ではなく硬い岩岸に小舟を係留して島内に入る。

 まだ人の住む領域ではないのか人の気配は無かった。道は整備されているものの近くに家屋などは見えていない。ただセイウンスカイにはそれよりも気になる事があった。

 

「なんだこれ……地脈が奪われるってこういうことなのかな?」

 

 海岸から傾斜のある道を登り奥へと進むが、生えている木々の一つ一つが枯れているのだ。長らく葉を付けていないだろうそれらの根元は僅かな砂利が覆っているだけで枯れ葉を元にした腐葉土は見られない。明らかに生態系に異常が出ている事をセイウンスカイは初見で看破していた。

 

「なんか不気味デスね……まるで命の気配が無いような……」

「エルのそれ、案外的外れじゃないかも。この世界は地脈を元にした生態系が成り立ってるから、それを一個体で独占するような真似をしたら他に行き渡る分の生体エネルギーが足りなくなる。……もしかしたら、アヤ国を根城にしてる古龍は相当ヤバいやつかもね」

「ご主人、いつもの感知はどうしたのかニャ? もし他の古龍がいるならきっとシャガルマガラと衝突してるはずだニャ」

「やってはいるけどシャガルマガラの気配は掴めてないね……強いて言うなら、あの富士山みたいな山から()()()()()()くらい」

「ふじさんってなんだニャ。もしかしてあれのことかニャ?」

 

 サシミの指差す方には本島から聳える火山が見えている。セイウンスカイは北島に入った直後から不思議な視線を感じ取っていた。

 

「十中八九目を付けられてるんだよね。戦闘にならなきゃいいんだけど……あ、人来てるから隠れて」

 

 立ち枯れた木々の背に各々が身を隠す。

 遠くから何か言い争うような声が聞こえていた。声は徐々に近づいており、よく聞くと二人の男が一人の老人を取っ捕まえている。そんな場面だった。

 

「ええい、神妙にせよ! 全く、油断も隙もありゃしない。島津もこんなじじい一人捕らえることができんのか」

「あー、悪かったって。たまたま、たまたまなんだよ。まさかこっちに来ちゃいけないとはねぇ」

「ふん、しらばっくれるのも大概にせよ。貴様の顔立ち、どう見ても大陸人であろう。大人しくすればここから帰してやる。海を無事渡り切れればの話だがな」

 

「ん……? あの人って……?」

 

 ほんの少し顔を覗かせて様子を伺うセイウンスカイ。どうやら老人は現大陸の人間らしい。もしかしたら装甲艦に一緒に乗ってきた誰かなのかもしれない。そう思って見てみれば、どこかで聞いた事があるような風貌をしている。

 赤いテンガロンハット、揃えられたヒゲ、何より年齢に見合わない快活さ。

 

「ほら、さっさと歩け! じじいだからといって容赦はせ……ん……」

「おまえ、どうし……」

「セイちゃん!? 何やってるんデスか!?」

 

 思わず龍属性を放ち衛兵か何かであろう男達を昏倒させるセイウンスカイ。昏倒の要領はいつかにアグネスタキオンをしばいた時と同じだ。

 

 セイウンスカイの手には、赤衣の男から託された手紙が握られている。震える声で、セイウンスカイは老人に話しかけていた。

 

「おお? なんだ、今のは龍属性か? まさかお嬢さんがやったのか?」

「そ、そうです。あの……もしかしてなんですけど"我らの団"の団長さんですか!?」

「ほう、お嬢さん。俺を知ってるのか。ああそうだとも、"我らの団"っていうのは────」

 

「私、アーサー先生の弟子、セイウンスカイって言います! アーサー先生から貴方への手紙を預かってるんです! どうか、私達にご助力願います……!」

 

 手紙を団長の元へ押し付けるように近づくセイウンスカイ。

 異世界に落とされて数ヶ月。

 ようやくセイウンスカイは目的の一つである"我らの団"団長との邂逅を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイウンスカイがお目当ての人物と邂逅している様子を、本島の頂きから見下ろす姿がある。

 

「百竜様、如何なされましたか? 何か変化が……?」

 

 ────あれは良い

 

 玉座に座すだけであったはずの龍は身を起こし全てを睥睨する。

 予期せぬ侵入者だというのに、セイウンスカイを見つめる目はどこか穏やかであった。

 

 ────だが、あれは好かぬ

 

 ちらりと、セイウンスカイとは反対を見る龍。そこには西シュレイド王国の装甲艦が未だ異様な雰囲気を放ち続けている。龍はそれがひどく不快であった。

 

 ────もう千年になるか。同じ轍を踏もうとする愚か者がいたとはな。《黒龍》に焼かれるのは勝手だが、それを我が領域でやられては堪ったものではない

 

 龍が舞う。

 天に舞う龍の姿は、そのヒレなども相まってまるで舞踊でも踊っているかのようだった。しかし龍に踊っているつもりはない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()から紫電が迸る。

 

 ────()ね。汝らの墓場はここではない。

 

 宙を舞う龍が尻尾を振り下ろしたその瞬間、三隻の内一隻が落雷に襲われる。狙ってか、それともたまたまだったのか落雷は巨龍砲に直撃していた。

 炎上する装甲艦。

 それが、転機を迎える狼煙となる事に誰もが思わざるを得なかった。

 

 

 

淵源ならざるナルハタタヒメ

 

 

 

 夫子を亡くした母親は、千年前を許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東方派遣艦隊は混乱に陥っていた。

 山の方にモンスターらしき影を見かけたかと思えば、次の瞬間には晴天の霹靂である。

 モンスターから攻撃を受けた事に間違いは無かった。

 

「消火を急げ。鎮火が済み次第、全機関を全速させろ」

 

 混乱を収めたのはやはりというかシンボリルドルフである。王族らの安否も含めて迅速な沈静化が成された。

 落雷自体は大した事が無かった。直撃を受けたのは巨龍砲だが、巨龍砲そのものの完成度の高さから故障などは無く、むしろ甲板に飛び散った火花の方がひどいという有り様である。被害が軽微である事も手伝って混乱はすぐに収まっていた。

 

 だがここで、セイウンスカイが恐れていた事態が起きる。

 これが世に謳われるナポレオンなどといった軍政家なら、もう少し政軍両面からの立ち回りが期待出来ただろう。しかしシンボリルドルフの本来の素質というのは最低でも平和な世の政治家である事だった。優れた知識から地球の技術を引っ張って来ているシンボリルドルフだが、政治の先にある軍事への理解が足りていない。

 加えてシンボリルドルフは、初めて作られたこれら装甲艦に口で言う以上の愛着を抱いていた。今はまだ試作段階のため正式な艦名が無いが、シンボリルドルフは自分が乗る旗艦を地球での命名法則に倣って密かに"ミナガルデ"と呼ぶくらいには大切にしていた。

 

 かくして、シンボリルドルフは号令を挙げる。

 

「アヤ国に通告しろ。山頂に出現したモンスターの詳細を求めると。事と次第によってはアヤ国への攻撃も辞さないと言え」

 

 シンボリルドルフは完全に激怒していた。

 

 

 

 

 




ナルハタ「あいつら気に食わん。脅せば逃げるやろ」
カイチョー「は?やり返すに決まってるが???」

要はこれ

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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