セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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皆様、日頃からのご愛読誠にありがとうございます。
グローバル版ウマ娘がとんでもない広がり方してて戦慄しています。これ下手すると本気で世界巻き込んだ一大プロジェクトになったりしない?自分ちのおウマさんをウマ娘化するとか海外の公式競馬運営がプッシュするとかマジでヤベェなと面白く思いながら痛感しています。
……ステイゴールド、早く来てくれ……香港ヴァーズ見たいんじゃ……


新たな旅立ち

 

 

 

 

 

 

 現大陸の遠いどこか。

 

 アヤ国よりずっと離れたそこで、一つの強大な命が潰える気配を鋭敏に感じとる姿があった。

 

(龍ガ死ンだ)

 

 全身に夥しいほどのトゲを纏う古龍────悉くを滅ぼすネルギガンテは生態の常として、他の古龍を察知する能力がある。

 本来なら効率良く捕食しようと、古龍の墓場とされる新大陸へ向かうのがネルギガンテの常道であったが、このネルギガンテは違っていた。

 

(奴の気配も、あッタ。前より強ク、なってル。もっと食わネバ)

 

 このネルギガンテはかつて硫黄島でセイウンスカイに敗北したあのネルギガンテである。いつぞやの敗北が、記憶に焼き付いて仕方ないのだろう。

 

(黒い龍、アノ人間。強者を食ラウ)

 

 ネルギガンテはセイウンスカイ、そしてあろうことか黒龍ミラボレアスにすらリベンジを誓っていた。

 

(……毒の龍。アレを逃シタのは痛かッタ。逃げ隠レが上手スギる)

 

 焦るネルギガンテ。宿敵はより強さを増しているというのに、燻っているばかりの自分に苛立ちを感じているのだ。今のままでは到底勝ち得ない。

 

(戦いヲ。勝って喰ラッテ、オレはモっと強くナル)

 

 強さへの渇望、それが満たされる事は無く。

 

「……だ、だれか……たすけ────」

 

 ────虫でも潰すかのように、彼は足元のハンターを捻り潰していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激戦から一夜明けて。

 機能が回復したアヤ国朝廷は混乱に陥っていた。

 

「百竜様が身罷られて? 史書は持ち出され、違う龍が天上にとって代わると???」

「更には近海の大蟹も討伐されたと伺っておりまする」

「な、何がなんだか……」

「また、大陸のハンターズギルドが流石に捨ておけぬと、勝手に北の流刑地へ入植しておりますれば……」

 

 アヤ国主上はこれが悪夢であってほしかった。きっと夢見が悪いだけなのだ。千年もの繁栄が一夜にして崩れ去るなど有り得ない。起きればまた変わらずのアヤ国の姿が────。

 

「すみません、ちょっと通してもらえます? あ、貴方がここの一番偉い人ですよね? 私、セイウンスカイって言います。色々と、()()に来ました」

「き、貴様が元凶かぁぁぁ!!!」

 

 突然入ってきたセイウンスカイを相手にアヤ国主上が乱心するのも、無理は無かった。

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

「疲れましたね~」

 

 帰途に着く道すがら。

 セイウンスカイはシンボリルドルフの装甲鑑にて、エルコンドルパサーと共に久し振りの湯船に浸かっていた。

 

 アヤ国事変と言われるようになる今回の事件、終わってみればアヤ国側が様々な被害を受ける惨事となった。アヤ国にとって最も大きいダメージはやはりナルハタタヒメの崩御だろう。これまでずっとナルハタタヒメの威光に縋りついていた訳で、アヤ国の上から下まで、その心労は推し量れない。

 セイウンスカイとしては、これまでナルハタタヒメがアヤ国に対しどう思っていたのか記憶を知っているため、正直同情も憶えなかった。後になってアヤ国主上から話を聞いてみれば、千年前にナルハタタヒメと情を交わしたとされる巫女の存在は知られていたものの、それが元は難民で本人と不本意に婚姻を結んだ事などは全く知られていなかった。

 都合の良い話だけ後世に残したのだろう。寿命で阿奈が亡くなった後、徐々に阿奈を忘れていくアヤ国と、たった一人だけ阿奈を覚えているナルハタタヒメ。

 あまりに酷いと無意識に龍属性をチラつかせていたセイウンスカイであった。

 

「アヤ国はこれからどうなるんデス?」

「さぁ? 政治的な話は門外漢だからね。そういうのはルドルフさんとか、王女様が上手くやるでしょ」

「ギルドも団長から報せを受けていたようデスが……」

 

 豪放磊落に見えて、しっかりと必要な仕事はするのが"我らの団"団長である。元より北の流刑地に関しては把握していたらしい。飛行船なら荒れる海も無視できるだろうと、事前に入植の判断を進めていたようだ。

 合わせて、西シュレイドも高圧的にアヤ国に国交を迫る動きを止めた。事情を知らない島津家はこれに安堵していたが、当初要求していた歴史書が綺麗さっぱり無くなっているのである。状況からして限りなく黒に近いグレーである事は明白なのだが、それが分かった頃には既に装甲艦が沖へ出てしまっており、交渉どころではなかった。

 歴史書の行方について尋ねたければ、鎖国をやめて自ら西シュレイドに外交を行うしかない。そんな状況にアヤ国は追い込まれてしまっていた。

 

「シャガルマガラの討伐はできませんでしたが……クエストはこれで達成ってことデスかね」

「団長がギルドマスターにも書簡を送ってるからね。"我らの団"なら誰よりもシャガルマガラに詳しいはずたし、任せて大丈夫なはずだよ」

 

 アヤ国が崇める龍が成り代わる事について、当たり前だが朝廷では否定的な意見が根強かった。ただしそれを、新たなセージニアスであるセイウンスカイが目の前でシャガルマガラと会話してみせる事で払拭してみせたのだ。龍がいないよりかはマシかとアヤ国朝廷も納得せざるを得なかった。

 ちなみに手の平を返したアヤ国朝廷に、アヤ国に居着かないかと声をかけられたが、セイウンスカイはこれを見事な笑顔で断っている。せせこましい立場などありがたくもないと、一言で切って捨てていた。

 

 ハンターズギルド、西シュレイド王家、そしてセイウンスカイ一味。気付けば、三者三様にアヤ国朝廷を低く見ている。どれも事情は異なれど、モンスターから襲撃を受けているという緊急時に適切な対応を行っていないからだ。

 神秘的な最古の国家という権威はどこにも無かった。

 

「……なんにせよ、これで一件落着、か」

「帰ったら今度はレースをやるって話デスよ! 会長さんと王女様が話してました!」

「は? レース? それって私達の?」

「そうデス! 会長さん、ずっとレースが無いこの世界に納得してなかったみたいで、西シュレイド王家がスポンサーしてくれるんデスって! 他にもウマ娘はいるはずデスから、みんな集めて走りましょうって話デス!」

「そっか……」

「セイちゃん、どうしたんデス? 嬉しくないデスか?」

「……えっと、ちょっと、なんていうか、色々考えてて」

 

 第一王女が提唱したレースの開催。

 聞けばシンボリルドルフとエルコンドルパサーの論争に第一王女が居合わせてしまったようで、図らずもウマ娘が異世界の存在である事が知られてしまっていた。不幸中の幸いと言えるのが王女達がウマ娘に好意的であり、ウマ娘達の事情を汲むつもりでいるという事である。ウマ娘は数少ない存在ながら、人間を上回る身体能力で目立ちやすい。

 シンボリルドルフは第一王女の協力の元、この世界に散らばった他のウマ娘達全てと合流して、誰一人欠けること無く元の世界へ帰還させるつもりであった。

 

(セージニアス……)

 

 シンボリルドルフと第一王女の提案は渡りに船、と言えるだろう。

 この世界においては最大の大国である国からの援助である。もちろんただのボランティアではなく、シンボリルドルフなどが持つ知識からセイウンスカイに咎められない程度の有用な知恵も欲している。

 シンボリルドルフはエルコンドルパサーの説得に納得したと聞いている。第一王女も同調しているなら、シンボリルドルフについては心配いらないだろう。

 

 それ故に。

 

「ねぇ、エル。大事な話があってさ」

「セイちゃん……?」

「レースの開催は嬉しいよ。実現したら私もみんなと走りたい。だけどその前に────」

 

 

 

 

 

「────一人で、旅をしたいんだ」

 

 セイウンスカイの目は、レースとは全く別の方を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 バルバレ、拠点の竜車にて。

 

「スカイさんも思いきったものね。気持ちは分かるけど、もう少し別れを惜しんだっていいじゃない」

「まぁご主人は拙速を尊ぶお方ニャ。暢気に見えて意外と考えてる人ではあるのニャ」

 

 バルバレに、セイウンスカイの姿はいなかった。

 エルコンドルパサーの傍らにいるウマ娘はセイウンスカイではなく、アヤ国での功績が認められて基準よりも早くに訓練所を卒業したキングヘイローである。

 

 セージニアス。

 ナルハタタヒメの記憶から、自身のルーツに繋がる明らかな手掛かりを得たセイウンスカイはそれを求めて一人で旅立つ事を選んだ。

 エルコンドルパサーは始め食い下がった。二人で行こうと。何なら仲間を集めた方が安全かつ確実に出来るのではないかと。

 しかし────。

 

【鉄騎】っていう、傭兵団がいるんデスって」

 

 傭兵団【鉄騎】。

 強者のみ必要という実力主義を掲げる戦闘集団。モンスターの狩猟なども行っているが、傭兵である通りこなしている依頼はそれだけに留まらない。ハンターとはまた違った荒くれ者達であり、時として人間同士の争いで殺し屋染みた依頼も請け負うなど半ば反社会的勢力のような扱いを受けている。

 

「団長さんが注意しろって教えてくれました。セイちゃんは竜を操ってる訳じゃないデスけど、知らない人から見たらそう見えなくもないって」

「"竜操術"……眉唾だと言いたいけど、古龍に言うこと聞かせてる様子はスカイさんのそれに通じるものがある……」

 

【鉄騎】は表向き武力を誇示して食い扶持を得ているが、裏では"竜操術"を求め探求しているという噂があった。

 "竜操術"とは読んで字の如く竜を操る能力とされていて、これを使えばモンスターを意のままに操れるのではないかと、まことしやかに囁かれている。普通ならデタラメだと一笑に付すが、似たような事をやっているのが我らがセイウンスカイである。

【鉄騎】は危険な武力集団だ。モンスターのみを相手とするハンターと違って、【鉄騎】は殺人すら目的のために躊躇わない性質がある。あまりに目立って【鉄騎】の関心を買ってしまえば、良からぬ事に巻き込まれかねない。

 ハンターとしての教導を受けていても、元の世界ではただの一般市民だったウマ娘にとって【鉄騎】への対処は難しい────。

 そういった経緯から、セイウンスカイは団長の言い付けを守って帰還早々に旅立ってしまっていた。

 

「上位ハンターになりましたから、前とは違って色々無茶できるとは思いマス。セイちゃんにとっては一人の方が楽かもしれません」

「一人の方が楽だなんて……」

「セイちゃん、気を使って言わなかったと思いマスが足手纏いなんデス、私達。古龍と一人で真っ向勝負できるセイちゃんと、普通のハンターでしかない私達じゃ、実力に差がありすぎマスから」

「……訓練所を卒業したての私なら、今のパーティとちょうど合うのね」

 

 セイウンスカイはオトモであるサシミすら置いて行った。ルーキーであるキングヘイローにとって、サシミの器用さは役に立つだろうからと気を利かせたのだ。本来ならそういった主人の代替えは雇用形態として望ましくないのだが、サシミはナルハタタヒメと人知を越えた戦いに精魂果てていた。

 セイウンスカイは良くても密着していたサシミにとって曝される龍属性は怪我こそ無くても心労が激しかったのだ。

 

「ご主人の戦い方は人間やめてるのニャ。正直あれについてくのは酷だニャ」

「思えば一人だけ図抜けた胆力と実力をお持ちでしたニャ。パーティ内ハンターに実力差がありすぎると良くないと、ナディアからも伺っておりますニャよ」

「リボンの言う通りデス。今私達に出来るのは、セイちゃんの足手纏いにならないようもっと強くなることデス。めちゃくちゃランク上げて、いつの日かセイちゃんを驚かせるくらいのハンターになりましょう!」

「その前に、まず私のランク上げね。今だって私だけ下位ハンターだもの。少なくとも今の貴方達に追い付けなきゃ、スカイさんを驚かせるなんて夢のまた夢……」

 

「済まない、少しいいだろうか」

 

 キングヘイローが持ち前の不屈っぷりを語っていたその時、外から顔を覗かせる影。

 エルコンドルパサーからすれば久し振りの知り合い、ディゲルがいた。

 

「あれ、ディゲルさん。お久しぶりデス」

「久し振りだな、エルコンドルパサー。それと……」

「キングヘイローよ。ここの竜車を譲ってくれたディゲルさんよね。話は聞いてるわ」

「初めましてだ、キングヘイロー。……セイウンスカイは?」

「セイちゃんは事情があって、今一人でどこかに行っちゃいました……」

「そうか、おまえたちの上位昇格を祝いたかったんだが……」

 

 そう言って懐から取り出したのは羊皮紙ならぬ竜皮紙。

 

「ギルドに聞いたらおまえたち宛てに手紙が届いていると聞いてな。さっき届いたばかりだそうだ。セイウンスカイと入れ違いになってしまったな」

「私達宛てに手紙……?」

 

 はて、誰だろうか。

 キングヘイローと目を合わせるエルコンドルパサー。早いもので、セイウンスカイが異世界に飛ばされてから半年ほどの時間が流れている。その間に多くの者と知り合ったが、こんな時に手紙を送ってくる相手に心当たりが無い。

 

「一応ギルドの方で検閲したらしいが、知らない文字だったようで中身は読めなかったそうだ。多分、おまえたちと同郷の者じゃないか?」

「……ってことは他のウマ娘から? 誰だろう……」

 

 ディゲルから渡された手紙を開く。

 そこには────。

 

 

久し振りだね、スカイ君。それとエルコンドルパサー。アグネスタキオンだ。君達の目覚ましい活躍はここ、ポッケ村にも届いているよ。何の因果か、私もクラシックで競り合った面子と一緒にこの世界に飛ばされてしまってね。二年ほどハンター兼学者をやらせてもらってるんだ。中々に刺激的な世界で退屈しないよ

さて、前置きが長くなったが本題に入ろう。実は私達と一緒にシュガーライツ女史も飛ばされてしまってね。君も知っているだろうが、彼女はアルバトリオンの鱗を用いた転移装置の開発者だ。同じ物が開発出来れば帰還への目処が立つ。そのためハンター業の傍らアルバトリオンの行方を追ってるんだが、これが見つからない。どうやらギルドでも秘匿された"禁忌"の扱いらしくてね。一度軽率にもギルドで話してしまったら、ギルドナイトがやってきたよ。《黒龍》の名は軽々しく扱えないそうだ。アルバトリオンを何とか探したいが、現状の私達では手掛かりすら掴めない。もちろん困った訳だが、意図せず全く別の方向からアプローチする事に成功したんだ。

()()()()()()()()()()、これに成功してね。しかもバルファルクと同じように言語を解するときた。人格に難ありだが、潜入捜査に向いた彼の能力はギルドは通さない調査にうってつけだ。時期を見て、ポッケ村に来てほしい。ポッケ村には破損しても再生する巨大な大剣があったりと、他にも興味深い物があるからね。必ず無駄足にはさせないよ。

 

「こ、古龍の捕獲!?」

「しかも言語を解するって……あのオオナズチじゃない!?」

「古龍の捕獲だと? そんな芸当今まで聞いた事が無いが……」

 

 アグネスタキオンからの手紙。

 それは、新たな波乱を予感させるものであった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇しくも、同じ頃。

 新大陸調査拠点、アステラ。

 

「相棒、久し振りの現大陸ですね!」

「ああ。しかし不思議なもんだ。ネルギガンテが現大陸で暴れてるなんて」

 

 新大陸と現大陸を繋ぐ交易船、そこに彼らの姿があった。

 

「ネルギガンテ……思えば幾度も彼らとは対峙してきました。彼らの生態を考えれば、新大陸以外で姿を現すのは珍しいことです。本来なら他の古龍を狙ってこっち(新大陸)に来るはずなのに」

「まだまだ未知の部分が多いんだろう。調査のしがいがあるじゃないか」

「ええ、楽しみです!」

「それと……いいのか。()()()のことは」

 

 ちらりと、ハンターが遠くに視線を投げる。

 その先には《導きの地》と称される、不可思議な生態系が築かれている土地があった。

 

「イヴェルカーナの時と同じです。寒冷化と"歌"。関係無いように見えて、どちらも最後には根元に辿り着きました。彼らが幽境の谷に現れたことと、ネルギガンテが現大陸に出現していることもきっと無関係ではないかもしれません」

「そうだよな。同じように飛ばされた"ウマ娘"がいるかもって話があったし」

「話に聞いたセイウンスカイさん! 彼女に是非とも会いたいです!」

「ああ、アドマイヤベガと()()()()に土産話を持って帰らないとな」

 

 

 (えにし)は紡がれ、どこにでも。

 編纂者とハンター────《空から来た五期団》《調査団の青い星》《新大陸の白き風》────数々の異名を持つ新大陸最強のハンターは懐かしき現大陸を目指したのだった。

 

 

 

 

 




モンハン編、これにて第一章とさせて頂きます。
次回は数話ほど間章を挟んでから第二章へ。
セイちゃん以外のウマ娘へと徐々に視点を広げて行きますよ。

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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