盆休み明けの投稿となります。盆休み中にNo man's skyを買ってしまいそれを遊び倒す日々が続いておりました。
さて、今回は間章ということでセイウンスカイ達がいなくなった後の話となります。
"彼女達"がいない世界
「はぁ……」
柄にも無く、ため息を付く。
目の前に広がるのは書類の山。生徒会として、会長であるシンボリルドルフの補佐でこれらを手伝うことはあったが、いざ
「なんだ、らしくもない。流石の女帝も書類の山には敵わないか?」
「たわけ、私を誰だと思っている。それを言うなら素直に手伝うおまえもじゃないか」
「アンタが倒れたら私にお鉢が回ってくるじゃないか。流石にそれはごめんだからな。それともお手伝いは不要か?」
「全く、普段からそうしていればいいものを……」
「皇帝様が帰ってきたら、考えてやらんでもない」
生徒会室、その執務席にて。
シンボリルドルフに代わって生徒会の運営を担うエアグルーヴとナリタブライアンは、今はいないシンボリルドルフの帰還を請い願っていた。
ウマ娘失踪事件。
栄えある元旦の旅立ちが、未曾有の大火に襲われた事件である。
異世界への旅立ち、そのために作られた転移装置から謎の古龍が現れそれにによってターフのほとんどが焼かれてしまった。バルファルク以下トレセン学園を根城とする古龍達によって被害は多少なりとも抑えられたが、深刻なのはこれによって行方不明になってしまったウマ娘達である。スペシャルウィークを始めとする有力な現役ウマ娘や生徒会長を務めるシンボリルドルフ、転移装置開発者のシュガーライツなど多数の有名ウマ娘が軒並み消えてしまったこの事件は予期できない痛ましい事件だと世間は重く受け止めていた。
バルファルクの証言により失踪したウマ娘達が皆異世界にいることだけは分かっている。しかし、彼女達を追うために異世界へ救出に赴くという判断はなされなかった。
何故なら────。
「今日も抑えてくれているんだな、イナガミは」
生徒会室からエアグルーヴがターフを見下ろす。
そこにはターフとは名ばかりの荒れた土地と、その中央で未だ燻り続ける炎、そしてそれを抑えるイナガミの姿があった。
あの事件から早2ヶ月、謎の古龍が去った後、火炎のほとんどは消えたが転移装置には炎が消えずに残っていた。謎の古龍が吐いた時のような荒々しさこそないが、いくら水をかけようが消火剤をぶつけようがが鎮火することは出来ず、じわりじわりと転移装置を起点として外に侵出しようとしている。
どれだけ科学的なやり方で鎮火を試みても成功しなかったが、何故かバルファルクの龍気やイナガミの能力による木々の防火堤であれば鎮火は出来ずとも止められるためイナガミが率先して防火堤を建てていた。それでも時間をかければやはり炎が防火堤を焼くため、こうして定期的に防火堤を建て直しているのだ。
「まるで"呪い"なんだとさ」
「呪い?」
「バルファルクのやつが言っていた。あれは能力としては炎だが、実態としては他者を蝕み、犯し、破壊する概念そのものだと。あれは残滓のようなものらしい」
「ただの残滓であれか。……アルバトリオンとやらもそうだが、あれも生物かどうか疑わしいな」
現在ターフは使用はおろか、立ち入りすら禁じられている。理由は語るまでもないことなのだが、本来ウマ娘が颯爽と駆け抜けるターフがその役目を果たせていない、というのはウマ娘のみならず、トレセン学園全体に暗い影を落としていた。
(会長ならこんな時……。いやダメだ。いつまでも会長に頼りきりのつもりではいかん)
かぶりを振って気を晴らそうとしたエアグルーヴだが、その様子はナリタブライアンは心配そうに見つめている。
エアグルーヴだけではない。多くの学友が元旦を境にいなくなってしまい、精神的に不調を来している生徒は少なくないのだ。
「……姉貴に応援でも頼もうか?」
「そうだな……済まない、もし手が借りられるのであれば頼む。どうやら私達では会長の手腕にまで及ばないらしい」
「今の、な。姉貴なら問題無いさ。私が声をかければすぐ来てくれるからな」
そう言って、LANEで姉であるビワハヤヒデに助っ人を要請するナリタブライアン。本人は気付いていないようだが、心無しか口角が上がっている。なんであれ、大好きな姉に堂々甘えられるのは彼女の特権だろう。
「今の、か。慣れればこれくらい────」
慣れ。
ハッと、エアグルーヴは口を止める。
「……どうした?」
「なんでもない。……そら、おまえも手を動かせ。姉に少しでもいいところを見せてやりたいだろう?」
「ああ、その通りだな。野暮な真似はするもんじゃないな」
ナリタブライアンからの訝しげな様子を誤魔化したエアグルーヴだったが、心中は全く穏やかではなかった。
(慣れ、だと。
それでは会長が帰って来ないものだと認めているようではないか────。
エアグルーヴは、自らの
「……はぁ……はぁ……はぁ。もう一度、お願いできますか、モンジュー先輩」
「……アーモンドアイ。負けず嫌いなのは分かるが何事にも退き時というものがある。せめて明日に持ち越してくれ」
学園の外。
ウマ娘用のレーンが敷かれた公道にて、二人のウマ娘が向かい合っている。
息を荒げておきながら、なおも溌剌とした調子のウマ娘────アーモンドアイ。
対称的に息一つ乱していないものの、どこか疲れたような気配を醸し出すウマ娘────モンジュー。
ターフが使えない今、二人は公道で併走を行っていた。
併走、といってもそんなに激しいものではない。
そもそもここは公道なのだ。学園内で行うトレーニングのような激しい走りはできない。
どちらかというと、モンジューが日課として行っているジョギングにアーモンドアイが勝手に着いて行っているだけ、という方が正しかった。
「これが……世界に名を轟かす強者の実力……!」
(本気で走るどころかスパートすらしていないんだが……)
何故アーモンドアイがモンジューに着いて行こうとしたのか。
アーモンドアイというウマ娘はそこそこ有名だ。新入生ながらも滾る素質はトレーナー達の間でも噂され、誰があの娘の担当になるのかという話題が持ち上げられる程である。その上で、本人は重度の負けず嫌いという特性があった。
ウマ娘として競うのであれば大なり小なりそういった要素はあって然るべきである。ただし、アーモンドアイのそれは常識の範疇で語るに規模が大きい。日常の中、とにかく他人と比べられるのであれば何であれ勝負を挑みたがるのだ。レースは言うに及ばず、学業の成績、対戦ゲーム、果てには子供の遊びでも全力を出しにいく。
彼女を鷹か獅子、どちらかに分類するのであれば漏れなく後者であるという評価は全く間違いではなかった。
そんなアーモンドアイだが、勿論一番に勝ちたい勝負はレースである。レースで前人未到の記録を打ち立てるつもりの彼女だが、しかし今は素質あるだけの雛鳥でしかない。時期にもよるが、トレーナーが実際に担当し競技者として出走できるようになるまでにはまだ時間がかかるのだ。しかし血気に逸るアーモンドアイはそれまで待とうにも我慢の限界というものがある訳で。
セイウンスカイを始めとする黄金世代がいなくなった今、彼女達に代わって日本レース界を牽引するモンジューにどうしても挑みたくなってしまった、というのがこの併走だった。
「アーモンドアイ。まだデビューすらしていない君と現役の私ではスタミナに差があって当然だろう。最低でもトレーナーが着いてから出直してくれないか」
「くっ……」
モンジューは当然のことしか言っていないのだが、アーモンドアイは殺すなら殺せと言わんばかりの目付きである。あくまで雰囲気だけの話だが、日本のオタク文化に毒されつつあるモンジューは確かこういうジャンルあったなと、普段からは想像も付かない程の野暮な考えを呑気に連想していた。
(くっ殺女騎士……いや、確かスプリンターでそういうウマ娘がいたか。そういえば彼女は我が国の聖剣の名を冠していたな)
「……また、一緒に走ってくれますか?」
「……ん? あ、ああ。しかしなぜ、私と走りたがるのか……」
「モンジュー先輩、だからこそです」
モンジューの考えなど露知らず、真剣な眼差しで訴えかけるアーモンドアイ。息が整ってきたおかげで冷静になったようだが、その目には焦燥が滲んでいる。
「モンジュー先輩に勝ちたい。貴方という、"最強"に勝ちたい」
「……分かって言っているのであれば、それは侮辱と取るぞ」
「分かってます。分かった上で、今の貴方が最強なんです」
「セイウンスカイ達がいなくなった、その繰り上げでしかない私が?」
「繰り上げなんかじゃない!」
自虐するモンジューに対して堰を切ったように思いを吐くアーモンドアイ。アーモンドアイの叫びには、彼女が持つ先輩ウマ娘達への敬意がありありと表れていた。
「私、嫌なんです! 日本のレースは終わったって、世間が勝手にそう言ってる! モンジュー先輩と勝負になるウマ娘が他にいないってみんな勝手に決めつけてる!」
「君は……」
「私だけじゃない。ララさんブーケさんグランさんラヴさんクロノさん、タクトちゃん! 私の友達にはみんな強いウマ娘がいる! 私達は終わってなんかない!」
「……はぁ」
気持ちは分かる。
アーモンドアイの吐露、それは今の日本ウマ娘レース界の実情を端的に表していた。
多くの有力ウマ娘がいなくなったせいでレースの魅力に陰りが出始めてしまったのだ。ウマ娘のレースというのは、言ってしまえば興行であり客商売である。レース場に足を運んでくれるファンが落とす金で運営が成り立っている側面があるのだ。
当然そういったファンはウマ娘を目当てにやって来る訳で、そのウマ娘の多くがいなくなったという事実は重い。引退ならまだしも、正体不明の謎のドラゴンのせいで走る姿を見ることが叶わないのだ。下手をすれば、もう二度と、それが見られないかもしれない。
玄人ファンならジュニアウマ娘に目を移しているだろうが、基本的にこうした興行によるファンというのはミーハーなものだ。しかも事件は元旦、ここからジュニアウマ娘が頭角を表すまでには時間がかかる。
黄金世代と競り合ったウマ娘としてたった独り残ってしまったモンジュー。中央のレースに出られるウマ娘は他にもいるが、実力が隔絶してしまっており、モンジューが出走するとされているレースを見送る動きもある。流石にこんな状態ではまともな興行になりはしない。
ウマ娘失踪事件は、日本ウマ娘レース界に不可逆的な大打撃を与えていたのだ。
「アーモンドアイ、良く聞いてくれ」
「……はい」
「君の思いは、正しい。勝手に絶望されて見向きもされなくなる、それは憤りを憶えても仕方がないな」
「でも、モンジュー先輩は……」
「
「え……」
ベテランであるモンジューは、アーモンドアイを優しく諭す。未だ芽吹かない種に、水を注ぐような丁寧さで。
「外野というのは存外勝手でね。私も凱旋門賞やジャパンカップに出走した際は色々言われたものだ。もっと言えば今もそう。もう日本に競り合えるウマ娘がいないんだから、さっさとフランスに帰ってこいとかね」
「……帰らないんですか?」
「帰るだと? そんなつもりはこれっぽっちもない!」
白い歯をきらりと輝かせて笑うモンジュー。そこに世間が噂するような暗い雰囲気など微塵も無かった。
「私はセイウンスカイの留守を守ると誓ったんだ。それは私自身への戒めでもある。強いウマ娘がいないからといって誇りを曲げる理由になりはしない。なにより────」
「────君という、後輩がいる」
「あ……」
トン、と。
アーモンドアイの胸に、モンジューの指が刺さる。
軽い触れるような一突きに、アーモンドアイは熱を感じた。ただの錯覚でしかないだろうが、それでも────確かな火種を受け取ったように思ったからだ。
「私はね、君の友達だけじゃなく、他の多くの、強者たりえるだろうウマ娘を知っている」
「テイエムオペラオー、ナリタトップロード、シンボリクリスエス、ゼンノロブロイ、ウオッカ、ドリームジャーニー、オルフェーヴル、フェノーメノ、ゴールドシップ、キタサンブラック……」
「まだまだ挙げられるが、誰もが私が一目置くウマ娘ばかりだ。その上で────」
「
「……!」
「いいか、君の才能はこんなところで浪費している場合ではないんだ。なんであれレースで私に勝って、日本のウマ娘は斜陽に非ずと示したいんだろうが、それには多くの積み重ねが要る」
「信頼し合えるトレーナーと共に、もう一度来るといい。その時こそ、全力で相手をしてやろう」
「……はい! よーし、なら早くトレーナーを探さなくっちゃ!」
「おい、待……もう行ってしまったか」
モンジューからの檄に気を良くしたのか、疲れていたことも忘れて学園へ走るアーモンドアイ。その様子にモンジューは苦笑するばかりである。
(大丈夫だ、セイウンスカイ。エルコンドルパサー、スペシャルウィーク……おまえたちがいなくても、ここは才能で溢れているよ)
雌伏の時なれど、その決意は高らかに。
いつか帰ってきた彼女達のために、より一層の奮起を訓戒とするモンジューであった。
硫黄島にて。
『はて。大蛇殿と火山殿の姿が見えぬようだが』
『あー……一応来るとは言ってたぜ? 案内で人間の船も一緒らしいし、ナバルのおっさんも迎えに行ってるみてぇだからそんなかかんねぇと思うけど』
『火山はともかく……大蛇殿は道草を食うきらいがあったなぁ。気長に待とうぞ』
『遅刻しようがしまいがアタシはどっちでもいーんだけどね~。ここで食っちゃ寝できりゃあなんでもいいし』
『貴様は食べ過ぎではないのか。というか貴様の餌の費用の一部は妾が出してやっているのだが、自重は無いのか』
『じちょ~? なにそれ美味しいの?』
『こやつ……』
『節制なぞ龍に語るだけ無駄だからな……』
海岸に集まる古龍達。
古龍大戦の折に、久しく戦場となった硫黄島であるが今回古龍達が集まっている理由にそんな火急の用事は無い。
『おお、ワシらが最後か。どうやら待たせてしまったようじゃな。済まぬ』
『本当にな。人間の
『だってあれで横断できると……』
『お歴々方、人間の苦労も分かってください。幾ら此方の方が強者とはいえ、人間にも果たさねばならぬ義理というものがあります』
大蛇と火山────ダラ・アマデュラとゾラ・マグダラオスはヨーロッパからの帰りである。大西洋から太平洋に戻ってくる際、ゾラ・マグダラオスが前に見かけたパナマ運河を使いたがり、人間側の手続きなど含め結果的にマゼラン海峡を通るのと変わらない期間の足止めをさせられた。古龍大戦の際に人間と共闘したナバルデウス亜種からすると、人間の苦労が偲ばれるばかりである。
ナバルデウス亜種は、二人がこの場にいる古龍最高格であること知りつつも人間との関わりを諌めていた。
砂浜を中心に陸生と水生に別れ続続と顔を合わせる古龍達。この場にいないのはイナガミとゴグマジオスくらいである。
彼らが今回集まったのには訳があった。
『よし、集まったようだな。では、始めるぞ』
上空でPDAとにらめっこしていたバルファルクが音頭と共に降りてくる。
ウマ娘失踪事件を皮切りに、ここ2ヶ月の間最も尽力していたのは他ならぬこのバルファルクだ。何を隠そう、古龍を集めたのはバルファルクの呼び掛けが発端である。
『第一回古龍会議の開催だ。進行は俺が務めさせてもらうぞ』
そう言って、バルファルクはPDAに纏めた多くの議題について取り上げたのだった。
古龍会議。
正式に決めた名称でもないし、人間のように組織立って運営される訳ではないが、バルファルクがこれから先、人間と共存していく上で必要になると古龍達に提唱した会議である。概念としてはセイウンスカイが旅立つ前から考えられていた。
役割として主に人間と古龍、古龍同士で何らかの問題が起きた際に全体でそれを共有し、実力ではなく対話を以て解決を図るのが目的である。人間の議会を真似たこれは古龍の気風として面倒でしかないのだが、ここにいる古龍達はそれぞれ事情は異なるものの概ね人間との共存に賛成の意を示す古龍ばかりである。従って、実力ではなく対話で解決出来るならそれに越したことはないという考えであり、会議そのものは大きく重要視されていた。
『あれ、バルファルクさん。イナガミさんはどうしたの?』
『やつならトレセンで忙しくてな。農場の他にあの黒龍が放った火の対処を任せている』
『……噂には聞いてたけど、やっぱりヤバいんだねぇ、その黒龍ってやつ』
幼いナバルデウスの言葉に古龍達が頷く。
この場では最強の一角と目されるダラ・アマデュラですら、黒龍の力は常軌を逸すると苦言を呈していた。
『ややもすると朕でも苦戦は免れぬ相手である。負けるとは全く思わんが、万全を期すなら人払いを済ませた上で、我ら全員で袋叩きにした方が良いだろう』
『そこまでか、大蛇』
『実力が未知数、かつバルファルクが競り負ける相手だ。万全を期すに不足など笑い話にもならぬ』
『なるほどな。なら、なんとかしてこの島にまでまた連れて来なきゃいけねぇ。陸じゃあ俺ら海の面子は手が出せねぇからよ』
議題の一つはやはりあの黒龍だ。
今もなおターフを焼く残滓の炎。自らの活動によって環境を変異させることそのものは古龍として珍しくはないが、ただの炎がその場に留まり焼き続けるなど古龍としても比較できる対象がいない。
もし再びこの世界を襲いに来るのであれば、それこそ全力を以て迎え撃つつもりでいるのが全員の心算であった。
『これはやりあった俺の所感なんだがな、奴が持つ龍気────セイウンスカイなら龍属性と呼んでいたそれを、あの黒龍が莫大に保有していると見える。それこそ大蛇、貴様を越えかねんほどだ。全員で袋叩きにするという案は確かに有効だろうよ』
『セイウンスカイか……朕は結局話せていなかったな。会話出来た人間はタマモクロスだけだ。あの娘も向こうに行ってしまったのだろう? 人の言葉を話せるのは貴殿だけだが、忙しくないのか、バルファルク』
『私も話せるぞ、大蛇殿。大昔の話だが、今のバルファルクのように人と暮らしていたこともある』
『ほぉ……確か地啼龍と言ったか? まさか学べば人の言葉が話せると?』
『そこは個人差が大きいな。イナガミは人の言葉が聞けるようにまでなったが話せるまでには至っていない。どうも口だの喉だの、そういったものの形が鍵らしくてな。出来る奴と出来ない奴には明確な差があるらしい。これに関しては試してみないことには分からん』
『とりあえず聞けるようになるところから始めるべきではあるぞ』
議題は人語の理解に移っていく。
本来ならタマモクロスがバルファルクと共にそういった折衝を行うつもりだったのだが、アテが外れた今はバルファルクに仕事が集中してしまっている。最速であるバルファルクは、呼ばれれば世界中どこにでも駆けつけ人間との打ち合わせに躍起になっていた。
『私も話せるが、見ての通りここから動けない。それがバルファルクに仕事が集中している原因の一つになっているのだが……』
『どこぞのジジイがパナマ運河を使いたいとか言い出さなきゃ少しは減ってたんだがな』
『……だから言ったではないか、火山』
『いやぁ、そのぉ……』
ばつが悪そうを顔を背けるゾラ・マグダラオス。頑張って口笛を吹こうとしているが、息が漏れていてさながら噴火のような黒煙を口から漏らすだけに留まった。
『火山だけではない。今後誰であれ、何らかの形で人間と関わりたいなら俺か地啼龍を通してからにしろ。そうでないと人間の生活に差し障ってしまうからな』
『あのー、俺様普段は深海にいるんすけど……』
『貴様はもう自由に泳げるだろ。人を襲うことさえなければナバルデウス達と扱いは一緒だ。用があるなら硫黄島まで泳いで地啼龍に言えばいい』
『いや……えっと……なんか人間達が俺様の足を食べたそうにしてるのが怖くて……』
『……そこは貴様の問題だろ。俺は関知せんぞ』
『自業自得だろうに。なぁ我が甥よ』
『そうだね。それが去年のボクの立場だったんだから、それでおあいこだよ』
『本当にすんません。代わりと言っちゃなんですがそこによく似た触手持ちがいましてですね……』
『ちょぉっと~? アタシ巻き込むの止めてくれる~?』
『おい、話が脱線しているぞ。他にも議題はあるのではないか?』
『うむ、小生も気になるぞ。
いつものオストガロア弄りが始まりかけたためにマム・タロトとラオシャンロンが修正を促す。その様子はどこかそわそわしている。他の古龍達も口に出さないまでも同じ様子であり、実のところこれが古龍会議において最も重要な議題であることを示す証左である。
そんな彼らの様子に、古龍の中で唯一辟易しているのがバルファルクだけだった。
『これがそんなに気になるのか……どこが良いんだこんなもの……』
『一位確定は流石だな。小生らにとって如何にこれが重要なのが分からんとは、贅沢に過ぎる』
『はぁ……』
バルファルクはPDAを裏返し他の古龍達にも分かるように見せる。そこには文字が読めない古龍でもはっきりと分かる棒グラフが、各種古龍達のパーソナルカラーに合わせて表示されていた。
『一位バルファルクは当然として……二位イナガミは硬かったか……!』
『ほう、三位が我が甥とは。よくやった方ではないか』
『えへへ。ちょっと前から東京湾でボク目当ての観光客がいたからねぇ。きっとその人達のおかげだよ』
『僅差で妾が四位か。まぁ今さら人間に好かれても仕方ないが……』
『何を言う、金色の! 小生なぞ、小生なぞ最下位であるのだぞ! ハルウララに顔向け出来ぬ……!』
『ワシらが同率で五位? 最下位でもおかしくなかったというのに……』
『朕も火山も人間にしてみれば、大き過ぎるからな。その辺が良かったのではないか?』
古龍達が一喜一憂する棒グラフ。
これは、セイウンスカイが旅立った後に発売された古龍達をモデルとするフィギュアの売上だった。
きっかけはマム・タロトの金細工である。
大小様々な金製品を作っていたマム・タロトだったが、ある時自身の姿を真似た小さな黄金像を依頼された。これ自体は何の変哲の無い普通の依頼だったのだが、納品した後に手の平に収まるサイズのマム・タロトの黄金像がネットで公開され注目を集めたのである。依頼者は中国人の投資家────マム・タロトの存在そのものが金運アップに繋がるのだとそこかしこで自慢していたのも契機に繋がった。
こうしたマム・タロトの人気を見て、商魂を滾らせたのが日本のフィギュアメーカーである。マム・タロトでここまで人気が出るならバルファルク達ならばどうなのか、企画書片手に日本政府に駆け込んだ。当初日本政府としてはあくまで民間の事業であり政府としては関知しない方針であったのだが、ウマ娘失踪事件により事情が変わった。
現在、世界的な世論において古龍達への見方は大きく二分されている。共存できる隣人であるという好意的なものと、人間を害する敵という嫌悪的なものの二つだ。バルファルクとイナガミのおかげで比較的前者が多いのだが、マム・タロトによるボゴタ襲撃、古龍大戦ではアジア各国、アメリカにも被害を出しており人類にとって脅威であるという認識は根強い。そこに加えて黒龍によるトレセン学園襲撃である。幾らバルファルクとイナガミが頑張っていても、否定的な意見は後を立たなかった。
こうした事情から、日本政府はこれではいけないとフィギュアメーカーの企画に乗り出した。一般に知られている古龍はバルファルクやイナガミ、幼いナバルデウスくらいで他は古龍大戦での映像でしか知らないという者が多い。そこでフィギュアとして売りつつ能力や生態も一緒に紹介出来れば一般人の理解も深まると日本政府は考えたのだ。
これまで映像でしか分からなかった古龍のモデルが詳細な記録と共にじっくり観察できる────フィギュアメーカーと日本政府の思惑はぴったりと世間の需要に合致し、発売から1ヶ月にして幾度もの品薄が出るほどの大ヒットを生み出した。
ちなみにだが最初からゴグマジオスのみ除外されている。理由としては、まだ重油を生み出す性質を公表できる折り合いがついていないためだ。本人もそこまで人間からの人気を気にしている訳ではないため今回は見送る形となった。
『のう、バルファルクだけずるくないか? 可動式の翼とか小生に無いんだが』
『それを言ったら妾や地啼龍だって鎧姿を着脱できる仕様……む? 地啼龍のフィギュアは無いのか?』
『私は……その……こういう偶像的な扱いが苦手故……今回は遠慮させて頂いた……』
『ああ、貴様は事情が事情だからな仕方ないな。人間と話せるのに、人間が苦手になってしまうとは』
『人間の信じるという力は時として熱狂を生む。今はまだ良いが、この先……いや、よそう。たらればの話をしても詮が無いな』
売上順────一位、バルファルク。これは誰もが疑わない。今となっては人と龍を繋ぐ唯一の架け橋である。
二位、イナガミ。トレセン学園で農場を経営しているのは広く知られている。バルファルクに続き最も人間と融和出来ているが故の順位だろう。
三位、ナバルデウス。オストガロアから救出された後、しばらく東京湾を根城にしていたため観光客からの覚えが良い。
四位、マム・タロト。古龍としての人気よりかは金細工の本尊として縁起が良いと評判である。金運アップにご利益願う者がよく買っているようだ。
五位、ダラ・アマデュラ、ゾラ・マグダラオス。同率。生物としては想像を絶する巨体にロマンを見出だす者が後を立たない。上記の古龍ほどではないが、コアなファンを獲得している。
六位、ナバルデウス亜種。幼いナバルデウスのおまけのような扱いで、フィギュアとして売られるまでは存在すら知られていなかった。おかげで知名度は低いが本人は全く気にしていない。むしろ甥の人気の方が重要なようだ。
七位、ラオシャンロン。上記のナバルデウス亜種よりは知られているはずだが、大きな角も無ければ翼も無く、ブレスも吐かないと地味扱いされている。巨体ですら上回る相手がいるため本当に情けない結果となった。
『小生はっ……! あまり望まれていないと……!』
『……こう言っちゃなんだけど俺ら中じゃ大した個性無いからなぁ』
『む? そういえばイカとその仲間が順位におらぬようだが……?』
『ねぇ~? その仲間ってまさかアタシぃ~? だとしたら心外なんですけどぉ~?』
『オストガロアとヤマツカミの二人はな、見た目がフィギュア受けしないという話だった。そんな訳で……これだ』
バルファルクが見せていたPDAの内容を変える。そこには可愛らしくデフォルメされたオストガロアとヤマツカミの姿が、風船や浮き輪にプリントされ並べてあった。
『両者とも体が比較的丸っこいからな。こういうものにイメージキャラクターとして落とし込んだそうだ。フィギュアじゃないから順位に入れていないが、こっちの売上も悪くないそうだぞ』
『俺様、なんか頭に変なの巻かれてない*1……? 明らかに食べ物っぽいやつのイメージなんだけど……』
『アタシの風船か~。アタシが風船みたいなものだから、これはこれでありだね~』
『まさかっ……小生はそこなるイカやタコめにも負けたとっ……!』
『泳げない上に話せない。飛べないのもある上で妾のように個性を活かした仕事が無いのであれば仕方なかろう。せめて人間の言葉を聞けるようになるしかないな』
『バルファルクっ! 教えてくれ、頼む、仕事も何か出来るものがあれば……!』
『……面倒だがやる気があるならなぁ。うん、まぁ、話だけはしておいてやる』
今や古龍達にとって、示しうる力関係は実力ではない。
人間との共存、それを目指すなら人間に好かれるべきだと考えている。傍から見たら滑稽にも見えるこんな様子も古龍達も真剣だったりする訳で。
ウマ娘失踪事件に沈む人間社会と違って、気儘にマイペースを維持している古龍達なのであった。
ff14……昔やってたんですけど途中で止めてるんですよね……
オメガとは何ぞや……?なんか黒龍並みにヤバいという噂が……?
一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?
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セイウンスカイとバルファルクに集中
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二作同時連載してほしい