セイウンスカイとバルファルク   作:エドレア

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めちゃくちゃ投稿まで長くなりました。でも構想はちゃんと練っていましたよと

遅筆にお付き合いしてくださる皆様方に謝罪と感謝を申し上げます


ハンターに

 

 

 

 

 

「だっははは! そうかそうか! お化け見ちゃったか!」

「本当なんだ! 黒い影がこう、壁から現れて……!」

 

「……カフェ、これは君の方に瑕疵があるんじゃないかな」

「一応は善意ですよ……」

「うわ……マジでやらかしたのかおまえ……」

「私は非科学的なことにコメントはしないよ……」

 

 明くる日。

 子供らしいキンキンとした甲高い声に押されて、マンハッタンカフェはその他一同に珍しく微妙な視線を向けられていた。

 

 

 

 

 

「よしよし。アグニ君怖かったね~」

「こら離せよ、やめろよ! ……クソッ、力つよ……!」

「おうおう。アグニ、おまえそこにいろ。お嬢ちゃん達合わせて話するからよ」

「アグニ、大人しくしなさい。入ったのは貴方でしょう?」

「うぅ……」

 

 両親に諌められ意気消沈するアグニ少年。

 マンハッタンカフェの"オトモダチ"に驚き気絶したアグニだったが"オトモダチ"が運んだのはウマ娘達の部屋だった。間取りがよく分かっていなかった"オトモダチ"は、下手に彼の自室を探すより手近な部屋に入れた方が時間をかけずに良いと判断したためである。気絶したアグニはそのままウマ娘達が眠る部屋に連れ込まれ、朝になってダンツフレームに抱きしめられている状況に改めて叫び声を挙げたのだった。

 

「悪いなダンツちゃん、こいつ結構マセガキでよ。身近に若い女がいなかったもんだから、アガっちまって仕方ねぇんだ」

「ふざけんなクソ親父! 俺はそんなこと全然思ってねぇ!」

「怖くて逃げ込んだのはあんたでしょうに。空元気だけは一人前ねぇ……」

 

 幽霊なぞ迷信としか思わない(それ以上に危険なモンスターがこの世にいるため)スタンダード夫妻はアグニが自分でウマ娘達の部屋に逃げ込んだのだと勘違いしていた。勿論マンハッタンカフェの"オトモダチ"については知る由も無い。

 叫び声を挙げたアグニの声に皆が驚きいつもより早い起床となったのはご愛嬌である。なお昨夜のアグニの声については気を利かせた"オトモダチ"がオカルトパワーを存分に発揮し聞こえないよう皆の就寝に配慮した結果だった。

 

 

 

 さて、朝食へ。

 給仕係のアイルーが手伝いながら、料理が運ばれていく。

 独身だった頃のガジルから付き添っているキッチンアイルーの手腕は現在でも健在で、人間より食事量が多いウマ娘が相手でも満足させられる量を振る舞っていた。

 

「食べながらで良い、ちょいとおまえらの話がしたくてな。どうだ、ある程度方針は固まったろ」

「ああ。博士を除く私達四人は、ハンターになるしかないね」

 

 他に選択肢が無い、言外にそう匂わせるアグネスタキオン。

 ある程度の事情は説明している────流石に異世界から来たというのは伏せているが、概ね齟齬は無いように話せる限りの状況は説明していた。

 ガジルもまたウマ娘一向ののっぴきならない事情は察している。粗野な物言いが癖のガジルだが、根っ子はお人好しなのが"英雄"ガジル・スタンダードだ。可能な限り、ウマ娘達へ支援するつもりでいた。

 

「倉庫に、俺のお古の防具がある。そいつを加工屋のところに持ち込んでサイズが合うよう調整してもらえ。武器は……そうだな。骨か鉄だな」

「骨? 鉄?」

「悪いが、いきなり強い装備を渡す訳にはいかないんだ。ギルドの規定で決まっててな、基本的に狩ってもないモンスターの装備は着られない。そんなもんで、駆け出しには駆け出し用の装備があるのさ」

 

 骨と鉄。言葉にすればそれだけだが、これら二つは初心者ハンターにとって大きな意味がある。店売りの、まだモンスターを相手にしたことがない初心者が手にする武器、それらの素材は必ず安価な骨か鉄で作られるからだ。

 

 朝食が終わり早々に倉庫を覗き込むウマ娘達。彼女達に対して丁寧な解説をガジルは心掛けていた。

 

「へぇ……いっぱいあんじゃん……」

「武器ごとに色々役割や特性がある。どんな武器が自分に合うか訓練所で試してこい」

「同じような武器が幾つかありますが……骨と鉄で素材が別れているように見えます」

「一撃の威力を求めるんだったら骨、斬れ味を重視するんだったら鉄だ。どっちにも長所と短所がある」

「へぇ……おっさんはどっちを選んだんだ?」

「最初は骨を使ってたんだが……すぐに鉄に乗り換えたな。そこはケースバイケースだ。自分の実力と懐に相談することになる」

 

 骨と鉄、これらには強化していく過程でも差がある。骨を元にした武器は強化する際モンスターの素材を使用することが多い。加工屋の理屈で言えば、モンスターから作られた武器にはモンスターの素材が馴染み良いそうだ。鉄も同様で、鉄から派生した武器の強化には鉱石を多く使ったりする。

 

「単純な話、モンスターを狩ってれば骨系列の武器は強化しやすい。だけど世の中簡単にはいかねぇ。武器が合わずに勝てない相手にぶつかることだってある。そういう時、鉱石掘ってればまた別の武器を強化していけるのさ」

「武器を選ぶのも奥が深いんですね……」

「そっちの……ジャングルポケットっていったか。大剣使うのはいいとして、他の奴等はどうするんだ?」

「うーん……」

 

 マンハッタンカフェ、ダンツフレーム、アグネスタキオンの三人は熟考する。武器ごとに機動力やガード可能か否か、リーチ、使いやすさに至るまでの比較は一言に尽くし難い。

 

「初心者は大剣か片手剣がオススメなんだが、全員が同じ武器ってのもな」

「片手剣は使いやすいんですか?」

「片手剣の長所の抜刀したまま道具を使えるところだ。盾を片手にくくりつけてるから、手が空いてんだ。回復薬とか咄嗟の時に使いやすい。初心者は被弾しがちだからなぁ」

「ボウガンや弓もあるようだが……」

「あー……そっちはあんまりオススメしない。武器っつうか、弾のコストが金食い虫なんだよ。コストを抑えようとすると、どうしても弱い弾しか使えなくなるからまともな狩りも難しくなる。弓も瓶が使えなきゃ火力が出しづらい。ガンナーやりたかったら、ある程度蓄えが出来てからの方がいいぞ」

 

 ガジルの基本的な得物は大剣だが、長年ハンターとしてやっているだけあって他の武器の解説もスラスラ出てくる。駆け出しの頃、何がきつくて何が良かったか、生きた知識を披露するガジルは正しく先人として振る舞っていた。

 

「私は……片手剣にしてみます」

「カフェは片手剣か。何か根拠でも?」

「アイテムが使いやすいのと、あと足が速いのは魅力ですね」

 

 マンハッタンカフェ────片手剣。

 

「私はランスで頑張ってみる。いざって時、みんなを守れるようにしたいから!」

「ダンツ君らしいじゃないか。私は彼女の後ろに控えていようかねぇ」

「貴方もハンターをやるんですよ、タキオンさん……」

 

 ダンツフレーム────ランス。

 

 そしてアグネスタキオンだが────

 

「おや……これは? 楽器のように見えるが」

「こいつも初心者向きじゃねぇな。覚えなきゃいけない旋律が山程ある」

「旋律?」

「こいつは狩猟笛っていってな、武器であることと、楽器であることを両立した頭のおかしい武器だ。こいつで殴りながら演奏することで自分や仲間を強化できるのさ」

「ほう、中々面白いじゃないか」

「言うは易し、だぞ。適当に音鳴らしたって意味がねぇ。ちゃんと演奏しなきゃいけねぇんだ。それも狩り場でモンスターを相手にだ。正直、こいつを扱えるやつは相当な変わり者だよ。俺にとっちゃあガンナーよりもこいつの方が扱いづらいぜ」

 

 オススメはしない、と説くガジルを余所にアグネスタキオンは笑みを深めていた。

 演奏で自分と仲間を強化する────フィクションならいくらでも有り得る設定だが、しかしここは現実だ。音楽が人間に与える影響について幾つかは知っているアグネスタキオンだが、狩りで使うなどとは聞いたことがない。

 

「マジか、それを手に取るのかよ」

「デメリットだけならいくらでも挙げられるさ。だがねぇ……私には言わせればそんな理由で選ばないのはナンセンスだろう?」

 

「この武器には人類の叡知が詰まっている。楽器を武器にする────そのような突飛な発想を実現するのにどれだけの試行錯誤を繰り返したことやら。君が言うところの変わり者というのは、詰まるところ私のような人間を指すんだ」

 

「一科学者として、これほど興味をそそられる武器は他に無いんだよ」

「お、おう……」

 

 アグネスタキオン────狩猟笛。

 

 アグネスタキオンが持つ科学者としてのプライドに、並々ならぬ情熱を見たガジルはちょっぴり引いているのであった。

 

 

 

 

 

 1ヶ月後。

 

 訓練所である程度のハンターの知識と武器の振るい方を学んだ四人はマフモフシリーズに身を包み、雪山へと実地演習に来ていた。

 

「ギアノス7頭の討伐、かぁ……」

「いよいよ、ハンターらしくなってきましたね」

「だな! ずっと採集だけだったから、腕が鳴るぜ!」

 

 ハンターとして、というよりかは訓練生としての教育の一環である。

 ポッケ村の訓練所はドンドルマなどの都市部の訓練所と比べると人手が少ない。その上すぐそこが狩場になっているので、座学よりは実践重視で実力がありそうな新人をさっさとハンターにしたがる傾向がある。貴族がいないということも、都市部の過度な座学中心主義から外れている要因にもなっていた。

 

 1ヶ月の間、座学をこなしつつ狩場の基本を覚えるために雪山草などの採集もこなしていた四人のウマ娘達であったが、訓練所側はウマ娘として有り余る膂力に、一早く正式なハンターとして活動してもらった方が良いと、半ば卒業試験染みた内容でギアノスの討伐を四人に向かわせたのだった。

 

「……」

「タキオン、おまえそんなとこで突っ立って何してんだ? さっさと行くぞ」

 

 雪山、エリア1。

 絵画の題材にでもなりそうな美しい湖畔を前にアグネスタキオンが立ち尽くしている。

 

「……おっと済まない。少し考え事をしていてね」

「またかよ。おまえいつもそればっかりじゃねぇか」

「ティガレックス以来、大型モンスターを一度も見ていないというのは腑に落ちないだろう」

 

 アグネスタキオンの言う通りであった。

 1ヶ月前、ガジルが退けたティガレックス以来この雪山には大型モンスターが現れていない。雪山は寒さに厳しい気候ながらも、生態系は豊かで多くの大型モンスターが根城に選んだりする。

 ティガレックスがいないのなら、また別の大型モンスターが縄張りにと現れてもおかしくはないはずだった。

 

「ギルドの姉ちゃんも言ってたじゃんか。生態は安定してますって」

「タキオンさんの取り越し苦労では? 確かに、天気予報のようなものですから絶対ではないとはいえ、まだこの世界に来たばかりの私達が注意できるものではないと思います」

「ふむ……それもそうか……」

「えっと、もしかしたらギアノスの親玉がいるかもしれないよ。確かドスギアノスって言ったっけ」

「ドスギアノスがいるならもう少し群れに纏まりがあるはずだ。統率力と言ってもいい。もし群れのリーダーがいるなら、私達のような初心者に任せることにはならないはずだよ。危険度が段違いだからね」

 

 徒党を組む鳥竜種の小型モンスターは、大規模な群れを形成することがある。その頂点に立つリーダーは鳴き声を巧みに操り群れへ複雑な命令を行ったりする。

 モンスター全体で見れば弱小と見られがちな彼らだが、絶滅せずにいられるのは圧倒的な数と時折現れるリーダーにより優れた繁栄が出来るからだ。

 人間にしてみれば野盗や愚連隊のような存在で、一般に大きく人間を害するモンスターとすれば、最も例が多いのがこの小型鳥竜種達であった。

 

「案ずるより産むが易し、か。ポッケ君の言う通りさっさと討伐してしまおう。増えすぎると人間に被害をもたらしかねない筆頭だからねぇ」

「旋律、期待してるぞー。博士と組んでなんかいじってるけど変な音出たりしないよな?」

「そこは安心したまえ。まだ実践には程遠い段階だからね。その内聞かせてあげるとも」

「……また何か企んでるんですかこの人」

「ほらほら、気にしてばかりじゃ狩りは進まないよ。早く行こっ」

 

 狩場にいてもいつもの四人である。

 結局、四人は何事も無くギアノス7頭を討伐し無事にハンターデビューを飾ったのだった。

 

 

 

 

 

「大型モンスターがいない、か」

「何か心当たりはあるかい?」

 

 やはり油断ならないな、とガジルは内心で独りごちた。何もかもが初めての他四人と違って、アグネスタキオンだけはどこかで学習していた振る舞いがある。

 

「古龍でもいたら、君の出番だろうと思ったんだが」

「生憎そういう依頼は来てねぇな。ここ雪山の古龍つったら、キリンかクシャルダオラだろうが雷も吹雪も無ぇよ」

 

 帰ってから抱いていた疑問をガジルにぶつけたアグネスタキオンだったが、にべもなくガジルは返答した。

 見解の相違である。ガジルはモンスターに詳しいが、それはハンターとしてであり学術的な興味を持ったことは無い。狩りさえすればそれで良いのであって、大型モンスターが出ない不思議をいたずらに掘り下げるつもりは無かったのだ。

 

「まぁ、おまえさんが抱く不思議も分からん訳じゃねぇ。けど、こんなこと一度や二度じゃねぇんだ。雪山は険しい山だからな。どうしても()()が空いちまう」

「間隔?」

「狩場は縄張りにしてたモンスターがいなくなると、またそこへ別のモンスターがやってくるんだが、そういうのは物理的なアクセスのしやすさで頻度が変わるもんなんだよ。他のところはともかく、雪山には古龍でもない限り陸路でしか来れないからな」

「なるほど。確かに考えてみれば、雪山を縄張りにしたがるモンスターの多くは飛行しないモンスターばかりだね」

「ベリオロスくらいなんじゃないか? 寒冷地のモンスターでめちゃくちゃ飛べるやつ。フルフルやギギネブラも飛べるっちゃ飛べるがあいつらは洞窟がメインだし、ティガレックスも飛ぶよりかは走る方が得意だぞ」

 

 雪山には飛行モンスターがあまり来ない。

 これは単純な理屈で、フラヒヤ山脈最高峰の山々が連なるここは現大陸でも屈指の高度を誇るのだ。飛行が得意なリオスやライゼクスは比較的温暖な地域を好むため飛来せず、かつて氷海にも姿を現したセルレギオスでも雪山には出現記録が無い。

 現大陸随一の峻険さは、そのままモンスターを阻む防壁となっているのだ。

 

「今はたまたま、近くに大型モンスターがいないってだけだろう。そんな気にすることじゃねぇよ。むしろおまえ達にとっちゃあ都合が良いじゃないか」

「杞憂、か……どうやら私は、考え過ぎていたようだよ」

 

 単なる偶然────ガジルの言葉で一旦は思考を止めたアグネスタキオンであったが、拭いきれない違和感は変わらずアグネスタキオンの内側にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええい、付いて来るなと言っておるのに!』

「『そないなこと言わんといてや! こっちも必死なんやって!!!』」

「タマ! もうこれ以上は……!」

 

 アグネスタキオンの違和感も、ガジルの経験も間違っておらず。

 事態は全く異なる方向から推移する。

 

 狩場ですらない野外のどこか。

 フラヒヤ山脈の一角にて雪原を爆走する三つの姿があった。

 

『なぜ貴様らはいつもこう厄介事ばかり引き寄せるのだ!』

「『んなこと言うても厄介の方からやってくるんやからしゃあないやん!』」

「イカズチは何と言ってるんだ?」

「『いつも通り、文句ばかりや!』」

 

 二人と1頭────タマモクロスとオグリキャップ、そして《幻獣キリン》。よく晴れた雪原で雪煙を上げて走る姿はよく目立つ。

 彼らがこれほど慌てる理由はただ一つの脅威から逃げているだけに過ぎない。

 

「ダメだ! 追い付かれる!」

「『! イカズチ、後ろに雷や!』」

『言われずとも!』

 

 文句を言いながらも的確に雷を後方に走らせるキリン。その雷は、赤黒い光────龍属性の瞬きによって掻き消された。

 

「『一体全体なんなんやこいつは……!』」

 

 羽ばたきにより雪煙が晴れる。

 白い鬣、綠白色の甲殻、長大な翼とそこから伸びる触手のような指。そして全身から迸る龍属性。

 

《冥雷竜ドラギュロス》────メゼポルタにて、最も危険なモンスターの一種として認定される飛竜は唸り声をあげて三人へと襲いかかるのであった。

 

 

 

 

 




軽率にフロンティアのモンスターを出したがるのは私の悪癖です()

一発ネタの「YAMA育ちのタクトちゃん」が連載できそう。「セイウンスカイとバルファルク」が完結するまで控えるべき?

  • セイウンスカイとバルファルクに集中
  • 二作同時連載してほしい
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