嗚呼、今日も幻想を夢見て 作:G.G.メルセデス
ということで過去です。
『私』という存在を私が知覚した時、私の世界は動き出した。
私の視界に入ってきたのは、白でも黒でもない。いや、それは語弊があるかもしれない。
黒というえば黒であり、白といえば白でもある。
音が聞こえる。いや、聞こえない。
自分の体を動かし、何かを求めるように手を伸ばす。だが、何も手につくことはない。
辺りに気を配る。だが、何も存在しない。
何かに満たされているわけでもなく、空虚というわけでもない。
そう言葉に表すならば『 』
『 』は何処までも広がっている
『 』は私を私でいさせてくれる
『 』は酷く不快でもある
後に「無」と称される『 』は、私にとって心地が良く、安心ができる所だった。
本能的にこここそが私そのものであり、私の居場所だと認識していたのだろう。
『 』の外にも『 』が広がっている。何も存在せず、満たされることもない空間と私。それは酷く心地が良く、酷く不快てあった。
何故私しか存在しないのか、何故こんなにも穴が空いてしまったかなような感覚がするのか。わからない、そうわからないからこそ不快にも感じてしまう。
そしてなによりも──怖いのだ。
『 』は私そのものであるはずなのに、怖いと感じた。いや、『 』に対して恐怖を感じているわけではない。私はこの現状に恐怖を感じているのだ。私しか存在しないが故に、私は私を変えることが出来ないような気がしてしまう。全てが閉じこもってしまったような、そんな感覚。
知りたい、という唯一の欲望が芽生える。
孤独に感じているわけでもない。不満に感じているわけでもない。何かが、そう何かが足りない。私が、『 』が何かを得る日を待っておこう。
私という存在の、いわば解放のようなもの。
私はここ以外の場所を知っているわけでもなく、誰かと知り合っているわけでもない。だが、何故か確信めいた物がある。ただの勘に過ぎないわけだが、私を連れ出してくれる私以上の存在の襲来を。
そう。死や破壊は────救いなのだ
私が生まれてから数千年経った頃だろうか。
パキンっという音が耳と脳に響き渡り、少し頭痛がしたかのような感覚がする。これは間違いなく、この空間自体に異常が発生している。
突然に『 』にヒビが入り、二つの存在が入ってきた。初めて見る私以外の存在は、私と同じような体の構造をしており、私と同じような在り方をしていた。
一人は、思わず目を奪われてしまうような天上の美。全体的に白という印象を受けるが、私の白とは違い、柔らかく存在感を感じるような白だ。もう一人は頭に球体を乗せ、青と赤が入り混じるよく分からない服を着ている。外の世界ではそれが普通なのだろうか。
だが、決定的に違うものがあった。雰囲気がまるで違うのである。
私は『 』しか知らないため、自然と『 』に似たような雰囲気を身に纏わせている。それは酷く空虚であり、哀れなものなのだろう。彼女達も哀れむような目で見てくる。
それに対して彼女達が纏う雰囲気は正に「陽」だった。思わず目を逸らしてしまう程の陽の空気。『 』とはまるで違う在り方は私に関心を抱かせ、好奇心が芽生えた。
何故、私は『 』なのだろうか
何故、彼女達は陽なのだろうか
何故、私だけが違うのだろうか
いや、私自身が『 』であるために、彼女達とは違うというのはわかっている。だが、それだけでは私の苦痛はなんだったのだろうかと思ってしまう。単なる八つ当たりかもしれないが、そうでもしないと私が私では無くなってしまうような気がしてしまった。
すると、一人が口を開く。
「私達はこれから世界を創造するの」
世界……この『 』のように、一つの大きな空間を表す名称。彼女達は自分でそれを創造するのだという。私自身はそんなことは不可能であるため、バカバカしくも感じてしまう。だが、彼女達が言っていることは本当だという気迫と、私の直感が働いた。
私は彼女達のことを何も知らない。一体どのような存在で、どのように産まれたのか。それすら知らずに可能性を否定するというのは面白くない。
何よりも、彼女達ならば私を救ってくれるのではないかと思ってしまう。
故に、私は彼女達を試す。
「何故私の所に、この『 』に来たんだ?」
まずは理由を聞く。世界の創造のみならば私の所に来る必要は特に無いはずである。私が出来るのはあくまでも1を0にするだけ。世界創造というのは0を1にするということであり、私という存在とは真逆である。
故に聞いたわけだが、彼女達の目線が鋭くなり、空間が歪んだかのような感覚を受けるほどの威圧感が発せられる。
突然のことによくわからないという表情を見せると、彼女達は威圧するように、そして哀れむように口を開く。
「「……あなたを、そして『 』を壊すため」」
自分の口角が異常なほど吊り上がっていることを感じる。胸の内から熱く燃え盛るような感覚が激しく私を焦れさせる。
『 』が存在する限り、私が死ぬことはないと知っているが故の発言。私の待ち人がようやく来てくれたことによる期待と達成感。その二つが入り混じることによって興奮が発生しているのだろう。
彼女達の雰囲気は私をも圧倒するほどであるため、戦闘となると勝ち目は正直わからないを更に私にとってこれは初陣であり、戦闘経験がない。一応脳内で今後の展開を予測することはできるが、実際にやってみないことには意味がない。
────嗚呼、素晴らしい
戦闘について考えることで、遂に解放されるのだという実感が湧いてくる。歓喜という感情が溢れ出し、これからの展開に期待をする。
どうか、どうか。私を
「さあ、始めようか」
構えすら取る前に距離を無くすことにより擬似的な瞬間移動をする。だが、彼女達は慌てた様子を見せない。流石に壊しにくるだけあって情報を得ていると考えていいだろう。
変な服装な方に安直に殴りかかると、相手もこちらの拳に合わせるように腕を振り下ろしてくる。
「くッ!」
どちらから出たのかすらわからない声が漏れる。単純な膂力だけならば大して差はないらしい。だが、これだけで行動を終わるほど馬鹿ではない。
拳に妖力を急速に纏わせ、解放することにより拳と同じ威力の妖術弾が出来上がる。ゼロ距離で放たれた妖術弾を回避することは流石にできなかったようで、吹き飛ばされていく。
もう片方の相手の動向にも注意を払うが、離れた所で手を振っている。あくまでこの変な服装の奴に任せるらしい。それほど信頼しているということか、こちらを舐めているのかは分からないが、よっぽどやりやすくなったのは事実であるため一応感謝をしておこう。
すると、変な服装の奴も起き上がり、今度は遠距離から攻撃を仕掛けてくる。私が持っている妖力とはまた違う、何処か神々しい力。
なるほど、面白い。
こちらも妖力を使用し、相手から放たれる弾幕に合わせるように攻撃を仕掛けていく。
『 』という無限とも思えるほど広がっている空間での戦闘であるため、移動は激しい。それこそ、私は擬似的な瞬間移動が可能であり、変な服装の奴も凄まじい速度で移動を重なるため、最初の位置からは大分動いている。
初めての戦闘ということもあり、まだ自分の動きがぎこちなく感じる。変な服装のほうは所々で偽弾を放ったりしたり、フェイントを挟んできたりと手練れであることをヒシヒシと感じる。
純粋な能力だけならば私のほうが上かもしれないが、総合的に見れば私が負けている。確かに負けは私の望みではあるが、やる限りやって負けることに意味がある。それが相手への誠意でもあり、私への踏ん切りでもある。
故に私は────
「なッ!?」
全力で貴女を殺しにいこう。
ぽた、ぽたと手の先から血がひたたり落ちる。手刀で相手を貫いた結果だ。弾幕に紛れ、急速に接近するだけでは駄目だった。故に、ここまでの弾幕戦全ての結果を無くし、初期位置に戻ることによって接近を可能にした。
「『 』は私の世界。私の領分ではそんなに簡単に勝つことは出来ないだろう」
続けて頭と心臓を切り落とし、完全に殺しに行く。流石にそこまでやられるとダメなようで、変な服装は真っ赤に染まった状態で倒れてしまった。確かに強かったが、初見殺しともいえるこのやり方の対策は出来ていなかったようだ。だが、感謝はしている。お陰で戦闘の方法というものがわかったのだから。
しかし、戦闘が終わり、仲間が殺されたというのにもう一人は全く動じていない。気が狂ったわけでもなく、ただ平然とその場に立っている。更にこちらに対して攻撃をしてくるような素振りすら見せていない。
何故? 何故? 幾つもの疑問が脳内に浮かんでくる。
違和感
違和感が私を襲ってくる。本来ならば激昂して襲いかかってきそうな場面ではあるが、全く違う。死とは実はそんなに軽いものだったのか? と疑ってしまうほどだ。
いや、本当にこの変な服装の奴は死んでいるのか? 私が死ぬことがないように、こいつも死ぬことがないのではないか?
違和感
何故最初から二人で掛かってこなかった? それは一人だけで戦力的には十分だと判断したからだろう。それならばこんなに簡単に死んでしまうのはおかしいと思う。私の情報を得ている者が初見殺しについて考えていない可能性は薄い。ましてや戦闘経験があるならば尚更だ。
違和感、だがそれでいい。
違和感を感じていることは事実であり、この後何らかの仕掛けが起こることは確実だろう。だが、それもまた面白い。私を、『 』を壊すというならば相応の物を見せてくれるはずだ。それが異様なほど見たくなってしまった。
故に次の相手に狙いを定める。
「さぁ、次はお前の番だ」
「……本当にいいの?」
相手は疑問に思うように確認してくる。それもそうかもしれない。私が違和感を覚えているというのを相手は理解しているのだろう。その上で攻撃を仕掛けるというのだから、中々理解されないものかもしれない。
「構わない。どうなったとしても、それが一つの結果だ」
「そう……」
何故か残念そうにする相手。何故私が不利になる戦況を残念がるんだ?
全てを見透かすような瞳で、何を見ているんだ?
「名前を...教えてくれないか」
もっと知りたいと思った。彼女は一体何者なのか。どうして此処に来たのか。
知りたいという欲求が自分のなかで高まっていることを感じる。初めて会った自分以外の存在ということもあるとは思うが、それ以上に別の要因が働いているような気もする。
「私はヤハウェ。全知全能であり、これから世界を創造する者よ」
彼女、ヤハウェは何処か辛そうに自己紹介をした。いや、理由は分かっている。
全知全能
全てを知っており、全ての能がある。それはなんて素晴らしく、なんて醜い能力なのだろうか。全てが自己のなかで完結し、他者を必要としない。更に、これから起こり得ることを全て知っているということだろう。全てを見透かすような、ではなく全てを見透かす瞳だったわけだ。彼女が敵であるという現状の時点で私の敗北が決定しているのは良いことだが、彼女が何処か不憫にすら思えてしまう。
同時に戦闘面での思考も加速していく。彼女がこの展開を知っていたならばわざわざ変な服装の奴を連れてくる必要は無かったはずだ。彼女が動揺していないという違和感の正体はわかったが、まだ違和感は残っている。
刹那、腹部に強烈な痛みが走るとともに身体が吹き飛ばされていた。一瞬ヤハウェが攻撃を仕掛けてきたのかとも思ったが、どうやら違うらしい。
攻撃された地点を見てみると、先程の変な服装の奴が何事も無かったかのように立っていた。だが、驚きという感情はない。納得したといったほうがいいだろうか。違和感の正体がようやくわかったのだから。
不死とはまた違う気がする。確かに殺したという確信はあったのだから。それならば何なのか。
一つの仮説が生まれてくる。それは肉体とは別にある「魂」というか存在だ。それを元に復活したのではないかという仮説。いずれにせよ殺すことは簡単ではないらしい。
「私を置いてけぼりなんて酷いじゃない」
「いや、そういうつもりじゃなかったんだけど」
彼女たちは私の存在を無視して会話をしている。腹立たしいという気持ちは全く持ってない。それどころか興味深くも感じる。ヤハウェの全てを見透かす瞳が、ただの少女であるかのような純粋な瞳に変わっていたのだ。
ここで彼女たちの関係性が分かったような気がする。いわば、変な服装の奴はヤハウェのある種の理解者なのだろう。それ故にこの場に連れてきたり、新たな表情を見せている。
先程の攻撃によって受けた傷が『 』によって塞がったため、彼女たちの元へ私も向かう。特に私を警戒する様子も見せず、こちらを見てくる。現在は大して戦闘をする気がないことを理解しているのだろう。
「死んでなかったんだな」
「当たり前じゃない。一応これから世界を創造するんだから」
「そう? 一応さっきのは死んだのと同義なんじゃ」
「違うって!!」
そこから言い争いとはいえない、ただのじゃれ合いに発展した。先程までの戦闘では考えられないほど幼稚な雰囲気でありながら、自分の本来の在り方を示しているようだった。
ぎゃーぎゃーと騒がしいようにも聞こえるが、それが何処か気持ちがいい。不思議な感覚が私を包み込む。この感情に名前をつけるのならば……安らぎ、とでもいえばいいのだろうか。他者と触れ合うという行為によって生み出される感情は知らないため、新鮮でもある。
二人の言い合いは終わったようで、両者ともぜーはーと自分で言いながら、肩で息をしている。いや、戦闘では全く息が切れそうではなかったのに、言い争いになると短時間で息を切らすというのは違和感を覚えるが、どうやらそれが普通であるらしく、二人に可笑しな様子は見えない。他者と触れ合ったことがない私がどうこういうこと自体が間違っているのだろう。……多分、恐らく。
「そういえば変な服装の方な名前を聞いてないな」
「変な服装って……ふっ、笑う」
ヤハウェはここぞとばかりに変な服装の奴を笑う。自分の認識が間違っていたわけではないようで、ヤハウェは馬鹿にしまくっている。一方で変な服装のほうは青筋を立てて今にも殴りかかりそうな雰囲気である。
「……へカーティア・ラピスラズリ」
「変な服装だったから変な名前かと思ったが違ったようだな」
「地獄に入る罪人一号になりたいのかしら」
変な服装であるということは本人も気にしているらしい。いや、自分の服装が変だと言われることを気にしているようだ。
強さと在り方の乖離が激しく、本当に同一人物か疑ってしまうほどだ。
「そうゆうあなたの名前は?」
名前を突然聞かれる。名前、名前か。思えば、自分に名前なんてものは無かったように思える。ならば今考えるしかない。
しかし、名前はいつまで経っても思いつくことがない。まるで、名前など私にはあってはならないように
「……私に名前はない」
「ふーん。あっそ」
へカーティアは興味なさげにこちらの名前を流す。先程のことを根に持っているらしい。なんというか、こうみると器が小さいようにしか見えない。つい残念なものを見るような目になってしまう。
「さっ、自己紹介も済んだことだし、そろそろ再開しようか」
突然ヤハウェが声を上げる。今までの声とは違い、初対面の時のような厳正さを持った声である。それに伴い、へカーティアの纏う雰囲気も変わる。私は戦闘のことは常に考えていたため変える所はない。
すると、今度はへカーティアが下がり、ヤハウェが前に出てくる。
「今度は私が相手をする」
放たれる圧倒的な存在感。口調も少し変化しており、世界を創造するというのも納得が出来てしまう。『 』を使わずに勝てる可能性は低いといってもいいかもしれない。
いや、単純な殺し合いならば互角程度かもしれない。
『 』を使ってやっと勝率は五分五分。へカーティアは勝つことは出来るが殺すことは出来ない。私が言うのも何だが、存外反則じみた存在だとは思う。
「公平じゃないから私の能力を明かしておくと、私は『ありとあらゆるものを創造する程度の能力』を持っている」
創造……なるほど、私とは真逆の能力を持っているらしい。彼女が0を1にするならば、私は1を0にする。正に対極に位置する能力であり、どちらにとっても相性が最悪だといってもいいかもしれない。
私がへカーティアと同じように距離を無くし、擬似的な瞬間移動によって殴ろうとするが、気がついた時には元の開始地点にいた。
初めは理解ができなかったが、状況を当てはまることで一つの答えが出てくる。私が「距離を無くした」ならば、彼女は「距離を創造した」のだろう。接近が意味を成さないことがわかったのは良かったが、能力を実感すると、ある不安が浮かんでくる。
距離を創造した彼女は続けて力を使って弾幕を放ってくる。神力ともいえるそれは、当たるとそこそこ痛いと思うので回避をするに越したことはない。
回避をしながら鋭く、細くした光線を撃ち込むが、咄嗟に謎の壁のようなものに防がれる。あの壁は知っている。そう、『 』だ。『 』をも創造出来るとなると本当にありとあらゆるものを創造出来るのだと実感させられる。
流石に状況が不利であるため撃ち合い自体を無かったことにするが、また瞬時に先程の弾幕が生まれる。先程の撃ち合いを創造したのだろう。『 』を操ることによって防いだためダメージは受けていないが、より不安が強まる。
「もう分かったでしょ? 能力があるとジリ貧だと」
「あぁ、嫌なほどにな」
本当にジリ貧である。そして、ある不安。勝敗が付かないことが脳裏を掠めてくる。
逆に彼女が状況を創造すると、私が状況を無かったことにし元に戻る。
彼女も、私も能力の応用の幅が広いため、あらゆるものを無かったことにしたり、創造したりするが、それは互いにであるため大して意味を持たない。互いにもしダメージを与えたとしても瞬時に回復をするため大して意味を持たない。
一度存在自体を無かったものにしようかとも思ったが、そこまでの干渉は出来ず、戦いは終わることがない。
差込技がないと互いに一歩目を踏み出せないため、戦いは長い間続いている。へカーティアが眠っているほどだ。
『 』を空間ごと操作することによって攻撃をしようとするが、『 』の中に『 』を創造されることにより壁と化し、攻撃することはできない。
これではへカーティアとの戦いで生まれていた高揚感というものを感じることができず、ついつまらないとも思ってしまう。
徐々に戦う気力すらも削がれていく。もはや局面を作り、作られて、無かったことにし、無かったことにされる。これが一つの作業かのように感じてしまう。
もしかすると、この状態に陥ることが彼女の狙いなのかもしれない。全知全能である彼女が思いつく策を私が思いつけるとも思えない。いや、だとしたらこんなジリ貧で追い込む必要はないはずだ。
と、考え事をしている内に目の前に急に光線が現れる。
彼女が「私の目の前に光線がある状況」を創造したのだろう。流石に避けることは不可能であるため、素直にくらう。
焼けるような感覚とともに、体が欠損した感覚を受けるが自然に回復をしていく。別に光線で撃たれたことを無くしてもいいが、展開が動かなくなることが目に見えているためやめておく。
すると、今度は急に景色が変わり、私とヤハウェしかいない空間が創造される。妖力を放つことは出来ず、身体能力も低下している。だがそれはヤハウェも同じようで、戦闘の意志はないようにすら感じられる。
大概馬鹿げた能力だと思う。
周囲を見渡してみると、赤、青、緑など初めて見る様々な色で構成された物質によって成り立っている。
──美しい
素直にそう思える風景だった。本能からここで生きてみたいと叫ばせるような、そんな場所
「何故、私がこの場を創造したのかわかりますか?」
「いいや、全く」
本当に全くわからない。戦いだと、能力の関係上基本私は後手で攻撃をすることになる。ならばヤハウェは先手で一気に決め切る必要があるためこんな場を創造したのは無駄だとしかいえない
能力の行使により元の世界に戻してもいいが、わざわざこんな場を設けるのならば、なんらかの理由があるはずだと思い踏みとどまる。
「……この場は今後、私達が創造しようと思っている世界です」
「……それで?」
わざわざ私に見せてくる理由とはなり得ない。私はヤハウェによって滅ぼされるはずてあり、一々消えゆくものに未来を見せても仕様がない。
彼女はこちらに瞳を向けてくる。だがその瞳は全てを見透かす瞳ではなく、純真な願いを持って私を見つめてきていた。
「私は初め、あなたを壊すといいましたね?」
彼女の確認に肯定の意を示す。
私は壊せれることによってここからの開放を望んでいるし、彼女達は世界創造のために私を壊す。そういった成り行きでこの戦いは始まった。
「あれは嘘です」
脳に言葉が入ってこなかった。あれが嘘? ならば私はここから開放されることはないのではないか?
いや、考えてみると彼女達が世界創造のために私を壊しにくる理由は大してないはずだ。当時は昂っていたため冷静ではなかったが、今考えてみると少しおかしいような気もしてくる。
「ああでも言わないとあなたは戦うことすらせず、私達を『 』から放りだしていたでしょう」
確かに強ち間違ってはいない。彼女達がもし交戦の意思がなかった場合、いる意味がないので『 』から容赦なく排除し、また苦しんでいただろう。
ここでようやく彼女の狙いが見えてくる。
「薄々感づいたようですね...そうです、私は
彼女達が何故自分がこれから創る世界の風景を見せたか。私に興味を持たせるためだ
彼女達が何故別々で戦闘を仕掛けてきたのか。私に退屈を感じさせるためだ
彼女達が何故途中で会話を挟んだのか。私を引き込むためだ。
どうやら私は知らず知らずの間に彼女達の策に嵌っていたらしい。戦闘面ならばまだわかるが、こういった感情に訴えかけてくるような策略は初めてであるため対策は出来ていない。
効果は如実に表れており、彼女達に初めは感じていた嫉妬はとっくに消え失せており、あの空気感をまた味わいたいという欲望が私の中で渦巻いている。
だが、私が世界創造を手伝うといっても出来ることは相当限られている。私の能力は創造とは真逆だからだ。既に策略には嵌ってしまったため、諦めたように口を開く。
「....私に何をしてほしいんだ?」
「そうですね、small》後はミスした時の保険です《/small》」
成る程、彼女が全知全能であるが故の考えと言ったところだろうか。『 』を最初から入れておくことにより、どこまでいっても欠陥が生まれる仕組みになる。それはそのほうが生命としてはいいと感じる。
後方は小声なのでよく聞き取れなかったが、限りなく情けないということだけはわかった。
「そして何よりも...
「ほう...?」
「あなたにとって私が消すことの出来ないイレギュラーであるように、私にとってあなたには
彼女が私に執着する理由がよく分かった気がする。私は『 』という自然発生した空間から生まれてきた。つまり彼女の全知全能には含まれていない完全なイレギュラーということだ。なので、彼女が生きづらいと感じている全知全能を和らげる、いや退屈しのぎにするために、私という存在がいたほうがいいのだろう。
策略にまんまと嵌められてしまったこともあり、私も彼女達が創る世界というのは興味がある。彼女達はどんな世界を創ってくれるのか、そこで生まれた生命はどのように生きていくのか。完全に上から目線にはなってしまうが、本当に興味深いものだとは思う。
「わかった。受け入れよう」
「ええっ!? いいの!?」
何故か驚く全知全能(笑)。恐らく機能していないため今後名乗るのはやめたほうがいいと親切心から言ってしまいそうになる。
彼女達ともう少し関わってみたいという欲望と、世界に対しての興味が生まれた結果なので順当な判断だと思える。
だが、そうなると一つ問題が生まれてくる
「だが、私をどうやって『 』から開放するんだ?」
『 』からの開放である。私はこれまで死か破壊しかここから開放される術はないと思っていたが、全知全能の神が訴えかけてくるほどならばなんらかの方法があるのだろう。
『 』に乱入して来るほどなので、乱入時と同じ方法を使うのか。それとも阿呆能力の活用なのか。
まぁどちらにせよ開放してくれるのならばそれでいいと思える。これ以上、見えない明日を探し求めるのは疲れてしまう。
「それなら任せてちょ!」
........本当に大丈夫なのだろうか
◇
「ふーん、手伝ってくれることになったんだ」
寝ていたヘカーティアを起こした第一声がこれである。本当にこれから世界を創造する者達なのか疑ってしまう。
いや、戦闘面や能力面から考えても普通に出来るのだろうが、少し信用がなくなった。
因みにヤハウェは真剣モードは終わってしまったようで、またお気楽な雰囲気を纏わせている。
「それで、結局どうやって私を開放するんだ?」
「それはね
...ん?
いや、え?
「あれ〜宇宙猫になっちゃったね」
「ふっ、ざまあ」
取り敢えずヘカーティアを殴ったほうがいいことだけは理解が出来た。
冗談は置いておいて、少しずつ理解が出来るようになってくる。要するに『 』が具現化した存在である私に、全ての『 』を圧縮しようということだろう。
いや、言語化してみると中々に無茶苦茶な作戦ではある。私は『 』のなかの一部に過ぎない。1に9が入り切るかと言われれば、NOと答えるのが普通だろう。
だが、ヤハウェの能力を使うとそれすらも可能に出来るのではないかとすら思えてしまう。例えば私のなかに10の『 』を創造することによって無理矢理収納するなどだ。
いや、まさか...な?
ちらりとヤハウェの横顔を覗いてみると、ニコニコの笑顔である。即座に逃げようとしたが、腕を掴まれている状態を創造される。
「開放されたいんでしょ?」
「......はい」
いや、こんな死や破壊よりも恐ろしい方法とは聞いてはいないが。
私の中に『 』を大量に創造するとなると、媒体である私には勿論激痛、いやそれどころでは表せられないものがやってくる。後にキャパオーバーとか言われるやつである。
すると、ヘカーティアが単純に疑問を持った顔で問いかけてくる
「なんでそんなに嫌そうな顔してるの?」
「そりゃ激痛が伴うからに決まっているだろう」
「えっ? 単純に痛みというか痛覚を無くせばいいだけじゃないの?」
あっ! ゑ?
「え?」
「え?」
ヘカーティアから二人揃って馬鹿を見るような目を向けられた。いや、これは全知全能(笑)が悪いだろう。そうに決まってる。
確かに神経を弄って痛覚を無くせばいいだけの話だ。あれ? もしかして大した苦労もせずに開放されてしまうのでは?
「はーい、じゃあちゃっちゃとやろうね〜」
「任 せ と け」
痛覚を無くして、『 』が流れ込んでくるのを待つ。ヤハウェが手をこちらにかざした瞬間、身体中に激痛が走った。
痛覚を無くした一瞬の間に入ってくる小さな『 』、だがそれは、激痛になる。
「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」
そうして私は気を失った。
故に気付くことが出来なかった。
体内に私という器に入ってきた異物の存在に
◇
ゆっくりと目を開ける。率直な感想は「眩しい」だ。今までの『 』では決して味わうことが出来なかった感想であり、ようやく開放されたのだと実感する。
少しずつ辺りが見えるようになってくると、神々しさすら感じる光とともに、美しさを感じる建造物があちらこちらに建っている。
周囲にはヤハウェとヘカーティア、そして背中から翼を生やした生物が何匹おり、仲良さげに話している。
ヤハウェがこちらに気がついたようで、お〜いと言いながら手を振っている。ヘカーティアは少し嫌な顔ながらも安堵したような感情が読み取れる。まだ名前と服をイジられたことを根に持っているらしい。翼が生えた生物は未だこちらに少し警戒を向けてきている。
「お〜! 起きたんだね!」
いや、痛覚を無くしたのに気絶をしたのは何だったのだろうか。何事も無かったかのようにしているが、あの一瞬の激痛は生涯忘れることがないだろう。
「そっちのは?」
「そっちの...? ああ、天使達のこと?」
翼を生やした生物は天使というらしい。つまり、世界創造時の上位存在であるヤハウェやヘカーティア「天」の使いということだろう。
だが、一人一人から感じる気配は中々大きく、私と殺し合っても結構時間を取られるだろう。
戦闘面から考えた視線を向けてしまったせいで、より天使達からは警戒されてしまう。これは単純な失敗だったな
「それで、ここは?」
改めて見てみると、現在自分のいる場所は白や黄色といった色で形成されており、ヤハウェとよく合っている雰囲気の場所だ。それに、所々から感じる気配が神々しいものであるため、一瞬ヤハウェ独自の世界なのではないかと勘ぐってしまう。
「ここはシオン。普段私達が生活してる場所だよ」
「なるほど...」
全く知らない地名を出されると、ようやく開放されたのだと実感できる。
そして、シオンは普段ヤハウェやヘカーティアが住んでいる場所であるため、先程からの神々しい気配が納得出来るものとなった。『 』とは全く違い、自分が存在しているのだと実感が出来るような、そんな気がしてくる。
「ようやく開放されたんだし、名前を決めよっか!」
「ああ」
確かに私に名前は無かった。ここで名前を決めることによって、決別をすることが出来るのかもしれない。
「じゃあ名前は『某烏有』ね!」
「早いな!」
いや、本当に早い。元から考えていたとしか思えないスピードだった。まあ全知全能であるヤハウェが考えたならば、何らかの意味を持っているのだろう。
誰かから名前を、贈り物をもらうというのは初めての経験だ。それは素直に嬉しいと感じる。──恐らく私は感動しているのだろう。
「それじゃ、早速世界創造しよっか!」
感動は、「今からご飯食べよう」くらいの感覚で言われた言葉によって遮られる。いや、能力で創るのは理解できる。これから創っていくというのも。だが、そんな軽いノリでいいのだろうか。
なんか天使達は声にならない悲鳴をあげている。まぁそりゃ素性すらよくわからない者がいる状態で、一大事業である世界創造となると仕方がないとも思える。
ヤハウェの口から世界創造計画が告げられる。内容はこうだ。
day1「天と地創る」「光を創る」
day2「空(光)を創る」
day3「大地、海を創って、れっつ生命」
day4「太陽と月と星を創る」
day5「魚と鳥を創って、生命ぱーりー」
day6「獣と家畜と人を創る」
無茶苦茶な能力をしていると改めて実感させられた。わざわざ当時の状況を創造によって再現することによって、わかりやすくするというオマケ付きである。だが時折知識によって得た未来の言葉を使うのはどうにかして欲しい。一々補足をしてもらわないといけないのは単純に面倒である。
正直、私の役割は余りないため、結構楽ではある。ヘカーティアはその間に魂が行き着く先である天国と地獄を創っておくらしい。
以前よりも『 』が身体に馴染んでいるため、コントロール等はしやすいだろう。安易な失敗はしないはずなので、問題は特にはない。
「それじゃ、れっつらごー!」
「「「「ごー」」」」
死んだ顔で続く天使達....可哀想に
◇
day1
予定通り、ヤハウェが天と地を創造したのが始まりだった。青や紫に満たされた世界で、突然一点のもとに、空間がねじれていくように縮こまっていった。そして、次に起こったのは異常なほどの大きな爆発。あれに巻き込まれたら私やヤハウェも再生には時間がかかるかもしれない。
ヤハウェ曰く、高温高密度だった空間を膨張させることによって、低温低密度にしていくらしい。正直よくわからない。
そして、爆発が終わった結果、見えてきたのは幻想的にも思えるほどの鮮やかな青。これが「天」らしい。
続けて彼女は地を創造する。
先程の爆発の際に混ぜたガスを収束させることで『惑星』を創るらしい。それが地だそうだ。本当によくわからなくなってきた。
彼女が「じゃっ、創るよ〜」と言った途端、ガスが収束し、円状になっていく。そして急速に固まっていき、一つの物体が出来上がっていく。彼女は何度もそれを繰り返すことで、惑星を創り上げていく。今後彼女はこの空間を「宇宙」と呼称するらしい。
出来上がった惑星の中でも着目すべきは、地球であるらしい。ここに生命を誕生させるらしい。すごいね
day2
彼女が「空は
もはやここまで規格外だと正直よくわからなくなってくる。勿論私はこれら全てを無くすことは出来るが、やはり創造のほうがインパクトがある。
なんというか、酷く負けたような気分になってしまった。
day3
もう、いいんじゃないか。地球が突然橙色になったと思ったら青が生まれて緑になった!
ふざけんな。何が起きてるか説明してくれ。いや、理解は出来ないだろうけど
day4
「地球を支える存在も必要だよね!」ということで太陽と月が自然に発生してきた。効果音をつけるのなら「むにゅ」だ。
それならば地球もそれで良かったのではないかと聞いた所、「やっぱり....インパクトって大事じゃん?」とのことだ。まぁ確かにそれはそうかもしれない。
day5
ようやく私の出番だ! と張り切っていたが、どうやら違うらしい。魚や鳥は大した知能や能力を持たないようにしてあるため、『 』を入れる必要がないらしい。うわーすげー。
生命が「うにょ」と誕生する様を見てしまった今の感想をどう表せばいいか、非常に迷っている。あれ? 私が感じて生命の重みは何処?
day6
ようやく私の出番だ! と張り切って(ry
最初に生み出す人間は、あくまで実験用であるらしく、そこまでする必要がないとのことだ。多少能力が高い人間が出てくるかもしれないが、今後の歴史に影響を及ぼすわけではないため問題がないらしい。
あっ、生み出された人間が、同じく生み出された家畜を食べている。ある意味感動ものかもしれない。
day7
ヤハウェが「疲れた」とだけ言って寝た。ふざけるなよ。お陰で天使達と愚痴仲間になれたのは感謝しているが。
中でもルシファーもとい、神綺などとは意気投合した。彼女は後の世で生み出される酒を飲み、酔っ払ってしまうと愚痴が止まらなくなってしまうらしい。お陰でヤハウェがどんな存在かわかったよ。この駄目神が。
ヤハウェはめちゃくちゃ重要というわけではないので、ほーんそんなのいるんだな程度で大丈夫です
あ、あと神綺様の元ネタのルシファーがいると面倒なので同一存在です。